説明

鋼材の浸炭深さ測定方法および測定装置

【課題】鋼管内表面の浸炭深さを非破壊で、かつ精度良く測定する方法の提供
【解決手段】 表裏面(以下、各表面を「第1表面」および「第2表面」という。)を有する鋼材の浸炭深さを下記の工程に従って測定する方法である。
工程1:鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定する工程
工程2:鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量ACtを測定する工程
工程3:下記式に基づいて鋼材の第2表面の浸炭深さdiを求める工程。
i2=2{ACt−(Co−Cb2/(2×Ko)+Cb×t}/Ki
i2=2{ACt−(Co−Cb2/(2×Ko)+Cb×t}/Ki
但し、diは鋼材の第2表面の浸炭深さ(mm)、ACtは測定によって得られた鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量(g)、Coは測定によって得られた鋼材の第1表面の炭素濃度(質量%)、Cbは母材の炭素濃度(質量%)、Koは鋼材の第1表面の浸炭に関する定数、Kiは鋼材の第2表面の浸炭に関する定数、tは鋼材の厚さ(mm)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管、鋼板、鋼製密閉容器などの表裏面を有する鋼材の浸炭深さを非破壊で検査するための浸炭深さ測定方法および測定装置に係り、特に、上記の鋼材のうち、観察が可能な表面(以下、「外表面」ともいう。)および直接観察が困難な表面(以下、「内表面」ともいう。)を有する鋼材の内表面の浸炭深さを測定する方法およびその測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続再生式接触改質装置(CCR:Continuous Catalyst Regeneration)は、オクタン価の低いナフサを高温水蒸気流中で貴金属触媒を用いて反応させることによって、オクタン価の高いガソリンを製造する装置である。この装置においては、運転条件によって、9Cr−1Mo鋼管などで構成される配管などの鋼材において、その内外表面に浸炭が生じることがある。また、例えば、石油化学プラントのエチレン製造工程で用いられるクラッキングチューブなどの鋼材の内表面にも浸炭が生じることがある。このように鋼材内外表面に浸炭が発生すると、鋼材の寿命を大きく低下させるので、定期的に浸炭深さを測定することが設備の保守管理上極めて重要である。
【0003】
従来の浸炭深さを測定する方法として、例えば、特許文献1には、鋼管内表面に生じる浸炭の深さを、当該浸炭に伴う磁性変化を利用して測定する方法であって、断面略コの字状のコアに励磁コイル及び検出コイルをそれぞれ券回して形成されたセンサを、前記コアの両端部が被測定鋼管の長手方向に沿うように配設する第1ステップと、前記励磁コイルに所定周波数の電圧を印加する第2ステップと、前記励磁コイルと前記検出コイルとの間に生じる電磁誘導によって、前記検出コイルに誘起された誘起電圧波形から、前記所定周波数の高調波を抽出する第3ステップと、前記抽出された高調波と浸炭深さとの相関関係に基づき、浸炭深さを演算する第4ステップとを含むことを特徴とする鋼管内表面の浸炭深さ測定方法に関する発明が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−279055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法では、コの字状のプローブを用い、誘起電圧波形から高調波を抽出し、その高調波と浸炭深さとの相関関係に基づいて鋼管内表面の浸炭深さを測定する、電磁気特性を利用するものであるが、この発明は、鋼管の外表面には浸炭が生じていない材料の測定については有用であるといえる。しかしながら、実際にCCRその他の装置において使用された鋼管は、外表面が操業中に炎で覆われるため、その外表面側にも浸炭が生じている場合がある。このように内外表面双方に浸炭が生じている材料については、特許文献1に開示された方法によって得られる浸炭深さは、鋼管の内表面および外表面の浸炭深さの合計であり、鋼管内表面の浸炭深さのみを求めることができない。
【0006】
また、電磁気特性を利用する浸炭深さの測定方法は、浸炭により鋼材の表面の炭素濃度が上昇すると透磁率が低下することを、電磁気的に観測するものである。従って、透磁率の低い(空気とほぼ同等の)非磁性体を母材とする鋼材の場合であれば、炭素濃度の変化による透磁率の変化を把握しやすいが、母材が透磁率の高い磁性体の場合には測定箇所による透磁率の変動が大きいため、炭素濃度変化による電磁気特性の変化が母材自体の透磁率のバラツキによるノイズ影響の影響を受けやすい。このため、電磁気特性を利用して、磁性体からなる鋼材表面の浸炭深さを測定するためには、厳密な条件設定が必要である。
【0007】
具体的には、電磁気特性を利用して磁性体からなる鋼材内外面の浸炭深さを測定する場合には、センサープローブの形状、磁場方向、励磁電流強度、励磁周波数の適正化が必要となる。センサープローブの形状としては、一般的に用いられるI型コイルプローブまたはC型コイルプローブを用い、材料の透磁率等電磁気特性ノイズ変化が少なく、鋼材の形状、鋼管の場合はそのR形状に沿う寸法とするのがよい。また、磁場方向については、水平磁場を用いるのがよい。これは、垂直磁場の場合(I型プローブを用いた場合)、磁気回路が開いた回路となり、水平磁場の場合(C型プローブを用いた場合)に比べ、第3高調波強度が小さくなるからである。
【0008】
励磁電流強度は、コイルプローブの発熱影響がない範囲で、大きいことが望ましい。励磁周波数は、40〜50Hzとするのが望ましい。これは、40Hz未満では、第3高調波強度が小さくノイズの影響を受けやすく、50Hzを超えると、浸透深さが所定肉厚をカバーできないおそれがあるからである。
【0009】
ここで、鋼表面の炭素濃度を測定する方法としては、発光分光分析法、蛍光X線分析など様々な方法が知られており、鋼管その他の鋼材の外表面の炭素濃度を測定するのは容易であるが、鋼材内表面の測定をすることは困難である。また、電磁気特性を用いた方法によれば、鋼材の浸炭深さを測定することができるが、上述のように、鋼材の内外表面の双方に浸炭が発生している場合には、内表面側の浸炭深さのみを抽出することはできない。
【0010】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、鋼材の直接観察が困難な表面(内表面)の浸炭深さを非破壊で、かつ精度良く測定する方法および測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、このような従来技術の問題点を解決するべく、鋭意研究を行った。そして、まず、異なるCCRにおいて使用された2種類の鋼管について、厚さ方向の炭素濃度の変化を調査し、浸炭の発生状況を調査した。
【0012】
図1〜3は、いずれも実際にCCRの加熱炉用配管として用いられた9Cr−1Mo鋼管の外表面からの距離と炭素濃度との関係を示す図である。なお、図1および2には、厚さ5.2mmの鋼管を脱スケールしたものの結果を、図3には、厚さ6.4mmの鋼管を脱スケールしたものの結果をそれぞれ示している。脱スケール後の鋼管外表面の炭素濃度をEPMAにより測定し、鋼管外表面を微少厚さ(0.3mm)削っては炭素濃度測定をすることを繰り返して、厚さ方向の炭素濃度の変化を求めた。本発明者らは、図1〜3に示した鋼管以外にも数多くの実験を行ったが、いずれの鋼管においても、同様の結果が得られた。なお、実験は鋼管を用いて実施したが、上記の結果は鋼管のみならず、鋼材、密閉容器についても適用できる。
【0013】
図1〜3に示すように、CCRにおいて使用された鋼管は、ほとんどの場合、内表面および外表面の双方が浸炭している。本発明者らは、この試験結果から、浸炭深さと炭素濃度との関係にある傾向があることを発見した。即ち、それは、外表面側の浸炭深さと炭素濃度の変化割合(傾きKo)および内表面側の浸炭深さと炭素濃度の変化割合(傾きKi)は、いずれのサンプルでもほぼ同じであると言うことである。即ち、いずれの鋼管においても、傾きKoは−0.4程度であり、傾きKiは、0.3程度である。
【0014】
図4は、図1〜3に示されるCCR実装鋼管についての炭素濃度と浸炭深さとの関係を整理した模式図である。図4に示すように、いずれの鋼管においても、外表面側の浸炭深さと炭素濃度の変化割合(傾きKo)および内表面側の浸炭深さと炭素濃度の変化割合(傾きKi)は同じであると考えることができる。
【0015】
従って、鋼管外表面の浸炭深さ(mm)をdoとし、鋼管外表面における炭素濃度(質量%)をC0とし、鋼管母材(浸炭が生じていない部位)の炭素濃度(質量%)をCnとし、定数をKoとするとき、下記(A)式の関係がある。
o=(C0−Cn)/Ko・・・(A)
【0016】
同様に、鋼管内表面の浸炭深さ(mm)をdiとし、鋼管外表面における炭素濃度(質量%)をCiとし、鋼管母材(浸炭が生じていない部位)の炭素濃度(質量%)をCnとし、定数をKiとするとき、下記(B)式の関係がある。
i=(Ci−Cn)/Ki・・・(B)
【0017】
なお、定数KOおよびKiは、同じ鋼種であれば、使用環境に寄らず一定値を採用できる。
【0018】
本発明者らは、鋼材の直接観察が可能な面(外表面)側の浸炭深さから内表面側の浸炭深さを求める方法について鋭意研究を行った結果、本発明を完成させた。
【0019】
本発明は、下記の(1)〜(8)に示す浸炭深さ測定方法および下記(8)〜(10)に示す測定装置を要旨とする。
【0020】
(1) 表裏面(以下、各表面を「第1表面」および「第2表面」という。)を有する鋼材の浸炭深さを測定する方法であって、下記の工程を有することを特徴とする浸炭深さ測定方法。
工程1:鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定する工程
工程2:鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量ACtを測定する工程
工程3:下記式に基づいて鋼材の第2表面の浸炭深さdiを求める工程。
i2=2{ACt−(Co−Cb2/(2×Ko)+Cb×t}/Ki
但し、上記式中の各記号の意味は下記の通りである。
i:鋼材の第2表面の浸炭深さ(mm)
Ct:測定によって得られた鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量(g)
o:測定によって得られた鋼材の第1表面の炭素濃度(質量%)
b:母材の炭素濃度(質量%)
o:鋼材の第1表面の浸炭に関する定数
i:鋼材の第2表面の浸炭に関する定数
t:鋼材の厚さ(mm)
【0021】
(2)第1表面が、直接観察が可能な表面であり、第2表面が、直接観察が困難な表面であることを特徴とする上記(1)に記載の浸炭深さ測定方法。
【0022】
(3)工程1において、鋼材の第1表面に水平な交流磁化を与えることにより鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の浸炭深さ測定方法。
【0023】
(4)工程2において、鋼材の第1表面に水平な交流磁化を与え、FFT波形解析による第3高調波強度f3から鋼材の肉厚方向の合計炭素量ACtを測定することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の浸炭深さ測定方法。
【0024】
(5)鋼材が、強磁性体材料からなることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の浸炭深さ測定方法。
【0025】
(6)強磁性体材料が、9Cr−1Mo鋼であることを特徴とする上記(5)に記載の浸炭深さ測定方法。
【0026】
(7)鋼材が鋼管であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の浸炭深さ測定方法。
【0027】
(8)表裏面(以下、各表面を「第1表面」および「第2表面」という。)を有する鋼材の浸炭深さを測定する装置であって、鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定する第1表面炭素濃度測定手段と、鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量ACtを測定する合計炭素濃度測定手段と、第2表面の浸炭深さdiを求める演算手段とを有する鋼材の浸炭深さ測定装置。
【0028】
(9)第1表面が、直接観察が可能な表面であり、第2表面が、直接観察が困難な表面であることを特徴とする上記(8)に記載の浸炭深さ測定装置。
【0029】
(10)鋼材が鋼管であることを特徴とする上記(8)または(9)に記載の浸炭深さ測定装置。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、鋼材の両面に浸炭が発生している場合においても、鋼材の直接観察が困難な面(内表面)の浸炭深さを非破壊で、かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
1.本発明の概要
表裏面(以下、各表面を「第1表面」および「第2表面」という。)を有する鋼材の浸炭深さを測定する方法であって、鋼材の第1表面の炭素濃度から第2表面の浸炭深さを測定する方法である。
【0032】
例えば、第1表面を「直接観察が可能な表面」、第2表面を「直接観察が困難な表面」とするとき、鋼材の直接観察が可能な表面(外表面)の炭素濃度Coおよび鋼材の直接観察が困難な表面(内表面)から外表面までの合計炭素量ACtを測定し(工程1および2)、これらの結果から鋼材の内表面の浸炭深さdiを求めるものである(工程3)。以下、主として鋼管の浸炭測定の場合を例に挙げて、それぞれの工程について説明する。
【0033】
2.鋼材の第1表面(外表面)の炭素濃度を測定する工程
本発明においては、まず、鋼材の第1表面(外表面)の炭素濃度Coを測定する。この測定方法については特に制限はなく、公知の発光分光分析法、X線を用いた方法、電磁気特性を用いた方法などを用いることができる。例えば、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法、EPMA、ESCA等などである。また、硬度と炭素濃度とは比例関係があるため、鋼材の第1表面(外表面)の硬度(例えば、ビッカース硬さ)を測定し、鋼材の第1表面(外表面)の炭素濃度を測定してもよい。
【0034】
3.鋼材の第2表面(内表面)から第1表面(外表面)までの合計炭素量を測定する工程
合計炭素量を求める方法については、特に制限はない。例えば、電磁気特性を利用した方法のほか、モード変換パルスによる超音波V透過法などを用いることができる。超音波V透過法とは、鋼材の表面と浸炭境界層とからの反射パルスを検出する方法であり、底面に比べ反射率の小さい浸炭境界の反射パルスを検出するため大きな感度増幅が必要となる。感度増幅によるノイズパルスは、厚肉では影響が少ないが、薄肉材(5mm程度)では、反射パルスとノイズパルスの識別に非常な熟練を要し、モード変換パルスにより改善はされているが、鋼材の第2表面(内表面)の浸炭深さ3.1mmを検出できなかった例もある。上記の測定法のうち、電磁気特性を利用した方法を採用するのがよい。以下、電磁気特性を利用した方法について説明する。
【0035】
図5は、鋼管内外表面に形成される浸炭深さを求めるための装置を例示した模式図であり、(a)はC型プローブを用いた例、(b)はI型プローブを用いた例をそれぞれ示している。図5に示すように、この装置においては、鋼管1の外表面にプローブ4を接触させた状態で、発信器により励磁コイル2に交流電圧を印可することにより、C型プローブ(図5(a)に示す例)では鋼管1を水平磁化させ、I型プローブ(図5(b)に示す例)では鋼管1を垂直磁化させる。このようにして鋼管1に発生させた励磁信号を検出コイル3で受信し、これをアンプによってノイズを除去した後、変換器で、AD変換し、これを解析して、スペクトルを得る。このスペクトルの第3高調波に基づき、鋼管内表面から外表面までの合計炭素量ACtを求めることができる。
【0036】
ここで、磁場方向については、水平磁場を用いるのがよい。
【0037】
図6は、磁場方向と第3高調波強度との関係を説明する図である。なお、この図には、図1〜3に示す実験で用いた鋼管の一部について、I型プローブまたはC型プローブを使用して、第3高調波強度を測定した結果を示す。図6に示すように、垂直磁場の場合(I型プローブを用いた場合)および水平磁場の場合(C型プローブを用いた場合)のいずれの場合においても、鋼管内表面および外表面の合計浸炭深さ(di+do)は、第3高調波と良い比例関係を示す。ただし、水平磁場の方が垂直磁場よりも第3高調波強度が大きく、測定感度がよいといえる。
【0038】
4.鋼材の第2表面(内表面)の浸炭深さを求める工程
鋼材の第1表面(外表面)の炭素濃度Coおよび鋼材の第2表面(内表面)から第1表面(外表面)までの合計炭素量ACtが得られれば、第1表面(外表面)の炭素濃度と浸炭深さとの関係および第2表面(内表面)の炭素濃度と浸炭深さとの関係から第2表面(内表面)の浸炭深さdiを求めることができる。具体的には、以下の方法により、第2表面(内表面)の浸炭深さdiが求められる。
【0039】
図7は、本発明における浸炭深さの算出原理の例を示す図である。なお、図7は、前掲の図4に示したとおり、いずれの鋼管においても、外表面側の浸炭深さと炭素濃度の変化割合(傾きKo)および内表面側の浸炭深さと炭素濃度の変化割合(傾きKi)は同じであると考えることができることを前提としている。
【0040】
ここで、炭素濃度と鋼材肉厚方向の位置から、炭素量を図7に示す3つの領域A、BおよびCに分けることができる。それぞれの領域における炭素量ACA、ACBおよびACCならびに全炭素量ACtは、下記の計算式から得られる。
CA=(Co−Cb)×do/2 ・・・(C)
CB=Cb×t ・・・(D)
CC=(Ci−Cb)×di/2 ・・・(E)
Ct=ACA+ACB+ACC ・・・(F)
【0041】
そして、前述のように、鋼材の第1表面(外表面)および第2表面(内表面)の浸炭深さ(mm)をそれぞれdoおよびdi、鋼材の第1表面(外表面)および第2表面(内表面)における炭素濃度(質量%)をそれぞれC0およびCi、鋼材の母材(浸炭が生じていない部位)の炭素濃度(質量%)をCn、鋼材の第1表面(外表面)および第2表面(内表面)の浸炭に関する定数をそれぞれKoおよびKiとするとき、下記(A)式および(B)式の関係がある。
o=(C0−Cn)/Ko・・・(A)
i=(Ci−Cn)/Ki・・・(B)
【0042】
従って、(C)式および(E)式は、下記のように表すことができる。
CA=(Co−Cb2/(2×Ko) ・・・(G)
CC=di2×Ki/2 ・・・(H)
【0043】
上記(D)式、(G)式および(H)式を(F)式に代入し、整理すると、下記の(J)式が得られる。
i2=2{ACt−(Co−Cb2/(2×Ko)+Cb×t}/Ki ・・・(J)
【0044】
上記(J)式において、ACtおよびCoは、前述の方法により測定することができ、Cbおよびtは、既知の母材条件であるから、予め鋼材の第1表面(外表面)および鋼材の第2表面(内表面)の浸炭に関する定数KoおよびKiを定めておけば、鋼材の第2表面(内表面)における浸炭深さdiを求めることができるのである。
【0045】
5.その他
定数KoおよびKiを定めるに際しては、鋼材の厚さ方向の炭素濃度分布を測定する必要がある。鋼管の厚さ方向の炭素濃度分布については、鋼管の軸に垂直な方向の断面について、例えば、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法、EPMA、ESCA等の方法を用いて測定することもできるが、これでは、極限られた範囲での炭素濃度しか測定できない。より正確に厚さ方向の炭素濃度分布を測定するためには、EPMAその他の方法により脱スケール後の鋼材の第1表面(外表面)の炭素濃度を測定した後、第1表面(外表面)を単位厚さ(必要に応じて設定すれば良いが、典型的には、0.1〜1.0mm程度)削っては炭素濃度測定をすることを繰り返して、厚さ方向の炭素濃度の変化を求めるのが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、鋼管の両面に浸炭が発生している場合においても、鋼材の直接観察な困難な面(内表面)の浸炭深さを非破壊で、かつ正確に測定することができる。よって、例えば、CCRに用いられる配管の内表面浸炭深さを測定するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】任意のCCR配管(9Cr−1Mo鋼管)の外表面からの距離と炭素濃度との関係を示す図。
【図2】任意のCCR配管(9Cr−1Mo鋼管)の外表面からの距離と炭素濃度との関係を示す図。
【図3】任意のCCR配管(9Cr−1Mo鋼管)の外表面からの距離と炭素濃度との関係を示す図。
【図4】図1〜3に示されるCCR配管についての炭素濃度と浸炭深さとの関係を整理した模式図。
【図5】鋼管内外表面に形成される浸炭深さを求めるための装置を例示した模式図。 (a)C型プローブを用いた例 (b)I型プローブを用いた例
【図6】磁場方向と第3高調波強度との関係を説明する図。
【図7】本発明における浸炭深さの算出原理の例を示す図。
【符号の説明】
【0048】
1:鋼管
2:励磁コイル
3:検出コイル
4:プローブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面(以下、各表面を「第1表面」および「第2表面」という。)を有する鋼材の浸炭深さを測定する方法であって、下記の工程を有することを特徴とする浸炭深さ測定方法。
工程1:鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定する工程
工程2:鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量ACtを測定する工程
工程3:下記式に基づいて鋼材の第2表面の浸炭深さdiを求める工程。
i2=2{ACt−(Co−Cb2/(2×Ko)+Cb×t}/Ki
但し、上記式中の各記号の意味は下記の通りである。
i:鋼材の第2表面の浸炭深さ(mm)
Ct:測定によって得られた鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量(g)
o:測定によって得られた鋼材の第1表面の炭素濃度(質量%)
b:母材の炭素濃度(質量%)
o:鋼材の第1表面の浸炭に関する定数
i:鋼材の第2表面の浸炭に関する定数
t:鋼材の厚さ(mm)
【請求項2】
第1表面が、直接観察が可能な表面であり、第2表面が、直接観察が困難な表面であることを特徴とする請求項1に記載の浸炭深さ測定方法。
【請求項3】
工程1において、鋼材の第1表面に水平な交流磁化を与えることにより鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定することを特徴とする請求項1または2に記載の浸炭深さ測定方法。
【請求項4】
工程2において、鋼材の第1表面に水平な交流磁化を与え、FFT波形解析による第3高調波強度f3から鋼材の肉厚方向の合計炭素量ACtを測定することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の浸炭深さ測定方法。
【請求項5】
鋼材が、強磁性体材料からなることを特徴とする請求項1から4までのいずれかに記載の浸炭深さ測定方法。
【請求項6】
強磁性体材料が、9Cr−1Mo鋼であることを特徴とする請求項7に記載の浸炭深さ測定方法。
【請求項7】
鋼材が鋼管であることを特徴とする請求項1から6までのいずれかに記載の浸炭深さ測定方法。
【請求項8】
表裏面(以下、各表面を「第1表面」および「第2表面」という。)を有する鋼材の浸炭深さを測定する装置であって、鋼材の第1表面の炭素濃度Coを測定する第1表面炭素濃度測定手段と、鋼材の第2表面から第1表面までの合計炭素量ACtを測定する合計炭素濃度測定手段と、第2表面の浸炭深さdiを求める演算手段とを有する鋼材の浸炭深さ測定装置。
【請求項9】
第1表面が、直接観察が可能な表面であり、第2表面が、直接観察が困難な表面であることを特徴とする請求項8に記載の浸炭深さ測定装置。
【請求項10】
鋼材が鋼管であることを特徴とする請求項8または9に記載の浸炭深さ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−139220(P2009−139220A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−315824(P2007−315824)
【出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(592244376)住友金属テクノロジー株式会社 (43)
【Fターム(参考)】