説明

鋼管の突合せ溶接方法および溶接鋼管の製造方法

【課題】比較的安価な設備を設けるのみで高能率の溶接が可能になり、かつ溶接金属の高温割れが防止できる鋼管の突合せ溶接方法および溶接鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】予め開先加工を施した鋼管1の軸方向端面どうしを突合せた後、1パスまたは複数パスのサブマージアーク溶接により接合する方法であって、前記鋼管突合せ部の内面および外面の少なくとも一方を予め加熱した後、1パス当りの溶接ビード形状が以下の関係を満足するようにサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする鋼管の突合せ溶接方法。
0.85≦W/H<1.15 かつ H≦25mm
ここで、Wはビードの最大幅、Hはビードの溶込み深さである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高能率で溶接が可能で、かつ高温割れ等の無い健全な溶接部が得られる鋼管の突合せ溶接方法および溶接鋼管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
C−U−Oプロセス、ロールベント、プレスベンド、チューブミルおよびスパイラルミル等の工程で鋼板を管状に成形し、その端面突合せ部を内面側および外面側から溶接して溶接鋼管を製造することは従来から行われている。このような方法で溶接鋼管を製造する場合、鋼種、溶接法によっては溶接金属に高温割れを生じることが知られている。
【0003】
この高温割れの発生メカニズムは、おおよそ以下のようなものである。すなわち、管状に成形された鋼板の端面突合せ部に内面側および外面側に開先が形成され、ここに溶接を行うことにより溶接金属が形成される。溶接方法としてはサブマージアーク溶接法が一般的である。溶接金属は周知のとおり凝固結晶が成長したものである。この溶接金属が凝固するとき、スプリングバック等の外部応力に凝固にともなう収縮が加わって溶接金属が母材側から強い引張力を受け、この引張力に凝固粒界が耐えきれないときに擬固結晶の成長方向に沿って割れを生じる。この割れが高温割れである。
【0004】
この高温割れに対しては、従来から多くの対策が提案されている。従来の対策は、次の2種類に大別され、これらを単独もしくは複合で採用している。
第1の対策は、溶接金属の成分、組織を改善して割れに対する抵抗力を高める方法である。具体的には、母材、溶接材料の割れ感受性を高める元素の低減(例えばS(硫黄)、P(燐)の低減)、割れ感受性を低下させる元素の添加(例えばオーステナイトステンレス鋼溶接材料へのフェライト形成元素の添加)、溶接過程での精錬作用の利用(例えばフラックス塩基度の適正化)等である。
【0005】
第2の対策は、溶接法、溶接条件を適正化して、溶接金属に作用する応力の向き、大きさを割れ防止可能な範囲に抑える方法である。具体的には、開先設計、溶接条件の適正化による溶接ビード断面形状の改善、高温割れが問題にならない溶接法の導入(例えば固相接合の導入)等がある。
【0006】
このような従来の対策として、例えば特許文献1には、溶接材料の成分の制限(第1の対策)および溶接入熱量の制限(第2の対策)を実施して、溶接金属の有害成分の含有量を抑えることにより高温割れ防止を図る技術が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、端面突合せ部を溶接する際に、溶接位置より溶接進行方向後方において、内周側および外周側のうち溶接開始側に応じて鋼管素材を楕円化して、凝固に伴う収縮力にほぼ見合う管周方向の圧縮力を脆化温度範囲にある溶接金属に与えることにより、高温割れ防止を図る技術が開示されている。
【0008】
さらに、特許文献3には、溶接金属の高温割れが防止できる製管溶接方法として、端面突合せ部の内周側および外周側のうち最初に溶接する側を少なくとも6電極以上の溶接電極を用いてサブマージアーク溶接を行なう方法が開示されている。
【0009】
【特許文献1】特開昭61−9979号公報
【特許文献2】特開平2−11269号公報
【特許文献3】特開平7−75876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、これらの従来の対策のうち、溶技金属の成分、組織の改善からの割れ対策(第1の対策)は、多くの場合コスト上昇が避けられず、特に母材の側に成分、組織の改善を講じるときにはコスト増大が著しい。一方、溶接法、開先設計、溶接条件からの割れ対策(第2の対策)は、多くめ場合、溶接作業性を悪化させるとともに、溶接能率も低下させる欠点がある。このような欠点は、溶接材料に割れ対策を講じる場合も生じることが多い。
【0011】
また、特許文献2に開示された楕円化技術では、楕円化のための別の設備が必要になり、設備コストが高くなる。
さらに、特許文献3に開示された6電極以上の溶接電極を用いてサブマージアーク溶接を行なう方法では、多電極のサブマージアーク溶接設備が必要になり、同様に設備コストが高くなる。
【0012】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、比較的安価な設備を設けるのみで高能率の溶接が可能になり、かつ溶接金属の高温割れが防止できる鋼管の突合せ溶接方法および溶接鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願人は、特願2005−290560号において、大掛かりな設備改造を行なうことなく、スパイラル鋼管の製造に簡単に適用でき、その能率を大幅に向上させることができる溶接鋼管の製造方法を提案した。
【0014】
この特願2005−290560号に記載の溶接鋼管の製造方法は、スパイラル状に曲げられた熱延鋼帯の幅方向突合せ部を、まず、内面溶接機により内面溶接位置において内面側でサブマージアーク溶接(SAW)を実施した後、鋼管を溶接線に沿って約1周半した下流側に位置する高周波加熱コイルに通電して外面溶接前の鋼帯突合せ部の表面温度で約400℃以上の予熱を行ない、しかる後、外面溶接機により外面溶接位置で外面側のサブマージアーク溶接を実施するものである。本技術の適用先としては、およそ6〜16mmと肉厚の比較的薄いスパイラル鋼管の内外面サブマージアーク溶接を対象とするものであった。
【0015】
本発明者らは、上記スパイラル鋼管製造において、更なる厚肉の鋼帯幅方向突合せ部のサブマージアーク溶接をする際、あるいはスパイラル鋼管に限らず比較的厚肉(およそ20mm以上)の鋼管どうしの突合せ部をサブマージアーク溶接する際、予め所定の開先を施した鋼帯の幅方向端部もしくは鋼管の軸方向端面の突合せ部を適切な温度条件になるように予熱し、かつ溶接ビード部の幅および溶込み深さを適切な範囲に設定することにより、従来技術では実現できなかった溶接の高能率化、すなわちサブマージアーク溶接1パスあたりの溶込み深さを極力大きくすることと高温割れの発生防止が両立可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明者らは、鋼管突合せ部のサブマージアーク溶接の前に、突合せ部を様々な温度条件で予熱した後、種々の溶接条件(溶接入熱、溶接速度)で溶接後のビード部の形状を観察し、以下の知見を見出したのである。
【0017】
なお、鋼管の突合せ部(軸方向両端部)については、内外面とも予めべベル加工等により所定の開先形状(開先両角度(開先角度)はおよそ30〜40°)に加工しておき、その後、まず外面溶接の裏当てを兼ねて鋼管内面側のサブマージアーク溶接を予熱無しで行ない、次いで図1に示すように、鋼管1の突合せ部の外面に位置する高周波加熱コイル2に通電して外面溶接前の鋼管突合せ部の予熱を行なう。しかる後、外面溶接機3により鋼管外面側の1電極のサブマージアーク溶接を1パス実施した。
溶接条件としては、溶接速度(鋼管回転速度(周速))250mm/min、溶接電流1000〜1100A、溶接電圧30〜40V、入熱79200〜105600J/cm、高周波予熱出力50kWとした。
【0018】
(1)高周波加熱コイルにより、外面サブマージアーク溶接前の鋼管突合せ部の表面温度は500℃以上に昇熱された。
(2)溶接ビードの形状(W:ビードの最大幅、H:ビードの溶込み深さ(最大深さ)、詳細は図2参照)とビード部内に発生する高温割れとの関係を整理した結果、図3において○と実線で示すように、W/H≧0.85では高温割れが発生しなかった。
図3において、予熱を行わない場合のW/Hと高温割れの関係を一点鎖線で示すが、予熱を行なうことにより高温割れの発生しない領域が、予熱を行わない場合のW/H≧1.15からW/H≧0.85へと拡大する。
図4に、参考までに高温割れや溶込み不良のない良好なビード形状((a)W/H=0.96の場合)と、高温割れと溶込み不良が見られたビード形状((b)W/H=0.55の場合)を示す。
【0019】
(3)溶接ビードのH、WとW/Hの関係を整理した結果、図5に示すように、WはW/Hの増加とともに一様に増加する傾向があるのに対して、HはW/H=1近傍で最大値をとった。また、1パスで溶け込み可能な最大のビード高さ(溶け込み深さ)は25mmであった。
【0020】
以上のような知見のもとに為された本発明は、以下の通りである。
すなわち、本発明の鋼管の突合せ溶接方法は、予め開先加工を施した鋼管の軸方向端面どうしを突合せた後、1パスまたは複数パスのサブマージアーク溶接により接合する方法であって、前記鋼管突合せ部の内面および外面の少なくとも一方を予め加熱した後、1パス当りの溶接ビード形状が以下の関係を満足するようにサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする。
0.85≦W/H<1.15 かつ H≦25mm
ここで、Wはビードの最大幅、Hはビードの溶込み深さである。
【0021】
本発明の鋼管の突合せ溶接方法においては、前記鋼管突合せ部の加熱温度は500℃以上であることが好ましい。
また、本発明の鋼管の突合せ溶接方法においては、前記鋼管突合せ部に施した開先部の開先角度は30〜40°であることが好ましい。
【0022】
また、本発明の溶接鋼管の製造方法は、予め幅方向端面に開先加工を施した鋼帯を管状に成形し、この管状に成形した鋼帯の内面および外面の少なくとも一方の幅方向端面突合せ部を加熱した後、当該端面突合せ部のサブマージアーク溶接を行なう溶接鋼管の製造方法であって、1パス当りの溶接ビード形状が以下の関係を満足するようにサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする。
0.85≦W/H<1.15 かつ H≦25mm
ここで、Wはビードの最大幅、Hはビードの溶込み深さである。
【0023】
本発明の鋼管の突合せ溶接方法においては、前記端面突合せ部の加熱温度は500℃以上であることが好ましい。
また、本発明の鋼管の突合せ溶接方法においては、前記端面突合せ部に施した開先部の開先角度は30〜40°であることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の鋼管の突合せ溶接方法および溶接鋼管の製造方法によれば、高温割れを未然に防止し、製品品質の向上を図ることができる。また、従来法に比べて溶込み深さを最大化することにより溶接パス回数を削減することができるため、作業能率の向上ならびに製造コストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図1は、本発明に係る鋼管の突合せ溶接方法の概略説明図である。前述したように、予め内外面にそれぞれ開先加工を施した鋼管1(外径1600mm×厚み42mm)を用意した。鋼管1は、溶接鋼管であり、鋼材規格はSKK490である。図2に示すように、開先部の開先形状はV形開先形状であり、外面の開先角度(開先両角度)は40°で深さは15mm、内面の開先角度(開先両角度)は角度30°で深さ15mmとした。
【0026】
外面溶接に先立ち、まず内面の軸方向突合せ部(開先部)のサブマージアーク溶接を1パス実施した。この際の溶接速度(鋼管の回転速度(周速度))は250mm/minで、溶接条件としては、電流(交流)800Aで電圧40Vに設定した。
【0027】
次に、鋼管1外面側に位置する高周波加熱コイル(加熱手段)2に通電して外面溶接前の突合せ部の予熱を行ない、しかる後サブマージアーク溶接機3により外面溶接位置で開先部のサブマージアーク溶接を実施した。高周波加熱コイル1は溶接点の手前75mmの位置に設置した。高周波加熱コイル1の出力は50kWに設定した。また、溶接速度(鋼管の回転速度(周速度))は250mm/minで、溶接条件としては、電流(直流)1100Aで電圧35Vに設定した。なお、サブマージアーク溶接機3は固定式であり、鋼管1はターニングロール(回転手段)4により周方向に回転される。
上記の鋼管突合せ溶接結果を表1に示す。
【0028】
【表1】






【0029】
表1には、参考として予熱を行わない従来の方法による結果を併記している。従来法では外面の開先部の開先両角度(開先角度)を本発明法よりも大きく設定しているが、これは本発明法と同じ40°にすると、W/Hが小さくなり、溶接ビード部に高温割れが発生したためである。
【0030】
表1から分かるように、本発明の鋼管の突合せ溶接方法によれば、高周波加熱(予熱)をしない従来法に比べ、溶接パス回数の大幅削減を図ることができる。なお、表1には記載していないが、本発明法により形成された溶接ビード部(DEPO(溶接金属部)、BOND(境界部)、HAZ(熱影響部))の衝撃性能も良好で、特にHAZ(熱影響部)の衝撃値は母材部のそれと同等(0℃シャルピー値が50J以上)であった。
【0031】
なお、前述の実施例は、外面溶接の直前(距離にしておよそ100mm以内、時間でおよそ20秒以内)に高周波加熱コイルを設置し、鋼管突合せの加熱(溶接前の予熱)を行なう方法について例示しているが、内面溶接前に同様に高周波加熱コイルによる予熱を行なっても良い。また、加熱方法としては、高周波加熱による方法以外に、バーナーによる加熱などでも良い。
【0032】
また、サブマージアーク溶接前の鋼管突合せ部の表面温度は500℃以上に保つのが好ましいが、必要以上に高温に加熱すると、母材の組織変化(変態)を招くため、上限は850℃程度に設定することが望ましい。ここでいう鋼管突合せ部の表面温度とは、高周波加熱コイルに対峠する側の鋼管の周面および開先面の表面温度を指す。
【0033】
以上は、鋼管の突合せ溶接に本発明を適用した場合の実施例について説明したが、本発明の溶接方法を、鋼帯を成形した後、鋼帯の幅端部どうしを溶接することで製造するスパイラル鋼管のサブマージアーク溶接に適用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、スパイラル鋼管をはじめとする様々な鋼管の溶接に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る鋼管の突合せ溶接方法の概要説明図である。
【図2】本発明に係る突合せ溶接部の開先形状の例を示す図である。
【図3】高温割れ長さとW/Hの関係を示す説明図である。
【図4】溶接ビード部性状を示す図である。
【図5】溶接ビード形状とW/Hの関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0036】
1 鋼管
2 高周波加熱コイル
3 サブマージアーク溶接機
4 ターニングロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め開先加工を施した鋼管の軸方向端面どうしを突合せた後、1パスまたは複数パスのサブマージアーク溶接により接合する方法であって、前記鋼管突合せ部の内面および外面の少なくとも一方を予め加熱した後、1パス当りの溶接ビード形状が以下の関係を満足するようにサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする鋼管の突合せ溶接方法。
0.85≦W/H<1.15 かつ H≦25mm
ここで、Wはビードの最大幅、Hはビードの溶込み深さである。
【請求項2】
予め幅方向端面に開先加工を施した鋼帯を管状に成形し、この管状に成形した鋼帯の内面および外面の少なくとも一方の幅方向端面突合せ部を加熱した後、当該端面突合せ部のサブマージアーク溶接を行なう溶接鋼管の製造方法であって、1パス当りの溶接ビード形状が以下の関係を満足するようにサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする溶接鋼管の製造方法。
0.85≦W/H<1.15 かつ H≦25mm
ここで、Wはビードの最大幅、Hはビードの溶込み深さである。
【請求項3】
前記鋼管突合せ部または前記端面突合せ部の加熱温度が500℃以上であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の突合せ溶接方法または請求項2に記載の溶接鋼管の製造方法。
【請求項4】
前記鋼管突合せ部または前記端面突合せ部に施した開先部の開先角度が30〜40°であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管の突合せ溶接方法または請求項2に記載の溶接鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−142744(P2008−142744A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332968(P2006−332968)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【特許番号】特許第3944525号(P3944525)
【特許公報発行日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000182982)住金大径鋼管株式会社 (12)
【Fターム(参考)】