説明

鋼管柱および鋼管柱の接合工法

【課題】鋼構造建物の施工現場において、下節柱と上節柱とを溶接によらなくても、簡易かつ容易に、下節柱と上節柱とを強固に接合した鋼管柱を提供すること。
【解決手段】延在方向外部にエレクションピース11を立設するとともに、上部外周に支圧バーを設けた下節柱1と、延在方向外部にエレクションピース21を立設するとともに、下部外周に支圧バーを設けた上節柱2と、下節柱および上節柱の外周面から離隔し、かつ、下節柱と上節柱の接合部を覆う態様で、下節柱のエレクションピースと上節柱のエレクションピースとを連結した継手パネル3と、下節柱1および上節柱2と継手パネル3との間に充填したモルタルとを備えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管柱および鋼管柱の接合工法に関し、特に、鋼構造建物に簡単かつ容易に施工可能な鋼管柱および鋼管柱の接合工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼構造建物の鋼管柱は、下節柱の上部と上節柱の下部とに突設したエレクションピースによって、下節柱と上節柱とを固定した後に、下節柱と上節柱とを相互に溶接して構築するのが一般的である。このため、鋼管柱の構築後に不要となったエレクションピースは、ガスにより溶断する必要があった。また、鋼構造建物の償却後は、鋼管柱をガス等により切断しなければ解体できなかった。さらに、解体後の鋼管柱は、ガス等により切断されているために、そのままリユースすることは困難であった。
【0003】
このような課題を解決するために、下節柱の内部側に予め接合板を溶接し、この接合板と上節柱とを高力ボルトにより締結することにより、上節柱と下節柱とを接合した鋼管柱が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−285816号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、予め下節柱の内部側に接合板を溶接しなければならない等の施工の煩雑さが嫌われ、実用化に至っていなかった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、鋼構造建物の施工現場において、下節柱と上節柱とを溶接によらなくても、簡易かつ容易に、下節柱と上節柱とを強固に接合した鋼管柱および鋼管柱の接合工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、延在方向外部にエレクションピースを立設するとともに、上部外周に支圧バーを設けた下節柱と、延在方向外部にエレクションピースを立設するとともに、下部外周に支圧バーを設けた上節柱と、下節柱および上節柱の外周面から離隔し、かつ、下節柱と上節柱との接合部を覆う態様で、下節柱のエレクションピースと上節柱のエレクションピースとを連結した継手パネルと、下節柱および上節柱と継手パネルとの間に充填したモルタルとを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、前記継手パネルの内部上端と内部下端とに支圧バーを設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上部外周に支圧バーを設けた下節柱の延在方向外部に立設したエレクションピースと下部外周に支圧バーを設けた上節柱の延在方向外部に立設したエレクションピースとを、継手パネルにより、下節柱および上節柱の外周面から離隔し、かつ、下節柱と上節柱との接合部を覆う態様で連結した後に、下節柱および上節柱と継手パネルとの間にモルタルを充填したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる鋼管柱は、下節柱のエレクションピースと上節柱のエレクションピースとを継手パネルが連結するので、下節柱と上節柱とが正確に位置決めされる。また、下節柱および上節柱と継手パネルとの間にモルタルを充填したので、溶接によらなくても下節柱と上節柱とを接合した鋼管柱を提供できる。しかも、継手パネルを取り外すことにより、下節柱と上節柱を容易に解体でき、下節柱、上節柱および継手パネルを再利用できる。
【0011】
また、継手パネルの内部上端と内部下端とに支圧バーを設けたので、下節柱と上節柱とが離反する方向に外力が作用した場合に、下節柱の支圧バーおよび上節柱の支圧バーと継手パネルの支圧バーとの間に充填したモルタルには、圧縮力が生じることになる。この結果、溶接によらなくても下節柱と上節柱とを強固に接合した鋼管柱を提供できる。
【0012】
また、本発明にかかる鋼管柱の接合工法は、下節柱のエレクションピースと上節柱のエレクションピースとを継手パネルにより連結した後に、下節柱および上節柱と継手パネルとの間にモルタルを充填したので、鋼構造建物の施工現場において下節柱と上節柱とを溶接する必要がなく、簡易かつ容易に下節柱と上節柱とを接合できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明にかかる鋼管柱および鋼管柱の接合工法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の実施例にかかる鋼管柱を示す斜視図、図2は上節柱と下節柱とを示す斜視図、図3は継手パネルを示す斜視図、図4は図1に示した鋼管柱の力学メカニズムを示す模式図である。
【0015】
本発明の実施例にかかる鋼管柱は、鋼構造建物を構成するものであり、図1に示すように、下節柱1、上節柱2、および複数の継手パネル3を有している。
【0016】
下節柱1および上節柱2は、同一の断面形状を有する鋼管であって、本実施例に例示する下節柱1および上節柱2は、図1および図2に示すように、矩形の断面形状を有する角形の鋼管である。また、下節柱1および上節柱2の外周を等分する位置には、エレクションピース11,21が立設してある。具体的には、図2に示すように、下節柱1および上節柱2の外周を四等分する位置、すなわち、下節柱1および上節柱2の各側面の略中央に、エレクションピース11,21が立設してある。エレクションピース11,21は、下節柱1と上節柱2とを連結するためのものであり、下節柱1および上節柱2に矩形の板状片を溶接することにより設けてある。これらのエレクションピース11,21は、下節柱1と上節柱2の延在方向に延び、これらのエレクションピース11,21には、継手パネル3を締結する貫通孔11a,21aが形成してある。さらに、下節柱1の上部外周と上節柱2の下部外周には、支圧バー12,22が設けてある。支圧バー12,12は、鉄筋等を下節柱1および上節柱2に溶接することにより設けてある。
【0017】
図1に示すように、下節柱1のエレクションピース11と上節柱2のエレクションピース21とは、複数の継手パネル3により連結してある。継手パネル3は、下節柱1および上節柱2の外周面から離隔し、かつ、下節柱1と上節柱2の接合部を覆う態様で、下節柱1のエレクションピース11と上節柱2のエレクションピース21とを連結するものである。本実施例に例示する鋼管柱は、4枚の継手パネル3が、下節柱1および上節柱2の外周面から離隔し、かつ、下節柱1と上節柱2の接合部を覆う態様で、下節柱1のエレクションピース11と上節柱2のエレクションピース21とを連結する。したがって、一枚の継手パネル3が、下節柱1および上節柱2の外周を四分の一だけ覆うことになる。
【0018】
各継手パネル3は、図3に示すように、断面が略L字状を呈するように形成してあり、その両側部には、下節柱1および上節柱2の外方に延在する取付部31が形成してある。取付部31には、エレクションピース11,21を締結する貫通孔31aが設けてあり、隣り合う継手パネル3の取付部31の間にエレクションピース11,21を挟んだ後、取付部31の貫通孔31a、エレクションピース11,21の貫通孔11a,21a、取付部31の貫通孔31aを貫通したボルト4にナット5をねじ込むことにより、エレクションピース11,21と継手パネル3とを締結してある。また、継手パネル3の内部上端と内部下端とには、支圧バー32,33が設けてある。支圧バー32,33は、鉄筋等を継手パネル3に溶接することにより設けてある。
【0019】
下節柱1および上節柱2と継手パネル3との間には、モルタル6が充填してある。このため、図4に示すように、下節柱1の上部外周に設けた支圧バー12と継手パネル3の内部下端に設けた支圧バー33との間、上節柱2の下部外周に設けた支圧バー22と継手パネル3の内部上端に設けた支圧バー32との間に充填したモルタル6が介在することになる。
【0020】
上述した鋼管柱は、下節柱1と上節柱2とをメタルタッチさせた後に、下節柱1に立設したエレクションピース11と、上節柱2に立設したエレクションピース21とを、継手パネル3により連結する。すると、継手パネル3は、下節柱1および上節柱2の外周面から離隔し、下節柱1と上節柱2との接合部を覆うことになる。その後、下節柱1および上節柱2と継手パネル3との間にモルタル6を充填することにより、鋼管柱が構築される。
【0021】
このように構築した鋼管柱は、図4に示すように、下節柱1と上節柱2とが離反する方向に外力が作用した場合に、下節柱1および上節柱2と継手パネル3との間に充填したモルタル6に圧縮力(抵抗力)が作用することになる。より詳細には、下節柱1の上部外周に設けた支圧バー12と継手パネル3の内部下端に設けた支圧バー33との間と、上節柱2の下部外周に設けた支圧バー22と継手パネル3の内部上端に設けた支圧バー32との間とに圧縮力が作用することになる。
【0022】
一方、このように構築した鋼管柱を解体する場合には、継手パネル3を取り外し、露出したモルタル6を除去すれば、鋼管柱の解体が完了する。このように解体した下節柱1、上節柱2および継手パネル3は、溶断等による損傷が生じていないので、そのままリユース(再利用)可能である。
【0023】
上述した実施例にかかる鋼管柱は、下節柱1と上節柱2とをメタルタッチさせた後に、下節柱1に立設したエレクションピース11と上節柱2に立設したエレクションピース21とを継手パネル3により連結するので、下節柱1と上節柱2とを高精度に位置決めできる。その後、下節柱1および上節柱2と継手パネル3との間にモルタル6を充填すれば、鋼管柱が完成するので、鋼構造建物の施工現場において、溶接作業をする必要がなく、簡易かつ容易に施工できる。また、鋼管柱から継手パネル3を取り除き、露出したモルタル6を除去すれば、鋼管柱を解体できるので、解体性も良好である。さらに、解体した下節柱1、上節柱2および継手パネル3は損傷が生じていないので、そのままリユースできる。
【0024】
なお、上述した実施例にかかる下節柱1と上節柱2とは、角形の鋼管により構成したが、角形の鋼管に限られるものではなく、円形の鋼管により構成してもよい。また、下節柱1、上節柱2および継手パネル3の支圧バー12,22,32,33は、鉄筋を溶接することにより形成したが、鉄筋に限られるものではなく、フラットバー(平鋼)等を溶接等することにより形成してもよい。
【0025】
また、上述した実施例にかかる鋼管柱の継手パネル3の内部上端と内部下端とに、支圧バー32,33を設けるものとしたが、柱の飲み込み長さLa(図5参照)が十分に長い場合には、下節柱1と継手パネル3との間、上節柱2と継手パネル3との間において、モルタル6の摩擦力が有効に働くため、継手パネル3に支圧バー32,33を設けなくても、下節柱1および上節柱2の抜け出しを防止できる。
【0026】
ここで、上節柱2を例に、上節柱2のせん断力と上節柱2の飲み込み長さLaの関係を考察するために、上節柱2の抜け出しが生じる瞬間の力の作用状態を考える。図5および図6は、上節柱の抜け出しが生じる瞬間の接合部内での力の作用状態を示す図である。
【0027】
上節柱2に生じるせん断力をQsとすると、Qsの作用により柱はA点を中心に回転し、上節柱2の下部外周に設けた支圧バー22がモルタルを押し上げ、継手パネル3とモルタル6との間に摩擦力が生じる。この時、継手パネル3とモルタル6の支圧力Nは、図5に示すように三角形分布荷重と仮定する。単位面積あたりの最大支圧力を2/3cFmとすると、A点から高さxの位置に生じている支圧力Fxは数式1で得ることができる。
【0028】
【数1】

【0029】
また、支圧力を受ける継手パネル3の有効断面は、図6に示すように、柱の外形(幅)と等しい投影長さLpを底辺とした三角形分布を仮定した。このとき、A点から高さxの位置で支圧力を受ける部分の長さLxは数式2で得ることができる。
【0030】
【数2】

【0031】
継手パネル3とモルタル6の摩擦係数μを0.5とすると、継手パネル3とモルタル6の摩擦力μNは数式3で得ることができる。
【0032】
【数3】

【0033】
したがって、摩擦力μNによるモーメントと、上節柱2のせん断両Qsによるモーメントの釣り合いの式は、A点から支圧力を受ける継手パネル3の有効断面の重心位置までの距離Lm、上節柱2のモーメント分布の反曲点までの高さLbを用いて数式4で表すことができる。
【0034】
【数4】

【0035】
数式4において、左辺の柱せん断力によるモーメントよりも、右辺の摩擦力によるモーメントが大きい場合には、上節柱2の抜け出しが生じない。数式2、数式3および数式4より、モルタル6の圧縮強度と継手パネル3および上節柱2の形状、寸法が決定した場合に、上節柱2の引き出し荷重Qsを算定する式を数式5に示す。また、所定の上節柱2のせん断力に対して必要な上節柱2の飲み込み長さLaを算定する式を数式6に示す。
【0036】
【数5】

【0037】
【数6】

【産業上の利用可能性】
【0038】
以上のように、本発明にかかる鋼管柱および鋼管柱の接合工法は、鋼構造建物に有用であり、特に、施工性および解体性を考慮した鋼構造建物に適している。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施例にかかる鋼管柱を示す斜視図である。
【図2】上節柱と下節柱とを示す斜視図である。
【図3】継手パネルを示す斜視図である。
【図4】図1に示した鋼管柱の力学メカニズムを示す模式図である。
【図5】上節柱の抜け出しが生じる瞬間の接合部内での力の作用状態を示す縦断面図である。
【図6】上節柱の抜け出しが生じる瞬間の接合部内での力の作用状態を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 下節柱
2 上節柱
3 継手パネル
4 ボルト
5 ナット
6 モルタル
11,21 エレクションピース
11a,21a 貫通孔
12,22,32,33 支圧バー
31 取付部
31a 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延在方向外部にエレクションピースを立設するとともに、上部外周に支圧バーを設けた下節柱と、
延在方向外部にエレクションピースを立設するとともに、下部外周に支圧バーを設けた上節柱と、
下節柱および上節柱の外周面から離隔し、かつ、下節柱と上節柱との接合部を覆う態様で、下節柱のエレクションピースと上節柱のエレクションピースとを連結した継手パネルと、
下節柱および上節柱と継手パネルとの間に充填したモルタルと
を備えたことを特徴とする鋼管柱。
【請求項2】
前記継手パネルの内部上端と内部下端とに支圧バーを設けたことを特徴とする請求項1に記載の鋼管柱。
【請求項3】
上部外周に支圧バーを設けた下節柱の延在方向外部に立設したエレクションピースと下部外周に支圧バーを設けた上節柱の延在方向外部に立設したエレクションピースとを、継手パネルにより、下節柱および上節柱の外周面から離隔し、かつ、下節柱と上節柱との接合部を覆う態様で連結した後に、
下節柱および上節柱と継手パネルとの間にモルタルを充填したことを特徴とする鋼管柱の接合工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−39952(P2007−39952A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−224628(P2005−224628)
【出願日】平成17年8月2日(2005.8.2)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】