説明

鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法

【要 約】
【課 題】効率的かつ安価に表面性状に優れた鋼管素材を得る。
【解決手段】鋼管素材の成分に応じ、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールと被圧延材間で焼き付きが生じやすいスタンドをあらかじめ決めておき、あらかじめ決めた特定スタンドのワークロールに、圧延部外層が超硬合金スリーブからなるロールを組み込むことを特徴とする鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法に関し、特にスパイラル鋼管、電縫管、UOE鋼管などの素材となる熱延鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スパイラル鋼管、電縫管、UOE鋼管などの素材となる熱延鋼板は、熱間圧延工程で、鋼スラブを粗圧延し、板厚20〜50mmのシートバーにした後、仕上げ圧延機で仕上げ圧延して製造されている。
近年、家庭用品や厨房に用いられるステンレス鋼板に限らず、溶接して造管される鋼管素材に対しても表面性状が重要視され、上記のような溶接鋼管の素材となる熱延鋼板を、効率的かつ安価に製造することが重要な課題となっている。
【0003】
これに対し、本出願人は、製品の表面品質向上を図ることができるステンレス鋼板の熱間圧延方法を提案した(特許文献1)。
この特許文献1に記載の熱間圧延方法は、ステンレス鋼種に応じ、ワークロールに肌荒れの生じるロールに、少なくとも表層が超硬合金からなるロールを用い、ワークロールとステンレス鋼の焼き付きによる肌荒れを防止し、製品の表面品質向上を達成している。
【0004】
たとえば実施例1として、フェライト系ステンレス鋼板(SUS444:製品板厚3mm)の場合には、仕上げ圧延機のF1〜F4スタンドのワークロールに表層が超硬合金からなるロールを用いること、実施例2として、オーステナイト系ステンレス鋼板(SUS304:製品板厚2mm)の場合には、仕上げ圧延機のF2およびF3スタンドのワークロールに表層が超硬合金からなるロールを用いることが記載されている。
【特許文献1】特開2004-195515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステンレス鋼板が含有する成分と、鋼管素材が含有する成分とは大きく異なっており、特許文献1の熱間圧延方法を鋼管素材にそのまま適用できない。また、鋼管素材では、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールに肌荒れの生じる個所も様々に変化する可能性がある。
このため、ステンレス鋼板よりもCr含有量が少ない鋼管素材を製造する際、表層が超硬合金からなるロールを組み込むスタンドを特定しておかないと、効率的かつ安価に表面性状に優れた鋼管素材を得ることが難しくなる。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消し、効率的かつ安価に表面性状に優れた鋼管素材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、効率的かつ安価に表面性状に優れた熱延鋼板を製造する製造方法について鋭意検討した結果、ステンレス鋼板よりもCr含有量が少ない鋼管素材の場合にも、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールと被圧延材間で焼き付きが生じやすいスタンドがあることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
すなわち本発明は、以下のとおりである。
【0008】
1.熱間圧延工程で、鋼スラブを粗圧延し、板厚20〜50mmのシートバーにした後、仕上げ圧延機で所定の板厚に仕上げ圧延し、引き続き冷却して熱延鋼板を製造するに際し、鋼管素材の成分に応じ、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールと被圧延材間で焼き付きが生じやすいスタンドをあらかじめ決めておき、あらかじめ決めた特定スタンドのワークロールに、圧延部外層が超硬合金スリーブからなるロールを組み込むことを特徴とする鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法。
【0009】
2.前記鋼管素材の成分がCr含有量であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ステンレス鋼板よりもCr含有量が少ない鋼管素材の場合にも、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールと被圧延材間で焼き付きが生じやすいスタンドがあることを見出し、あらかじめ決めた特定スタンドのワークロールに、圧延部外層が超硬合金スリーブからなるロールを組み込むようにしたから、効率的かつ安価に表面性状に優れた熱延鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明に用いて好適なワークロールの構造を、図1(a)、(b)に示す。図1(a)は、鋼製軸芯3の胴部に超硬合金スリーブ2を嵌め込み、鋼製側端リングで固定してなる構造のロールである。図1(b)は、超硬合金スリーブ2と鋼製軸芯3の間に鋼製緩衝材4を設けた構造のロールである。どちらも圧延部表層が超硬合金スリーブ2からなるロールであり、ワークロールに用いて好適である。なお、図1(c)には、従来ロール1であるNiグレンロールの構造を示した。
【0012】
ここで、超硬合金スリーブ2は、複数個の超硬材料混合粉末からなるスリーブ部材をロール軸方向に接合・一体化して形成したものであり、このような構造をもつロールは、公知のロール製造技術で製造することが可能である。たとえばWC、TaC 、TiC 等の超硬材料粉末にCo、Ni、Cr、Ti等の金属粉末のうちから選ばれる1種または2種以上を5〜50mass%添加した超硬材料混合粉末を素材とし、これをラバー成形してCIP(冷間等方加圧)により成形したスリーブ部材を、ロールの軸方向に複数個重ね、1260℃、10気圧の条件でHIP(熱間等方加圧)により接合・一体化して超硬合金スリーブ2とする。鋼製軸芯3には、通常鍛鋼、鋳鋼を用いる。耐肌荒れ性、耐摩耗性、靭性などの観点からは、WC粉末に5〜50mass%のCoを添加した超硬合金混合粉末を焼結した超硬合金スリーブ2とするのが好ましい。
【0013】
次いで、本発明を実施するのに好適な熱間圧延ラインを図2に示す。図2に示した熱間圧延ラインには、上流側から順に、加熱炉7、幅圧下装置8、粗圧延機6、仕上げ圧延機5、冷却装置9、巻取り装置10が配置されている。なお、粗圧延機6と加熱炉7の間に配置される幅圧下装置8は、鋼スラブの幅を圧下する装置であり、仕上げ圧延機5で圧下スケジュール(各スタンドの圧下率)に基づき圧延される熱延鋼板の幅をスラブ段階で調整可能である。
【0014】
仕上げ圧延機5はF1〜F7スタンドの7スタンドからなり、粗圧延機6は3スタンドからなる。このような構成の熱間圧延ラインも公知である(仕上げ圧延機5のワークロールオンラインロールグラインダーなし、仕上げ圧延機5のロールバイトへ圧延油を供給する熱間潤滑油供給設備なし)。
以下、鋼管素材の成分を変えて行った製造実験結果に関して説明する。この鋼管素材の製造実験は、図2に示した熱間圧延ラインで以下のようにして行った。
【実施例】
【0015】
鋼管素材の成分が表1のように異なる被圧延材Sを、各20コイル(コイル重量:24トン/コイル)仕上げ圧延機で仕上げ圧延し、その後、仕上げ圧延機から各スタンドに組み込んだワークロールを取り出し、仕上げ圧延後のワークロールの表面肌を観察した。
【0016】
【表1】

【0017】
(製造実験条件)
鋼スラブの厚み=200mm、シートバーの板厚=20mm、仕上げ圧延機出側板厚=3mm、仕上げ圧延機出側の被圧延材速度=800〜1400m/分、仕上げ圧延機出側温度(FDT)=800〜950℃、巻き取り温度=600〜800℃。
仕上げ圧延機のワークロール直径=650mm、バレル長=2050mm。仕上げ圧延機のバックアップロール直径=1600mm。
【0018】
なお、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールに圧延部表層が超硬合金スリーブ2からなるロールを組み込むスタンドは、鋼管素材の成分に応じ、あらかじめ決めておいた。F1〜F7スタンドの各ワークロールにNiグレンロールを組み込んだ場合、ワークロールと被圧延材S間で焼き付きが生じやすい特定スタンドは、表2に示したとおりである。
【0019】
【表2】

【0020】
(鋼管素材のCr含有量に応じた特定スタンド)
(a)Cr含有量が0.54mass%以下の場合:F3スタンド(鋼種Eの比較例5)。
(b)Cr含有量が0.54mass%を越え、0.67mass%の場合:F2およびF3スタンド(鋼種Bの比較例2)。
(c)Cr含有量が0.67mass%を越え、1.65mass%の場合:F1,F2およびF3スタンド(鋼種Aの比較例1)、もしくはF2,F3およびF4スタンド(鋼種Dの比較例4)。
(d)Cr含有量が1.65mass%を越え、ステンレス鋼板のCr含有量以下の場合、F1〜F5スタンド(鋼種Cの比較例3)。
【0021】
表2に示した結果から、鋼管素材のCr含有量に応じ、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールと被圧延材S間で焼き付きが生じやすいスタンドをあらかじめ決めておき、あらかじめ決めた特定スタンドのワークロールに、圧延部外層が超硬合金製スリーブからなるロールを組み込むことで、ワークロールと被圧延材間の酸化膜移着が生じないことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】(a)、(b)は本発明に用いて好適なワークロールの構造を示す断面図、(c)は従来ロールの構造を示す断面図である。
【図2】本発明を実施するのに好適な熱間圧延ラインの設備配置図である。
【符号の説明】
【0023】
S 被圧延材
W ワークロール
1 従来ロール(Niグレンロール)
2 超硬合金スリーブ
3 鋼製軸芯
4 鋼製緩衝材
5 仕上げ圧延機
6 粗圧延機
7 加熱炉
8 幅圧下装置
9 冷却装置
10 巻取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間圧延工程で、鋼スラブを粗圧延し、板厚20〜50mmのシートバーにした後、仕上げ圧延機で所定の板厚に仕上げ圧延し、引き続き冷却して熱延鋼板を製造するに際し、鋼管素材の成分に応じ、仕上げ圧延機のスタンドのうちワークロールと被圧延材間で焼き付きが生じやすいスタンドをあらかじめ決めておき、あらかじめ決めた特定スタンドのワークロールに、圧延部外層が超硬合金スリーブからなるロールを組み込むことを特徴とする鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記鋼管素材の成分がCr含有量であることを特徴とする請求項1に記載の鋼管素材に好適な熱延鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−195973(P2009−195973A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43090(P2008−43090)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】