説明

鍛造装置

【課題】簡易な構成で、被加工物の加工精度を向上させることが可能な鍛造装置を提供すること。
【解決手段】線状または管状の被加工物2を鍛造で加工する鍛造装置は、被加工物2を所定形状に加工するための加工溝18a、19aが形成されるダイス3と、ダイス3に振動を付与する振動付与機構とを備えている。ダイス3は、振動付与機構からの振動が伝達される振動伝達部17aと、振動伝達部17aからZ方向に立ち上がるように形成される立上部20、21とを備えている。加工溝18a、19aは、立上部20、21の先端側に形成されている。この鍛造装置では、振動付与機構からの振動で立上部20、21の先端側がX方向に振動して、加工溝18a、19aで被加工物2を加圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を鍛造で加工する鍛造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、冷間鍛造によって、径の小さい管状部材の先端部分を尖頭形状に加工して、注射針等を製造する鍛造装置が知られている。この種の鍛造装置として、管状部材の先端部分を尖頭形状に加工するための加工溝が形成された2個のダイスと、ダイスを振動させるための振動発生素子とを備える鍛造装置が本出願人によって提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載の鍛造装置では、2個のダイスの一方のみを振動させ、他方を固定する場合には、1個の振動発生素子が配置され、この振動発生素子から伝達される振動で一方のダイスが管状部材の径方向に振動して、管状部材の先端部分を加圧する。また、この鍛造装置では、2個のダイスの両方を振動させる場合には、2個の振動発生素子が配置され、2個の振動発生素子のそれぞれから伝達される振動で2個のダイスのそれぞれが管状部材の径方向に振動して、管状部材の先端部分を加圧する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−194717号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の鍛造装置において、管状部材の先端部分を精度良く加工するためには、2個のダイスの両方を振動させることが好ましい。すなわち、2個のダイスの一方のみを振動させ、他方を固定する場合と比較して、2個のダイスの両方を振動させる場合には、ダイスの振幅を小さくすることが可能になるため、管状部材の先端部分を精度良く加工することが可能になる。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の鍛造装置で、2個のダイスを振動させる場合には、2個の振動発生素子のそれぞれから伝達される振動で2個のダイスのそれぞれが振動する。そのため、2個のダイスの振動を同期させることは困難であり、管状部材の先端部分の加工精度が低下するおそれがある。また、2個の振動発生素子が必要となるため、鍛造装置の構成が複雑になる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、簡易な構成で、被加工物の加工精度を向上させることが可能な鍛造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は、線状または管状の被加工物を鍛造で加工する鍛造装置において、被加工物を所定形状に加工するための加工溝が形成されるダイスと、ダイスに振動を付与する振動付与機構とを備え、ダイスは、振動付与機構からの振動が伝達される振動伝達部と、振動伝達部から被加工物の長手方向に立ち上がるように形成される複数の立上部とを備え、立上部の先端側に加工溝が形成され、振動付与機構からの振動で複数の立上部の先端側が被加工物の長手方向に略直交する方向に振動して、加工溝で被加工物を加圧することを特徴とする。
【0009】
本発明の鍛造装置では、振動付与機構からの振動が伝達される振動伝達部から立ち上がるように複数の立上部が形成され、立上部の先端側に加工溝が形成されている。そのため、振動付与機構から付与される共通の振動に基づいて(すなわち、位相の一致した振動に基づいて)複数の立上部の先端側を振動させることができる。したがって、複数の立上部の先端側の振動を同期させるための各種の設定が容易になる。その結果、本発明では、複数の立上部の先端側の振動を同期させて、被加工物の加工精度を向上させることが可能になる。また、本発明では、共通の振動付与機構を用いて、複数の立上部の先端側を振動させることができるため、鍛造装置の構成を簡素化することが可能になる。
【0010】
本発明において、振動付与機構は、被加工物の長手方向の振動を振動伝達部に付与することが好ましい。また、本発明において、複数の立上部は、被加工物の長手方向から見たときの振動伝達部の中心に対して略対称に配置されていることが好ましい。このように構成すると、複数の立上部の先端側の振動を同期させるための各種の設定がより容易になる。したがって、複数の立上部の先端側の振動を容易に同期させることが可能になる。
【0011】
本発明において、ダイスは、たとえば、2個の立上部を備えている。この場合には、立上部の先端側の振動を同期させるための各種の設定がより容易になる。また、ダイスの構成を簡素化することが可能になる。
【0012】
本発明において、立上部は、振動伝達部から被加工物の長手方向に伸びる柱部と、加工溝が形成されるとともに柱部から被加工物の長手方向に略直交する方向に伸びる溝形成部とを備えることが好ましい。このように構成すると、立上部の先端側の振動の、被加工物の長手方向に略直交する方向への振動成分を大きくすることが可能になり、被加工物を加圧するために必要な立上部の先端側の振幅を確保することが可能になる。
【0013】
本発明において、立上部は、加工溝が形成される溝形成部を備え、溝形成部は、溝形成部以外の、立上部の他の部分と別体で形成されていることが好ましい。このように構成すると、たとえば、被加工物の加工を行うための溝形成部を硬度の高い金属材料で形成し、その他の部分を硬度の比較的低い金属材料で形成することが可能になる。したがって、ダイスのコストを低減することが可能になる。また、たとえば、溝形成部以外のその他の部分を硬度の比較的低い金属材料で形成することで、立上部の先端側を振動させやすくすることが可能になる。
【0014】
本発明において、鍛造装置は、被加工物の軸中心を回転中心として被加工物またはダイスを回転させる回転機構を備えることが好ましい。このように構成すると、被加工物の、ダイスで加圧される加圧部分を順次変えることができるため、被加工物の加工部位でのバリの発生を抑制することができる。
【0015】
本発明において、振動付与機構は、超音波振動を振動伝達部に付与することが好ましい。このように構成すると、ダイスの振幅を小さくすることが可能になる。すなわち、ダイスのわずかな振幅で被加工物を加圧することが可能になり、被加工物の加工精度を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の鍛造装置では、被加工物の加工精度を向上させることが可能になり、また、装置の構成を簡素化することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態にかかる鍛造装置の概略構成を説明するための概略図である。
【図2】図1の鍛造装置で加工された管状部材を示す図であり、(A)はその一例を示し、(B)は他の例を示す。
【図3】図1に示すダイスおよび振動付与機構の斜視図である。
【図4】図1に示すダイスの斜視図である。
【図5】図4に示すダイスの正面図である。
【図6】図4に示すダイスの概略構成を側面から説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(鍛造装置の概略構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる鍛造装置1の概略構成を説明するための概略図である。図2は、図1の鍛造装置1で加工された管状部材2を示す図であり、(A)はその一例を示し、(B)は他の例を示す。図3は、図1に示すダイス3および振動付与機構4の斜視図である。
【0020】
本形態の鍛造装置1は、冷間鍛造によって、線材部材や管状部材の先端を尖頭形状に加工するための装置であり、たとえば、注射針等を製造するために、被加工物となる中空円筒状の管状部材2の先端部分2a(図2参照)を略円錐状の尖頭形状に加工する。この鍛造装置1は、図1に示すように、ダイス3と、ダイス3に振動を付与する振動付与機構4と、管状部材2を保持する保持機構5とを備えている。また、鍛造装置1は、ダイス3に形成される後述の加工溝18a、19aに管状部材2を案内するためのガイド部(図示省略)を備えている。
【0021】
鍛造装置1は、管状部材2の先端部分2aを尖頭形状に鍛造で加工するため、管状部材2は、たとえば、塑性加工が可能な金属材料で形成されている。また、管状部材2の先端部分2aは鍛造されるため、先端部分2aの硬度は比較的高くなっている。なお、管状部材2は、塑性加工が可能な非金属材料(たとえば、樹脂材料)で形成されても良い。
【0022】
本形態の鍛造装置1は、径が微細な管状部材2の加工に適している。たとえば、鍛造装置1で加工される管状部材2の外径D1は約0.05〜0.5mmであり、内径D2は約0.02〜0.3mmである(図2参照)。また、尖頭形状とするために略円錐状に形成される先端部分2aの長さL1は約0.5〜2mmである。本形態では、たとえば、外径D1は0.2mm程度、長さL1は1.5mm程度であり、また、先端部分2aの傾斜角度は10°程度である。また、管状部材2の全長L2は20mm程度である。
【0023】
また、鍛造装置1によって、管状部材2の先端部分2aは、たとえば、図2に示すような尖頭形状に加工される。すなわち、鍛造装置1によって、図2(A)に示すように、管状部材2の先端(図2の右端)が尖った円錐状に先端部分2aが加工される。あるいは、鍛造装置1によって、図2(B)に示すように、管状部材2の先端にわずかに平らな部分が残る円錐台状に先端部分2aが加工される。なお、先端部分2aの外周面は平滑面となっている。
【0024】
振動付与機構4は、振動発生素子を有する振動発生部7と、振動発生部7で発生した振動を増幅してダイス3に伝達する振動増幅部8とを備えている。振動発生部7を構成する振動発生素子は、たとえば、圧電素子あるいは磁歪素子である。また、振動増幅部8の先端側にダイス3が固定され、振動増幅部8の基端側は振動発生部7に固定されている。
【0025】
保持機構5は、管状部材2の後端側を保持するスピンドル9を備えている。スピンドル9は、図1の左右方向を軸方向(長手方向)として配置される管状部材2の軸中心を回転中心として回転可能な回転部9aを備えている。回転部9aの先端には、管状部材2を固定するためのチャック機構10が取り付けられている。チャック機構10は、たとえば、管状部材2の外周面に当接して管状部材2を保持するゴム製のゴムチャック11と、管状部材2の径方向へゴムチャック11を伸縮させるチャックナット12とを備えている。
【0026】
また、保持機構5は、回転部9aを回転させる回転機構としてのモータ13と、スピンドル9を管状部材2の軸方向へ移動させる直動機構(図示省略)とを備えている。モータ13は、カップリング14を介して回転部9aの基端に連結されている。また、直動機構は、ボールネジ、リニアガイドおよびボールネジを回転させるモータ等によって構成されている。なお、本形態では、モータ13によって回転する管状部材2の回転数は、一般的な金属加工(ドリリング、ミリングあるいは研削加工)の際の被加工物の回転数と比較して低くなっている。また、直動機構によって送られる管状部材2の単位時間当たりの送り量は比較的小さくなっている。
【0027】
(ダイスの構成)
図4は、図1に示すダイス3の斜視図である。図5は、図4に示すダイス3の正面図である。図6は、図4に示すダイス3の概略構成を側面から説明するための図である。なお、以下の説明では、図4〜図6に示すように、鍛造加工時の管状部材2の軸方向(Z方向)に直交するとともに互いに直交する2方向をX方向およびY方向とする。また、X1方向側を「右」側、X2方向側を「左」側とする。
【0028】
ダイス3は、振動増幅部8の先端側に固定される固定部17と、管状部材2の先端部分2aを加圧して尖頭形状に加工するための加工溝18a、19aが形成される2個の溝形成部18、19とを備えている。すなわち、ダイス3は、別体で形成される固定部17と、2個の溝形成部18、19とを備えている。
【0029】
固定部17は、金属材料で形成されている。本形態の固定部17は、比較的硬度の低い金属材料で形成されている。また、固定部17は、略円板状に形成される基端部17aと、基端部17aからZ方向に立ち上がるように(すなわち、Z方向に伸びるように)形成される2本の柱部17b、17cとを備え、二股状に形成されている。柱部17bは、基端部17aの右端側に形成され、柱部17cは、基端部17aの左端側に形成されている。具体的には、柱部17b、17cは、Y方向およびZ方向に平行でかつ基端部17aの中心を通過する平面P(図5参照)に対して略面対称に形成されている。
【0030】
溝形成部18、19は、金属材料で形成されている。本形態の溝形成部18、19は、比較的硬度の高い金属材料で形成されている。また、溝形成部18、19は、略矩形の板状に形成されている。溝形成部18は、柱部17bの先端面に固定され、溝形成部19は、柱部17cの先端面に固定されている。具体的には、振動付与機構4からの振動が付与されていない状態で、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面とが当接するように、溝形成部18、19は、柱部17b、17cの先端面に固定されている。また、本形態では、溝形成部18は、柱部17bの先端面から左側に向かって伸びるように柱部17bの先端面に固定され、溝形成部19は、柱部17cの先端面から右側に向かって伸びるように柱部17cの先端面に固定されており、溝形成部18、19は、平面Pに対して略面対称に配置されている。
【0031】
溝形成部18の左側面には、加工溝18aが形成され、溝形成部19の右側面には、加工溝19aが形成されている。具体的には、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面とを当接させたときに、加工溝18a、19aによって形成される孔が先端部分2aに形成される尖頭形状に対応した形状となるように、加工溝18a、19aが形成されている。すなわち、図6等に示すように、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面とを当接させたときに、溝形成部18、19の端面から窪む円錐形状の孔が加工溝18a、19aによって形成されるように、加工溝18a、19aが形成されている。すなわち、加工溝18a、19aはそれぞれ、半円錐形状に形成されている。このように、溝形成部18、19は、先端部分2aを尖頭形状に加工するための金型が2分割された分割金型であり、溝形成部18、19には、鍛造加工用の加工溝18a、19aが形成されている。
【0032】
本形態では、基端部17aが振動増幅部8の先端側に固定されており、基端部17aに振動付与機構4からの振動が伝達される。すなわち、本形態の基端部17aは、振動付与機構4からの振動が伝達される振動伝達部である。また、本形態では、柱部17b、17cと溝形成部18、19とによって、振動伝達部である基端部17aからZ方向に立ち上がるように形成される立上部20、21が構成されている。すなわち、本形態のダイス3は、柱部17bと溝形成部18とによって構成される立上部20と、柱部17cと溝形成部19とによって構成される立上部21との2個の立上部20、21を備えている。
【0033】
上述のように、柱部17b、17cは平面Pに対して略面対称に配置され、溝形成部18、19は平面Pに対して略面対称に配置されている。すなわち、2個の立上部20、21は、平面Pに対して略面対称に配置されており、Z方向から見たときの基端部17aの中心に対して略対称に配置されている。また、上述のように、溝形成部18は、柱部17bの先端面から左側に向かって伸びるように柱部17bの先端面に固定され、溝形成部19は、柱部17cの先端面から右側に向かって伸びるように柱部17cの先端面に固定されており、2個の立上部20、21は、Y方向から見たときの形状が略L形状となるように形成されている。
【0034】
本形態では、振動付与機構4を構成する振動発生素子が振動すると、振動付与機構4から伝達される振動によってダイス3が振動する。具体的には、以下のように、ダイス3が振動する。まず、本形態では、Z方向(管状部材2の軸方向)の振動が振動付与機構4からダイス3の基端部17aに付与される。また、本形態では、超音波振動が振動付与機構4から基端部17aに付与される。
【0035】
基端部17aにZ方向の振動が付与されると、その振動は、立上部20、21に分岐して伝達される。本形態では、立上部20、21に振動が伝達されると、図6に示すように、柱部17b、17cと基端部17aとの境界部を支点にして、溝形成部18、19がX方向に振動する。より具体的には、立上部20、21に振動が伝達されると、柱部17b、17cと基端部17aとの境界部を支点にして、溝形成部18、19が略円弧状に振動する。また、立上部20、21に振動が伝達されると、溝形成部18、19が互いに近づいたり、遠ざかったりするように(すなわち、加工溝18a、19aがX方向で開閉動作を行うように)、溝形成部18、19が同期して振動する。すなわち、溝形成部18、19は、加工溝18a、19aがX方向で開閉動作を行うように位相の一致した振動を行う。
【0036】
また、本形態では、立上部20、21に振動が伝達されると、立上部20、21は共振する。すなわち、立上部20、21に振動が伝達されると、立上部20、21が互いに異なる方向へ同期して共振しており、管状部材2の先端部分2aを加工するための溝形成部18、19の振幅は、立上部20、21の共振によって確保されている。このように、本形態では、立上部20、21が互いに異なる方向へ同期して共振するように、振動発生素子の振動周波数、ダイス3の材質、柱部17b、17cの長さおよび溝形成部18、19の長さ等が設定されている。また、立上部20、21が異なる方向へ同期して共振すると、X方向に開閉動作を行う加工溝18a、19aによって管状部材2の先端部分2aが加圧されて、鍛造加工される。
【0037】
なお、本形態では、ダイス3の材質、柱部17b、17cの長さおよび溝形成部18、19の長さ等の設定を変えることで、立上部20、21を互いに異なる方向へ同期して共振させるための共振周波数や、溝形成部18、19の振幅を任意に変えることが可能である。
【0038】
(管状部材の鍛造方法)
以上のように構成された鍛造装置1では、たとえば、以下のように、管状部材2の先端部分2aの鍛造が行われる。
【0039】
まず、ダイス3を振動付与機構4に取り付け、管状部材2を保持機構5に取り付ける。その後、モータ13を起動して、管状部材2の回転を開始する。その後、管状部材2を回転させた状態で、直動機構によって、管状部材2を加工溝18a、19aに挿入しながら(すなわち、管状部材2を軸方向へ送りながら)、ダイス3を振動させ、管状部材2の先端部分2aを加圧(鍛造)する。すなわち、立上部20、21が同期して共振するように、ダイス3を振動させて、加工溝18aと加工溝19aとによって、先端部分2aをX方向から挟んで加圧する。
【0040】
本形態では、先端部分2aの加工時には、モータ13によって管状部材2を常時回転させる。また、先端部分2aの加工時には、直動機構で管状部材2を連続的に軸方向へ送る。なお、管状部材2の加圧時に、先端部分2aと加工溝18a、19aとの間に向かって加工用の潤滑油を供給しても良い。
【0041】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、振動付与機構4からの振動が伝達される基端部17aから立ち上がるように立上部20、21が形成され、立上部20、21の先端側に配置される溝形成部18、19に加工溝18a、19aが形成されている。そのため、振動付与機構4から付与される共通の振動に基づいて(位相の一致した振動に基づいて)溝形成部18、19を振動させることができる。したがって、本形態では、溝形成部18、19の振動を同期させるための、振動発生素子の振動周波数、ダイス3の材質、柱部17b、17cの長さおよび溝形成部18、19の長さ等の各種の設定が容易になり、上述のように、溝形成部18、19の振動を同期させることができる。その結果、本形態では、管状部材2の先端部分2aの加工精度を向上させることが可能になる。
【0042】
特に本形態では、管状部材2の軸方向の振動が振動付与機構4から基端部17aに付与され、かつ、立上部20、21は、基端部17aの中心を通過する平面Pに対して略面対称に配置されている。また、本形態では、ダイス3に形成される立上部20、21の数は2個である。そのため、溝形成部18、19の振動を同期させるための各種の設定がより容易になる。
【0043】
本形態では、一体で形成される2個の柱部17b、17cの上端面に、溝形成部18、19が固定されている。そのため、分割金型である溝形成部18と溝形成部19とを精度良く位置合わせすることが可能になる。すなわち、加工溝18aと加工溝19aとを精度良く位置合わせすることが可能になる。したがって、本形態では、管状部材2の先端部分2aの加工精度をより向上させることが可能になる。
【0044】
本形態では、共通の振動付与機構4を用いて、2個の溝形成部18、19を振動させている。そのため、鍛造装置1の構成を簡素化することが可能になる。また、本形態では、ダイス3に形成される立上部20、21の数は2個であるため、鍛造装置1の構成を簡素化することが可能になる。
【0045】
本形態では、立上部20、21は、Y方向から見たときの形状が略L形状となるように形成されている。そのため、立上部20、21の先端側(すなわち、溝形成部18、19)の振動のX方向への振動成分を大きくすることが可能になる。また、本形態では、固定部17が硬度の比較的低い金属材料で形成されているため、柱部17b、17cをX方向に振動させやすくなる。したがって、本形態では、管状部材2の先端部分2aを加圧するために必要なX方向での溝形成部18、19の振幅を確保することが可能になり、加工溝18a、19aによって、管状部材2を適切に加圧することが可能になる。
【0046】
本形態では、立上部20、21を共振させているため、振動付与機構4からダイス3に伝達される振動が小さくても、X方向での溝形成部18、19の振幅を確保することが可能になる。したがって、振動付与機構4の構成を簡素化することが可能になる。
【0047】
本形態では、別体で形成される固定部17と溝形成部18、19とによって、ダイス3が構成されている。そのため、管状部材2を加工するための加工溝18a、19aが形成される溝形成部18、19を硬度の高い金属材料で形成し、固定部17を硬度の比較的低い金属材料で形成することができる。したがって、ダイス3のコストを低減することができる。
【0048】
本形態では、鍛造装置1は、管状部材2の軸中心を回転中心として管状部材2を回転させるモータ13を備えている。そのため、管状部材2の加工時に、管状部材2の先端部分2aの、ダイス3で加圧される加圧部分を順次変えることができる。したがって、管状部材2の先端部分2aでのバリの発生を抑制することができる。
【0049】
本形態では、振動付与機構4は、ダイス3に超音波振動を付与している。そのため、ダイス3の振幅を小さくすることができる。すなわち、ダイス3のわずかな振幅で管状部材2の先端部分2aを加圧することが可能になり、先端部分2aの加工精度を向上させることが可能になる。
【0050】
(他の実施の形態)
上述した形態では、ダイス3は、2個の立上部20、21を備えているが、ダイス3が備える立上部の数は、3個以上であっても良い。たとえば、固定部17が3個の柱部を有する三股状に形成され、柱部のそれぞれに溝形成部が固定されても良い。すなわち、3個の溝形成部は、先端部分2aを尖頭形状に加工するための金型が3分割された分割金型であっても良い。この場合には、たとえば、3個の立上部は、Z方向から見たときの基端部17aの中心に対して略対称に配置される。
【0051】
上述した形態では、立上部20、21は、Y方向から見たときの形状が略L形状となるように形成されているが、立上部20、21は、Y方向から見たときの形状が略T形状あるいは略Y形状となるように形成されても良い。また、上述した形態では、溝形成部18、19は、柱部17b、17cの先端面に固定されているが、溝形成部18、19は、Z方向における柱部17b、17cの中間位置に固定されても良い。
【0052】
上述した形態では、柱部17b、17cと溝形成部18、19とによって、立上部20、21が構成されているが、柱部17b、17cのみによって立上部20、21が構成されても良い。この場合には、柱部17b、17cのX方向の間隔を狭くするとともに、柱部17b、17cの上端側に管状部材2を加工するための加工溝を形成すれば良い。
【0053】
上述した形態では、固定部17と溝形成部18、19とは、別体で形成されているが、固定部17と溝形成部18、19とは、一体で形成されても良い。この場合には、加工溝18aと加工溝19aとのより精度の高い位置合わせが可能になる。また、上述した形態では、基端部17aと柱部17b、17cとは一体で形成されているが、基端部17aと柱部17b、17cとが別体で形成されても良い。この場合には、柱部17bと溝形成部18とが一体で形成され、柱部17cと溝形成部19とが一体で形成されても良い。すなわち、立上部20、21のそれぞれが一体で形成されても良い。
【0054】
上述した形態では、振動発生部7は、圧電素子や磁歪素子等の振動発生素子を備えているが、振動発生部7は、振動発生素子に代えて、振動モータ、ボイスコイルモータ、ソレノイドあるいはボルト締めランジュバン(BLT)等の振動発生源を備えていても良い。また、上述した形態では、振動付与機構4は、ダイス3に超音波振動を付与しているが、振動付与機構4は、超音波の周波数領域と異なる周波数領域の振動をダイス3に付与しても良い。また、上述した形態では、振動付与機構4は、振動増幅部8を備えているが、振動付与機構4は、振動増幅部8を備えていなくても良い。
【0055】
上述した形態では、ダイス3は、振動付与機構4の先端側に固定されており、ダイス3の外部からダイス3に振動が付与されている。この他にもたとえば、圧電素子や磁歪素子等の振動発生素子がダイス3の中に内蔵されても良い。この場合には、ダイス3の中に内蔵される振動発生素子がダイス3に振動を付与する振動付与機構となる。
【0056】
上述した形態では、保持機構5は、管状部材2を回転させるためのモータ13を備えている。この他にもたとえば、モータ13に代えて、管状部材2の軸中心を回転中心としてダイス3を回転させる回転機構を鍛造装置1が備えていても良い。
【0057】
上述した形態では、振動付与機構4からの振動が付与されていない状態で、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面とが当接するように、溝形成部18、19は、柱部17b、17cの先端面に固定されている。この他にもたとえば、振動付与機構4からの振動が付与されていない状態で、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面との間に隙間が形成されるように、溝形成部18、19が柱部17b、17cの先端面に固定されても良い。この場合には、振動付与機構4からの振動が付与されると、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面とが当接するように、溝形成部18、19が振動する。
【0058】
上述した形態では、溝形成部18、19は略円弧状に振動しているが、溝形成部18、19は略円状に振動しても良い。すなわち、溝形成部18、19の振動時の軌跡が略円状になるように、振動発生素子の振動周波数、ダイス3の材質、柱部17b、17cの長さおよび溝形成部18、19の長さ等の各種の設定が行われても良い。この場合には、たとえば、溝形成部18、19は略真円状に振動しても良いし、略楕円状に振動しても良い。また、溝形成部18、19は、Z方向の振動成分およびX方向の振動成分を有する略直線状に振動しても良い。また、溝形成部18、19の振動は、Z方向の振動成分およびX方向の振動成分に加え、Y方向の振動成分を有していても良い。
【0059】
上述した形態では、先端部分2aの加工時に、管状部材2を常時回転させ、直動機構で管状部材2を連続的に軸方向へ送っているが、先端部分2aの加工時に、管状部材2を間欠的に回転させても良いし、管状部材2を間欠的に軸方向へ送っても良い。たとえば、振動付与機構4から基端部17aに付与される振動の振動周波数が低い場合には、溝形成部18の左側面と溝形成部19の右側面とが離れたときに、管状部材2を回転させながら、管状部材2を軸方向へ送っても良い。また、先端部分2aの加工時に、管状部材2を回転させずに、直動機構で管状部材2を送りながら、ダイス3を振動させて、管状部材2の先端部分2aを加圧しても良い。
【0060】
上述した形態では、加工溝18a、19aは半円錐形状に形成されているが、加工溝18a、19aは、たとえば、段付の半円柱形状に形成されても良い。すなわち、鍛造装置1によって、段付の軸が形成されても良い。この場合には、被加工物の先端に段付部が形成されても良いし、被加工物の軸方向における中間位置に段付部が形成されても良い。
【0061】
上述した形態では、鍛造装置1で加工される被加工物の例として、中空円筒状の管状部材2を挙げているが、鍛造装置1で加工される被加工物は、中実円柱状の線状部材(棒状部材)であっても良い。また、鍛造装置1で加工される被加工物は、四角柱等の多角柱状の線状部材あるいは多角筒状の管状部材であっても良い。この場合には、鍛造装置1で、多角柱状の線状部材を円柱状に鍛造加工しても良い。また、モータ13の適切な回転制御を行うことで、円柱状の線状部材を多角柱状に鍛造加工しても良い。
【符号の説明】
【0062】
1 鍛造装置
2 管状部材(被加工物)
3 ダイス
4 振動付与機構
13 モータ(回転機構)
17a 基端部(振動伝達部)
17b、17c 柱部
18、19 溝形成部
18a、19a 加工溝
20、21 立上部
X 被加工物の長手方向に略直交する方向
Z 被加工物の長手方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状または管状の被加工物を鍛造で加工する鍛造装置において、
前記被加工物を所定形状に加工するための加工溝が形成されるダイスと、前記ダイスに振動を付与する振動付与機構とを備え、
前記ダイスは、前記振動付与機構からの振動が伝達される振動伝達部と、前記振動伝達部から前記被加工物の長手方向に立ち上がるように形成される複数の立上部とを備え、
前記立上部の先端側に前記加工溝が形成され、
前記振動付与機構からの振動で複数の前記立上部の先端側が前記被加工物の長手方向に略直交する方向に振動して、前記加工溝で前記被加工物を加圧することを特徴とする鍛造装置。
【請求項2】
前記振動付与機構は、前記被加工物の長手方向の振動を前記振動伝達部に付与することを特徴とする請求項1記載の鍛造装置。
【請求項3】
複数の前記立上部は、前記被加工物の長手方向から見たときの前記振動伝達部の中心に対して略対称に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の鍛造装置。
【請求項4】
前記ダイスは、2個の前記立上部を備えることを特徴とする請求項3記載の鍛造装置。
【請求項5】
前記立上部は、前記振動伝達部から前記被加工物の長手方向に伸びる柱部と、前記加工溝が形成されるとともに前記柱部から前記被加工物の長手方向に略直交する方向に伸びる溝形成部とを備えることを特徴する請求項1から4のいずれかに記載の鍛造装置。
【請求項6】
前記立上部は、前記加工溝が形成される溝形成部を備え、
前記溝形成部は、前記溝形成部以外の、前記立上部の他の部分と別体で形成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の鍛造装置。
【請求項7】
前記被加工物の軸中心を回転中心として前記被加工物または前記ダイスを回転させる回転機構を備えることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の鍛造装置。
【請求項8】
前記振動付与機構は、超音波振動を前記振動伝達部に付与することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の鍛造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−207834(P2010−207834A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54522(P2009−54522)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(593174870)高島産業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】