説明

長尺型磁気センサ

【課題】隣接する磁石同士の間隙部に生じる感度低下を抑制する。
【解決手段】磁気抵抗素子の感磁部20は、磁気抵抗層の上面に電極材料からなる複数のショートバーが形成されたものである。磁気抵抗部はショートバー22で覆われていない部分である。紙幣に印刷された磁性体が通過する際、その通過位置によって磁気抵抗素子の抵抗値の変化率(素子感度)が異なる。磁気抵抗素子の抵抗値の変化率は、感磁部における磁気抵抗部の密度が高いほど大きい。そのため、隣接する磁石同士の間隙部上または隣接する磁気抵抗素子の間隙部付近に位置する感磁部20の磁気抵抗部の密度をその他の領域に比べて相対的に高めることにより、磁石同士の間隙部での感度低下が抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば紙幣などに印刷されている磁気パターンを検出する長尺型磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
被検知物の移動方向に対して略直交する方向を長手方向とする感磁部を表面に形成した複数の磁気抵抗素子と、この磁気抵抗素子の感磁部に対して磁界を印加する複数の磁石とを有する長尺型磁気センサが例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
ここで、特許文献1に開示されている長尺型磁気センサの構造例を図1に示す。図1の例では、磁石5a−5bを橋渡しするように、感磁部20abを備えた磁気抵抗素子2abが配置され、磁石5b−5cを橋渡しするように、感磁部20bcを備えた磁気抵抗素子2bcが配置されている。そして互いに隣接する磁石の磁極が互いに逆方向となるように磁石5a,5b,5cが配置されている。
【0004】
このような構造によれば、互いに隣接する2つの磁気抵抗素子の感磁部間の間隙部分Ghに磁石の中央部が位置することになる。磁石の中央部は端部付近に比べて磁束密度が高く安定しているので、隣接する感磁部間の磁束密度が、他の領域に比べて高まることになる。これにより、間隙部分Ghの検出レベルの低下を補償することができ、長手方向の全体にフラットな検出レベル特性が得られるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3879777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、一般的な磁気抵抗素子の素子感度特性の例を図2に示す。図2において横軸は磁気抵抗素子の長手方向位置、縦軸は磁気抵抗素子の素子感度である。ここでの素子感度(K)は、磁気抵抗素子に磁界を加えたときの素子抵抗値が磁気抵抗素子に磁界を加えなかったときの磁気抵抗値の何倍になるのかを示しており、K=RB/R0(RB:磁気抵抗素子に磁界を加えているときの磁気抵抗素子の素子抵抗値、R0:磁気抵抗素子に磁界を加えていないときの磁気抵抗素子の素子抵抗値)で示される。また、この横軸に合わせて感磁部20を表している。このように、感磁部20は検出幅方向(被検知物の移動方向に対して直交する長手方向)に均等な感度を有している。
【0007】
しかし特許文献1のように、磁気抵抗素子が複数の磁石に対して橋渡しする位置関係に配置されている場合であっても、例えば隣接する磁石同士の間隙が所定値よりも大きくなると、感磁部の中央部分に加わる磁束密度は、両端部に加わる磁束密度よりも若干低くなる。このため、隣接する磁石同士の間隙となる位置、例えば、磁気抵抗素子の中央部分で磁気センサの出力感度が落ち込む可能性がある。図3はこのことを表している。図3(A)は長尺型磁気センサの出力感度を示す図、図3(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子の感磁部20ab,20bcと磁石5a,5b,5cとの位置関係を示す図である。図3において、隣接する磁石同士の間隙となる位置で、すなわち感磁部20ab,20bcの中央部分で出力感度(センサが媒体を検出した時の出力電圧)の低下Dmが現れる。
【0008】
また、磁石の配置とは直接関係なく、磁気抵抗素子の感磁部20abと、それに隣接する磁気抵抗素子の感磁部20bcとの間には間隙が生じる。この間隙位置に感度低下Dsが現れる。
【0009】
本発明は、隣接する磁石同士の間隙部または隣接する磁気抵抗素子の感磁部同士の間隙部付近に生じる感度低下をより小さくできる長尺型磁気センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の長尺型磁気センサは、被検知物の移動方向に対して直交する方向を長手方向とする感磁部を表面に形成した複数の磁気抵抗素子と、該磁気抵抗素子の感磁部に対して磁界を印加する複数の磁石とを有し、
前記複数の磁気抵抗素子の感磁部および前記複数の磁石は、被検知物の移動方向に対して直交する直線に沿ってそれぞれ配列され、
前記磁気抵抗素子は、前記感磁部における磁気抵抗部の密度が、隣接する前記磁石同士の間隙部上または隣接する前記磁気抵抗素子の間隙部付近で相対的に高い、もしくは隣接する前記磁石同士の間隙部上および隣接する前記磁気抵抗素子の間隙部付近で相対的に高いことを特徴としている。なおここでいう「磁気抵抗部の密度」とは、単位面積あたりに占める磁気抵抗部の面積の割合をいう。
【0011】
例えば、前記磁気抵抗素子は、前記複数の磁石のうち隣接する磁石同士を橋渡しする位置関係で配置される。
【0012】
また、例えば前記磁気抵抗素子は、長手方向の両端部(すなわち隣接する磁気抵抗素子の感磁部同士の間隙部の付近)での前記感磁部における前記磁気抵抗部の密度が相対的に高い。
【0013】
前記複数の磁石は、前記複数の磁気抵抗素子の感磁部に対する磁極の向きが、隣接する磁石同士で互いに逆となるように配置されてもよい。または、前記複数の磁気抵抗素子の感磁部に対する磁極の向きが同一となるように配置されてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁気抵抗素子は、感磁部の磁気抵抗部のうち、隣接する磁石同士の間隙部上の密度または隣接する磁気抵抗素子の間隙部付近における密度がその他の領域の密度に比べて相対的に高く形成されることにより、隣接する磁石同士の間隙部に生じる感度低下または隣接する磁気抵抗素子の間隙部(より具体的には、感磁部同士の間隙部)付近に生じる感度低下をより小さくできる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は特許文献1に開示されている長尺型磁気センサの構造例を示す図である。
【図2】図2は一般的な磁気抵抗素子の素子感度特性の例を示す図である。
【図3】図3は隣接する磁石同士の間隙部および隣接する感磁部同士の間隙部で磁気センサの出力感度が落ち込む特性の例を示す図である。
【図4】図4は第1の実施形態の長尺型磁気センサの外観斜視図であり、図4(A)はカバーの取り付け途中の状態、図4(B)は取り付け状態を示している。
【図5】図5(A)は、図4に示した第1の実施形態の長尺型磁気センサのカバーを取り除いた状態での平面図である。図5(B)は感磁部形成面に垂直で且つ複数の磁気抵抗素子と複数の磁石部分を通る面での断面図である。
【図6】図6(A)は図5に示した第1の実施形態の磁気抵抗素子2a〜2d等のうち一つの磁気抵抗素子の平面図、図6(B)は磁気抵抗素子の素子感度特性を示す図である。
【図7】図7(A)は第1の実施形態の長尺型磁気センサの出力感度特性を示す図、図7(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子の感磁部20と磁石5a,5b,5cとの位置関係を示す図である。図7(C)は長尺型磁気センサ301の主要部の部分平面図である。
【図8】図8(A)は第2の実施形態に係る磁気抵抗素子202の平面図、図8(B)はその磁気抵抗素子202の素子感度特性を示す図である。
【図9】図9(A)は感磁部20の部分拡大斜視図、図9(B)は図9(A)におけるA−A部分の断面図である。
【図10】図10は第2の実施形態の長尺型磁気センサの感度特性を示す図である。図10(A)は長尺型磁気センサの出力感度特性を示す図、図10(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子の感磁部20と磁石5a,5b,5cとの位置関係を示す図である。
【図11】図11(A)、図11(B)は第3の実施形態を説明するためのもので、図11(A)は複数の磁石5a〜5d等のうち隣接する磁石の極性が逆極性である場合の感磁部20を通過する磁束の概念図である。図11(B)は、複数の磁石5a〜5d等のうち隣接する磁石の極性が同極性である場合の感磁部20を通過する磁束の概念図である。
【図12】図12(A)は、図8に示した磁気抵抗素子と従来構造の磁気抵抗素子を用いた場合について、隣接する磁石の極性が逆極性である場合の磁気センサの出力電圧変動率の違いを示す図である。図12(B)は、図8に示した磁気抵抗素子と従来構造の磁気抵抗素子を用いた場合について、隣接する磁石の極性が同極性である場合の磁気センサの出力電圧変動率の違いを示す図である。
【図13】図13は、磁気抵抗素子の感磁部の中央部の磁気抵抗部の密度の比率を変化させたときの磁気センサの出力電圧変動率の変化について示す図である。
【図14】図14(A)は第4の実施形態に係る磁気抵抗素子204の平面図、図14(B)はその磁気抵抗素子204の素子感度特性を示す図である。
【図15】図15(A)は第4の実施形態の長尺型磁気センサの出力感度特性を示す図、図15(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子の感磁部20と磁石5b,5cとの位置関係を示す図である。図15(C)は長尺型磁気センサ305の主要部の部分平面図である。
【図16】図16(A)は第5の実施形態に係る磁気抵抗素子205の平面図、図16(B)はその磁気抵抗素子205の素子感度特性を示す図である。
【図17】図17は第6の実施形態に係る磁気抵抗素子の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンを示す図である。
【図18】図18は第7の実施形態に係る別の磁気抵抗素子の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンを示す図である。
【図19】図19は第8の実施形態に係るさらに別の磁気抵抗素子の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンを示す図である。
【図20】図20は第9の実施形態に係るさらに別の磁気抵抗素子の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
《第1の実施形態》
第1の実施形態に係る長尺型磁気センサの構成を図4〜図7を参照して説明する。
【0017】
図4は第1の実施形態の長尺型磁気センサの外観斜視図であり、(A)はカバーの取り付け途中の状態、(B)は取り付け状態を示している。樹脂製のケース1にはその上部に磁気抵抗素子を収納するための凹部が複数形成されており、該凹部に磁気抵抗素子2a,2b,2c,2d・・・が収納されている。また、ケース1の下部には、複数の磁石を収納するための磁石収納凹部(図示せず)がケース長手方向に直線に沿って並んで形成されており、該磁石収納凹部にそれぞれの磁石が収納されている。これらの複数の磁石は厳密に直線に沿って配列されていなくてもよく、多少のずれがあってもよい。例えば、ケース短手方向に多少ずらして千鳥状に配置されていてもよい。
【0018】
ケース1の下部には、複数の磁気抵抗素子2a,2b,2c,2d・・・に電気的に接続された端子ピン6が引き出されている。ケース1の両側部には長手方向に沿って爪部係合溝3が設けられている。
【0019】
金属製のカバー4には、ケースの爪部係合溝3に係合するカバー固定爪部が設けられていて、両者の係合状態で長手方向にスライドさせることによって、図4(B)に示すようにケース1の上部をカバー4が覆う。被検知物100は図中矢印で示すように長尺型磁気センサ301の長手方向に直交する向きに搬送される。この長尺型磁気センサ301の長手方向に対する被検知物100の搬送方向は、厳密に90度ではなくて多少の角度のずれがあってもよい。
【0020】
なお、カバー4には回路基板に対して電気的にアース接続するためのカバー端子11が設けられている。
【0021】
図5(A)は、図4に示した第1の実施形態の長尺型磁気センサのカバーを取り除いた状態での平面図である。図5(B)は感磁部形成面に垂直で且つ複数の磁気抵抗素子と複数の磁石部分を通る面での模式断面図である。但し、ここでは磁気抵抗素子2a〜2d部分についてのみ示している。また、図5(B)ではケース1および端子ピン6についても図示を省略している。
【0022】
磁気抵抗素子2a〜2dの下部には磁石5a〜5dが配置されている。磁気抵抗素子2a〜2dにはそれぞれ感磁部20a〜20dが形成されている。図4に示した被検知物100が紙幣等の紙葉類である場合、それが長尺型磁気センサ301の長手方向に対して直交する向きに搬送される。感磁部20a〜20dは、被検知物の移動方向に対して直交する方向を長手方向として磁気抵抗素子2a〜2dの表面に形成されている。
【0023】
各磁石5a〜5dは磁気抵抗素子2a〜2dのそれぞれを磁束が垂直に貫くように磁極(N極とS極)の方向が定められていて、且つ隣接する磁石の磁極の方向が互いに逆方向となるように配置されている。すなわち、磁石5aは磁気抵抗素子2a側がN極、それに隣接する磁石5bは磁気抵抗素子2b側がS極である。さらにそれに隣接する磁石5cは磁気抵抗素子2c側がN極である。以降同様に隣接する磁石の磁極の方向が互いに逆方向となるように配置されている。
【0024】
図6(A)は図5に示した第1の実施形態の磁気抵抗素子2a〜2d等のうち一つの磁気抵抗素子の平面図、図6(B)は磁気抵抗素子の素子感度特性を示す図である。
【0025】
磁気抵抗素子201の感磁部20は、磁気抵抗層の上面に複数の電極材料からなるショートバー22が形成されたものである。磁気抵抗部21はショートバー22で覆われていない部分である。ショートバー22が存在する箇所はショートバー22に電流が流れ、ショートバー22が存在しない箇所は磁気抵抗部21に電流が流れる。
【0026】
紙幣に印刷された磁性体(磁性インク)101が図6(A)に示す矢印方向に通過する際、その通過位置によって磁気抵抗素子201の抵抗値の変化率(素子感度)が異なる。この磁気抵抗素子201の抵抗値の変化率は、磁気抵抗部21の密度が高いほど大きい。図6(A)に示した例では、感磁部20の長手方向中央部分の磁気抵抗部21の密度が、その他の領域の密度に比べて高いので、図6(B)に示すように、感磁部20の中央部分の感度が高くなる。
【0027】
図7(A)は第1の実施形態の長尺型磁気センサの出力感度特性を示す図、図7(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子201の感磁部20と磁石5a,5b,5cとの位置関係を示す模式図である。図7(C)は長尺型磁気センサ301の主要部の部分平面図であり、紙幣などの被検知物100に印刷されている磁性体101の通過位置の例を示している。図7(A)において、破線は従来構造の長尺型磁気センサの特性(図3(A)に示した特性)、実線は第1の実施形態に係る長尺型磁気センサの特性である。磁気抵抗素子の感磁部20の中央(隣接する磁石同士5a,5bの間隙および磁石5b,5cの間隙となる位置)での磁気センサ301の感度低下Dmは従来構造のものに比べて小さい。
【0028】
第1の実施形態によれば、隣接する磁石5a,5bの間隙および磁石5b,5cの間隙となる領域上に位置する磁気抵抗素子201の磁気抵抗部21の密度を、その他の領域と比べて相対的に高くすることによって、磁気抵抗部21の密度が高い領域の磁気抵抗素子201の感度が上昇するため、磁石5a,5bおよび5b,5cの間隙部に生じる磁気センサとしての感度低下Dmを緩和できる。
【0029】
なお、図7(A)に示した感度低下Dsは感磁部同士を近づけることによって、その度合いを比較的容易に抑制できるが、感度低下Dmは抑制しにくい。その理由を具体的に説明すると、磁石5a,5b,5cと、これらの磁石を収納する樹脂製のケース1(図4参照)とは一般的に線膨張係数が大きく異なるため、製造条件・外的環境によってはケースが伸縮する。このケースの伸縮を吸収するために隣接する磁石同士にある程度の間隙を設けざるを得ず、その結果、感度低下Dmが生じる、という事情がある。第1の実施形態で示したように、隣接する磁石同士の間隙部上の領域に位置する磁気抵抗部の密度を高めることによって、前記感度低下Dmを効果的に低減できる。
【0030】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、複数の磁気抵抗素子の感磁部20のパターンが第1の実施形態と異なる例について示す。
【0031】
図8(A)は第2の実施形態に係る磁気抵抗素子202の平面図、図8(B)はその磁気抵抗素子202の素子感度特性を示す図である。磁気抵抗素子202は二列の感磁部20を備えている。感磁部の両端は引出電極23に接続されている。
【0032】
図9(A)は第2の実施形態の感磁部20の部分拡大斜視図、図9(B)は図9(A)におけるA−A部分の断面図である。磁気抵抗層21Lはミアンダライン状に形成されていて、その表面に電極材料からなるショートバー(電極)22が形成されている。ショートバー22が存在しない箇所は磁気抵抗部21である。図9(B)に矢印で示すように、ショートバー22が存在する箇所はショートバー22に電流が流れ、ショートバー22が存在しない箇所は磁気抵抗層21Lに電流が流れる。
【0033】
図8(A)に示すように、感磁部20の両端から中央にかけて磁気抵抗部の密度を次第に相対的に高くしている。そのため、図8(B)に示すように、感磁部20の両端から中央にかけて感度が次第に増大する感度特性が得られる。
【0034】
図10は第2の実施形態の長尺型磁気センサの感度特性を示す図である。図10(A)は長尺型磁気センサの出力感度特性を示す図、図10(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子の感磁部20と磁石5a,5b,5cとの位置関係を示す図である。図10(A)において、破線は従来構造の長尺型磁気センサの特性(図3(A)に示した特性)、実線は第2の実施形態に係る長尺型磁気センサの特性である。磁気抵抗素子の感磁部20の中央(隣接する磁石同士5a,5bの間隙および磁石5b,5cの間隙となる位置)での磁気センサの感度低下Dmは従来構造のものに比べて小さい。
【0035】
第2の実施形態によれば隣接する磁石5a,5bの上に位置する磁気抵抗素子202の磁気抵抗部21の密度を、その他の領域と比べて相対的に高くすることによって、磁気抵抗部21の密度が高い領域の磁気抵抗素子202の感度が上昇するため、磁石5a,5bおよび5b,5cの間隙部に生じる磁気センサとしての出力感度低下Dmを緩和できる。
【0036】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、複数の磁石の極性が第1・第2の実施形態と異なる例について示す。
【0037】
図11は、複数の磁石5a〜5d等の極性と感磁部20を通過する磁束の概念図である。図11(A)の例では、複数の磁石5a〜5d等のうち隣接する磁石の極性が逆極性である。この配置を以下、「逆極性配置」という。図11(B)の例では、すべての磁石5a〜5d等について極性が一致している。この配置を以下、「同極性配置」という。
【0038】
図11(A)のように、複数の磁石5a〜5d等のうち隣接する磁石の極性が異なる配置であると、磁石による磁束は隣接する磁石間でループを描く。このため磁気抵抗素子の感磁部20を通る磁束は、感磁部の両端部分(磁石中央部)では感磁部20に対してほぼ垂直であるが、感磁部20の中央部分(磁石同士の間隙部)は殆ど水平成分となる。
【0039】
磁気抵抗素子の抵抗値は磁気抵抗素子の感磁部20に垂直に通過する磁束によって変化するので、感磁部20の中央部の感度は低下することになる。
【0040】
一方、図11(B)のように、すべての磁石5a〜5d等の極性が一致していると、磁束は磁気抵抗素子の感磁部20に対して垂直に通り、磁束密度はほぼ均等である。磁石同士の間隙部では磁束密度が少し低いので、感磁部20の中央部の感度は若干低下するだけである。
【0041】
図12は、図8に示した磁気抵抗素子(第2の実施形態で示したもの)と従来構造の磁気抵抗素子(検知幅の全体にわたって磁気抵抗部の密度が均一なもの)を用いた場合について、磁石の二つの配置構造での磁気センサの出力電圧変動率を示す図である。図12(A)は磁石を逆極性配置した場合の特性、図12(B)は磁石を同極性配置した場合の特性である。いずれも、二つの磁石と一つの磁気抵抗素子との組み合わせについて示している。図12(A)、図12(B)において、特性Pは本実施形態の磁気センサの出力電圧変動率、特性Cは従来構造の磁気抵抗素子を備えた磁気センサの出力電圧変動率をそれぞれ表している。
【0042】
図12(A)、図12(B)において、縦軸のセンサ出力電圧変動率は、磁気センサを接続した検出回路の出力電圧の変動率で測定したものである。具体的には、例えば磁気抵抗素子に含まれる二つの感磁部を抵抗ブリッジ回路に接続し、被検知対象である磁性体の通過前後での前記抵抗ブリッジ回路の出力電圧の変動率に相当する。この変動率は出力電圧の最大値に対する比率をパーセントで表している。実線は図8に示した磁気抵抗素子の特性、破線は従来構造の磁気抵抗素子の特性である。いずれも、磁気抵抗素子の感磁部の長さは10mm、磁石同士の間隙部の間隔は0.7mm、磁気抵抗部の密度が高い領域における隣接する
磁気抵抗部間の最小距離は0.17mm、その他の領域における隣接する磁気抵抗部間の距離は0.35mmである。
【0043】
逆極性配置の場合、感磁部の両端から中央にかけて広範囲に亘って感度が低下していて、中央部での大きく感度が低下している。これに対し、同極性配置の場合、感磁部の中央部の比較的狭い範囲で感度が低下している。また、感度の低下量も全体に少ない。この感度低下の度合いは隣接する磁石同士の間隙によっても変わる。さらには、検出対象(磁性インク等)の大きさ(感磁部を通過する幅など)によっても変わる。
【0044】
このような感度低下の度合いは磁石の極性、磁石同士の間隙、検出対象の大きさに応じて異なるが、その感度低下のパターンに応じてその感度低下を抑制するように、磁気抵抗素子の磁気抵抗部の密度を定めればよい。具体的には、隣接する磁石同士の間隙部の影響を極力小さくして、よりフラットな出力特性を得たい場合には磁石を同極性配置にすることが好ましい。一方、フラットな出力特性を多少犠牲にしたとしても、隣接する磁石同士の配置しやすさ等を求める場合には磁石を異極性配置にすることが好ましい。
【0045】
ここでは、磁気抵抗素子の感磁部の中央部の磁気抵抗部の密度の比率を変化させたときの磁気抵抗素子の感度特性の変化を示す。図13は、磁気抵抗素子の感磁部の中央部の磁気抵抗部の密度の比率を変化させたときの磁気センサの出力電圧変動率の変化について示す図である。図13において、横軸は磁気センサの長手方向(検知幅方向)の位置であり、横軸の0は所定の磁気抵抗素子の中央(隣接する磁石同士の間隙部の中央となる位置)である。なお、ここでは磁石間に間隙を設けずに、磁気抵抗部の密度の違いによる差を確認した。図13の縦軸のセンサ出力電圧変動率は、磁気センサを接続した検出回路の出力電圧の変動率である。具体的には、例えば磁気抵抗素子に含まれる二つの感磁部を抵抗ブリッジ回路に接続し、被検知対象である磁性体の通過前後での前記抵抗ブリッジ回路の出力電圧の変動率に相当する。
【0046】
図13に示した磁気抵抗素子の感度特性A〜Dと磁気抵抗素子の感磁部の中央部の磁気抵抗部の密度の比率との関係と測定条件は次のとおりである。なお、磁気センサとしては、図8に示される磁気抵抗素子を用い、磁石は同極性配置とした。また、磁気抵抗部の密度は、磁気抵抗素子の中央部幅Wcに位置するミアンダライン状のパターンの数を他の領域に比べて増やすことによって変化させた。
【0047】
検出対象:幅1mmの磁性インク
磁気抵抗素子の検出幅Wt:10mm
磁気抵抗素子の中央部幅Wc:1mm
検出幅Wtに対する中央部幅Wcの磁気抵抗部の存在割合
特性A:10%
特性B:13%
特性C:15%
特性D:20%
図13から明らかなように、この例では、磁石を同極性配置し、且つ磁石間の間隙を無くしているので、感度特性Aのように感磁部の中央での感度低下はもともと小さいが、磁気抵抗素子の感磁部の中央部の磁気抵抗部の密度の比率を高めるほど、感磁部の中央部での感度増大効果が高まることがわかる。
【0048】
《第4の実施形態》
図14(A)は第4の実施形態に係る磁気抵抗素子204の平面図、図14(B)はその磁気抵抗素子204の素子感度特性を示す図である。磁気抵抗素子204は二列の感磁部20を備えている。感磁部の両端は引出電極23に接続されている。
【0049】
第4の実施形態では、図14(A)に示すように、感磁部20の長手方向中央から両端にかけて磁気抵抗部の密度を次第に高くしている。すなわち隣接する磁気抵抗素子の感磁部同士の間隙部の付近に位置する磁気抵抗部の密度を高くしている。そのため、図14(B)に表れているように、感磁部20の中央部分から両端部分にかけて素子感度が次第に高くなる素子感度特性が得られる。そのため、隣接する磁気抵抗素子の間隙部付近での出力感度低下Ds(図7(A)参照。)を緩和できる。なお、「隣接する磁気抵抗素子の間隙部付近」とは、隣接する磁気抵抗素子の間隙部の周辺領域を意図しており、実質的には磁気抵抗素子の端部分の領域を示すものである。
【0050】
図15(A)は長尺型磁気センサの出力感度特性を示す図、図15(B)は長尺型磁気センサの磁気抵抗素子の感磁部20と磁石5b,5cとの位置関係を示す図である。図15(C)は長尺型磁気センサ304の主要部の部分平面図であり、紙幣などの被検知物100に印刷されている磁性体101の通過位置の例を示している。図15(A)において、破線は従来構造の長尺型磁気センサの特性、実線は第5の実施形態に係る長尺型磁気センサの特性である。磁気抵抗素子の感磁部20の両端、且つ隣接する磁石同士の間隙部となる位置、での感度低下Dsは従来構造のものに比べて小さい。
【0051】
第4の実施形態によれば、磁気抵抗素子204を配列した状態で、隣接する磁気抵抗素子204の感磁部20同士の間隙部の付近に位置する磁気抵抗部の密度が高くなることによって、磁気抵抗部の密度が高い領域のセンサ出力感度が上昇する。そのため、隣接する感磁部20同士の間隙部となる位置での磁気センサ304としての出力感度低下Dsを緩和できる。
【0052】
《第5の実施形態》
図16(A)は第5の実施形態に係る磁気抵抗素子205の平面図、図16(B)はその磁気抵抗素子205の素子感度特性を示す図である。磁気抵抗素子205は二列の感磁部20を備えている。感磁部の両端は引出電極23に接続されている。
【0053】
第5の実施形態では、図16(A)に示すように、感磁部20の長手方向中央部分の磁気抵抗部21の密度をその他の領域の密度に比べて高くした上、感磁部20の中央から両端にかけて磁気抵抗部の密度を次第に高くしている。すなわち、隣接する磁石の上に位置する磁気抵抗素子205の磁気抵抗部21の密度を、その他の領域と比べて相対的に高くしつつ、隣接する磁気抵抗素子205の感磁部同士の間隙部の付近に位置する磁気抵抗部の密度を高くしている。そのため、図16(B)に表れているように、感磁部20の中央部分、及び中央部分から両端部分にかけて素子感度が次第に高くなる素子感度特性が得られる。そのため、磁気センサ同士の隣接位置での出力感度低下Ds(図7(A)参照。)および隣接する磁石同士の間隙部での磁気センサとしての出力感度低下Dm(図7(A)参照。)を緩和できる。
【0054】
《第6の実施形態》
第6の実施形態では、磁気抵抗素子の感磁部のうちの磁気抵抗部の密度を長手方向の位置で異ならせるための別の構造(第1〜第5の実施形態で示したものとは異なる構造)を示す。
【0055】
図17は、第6の実施形態の磁気抵抗素子206の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンをそれぞれ示す図である。磁気抵抗素子206は二列の感磁部20を備えている。感磁部20の両端は引出電極23に接続されている。
【0056】
図17の例では、感磁部20は、ミアンダライン状に形成された磁気抵抗層と、この磁気抵抗層上に形成されたショートバー(電極)22とで構成されている。ショートバー22が存在しない箇所は磁気抵抗部21である。この例では、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気抵抗部21の密度が高い。そのため、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気センサの感度が高くなる。
【0057】
《第7の実施形態》
第7の実施形態では、磁気抵抗素子の感磁部のうちの磁気抵抗部の密度を長手方向の位置で異ならせるためのさらに別の構造を示す。
【0058】
図18は、第7の実施形態の磁気抵抗素子207の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンをそれぞれ示す図である。磁気抵抗素子207は二列の感磁部20を備えている。感磁部20の両端は引出電極23に接続されている。
【0059】
図18の例では、感磁部20は、ミアンダライン状に形成された磁気抵抗層と、この磁気抵抗層上に形成されたショートバー22とで構成されている。この例では、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気抵抗層の線幅が太い。そのため、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気センサの出力感度が高くなる。
【0060】
《第8の実施形態》
第8の実施形態では、磁気抵抗素子の感磁部のうちの磁気抵抗部の密度を長手方向の位置で異ならせるためのさらに別の構造を示す。
【0061】
図19は、第8の実施形態の磁気抵抗素子208の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンをそれぞれ示す図である。磁気抵抗素子208は二列の感磁部20を備えている。感磁部20の両端は引出電極23に接続されている。
【0062】
図19の例では、感磁部20は、直線状に形成された磁気抵抗層と、この磁気抵抗層上に形成されたショートバー22とで構成されている。この例では、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気抵抗部の密度が高い。そのため、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気センサの出力感度が高くなる。
【0063】
《第9の実施形態》
第9の実施形態では、磁気抵抗素子の感磁部のうちの磁気抵抗部の密度を長手方向の位置で異ならせるためのさらに別の構造を示す。
【0064】
図20は、第9の実施形態の磁気抵抗素子209の感磁部形成面の磁気抵抗部および電極のパターンをそれぞれ示す図である。磁気抵抗素子209は二列の感磁部20を備えている。感磁部20の両端は引出電極23に接続されている。
【0065】
図20の例では、感磁部20は、線状に形成された磁気抵抗層と、この磁気抵抗層上に形成されたショートバー22とで構成されている。この例では、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気抵抗層の線幅が太い。そのため、感磁部20の長手方向での中央ほど磁気センサの出力感度が高くなる。
【符号の説明】
【0066】
1…ケース
3…爪部係合溝
4…カバー
5a,5b,5c…磁石
6…端子ピン
11…カバー端子
20…感磁部
20a…感磁部
20ab…感磁部
20bc…感磁部
21…磁気抵抗部
21L…磁気抵抗層
22…ショートバー
23…引出電極
100…被検知物
101…磁性体
201,202,204〜209…磁気抵抗素子
301,304…長尺型磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知物の移動方向に対して直交する方向を長手方向とする感磁部を表面に形成した複数の磁気抵抗素子と、該磁気抵抗素子の感磁部に対して磁界を印加する複数の磁石とを有し、
前記複数の磁気抵抗素子の感磁部および前記複数の磁石は、被検知物の移動方向に対して直交する直線に沿ってそれぞれ配列され、
前記磁気抵抗素子は、前記感磁部における磁気抵抗部の密度が、隣接する前記磁石同士の間隙部上または隣接する前記磁気抵抗素子の間隙部付近で相対的に高い、もしくは隣接する前記磁石同士の間隙部上および隣接する前記磁気抵抗素子の間隙部付近で相対的に高いことを特徴とする長尺型磁気センサ。
【請求項2】
前記磁気抵抗素子は、前記複数の磁石のうち隣接する磁石同士を橋渡しする位置関係で配置された、請求項1に記載の長尺型磁気センサ。
【請求項3】
前記磁気抵抗素子は、長手方向の両端部での前記感磁部における前記磁気抵抗部の密度が相対的に高い、請求項1または2に記載の長尺型磁気センサ。
【請求項4】
前記複数の磁石は、前記複数の磁気抵抗素子の感磁部に対する磁極の向きが、隣接する磁石同士で互いに逆となるように配置された、請求項1〜3のいずれかに記載の長尺型磁気センサ。
【請求項5】
前記複数の磁石は、前記複数の磁気抵抗素子の感磁部に対する磁極の向きが同一となるように配置された、請求項1〜3のいずれかに記載の長尺型磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−93342(P2012−93342A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176464(P2011−176464)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】