説明

長尺鋳塊の溶解製造方法

【課題】CCIM法を用いて、健全な長尺の鋳塊を安定して製造することができる長尺鋳塊の溶解製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】溶湯4を芯金用鋳型9に注湯して軸状の芯金鋳塊1を作製する第一工程と、溶湯4を棒状原料鋳型10内に立設した芯金鋳塊1の周囲に複数回に分けて注湯することで棒状原料2を作製する第二工程と、るつぼ底6が上下方向に移動自在に形成された水冷銅製るつぼ5内に棒状原料2を装入して誘導加熱で溶解し下方に引き抜くことで、その引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の長尺鋳塊3を製造する第三工程とよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法で、Ti(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Cr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mn(マンガン)、Re(レニウム)、Fe(鉄)、Ni(ニッケル)、Co(コバルト)、Y(イットリウム)、及び希土類元素などの、活性で比較的高融点である金属材料を含有する合金で成る長尺の鋳塊を製造する長尺鋳塊の溶解製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ni、Co、Y及び希土類元素などの、活性で比較的高融点である金属材料を含有する合金で成る鋳塊の製造には、現在、工業的には、真空アーク溶解法、プラズマアーク溶解法、電子ビーム溶解法などが採用されている。これらの溶解法は、溶解原料の全量を一括して溶解せずに、少量ずつ供給して溶解を行い、形成される溶融金属浴を下側から順次凝固させて鋳塊を製造することを特徴としている。しかしながら、これらの溶解方法は、溶湯の攪拌力が小さく、合金成分の不均一が起こりやすいという課題も併せ持っている。
【0003】
これに対し、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法は、溶解原料を一括で全量溶解して合金化した後に、凝固させて鋳塊を製造する方法である。この溶解方法であれば、合金成分の不均一を発生することなく均質な鋳塊を製造することができると考えられるが、CCIM法によって鋳塊を製造する技術自体は、現状ではまだ開発途上の段階で、実用化が進んでいないのが現状である。
【0004】
発明者らは、コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)技術に関する継続的な研究開発を進めており、既に、特許文献1、特許文献2、特許文献3等として、その研究開発成果をもとに提案を行っている。
【0005】
CCIM法の特徴は、水冷銅るつぼを用いて、誘導融解を実施することにあり、一般的な誘導溶解法のような耐火物るつぼを用いる方法では、形成された溶湯プールがるつぼ耐火物と接触して、耐火物からの汚染が発生するという問題があるのに対し、汚染発生の問題を回避できることが大きな特徴となっている。
【0006】
このため、通常の耐火物るつぼ誘導融解では、酸素ピックアップなどの汚染問題が発生するTi、Zrなどの活性な金属元素を多量に含有する合金でも、CCIM法では、汚染を発生することなく溶解することが可能となる。また、CCIM法では、誘導加熱に伴う電磁気力によって、溶湯プールを強攪拌できるため、合金元素の溶解が容易であり、活性で高融点の金属元素を含有する合金の溶解製造に適している。更には、通常の耐火物るつぼを用いた誘導融解では、るつぼ材が溶損されるため、適用が困難であったフッ化物、塩化物を多量に含有する精錬材などの併用も、CCIM法では可能になり、また、超高純度なFe、Ni、Coなどの比較的高融点である金属材料の不純物除去溶解も可能になる。
【0007】
以上のように、CCIM法は鋳塊の製造方法として非常に優れた方法であると考えられるが、現在、CCIM法により鋳塊を製造する場合は、水冷銅るつぼ内で形成した溶湯プールに精錬などを施した後、水冷銅るつぼ自体を傾けて溶湯プールを出湯させ、鋳型内に注入してそこで凝固させて鋳塊を製造する方法が、一般的に採用されていた。また、水冷銅るつぼ内でそのまま溶湯プールを凝固させる方法も採用されていた。しかしながら、これらの方法では、比較的小型の鋳塊しか製造することができず、大型の鋳塊を溶解製造した場合、鋳塊中に凝固欠陥が発生することがあって、鋳塊の大型化、実用化といった見地から幾つかの課題が残されていた。
【0008】
大型の鋳塊を溶解製造するためには、当然のことではあるが、大型の水冷銅るつぼを用いる必要がある。そのためには、大型水冷銅るつぼ内に溶湯プールを形成するための様々な条件を決定する必要があるが、特許文献1には、大型水冷銅るつぼに適用する高周波電源の周波数などに関する溶解条件が記載されている。
【0009】
しかしながら、大型の鋳塊を、凝固欠陥を発生させることなく溶解鋳造する技術については、未だに開発途上の段階にある。特に、多成分系合金や、金属間化合物を多量に含有する合金などでは、鋳塊中の凝固欠陥が少ない鋳塊を製造することが条件となるが、現在の技術では十分といえないのが現状である。
【0010】
本発明者らは、これら従来の問題を解決すべく、CCIM法で、活性高融点金属を含む合金原料を供給しつつ、水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に引き抜くことで、溶解鋳造の操業条件を最適化することにより、溶解原料などの溶け残りのない健全な大型の鋳塊を製造する方法について、特許文献2や特許文献3記載の活性高融点金属含有合金の長尺鋳塊の製造法として提案している。
【0011】
確かに、特許文献2記載の活性高融点金属含有合金の長尺鋳塊の製造法は、溶解原料などの溶け残りのない健全な大型の鋳塊を製造できる優れた方法といえる。しかしながら、溶湯プールに固体の塊状、粒状などの溶解原料を直接装入するため、それら溶解原料を装入した際に一部の溶解原料が凝固界面に捕獲されて溶け残る可能性もあり、その溶け残り領域が鋳塊の欠陥部となることが考えられ、確実に欠陥のない鋳塊を製造するには、まだ課題が残る技術でもあった。
【0012】
一方、特許文献3記載の活性高融点金属含有合金の長尺鋳塊の製造法は、特許文献2記載の技術を改善した技術であり、溶湯プールに溶融状態の溶解原料を供給しつつ、鋳塊の引き抜きを行うことで、固体装入原料の凝固界面での溶け残り問題を大幅に改良することができた優れた技術であるといえる。
【0013】
しかしながら、比較的小さな長尺鋳塊を、るつぼ傾動鋳造法によって金型内で凝固させて製造し、これらを複数本組み合わせて棒状の溶解原料として水冷るつぼ内に装入するこの方法で棒状の溶解原料を作製した場合、長尺鋳塊が凝固する際に曲がり変形することがしばしばあり、それを組み合わせた棒状の溶解原料に隙間が形成されることがある。この隙間が形成された棒状の溶解原料を用いた場合、溶解時に流動する溶湯が棒状の溶解原料に当たった衝撃で、その隙間から水冷銅るつぼの内壁に向かってスプラッシュが飛散することとなり、鋳塊の鋳肌を劣化させるという問題が発生することが考えられる。
【0014】
また、長尺鋳塊の曲がり変形によって、棒状の溶解原料が水冷銅るつぼの内壁に接触する事態が発生する可能性が考えられ、そのような状況になると、接触部が先に冷却されることとなり、その接触部で凝固シェルが形成されて、鋳塊と棒状の溶解原料が溶着されることが懸念され、鋳塊の引き抜き作業に影響を及ぼす可能性もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平11−310833号公報
【特許文献2】特開2006−122920号公報
【特許文献3】特開2006−281291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記従来の問題を解消せんとしてなされたもので、引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の大型の長尺鋳塊を、溶解原料が溶け残りとして残留することなく、また、製造途中の棒状原料が落下するおそれもなく、更には、製造途中の棒状原料の変形を抑制することができ、表面欠陥等の鋳造欠陥の発生を抑制することができる長尺鋳塊の溶解製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、所定の合金組成に配合した活性高融点金属含有合金でなる溶解原料を水冷銅製るつぼ内に装入して、誘導加熱で溶解して溶湯とし、その溶湯を芯金用鋳型に注湯して軸状の芯金鋳塊を作製する第一工程と、前記第一工程で作製した芯金鋳塊を棒状原料鋳型内の中心部に立設すると共に、所定の合金組成に配合した活性高融点金属含有合金でなる溶解原料を水冷銅製るつぼ内に装入して、誘導加熱で溶解して溶湯とし、その溶湯を前記棒状原料鋳型内の前記芯金鋳塊の周囲の空間に注湯する操作を複数回に分けて行い、棒状原料を作製する第二工程と、前記第二工程で作製した棒状原料を、前記棒状原料鋳型よりも内径が大きく、且つ、るつぼ底が上下方向に移動自在に形成された水冷銅製るつぼ内に、上方から装入して、前記水冷銅製るつぼの周囲を取り巻く高周波コイルによる誘導加熱で、前記棒状原料をその下部から順次溶解して溶湯プールとすると共に、前記水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に移動させることにより、そのるつぼ底上に形成された前記溶湯プールを前記高周波コイルによる誘導加熱領域外に引き抜いて下部から順次凝固させて、その引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の長尺鋳塊を製造する第三工程とよりなることを特徴とする長尺鋳塊の溶解製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の請求項1記載の長尺鋳塊の溶解製造方法によると、溶解原料を溶湯の状態で注湯するため、溶解原料が溶け残りとして残留することなく、引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の大型の長尺鋳塊を製造することができる。また、軸状の芯金鋳塊を棒状原料の中心部に通すため、製造途中の棒状原料が落下するおそれがなく、更には、芯金鋳塊の存在により製造途中の棒状原料の変形を抑制することができ、得られる長尺鋳塊に表面欠陥等の鋳造欠陥が発生することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので、第一工程で溶湯を注湯している状態を示す縦断面図である。
【図2】本発明の一実施形態を示すもので、第二工程で最後の溶湯を注湯している状態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態を示すもので、第三工程で長尺鋳塊を製造している状態を示す縦断面図である。
【図4】第三工程で用いられる水冷銅製るつぼを示す縦断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
コールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法は、合金成分の不均一を発生することなく均質な鋳塊を製造することができる有効な方法であり、しかも、酸素ピックアップなどの汚染問題が発生するTi、Zrなどの活性な金属元素を多量に含有する合金でも、汚染を発生することなく溶解することが可能であり、また、超高純度なFe、Ni、Coなどの比較的高融点である金属材料の不純物除去溶解も可能であるといった様々な特長点を有する。
【0021】
本発明者らは、これら様々な特長点を有するコールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)法を、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ni、Co、Y及び希土類元素などの、活性で比較的高融点である金属材料を含有する合金で成る鋳塊の溶解製造で実用化することを目的に、鋭意、実験、研究を進めた。
【0022】
その結果、活性高融点金属を含む合金原料を供給しつつ、水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に引き抜くことで、溶解鋳造の操業条件を最適化することにより、成分偏析や引け巣がなく、均質な組成の活性高融点金属を含有した長尺鋳塊を溶解製造することが可能なことが分かり特許文献2として出願した。
【0023】
しかしながら、溶湯プールに固体の塊状、粒状などの溶解原料を装入した際に、その溶解原料が大きすぎたり、また、溶解時間が短すぎたりした場合は、一部の溶解原料が凝固界面に捕獲されて溶け残る可能性があり、その溶け残り領域が鋳塊の欠陥部となることも懸念されるため、更に、実験、研究を進めることとした。
【0024】
その結果、所定配合の溶解原料を溶融状態で水冷銅製るつぼ内に供給することで、溶解原料の溶け残りを全くなくすることができることが分かり特許文献3として出願した。
【0025】
しかしながら、この方法では、溶解原料を溶融状態で水冷銅製るつぼ内に供給する必要があり、溶融状態の溶解原料を準備すること自体に非常に手間を要した。具体的には、棒状の溶解原料を上方から装入し、先端部から逐次溶解することで溶融状態の溶解原料を供給するのであるが、溶解原料としては、複数本の小型の長尺鋳塊を束ねたものが棒状の溶解原料として用いられており、その事前準備に非常に手間を要していた。
【0026】
また、このような構成の棒状の溶解原料を用いることで長尺鋳塊を溶解製造すると、背景技術の欄でも説明したように、鋳塊表面に鋳造欠陥が生じる等の新たな問題を発生する可能性も懸念された。
【0027】
そこで、以上の問題をすべて解決することができる長尺鋳塊の溶解製造方法を発明するために、本発明者らは、更に、実験、研究を進めた。その結果、まず、溶解原料を用いて軸状の芯金鋳塊を作製し、その芯金鋳塊を中心部に配した棒状原料鋳型の中に同じ成分組成の溶解原料を複数回に分けて注湯することで棒状原料を作製し、その棒状原料を用いて、水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に引き抜く方法を用いたコールドクルーシブル誘導溶解(CCIM)を実施することで、溶解原料が溶け残りとして残留することなく、また、製造途中の棒状原料が分離落下するおそれもなく、更には、製造途中の棒状原料の変形を抑制することができ、表面欠陥等の鋳造欠陥が発生することを確実に抑制して、健全な長尺の鋳塊を安定して製造できることが分かり、本発明の完成に至った。
【0028】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0029】
本発明の長尺鋳塊の溶解製造方法は、図1に示すように、溶湯4を芯金用鋳型9に注湯して軸状の芯金鋳塊1を作製する第一工程と、図2に示すように、溶湯4を棒状原料鋳型10内に立設した芯金鋳塊1の周囲に複数回に分けて注湯することで棒状原料2を作製する第二工程と、図3に示すように、るつぼ底6が上下方向に移動自在に形成された水冷銅製るつぼ5内に棒状原料2を装入して誘導加熱で溶解し下方に引き抜くことで、その引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の長尺鋳塊3を製造する第三工程とよりなる。
【0030】
以下、本発明の長尺鋳塊の溶解製造方法を、第一工程、第二工程、第三工程に分けて工程毎に夫々更に詳細に説明するが、各工程を説明する前に、それら各工程で用いられる水冷銅製るつぼ5,8について説明する。
【0031】
第三工程で用いる水冷銅製るつぼ5は、図4に示すように、複数本の銅製セグメント12を円筒状に組み合わせて構成されており、底部には円形で銅製のるつぼ底6が配置されている。各銅製セグメント12の間には、夫々0.05〜2mmのスリットが設けられており、それらスリットには、電気的絶縁のため、イットリア(Y)系セメント、或いはアルミナ(Al)系セメント等の絶縁材が埋め込まれている。高周波コイル7は、水冷銅製るつぼ5の周囲をその上下端をある程度残し、螺旋状に取り巻くように水冷銅製るつぼ5の表面より僅かに離れて設けられており、大出力の高周波電源13に接続されている。銅製セグメント12、るつぼ底6、高周波コイル7は夫々中空状であり、中空内部には冷却水が注入されている。るつぼ底6は、下方のシリンダ等の引き抜き機構14に連結されて上下方向に移動自在に構成されており、水冷銅製るつぼ5の銅製セグメント12で成る円筒状の本体から下方に引き抜くように移動させることができる。
【0032】
また、特に詳細には図示しないが、第一工程および第二工程で用いる水冷銅製るつぼ8も、複数本の銅製セグメント12を円筒状に組み合わせて構成されており、各銅製セグメント12の間には、夫々0.05〜2mmのスリットが設けられ、それらスリットには、電気的絶縁のため、イットリア(Y)系セメント、或いはアルミナ(Al)系セメント等の絶縁材が埋め込まれている。また、高周波コイル7が、水冷銅製るつぼ8の周囲を螺旋状に取り巻くように水冷銅製るつぼ8の表面より僅かに離れて設けられており、大出力の高周波電源13に接続されている。また、銅製セグメント12、るつぼ底6、高周波コイル7は夫々中空状であり、中空内部には冷却水が注入されている。この水冷銅製るつぼ8が、第三工程で用いる水冷銅製るつぼ5と大きく異なるのは、るつぼ底6が銅製セグメント12と固定されていることである。尚、第一工程および第二工程で用いる水冷銅製るつぼ8は、共通のるつぼであっても別のるつぼであっても構わない。
【0033】
まず、図1に示す第一工程では溶解原料を準備する。この溶解原料は、所定の合金組成に配合した塊状、粒状、粉状の活性高融点金属含有合金でなる固形の溶解原料であり、これらの形態のうち少なくとも1種類の形態の溶解原料であれば良く、入手は極めて容易である。最初にこの溶解原料を、るつぼ底6が固定された水冷銅製るつぼ8内に装入する。
【0034】
溶解原料を水冷銅製るつぼ8内に装入した後、高周波コイル3に高周波電流を通電することにより、その溶解原料を誘導加熱で溶解して溶湯4とする。次に、溶解原料が全て溶湯4となった状態で水冷銅製るつぼ8を傾けて、その溶湯4を、長尺軸状の空間が形成された上下に長い芯金用鋳型9内に注湯することで、芯金用鋳型9内で冷却された溶湯4は、軸状の芯金鋳塊1となる。
【0035】
次に、図2に示す第二工程では、第一工程で作製した軸状の芯金鋳塊1を、棒状原料鋳型10内の中心部に立設する。この棒状原料鋳型10内の空間は、例えば円柱状の空間であり、芯金用鋳型9の長尺軸状の空間より大径である。尚、棒状原料鋳型10内の中心部とは必ずしも棒状原料鋳型10内の中心軸上の位置でなくても良く、棒状原料鋳型10内の略中央位置であれば多少中心軸からずれた位置であっても構わない。
【0036】
これと相前後して、棒状原料鋳型10内の中心部に立設した芯金鋳塊1の周囲の空間に注湯する溶湯4とする溶解原料を準備する。この溶解原料は、第一工程で準備した溶解原料と全く同じ成分組成のものであり、所定の合金組成に配合した塊状、粒状、粉状の活性高融点金属含有合金でなる固形の溶解原料である。この溶解原料を第一工程と同様に、るつぼ底6が固定された水冷銅製るつぼ8内に装入する。
【0037】
溶解原料を水冷銅製るつぼ8内に装入した後、高周波コイル3に高周波電流を通電することにより、その溶解原料を誘導加熱で溶解し溶湯4とする。次に、溶解原料が全て溶湯4となった状態で水冷銅製るつぼ8を傾けて、その溶湯4を棒状原料鋳型10内に立設した芯金鋳塊1の周囲の空間に注湯する。溶解原料を溶解して溶湯4とする水冷銅製るつぼ8の容量は限界があるため、この操作は複数回に分けて繰り返すこととなる。例えば、図2に示す棒状原料鋳型10を用いた場合は、水冷銅製るつぼ8を用いた溶解原料の溶解、注湯は5度繰り返すこととなる。
【0038】
この棒状原料鋳型10内への注湯を終了した溶湯4は、棒状原料鋳型10内で順次冷却され棒状原料2となる。この棒状原料2は、その中心部に芯金鋳塊1が通った上下複数層の鋳塊が組み合わされたような構造となる。このように中心部に芯金鋳塊1を通した構造の棒状原料2とすることで、次の第三工程で、吊り下げ機構14に吊り下げた状態として上方より水冷銅製るつぼ5内に装入しても、棒状原料2がチャージ界面(各層の間)で分断して落下したり、変形したりすることがなくなる。
【0039】
次に、図3に示す第三工程では、第二工程で作製した棒状原料2を、第二工程で用いた棒状原料鋳型10よりも内径が大きく、且つるつぼ底6が上下に移動自在に構成された水冷銅製るつぼ5内に、上方から装入する。
【0040】
この水冷銅製るつぼ5の内径は、棒状原料鋳型10の内径より10mm以上大きいことが望ましい。内径が10mm未満の差であると、上方からの溶湯プール11の観察が困難となり、棒状原料2が水冷銅製るつぼ5の内壁と接触して、溶湯プール11に凝固スカルが形成されて、棒状原料2と下方の凝固鋳塊が溶着する事態となっても、状況が把握できないためである。そのため、少なくとも10mmの隙間を形成することで、溶湯プール11の外周部を観察できるようにしておく必要がある。尚、この水冷銅製るつぼ5の内径は、棒状原料鋳型10の内径より20mm以上大きいことがより望ましく、30mm以上大きいことが更に望ましい。
【0041】
第三工程では、第二工程で作製した棒状原料2を上下反転して用いることが望ましい。その理由は、棒状原料2の最終凝固部、すなわち、その上端部では合金元素の濃化偏析が発生する可能性があるが、棒状原料2を上下反転させることで、その部位を最初に溶解する下端部とすることができ、第三工程で、その下端部で通常発生する合金元素の希釈偏析を緩和する効果が期待できるためである。尚、棒状原料2はこのように上下反転して用いることが望ましいが、必ずしも上下反転させる必要はない。
【0042】
第三工程では、まず、第二工程で作製した棒状原料2を上下反転して、真空チャンバー(図示せず)の上部に設けた吊り下げ機構15に吊り下げた状態とする。この状態で、図4に示すように、その水冷銅製るつぼ5内に、棒状原料2の一部を切り出す等で準備した初期の溶解原料16を装入する。次に、高周波コイル7に高周波電流を通電することにより、その高周波コイル7による誘導発熱領域にある初期の溶解原料16を誘導加熱で溶解する。溶解された初期の溶解原料16は、初期の溶湯プール11を形成する。
【0043】
初期の溶湯プール11が形成された状態で、棒状原料2の装入を開始する。更に、るつぼ底6を引き抜き機構14により徐々に下方に引き下げれば、るつぼ底6上の溶湯プール11は、高周波コイル7による誘導発熱領域から徐々に下方に抜き出されることとなり、その下方から凝固を開始する。尚、溶湯プール11のうち水冷銅製るつぼ5の内壁面に接触した外表面から、水冷により事前に凝固を開始して凝固層となるため、溶湯プール11は下方に抜き出しても流れ出すことはない。
【0044】
溶湯プール11を徐々に下方に引き抜くにつれて、水冷銅製るつぼ5内の溶湯プール11の量が減少するため、その引き抜き量と見合う量の棒状原料2を高周波コイル7による誘導発熱領域に上方より徐々に追加供給して溶解することにより、溶湯プール11の量を常に一定に保つことができる。この引き抜きによって凝固した鋳塊が、その引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の目的とした長尺鋳塊3となる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0046】
本実施例では、CCIM法で、活性高融点金属を含む合金原料を供給しつつ、水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に引き抜くことで長尺鋳塊を溶解製造する比較試験を実施した。
【0047】
比較例1では、塊状、粒状などの溶解原料を複数回に分けて水冷銅製るつぼに直接装入し、るつぼ底を下方に引き抜く方法で長尺鋳塊を製造した。また、比較例2では、溶解原料を予めるつぼ底が固定された水冷銅製るつぼで溶解した後、その溶湯を長尺鋳型に注湯し、細長い鋳塊を溶製した。この操作を引抜き鋳塊のサイズに見合う回数だけ繰り返し行い、溶製した鋳塊を束ねて棒状原料鋳塊とした。その棒状原料を水冷銅製るつぼ内でその下部から順次溶解し、るつぼ底を下方に引き抜く方法で長尺鋳塊を溶解製造した。
【0048】
これに対し、発明例では、第一工程と第二工程により、予め中心部に芯金鋳塊が通った上下複数層の鋳塊が組み合わされたような構造の棒状原料を作製し、その棒状原料を水冷銅製るつぼ内でその下部から順次溶解し、るつぼ底を下方に引き抜く本発明の方法で長尺鋳塊を製造した。
【0049】
所定の合金組成に配合した溶解原料を用いて、発明例、比較例1,2の各方法で、Ti−30Al−13Cr−3V−4Mn合金(質量%)の長尺鋳塊を製造した。この長尺鋳塊のサイズは直径245mm×長さ600mmである。また、長尺鋳塊の製造に用いた溶解原料は、スクラップTi、粒状金属Al、金属Cr、塊状AlV母合金、塊状AlMn母合金である。
【0050】
また、使用したCCIM装置の高周波電源は、周波数:3kHz、出力:最大400Wの電源である。また、るつぼ底が固定された水冷銅製るつぼの内径はφ220mm、るつぼ底を下方に引き抜くことができる水冷銅製るつぼの内径はφ250mmであり、螺旋状に巻いた高周波コイルの巻数は、何れも7ターンである。また、何れの水冷銅製るつぼも、24本の銅製セグメントで構成された構造である。
【0051】
以下、発明例について詳細に説明するが、比較例1,2ともにこの発明例に準じた方法で長尺鋳塊を製造した。
【0052】
第一工程では、所定の合金組成に配合した溶解原料を秤量し、装入する溶解原料を25kgとした。この溶解原料をるつぼ底が固定された水冷銅製るつぼに装入し、真空チャンバー内で真空排気した後にArガス置換(600Torr=79.99kPa)したArガス雰囲気下で、溶解原料の溶解を実施した。水冷銅製るつぼでは、350kWの電力で溶湯を形成し、15分間保持後、出力300kWに調整した。その溶湯を、芯金用鋳型(内径75mm、長さ1200mm)に注湯し、冷却後、直径75mm×長さ1000mmの軸状の芯金鋳塊をその芯金用鋳型から取り出した。
【0053】
第二工程では、まず、第一工程で作製した直径75mm×長さ1000mm軸状の芯金鋳塊を、内径が190mmの棒状原料鋳型内の中心軸上に立設した。芯金鋳塊を立設した後、第一工程と同様の所定の合金組成に配合した溶解原料を秤量し、25kgの溶解原料を、るつぼ底が固定された水冷銅製るつぼ内に装入した。次いで、真空チャンバー内で真空排気した後にArガス置換(600Torr=79.99kPa)したArガス雰囲気下で、溶解原料の溶解を実施した。水冷銅製るつぼでは、330kWの電力で溶湯を形成し、15分間保持後、出力300kWに調整した。その溶湯を、棒状原料鋳型内の芯金鋳塊の周囲の空間に注湯した。
【0054】
次に、スカルが残留する前記水冷銅製るつぼ内に、18kgの溶解原料を秤量して、追加原料として装入した。水冷銅製るつぼでは、350kWの電力で溶湯を形成し、15分間保持後、出力300kWに調整した。その溶湯を、棒状原料鋳型内の芯金鋳塊の周囲の空間に追加注湯した。この追加注湯操作を4回繰り返して行い、冷却することで、直径190mm×長さ1200mmの棒状原料を作製し、取り出した。
【0055】
この棒状原料は、中心部に芯金鋳塊が通った上下複数層の鋳塊が組み合わされたような構造の棒状原料であり、芯金鋳塊に該当する部位が16kg、5回に分けて注湯した溶湯で形成された周囲の1〜5層目の各部位は夫々18kgであり、合計の質量が106kgである。
【0056】
第三工程では、初期の装入原料として、第二工程で得られた別の棒状原料から22kg分を切り出した。次に、るつぼ底を下方に引き抜くことができる水冷銅製るつぼのるつぼ底に、純Ti製スタブ(底盤)を装着し、その上に前記した初期の溶解原料22kgを装入した。長尺鋳塊の溶解製造は、真空排気した後にArガス置換(200Torr=26.66kPa)したArガス雰囲気下で実施した。まず、260kWの電力で溶湯プールを形成し、5分間保持後、出力190kWに調整した。次に、引張速度2mm/minで、20分間引き抜き(引抜長さ:40mm、引抜質量:4kg)を実施した後、引き抜きを停止した。
【0057】
引き抜き停止後、第二工程で得られた棒状原料(直径190mm×長さ1200mm)を上下反転して、溶湯プールの直上まで装入し予熱を行った。その後、棒状原料を下端から3.4mm/minの速度で、徐々に溶湯プールに装入し、電力を190kWに調整した。その棒状原料の装入に対応して、2mm/minの速度で鋳塊の引き抜きを実施して、棒状原料が殆ど溶解した時点で、残る一部の棒状原料を引き上げた。その後も連続して2mm/minの引抜速度で鋳塊の引き抜きを続行し、溶湯プールの表面が凝固してからも30分間、加熱と鋳塊の引き抜きを継続した後、電源をOFFし、鋳塊の引き抜きを停止した。停止後、翌日まで置いた後、直径245mm×長さ600mmの長尺鋳塊を取り出した。
【0058】
長尺鋳塊を溶解製造する本実施例における比較試験では、比較例1,2、並びに発明例の方法で、長尺鋳塊を溶解製造した際の溶解原料の溶け残りの状況、製造過程における棒状原料の変形状況を観察した。観察結果を表1にまとめて示す。
【0059】
【表1】

【0060】
尚、溶解チャージ数(溶解原料を装入、或いは溶湯を注湯する合計回数)は、比較例1,2、並びに発明例共に、全て6回とした。例えば、発明例では、第一工程で芯金鋳塊を作製するため溶湯を注湯する回数が1回、第二工程で溶湯を注湯する回数が5回の合計6回である。また、比較例1では棒状原料は作製せず、直接溶解原料を装入するため、棒状原料の変形状況の欄は「−」で示す。
【0061】
比較例1では、塊状、粒状などの固形の溶解原料を水冷銅製るつぼに直接装入したため、凝固界面に一部溶解原料が溶け残る結果となった。また、比較例2では、細長い鋳塊を複数本束ねた構造の棒状原料鋳塊を用いたため、その細長い鋳塊が凝固する際に曲がり変形していることがしばしばあり、それを束ねた棒状原料鋳塊には隙間が形成されていることがある。この隙間が形成された棒状原料鋳塊を用いた場合、溶解時に流動する溶湯が棒状の溶解原料に当たった衝撃で、その隙間から水冷銅製るつぼの内壁に向かってスプラッシュが飛散することとなり、鋳塊の鋳肌を劣化させるという問題がある。また、凝固シェルの成長やクビレの発生が認められた。
【0062】
一方、発明例では、溶解原料の溶け残り、製造過程での棒状原料の変形は全く認められなかった。
【符号の説明】
【0063】
1…芯金鋳塊
2…棒状原料
3…長尺鋳塊
4…溶湯
5…水冷銅製るつぼ
6…るつぼ底
7…高周波コイル
8…水冷銅製るつぼ
9…芯金用鋳型
10…棒状原料鋳型
11…溶湯プール
12…銅製セグメント
13…高周波電源
14…引き抜き機構
15…吊り下げ機構
16…初期の溶解原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の合金組成に配合した活性高融点金属含有合金でなる溶解原料を水冷銅製るつぼ内に装入して、誘導加熱で溶解して溶湯とし、その溶湯を芯金用鋳型に注湯して軸状の芯金鋳塊を作製する第一工程と、
前記第一工程で作製した芯金鋳塊を棒状原料鋳型内の中心部に立設すると共に、所定の合金組成に配合した活性高融点金属含有合金でなる溶解原料を水冷銅製るつぼ内に装入して、誘導加熱で溶解して溶湯とし、その溶湯を前記棒状原料鋳型内の前記芯金鋳塊の周囲の空間に注湯する操作を複数回に分けて行い、棒状原料を作製する第二工程と、
前記第二工程で作製した棒状原料を、前記棒状原料鋳型よりも内径が大きく、且つ、るつぼ底が上下方向に移動自在に形成された水冷銅製るつぼ内に、上方から装入して、前記水冷銅製るつぼの周囲を取り巻く高周波コイルによる誘導加熱で、前記棒状原料をその下部から順次溶解して溶湯プールとすると共に、前記水冷銅製るつぼのるつぼ底を下方に移動させることにより、そのるつぼ底上に形成された前記溶湯プールを前記高周波コイルによる誘導加熱領域外に引き抜いて下部から順次凝固させて、その引抜方向の長さが直径に対して1.5倍以上の長尺鋳塊を製造する第三工程とよりなることを特徴とする長尺鋳塊の溶解製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−230125(P2011−230125A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99690(P2010−99690)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】