説明

閉環メタセシスのための触媒

閉環メタセシスに使用され得る触媒組成物を提供する。組成物において、触媒はシリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化されている。組成物に使用するために適当な触媒は、Grubbsタイプの触媒またはHoveyda-Grubbsタイプの触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉環メタセシス(RCM)反応において使用され得る、触媒および担体を含む触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
閉環メタセシス(RCM)は、環式化合物を合成するために使用される。
【0003】
Grubbsおよび共同研究者が現在は明確に定義されたルテニウム触媒を報告して以来、RCMは環モチーフの生成において重要な役割を果たしてきた(例えば、Schwab, P.; France, M. B.; Ziller, J. W.; Grubbs, R. H. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 1995, 34, 2039参照)。Grubbs触媒およびHoveyda-Grubbs触媒には、様々な複素環式天然物、大環状式天然物、および他の重合体の合成を含む、広い利用範囲が明らかになってきた。しかしながら、製薬産業を含む産業は、まだ大規模製造においてRCMを広く採用していない。この理由には、ルテニウム含有化合物のコスト高、および比較的高い金属浸出が含まれる。
【0004】
数種類の担体上に、これらの均一な触媒錯体を固定化するための試みがなされてきた。多数のグループが、第一世代Grubbs触媒および第二世代Grubbs触媒の固定化に関して報告している(例えば、Seiders, T. J.; Ward, D. W.; Grubbs, R. H. Org. Lett. 2001, 3, 3225参照)。他のグループは、これらの触媒の再使用可能な改良形の固定化に関して報告している(例えば、Kingsbury, J. S.; Harrity, J. P. A. ; Bonitatebus, P. J.; Hoveyda, A. H. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 791;およびGessler, S.; Randl, S.; Blechert, S. Tetrahedron Lett. 2000, 41, 9973参照)。以下を使用した固定化技術が報告されている:可溶性重合体(例えば、Yao, Q. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2000, 39, 3896;およびYao, Q.; Motta, A. R. Tetrahedron Lett. 2004, 45, 2447参照);不溶性重合体(例えば、Barrett, A. G. M.; Camp, S. M.; Roberts, R. S. Org. Lett. 1999, 1, 1083; Nieczypor, P.; Buchowicz, W.; Meester, W. J. N.; Rutjes, F. P. J. T.; Mol, J. C. Tetrahedron Lett. 2001, 42, 7103; Akiyama, R.; Kobayashi, S. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2002, 41, 2602; Grela, K.; Tryznowski, M.; Bieniek, M. Tetrahedron Lett. 2002, 43, 9055; およびHalbach, T. S.; Mix, S.; Fischer, D.; Maechling, S.; Krause, J. 0.; Sievers, C.; Blechert, S.; Nuyken, 0.; Buchmeiser, M. R. J. Org. Chem. 2005, 70, 4687参照);モノリシックゲル(monolithic gel)(例えば、Kingsbury, J. S.; Garber, S. B.; Giftos, J. M.; Gray, B. L.; Okamoto, M. M.; Farrer, R. A.; Fourkas, J. T.; Hoveyda, A. H. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2001, 40, 4251参照);イオン性液体(例えば、Audic N.; Clavier, H.; Mauduit, M.; Guillemin, J. -C. J. Am. Chem. Soc. 2003, 125, 9248; およびYao, Q.; Zhang, Y. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2003, 42, 3395参照);フルオラス(fluorous)材料(例えば、Yao, Q.; Zhang, Y. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 74; およびMatsugi, M.; Curran, D. P. J. Org. Chem. 2005, 70, 1636参照);ならびにシリカ(例えば、Melis, K. ; Vos, D. D.; Jacobs, P.; Verpoort, F. J. Mol. Catal. A: Chem. 2001, 169, 47参照)。しかしながら、これらの方法によって得られた固定化触媒も通常、低反応性(例えば、拡散に関連した問題による)、再使用時の活性低下、さらなる精製の必要性などの欠点を有する。
【0005】
(a)ガラス型(例えば、Kingsbury, J. S.; Garber, S. B.; Giftos, J. M.; Gray, B. L.; Okamoto, M. M.; Farrer, R. A.; Fourkas, J. T.; Hoveyda, A. H. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2001, 40, 4251参照)ならびに(b)ワンポット官能性モノリス(one-pot functionalized monolith)(例えば、Sinner, F.; Buchmeiser, M. R. Macromolecules 2000, 33, 5777; およびMayr, M.; Mayr, B.; Buchmeiser, M. R. Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 2001, 40, 3839参照)による開環メタセシス重合(ROMP)も報告されている。ライブラリー生成への適用および再利用能の見掛け上の利点にもかかわらず、両方とも複雑な手順のようである。
【0006】
シリカゲル担持メタセシス触媒も、穏やかな反応条件、高い回転数および精製の容易さと共に報告されている(Fischer, D.; Blechert, S. Adv. Synth. Catal. 2005, 347, 1329参照)。しかしながら、単純な基質を含む反応でも、この触媒は十分に再利用されない。3回の実行で収率がたかだか68%であったと報告されている。
【0007】
一方で触媒のための担体としてのメソ多孔質(mesoporous)組成物の使用に関する報告もされている(例えば、US 6,544,923およびXiaohua Huang, Chem. Comm., 2007, DOI:10.1039/b615564参照)。
【0008】
例えば9〜22 nmの窓により連結された超大型のセル状の細孔(例えば、24〜42 nm)を備えた、三次元の相互に連結した細孔構造を有するシリカ含有メソ多孔性フォーム(mesocellular foam)(MCF)が調製されてきた(例えば、Schmidt-Winkel, P.; Lukens, W. W., Jr.; Zhao, D.; Yang, P.; Chmelka, B. F.; Stucky, G. D. J. Am. Chem. Soc. 1999, 121, 254; Schmidt-Winkel, P.; Lukens, W. W., Jr., Yang, P.; Margolese, D. I.; Lettow, J. S.; Ying, J. Y. ; Stucky, G. D. Chem. Mater. 2000, 12, 686; Lettow, J. S.; Han, Y. J.; Schmidt-Winkel, P.; Yang, P.; Zhao, D.; Stucky, G. D.; Ying, J. Y. Langmuir 2000, 16, 8291; Lettow, J. S.; Lancaster, T. M.; Glinka, C. J.; Ying, J. Y. Langmuir 2005, 21, 5738; および Yu, H.; Ying, J. Y. Angew. Chem. Int. Ed. 2005, 44, 288参照)。
【0009】
一般的に、公知の方法では、産業上の利用のために十分に効率的な不均化(heterogenized)触媒が生成されていない。これらの固定化触媒は、コスト高、乏しい環境適合性、および比較的乏しい触媒活性により、調製が一般的に困難であった。
【発明の開示】
【0010】
概要
本発明の1つの広範な局面によれば、シリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化されたルテニウム触媒を含む触媒組成物が提供される。1つの態様では、ルテニウム触媒は、Grubbs触媒またはHoveyda-Grubbs触媒である。
【0011】
本発明の別の態様によれば、シリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化された触媒

を含む触媒組成物が提供される。触媒組成物は、例えばカルバメート基またはシリル基を含む連結基を使用して、シリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化され得る。例示的態様では、カルバメート基またはシリル基は、例えばC1〜C6アルキル基などのアルキルスペーサーを介して、シリカ含有メソ多孔性フォーム担体に付着している。さらなる例示的態様では、カルバメートはメチルカルバメートであり、シリル基は1つまたは2つのメチル基によって置換されている。なおさらなる例示的態様では、連結基は-X-C(O)N(H)CH2CH2CH2-であって式中XがCH2OもしくはOであり、または連結基は-Si(CH3)2-[(C1〜C6)アルキル] n-であって式中nが0、1、2、3、4、5、もしくは6である。さらなる例示的態様では、連結基は、触媒

の2位に付着している。
【0012】
本発明の別の例示的態様では、シリカ含有メソ多孔性フォーム担体はトリメチルシリルを含む。さらなる態様では、シリカ含有メソ多孔性フォーム担体は、球状で単分散のシリカ含有メソ多孔性フォーム微粒子を含む。シリカ含有メソ多孔性フォーム担体は、約24nm〜約42nmの平均細孔径を有し得る。
【0013】
本発明による触媒組成物は、閉環メタセシス反応において使用され得る。別の発明態様では、触媒組成物は、さらなる閉環メタセシス反応における使用のために再利用される。
【0014】
さらに広範な局面では、本発明は、Grubbs触媒またはHoveyda-Grubbs触媒をシリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化する工程を含む、触媒組成物を調製するための方法を提供する。例示的態様では、触媒は、

である。
【0015】
詳細な説明
本発明の触媒組成物において、触媒はシリカ含有メソ多孔性フォーム(MCF)を含む固体担体上に固定化されている。1つの例示的態様では、球状で単分散のMCFが、例えばバッチ反応器および充填層反応器の利用に含まれる、RCM触媒のための担体として使用される。1つの態様では、細孔は、約24nm〜約42nmの平均直径を有し、約9nm〜約22nmの細孔の間の開いた 「窓」を有し得る。当業者にとって明白であるように、球状のMCF微粒子は、特定の利用のために、微細構造、細孔の大きさ、および界面化学に関して容易に改良できる。MCFの物理的特性および化学的特性により、この材料を実験室規模および製造規模の両方で容易に取り扱うことができる。
【0016】
本発明の不均化触媒は、閉環メタセシス(RCM)のために使用され得る。本発明により得られた触媒組成物は、例えば薬剤候補および食品の大規模生産、ならびに精製化学製品および特殊化学製品の大規模合成などの化学産業および製薬産業に有益となり得る。本発明の触媒組成物は、出発材料を含有するジエンの閉環のためを含む、穏やかな反応条件下で、幅広い種類の基質に対して使用され得る。
【0017】
MCF上に固定化された触媒は、特に制限されない。RCM反応のために、Grubbsタイプの触媒またはHoveyda-Grubbsタイプの触媒のようなルテニウム含有触媒が使用され得る。Hoveyda-Grubbs触媒は、下記一般構造

を有し、式中、Pはプラチナ、Cyはシクロヘキシル、Mesはメシチルである。これらの触媒の適当な誘導体も、本発明の意図の範囲内である。
【0018】
ルテニウムリガンドは、Hoveydaタイプのリガンドを含む適当な連結基を使用して担体上に固定化され得るが、それに限定されるわけではない。
【0019】
他の触媒および連結基の非限定例は、本明細書において詳細に記されている。
【0020】
本発明の触媒組成物は、様々な種類の基質のRCMに適した活性および再利用性を示すことを確認した。
【0021】
本発明の1つの例示的態様では、固体担体としてMCFを使用した固定化第二世代Hoveyda-Grubbs触媒が得られた。イソプロポキシスチレンリガンドは、MCF担体の固体表面上に固着された。触媒4aおよび4bの固定化をスキーム1に図示する。

【0022】
スキーム1の反応条件:
(a)1.05当量の3-イソシアノプロピルトリエトキシシラン、0.01当量の4-ジメチルアミノピリジン、3当量のトリエチルアミン、ジクロロメタン(DCM)、45℃、93〜95%。
(b)部分的にトリメチルシリル(TMS)でキャップしたMCF、トルエン、100℃;ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、80℃、95〜99%。
(c)1.05当量の第二世代Grubbs触媒、1.05当量のCuCl、DCM、50℃、90〜94%。
【0023】
スキーム1において、市販されている3-ブロモ-4-ヒドロキシベンズアルデヒドおよび2,5-ジヒドロキシベンズアルデヒドで開始して、アルコール2aおよびフェノール2b を公知の方法を使用して容易に調製した。中間体2aおよび2bを3-イソシアニルプロピルトリエトキシシランとすぐに反応させ対応するカルバメート基を生成し、トルエン中100℃で加熱することにより、それを部分的にトリメチルシリルでキャップした(TMS-キャップ)MCFの表面上に固定化した。MCFの残留表面シラノールによる干渉を最小化するために、触媒をヘキサメチルジシラザン(HMDS)で処理することによって後からキャップして、イソプロポキシスチレンリガンド3aおよび3bを得た。
【0024】
別の発明態様では、ヘテロ原子が自由な、調整可能な長さのアルキル鎖を導入して、触媒反応におけるリンカー基との望ましくない干渉の可能性を抑えた(スキーム2)。

【0025】
スキーム2の反応条件:
(a)(i)1.05当量のMg、0.01当量のI2、テトラヒドロフラン(THF)、還流、(ii)3当量の、3cに対するMe2SiCl23dに対するClSiMe2(CH)2Cl、3eに対するClSiMe2(CH)6Cl、90〜96%。
(b)部分的TMS-キャップMCF、3当量のトリエチルアミン、トルエン、室温;HMDS、80℃、99%。
(c)1.05当量の第二世代Grubbs触媒、1.05当量のCuCl、DCM、50℃、90〜94%。
【0026】
3種類の二塩化物を使用して、2-イソプロポキシ-4-ブロモスチレン2cをグリニヤール反応により容易にシリル化し、トリエチルアミン存在下トルエン中で加熱することにより、それをMCFの表面上に固定化して、固定化リガンド3c3eを極めて高収率で得た。
【0027】
塩化銅(I)の存在下でジクロロメタン(DCM)を還流する際に触媒および官能化MCF3a3eを還流させ、その後ろ過および乾燥させることによって、スキーム1および2の固定化触媒4a4eを単離した。触媒4a4eを様々なリガンドおよび金属担持量で調製し、いかなる活性も失わずに数ヶ月以上保存した。
【0028】
ジクロロメタン(DCM)、トルエンまたはテトラヒドロフラン(THF)中で、ジエチルジアリルマロネート5aを使用してその環状化生成物5bへの転化率をモニターすることにより、RCMについて固定化触媒4a4eを試験した。

【0029】
RCMを、時間(t)ごとのジエン5aから生成物5bへのパーセント(%)転化率(Conv)として決定した。結果を表1に示す。特に断らない限り、すべての反応は溶媒中、5mol%の触媒(Cat)0.05Mで室温において実施した。mmol/g単位のTMS/リガンド/Ruの担持量を、元素分析によって決定した。パーセント転化率を、ガスクロマトグラフィー(GC)によって決定した。
【0030】
【表1】

a溶媒中0.1Mで実施した。
b2.5mol%の触媒で実施した。
【0031】
反応速度は使用する溶媒に依存することを確認した。試験したすべての触媒システムに対して、DCMおよびトルエンは、THFより効果的であることを確認した。リガンドおよびルテニウムの担持量は、相当に触媒活性に影響するようではなかった。しかしながら、リガンド担持量が非常に大きく部分的に(<30%)ルテニウムを担持した触媒が、反応速度の減少を示したことは注目に値する(エントリー7〜9)。理論に束縛されるわけではないが、非常に豊富な遊離リガンドは、反応性ルテニウムカルベン種に固相に戻る機会をより多く提供する、言い換えると反応を遅らせる可能性がある。より高濃度(0.1M)では、核磁気共鳴(NMR)分光法によって検出されるいかなる有意な量の副生成物を形成することなく、反応がより速くなることを確認した(エントリー4、6、8、および11)。より少量の4a(2.5mol%)を使用した場合、反応速度は有意に減少した(エントリー5)。
【0032】
非配位性の炭化水素アルキル鎖から成るリンカー基の柔軟性が増加すると共に、反応が加速することを確認した(エントリー12〜14)。理論に束縛されるわけではないが、短いリンカーまたは剛直なリンカーを使用すると、触媒中心とMCF表面との間の増加した相互作用により、反応中にルテニウムの放出および戻りが干渉および遅延され得る。
【0033】
リンカー内のカルバメート基の役割を調査するために、均一系触媒7を、アルコール2aおよびn-ブチルイソシアネートから、4aと同様の方法で、中間体6を介して高収率で調製した(スキーム3)。

【0034】
スキーム3の反応条件:
(a)1.05当量のn-ブチルイソシアネート、0.01当量の4-DMAP、3当量のトリエチルアミン、DCM、45℃、95%。
(b)1.05当量の第二世代Grubbs触媒、1.05当量のCuCl、DCM、50℃;カラムクロマトグラフィー;再結晶、85%。
【0035】
カルバメート部位は触媒活性に特に影響せず、7の反応速度は市販されている第二世代Hoveyda-Grubbs触媒1bに匹敵することを確認した(表1のエントリー15および16)。
【0036】
DCM中でのジエン5aから生成物5bへの閉環メタセシス反応における固定化触媒4a4e(Cat)のリサイクル性を、1〜2時間(h)の時間(t)にわたって評価した。結果を表2に示す。特に断らない限り、すべての反応は、DCM中、5mol%の触媒0.05Mで室温において実施した。パーセント(%)転化率を、ガスクロマトグラフィー(GC)によって決定した。
【0037】
【表2】

aDCM中0.1Mで実施した。
b還流下で実施した。
【0038】
6回の実行まで優れた転化率(90〜97%)が確認され(表2)、その後の実行で活性が徐々に減少した。76〜80%の転化率への活性の減少が、室温における実行回数10において顕著である。理論に束縛されるわけではないが、この活性の減少は、触媒反応中に溶液相にあるべきルテニウムカルベン種の非活性化および/または浸出のためと思われる。リサイクル性が温度の上昇により向上したことは、注目に値する(表2のエントリー3)。理論に束縛されるわけではないが、より短い反応時間は触媒の非活性化を減少させる可能性があり、温度の上昇はエチレン除去を促進する可能性がある。
【0039】
再利用する能力もトルエンを溶媒として調査した。結果を表3に示す。特に断らない限り、すべての反応は、トルエン中、5mol%の固定化触媒4aまたは4b(Cat)0.05Mで室温において1〜2時間(h)の時間(t)実施した。パーセント(%)転化率(Conv)を、ガスクロマトグラフィー(GC)によって決定した。
【0040】
【表3】

【0041】
トルエンを溶媒として使用する場合、活性の実質的な減少が、最初の再利用の後に顕著であった(表3)。しかしながら、その後の活性減少はより緩やかで、室温での10回の実行で77〜86%の転化率が達成された。
【0042】
MCF担持触媒4の性能を、他のジエンのRCMについて調査した(表4参照)。特定の基質のほぼ完全な転化率に対する最初の実行の反応時間を決定し、触媒活性の任意の減少をモニターするために、続く実行の反応時間を一定に保った。特に断らない限り、すべての反応を、DCM中、5mol%の4a 0.05Mで室温において1.5時間実施した。エントリー 9以外のすべてのパーセント(%)転化率を、ガスクロマトグラフィー(GC)によって決定し、エントリー9のパーセント転化率を1H-NMR分光法(400MHz)によって決定した。
【0043】
【表4】


aシリカゲルのカラムクロマトグラフィーによる単離収率。
b6時間実施した。
c4.5時間実施した。
d1時間実施した。
e2時間実施した。
f単環式化合物の収率。
【0044】
窒素含有ジエン8aのRCMは、連続実行において高収率で五員環8bを生成し(エントリー1、表4)、反応速度は5aのRCMに匹敵することを確認した。リサイクル性が5回目の実行後に低下することを確認したが、反応時間増加により完全な転化が得られることを確認した。7回の連続実行において活性が緩やかに減少したが、ヘテロ原子含有七員環の形成も効率的であることを確認した(エントリー2および3、表4)。ヒンダードジエン(hindered diene)11aの反応はよりゆっくりと進むことを確認し、サイクル当たりの反応時間が増加すると連続実行にわたって活性減少がより有意であることを確認した(エントリー4、表4)。内部オレフィンの場合には、反応効率は同様と思われるが、リサイクル性はエントリー1の末端オレフィンの場合より低いことを確認した。理論に束縛されるわけではないが、これはDCM中に発生するプロペンの溶解性の増加により生成物阻害が大きくなるためと考えられる(エントリー5、表4)。触媒4aは、遊離アルコールを含有する基質のRCMに対して、連続実行にわたる活性の有意な減少を示した(エントリー6、表4)。理論に束縛されるわけではないが、これは浸出の問題に起因する、またはヒドロキシ基と反応性触媒種との間のより強い相互作用による可能性がある。
【0045】
高い触媒リサイクル性が脂肪族エーテル14aに対して示され(エントリー7、表4)、それはルテニウムへの酸素の配位能力により、より深刻な金属浸出の原因となることが一般的に知られている。本発明の触媒システムは脂肪族エーテル基質に対して特に効率的と思われ、5回の実行すべてで1時間に98%以上の転化率を達成した。エニン15aは、所望の二環式類似体と共に、単環式化合物を生成した(エントリー8、表4)。この選択性の欠落は、第二世代Grubbs触媒による触媒作用において六員単環式化合物の形成が避けられないという他の発見と矛盾しない(例えば、Michrowska, A.; Bujok, R.; Harutyunyan, S.; Sashuk, V.; Dolgonos, G.; Grela, K. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 9318参照)。連続実行にわたって転化率は減少したが、大員環も4aによって首尾よく形成された(エントリー9、表4)。
【0046】
特定の理論に束縛されるわけではないが、反応性触媒種がMCF担持イソプロポキシスチレンリガンドに戻ることによって、触媒システムは再利用されると考えられる。複数回の実行にわたる反応性触媒種の役割を研究するために、固定化触媒4a内のジエン5aのRCMにおいて過剰の遊離リガンドを使用した。実験の結果を表5に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
表5のエントリー1および2の両方に対して、DCM中、5mol%の4a 0.1Mで、2時間(h)の時間(t)、室温において反応を実施した。エントリー1の場合、MCF担持遊離リガンド3a(0.22 mmolリガンド/g)5mol%も追加した。エントリー2の場合、高いリガンド担持量および部分的Ru担持量を使用した。パーセント(%)転化率(Conv)を、ガスクロマトグラフィー(GC)によって決定した。
【0049】
表5の両方のケースにおいて10回の実行にわたって触媒が再利用され、エントリー2においてより良い結果が確認された。過剰の遊離リガンドの導入により反応は遅くなるが、この手法により、首尾よく触媒リサイクル性が向上した。より遅い反応速度を補うために、より高い濃度(0.1M)を使用した。
【0050】
過剰の遊離リガンドの存在が、複数のサイクルにわたってルテニウム浸出の問題を減少させることも確認した。表6において、ジエン14aのRCM中の触媒4aの活性および浸出を研究した。エントリー1〜4に対する反応を、DCM中、5mol%の4a(0.36 mmolリガンド/g、0.26 mmol Ru/g)0.05Mで実施した。エントリー2および4に対して、リガンド3a(0.22 mmolリガンド/g)を特定のmol%で追加した。室温(r.t.)または還流温度のいずれかの示された温度(T)で反応を実施した。時間(t)を時間単位(h)で測定した。百万分量単位(ppm)のルテニウム(Ru)残留を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)によって決定し、パーセント(%)転化率(Conv)をガスクロマトグラフィーによって決定した。
【0051】
【表6】

【0052】
表6は、5mol%のMCF担持遊離リガンド3a14aのRCMに追加すると、反応時間がより長いにもかかわらず、各実行の終わりにICP-MSによって測定された上澄み中のルテニウム濃度が減少したことを示している。ルテニウム浸出の抑制は、室温における反応実行に対して特に有意であることを確認した。
【0053】
表6の結果は、過剰の遊離リガンドおよび高い反応温度の使用により、再利用する能力が強化されるという以前の知見を支持する。
【0054】
実験手順‐表1〜6
一般的に、表1〜表6のそれぞれにおけるパーセント転化率の関数としての触媒活性を、室温アルゴン下で、磁気攪拌子を含むバイアル中で反応を実行することにより決定した。バイアルに、触媒(例えば、5μmolの量の4a4e)および溶媒(例えば、DCM)を充填した。その後、基質(例えば、0.1mmolの量の5a8a16a)を注入した。溶媒(例えば、DCM)での溶出によるシリカゲルの短パッドを介したろ過後に、転化率をモニターした(例えば、GCにより)。一般的に、反応容量は1〜4 mlであった。触媒システムの再利用する能力を研究するそれらの実験に対して、これらの反応を、触媒活性の研究のための方法と同様の方法で通常実行した。再利用の研究に対して、各実行の終了時に、反応バイアルを3分間4000rpmで遠心分離し、フラッシュカラムクロマトグラフィーおよびGCによって単離収率および転化率のそれぞれについて上澄みを特徴づけた。バイアルに溶媒(例えば、DCM)の他の分割量を充填し、1分間攪拌し、再度遠心分離した。未使用の基質で次の実行を行なう前に、もう一度すすぎを実施した。
【0055】
実施例1:リガンド3aおよび3bの調製
段階(a):
Schlenkフラスコに、対応するアルコール2aまたは2b(10.0 mmol)、3-イソシアニルプロピル-1-トリエトキシシラン(10.0 mmol)、4-ジメチルピリジン(0.10 mmol)、トリエチルアミン(20.0 mmol)、および乾燥DCM(10 ml)をアルゴン下で充填した。反応混合物を、還流させながら48時間加熱した。DCMおよびトリエチルアミンを、減圧下で除去した。ヘキサン(10 ml)を加え、沈殿物をろ過で除去した。ろ液を減圧下で濃縮し、真空下で乾燥させ、対応するカルバメートを無色の油状物として得て、それを更に精製することなく使用した。
【0056】
2a(8.35 mmol)を使用する段階(a)の一般的方法で、対応するトリエトキシシラン3.63 gを得た。

HRMS(FAB):C22H36NO6Siの計算値438.2331、実測値438.2328。
【0057】
2b(4.22 mmol)を使用する段階(a)の一般的方法で、対応するトリエトキシシラン1.77 gを得た。

HRMS(FAB):C21H36NO6Siの計算値426.2306、実測値426.2299。
【0058】
段階(b):
SchlenkフラスコにMCF(2.05 g、0.60 mmol TMS/g)を充填し、120℃で24時間真空下に置いた。フラスコを室温でアルゴンでパージし、乾燥トルエン(20 ml)および段階(a)で得られた対応するトリエトキシシラン(0.85 mmol)を充填した。得られた混合物を、100℃で48時間加熱した。室温まで冷却し、固形物をトルエン、DCM、メタノール、およびDCM(それぞれ50 ml)で十分にすすいだ。得られた白色の固形物をSchlenkフラスコに移し、80℃で12時間真空下で乾燥させた。室温まで冷却後、フラスコを液体窒素浴中に10分間置き、HMDS(1 ml)を真空下で加えた。フラスコを密閉して、80℃で5時間放置した。得られた固形物を室温まで冷却し、DCM(100 ml)で十分に洗浄し、その後24時間真空下で乾燥させ、対応する固定化リガンドを白色の粉末として得た。
【0059】
この一般的方法に従うと、中間体3aおよび3bが得られ得る。

【0060】
実施例2:リガンド3c〜3eの調製
段階(a):
還流冷却器を取り付けた二口フラスコにマグネシウム(21.0 mmol)、ヨウ素(微量)、および乾燥THF(50 ml)を充填し、還流させながら加熱した。THF(50 ml)中の4-ブロモ-2-イソプロポキシスチレン(20.0 mmol)をゆっくりと加え、得られた混合物をマグネシウムが消えるまで還流させながら攪拌した。室温まで冷却後、混濁液を、THF(50 ml)中の対応する二塩化物(60.0 mmol)の攪拌溶液に0℃で加えた。得られた溶液を室温で18時間攪拌した。それを減圧下で濃縮し、ヘキサン(20 ml)を攪拌下でゆっくりと加えた。不溶性物質をろ過で除き、ろ液を濃縮し、真空下で24時間乾燥させ、対応するクロロシランを油状物として得て、それを更に精製することなく使用した。
【0061】
ジクロロジメチルシラン(20.0 mmol)を使用する段階(a)の一般的方法で、対応するクロロシラン3cを5.05 g得た。

【0062】
1,2-ビス(ジクロロシリル)エタン(15.0 mmol)を使用する段階(a)の一般的方法で、対応するクロロシラン3dを5.01 g得た。

【0063】
1,6-ビス(ジクロロシリル)ヘキサン(20.0 mmol)を使用する段階(a)の一般的方法で、対応するクロロシラン3eを7.78 g得た。

【0064】
段階(b):
SchlenkフラスコにMCF(3.00 g、0.80 mmol TMS/g)を充填し、120℃で24時間真空下に置いた。フラスコを室温でアルゴンでパージし、トリエチルアミン(0.44 ml)、乾燥トルエン(40 ml)、および対応するクロロシラン(1.05 mmol)を充填した。得られた混合物を、室温で24時間攪拌した。白色の固形物をトルエン、DCM、メタノール、およびDCM(それぞれ50 ml)で十分にすすぎ、それをSchlenkフラスコに移し、80℃で12時間真空下で乾燥させた。室温まで冷却後、フラスコを液体窒素浴中に10分間置き、HMDS(1 ml)を真空下で加えた。フラスコを密閉して、80℃で5時間放置した。得られた固形物を室温まで冷却し、DCM(100 ml)で十分に洗浄し、その後24時間真空下で乾燥させ、対応する固定化リガンドを白色の粉末として得た。
【0065】
この一般的方法に従うと、中間体3c3dおよび3eが得られ得る。

【0066】
実施例3:触媒4a〜4eの調製
還流冷却器を取り付けた二口フラスコに、アルゴン下で、リガンド3a(500 mg、0.36 mmol/g)、第二世代Grubbs触媒(0.18 mmol)、塩化銅(0.18 mmol)、および乾燥DCM(10 ml)を充填した。反応混合物を、アルゴン気流中で還流させながら18時間加熱した。反応混合物は、暗褐色から濃緑色に徐々に変化した。室温まで冷却後、空気雰囲気下で細かい粉末をDCM(100 ml)で十分に洗浄し、真空下で24時間乾燥させ、固定化触媒4a(578 mg)を緑色の粉末として得た。
【0067】
当業者であれば、触媒4b4eを得るために、この一般的方法をどのように適合させればよいかを容易に認識するであろう。
【0068】
この一般的方法を使用すると、触媒4a4eが得られ得る。

【0069】
前述の発明には、理解の明快さを目的として、説明図および実施例を通して、ならびに1つまたは複数の態様に関連して詳細に記述されているが、当業者にとっては、本発明の教示に照らして、添付の特許請求の範囲に記述された本発明の精神または範囲から逸脱することなく特定の変更、変形および修正がそれになされ得ることは容易に明らかである。
【0070】
文脈にそうでないことが明確に示されない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲中で使用される単数形「1つの(a)、(an)」および「その(the)」には複数形の参照が含まれることに注意する必要がある。
【0071】
別の定義がなされない限り、本明細書において使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0072】
個々の刊行物、特許または特許出願が明確におよび個別に参照により組み入れられるよう示されているかのように、本明細書中に記載されたすべての刊行物、特許および特許出願は参照により本明細書に組み入れられる。本明細書中のいかなる刊行物、特許または特許出願の引用も、その刊行物、特許または特許出願が先行技術であると認めるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ含有メソ多孔性フォーム(mesocellular foam)担体上に固定化されたルテニウム触媒を含む、触媒組成物。
【請求項2】
ルテニウム触媒がGrubbs触媒またはHoveyda-Grubbs触媒である、請求項1記載の触媒組成物。
【請求項3】
シリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化された以下の触媒

を含む、触媒組成物。
【請求項4】
触媒が、カルバメート基またはシリル基を含む連結基を使用してシリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化されている、請求項3記載の触媒組成物。
【請求項5】
カルバメート基またはシリル基が、アルキルスペーサーを介してシリカ含有メソ多孔性フォーム担体に付着している、請求項4記載の触媒組成物。
【請求項6】
アルキルスペーサーがC1〜C6アルキル基である、請求項5記載の触媒組成物。
【請求項7】
カルバメートがメチルカルバメートである、請求項4〜6のいずれか一項記載の触媒組成物。
【請求項8】
シリル基が1つまたは2つのメチル基によって置換されている、請求項4〜6のいずれか一項記載の触媒組成物。
【請求項9】
連結基が-X-C(O)N(H)CH2CH2CH2-であり、式中XがCH2OまたはOである、請求項4記載の触媒組成物。
【請求項10】
連結基が-Si(CH3) 2-[(C1〜C6)アルキル] n-であり、式中nが0、1、2、3、4、5、または6である、請求項4記載の触媒組成物。
【請求項11】
連結基が以下の触媒

の2位に付着している、請求項4〜10のいずれか一項記載の触媒組成物。
【請求項12】
シリカ含有メソ多孔性フォーム担体がトリメチルシリルを含む、請求項1〜11のいずれか一項記載の触媒組成物。
【請求項13】
シリカ含有メソ多孔性フォーム担体が、球状で単分散のシリカ含有メソ多孔性フォーム微粒子を含む、請求項1〜12のいずれか一項記載の触媒組成物。
【請求項14】
シリカ含有メソ多孔性フォーム担体が、約24nm〜約42nmの平均細孔径を有する細孔を含む、請求項13記載の触媒組成物。
【請求項15】
閉環メタセシス反応における使用のための請求項1〜14のいずれか一項記載の触媒組成物。
【請求項16】
さらなる閉環メタセシス反応における使用のために再利用される、請求項15記載の触媒組成物。
【請求項17】
Grubbs触媒またはHoveyda-Grubbs触媒をシリカ含有メソ多孔性フォーム担体上に固定化する工程を含む、触媒組成物を調製するための方法。
【請求項18】
触媒が、

である、請求項17記載の方法。

【公表番号】特表2009−533215(P2009−533215A)
【公表日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505333(P2009−505333)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【国際出願番号】PCT/SG2007/000096
【国際公開番号】WO2007/117221
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】