説明

開閉体の駆動装置

【課題】十分な駆動力が得られる駆動装置を提供することを課題とする。
【解決手段】モータ51と、回転可能に設けられたドラム(ドラム状回転体)53と、モータ51とドラム53との間に設けられ、モータ51によって回転駆動されるインナディスク(入力側ディスク)75,ドラム53と共に回転し、インナディスク75と同軸上に設けられたアウタディスク(出力側ディスク)77からなるクラッチ55と、モータ51の回転運動を直線運動に変換する変換機構によりインナディスク75、アウタディスク77を密着させる切替機構57とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチを有する駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチを有する駆動装置の一例として、下記特許文献1に記載されたものがある。この駆動装置は、開閉体(スライドドア)を開閉する駆動装置であり、ワイヤを介して開閉体(スライドドア)に接続されたドラムと、このドラムを回転駆動する駆動源とを有し、ドラムを回転させることによりワイヤを進退させ、開閉体を開閉方向に移動させるものである。
【0003】
このような駆動装置において、手動で開閉体を移動させる場合には、操作力を軽くするために、駆動源とドラムとの接続を切るクラッチが設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−274600号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の駆動装置では、クラッチがドラムの内部に設けられている。よって、クラッチのクラッチディスクの径は、ドラムの内径より小さくなり、駆動源からドラムへ伝達されるトルクに制限があり、十分な駆動力が得られない問題点がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、その課題は、十分な駆動力が得られる駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
課題を解決する請求項1に係る発明は、モータと、回転可能に設けられたドラム状回転体と、前記モータと前記ドラム状回転体との間に設けられ、前記モータによって回転駆動される入力側ディスク,前記ドラム状回転体と共に回転し、前記入力側ディスクと同軸上に設けられた出力側ディスクからなるクラッチと、前記モータの回転運動を直線運動に変換する変換機構により前記入力側ディスク、前記出力側ディスクを密着させる切替機構と、を有することを特徴とする駆動装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記切替機構は、前記ドラム状回転体の内部に設けられることを特徴とする請求項1記載の駆動装置である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記切替機構の前記変換機構は、前記モータによって回転されるシャフトに対して軸方向に移動可能で、前記シャフトと共に回転する第1部材と、前記シャフトに対して回転方向に遊びを有し、前記回転方向に遊びがなくなると前記シャフトと共に回転する第2部材と、前記第1部材と前記第2部材とが押接する方向に付勢する付勢手段と、を有し、前記第1部材、前記第2部材のうちのどちらか一方の部材に、他方の部材方向に突出し、頂部が平面となった第1突部を形成し、前記第1部材、前記第2部材のうちの他方の部材に、一方の部材方向に突出し、前記第1突部のふもとから頂部まで乗り上げ可能な第2突部を形成し、前記シャフトが回転し、前記第2部材の前記シャフトに対する回転方向の遊びがなくなると、前記第2突部が前記第1突部の頂部の平面に乗り上げると共に、前記第1部材が前記シャフトの軸方向に移動して、前記入力側ディスク、前記出力側ディスクを密着させるように、前記遊び、前記付勢手段の付勢力を設定したことを特徴とする請求項1または2記載の駆動装置である。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記切替機構の変換機構の第1部材と、前記クラッチとの間に、弾性体を設けたことを特徴とする請求項3記載の駆動装置である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1−4に係る発明によれば、前記モータによって回転駆動される入力側ディスク,前記ドラム状回転体と共に回転し、前記入力側ディスクと同軸上に設けられた出力側ディスクからなるクラッチは、前記モータと前記ドラム状回転体との間に設けられているので、入力側クラッチディスク,出力側クラッチディスクの径の大きさを制限するものがない。よって、駆動源からドラムへ伝達されるトルクに制限がなくなり、十分な駆動力が得られる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、前記切替機構は、前記ドラム状回転体の内部に設けられることにより省スペースである。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、前記第1部材、前記第2部材のうちのどちらか一方の部材に、他方の部材方向に突出した第1突部の頂部は平面であることにより、第1部材と、第2部材とが回転方向にずれても、第2突部の頂部が第1突部の頂部に乗り上がった状態が保持される。
【0014】
請求項4に係る発明によれば、前記切替機構の変換機構の第1部材と、前記クラッチとの間に、弾性体を設けたことにより、第1部材からクラッチへ伝達されるクラッチ切替力が大きくても、弾性体が弾性変形することにより、クラッチに伝達される切替力が減少し、入力側クラッチディスクと出力側クラッチディスクとが密着するクラッチ接続時に大きな音が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態の駆動装置の断面を示す図で、図3の切断線I−Iでの端面図である。
【図2】駆動装置の分解斜視図である。
【図3】図2のIII方向矢視図である。
【図4】図1のクラッチと切替機構との分解斜視図である。
【図5】図1のクラッチと切替機構の半断面図である。
【図6】図5の切断線VI−VIでの断面図である。
【図7】図1のシャフトの正面図である。
【図8】図7の切断線VII−VIIでの断面図である。
【図9】図1のボールサポートの斜視図である。
【図10】図1のカムの斜視図である。
【図11】図10のXI方向矢視図である。
【図12】本実施形態の電気的構成を説明するブロック図である。
【図13】非駆動時の駆動装置の断面図である。
【図14】図13の切替機構の拡大図である。
【図15】図14のカムのカム面を示す図である。
【図16】駆動時の駆動装置の断面図である。
【図17】図16の切替機構の拡大図である。
【図18】図17のカムのカム面を示す図である。
【図19】制御部の作動を説明するフロー図である。
【図20】実施形態の駆動装置によって駆動されるスライドドアが設けられた車両の側面図である。
【図21】図20のスライドドアを駆動する機構の主要部分の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<車両>
最初に、図20を用いて、駆動装置によって駆動されるスライドドアが設けられた車両を説明する。車体1の側面には、開口3が設けられている。5はこの開口3に開閉可能に設けられたスライドドアである。そして、車体1には、スライドドア5の開閉方向に沿ってレール7が設けられている。
<スライドドア駆動機構>
次に、図21を用いて、スライドドアを駆動する機構の主要部分の構成を説明する。図21は図20のスライドドアを駆動する機構の主要部分の分解斜視図であり、図の右側が車両の後側、左側が車両の前側である。
【0017】
図に示すように、レール7は前側の端部側(図においては左側の端部側)は、スライドドア5を開口3に嵌合させるために車内側に曲がっている。
【0018】
レール7には、スライドドア5に接続されるスライダ11が移動可能に設けられている。
【0019】
21は車体1内に設けられ、内部にドラムを有する駆動装置である。この駆動装置21の外観形状は一例である。また、その構造は、ワイヤ式の電動ウインドレギュレータで用いられる駆動装置と同じ構造であるので、詳細な説明は省略する。駆動装置21からは、第1ケーブル23、第2ケーブル25がでており、駆動装置21内のドラムが正転すると、第1ケーブル23はドラムに巻き取られ、第2ケーブル25はドラムから繰り出され、逆に、ドラムが逆転すると、第1ケーブル23はドラムから繰り出され、第2ケーブル25はドラムに巻き取られるようになっている。
【0020】
車体1の開口3の内壁には、ブラケット27が設けられている。このブラケット27に車内側に曲がったレール7の前端面が接続される。また、ブラケット27には、第1ケーブル23が挿通する穴27aと、第2ケーブル25が挿通する穴27bが形成されている。
【0021】
更に、ブラケット27の車内側には、フロントガイド29が設けられている。フロントガイド29には、第1ケーブル23を案内する第1ガイド部29aと、第2ケーブル25を案内する第2ガイド部29bとが形成されている。また、レール7の後端部側には、内部にプーリ(ガイド)が設けられたリアガイド部31が配置されている。
【0022】
駆動装置21から出た第1ケーブル23は、駆動装置21とフロントガイド29の第1ガイド部29aとに接続された第1アウタケーシング33内を通り、レール7の前側へ案内され、ブラケット27の穴27aを通って車外に出る。そして、ブラケット27の穴27aとリアガイド部31とに接続された第2アウタケーシング35内を通ってレール7の後側へ案内され、リアガイド部31を介して、レール7内へ入り、スライダ11に接続される。
【0023】
一方、駆動装置21から出た第2ケーブル25は、駆動装置21とフロントガイド29の第2ガイド部29bとに接続された第2アウタケーシング37内を通り、レール7の前側へ案内され、ブラケット27の穴27bを通って車外に出る。そして、レール7の内部を通り、スライダ11に接続される。
【0024】
ここで、このような構成の作動を説明する。駆動装置21のドラムを正転させると、第1ケーブル23がドラムに巻き取られ、第2ケーブル25はドラムから繰り出され、逆に、ドラムが逆転すると、第1ケーブル23はドラムから繰り出され、第2ケーブル25はドラムに巻き取られる。よって、レール7内の第1ケーブル23と第2ケーブル25とが進退し、スライダ11が接続されるスライドドア5が開閉方向に移動する。
【0025】
次に、本実施形態の駆動装置21を説明する。
<駆動装置の全体構成>
図1−図3を用いて、駆動装置21の全体構成を説明する。図1は駆動装置21の断面を示す図で、図3の切断線I−Iでの端面図、図2は駆動装置21の分解斜視図、図3は図2のIII方向矢視図である。
【0026】
図1に示すように、駆動装置21は、大別して、モータ51と、回転可能に設けられ、外周面にワイヤが巻回されるドラム(ドラム状回転体)53と、モータ51とドラムとの間に設けられたクラッチ55と、クラッチ55を操作する切替機構57とからなっている。
【0027】
モータ51は第2ブラケット59に設けられ、第2ブラケット59は、第1ブラケット61の一方の面側に設けられている。第1ブラケット61の一方の面側には、モータ51を制御する制御部(ECU(Electronic Control Unit:自動車用デバイスの制御用マイクロコンピュータユニット))63も設けられている。尚、本実施形態のモータ51内の回転部分には、ホールICが内蔵されている。第1ブラケット61の他方の面側には、クラッチ55が設けられている。
<駆動装置のクラッチ、切替機構>
ここで、図1、図4−図11を用いて、クラッチ55と、クラッチ55を操作する切替機構57とを説明する。図4はクラッチと切替機構との分解斜視図、図5はクラッチと切替機構の半断面図、図6は図5の切断線VI−VIでの断面図、図7は図1のシャフトの正面図,図8は図7の切断線VII−VIIでの断面図、図9は図1のボールサポートの斜視図、図10は図1のカムの斜視図、図11は図10のXI方向矢視図である。
【0028】
図1、図4−図6に示すように、第1ブラケット61の中央部には、凹部61aが形成されている。この凹部61aの底部には穴61bが形成されている。凹部61aにはベアリング65が圧入されている。
【0029】
第1ブラケット61の穴61bには、ベアリング65により回転可能支持され円筒状のロータ67が配置されている。このロータ67は、モータ51側の端面が開放面となった有底円筒状である。さらに、ロータ67の内筒面にはスプライン67aが形成されている。そして、モータ51の出力軸51aがロータ67のモータ51側の開口から内筒部に挿入され、出力軸51aの周面に形成されたスプラインがロータ67の内筒面にはスプライン67aに係合し、ロータ67とモータ51の出力軸51aとは一体となって回転する。また、ロータ67の他方の面側の外筒面にはセレーション67bが形成されている。さらに、ロータ67のモータ51側の開口には、ベアリング65の内輪の端面に当接するつば部67cが形成され、底部の中央には、穴67dが形成されている。そして、ロータ67のモータ51側の開口から内筒部には、シャフト69が挿入される。
【0030】
図1、図4−図8を用いてシャフト69を説明する。シャフト69は、モータ51側から外径がロータ67の穴67dより大きな大径部69a、外径がロータ67の穴67dより小さな第1中径部69b、外径が第1中径部69bより径が小さい第2中径部69c、第2中径部69cより外径が小さな小径部69dからなっている。
【0031】
シャフト69の大径部69aの周面には、ロータ67の内筒面のスプライン67aに係合するスプライン69eが形成され、モータ51の出力軸51aと、ロータ67と、シャフト69とは一体となって回転する。
【0032】
また、シャフト69の小径部69dの周面には、周方向に180度ピッチで軸方向に沿って2本の突部69fが形成されている。さらに、突部69f、突部69fの一方の間には軸方向に沿って周方向に60度ピッチで2本の突部69gが、突部69f、突部69fの他方の間にも軸方向に沿って周方向に60度ピッチで2本の突部69gが形成されている。突部69f、突部69gは、第2中径部69cと小径部69dとの境界から形成され、軸方向の長さは突部69fのほうが突部69gより長く設定されている。さらに、突部69f、突部69gの頂面は、第2中径部69cの周面と同じ曲率の周面に設定され、突部69f、突部69gの頂面は、第2中径部69cの周面と段差無く形成されている。
(クラッチ)
図1、図4−図6を用いてクラッチ55を説明する。第1ブラケット61の他方の面側に配置される円板状のインナロータ71には、その回転軸に沿って、ロータ67が挿入される穴71aが形成されている。また、穴71aの第1ブラケット61側の開口の周縁に沿って形成された立壁部71hが、第1ブラケット61の穴61bに嵌合している。穴71aの周面には、ロータ67の外筒面に形成されたセレーション67bに係合するセレーション71bが形成され、ロータ67とインナロータ71とは一体となって回転する。インナロータ71の第1ブラケット61側の外周面には、つば71cが形成されている。さらに、つば71c以外の外周面には、周方向に等ピッチ間隔で、軸方向に沿って複数の溝71dが形成されている。
【0033】
インナロータ71のつば71c上には、円環状のバックプレート73が配置されている。このバックプレート73は、インナロータ71のつば71cに当接する円環状のバックプレート本体73aと、バックプレート本体73aのモータ51側に一体的に形成された円環状のマグネット部73bとからなっている。マグネット部73bの内径は、つば71cの外径より大きな内径に設定されている。バックプレート本体73aの外周部には、周方向に等ピッチ間隔で半径方向に延出する6つの突部73cが形成されている。また、マグネット部73bの外周部にも、バックプレート本体73aの突部73cと対向する突部73dが形成されている。
【0034】
バックプレート73に隣接して、複数枚の円環状のインナディスク(入力側クラッチディスク)75とアウタディスク(出力側クラッチディスク)77とが交互に配置されている。インナディスク75の内周部には、周方向に等ピッチ間隔で、半径方向に突出する突部75aが形成されている。アウタディスク77の外周部には、周方向に等ピッチ間隔で、半径方向に突出する突部77aが形成されている。インナディスク75の突部75aはインナロータ71の外周面に形成された溝71dに係合し、インナロータ71とインナディスク75とは一体となって回転するようになっている(図6参照)。
【0035】
交互に配置されたインナディスク75、アウタディスク77に隣接して、円板状のプレッシャプレート79が配置されている。このプレッシャプレート79の周縁部は、交互に配置された複数枚のインナディスク75、アウタディスク77からなるディスク群方向に折り曲げられ、複数枚のインナディスク75、アウタディスク77からなるディスク群の端面に当接可能な当接部79aが形成されている。さらに、中央部には、シャフト69の第1中径部69bが挿通する穴79bが設けられている。そして、プレッシャプレート79はシャフト69の第1中径部69bに沿って移動可能となっている。
【0036】
バックプレート73上に積層された複数枚のインナディスク75、アウタディスク77からなるディスク群、プレッシャプレート79を覆うように、一方の端面が開放面となった有底円筒状のカップリング81が配置される。このカップリング81の開放面側の端面81aは、インナロータ71のつば71cに当接可能となっている。また、端面81aには、バックプレート73の突部73c、突部73dが係合可能な溝81bが形成されている。さらに、内周面には、周方向に等ピッチ間隔で、軸方向に沿って複数の溝81dが形成されている。
【0037】
そして、アウタディスク77の外周部には、周方向に等ピッチ間隔で、半径方向に突出する突部77aが形成されている。アウタディスク77の突部77aはカップリング81の内周面に形成された溝81dに係合し、カップリング81とアウタディスク77とは一体となって回転するようになっている(図6参照)。
【0038】
自然状態では、交互に配置されたクラッチ55のインナディスク75とアウタディスク77とは密着しておらず、両ディスク間に発生する摩擦力がない、若しくは非常に小さく、インナロータ71とカップリング81のうち一方が回転しても他方は回転しないクラッチ切り状態にある。
【0039】
プレッシャプレート79がバックプレート73方向に押されると、交互に配置されたクラッチ55のインナディスク75とアウタディスク77とが密着し、両ディスク間に発生する摩擦力が大きくなり、インナロータ71と、カップリング81とは一体となって回転するクラッチ接続状態となる。
(切替機構)
図1、図4、図5に示すように、プレッシャプレート79に隣接して、円板状のコネクトシフタ83が配置されている。このコネクトシフタ83の中央部には、シャフト69の第1中径部69bが挿通する穴83bが形成されている。このため、コネクトシフタ83はシャフト69の第1中径部69bに沿って移動可能となっている。さらに、コネクトシフタ83の周縁部は、プレッシャプレート79方向に折り曲げられ、プレッシャプレート79に当接可能な当接部83aが形成されている。
【0040】
カップリング81の底部の中央部には、シャフト69の第1中径部69bに設けられたコネクトシフタ83が挿通可能な穴81cが設けられ、穴81cの周囲には、筒部81eが形成されている。
【0041】
カップリング81の筒部81eの外周面にはスプライン81fが形成され(図5参照)ている。このカップリング81の筒部81eに、スプラインが形成されたドラム53の内周面が嵌合し、カップリング81とドラム53とは一体となって回転するようになっている。
【0042】
両端面が開放面となった円筒状で、ドラム53を覆うドラムハウジング85は、第1ブラケット61側に固定されている。ドラムハウジング85の一方の開放面(カップリング81側の開放面)とカップリング81の筒部81eの外周面との間には、ベアリング87が圧入され、カップリング81の筒部81eはドラムハウジング85に対して回転可能に支持されている。
【0043】
また、ドラムハウジング85の他方の側の開放面側には、一方の面が開放面となった有底円筒状の蓋86が設けられている。この蓋86の底部がドラムハウジング85の他方の側の開放面を覆い、筒部がドラムハウジング85の外周面を覆うように取り付けられる。蓋86の底部の中央部には、シャフト69の小径部69dが挿通する穴86aが形成されている。蓋86の底部の内面には、穴86aの周縁と平行に円筒状の立壁部86bが形成されている。この立壁部86bと、シャフト69の小径部69dとの間にベアリング88が設けられ、シャフト69は蓋86に対して回転可能に支持されている。
【0044】
コネクトシフタ83には、穴83bを中心とする同心円上に120度ピッチで穴83cが形成されている。コネクトシフタ83のプレッシャプレート79側からピン89が挿入される。ピン89の頭部は穴83cより大径で、コネクトシフタ83のプレッシャプレート79側の面に当接し、穴83cより小径に設定された首部が穴83cを挿通している。
【0045】
カップリング81の筒部81eの開口近傍には、スプリングシフタ91が配置されている。このスプリングシフタ91の中央部には、シャフト69の小径部69dが挿通する穴91bが形成されている。スプリングシフタ91には、穴91bを中心とする同心円上に120度ピッチで穴91cが形成されている。そして、コネクトシフタ83の穴83bを挿通したピン89の首部が、スプリングシフタ91の穴91cを挿通し、スプリングシフタ91はピン89の首部に沿って移動可能となっている。
【0046】
また、カップリング81の筒部81e内には、シャフト69の周面に対して空間を介して巻回され、一端部がコネクトシフタ83に、他端部がスプリングシフタ91に当接するコイルスプリング(弾性体)95が設けられている。
【0047】
また、シャフト69の第2中径部69cには、第1中径部69bとの境界の壁面に当接可能なワッシャ97が設けられている。
【0048】
さらに、コイルスプリング95内には、一端部がワッシャ97に、他端部がスプリングシフタ91に当接するコイルスプリング99が設けられている。
【0049】
スプリングシフタ91に隣接してスライダ101が配置されている。このスライダ101は、シャフト69の小径部69dが挿通し、先端面がスプリングシフタ91に当接可能な円筒部101aと、円筒部101aのスプリングシフタ91側の開口と反対側の開口に沿って形成されたつば部101bとからなっている。円筒部101aの内周面には、軸方向に沿ってシャフト69の小径部69dに形成された突部69f、突部69gが係合する溝101cが形成されている。よって、スライダ101は、シャフト69に対して周方向の回転が禁止され、シャフト69と共に回転し、小径部69dに沿って移動可能となっている。
【0050】
コイルスプリング99の付勢力により、スプリングシフタ91,スライダ101は、後述するボールサポート103方向に付勢されている。
【0051】
スライダ101に隣接して、ボールサポート(第1部材)103と、カム(第2部材)105とが配置されている。ボールサポート103を図9を用いて、カム105を図10、図11を用いて説明する。
【0052】
図9に示すように、ボールサポート103は、中央部にシャフト69の小径部69dが挿通する穴103aが形成されている。穴103aの内周面には、軸方向に沿ってシャフト69の小径部69dに形成された突部69f、突部69gが係合する溝103bが形成されている。よって、ボールサポート103は、シャフト69に対して周方向の回転が禁止され、シャフト69と共に回転し、小径部69dに沿って移動可能となっている。
【0053】
また、ボールサポート103のシャフト69の軸方向と直交し、カム105と対向する面(以下、ボールサポート103のカム面という)には、周方向に沿って120度ピッチで3つの突部(第1突部)103cが形成されている。各突部103cには、突部103cの高さ方向にボール保持穴103dが形成されている。ボール保持穴103dに鋼球107が回転可能に保持されている。そして、このボール保持穴103dは、頂部から鋼球107が外部に露出するように形成されている。
【0054】
図10、図11に示すように、カム105は、中央部にシャフト69の突部69gが形成されていない小径部69dが挿通する穴105aが形成されている。シャフト69の軸方向と直交し、ボールサポート103のカム面と対向する面(以下、カム105のカム面という)には、周方向に沿って120度ピッチで3つの突部(第2突部)105cが形成されている。各突部105cの頂部は、平面部105dとなっている。カム105のカム面と反対側の面の穴105aの開口の周縁には、図11に示すように、シャフト69の2つの突部69fの端部が係合する2つの円弧状の溝105eが形成されている。
【0055】
即ち、シャフト69の2つの突部69fが溝105eに位置する状態では、カム105はシャフト69に沿ってクラッチ55方向の移動が禁止されると共に、シャフト69に対して回転方向に遊びを有し、突部69fが溝105eの一方の端から他方の端まで当たるまで、シャフト69はカム105に対して回転可能となっている。本実施の形態では、遊び角を100度とした。そして、突部69fが溝105eの端部に当接し、回転方向の遊びがなくなると、カム105はシャフト69と共に回転する。
【0056】
カム105に隣接して、円板状のフリクションプレート109が配置される。フリクションプレート109の中央部には、シャフト69の小径部69dが挿通する穴109aが形成されている。フリクションプレート109の周面には半径方向に延びる突部109bが複数形成されている。
【0057】
フリクションプレート109に隣接して、フリクションプレート側の面が開放面となった有底円筒状のカバー111が配置される。底部の中央には、シャフト69の小径部69dが挿通する穴111aが形成されている。カバー111の開放面側の周面には、フリクションプレート109の突部109bが嵌合する溝111bが形成されている。
【0058】
カバー111の穴111aを挿通し、カバー111の外部に突出したシャフト69の小径部69dには、溝69hが形成されている(図7参照)。そして、この溝69hに、カバー111の底部の外面に当接するCリング113が係合し、カバー111がシャフト69の先端から抜けるのを防止している。
【0059】
さらに、カバー111の内部には、シャフト69の周面に対して空間を介して巻回され、一端部がフリクションプレート109に、他端部がカバー111の底部内面に当接するコイルスプリング115が設けられている。このコイルスプリング115の付勢力により、フリクションプレート109はカム105を押圧している。
【0060】
また、図14に示すように、カバー111の穴111aの周りには、等間隔に複数の穴111cが設けられている。図1に示すように、この穴111cに、蓋86の立壁部86bから等間隔で延出した突起86dが嵌合することにより、カバー111の回転、不陸心プレート109の回転を抑えている。
<電気的構成>
次に、図12を用いて、本実施形態の電気的構成を説明する。図12は本実施形態の電気的構成を説明するブロック図である。
【0061】
本実施形態では、モータ51内に設けられたホールICと、モータ51によって回転させるカップリング81に設けられるマグネット部73bとで、モータ51の回転角を検出するモータ回転角検出手段121が構成されている。また、車体には、スライドドアの閉状態となると応動する閉状態検出センサ123と、スライドドアが完全に開状態となると応動する開状態検出センサ125とが設けられている。
【0062】
図において、制御部63には、モータ回転角検出手段121の検出信号と、閉状態検出センサ123,開状態検出センサ125の検出信号とが入力され、さらに、閉スイッチ127、開スイッチ129の信号も入力される。そして、制御部63は、入力された信号に応じて、モータ駆動回路131を介してモータ51を駆動する。
<作動>
次に、図13−図19を用いて、本実施形態の駆動装置の作動を説明する。図13は非駆動時の駆動装置の断面図、図14は図13の切替機構の拡大図、図15は図14のカムのカム面を示す図、図16は駆動時の駆動装置の断面図、図17は図16の切替機構の拡大図、図18は図17のカムのカム面を示す図、図19は制御部の作動を説明するフロー図である。
(非駆動時)
図13−図15を用いて説明する。
【0063】
図14に示すように、切替機構57のボールサポート103の突部103cの頂部にある鋼球107は、カム105の突部105cと突部105cとの間の凹部に位置し、コネクトシフタ83と、クラッチ55のプレッシャプレート79との間には隙間Sがある。
【0064】
この状態では、交互に配置されたクラッチ55のインナディスク75とアウタディスク77とは密着しておらず、両ディスク間に発生する摩擦力がない、若しくは非常に小さく、インナロータ71とカップリング81のうち一方が回転しても他方は回転しないクラッチ切り状態にある。よって、モータ51とドラム53とは直結されていない。
【0065】
尚、この非駆動時では、図15に示すように、シャフト69の突部69fは、カム105の円弧状の溝105eの回転方向の中間部に位置している。
(駆動時)
図16−図19を用いて説明する。図19に示すように、制御部63は、開スイッチ129がオンされると、モータ駆動回路131を介してスライドドア5が開方向に移動する方向にモータ51を駆動する(ステップ1、2、3)。また、閉スイッチ127がオンされると、モータ駆動回路131を介してスライドドア5が閉方向に移動する方向にモータ51を駆動する(ステップ1、4、5)。
【0066】
開スイッチ129がオンされ、モータ51が駆動されると、シャフト69が回転する。シャフト69が回転すると、図16−図18に示すように、ボールサポート103はシャフト69と共に回転する。一方、フリクションプレート109により押圧されてカム105は回転せず、シャフト69が50度回転し、突部69fが円弧状の溝105eの端部に当接する(回転方向の遊びがなくなる)と、カム105はシャフト69と共に回転する。このシャフト69の50度の回転により、ボールサポート103の突部103cの頂部にある鋼球107は、カム105の突部105cの頂部の平面部105dまで乗り上げている。
【0067】
コイルスプリング115の付勢力は、コイルスプリング99の付勢力より大きいため、カム105は、軸方向には移動せず、この乗り上げにより、ボールサポート103がシャフト69に沿ってクラッチ55方向に移動する。そして、スライダ101、スプリングシフタ91、スプリング95を介して、コネクトシフタ83がプレッシャプレート79をバックプレート73方向に押す。よって、クラッチ55の交互に配置されたクラッチ55のインナディスク75とアウタディスク77とが密着し、両ディスク間に発生する摩擦力が大きくなり、インナロータ71と、カップリング81とは一体となって回転するクラッチ接続状態となる。
【0068】
クラッチ接続状態となってカップリング81に設けられたドラム53が回転し、スライドドア5が開方向に移動する。
【0069】
図19に戻って、開状態検出センサ125が応動する(ステップ6)と、制御部63はモータ51の駆動を停止する(ステップ7)。
【0070】
そして、制御部63は、モータ駆動回路131を介して、先程とは逆方向、即ち、スライドドア5が閉方向に移動する方向にモータ51を50度回転させ(ステップ8)、一連の動作を終了する。このモータ51の50度の逆転により、シャフト69の突部69fは、カム105の円弧状の溝105eの回転方向の中間部に復帰する。
【0071】
また、閉スイッチ127がオンされた場合は、モータ51が開スイッチ129がオンの時と逆方向に駆動され(ステップ5)、シャフト69が回転する。シャフト69が回転すると、開スイッチ129がオンの時と同様に、シャフト69の50度の回転により、ボールサポート103の突部103cの頂部にある鋼球107は、カム105の突部105cの頂部の平面部105dまで乗り上げ、クラッチ接続状態となる。クラッチ接続状態となってカップリング81に設けられたドラム53が回転し、スライドドア5が閉方向に移動する。
【0072】
閉状態検出センサ123が応動する(ステップ9)と、制御部63はモータ51の駆動を停止する(ステップ10)。
【0073】
そして、制御部63は、モータ駆動回路131を介して、先程とは逆方向、即ち、スライドドア5が開方向に移動する方向にモータ51を50度回転させ(ステップ11)、一連の動作を終了する。このモータ51の50度の逆転により、シャフト69の突部69fは、カム105の円弧状の溝105eの回転方向の中間部に復帰する。
【0074】
このような構成によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0075】
(1) クラッチ55は、モータ51とドラム53との間に設けられているので、インナディスク(入力側クラッチディスク)75とアウタディスク(出力側クラッチディスク)77の径の大きさを制限するものがない。よって、モータ51からドラム53へ伝達されるトルクに制限がなくなり、十分な駆動力が得られる。
【0076】
(2) 切替機構57は、ドラム53の内部に設けられることにより省スペースである。
【0077】
(3) カム105の突部105cの頂部は、平面部105dとなっているので、カム105,ボールサポート103が回転方向にずれても、ボールサポート103の突部103cの頂部にある鋼球107が、カム105の突部105cの頂部の平面部105dに乗り上った状態を保持できる。
【0078】
(4)切替機構57のモータの回転運動を直線運動に変換する変換機構であるボールサポート103と、クラッチ55のプレッシャプレート79との間に、スプリング(弾性体)95を設けたことにより、ボールサポート103のクラッチ切替力が大きくても、スプリング95が弾性変形することにより、クラッチ55に伝達される切替力が減少し、適切な切替になり、インナディスク(入力側クラッチディスク)75とアウタディスク(出力側クラッチディスク)77とが密着するクラッチ接続時に大きな音が発生せず、過剰な押圧を防ぐことができる。
【0079】
本発明は、上記実施形態の限定するものではない。例えば、上記実施形態では、クラッチ55側からボールサポート103、カム105の順に設けたが、クラッチ55側からカム、ボールサポートの順に配置し、カムをシャフト69に対して軸方向に移動可能で、シャフト69と共に回転するように設け、ボールサポート103をシャフト69に対して回転方向に遊びを有するように設けても良い。
【0080】
また、上記実施形態の駆動装置は、ドラムを用いたスライドドアの駆動装置で説明を行なったが、他に、ウインドレギュレータの駆動装置、スライドルーフの駆動装置等にも適用できる。
【符号の説明】
【0081】
51 モータ
53 ドラム(ドラム状回転体)
55 クラッチ
57 切替機構
75 インナディスク(入力側ディスク)
77 アウタディスク(出力側ディスク)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
回転可能に設けられたドラム状回転体と、
前記モータと前記ドラム状回転体との間に設けられ、前記モータによって回転駆動される入力側ディスク,前記ドラム状回転体と共に回転し、前記入力側ディスクと同軸上に設けられた出力側ディスクからなるクラッチと、
前記モータの回転運動を直線運動に変換する変換機構により前記入力側ディスク、前記出力側ディスクを密着させる切替機構と、
を有することを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記切替機構は、前記ドラム状回転体の内部に設けられることを特徴とする請求項1記載の駆動装置。
【請求項3】
前記切替機構の前記変換機構は、
前記モータによって回転されるシャフトに対して軸方向に移動可能で、前記シャフトと共に回転する第1部材と、
前記シャフトに対して回転方向に遊びを有し、前記回転方向に遊びがなくなると前記シャフトと共に回転する第2部材と、
前記第1部材と前記第2部材とが押接する方向に付勢する付勢手段と、
を有し、
前記第1部材、前記第2部材のうちのどちらか一方の部材に、他方の部材方向に突出し、頂部が平面となった第1突部を形成し、
前記第1部材、前記第2部材のうちの他方の部材に、一方の部材方向に突出し、前記第1突部のふもとから頂部まで乗り上げ可能な第2突部を形成し、
前記シャフトが回転し、前記第2部材の前記シャフトに対する回転方向の遊びがなくなると、前記第2突部が前記第1突部の頂部の平面に乗り上げると共に、前記第1部材が前記シャフトの軸方向に移動して、前記入力側ディスク、前記出力側ディスクを密着させるように、
前記遊び、前記付勢手段の付勢力を設定したことを特徴とする請求項1または2記載の駆動装置。
【請求項4】
前記切替機構の変換機構の第1部材と、前記クラッチとの間に、弾性体を設けたことを特徴とする請求項3記載の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−197844(P2012−197844A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61924(P2011−61924)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(590001164)シロキ工業株式会社 (610)
【Fターム(参考)】