説明

開閉部材制御装置及び開閉装置

【課題】機械的ながたつきによる開閉部材の位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる開閉部材制御装置及び開閉装置を提供する。
【解決手段】電動スライドドア装置1は、ドアパネルの前端部に近接する物体と間の距離に応じた静電容量を検出する静電容量検出回路44と、スライドモータ26の回転に応じた回転検出信号を出力する位置検出装置27と、記憶装置71aと、前記前端部に近接する異物の有無を判定するためのドアパネルの位置に応じた閾値を有する異物近接判定回路71bとを備えるとともに、回転検出信号のパルス数をカウントする。記憶装置71aには、ドアパネルの位置に対応した検出値が基準値として記憶されるとともに、回転検出信号のパルス数に対応した検出値が記憶値として記憶される。そして、制御回路装置71は、基準値の波形と記憶値波形とを比較することにより、最新の記憶値の回転検出信号のパルス数を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開口部を開閉するための開閉部材をモータ等の駆動力により開閉作動させる開閉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車両には、側方に設けられたドアパネル(開閉部材)をモータの駆動力によって車両の前後方向にスライド移動させることにより乗降口を開閉する電動スライドドア装置を備えたものがある。例えば特許文献1に記載された電動スライドドア装置においては、ドアパネルは、車両の前後方向に延びるガイドレールを介して車体に固定されるとともに、該ドアパネルには車両の前後方向からケーブルが接続されている。そして、このケーブルがモータの駆動力によって作動されると、ガイドレールに案内されてドアパネルがスライド移動される。
【0003】
また、電動スライドドア装置は、ドアパネルの前端部と乗降口の周縁部との間に異物が挟み込まれることを防止するために、ドアパネルの前端部に近接する異物を検出する異物検出装置を備えたものが一般的である。このような異物検出装置としては、ドアパネルの前端部にセンサ電極を配置して、ドアパネルの閉作動時に、ドアパネルの前方にある物体とセンサ電極との間の静電容量を検出し、検出した静電容量に基づいてドアパネルの前端部に近接する異物を検出するものが知られている。この種の異物検出装置は、センサ電極を用いて検出した静電容量と、予め設定された閾値とを比較して、検出した静電容量が閾値を超えた場合に、ドアパネルの前端部に近接する異物があると判定するように構成されている。そして、異物があると判定された場合には、ドアパネルは全開位置側に向けて移動される。
【0004】
ところで、閉作動中のドアパネルが全閉位置に近づくと、センサ電極が車体のセンターピラーに近接するため、センサ電極を用いて検出される静電容量の値が急激に大きくなる。そのため、電動スライドドア装置では、センターピラーが異物として検出されることを防止すべく、ドアパネルが全閉位置に近づくに連れて増加するようにドアパネルの位置に応じて閾値を設定し、ドアパネルの前端部と乗降口の周縁部との間に異物が存在しない場合に検出される静電容量の値と閾値との差がほぼ一定となるようにしている。例えば、特許文献1に記載の電動スライドドア装置は、モータの出力軸の回転量に応じたパルス信号を出力するホールICを備えており、該ホールICが出力するパルス信号に基づいてドアパネルの位置を検出し、検出したドアパネルの位置に応じた閾値と、センサ電極を用いて検出した静電容量の値とを比較することによりドアパネルの前端部に近接する異物の有無を判定するようにしている。
【0005】
また、一般的に、モータの駆動力をドアパネルに伝達する機構には、機械的ながたつきが存在する。そのため、車両が前下がりに傾斜すると、ドアパネルは、その自重によって全閉位置側に付勢されて機械的ながたつきの範囲内で全閉位置側に移動される。すると、実際のドアパネルの位置は、ホールICからのパルス信号に基づいて検出されるドアパネルの位置よりも全閉位置側にずれてしまう。その結果、センサ電極がセンターピラーに近接して静電容量が増大される全閉位置付近をドアパネルが閉作動している場合には、実際のドアパネルの位置に応じた閾値よりも小さい閾値を用いてドアパネルの前端部に近接する異物の有無が判定されることになるため、異物が存在しないにも関わらず静電容量の値が閾値を超えてしまい、センターピラーが異物として誤検出される虞がある。一方、車両が後ろ下がりに傾斜すると、ドアパネルは、その自重によって全開位置側に付勢されて機械的ながたつきの範囲内で全開位置側に移動される。すると、実際のドアパネルの位置は、ホールICからのパルス信号に基づいて検出されるドアパネルの位置よりも全開位置側にずれてしまう。そのため、ドアパネルの前端部に近接する異物が存在しない状態でドアパネルが全閉位置付近を閉作動している場合、パルス信号に基づいて検出されたドアパネルの位置に応じた閾値と、センサ電極を用いて検出された静電容量の値との差が大きくなる。その結果、ドアパネルに近接する異物の検出感度が低下されてしまう。そこで、特許文献1に記載の電動スライドドア装置は、車両の傾きを検出する傾斜センサを備え、車両の傾斜に応じて閾値を変化させるようにしている。
【特許文献1】特開2007−23585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、車両の傾斜状態が同じ場合であっても、ホールICのパルス信号に基づいて検出されるドアパネルの位置と実際のドアパネルの位置との位置ずれ量は常に等しいとは限らない。また、電動スライドドア装置の組付け精度によって、実際のドアパネルの位置と、ホールICのパルス信号に基づいて検出されるドアパネルの位置とが、最初から若干ずれている場合もある。そのため、傾斜センサにて検出される車両の傾斜に応じて閾値を変更するようにした場合であっても、閾値を常に実際のドアパネルの位置に応じた値とすることは困難であり、異物の検出精度が低下される虞がある。
【0007】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、機械的ながたつきによる開閉部材の位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる開閉部材制御装置及び開閉装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、被開閉体に設けられた開閉部材を、前記被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で、駆動手段を介して開閉作動させるための開閉部材制御装置であって、前記開閉部材の閉側端部と該閉側端部に近接する物体との間の距離に応じた検出信号に基づく検出値を出力する検出センサと、前記開閉部材の移動に応じた位置信号を出力する信号出力手段と、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置を認識する位置認識手段と、前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を基準値として記憶する第1記憶手段と、前記第1記憶手段に前記基準値が記憶された状態で、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を記憶値として記憶する第2記憶手段と、前記開閉部材の位置に応じて設定された前記閉側端部に近接する異物の有無を判定するための閾値を有し、前記閾値と前記検出値とを比較しその比較結果に応じて前記閉側端部に近接する前記異物の有無を判定する判定手段と、前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較しその比較結果に応じて前記位置認識手段で認識した前記開閉部材の位置を補正する補正手段と、を備えたことをその要旨としている。
【0009】
同構成によれば、第1記憶手段に記憶される基準値は、開閉部材の位置に対応した検出センサの検出値であるとともに、第2記憶手段に記憶される記憶値は、位置信号に基づく開閉部材の位置に対応した検出センサの検出値である。従って、第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較することにより、開閉部材がある任意の位置に配置されたときの、第1記憶手段に基準値として記憶された検出値に対応した開閉部材の位置と、第2記憶手段に記憶値として記憶された検出値に対応した位置信号に基づく開閉部材の位置との位置ずれ量を検出することが可能である。よって、第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較した結果に応じて、位置認識手段で認識した開閉部材の位置を補正することにより、実際の開閉部材の位置を把握することができる。そして、閾値は、開閉部材の位置に応じて設定されていることから、実際の開閉部材の位置に対応した閾値を用いて、開閉部材の閉側端部に近接する異物の有無を判定することができる。その結果、機械的ながたつきによる開閉部材の位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる。また、位置認識手段にて認識した開閉部材の位置と、実際の開閉部材の位置とのずれを検出するために、傾斜センサ等の特別なセンサを用いなくてもよいため、製造コストの増大が抑制される。尚、本発明において「比較」とは、2つの値を直接比較することに限らず、2つの値を加工して比較することも含む。
【0010】
請求項2に記載の発明は、被開閉体に設けられた開閉部材を、前記被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で、駆動手段を介して開閉作動させるための開閉部材制御装置であって、前記開閉部材の閉側端部と該閉側端部に近接する物体との間の距離に応じた検出信号に基づく検出値を出力する検出センサと、前記開閉部材の移動に応じた位置信号を出力する信号出力手段と、前記位置信号に基づいて前記開閉部材の位置を認識する位置認識手段と、前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの検出値を基準値として記憶する第1記憶手段と、前記第1記憶手段に前記基準値が記憶された状態で、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を記憶値として記憶する第2記憶手段と、前記開閉部材の位置に応じて設定された前記閉側端部に近接する異物の有無を判定するための閾値を有し、前記閾値と前記検出値とを比較しその比較結果に応じて前記閉側端部に近接する前記異物の有無を判定する判定手段と、前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較しその比較結果に応じて、前記第1記憶手段で記憶した前記開閉部材の位置を補正する補正手段と、を備えたことをその要旨としている。
【0011】
同構成によれば、第1記憶手段に記憶される基準値は、開閉部材の位置に対応した検出センサの検出値であるとともに、第2記憶手段に記憶される記憶値は、位置信号に基づく開閉部材の位置に対応した検出センサの検出値である。従って、第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較することにより、開閉部材がある任意の位置に配置されたときの、第1記憶手段に基準値として記憶された検出値に対応した開閉部材の位置と、第2記憶手段に記憶値として記憶された検出値に対応した位置信号に基づく開閉部材の位置との位置ずれ量を検出することが可能である。また、閾値は、開閉部材の位置に対応した値であることから、第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較した結果に応じて、第1記憶手段に記憶した開閉部材の位置を補正することにより、位置信号に基づく開閉部材の位置に対応した閾値を、実際の開閉部材の位置に応じた閾値とすることができる。その結果、実際の開閉部材の位置に対応した閾値を用いて、開閉部材の閉側端部に近接する異物の有無を判定することができ、機械的ながたつきによる開閉部材の位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる。また、位置認識手段にて認識した開閉部材の位置と、実際の開閉部材の位置とのずれを検出するために、傾斜センサ等の特別なセンサを用いなくてもよいため、製造コストの増大が抑制される。尚、本発明において「比較」とは、2つの値を直接比較することに限らず、2つの値を加工して比較することも含む。
【0012】
請求項3に記載の発明は、被開閉体に設けられた開閉部材を、前記被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で、駆動手段を介して開閉作動させるための開閉部材制御装置であって、前記開閉部材の閉側端部と該閉側端部に近接する物体との間の距離に応じた検出信号に基づく検出値を出力する検出センサと、前記開閉部材の移動に応じた位置信号を出力する信号出力手段と、前記位置信号に基づいて前記開閉部材の位置を認識する位置認識手段と、前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの検出値を基準値として記憶する第1記憶手段と、前記第1記憶手段に前記基準値が記憶された状態で、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を記憶値として記憶する第2記憶手段と、前記開閉部材の位置に応じて設定された前記閉側端部に近接する異物の有無を判定するための閾値を有し、前記閾値と前記検出値とを比較しその比較結果に応じて前記閉側端部に近接する前記異物の有無を判定する判定手段と、前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較しその比較結果に応じて前記閾値に対応された前記開閉部材の位置を補正する補正手段と、を備えたことをその要旨としている。
【0013】
同構成によれば、第1記憶手段に記憶される基準値は、開閉部材の位置に対応した検出センサの検出値であるとともに、第2記憶手段に記憶される記憶値は、位置信号に基づく開閉部材の位置に対応した検出センサの検出値である。従って、第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較することにより、開閉部材がある任意の位置に配置されたときの、第1記憶手段に基準値として記憶された検出値に対応した開閉部材の位置と、第2記憶手段に記憶値として記憶された検出値に対応した位置信号に基づく開閉部材の位置との位置ずれ量を検出することが可能である。また、閾値は、開閉部材の位置に対応した値であることから、基準値と閾値とは対応している。従って、第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較した結果に応じて、閾値における開閉部材の位置を補正することにより、位置信号に基づく開閉部材の位置に対応した閾値を、実際の開閉部材の位置に応じた閾値とすることができる。その結果、実際の開閉部材の位置に対応した閾値を用いて、開閉部材の閉側端部に近接する異物の有無を判定することができ、機械的ながたつきによる開閉部材の位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる。また、位置認識手段にて認識した開閉部材の位置と、実際の開閉部材の位置とのずれを検出するために、傾斜センサ等の特別なセンサを用いなくてもよいため、製造コストの増大が抑制される。尚、本発明において「比較」とは、2つの値を直接比較することに限らず、2つの値を加工して比較することも含む。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の開閉部材制御装置において、前記第1記憶手段は、前記基準値を、前記閉側端部と該閉側端部に対向する前記開口部の周縁部分との間に前記異物が存在しない状態で前記開閉部材を閉作動させたときに記憶することをその要旨としている。
【0015】
同構成によれば、開閉部材を閉作動させたときの検出センサの検出値が、被開閉体ごとに異なっている場合であっても、各被開閉体に応じた検出値を基準値として第1記憶手段に記憶することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の開閉部材制御装置において、前記補正手段は、前記全閉位置から前記全開位置までの範囲よりも小さい予め設定された検索範囲に亘って、前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較することをその要旨としている。
【0017】
同構成によれば、第1記憶手段に記憶された全開位置から全閉位置まで開閉部材の全ての移動領域亘る基準値と、第2記憶手段に記憶された記憶値とを比較する場合に比べて、補正手段の負荷を小さくすることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の開閉部材制御装置において、前記検索範囲は、前記全閉位置から前記全開位置までの範囲よりも小さく且つ前記駆動手段に存在する機械的な最大位置ずれ量以上となる範囲に設定されていることをその要旨としている。
【0019】
同構成によれば、実際の開閉部材の位置に対し、位置信号に基づく開閉部材の位置が、駆動手段に存在する機械的ながたつきによる最大位置ずれ量分だけずれていた場合であっても、補正手段は、検索範囲に対応した第1記憶手段の記憶内容と第2記憶手段の記憶内容とを比較して、その最大位置ずれ量に応じて適切に補正を行うことができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で開閉作動される開閉部材と、駆動モータの駆動力を前記開閉部材に伝達する駆動手段と、請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の開閉部材制御装置と、を備えた開閉装置とすることをその要旨としている。
【0021】
同構成によれば、開閉装置において、実際の開閉部材の位置と位置信号に基づく開閉部材の位置との位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる。
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の開閉装置において、前記被開閉体は車体であり、前記開閉部材は、前記車体の側方に設けられた前記開口部としての乗降口を開閉すべく前記車体の前後方向にスライド移動されるドアパネルであることをその要旨としている。
【0022】
同構成によれば、車両の側方に設けられた乗降口を開閉すべくスライド移動されるドアパネルを供えた開閉装置において、実際のドアパネルの位置と位置信号に基づくドアパネルの位置との位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、機械的ながたつきによる開閉部材の位置ずれに起因した異物の検出精度の低下を抑制可能な開閉部材制御装置及び開閉装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、電動スライドドア装置(開閉装置)1を搭載した車両2を示す斜視図である。図1に示すように、車両2は、導電性金属材料よりなる車体3を備えるとともに、該車体3の左側側面には、四角形状をなす開口部としての乗降口4が形成されている。この乗降口4は、導電性金属材料により形成され該乗降口4に応じた四角形状をなすドアパネル5によって開閉される。また、図2に示すように、乗降口4の前方には、導電性を有する助手席側ドアパネル6が設けられるとともに、乗降口4を閉鎖した状態のドアパネル5と前記助手席側ドアパネル6との間には、導電性を有するセンターピラー7が車両2の上下方向に延びるように設けられている。
【0025】
図1に示すように、前記ドアパネル5は、乗降口4を開閉するために作動機構11を介して車体3に対して略前後方向に移動可能に取り付けられるとともに、該ドアパネル5には、ラッチ等のロック機構(図示略)が設けられている。このロック機構は、ドアパネル5が乗降口4を閉鎖した状態(即ちドアパネル5が全閉位置Pc(図2参照)に配置された状態)にある場合に、ドアパネル5を車体3に対して移動不能とすべく固定するためのものである。そして、ロック機構の近傍には、リミットスイッチ等にて構成されたハーフラッチ検出手段(図示略)が設けられるとともに、該ハーフラッチ検出手段は、当該ロック機構がハーフラッチ状態になると、ハーフラッチ検出信号を電動スライドドア装置1の制御回路装置71(図4参照)に出力する。
【0026】
前記作動機構11は、車体3に設けられたアッパレール12、ロアレール13、センターレール14、及びドアパネル5側に設けられたアッパアーム15、ロアアーム16、センターアーム17から構成されている。
【0027】
アッパレール12及びロアレール13は、車両2において乗降口4の上部及び下部にそれぞれ設けられ、車両2の前後方向に沿って延びている。センターレール14は、車両2において乗降口4よりも後方となる部位の略中央部に設けられ、車両2の略前後方向に沿って延びている。これら各レール12〜14は、その後端から前端側に向かって車両2の前後方向に沿うように直線的に形成されるとともに、途中からその前端側が車室内側に向くように湾曲している。
【0028】
前記各アーム15〜17は、ドアパネル5の車室内側の面における上部、下部及び中央部の所定位置にそれぞれ固定されている。そして、アッパアーム15は前記アッパレール12に対して、ロアアーム16は前記ロアレール13に対して、センターアーム17は前記センターレール14に対してそれぞれ連結されるとともに、各アーム15〜17は、各レール12〜14に案内されて車両2の前後方向に移動可能となっている。
【0029】
また、前記ロアアーム16は、駆動機構21の駆動により前後方向に移動される。詳述すると、前記ロアレール13よりも車室内側となる位置には、車両2の上下方向の軸回りに回転する、駆動機構21の駆動プーリ22及び従動プーリ23が設けられている。そして、これら駆動プーリ22及び従動プーリ23には、無端ベルト24が掛け渡されるとともに、該無端ベルト24には、前記ロアアーム16の先端部が固定されている。
【0030】
また、図1及び図4に示すように、駆動プーリ22には、駆動機構21を構成するスライドアクチュエータ25が接続されている。スライドアクチュエータ25は、車室内側に配置されるとともに、スライドモータ26と、該スライドモータ26の回転を減速して前記駆動プーリ22に伝達する減速機構(図示略)とを備えている。そして、スライドモータ26が駆動されて駆動プーリ22が回転すると、無端ベルト24が従動回転して前記ロアアーム16が前後方向に移動し、前記ドアパネル5が前後方向にスライド移動される。
【0031】
また、スライドアクチュエータ25内には、スライドモータ26の回転を検出する位置検出装置27が配設されている。位置検出装置27は、例えば、スライドモータ26の回転軸(図示略)若しくは前記減速機構を構成する減速ギヤ(図示略)と一体回転するように設けられた永久磁石と、該永久磁石に対向配置されたホールIC(図示略)とから構成されるとともに、該ホールICは、回転検出信号(位置信号)として、永久磁石の回転による該永久磁石の磁界の変化に応じたパルス信号を出力する。因みに、ドアパネル5はスライドモータ26の駆動力によって作動されるため、回転検出信号は、ドアパネル5の位置及び移動量に応じた信号となる。そして、回転検出信号は、ドアパネル5が所定距離移動する毎に、H(高電位)レベルからL(低電位)レベルへ、若しくはLレベルからHレベルへその電位レベルが切り替わる。
【0032】
前記ドアパネル5内には、前記駆動機構21を構成するクローザアクチュエータ28が配置されている。クローザアクチュエータ28は、クローザモータ29と、該クローザモータ29の回転を減速する減速機構(図示略)とから構成されている。そして、クローザモータ29が駆動されると、前記ロック機構によるロックが可能な位置までドアパネル5が移動される。
【0033】
また、電動スライドドア装置1は、制御回路装置71に電気的に接続された操作スイッチ31を備えている。この操作スイッチ31は、車両2の搭乗者等によって乗降口4を開放するように該操作スイッチ31が操作されると、乗降口4を開放するようにドアパネル5をスライド移動させる旨の開信号を制御回路装置71に出力する。一方、操作スイッチ31は、搭乗者等によって乗降口4を閉鎖するように該操作スイッチ31が操作されると、乗降口4を閉鎖するようにドアパネル5をスライド移動させる旨の閉信号を制御回路装置71に出力する。この操作スイッチ31は、車室内の所定箇所(ダッシュボード等)やドアパネル5の車室内側の面、イグニッションキーと共に携行される携帯品(図示略)等に設けられている。
【0034】
また、電動スライドドア装置1は、ドアパネル5と乗降口4との間に存在する導電性の異物X1及び導電性を有さない異物X2(図2参照)を検出するための異物検出装置41を備えるとともに、該異物検出装置41は、センサ本体42、ON‐OFF検出部43及び静電容量検出回路44から構成されている。
【0035】
図2に示すように、ケーブル状のセンサ本体42は、ドアパネル5の閉作動時における進行方向前方側の端部、即ちドアパネル5の前端部5aに沿って配置されている。センサ本体42は、その長手方向の長さが、ドアパネル5の前端部5aの上下方向の長さと略等しい長さに形成されるとともに、絶縁性を有する樹脂材料(ゴム、エラストマ等)にて形成された保持部材(図示略)の内部に収容され、該保持部材を介してドアパネル5の前端部に固定されている。
【0036】
図3(a)に示すように、センサ本体42の中心部に設けられた絶縁層51は、絶縁性及び復元性を有する弾性変形可能な絶縁体(軟質の剛性樹脂材料やゴム等)により形成されるとともに、長尺状の略円筒状をなしている。この絶縁層51の径方向中央部には、該絶縁層51の長手方向に沿って延びる離間孔51aが形成されている。離間孔51aは、絶縁層51の径方向に沿った断面において周方向に等角度間隔となる4箇所に径方向外側に向かって凹設された離間凹部51b〜51eを絶縁層51の径方向中央部で繋いだ形状をなすことにより、絶縁層51の長手方向と直交する方向の断面形状が十字形状をなしている。そして、離間孔51aは、4つの離間凹部51b〜51eがそれぞれ螺旋状となるように絶縁層51の長手方向に沿って延びている。
【0037】
また、絶縁層51の内側には、該絶縁層51にて保持される電極線52a〜52dが配置されている。各電極線52a〜52dは、導電性細線を撚り合わせて形成され可撓性を有する中心電極53と、導電性及び弾性を有し中心電極53の外周を被覆する円筒状の導電被覆層54とから構成されている。そして、各電極線52a〜52dは、絶縁層51の4つの離間凹部51b〜51e間に、それぞれ離間凹部51b〜51eに沿った螺旋状をなすように配置されている。また、各電極線52a〜52dは、離間凹部51b〜51e間で、その周方向の半分強が絶縁層51内に埋設されている。
【0038】
図4に示すように、電極線52a及び電極線52cは、長手方向の一端(図4において右側の端部)で導通するとともに、電極線52b及び電極線52dも、長手方向の一端(図4において右側の端部)で導通している。そして、電極線52cと電極線52dとは、長手方向の他端(図4において左側の端部)で抵抗55を介して導通している。更に、電極線52bの長手方向の他端(図4において左側の端部)は、グランドGNDに接続される(車体3に接地される)とともに、電極線52aの長手方向の他端(図4において左側の端部)は、ON‐OFF検出部43に電気的に接続されている。そして、電極線52aには、制御回路装置71及びON‐OFF検出部43を介して電源が供給される。
【0039】
図3(a)に示すように、前記絶縁層51の外周には、導電性を有するセンサ電極56が設けられている。センサ電極56は、円筒状をなし、絶縁層51の長手方向の一端から他端までを被覆している。また、センサ電極56の外周は、円筒状の外皮57にて被覆されている。外皮57は、絶縁性を有する材料により形成され、弾性変形可能であるとともに、その長手方向の長さが絶縁層51の長手方向の長さと等しく形成されている。
【0040】
図4に示すように、前記ON‐OFF検出部43は、センサ本体42と共に、ドアパネル5と乗降口4の周縁との間に存在する異物X1,X2(図2参照)に接触して該異物X1,X2を検出する感圧センサを構成している。このON‐OFF検出部43は、グランドGNDに接続されている。
【0041】
ここで、センサ本体42に押圧力が加えられてない通常の状態(図3(a)に示す状態)では、電極線52aに供給される電流は、電極線52aから電極線52c,52dを介して電極線52bへ流れる際、抵抗55を介して流れる。一方、例えば矢印α方向からセンサ本体42に押圧力が加えられると(図3(b)に示す状態になると)、外皮57、センサ電極56及び絶縁層51が弾性変形して、電極線52a及び電極線52cの何れか一方と、電極線52b及び電極線52dの何れか一方とが接触して互いに導通し短絡される。すると、電極線52aから電極線52c,52dを介して電極線52bへ流れる電流は、抵抗55を介さずに流れることになり、通常の状態における電極線52aとグランドGNDとの間の電圧値に対して、電極線52aとグランドGNDとの間の電圧値が変化する。ON‐OFF検出部43は、この時の電極線52aとグランドGNDとの間の電圧値の変化を検出し、電極線52a及び電極線52cの何れか一方と電極線52b及び電極線52dの何れか一方とが接触して互いに短絡されたことに基づいて電圧値が変化したことを示す接触検出信号を制御回路装置71に出力する。例えば、ON‐OFF検出部43は、通常の状態における電極線52aとグランドGNDとの間の電圧値に基づいて設定された閾値を持っており、検出した電極線52aとグランドGNDとの間の電圧値が閾値を越えた場合に接触検出信号を出力する。尚、センサ本体42に対する押圧力が取り除かれると、外皮57、センサ電極56及び絶縁層51が復元し、電極線52a〜電極線52dも復元して非導通状態となる。
【0042】
前記静電容量検出回路44は、前記センサ電極56と電気的に接続されており、センサ電極56と共にドアパネル5と乗降口4の周縁との間に存在する導電性の異物X1を非接触で検出する静電容量型の近接センサを構成している。静電容量検出回路44は、ドアパネル5内に配置されるとともに、制御回路装置71に電気的に接続されている。そして、静電容量検出回路44は、センサ電極56と該センサ電極56に近接する物体(大地、センターピラー7、助手席側ドアパネル、導電性の異物X1等)との間の静電容量を検出する。即ち、静電容量検出回路44は、センサ本体42のセンサ電極56から入力される、センサ電極56と物体との間の距離に応じた電気信号(検出信号)に基づいてセンサ電極56における静電容量を検出する。そして、静電容量検出回路44は、検出した当該静電容量(検出値)を制御回路装置71に出力する。
【0043】
本実施形態の電動スライドドア装置1は、制御回路装置71にて制御される。この制御回路装置71は、ROM(Read only Memory)、RAM(Random access Memory)等の記憶装置71aを備えたマイクロコンピュータとしての機能を有する。そして、制御回路装置71は、例えばスライドモータ26の近傍に配置され、車両2のバッテリ72から駆動電源の供給を受けている。
【0044】
制御回路装置71は、前記ハーフラッチ検出手段、位置検出装置27、操作スイッチ31、ON‐OFF検出部43及び静電容量検出回路44から入力される各種信号に基づいてスライドアクチュエータ25及びクローザアクチュエータ28を制御する。即ち、制御回路装置71は、操作スイッチ31から開信号が入力されるとドアパネル5を全開位置Poまで開作動させ、閉信号が入力されるとドアパネル5を全閉位置Pcまで閉作動させるべくスライドモータ26を制御する。また、制御回路装置71は、ドアパネル5の閉作動時において、ハーフラッチ検出信号が入力されると、ロック機構によるロックが可能な位置までドアパネル5を移動させるべくクローザモータ29を制御する。
【0045】
また、制御回路装置71は、操作スイッチ31から閉信号が入力されると、ON‐OFF検出部43を駆動するとともに、ドアパネル5の閉作動中に、ON‐OFF検出部43から接触検出信号が入力されると、スライドモータ26を反転させてドアパネル5を所定量だけ全開位置Po側に向けてスライド移動させる。
【0046】
また、制御回路装置71はカウンタ回路(図示略)を備えており、該カウンタ回路は、回転検出信号の立上がり及び立下りをカウントする。本実施形態では、カウンタ回路は、ドアパネル5が開作動される際には、パルス数が加算されるように回転検出信号の立上がり及び立下りをカウントし、閉作動される際には、パルス数が減算されるように回転検出信号の立上がり及び立下りをカウントする。
【0047】
また、図4及び図5に示すように、制御回路装置71は、ドアパネル5の閉作動時に静電容量検出回路44から入力される検出値を、回転検出信号に基づくドアパネル5の位置に対応させて記憶装置71aに記憶する。詳しくは、制御回路装置71は、ドアパネル5の閉作動時に回転検出信号のパルス数が変化したことを検出すると、その時のパルス数に、その時に静電容量検出回路44から入力された検出値を対応させて記憶値(図5中、実線にて図示)として記憶装置71aに記憶する。
【0048】
また、制御回路装置71は、電動スライドドア装置1が使用され始めるときに初期化作動を行う。この初期化作動は、ドアパネル5の前端部5aと該前端部5aに対向する乗降口4の周縁部分との間に異物X1,X2が存在しない状態で全開位置Poから全閉位置Pcまで実際にドアパネル5を閉作動させ、静電容量検出回路44から出力される検出値を回転検出信号のパルス数に対応させて基準値として前記記憶装置71aに記憶するものである。詳しくは、制御回路装置71は、初期化作動中に回転検出信号のパルス数が変化する度に、その時のパルス数と、その時に静電容量検出回路44から入力された検出値とを対応させて基準値として記憶装置71aに記憶する。尚、基準値は、閉作動の開始箇所である全開位置Poから、閉作動の終了箇所である全閉位置Pcまでの回転検出信号のパルス数を有するため、基準値における回転検出信号のパルス数は、実際のドアパネル5の位置を示す値である。従って、基準値は実際のドアパネル5の位置に応じた情報となる。
【0049】
また、制御回路装置71は、前記静電容量検出回路44及びセンサ電極56と共に近接センサを構成する異物近接判定回路71bを備えている。異物近接判定回路71bは、ドアパネル5の前端部5aに近接する導電性の異物X1(図2参照)を検出するために、静電容量検出回路44から入力される検出値と比較するための閾値Thを持っている。そして、異物近接判定回路71bは、検出値と式位置Thとを比較して、検出値が閾値Thを超えた場合にドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1が存在すると判定し、前端部5aに近接する異物X1が存在することを示す異物検出信号を出力する。制御回路装置71は、ドアパネル5の閉作動中に異物近接判定回路71bから異物検出信号が出力されると、スライドモータ26を反転させてドアパネル5を所定量だけ全開位置Po側に向けてスライド移動させる。
【0050】
閾値Th(図5中、破線にて図示)は、ドアパネル5の位置に応じて設定されるとともに、ドアパネル5の前端部5aと該前端部5aと対向する乗降口の周縁部分との間に異物X1が存在しない状態で静電容量検出回路44にて検出される静電容量との差が一定となるように設定されている。例として基準値の波形を見ると、静電容量検出回路44にて検出される静電容量は、全閉位置Pcから、全閉位置Pcよりも全開位置Po側の所定位置までの範囲をドアパネル5が閉作動している場合には、ほぼ一定の値となることがわかる。そして、閉作動中のドアパネル5が前記所定位置を超えて以後は、静電容量検出回路44にて検出される静電容量は、ドアパネル5が全閉位置Pcに近づくに連れて基準値は二次関数的に大きくなることがわかる。従って、全開位置Poから全閉位置Pcよりも全開位置Po側となる所定位置までの範囲については、閾値Thは、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1が存在しない場合に静電容量検出回路44にて検出される静電容量よりも大きい一定の値に設定されている。そして、前記所定位置から全閉位置Pcまでの範囲については、閾値Thは、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1が存在しない場合に静電容量検出回路44にて検出される静電容量よりも大きい値で、全閉位置Pcに近づくほど大きくなるように設定されている。
【0051】
また、制御回路装置71は、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきに起因する、実際のドアパネル5の位置に対する、回転検出信号に基づくドアパネル5の位置の位置ずれ量dを検出するように構成されている。本実施形態では、この位置ずれ量dは、ドアパネル5が任意のある位置に配置されたときの、基準値における回転検出信号のパルス数から、記憶値における回転検出信号のパルス数を引いた差に該当する。
【0052】
ここで、位置ずれ量dの検出について詳述する。制御回路装置71は、記憶装置71aの記憶内容に基づいて、ドアパネル5が全閉位置Pcから閉作動したところまでの記憶値の波形と、基準値の波形とを比較し、記憶値の波形が基準値の波形に一致するところを検索し、その検索結果に基づいて位置ずれ量dを算出する。記憶値の波形と基準値の波形とを比較は、予め設定された検索範囲H(図6(a)参照)に亘って、ドアパネル5が全閉位置Pcから閉作動したところまでの記憶値の波形を1パルスずつずらしていき、ずらしたところでそれぞれドアパネル5が全閉位置Pcから閉作動したところまでの記憶値の波形が基準値の波形に一致するか否かを判定することによって行われる。
【0053】
検索範囲Hは、閉作動時において、最新の記憶値における回転検出信号のパルス数を基準として、全開位置Po側に所定パルス数に亘って設定されるとともに、全閉位置Pc側に所定パルス数に亘って設定されるものである。本実施形態では、検索範囲Hは、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきによって生じる最大位置ずれ量と等しく設定されている。最大位置ずれ量は、全閉位置Pc側に最大限ずれたときのドアパネル5の位置から、全開位置Po側に最大限ずれたときのドアパネル5の位置までの距離であり、検索範囲Hは、当該距離に相当する回転検出信号のパルス数N(Nは正の整数)と等しい値となる。従って、初期化作動時におけるドアパネル5の全閉位置Pc側への最大位置ずれ量分のパルス数を「n1(n1は正の整数)」とし、初期化作動時におけるドアパネル5の全開位置Po側への最大位置ずれ量分のパルス数を「n2(n2は正の整数)」とすると、検索範囲Hは、最新の記憶値における回転検出信号のパルス数を基準として、全開位置Po側にn2パルス、全閉位置Pc側にn1パルスの範囲となる。
【0054】
例えば、図5及び図6(a)に示すように、ドアパネル5の閉作動中にドアパネル5がドア位置P1(回転検出信号に基づくドア位置)に配置された場合、ドア位置P1における回転検出信号のパルス数を「M1(M1は正の整数)」とすると、制御回路装置71は、まず、全開位置Poからドア位置P1までの記憶値の波形と、全開位置Poからパルス数(M1−n1)に基づくドア位置までの基準値の波形とを比較して、両波形が一致するか否かを判定する。図6(a)には、比較した両波形が一致した状態を図示している。尚、「一致」とは、完全に一致することのほか、記憶値の波形が基準値の波形に基づいて予め設定した許容範囲内に入る(類似する)ことも意味する。そして、両波形が一致した場合には、位置ずれ量dは「−n1」パルスであると考えられる。
【0055】
次に、制御回路装置71は、基準値の波形に対して記憶値の波形を全閉位置Pc側に1パルスずらし、全開位置Poからパルス数(M1−n2−1)に基づくドア位置までの基準値の波形と、全開位置Poからドア位置P1までの記憶値の波形とを比較して、両波形が一致するか否かを判定する。このように、検索範囲Hに含まれるパルス数Nと同じ回数だけ、制御回路装置71は、基準値の波形に対して記憶値の波形を全閉位置Pc側に1パルスずつずらし、記憶値の波形をずらす度に記憶値の波形が基準値の波形に一致するか否かを判定する。そして、比較した記憶値の波形と基準値の波形とが一致した場合には、記憶値の波形を、制御回路装置71にて認識した回転検出信号の最新のパルス数(即ちM1)からずらした分のパルスの数が位置ずれ量dに該当すると考えられるので、制御回路装置71は、最新のパルス数に対してずらした分のパルスの数を記憶装置71aに記憶しておき、記憶したパルスの数から位置ずれ量dを算出する。位置ずれ量dの算出には、例えば移動平均が用いられる。そして、制御回路装置71は、算出した位置ずれ量d分だけ、回転検出信号の最新のパルス数を補正する。この補正は、回転検出信号の最新のパルス数(即ちM1)に位置ずれ量dを加算することにより行われる。そして、制御回路装置71は、補正した回転検出信号のパルス数に基づいてドアパネル5の位置を算出し、算出したドアパネル5の位置に対応した閾値Thと、パルス数M1(ドア位置P1)に対応した検出値とを比較して、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1の有無を判定する。
【0056】
ドア位置P1付近では、検出値はほぼ一定の値となるため、記憶値の波形は、殆どの場合、検索範囲Hに亘って比較した基準値の波形と一致すると判定されると考えられる。そのため、算出された位置ずれ量dは、実際のドアパネル5の位置に対して、全閉位置Pc(若しくは全開位置Po)側へ最大限ずれた最大位置ずれ量に類似した値となる。しかしながら、ドア位置P1付近に対応した閾値Thもほぼ一定の値であることから、回転検出信号のパルス数を位置ずれ量d分だけ補正して、補正した回転検出信号のパルス数に基づいてドアパネル5の位置を算出し、算出したドアパネル5の位置に対応した閾値Thを用いた場合であっても、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1の検出精度は一定に保たれる。
【0057】
次に、図5及び図6(b)に示すように、ドアパネル5が例えばドア位置P2まで閉作動された場合においても、制御回路装置71は、ドアパネル5がドア位置P1に配置されたときと同様に、認識した最新の回転検出信号のパルス数を基準として、全開位置Po側にn2パルス、全閉位置Pc側にn1パルスとなる検索範囲Hに亘り、ドアパネル5が閉作動され始めてからドア位置P2に配置されるまでの記憶値の波形を1パルスずつずらして基準値の波形と比較し、一致するか否かの判定を行う。図6(b)には、記憶値の波形が基準値の波形に一致した状態を図示している。そして、制御回路装置71は、判定結果に基づいて位置ずれ量dを算出する。
【0058】
ドアパネル5がドア位置P2まで閉作動されると、センターピラー7とセンサ電極56
との近接による影響を受けて検出値が増大し始める。従って、ドアパネル5がドア位置P1付近を閉作動している場合に比べて、記憶値の波形が基準値の波形に一致する範囲が狭くなってくる。そのため、算出された位置ずれ量dと、実際のドアパネル5の位置に対する実際の位置ずれ量との差が小さくなってくる。
【0059】
次に、図5及び図6(c)に示すように、ドアパネル5が例えばドア位置P3まで移動された場合においても、制御回路装置71は、ドアパネル5がドア位置P1に配置されたときと同様に、検索範囲Hに亘って、ドアパネル5が閉作動され始めてからドア位置P3に配置されるまでの記憶値の波形を1パルスずつずらして基準値の波形と比較し、一致するか否かの判定を行う。図6(c)には、記憶値の波形が基準値の波形に一致した状態を図示している。そして、制御回路装置71は、判定結果に基づいて、位置ずれ量dを算出する。
【0060】
ドアパネル5がドア位置P3まで閉作動されると、センターピラー7とセンサ電極56との近接による影響を受けて検出値が急激に増大し始める。従って、ドアパネル5がドア位置P2付近を閉作動している場合に比べて、記憶値の波形が基準値の波形に一致する範囲が更に狭くなり、算出された位置ずれ量dは、実際のドアパネル5の位置に対する実際位置ずれ量にほぼ一致するようになる。従って、算出された位置ずれ量d分だけ、回転検出信号の最新のパルス数を補正することにより、実際のドアパネル5の位置を把握することができるため、実際のドアパネル5の位置に対応した閾値Thを用いて前端部5aに近接する異物X1の検出を行うことができる。よって、ドアパネル5の前端部5aと乗降口4の周縁部分とが近接することにより異物X1が挟み込まれやすい範囲において、より高精度に異物X1の検出を行うことができる。
【0061】
制御回路装置71は、上記した位置ずれ算出処理を、ドアパネル5の閉作動中に回転検出信号のパルス数が変化する度に行う。ここで、図7に示す位置ずれ算出処理のフローチャートを参照して、位置ずれ補正を実現するための手順を説明する。
【0062】
ステップS1において、制御回路装置71は、変数Pを「回転検出信号に基づく現在のドア位置−n1」とするとともに、変数Sを閉作動開始からのドアパネル5の移動量とする。この変数Sは、ドアパネル5の閉作動が開始されてから減算されたパルスの数に該当する。
【0063】
次に、ステップS2において、制御回路装置71は、ドアパネル5の閉作動が開始されてから記憶された記憶値と基準値とを比較するための複数(本実施形態では3個)の変数A,B,Cを算出する。Aは、最新の記憶値から、Ma個前のパルス数のときの記憶値を差し引いた値であり、Bは、最新の記憶値から、Mb個前のパルス数のときの記憶値を差し引いた値である。尚、Ma及びMbは、全開位置Poにドアパネル5が配置されたときの回転検出信号のパルス数よりも小さい正の整数であり、例えばMa=3、Mb=5に設定される。また、Cは、最新の検出値から、最新の閉作動が開始されたときの記憶値を差し引いた値であって、閉作動が開始されてからの記憶値の変化量である(図5参照)。
【0064】
次いで、ステップS3において、制御回路装置71は、検索範囲H分のパルス数と同数(即ちN回)だけカウントするための変数Yを「0」としてステップS4に進む。ステップS4において、制御回路装置71は、Y<Nの場合、即ちNが0〜(N−1)の範囲の数である場合(ステップS4:YES)には、検索範囲Hに含まれるパルス数と同数のN回だけ順に、ドアパネル5の閉作動が開始されてからの記憶値の波形を、基準値の波形に対してずらして同基準値の波形に一致するところを検索すべくステップS5に進む。
【0065】
ステップS5において、制御回路装置71は、前記A,B,Cと比較するための基準値に基づく3つの変数a,b,cを算出する。aは、パルス数がPのときの基準値から、パルス数が(P+Ma)のときの基準値を差し引いた値であり、bは、パルス数がPのときの基準値から、パルス数が(P+Mb)のときの基準値を差し引いた値である。そして、cは、パルス数がPのときの基準値から、パルス数が(P+S)のときの基準値を差し引いた値である。
【0066】
次いで、ステップS6において、制御回路装置71は、Aとaとを比較すべく、(αa1<A−a<αa2)を満たすか否かを判定する。これは、Aとaとが一致するか否かを判定するための演算であり、(αa1<A−a<αa2)が満たされる場合には、Aとaとが一致するものとして、制御回路装置71はステップS7に進む。一方、(αa1<A−a<αa2)が満たされない場合には、Aとaとは一致しないものとして、制御回路装置71はステップS10に進む。尚、αa1及びαa2は、αa1<αa2を満たす整数であり、例えば、αa1=−2、αa2=2に設定される。
【0067】
ステップS7において、制御回路装置71は、Bとbとを比較すべく、(αb1<B−b<αb2)を満たすか否かを判定する。これは、Bとbとが一致するか否かを判定するための演算であり、(αb1<B−b<αb2)が満たされる場合には、Bとbとが一致するものとして、制御回路装置71はステップS8に進む。一方、(αb1<B−b<αb2)が満たされない場合には、Bとbとは一致しないものとして、制御回路装置71はステップS10に進む。尚、αb1及びαb2は、αb1<αb2を満たす整数であり、例えば、αb1=−2、αb2=2に設定される。
【0068】
ステップS8において、制御回路装置71は、Cとcとを比較すべく、(αc1<C−c<αc2)を満たすか否かを判定する。これは、Cとcとが一致するか否かを判定するための演算であり、(αc1<C−c<αc2)が満たされる場合には、Cとcとが一致するものとして、制御回路装置71はステップS9に進む。一方、(αc1<C−c<αc2)が満たされない場合には、Cとcとは一致しないものとして、制御回路装置71はステップS10に進む。尚、αc1及びαc2は、αc1<αc2を満たす整数であり、例えば、αc1=−2、αc2=2に設定される。
【0069】
ステップS9において、制御回路装置71は、P_SUB[Y]=Yとする。即ち、Aとa、Bとb、並びにCとcが全て一致したとき(即ち閉作動が開始されてからの記憶値の波形が基準値の波形に一致するところが見つかった場合)に、制御回路装置71は、その時のYの値を配列P_SUB[Y]に格納する。そして、制御回路装置71は、ステップS11に進む。
【0070】
ステップS10において、制御回路装置71は、配列P_SUB[Y]に、直前に算出された位置ずれ量dに前記n1を加算した値を格納する。即ち、Aとa、Bとb、並びにCとcの何れか1つでも一致しなかった場合(記憶値の波形が、対応させている基準値の波形の一部分に一致しない場合)には、配列P_SUB[Y]に前回に算出した位置ずれ量dにn1を加算した値を格納してステップS11に進む。
【0071】
ステップS11において、制御回路装置71は、P=(P+1)、N=(N+1)として前記ステップS4に進む。
そして、前記ステップS4において、制御回路装置71は、Y<Nでない場合(ステップS4:NO)、即ち、検索範囲Hのパルス数Nと同数だけステップS5〜S11を繰り返すことにより、閉作動が開始されてからの静電容量(検出値)の波形を1パルスずつずらしていき、検索範囲のパルス数分だけずれるところまで静電容量の波形と基準値の波形との比較が終了すると、ステップS12に進む。
【0072】
ステップS12において、制御回路装置71は、位置ずれ量dを算出して位置ずれ算出処理を終了する。本実施形態では、配列P_SUB[Y]の移動平均を算出することにより、位置ずれ量dを算出している。そして、制御回路装置71は、算出した位置ずれ量dを、回転検出信号のパルス数に加算することにより、最新の回転検出信号のパルス数を補正する。
【0073】
図8は、制御回路装置71が行う総括的な処理を示すフローチャートである。この処理は、車両2に搭載された電子キーシステムを構成する電子キーから発信されたドアパネル5の施錠・解錠を指示する信号を車両2の制御装置(図示略)が受信している場合等、ドアパネル5の開閉作動が行われる可能性のある場合に行われるものである。
【0074】
制御回路装置71は、ステップS21において、この時点では初期化作動を行っていない場合もあるので、位置ずれ量dを「0」とする。次いで、ステップS22において、制御回路装置71は、ドアパネル5が閉作動していない場合(ステップS22:NO)にはステップS21に進み、ドアパネル5が閉作動している場合(ステップS22:YES)には、ステップS23に進む。
【0075】
ステップS23において、制御回路装置71は、静電容量検出回路44から出力された現在の静電容量の値(検出値)を認識して、ステップS24に進む。そして、ステップS24において、制御回路装置71は、回転検出信号に基づく現在のドア位置、即ち回転検出信号の現在のパルス数を認識してステップS25に進む。
【0076】
ステップS25において、制御回路装置71は、記憶装置71aに全開位置Poから全閉位置Pcまで回転検出信号のパルス数に対応する検出値をそれぞれ記憶する初期化作動が終了している場合(ステップS25:YES)にはステップS26に進み、初期化作動が終了していない場合(ステップS25:NO)には、初期化作動を行うべくステップS27に進む。
【0077】
ステップS27において、制御回路装置71は、ドアパネル5の位置が変化したか否か、即ち回転検出信号のパルス数が変化したか否かを判定する。そして、制御回路装置71は、回転検出信号のパルス数が変化している場合(ステップS27:YES)にはステップS28に進み、その回転検出信号のパルス数(即ち前記ステップS24にて認識した回転検出信号のパルス数)に対応させて静電容量検出回路44から入力された検出値(即ち前記ステップS23にて認識した検出値)を記憶装置71aに記憶してステップS29に進む。
【0078】
一方、回転検出信号のパルス数が変化していない場合(ステップS27:NO)には、制御回路装置71は、ステップS30においてドアパネル5が停止しているか否か、即ち閉作動が完了しているか否かを判定し、ドアパネル5が停止していない場合(ステップS30:NO)にはステップS29に進む。そして、ドアパネル5が停止している場合には、制御回路装置71は、閉作動が完了しているものとしてステップS31において初期化作動を完了し、ステップS29に進む。尚、ドアパネル5が停止しているか否かの判定は、例えば、スライドモータ26に供給される電流の電流値に基づいて行われる。
【0079】
ステップS29において、制御回路装置71は、異物近接判定回路71bからドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1が存在することを示す異物検出信号が出力されないようにして前記ステップS22に進む。
【0080】
前記ステップS26において、制御回路装置71は、ドアパネル5の位置が変化したか否か、即ち回転検出信号のパルス数が変化したか否かを判定する。そして、制御回路装置71は、回転検出信号のパルス数が変化している場合(ステップS26:YES)にはステップS32に進み、前述した位置ずれ算出処理を行ってステップS33に進む。一方、回転検出信号のパルス数が変化していない場合(ステップS26:NO)には、制御回路装置71はステップS33に進む。
【0081】
ステップS33において、制御回路装置71は、異物近接判定回路71bにおいて閾値ThとステップS23にて認識した検出値と閾値Thとを比較してステップS34に進む。そして、ステップS34において、ステップS33における比較結果に基づき、制御回路装置71は、検出値が閾値Thを越えていない場合(ステップS34:NO)には前記ステップS29に進み、検出値が閾値Thを超えている場合(ステップS34:YES)には、ステップS35において異物近接判定回路71bから異物検出信号を出力して前記ステップS22に進む。
【0082】
上記したように、本実施形態によれば、以下の効果を有する。
(1)基準値は、初期化作動時にドアパネル5が全開位置Poから全閉位置Pcまで閉作動されたときの回転検出信号のパルス数と、静電容量検出回路44にて検出される静電容量(即ちセンサ電極56と該センサ電極56に近接する物体との間の静電容量)との関係が明らかな情報であって、実際のドアパネル5の位置に応じた情報である。また、記憶値は、閉作動時における回転検出信号のパルス数と、静電容量検出回路44にて検出される静電容量との関係を示す情報である。従って、記憶装置71aの記憶内容に基づく基準値の波形と記憶値の波形とを比較することにより、初期化作動時と進行中の閉作動とにおいて同じ位置にドアパネル5が配置されたときの回転検出信号のパルス数のずれ(即ち位置ずれ量d)を検出することができる。よって、基準値の波形と記憶値の波形とを比較した結果に応じて、最新の回転検出信号のパルス数を補正することにより、補正した回転検出信号のパルス数に基づいて実際のドアパネル5の位置を把握することができる。即ち、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきによって、回転検出信号に基づくドアパネル5の位置と、実際のドアパネル5の位置とにずれが生じている場合であっても、実際のドアパネル5の位置を把握することができる。そして、閾値Thは、ドアパネル5の位置に応じて設定されていることから、実際のドアパネル5の位置に対応した閾値Thを用いて、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1の有無を判定することができる。その結果、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきによるドアパネル5の位置ずれに起因した異物X1の検出精度の低下を抑制することができる。また、制御回路装置71は、初期化作動時に記憶装置71aに記憶した基準値と、進行中の閉作動において記憶装置71aに記憶した記憶値とを比較して算出された位置ずれ量dに応じて最新の回転検信号のパルス数を補正し、補正した回転検出信号のパルス数に基づいて実際のドアパネル5の位置を把握する。そのため、経時劣化によって機械的ながたつきの程度が大きくなった場合であっても、位置ずれ量dの検出を行うことができる。
【0083】
(2)回転検出信号に基づくドアパネル5の位置と、実際のドアパネル5の位置との位置ずれ量dを検出するために、傾斜センサ等の特別なセンサを用いなくてもよいため、製造コストの増大が抑制される。
【0084】
(3)位置ずれ算出処理に用いられる基準値は、ドアパネル5の前端部5aと該前端部5aと対向する乗降口4の周縁部分との間に異物X1,X2が存在しない状態で実際にドアパネル5を閉作動させて記憶装置71aに記憶される。従って、ドアパネル5の前端部5aと該前端部5aと対向する乗降口4の周縁部分との間に異物X1,X2が存在しない状態でドアパネル5を閉作動させた場合に静電容量検出回路44にて検出される静電容量の値(即ち検出値)が車両2ごとに異なる場合であっても、各車両2に応じた基準値を記憶装置71aに記憶することができる。
【0085】
(4)位置ずれ量dを算出するための基準値の波形と記憶値の波形との比較は、ドアパネル5の閉作動中に回転検出信号のパルス数が変化する度に、検索範囲Hに亘って1パルスずつ基準値の波形に対して記憶値の波形をずらして行われる。従って、全閉位置Pcから全開位置Poまで1パルスずつ記憶値の波形をずらして基準値の波形と記憶値の波形とを比較する場合に比べて、制御回路装置71の負荷を小さくすることができる。
【0086】
(5)検索範囲Hは、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきによって生じる最大位置ずれ量と等しく設定されている。従って、実際のドアパネル5の位置に対し、回転検出信号に基づく開閉部材の位置が、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきによる最大位置ずれ量分だけずれていた場合であっても、制御回路装置71は、その最大限の位置ずれ量dを検出することができ、回転検出信号に基づくドアパネル5の位置を最大限の位置ずれ量dに応じて適切に補正することができる。
【0087】
(6)記憶値の波形と比較して位置ずれ量dを検出するための基準値は、ドアパネル5の前端部5aと乗降口4の周縁部との間に異物X1,X2が存在しない状態で全開位置Poから全閉位置Pcまでドアパネル5が閉作動されたときの回転検出信号のパルス数と静電容量検出回路44にて検出される静電容量(即ちセンサ電極56と該センサ電極56に近接する物体との間の静電容量)との関係が明らかなものであればよい。従って、基準値を記憶する初期化作動は、車両2の状態(傾斜等)がどのような状態であっても行うことができる。よって、初期化作動を行う際に、車両2を特定の状態(水平な状態等)とする必要が無いため、容易に初期化作動を行うことができる。
【0088】
尚、本発明の実施形態は、以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、スライドモータ26の駆動力によりドアパネル5をスライド移動させて車両2の左側側面に設けられた乗降口4を開閉する電動スライドドア装置1に本発明を具体化した。しかしながら、駆動モータの駆動力によりドアパネルを移動させて開口部を開閉する開閉装置であれば、上記実施形態のスライドドア装置1以外の開閉装置に本発明を適用してもよい。例えば、車両の後方に設けられた開口部を跳ね上げ式のバックドアにて開閉する開閉装置に本発明を具体化してもよい。
【0089】
・上記実施形態では、検索範囲Hは、作動機構11及び駆動機構21に存在する機械的ながたつきによって生じる最大位置ずれ量と等しく設定されている。しかしながら、検索範囲Hの大きさはこれに限らない。検索範囲Hは、全閉位置Pcから全開位置Poまでの範囲よりも小さく、且つ、ドアパネル5の最大位置ずれ量以上の範囲に設定されればよい。
【0090】
・上記実施形態では、基準値は、ドアパネル5の前端部5aと該前端部5aと対向する乗降口4の周縁部分との間に異物X1,X2が存在しない状態で実際にドアパネル5を閉作動させて、静電容量検出回路44にて検出した静電容量の値である。しかしながら、ドアパネル5の前端部5aと該前端部5aと対向する乗降口4の周縁部分との間に異物X1,X2が存在しない状態で実際にドアパネル5を閉作動させて静電容量検出回路44にて静電容量を測定する実験を行い、その実験結果に基づいて設定された値を基準値として記憶装置71aに記憶させておいてもよい。この場合、初期化作動が不要となる。
【0091】
・上記実施形態では、位置ずれ算出処理のステップS10において、制御回路装置71は、基準値の波形と記憶値の波形とが一致しない場合には、直前に算出した位置ずれ量dを配列P_SUB[Y]に格納する。しかしながら、制御回路装置71は、基準値の波形と記憶値の波形とが一致した場合のYのみを配列P_SUB[Y]に格納し、位置ずれ量dの算出の際には、配列P_SUB[Y]の総和を格納されたデータの数で割るようにしてもよい。
【0092】
・上記実施形態では、位置ずれ算出処理のステップS12において、制御回路装置71は、位置ずれ量dを算出するために配列P_SUB[Y]の移動平均を求めている。しかしながら、位置ずれ量dを算出するための演算は、移動平均に限らず、二乗平均等であってもよい。
【0093】
・上記実施形態では、位置ずれ算出処理のステップS2において、基準値の波形と記憶値の波形とを比較するために、制御回路装置71は3つの変数A〜Cを算出している。この変数は、4つ以上であってもよい。この場合、最新の記憶値から差し引く記憶値に対応するパルス数を、Ma及びMbと異なる値にするとともに、ステップS2にて算出する変数a〜cを変数A〜Cに応じて4つ以上とすればよい。
【0094】
・上記実施形態では、制御回路装置71は、位置ずれ量dに応じて最新の回転検出信号のパルス数を補正し、補正した回転検出信号のパルス数に基づいてドアパネル5の位置を算出している。しかしながら、制御回路装置71は、位置ずれ量dに相当するドアパネル5の移動距離を算出し、算出した移動距離に応じて、最新の回転検出信号のパルス数に基づいて算出されたドアパネル5の位置を補正してもよい。
【0095】
・上記実施形態では、制御回路装置71は、位置ずれ量dに応じて最新の回転検出信号のパルス数を補正するように構成されている。しかしながら、制御回路装置71は、位置ずれ量dに応じて基準値における回転検出信号のパルス数を補正するように構成されてもよい。この場合、制御回路装置71は、基準値における検出値に対応された回転検出信号のパルス数を、位置ずれ量d分だけずらすように補正する。このように補正すると、基準値は、全開位置Poから全閉位置Pcまでのドアパネル5の位置に対応した情報であるとともに、閾値Thも全開位置Poから全閉位置Pcまでのドアパネル5の位置に対応した情報であることから、基準値におけるドアパネル5の位置を位置ずれ量d分だけずらすと、閾値Thに対応されたドアパネル5の位置が、位置ずれ量dに応じたドアパネル5の移動量分だけずれることになる。従って、基準値の波形と記憶値の波形とを比較して算出した位置ずれ量dに応じて、記憶装置71aに記憶された基準値におけるドアパネル5の位置(即ち初期化作動時に記憶された回転検出信号に基づくパルス数)を補正することにより、最新の回転検出信号のパルス数に基づくドアパネル5の位置に対応した閾値Thを、実際のドアパネル5の位置に応じたものとすることができる。その結果、実際のドアパネル5の位置に対応した閾値Thを用いて、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1の有無を判定することができる。その結果、機械的ながたつきによるドアパネル5の位置ずれに起因した異物X1の検出精度の低下を抑制することができる。また、上記実施形態の(2)と同様の作用効果を得ることができる。
【0096】
また、制御回路装置71は、位置ずれ量dに応じて閾値Thに対応されたドアパネル5の位置を補正するように構成されてもよい。この場合、制御回路装置71は、閾値Thにおけるドアパネル5の位置を、位置ずれ量dに相当するドアパネル5の移動距離分だけずらすように補正する(図5中、二点鎖線参照)。そして、制御回路装置71は、異物近接判定回路71bにおいて、最新の回転検出信号のパルス数に基づいて算出したドアパネル5の位置に対応する閾値Th(ドアパネル5の位置が補正された閾値)を用いて、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1の有無を判定する。閾値Thはドアパネル5の位置に対応した値であることから、基準値と閾値Thとは対応している。よって、基準値の波形と記憶値の波形とを比較した結果に応じて、基準値と対応する閾値Thにおけるドアパネル5の位置を補正することにより、最新の回転検出信号のパルス数に基づくドアパネル5の位置に対応した閾値Thは、実際のドアパネル5の位置に応じた閾値Thとなる。従って、実際のドアパネル5の位置に対応した閾値Thを用いて、ドアパネル5の前端部5aに近接する異物X1の有無を判定することができる。その結果、機械的ながたつきによるドアパネル5の位置ずれに起因した異物X1の検出精度の低下を抑制することができる。た、上記実施形態の(2)と同様の作用効果を得ることができる。
【0097】
・閾値Thは、基準値における全開位置Poから全閉位置Pcまでの回転検出信号のパルス数にそれぞれ対応するように設定されてもよい。
・上記実施形態では、センサ本体42は、ドアパネル5の前端部5aに沿って配置されているが、前端部5aと対向する乗降口4の周縁部分に配置してもよい。
【0098】
・上記実施形態では、位置検出装置27にはホールICが用いられているが、スライドモータ26の回転に伴ってパルス信号を発生するセンサであれば、ホールIC以外のセンサを位置検出装置として用いてもよい。
【0099】
・上記実施形態では、ドアパネル5の前端部5aに沿って配置されたセンサ本体42と、静電容量検出回路44とによって、ドアパネル5の前端部5aに近接する物体との間の静電容量を検出し、その検出値を基準値及び記憶値として利用している。しかしながら、ドアパネル5の前端部5aに近接する物体との間の静電容量以外に、ドアパネル5の前端部5aに近接する物体との距離に応じた検出値を出力可能なセンサを、センサ本体42及び静電容量検出回路44に変えて電動スライドドア装置1に備えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】電動スライドドア装置を備えた車両の斜視図。
【図2】電動スライドドア装置を備えた車両の側面図。
【図3】(a)及び(b)はセンサ本体の断面図。
【図4】電動スライドドア装置の電気的構成を示すブロック図。
【図5】回転検出信号に基づくドアパネルの位置と検出値との関係を示すグラフ。
【図6】(a)〜(c)は位置ずれ算出処理を説明するための説明図。
【図7】位置ずれ算出処理を示すフローチャート。
【図8】制御回路装置が行う統括的な処理を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0101】
1…開閉装置としての電動スライドドア装置、3…被開閉体としての車体、4…開口部としての乗降口、5…開閉部材としてのドアパネル、5a…閉側端部としての前端部、11…駆動手段を構成する作動機構、21…駆動手段を構成する駆動機構、26…駆動モータとしてのスライドモータ、27…信号出力手段としての位置検出装置、42…検出センサを構成するセンサ本体、44…検出センサを構成する静電容量検出回路、71…位置認識手段及び補正手段としての制御回路装置、71a…第1記憶手段及び第2記憶手段としての記憶装置、71b…判定手段としての異物近接判定回路、H…検索範囲、Pc…全閉位置、Po…全開位置、Th…閾値、X1…異物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被開閉体に設けられた開閉部材を、前記被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で、駆動手段を介して開閉作動させるための開閉部材制御装置であって、
前記開閉部材の閉側端部と該閉側端部に近接する物体との間の距離に応じた検出信号に基づく検出値を出力する検出センサと、
前記開閉部材の移動に応じた位置信号を出力する信号出力手段と、
前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置を認識する位置認識手段と、
前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を基準値として記憶する第1記憶手段と、
前記第1記憶手段に前記基準値が記憶された状態で、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を記憶値として記憶する第2記憶手段と、
前記開閉部材の位置に応じて設定された前記閉側端部に近接する異物の有無を判定するための閾値を有し、前記閾値と前記検出値とを比較しその比較結果に応じて前記閉側端部に近接する前記異物の有無を判定する判定手段と、
前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較しその比較結果に応じて前記位置認識手段で認識した前記開閉部材の位置を補正する補正手段と、
を備えたことを特徴とする開閉部材制御装置。
【請求項2】
被開閉体に設けられた開閉部材を、前記被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で、駆動手段を介して開閉作動させるための開閉部材制御装置であって、
前記開閉部材の閉側端部と該閉側端部に近接する物体との間の距離に応じた検出信号に基づく検出値を出力する検出センサと、
前記開閉部材の移動に応じた位置信号を出力する信号出力手段と、
前記位置信号に基づいて前記開閉部材の位置を認識する位置認識手段と、
前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を基準値として記憶する第1記憶手段と、
前記第1記憶手段に前記基準値が記憶された状態で、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を記憶値として記憶する第2記憶手段と、
前記開閉部材の位置に応じて設定された前記閉側端部に近接する異物の有無を判定するための閾値を有し、前記閾値と前記検出値とを比較しその比較結果に応じて前記閉側端部に近接する前記異物の有無を判定する判定手段と、
前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較しその比較結果に応じて、前記第1記憶手段で記憶した前記開閉部材の位置を補正する補正手段と、
を備えたことを特徴とする開閉部材制御装置。
【請求項3】
被開閉体に設けられた開閉部材を、前記被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で、駆動手段を介して開閉作動させるための開閉部材制御装置であって、
前記開閉部材の閉側端部と該閉側端部に近接する物体との間の距離に応じた検出信号に基づく検出値を出力する検出センサと、
前記開閉部材の移動に応じた位置信号を出力する信号出力手段と、
前記位置信号に基づいて前記開閉部材の位置を認識する位置認識手段と、
前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を基準値として記憶する第1記憶手段と、
前記第1記憶手段に前記基準値が記憶された状態で、前記位置信号に基づく前記開閉部材の位置に対応した前記検出センサの前記検出値を記憶値として記憶する第2記憶手段と、
前記開閉部材の位置に応じて設定された前記閉側端部に近接する異物の有無を判定するための閾値を有し、前記閾値と前記検出値とを比較しその比較結果に応じて前記閉側端部に近接する前記異物の有無を判定する判定手段と、
前記第1記憶手段の記憶内容と前記第2記憶手段の記憶内容とを比較しその比較結果に応じて前記閾値に対応された前記開閉部材の位置を補正する補正手段と、
を備えたことを特徴とする開閉部材制御装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の開閉部材制御装置において、
前記第1記憶手段は、前記基準値を、前記閉側端部と該閉側端部に対向する前記開口部の周縁部分との間に前記異物が存在しない状態で前記開閉部材を閉作動させたときに記憶することを特徴とする開閉部材制御装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の開閉部材制御装置において、
前記補正手段は、前記全閉位置から前記全開位置までの範囲よりも小さい予め設定された検索範囲に亘って、前記第1記憶手段の内容と前記第2記憶手段の内容とを比較することを特徴とする開閉部材制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載の開閉部材制御装置において、
前記検索範囲は、前記全閉位置から前記全開位置までの範囲よりも小さく且つ前記駆動手段に存在する機械的な最大位置ずれ量以上となる範囲に設定されていることを特徴とする開閉部材制御装置。
【請求項7】
被開閉体に設けられた開口部を開放する全開位置と前記開口部を閉鎖する全閉位置との間で開閉作動される開閉部材と、
駆動モータの駆動力を前記開閉部材に伝達する駆動手段と、
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の開閉部材制御装置と、
を備えたことを特徴とする開閉装置。
【請求項8】
請求項6に記載の開閉装置において、
前記被開閉体は車体であり、
前記開閉部材は、前記車体の側方に設けられた前記開口部としての乗降口を開閉すべく前記車体の前後方向にスライド移動されるドアパネルであることを特徴とする開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−185541(P2009−185541A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27730(P2008−27730)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000101352)アスモ株式会社 (1,622)
【Fターム(参考)】