説明

防振装置

【課題】弾性ストッパのすぐり部からの抜け出しを抑制することのできる防振装置を提供する。
【解決手段】弾性ストッパ20は、挿入方向P(軸方向S)からみて全体として弧状に湾曲されており、すぐり部18への挿入前の先端部22の先端側の半径がr1、後端部26の端部側の半径がr1とは異なる半径のr2とされている。本実施形態では、(R1+R2)/2 ≒ r1、r2≧R2、とされている。したがって、先端部22は、すぐり部18に沿った形状とされてすぐり部18への挿入が容易となっており、後端部26は、すぐり部18への挿入時にr2≦R2となるように弾性変形されるため、中間部24の後端部26側が、挿入後に復元力によってすぐり部18の径方向外側面に当接される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般産業機械、自動車におけるメンバーマウント等として用いられ、エンジン等の振動発生部及びサスペンションから車体等の振動受部へ伝達される振動を吸収及び減衰させる防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、振動発生部または振動受け部の一方に連結される外筒と、この外筒の内側に外筒と同軸的に配置され振動発生部または振動受け部の他方に連結される内筒と、これらを連結する弾性体とを備えた、種々の防振装置が提案されている。このような構成の防振装置では、弾性体のばね特性を調整すべく弾性体に軸方向に貫通する孔としてすぐり部を構成し、このすぐり部の中に内筒と外筒との径方向の相対変位を制限する弾性ストッパを収納する場合がある(特許文献1、2参照)。
【0003】
この場合、弾性ストッパは、すぐり部に挿入されているだけであるため、自動車等への防振装置の組み付け時において弾性ストッパがすぐり部から抜け出てしまうことが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3001674号公報
【特許文献2】特開2001−271882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、弾性ストッパのすぐり部からの抜け出しを抑制することのできる防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の第1の態様に係る防振装置は、振動発生部及び振動受け部の一方に連結される外筒と、前記外筒の筒内に配設され振動発生部及び振動受け部の他方に連結される内筒と、前記外筒と前記内筒との間に配設され前記外筒と前記内筒とを連結し、前記内筒の軸方向に貫通するように前記軸方向からみて弧状の空間であるすぐり部が構成され、弾性変形可能とされた、弾性体と、板状とされて前記すぐり部に挿入され、挿入方向の先端辺と後端辺とが前記軸方向からみて異なる半径の弧状とされ、前記内筒と前記外筒との径方向の相対変位を制限する弾性ストッパと、を備えている。
【0007】
上記構成では、弾性ストッパは、挿入方向の先端辺と後端辺とが軸方向からみて異なる半径の弧状とされている。したがって、すぐり部の内壁に対して、弾性ストッパの少なくとも一端辺側が当接しやすくなり、弾性ストッパをすぐり部から抜け出しにくくすることができる。
【0008】
本発明の第2の態様に係る防振装置は、前記すぐり部の径方向内側面の半径をR1、径方向外側面の半径をR2、前記すぐり部に挿入される前の前記弾性ストッパの先端辺の半径をr1とすると、(R1+R2)/2 ≒ r1の関係を満たすことを特徴とする。
【0009】
すぐり部に挿入される前の弾性ストッパの先端辺の半径r1と、すぐり部の内外側面の半径R1、R2との関係を、上記のようにすることで、弾性ストッパの先端辺は、すぐり部に沿った形状となり、挿入を容易に行うことができる。
【0010】
本発明の第3の態様に係る防振装置は、前記すぐり部の径方向内側面の半径をR1、径方向外側面の半径をR2、前記すぐり部に挿入される前の前記弾性ストッパの先端辺の半径をr1、前記弾性ストッパの後端辺の半径をr2とすると、r2≦R1、または、r2≧R2の関係を満たすことを特徴とする。
【0011】
すぐり部の径方向内外側面の半径R1、R2と、すぐり部に挿入される前の弾性ストッパの先端辺の半径r1、後端辺の半径r2、との関係を、上記のようにすることで、弾性ストッパの後端辺は、すぐり部の内側面または外側面に確実に当接され、すぐり部からのストッパ部材の抜け出しをより確実に抑制することができる。
【0012】
本発明の第4の態様に係る防振装置は、前記弾性ストッパの前記先端辺側が、前記後端辺側よりも周方向に狭幅とされていること、を特徴とする。
【0013】
このように、弾性ストッパの先端辺側を後端辺側よりも周方向に狭幅とすることにより、すぐり部への挿入を容易に行うことができる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る防振装置は、前記弾性ストッパの前記後端辺側に、前記すぐり部よりも周方向に広幅で前記弾性体ストッパと前記弾性体との間の軸方向の位置決めを行う位置決め突部が形成されていること、を特徴とする。
【0015】
このように、位置決め突部を形成することにより、弾性ストッパと弾性体との間の位置決めを容易に行うことができる。
【0016】
本発明の第6の態様に係る防振装置は、前記外筒の軸方向外側に設けられ、前記外筒と前記内筒との軸方向の相対変位を制限する剛性ストッパ、をさらに備えている。
【0017】
上記剛性ストッパを備えることにより、外筒と内筒との過大な相対変位を防止することができ、剛性ストッパをすぐり部に対向するように配置すれば、弾性ストッパのすぐり部からの抜け出しを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明によれば、弾性ストッパのすぐり部からの抜け出しを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る防振装置の側断面図である。
【図2】(A)は図1のA−A断面図であり、(B)は図1のB−B断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る防振装置の弾性ストッパの斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係る防振装置の弾性ストッパを、(A)は後端部側からみた図であり、(B)は先端部側からみた図である。
【図5】本発明の実施形態に係る防振装置の防振装置本体の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る防振装置について図面を参照して説明する。
【0021】
図1、2には本実施形態に係る防振装置10が示されている。図1は防振装置10の側断面図であり、図2(A)は図1のA−A断面図であり、図2(B)は図1のB−B断面図である。
【0022】
防振装置10は、外筒12、内筒14、及び、ゴム弾性体16を備えている。防振装置10の軸方向が、図中一点鎖線Sで示されており、外筒12及び内筒14の筒軸と一致している。
【0023】
外筒12は、円筒部12A、フランジ部12B、及び、小径部12Cを備えている。円筒部12Aは円筒形状とされている。フランジ部12Bは、円筒部12Aの一端部の径方向外側に連続して構成されており、板リング形状とされている。小径部12Cは、円筒部12Aの他端部に連続して構成されており、円筒部12Aよりも小径とされると共に、先端が径方向内側に屈曲された形状とされている。外筒12は、金属や樹脂などで構成することができる。外筒12は、不図示の連結部により車両の振動発生部及び振動受部の一方に連結されている。
【0024】
外筒12の内周側には、軸方向Sに沿って筒状の内筒14が配置されている。内筒14は、軸方向Sの長さが、外筒12よりも長く構成されている。内筒14は、連結軸(不図示)が挿通され、挿通された状態で内筒14は連結軸へ固定される。内筒14は、当該連結軸を介して、車両の振動発生部または振動受部の他方に連結されている。
【0025】
内筒14の軸方向Sの両端部には、剛性ストッパ30、32が固定されている。剛性ストッパ30、32は、円板状とされ、外径が外筒12の円筒部12Aよりも大径とされている。剛性ストッパ30、32は、外筒12の両端部と所定距離離間して、円板面が対向するように配置されている。
【0026】
内筒14の外周面と外筒12の内周面との間にはゴム弾性体16が配置されている。ゴム弾性体16により、内筒14と外筒12とが弾性的に連結されている。ゴム弾性体16は内周側が内筒14の外周面に加硫接着されると共に、外周側が外筒12の内周面に加硫接着されている。ゴム弾性体16の一部により、外筒12のフランジ部12Bの外側面、及び小径部12Cの先端側に緩衝ゴム部17A、17Bが各々形成されている。内筒14と外筒12との軸方向Sの相対変位に対して、緩衝ゴム部17A、17Bがそれぞれ剛性ストッパ30、32に当たることにより、この相対変位を制限することができるように構成されている。
【0027】
ゴム弾性体16には、軸方向Sに貫通するすぐり部18が構成されている。すぐり部18は、内筒14を挟んで、主振動の入力方向Xに対象に2箇所構成されている。なお、本実施形態では、すぐり部18を2箇所に構成したが、1箇所でも、3箇所以上に構成してもよい。
【0028】
図2(A)(B)に示すように、すぐり部18は、軸方向Sからみて弧状とされた貫通空間であり、径方向内側の半径がR1、径方向外側の半径がR2とされている。一方のすぐり部18には、弾性ストッパ20が挿入されている。なお、本実施形態の半径は、防振装置10の軸心S側を中心としての半径である。
【0029】
図3に示すように、弾性ストッパ20は、板状とされ、先端部22、中間部24、及び、後端部26を備えている。後端部26は、すぐり部18への挿入方向後端側に形成されており、周方向の長さがすぐり部18の周方向の長さよりも長尺とされている。後端部26と中間部24との間には、段差部Dが構成され、段差部Dにより、弾性ストッパ20とゴム弾性体16との間の軸方向Sの位置決めが行われる。
【0030】
中間部24は、周方向の長さがすぐり部18の周方向の長さよりも短尺とされており、すぐり部18へ挿入されている。先端部22は、周方向の長さが中間部24から先端にかけて徐々に短くなるテーパー状とされている。
【0031】
図4(A)(B)に示すように、弾性ストッパ20は、挿入方向P(軸方向S)からみて全体として弧状に湾曲されており、すぐり部18への挿入前の先端部22の先端側の半径がr1、後端部26の端部側の半径がr1とは異なる半径のr2とされている。本実施形態では、(R1+R2)/2 ≒ r1、r2≧R2、とされている。したがって、先端部22は、(R1+R2)/2 となる曲線A、すなわちすぐり部18に沿った形状とされてすぐり部18への挿入が容易となっており、後端部26は、すぐり部18への挿入時にr2≦R2となるように弾性変形されるため、図2(B)に示されるように、中間部24の後端部26側が、挿入後に復元力によってすぐり部18の径方向外側面に当接される。
【0032】
また、弾性ストッパ20は、段差部Dがすぐり部18の外側のゴム弾性体16に当接された状態において、図1に示されるように、先端部22の先端が剛性ストッパ32に当接されるか、または当接される近傍位置に配置され、後端部26についても後端が剛性ストッパ30に当接されるか、または当接される近傍位置に配置されるように、挿入方向Pの長さが設定されている。
【0033】
弾性ストッパ20を、すぐり部18に挿入してすぐり部18内に配置することにより、ゴム弾性体16の径方向、特に主振動入力方向Xの特性を調整することができる。
【0034】
上記構成の防振装置10の製造方法としては、金型に内筒14と外筒12とをセットし、ゴム材料を注入して、加硫処理を行うことにより、内筒14、外筒12、及び、ゴム弾性体16が一体化された防振本体部11(図5参照)を形成することができる。弾性ストッパ20は、板状のゴムシートを型抜きし、先端部22及び後端部26について、半径が各々r1、r2となるように加工する。
なお、弾性ストッパ20は、所望の半径r1、r2の構成された金型を用いて加硫成型することもできる。くせ付けでなく、金型成型で予め湾曲させた形状としておくことにより、くせ付けの際の応力を作用させることなく形成することができる。
【0035】
上記防振本体部11に、弾性ストッパ20を先端部22側から段差部Dがすぐり部18の外側のゴム弾性体16に当接される位置まで挿入してセットする。弾性ストッパ20がセットされた状態の防振装置本体11に、剛性ストッパ30、32を取り付けて、防振装置10の製作が完了する。
【0036】
本実施形態では、すぐり部18へ挿入される前の弾性ストッパ20の後端部26の半径r2が、r2≧R2とされているので、後端部26側の中間部24は、すぐり部18へ挿入された状態で、すぐり部18の径方向外側面に当接される。したがって、剛性ストッパ30、32を取り付ける前における、弾性ストッパ20のすぐり部18からの抜け出しを抑制することができる。
【0037】
なお、本実施形態では、後端部26の半径r2を、r2≧R2としたが、r2≦R1としてもよい。この場合には、後端部26側の中間部24を、すぐり部18へ挿入された状態で、すぐり部18の径方向内側面に当接させることができる。
【0038】
また、本実施形態では、弾性ストッパ20の先端部22の半径を、(R1+R2)/2 ≒ r1としたが、r1≦R1 または r1≧R2としてもよい。また、後端部26の半径を、R1≦r2≦R2としてもよい。
【0039】
また、本実施形態の弾性ストッパ20の先端部22の半径r1、後端部26の半径r2、すぐり部18の半径R1、R2は、必ずしも一定の半径である必要はなく、半径が変化する弧状とされていてもよい。
【符号の説明】
【0040】
10 防振装置
12 外筒
14 内筒
16 ゴム弾性体
20 弾性ストッパ
22 先端部
24 中間部
26 後端部
30 剛性ストッパ
32 剛性ストッパ
S 軸方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部及び振動受け部の一方に連結される外筒と、
前記外筒の筒内に配設され振動発生部及び振動受け部の他方に連結される内筒と、
前記外筒と前記内筒との間に配設され前記外筒と前記内筒とを連結し、前記内筒の軸方向に貫通するように前記軸方向からみて弧状の空間であるすぐり部が構成され、弾性変形可能とされた、弾性体と、
板状とされて前記すぐり部に挿入され、挿入方向の先端辺と後端辺とが前記軸方向からみて異なる曲率の弧状とされ、前記内筒と前記外筒との径方向の相対変位を制限する弾性ストッパと、
を備えた防振装置。
【請求項2】
前記すぐり部の径方向内側面の曲率をR1、径方向外側面の曲率をR2、前記すぐり部に挿入される前の前記弾性ストッパの先端辺の曲率をr1とすると、
(R1+R2)/2 ≒ r1
の関係を満たすことを特徴とする、請求項1に記載の防振装置。
【請求項3】
前記すぐり部の径方向内側面の曲率をR1、径方向外側面の曲率をR2、前記すぐり部に挿入される前の前記弾性ストッパの先端辺の曲率をr1、前記弾性ストッパの後端辺の曲率をr2とすると、
r2≦R1、または、r2≧R2
の関係を満たすことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の防振装置。
【請求項4】
前記弾性ストッパの前記先端辺側が、前記後端辺側よりも周方向に狭幅とされていること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項5】
前記弾性ストッパの前記後端辺側に、前記すぐり部よりも周方向に広幅で前記弾性体ストッパと前記弾性体との間の軸方向の位置決めを行う位置決め突部が形成されていること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の防振装置。
【請求項6】
前記外筒の軸方向外側に設けられ、前記外筒と前記内筒との軸方向の相対変位を制限する剛性ストッパ、をさらに備えた請求項1〜5のいずれか1項に記載の防振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−255716(P2010−255716A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105239(P2009−105239)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】