説明

防振装置

【課題】エンジンから作用する種々の方向の振動荷重を適正に吸収することができ、しかもコンパクトな防振装置を提供する。
【解決手段】本発明の防振装置は、車体に固定された車体側固定部材(3)と、車体側固定部材(3)の一対の側壁部11の間を連結するように延びる軸部材6と、エンジンに固定され、かつ上記一対の側壁部11の間において軸部材6の周囲を囲むように設けられたエンジン側固定部材(2)と、エンジン側固定部材(2)の内面に一体に設けられ、軸部材6を所定の隙間を空けて囲むような環状ストッパ面20を形成するエラストマー製のストッパ部材5と、車体側固定部材(3)のベース部10とエンジン側固定部材(2)とを連結するように設けられたエラストマー製のマウント本体4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを防振しつつ車体に取り付けるためにエンジンと車体との間に設けられる防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記防振装置として、例えば下記特許文献1に示されるものが知られている。この特許文献1に開示された防振装置は、車両に搭載されるエンジンを防振しつつ支持するためのゴム製のマウント本体と、マウント本体の下部に取り付けられたストッパ金具と、マウント本体を上方から覆うように収容しかつ下面に開口を有するケースとを備えている。上記ストッパ金具の長手方向の2箇所には、上記ケースの側壁部(下面開口の周縁部)と所定間隔を隔てて配置されるストッパゴム部が設けられており、エンジンの自重(静荷重)が防振装置に加わると、上記各ストッパゴム部とケースの側壁部との間隔が略同一になり、上記マウント本体の変位許容量がストッパ金具の長手方向のいずれにも略等しく確保されるようになっている。
【0003】
一方、悪路走行時等のように、エンジンからかなり大きな振動荷重(動荷重)が入力された場合には、マウント本体が大きく変形して、上記ケースの側壁部がストッパゴム部に当接することにより、上記マウント本体がそれ以上変形することが防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−101375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようにストッパゴム部にケースの側壁部が当接すると、エンジンの振動が直接的に車体に伝達されるようになる。このため、車室内に伝達される振動を抑制する観点からは、上記側壁部とストッパゴム部との隙間(ストッパ隙間)をできる限り大きく確保することが望ましい。しかしながら、当該ストッパ隙間を大きくするには、上記各側壁部間の距離(ケース下面の開口面積)を拡大する必要が生じ、ケースの大型化、ひいては防振装置の大型化を招いてしまう。防振装置が設けられるエンジンルーム内には、様々な機器が近接状態で配置されるため、上記防振装置の大型化は、エンジンルーム内の各種機器のレイアウト上望ましくない。
【0006】
また、上記特許文献1に開示された防振装置では、例えばマウント本体を上下に引っ張るような大きな荷重が作用したときに、マウント本体が上下方向に伸びるように変形し、これに応じて上記ケースの側壁部がストッパゴム部を乗り上げてしまうおそれがある。このような事態が生じると、マウント本体の変位を規制できなくなり、悪路走行時等に瞬間的に作用する大きな荷重に伴いマウント本体が過度に変形し、破断に至る可能性がある。
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、エンジンから作用する種々の方向の振動荷重を適正に吸収することができ、しかもコンパクトな防振装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、エンジンを防振しつつ車体に取り付けるためにエンジンと車体との間に設けられる防振装置であって、車体に固定されたベース部とこのベース部から突設された相対向する一対の側壁部とを含む車体側固定部材と、上記車体側固定部材の一対の側壁部の間を連結するように延びる軸部材と、エンジンに固定され、かつ上記一対の側壁部の間において上記軸部材の周囲を囲むように設けられたエンジン側固定部材と、上記エンジン側固定部材の内面に一体に設けられ、上記軸部材を所定の隙間を空けて囲むような囲繞面からなる環状ストッパ面を形成するエラストマー製のストッパ部材と、上記車体側固定部材のベース部と上記エンジン側固定部材とを連結するように設けられたエラストマー製のマウント本体とを備えたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0009】
本発明によれば、エンジン側固定部材に一体に設けられたストッパ部材に、車体側固定部材に固定された軸部材を囲むように環状ストッパ面が形成されているため、軸部材と環状ストッパ面との間の隙間(ストッパ隙間)を、いずれの方向にも同等に確保することができる。これにより、エンジンから振動荷重が入力されたときに、上記ストッパ隙間に対応していずれの方向にも同じような距離だけマウント本体の変形が許容されるため、上下左右など種々の方向の振動荷重を適正に吸収することができる。
【0010】
しかも、軸部材とその周囲の環状ストッパ面との間にストッパ隙間が形成される構成であるため、上記ストッパ隙間を比較的大きく確保したい場合でも、環状ストッパ面の内径または軸部材の外径を調整するだけで済み、防振装置が大型化するのを回避することができる。このため、防振装置の大型化を招くことなくストッパ隙間を充分に拡大することができ、エンジンから車室内に伝達される振動をより効果的に低減することができる。
【0011】
また、例えばマウント本体がかなり劣化し、かつ悪路走行等に伴うかなり大きな振動荷重が入力される等により、マウント本体が破断したような場合でも、アッパーフレームとロアフレームとの位置関係は上記ストッパ隙間の分しか変わり得ないため、エンジンが車体から完全に分離することがなく、車体からのエンジンの脱落を確実に防止することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、上記エンジンの自重を受けて上記マウント本体が変形した状態で、上記環状ストッパ面に囲まれた空間の略中心部に上記軸部材が配置される(請求項2)。
【0013】
この構成によれば、エンジンの自重が作用した状態で、軸部材と環状ストッパ面との間のストッパ隙間が均一に確保されるため、エンジンの自重に加えて振動荷重が入力されたときに、その振動荷重の方向にかかわらずこれを適正に吸収することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、防振装置は、上記マウント本体におけるエンジン側固定部材とは反対側の面に一体に接合された平板状のプレート部材をさらに備え、上記プレート部材に対し上記車体側固定部材のベース部が重ね合わせられた状態で、上記プレート部材およびベース部が車体に共締めされることにより、上記車体側固定部材、プレート部材、およびマウント本体が車体に固定される(請求項3)。
【0015】
この構成によれば、マウント本体とプレート部材とを容易に一体化しつつ、マウント本体を車体に対し適正に固定できるという利点がある。
【0016】
本発明において、好ましくは、上記軸部材は、上記環状ストッパ面に囲まれた空間内に配置される中空筒状のインナーパイプと、このインナーパイプに軸方向の中間部が挿入されかつ両端部が上記車体側固定部材の一対の側壁部に固定される棒状の締結部材とを有し、上記環状ストッパ面と上記インナーパイプとの間に、上記ストッパ部材とインナーパイプとを互いに連結する支持体が設けられる(請求項4)。
【0017】
この構成によれば、防振装置を組み立てる際に、棒状の締結部材をインナーパイプに挿入してその両端部を上記側壁部に固定する作業を、容易に行えるという利点がある。
【0018】
この場合、より好ましくは、上記支持体は、上記ストッパ部材と同じ材質でかつストッパ部材よりも肉厚の薄いエラストマー材からなる(請求項5)。
【0019】
この構成によれば、ストッパ部材を成形する際に支持体も合わせて成形することができる。また、支持体の肉厚が薄いため、防振装置の使用時に、軸部材の環状ストッパ面に対する相対移動が上記支持体によって阻害されることがなく、防振装置の組立容易性を確保しながら、防振装置の性能を良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、エンジンから作用する種々の方向の振動荷重を適正に吸収することができ、しかもコンパクトな防振装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態にかかる防振装置の側面図である。
【図2】上記防振装置の正面図である。
【図3】上記防振装置の斜視図である。
【図4】上記防振装置を別の角度から見た斜視図である。
【図5】上記防振装置の断面図である。
【図6】上記防振装置の作用を説明するための図である。
【図7】上記防振装置の無負荷時の状態を説明するための図である。
【図8】上記防振装置の組立て方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図5は、本発明の一実施形態にかかる防振装置1を示す図である。これらの図に示される防振装置1は、図外のエンジンを防振しつつ車体に取り付けるためにエンジンと車体との間に設けられるものである。なお、図1に示す例では、エンジンに設けられるブラケット等からなるエンジン側部材Xと、エンジンルーム内の車体フレーム(強度部材)からなる車体側部材Yとの間に、防振装置1が設けられ、この防振装置1を介してエンジンが車体に支持されるようになっている。
【0023】
上記防振装置1は、エンジン側部材Xに固定されるアッパーフレーム2(本発明にかかるエンジン側固定部材に相当)と、車体側部材Yに固定されるロアフレーム3(本発明にかかる車体側固定部材に相当)と、上記アッパーフレーム2およびロアフレーム3を連結するように設けられるエラストマー製のマウント本体4とを備えている。なお、「エラストマー」とは、ゴム状の弾性体の総称であり、ゴム(天然ゴムや合成ゴム)、および熱可塑性エラストマー(弾性を有する樹脂)の両方を含む概念である。
【0024】
上記ロアフレーム3は、金属製のプレート材をコ字状に折り曲げ加工したものからなり、車体側部材Yに固定される平板状のベース部10と、ベース部10の幅方向両端から上方に突出するように設けられた相対向する一対の側壁部11とを有する。上記ベース部10の下面には、平板状の座金プレート8が、溶接等により一体に取り付けられている。
【0025】
上記ロアフレーム3には、その一対の側壁部11の上端部どうしを連結するように軸部材6が取り付けられている。軸部材6は、上記一対の側壁部11の間に配置される中空筒状のインナーパイプ15と、インナーパイプ15に挿入されるボルト16(本発明にかかる棒状の締結部材に相当)とを有する。ボルト16は、その軸方向の中間部が上記インナーパイプ15に挿入され、かつ両端部が上記一対の側壁部11にそれぞれ固定される。
【0026】
具体的には、上記一対の側壁部11の一方に挿通孔17(図8)が設けられるとともに、他方の側壁部11の内側面にウェルドナット18(図2、図8)が溶接により固定されている。そして、一方の側壁部11の内側面と上記ウェルドナット18との間にインナーパイプ15が配置された状態で、ボルト16の軸部が挿通孔17およびインナーパイプ15に挿通されるとともに、ボルト16の先端部がウェルドナット18に螺着されることにより、ボルト16の両端部が一対の側壁部11にそれぞれ固定されるようになっている。
【0027】
上記アッパーフレーム2は、上記軸部材6の周囲を囲むような枠状の部材からなる。具体的に、このアッパーフレーム2は、金属製のプレート材を、内部に閉空間を形成するように折り曲げ加工したものである。図例では、5角形に近い形状となるようにプレート材が折り曲げられ、その両端部どうしが溶接により接合されることで、上記軸部材6を囲むようにアッパーフレーム2が形成されている。
【0028】
上記アッパーフレーム2の内面には、上記マウント本体4と同じエラストマー製のストッパ部材5が一体に形成されている。このストッパ部材5は、特に図5に示すように、上記アッパーフレーム2の内部においてその中心部の所定範囲(円形に近い領域)を除いた部分を占有するように、環状に形成されている。以下では、このストッパ部材5に囲まれた円形状の空間のことを、開口部20aと称する。
【0029】
上記開口部20aには、上記軸部材6が挿入されている。すなわち、この開口部20aを形成するストッパ部材5の内周面は、軸部材6を所定の隙間を空けて囲むような囲繞面となっている。以下では、この軸部材6を囲むストッパ部材5の囲繞面のことを、環状ストッパ面20と称する。
【0030】
上記ストッパ部材5の環状ストッパ面20と上記軸部材6のインナーパイプ15との間には、図5に示すように、ストッパ部材5とインナーパイプ15とを連結する支持体22が設けられている。この支持体22は、ストッパ部材5と同じ材質で、かつストッパ部材5よりも肉厚が大幅に薄くされた薄膜状のエラストマー材からなり、上記インナーパイプ15と環状ストッパ面20との間の周方向2箇所において、ストッパ部材5と一体に形成されている。
【0031】
上記マウント本体4は、その上面が上記アッパーフレーム2の下面部2bに一体に接合されている。また、マウント本体4の下面(アッパーフレーム2とは反対側の面)には、平板状でかつ金属製のプレート部材7が一体に接合されている。
【0032】
上記プレート部材7には、ボルト25(本発明にかかる車体用締結部材に相当)が一体に取り付けられている。このボルト25は、その頭部がマウント本体4の内部に埋め込まれた状態で、プレート部材7から面直方向に突出するように設けられている。また、プレート部材7には、上記ボルト25よりも小径のピン26も設けられている。
【0033】
上記プレート部材7は、上記ロアフレーム3のベース部10の上面に載置される。このとき、上記プレート部材7に突設されたボルト25およびピン26は、上記ベース部10および座金プレート8に設けられた孔27,28(図2、図4)を通じて外部(座金プレート8の下方)に突出する。なお、図例では、取付誤差等を考慮して、孔27,28は若干長穴状に形成されている。
【0034】
上記座金プレート8の下方に突出したボルト25は、ロアフレーム3を車体側部材Yに取り付けるために用いられる。すなわち、ロアフレーム3の取付時には、車体側部材Yに設けられた図外の取付孔に上記ボルト25が挿通され、さらにその先端部にナット等が螺着されることにより、上記プレート部材7、ロアフレーム3、および座金プレート8の三者が重ね合わせ状態で車体側部材Yに共締めされる。これにより、ロアフレーム3が車体側部材Yに固定されるとともに、上記マウント本体4がプレート部材7を挟んでロアフレーム3に固定される。また、これに合わせて上記ピン26が車体側部材Yの位置決め孔(図示省略)に挿入されることにより、防振装置1の廻り止めが図られるようになっている。
【0035】
上記アッパーフレーム2の上面部2aには、アッパーフレーム2をエンジン側部材Xに締結するためのボルト24が一体に取り付けられている。すなわち、エンジン側部材Xに設けられた図外の取付孔に上記ボルト24が挿通されるとともに、その先端部にナット等が螺着されることにより、アッパーフレーム2がエンジン側部材Xに固定される。
【0036】
以上のように構成された防振装置1は、そのアッパーフレーム2がエンジン側部材Xに固定され、かつロアフレーム3が車体側部材Yに固定された状態で、エンジンを車体に対し防振支持するために使用される。
【0037】
すなわち、エンジンから防振装置1に対しては、エンジンの振動や車両の走行による振動等に伴い、様々な方向の振動荷重が作用する。この振動荷重は、アッパーフレーム2、マウント本体4、ロアフレーム3、および車体側部材Yの順に入力されるが、マウント本体4はエラストマー製であるため、上記荷重によってマウント本体4が弾性変形する。すると、このマウント本体4の弾性変形によって振動エネルギーが吸収され、ロアフレーム3および車体側部材Yへの振動の伝達が抑制される。
【0038】
上記のようにマウント本体4が弾性変形すると、アッパーフレーム2がロアフレーム3に対し移動することにより、両者の相対的な位置関係がずれることになる。このとき、ロアフレーム3に固定されている軸部材6は、図6に矢印で示すように、環状ストッパ面20に囲まれた空間(開口部20a)内を相対移動する。この軸部材6の移動方向は、振動荷重の向きに応じて様々な方向になり得る。なお、軸部材6と環状ストッパ面20とは支持体22を介して連結されているが、支持体22は薄膜状のエラストマー材であるので、この支持体22によって上記軸部材6の相対移動が阻害されることはない。
【0039】
図5は、エンジンの自重による荷重のみが入力されているときの軸部材6の位置を表している。この状態において、軸部材6は、環状ストッパ面20で囲まれた空間(開口部20a)の中心部付近に位置している。すなわち、アッパーフレーム2に何ら荷重が作用しない無負荷状態では、図7に示すように、軸部材6が開口部20aの下方寄りに位置するように各部の寸法関係が設定されており、その状態から、エンジンの自重による荷重がアッパーフレーム2に作用すると、マウント本体4の変形に伴いアッパーフレーム2がやや下方に移動する。これにより、上記軸部材6が開口部20aの中心部付近まで相対移動する。
【0040】
上記のように、エンジンから自重が加わっている状態で軸部材6が開口部20aの中心部付近に配置されるため、上記軸部材6と環状ストッパ面20との間の隙間(以下、ストッパ隙間という)は、周方向にわたって同等の値となる。このため、エンジンの自重に加えて各種方向の振動荷重が作用したとき、アッパーフレーム2(およびストッパ部材5)は、上記ストッパ隙間の分だけ、上下左右いずれの方向にも同等の距離だけ移動することが可能である。
【0041】
このとき、エンジンから入力される振動荷重が比較的小さければ、軸部材6(インナーパイプ15)が環状ストッパ面20に当接することはなく、アッパーフレーム2は各方向に自由に移動することができる。これにより、マウント本体4が自由に弾性変形するため、エンジンから入力される振動は、そのほとんどがマウント本体4によって吸収され、車体(車体側部材Y)にはわずかな振動しか伝達されない。
【0042】
一方、例えば車両の悪路走行等に伴い、かなり大きな振動荷重が入力された場合には、軸部材6が環状ストッパ面20に当接するまでアッパーフレーム2が移動する。すると、マウント本体4の変形が規制され、振動の減衰効果は低下することになる。しかしながら、このようにマウント本体4の変形を規制するのは、マウント本体4の変形量が過剰になるのを防止するために必要な措置である。すなわち、環状ストッパ面20は、軸部材6との当接に伴いアッパーフレーム2の移動を規制することにより、マウント本体4の変形量を抑え、その損傷(破断や亀裂の発生等)を防止する機能を果たしている。
【0043】
なお、例えば長期間の使用に伴ってマウント本体4が劣化した場合には、車両の悪路走行等に伴って瞬間的にかなり大きな振動荷重が入力されることにより、マウント本体4が破断することもあり得る。しかしながら、このようにマウント本体4が破断したとしても、アッパーフレーム2は上記ストッパ隙間(環状ストッパ面20と軸部材6との隙間)の分しか移動できないため、アッパーフレーム2とロアフレーム3との位置関係は上記ストッパ隙間の分しか変わり得ず、エンジンが車体から完全に分離することはない。
【0044】
次に、上記防振装置1を製造する手順について簡単に説明する。防振装置1を製造するには、まず、アッパーフレーム2、プレート部材7、インナーパイプ15、ボルト24,25、ピン26を、所定の成形金型の内部にセットした状態で、その金型内に、マウント本体4およびストッパ部材5の材料(エラストマー材)を射出することにより、上記各部材(2,7,15,24,25,26)と一体にマウント本体4およびストッパ部材5を成形する。すなわち、アッパーフレーム2の内部にストッパ部材5を一体に成形するとともに、アッパーフレーム2の下面部2bとプレート部材7の間にマウント本体4を一体に成形する。なお、上記ストッパ部材5とアッパーフレーム2との接合や、上記マウント本体4とアッパーフレーム2およびプレート部材7との接合は、例えば加硫接着によりなされる。
【0045】
上記ストッパ部材5の成形に伴って、ストッパ部材5とインナーパイプ15との間に、薄膜状の支持体22も成形される。また、アッパーフレーム2の上面部2aに上記ボルト24が一体に取り付けられるとともに、プレート部材7に上記ボルト25およびピン26が一体に取り付けられる。
【0046】
次に、上記のようにして一体化されたアッパーフレーム2やマウント本体4、ストッパ部材5等の部品に対し、図8に示すように、ロアフレーム3および座金プレート8を組み付ける。具体的には、上記プレート部材7から突出するボルト25およびピン26を、上記ロアフレーム3のベース部10および座金プレート8に設けられた孔27,28に挿入するとともに、上記インナーパイプ15の軸方向両端部に対し、上記一対の側壁部11の挿通孔17およびウェルドナット18を対向させるように位置合わせする。
【0047】
そして、この状態で、ボルト16の軸部を上記側壁部11の挿通孔17およびインナーパイプ15に挿入するとともに、ボルト16の先端部をウェルドナット18と嵌合させる。これにより、上記インナーパイプ15およびボルト16からなる軸部材6が上記一対の側壁部11の間に固定され、防振装置1の組立てが完了する。
【0048】
その後、防振装置1をエンジンと車体との間に取り付けるには、先にも説明したとおり、ボルト24を用いてアッパーフレーム2をエンジン側部材Xに固定するとともに、ボルト25を用いてロアフレーム3を車体側部材Yに固定する。このとき、ロアフレーム3側のボルト25の締結に伴い、プレート部材7、ロアフレーム3のベース部10、および座金プレート8の三者が互いに重ね合わせられて共締めされ、車体側部材Yに対し固定される。
【0049】
以上説明したように、当実施形態の防振装置1は、車体側部材Y(車体)に固定されたロアフレーム3(車体側固定部材)と、ロアフレーム3の一対の側壁部11の間を連結するように延びる軸部材6と、エンジン側部材X(エンジン)に固定され、かつ上記一対の側壁部11の間において軸部材6の周囲を囲むように設けられたアッパーフレーム2(エンジン側固定部材)と、アッパーフレーム2の内面に一体に設けられ、軸部材6を所定の隙間(ストッパ隙間)を空けて囲むような環状ストッパ面20を形成するエラストマー製のストッパ部材5と、ロアフレーム3のベース部10とアッパーフレーム2とを連結するように設けられたエラストマー製のマウント本体4とを備える。このような構成によれば、エンジンから作用する種々の方向の振動荷重を適正に吸収することができ、しかもコンパクトな防振装置1を構築することができる。
【0050】
すなわち、上記実施形態によれば、アッパーフレーム2に一体に設けられたストッパ部材5に、ロアフレーム3に固定された軸部材6を囲むように環状ストッパ面20が形成されているため、軸部材6と環状ストッパ面20との間のストッパ隙間を、いずれの方向にも同等に確保することができる。これにより、エンジンから振動荷重が入力されたときに、上記ストッパ隙間に対応していずれの方向にも同じような距離だけマウント本体4の変形が許容されるため、上下左右など種々の方向の振動荷重を適正に吸収することができる。
【0051】
しかも、軸部材6とその周囲の環状ストッパ面20との間にストッパ隙間が形成される構成であるため、上記ストッパ隙間を比較的大きく確保したい場合でも、環状ストッパ面20の内径または軸部材6(インナーパイプ15)の外径を調整するだけで済み、防振装置1が大型化するのを回避することができる。このため、防振装置1の大型化を招くことなくストッパ隙間を充分に拡大することができ、エンジンから車室内に伝達される振動をより効果的に低減することができる。
【0052】
また、例えばマウント本体4がかなり劣化し、かつ悪路走行等に伴うかなり大きな振動荷重が入力される等により、マウント本体4が破断したような場合でも、アッパーフレーム2とロアフレーム3との位置関係は上記ストッパ隙間の分しか変わり得ないため、エンジンが車体から完全に分離することがなく、車体からのエンジンの脱落を確実に防止することができる。
【0053】
また、上記実施形態では、図5に示したように、エンジンの自重を受けてマウント本体4が変形した状態で、環状ストッパ面20に囲まれた空間(開口部20a)の略中心部に上記軸部材6が配置されるようになっている。このような構成によれば、エンジンの自重が作用した状態で、軸部材6と環状ストッパ面20との間のストッパ隙間が均一に確保されるため、エンジンの自重に加えて振動荷重が入力されたときに、その振動荷重の方向にかかわらずこれを適正に吸収することができる。
【0054】
また、上記実施形態では、マウント本体4の下面に一体に接合される平板状のプレート部材7を設け、ロアフレーム3を車体側部材Yに固定する際には、上記プレート部材7をロアフレーム3のベース部10(および座金プレート8)とともに車体側部材Yに対し共締めするようにした。このような構成によれば、例えばマウント本体4とロアフレーム3とを直接(プレート部材7を介することなく)接合した場合と異なり、マウント本体4とプレート部材7とを容易に一体化しつつ、マウント本体4を車体側部材Yに対し適正に固定できるという利点がある。
【0055】
例えば、マウント本体4を金型内で成形する際に、予め金型内にロアフレーム3をセットしておき、このロアフレーム3のベース部10とマウント本体4とを加硫接着等により接合することも可能であるが、ロアフレーム3はベース部10および一対の側壁部11を含む立体的な形状であるため、成形後にロアフレーム3を金型から抜き得るようにするには、かなり複雑な構造に金型を改造する必要がある。これに対し、平板状のプレート部材7をマウント本体4に一体に接合し、プレート部材7をロアフレーム3のベース部10と共締めするようにした場合には、マウント本体4の成形時にこれをプレート部材7と容易に一体化しながら、上記プレート部材7とロアフレーム3とを共締めすることにより、上記ロアフレーム3、プレート部材7、およびマウント本体4を車体側部材Yに対し適正に固定することができる。
【0056】
また、上記実施形態では、軸部材6のインナーパイプ15と環状ストッパ面20との間に、ストッパ部材5とインナーパイプ15とを互いに連結する支持体22を設けたため、防振装置1を組み立てる際に、ボルト16をインナーパイプ15に挿入してその両端部を上記側壁部11に固定する作業を、容易に行えるという利点がある。
【0057】
例えば、支持体22が仮に設けられていなければ、防振装置1の組立時に、インナーパイプ15をストッパ部材5の内部に挿入してこれを手で支えながら、このインナーパイプ15に対し、ロアフレーム3の一対の側壁部11の被締結部(挿通孔17およびウェルドナット18)を位置合わせし、さらにその状態でボルト16を挿入する作業を行う必要があり、かなりの困難を伴うものとなる。これに対し、上記実施形態のように支持体22を設け、この支持体22を介してインナーパイプ15をストッパ部材5の内部で支持するようにした場合には、インナーパイプ15を手で支える必要がなくなるので、上記ボルト16の挿入作業がより簡単になる。
【0058】
特に、上記実施形態では、支持体22の材質を、ストッパ部材5と同じ材質のエラストマー材としたため、ストッパ部材5を成形する際に支持体22も合わせて成形することができる。また、支持体22が薄膜状であるため、防振装置1の使用時に、軸部材6の環状ストッパ面20に対する相対移動が上記支持体22によって阻害されることがなく、防振装置1の組立容易性を確保しながら、防振装置1の性能を良好に維持することができる。
【0059】
なお、上記実施形態では、防振装置1の組立作業性の向上のために、環状ストッパ面20とインナーパイプ15との間に支持体22を形成したが、このようなことが必要なければ、支持体22は省略してもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、成形性の問題から、マウント本体4の成形時にその下面に平板状のプレート部材7を一体に接合し、防振装置1を車体に取り付ける際に、上記プレート部材7を介してマウント本体4とロアフレーム3を車体側部材Yに固定するようにしたが、マウント本体4の下面にロアフレーム3のベース部10を加硫接着等により直接接合してもよい。この場合、一例として、ロアフレーム3を折り曲げ成形する(ベース部10および一対の側壁部11を形成する)前に、このロアフレーム3の素材をマウント本体4と一体化させ、その後ロアフレーム3の素材を折り曲げ成形することが考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1 防振装置
2 アッパーフレーム(エンジン側固定部材)
3 ロアフレーム(車体側固定部材)
4 マウント本体
5 ストッパ部材
6 軸部材
7 プレート部材
10 ベース部
11 側壁部
15 インナーパイプ
16 ボルト(棒状の締結部材)
20 環状ストッパ面
22 支持体
25 ボルト(車体用固定部材)
27 (ベース部の)孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを防振しつつ車体に取り付けるためにエンジンと車体との間に設けられる防振装置であって、
車体に固定されたベース部とこのベース部から突設された相対向する一対の側壁部とを含む車体側固定部材と、
上記車体側固定部材の一対の側壁部の間を連結するように延びる軸部材と、
エンジンに固定され、かつ上記一対の側壁部の間において上記軸部材の周囲を囲むように設けられたエンジン側固定部材と、
上記エンジン側固定部材の内面に一体に設けられ、上記軸部材を所定の隙間を空けて囲むような囲繞面からなる環状ストッパ面を形成するエラストマー製のストッパ部材と、
上記車体側固定部材のベース部と上記エンジン側固定部材とを連結するように設けられたエラストマー製のマウント本体とを備えたことを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振装置において、
上記エンジンの自重を受けて上記マウント本体が変形した状態で、上記環状ストッパ面に囲まれた空間の略中心部に上記軸部材が配置されるように構成されたことを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の防振装置において、
上記マウント本体におけるエンジン側固定部材とは反対側の面に一体に接合された平板状のプレート部材をさらに備え、
上記プレート部材に対し上記車体側固定部材のベース部が重ね合わせられた状態で、上記プレート部材およびベース部が車体に共締めされることにより、上記車体側固定部材、プレート部材、およびマウント本体が車体に固定されることを特徴とする防振装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の防振装置において、
上記軸部材は、上記環状ストッパ面に囲まれた空間内に配置される中空筒状のインナーパイプと、このインナーパイプに軸方向の中間部が挿入されかつ両端部が上記車体側固定部材の一対の側壁部に固定される棒状の締結部材とを有し、
上記環状ストッパ面と上記インナーパイプとの間に、上記ストッパ部材とインナーパイプとを互いに連結する支持体が設けられたことを特徴とする防振装置。
【請求項5】
請求項4記載の防振装置において、
上記支持体は、上記ストッパ部材と同じ材質でかつストッパ部材よりも肉厚の薄いエラストマー材からなることを特徴とする防振装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−127366(P2012−127366A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276752(P2010−276752)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】