説明

防振装置

【課題】パワープラント等の被支持体と車体とを連結する防振装置において、設定した最大ストローク量を超えて相対変位してしまうことを確実に防止する。
【解決手段】トルクロッド1は、基準軸Aを挟んだ車体上下方向の一側において、車体上下方向に対して傾斜した第1案内部551と、基準軸Aを挟んだ車体上下方向の他側において、第1案内部551とは逆方向に、車体上下方向に対して傾斜した第2案内部552とを有するストッパ55を備える。これによって、第2内筒体4側が基準軸Aからずれてストッパ55と当接したときには、第2内筒体4側は第1案内部551又は第2案内部552に沿って基準軸Aに近づくように相対移動するようになる。そうして、最終的に、第2内筒体4が基準軸A上に位置するようになる。これにより、ブラケット2の回動を回避した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のパワープラント等の被支持体と車体とを連結する防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばフロントエンジン・フロントドライブ(FF)方式の車両においては、一般的に、エンジン及び変速機が直列に連結されたパワープラントを、その長手方向が車幅方向となるようにエンジンルームに対して横置きに配設した、いわゆる横置き搭載方式が採用されている。横置き搭載方式の一例として、パワープラントの長手方向両端部を、それぞれ防振マウントにより車両のサイドフレームに対して弾性支持すると共に、これら2つの防振マウントをパワープラントの慣性主軸(ロール軸)よりも高い位置に配置することにより、パワープラントを各防振マウントの荷重の支持点を結ぶ揺動支軸周りに振り子のように揺動可能に支持した、いわゆるペンデュラムマウント方式がある。ペンデュラムマウント方式では、例えば自動車の急加減速時のように大きな駆動反力が作用すると、パワープラントが振り子のように車体前後方向に大きく揺れようとするところ、こうした車体前後方向の揺れは、パワープラントの下端部と該パワープラントの車体後方に位置する車両のサブフレームとが、例えば特許文献1に開示されたようなトルクロッド(防振装置)を介して連結されていることにより規制されている。
【0003】
前記特許文献1に開示されたトルクロッドは、その長手方向の両端部にそれぞれ相対的に小さい筒孔を有する第1筒状部と、該第1筒状部の筒孔と同一方向に開口する相対的に大きい筒孔を有する第2筒状部と、を有するブラケットを備えている。第1筒状部の筒孔には、第1内筒体が配設されており、この第1内筒体と第1筒状部とはゴム弾性体により連結されている。第2筒状部の筒孔は、筒軸方向視で略八角形状を有しており、その略中央位置には、第2内筒体が、第1内筒体の筒軸と平行となるように配設されている。そうして、第2内筒体と第2筒状部とは弾性体により連結されている。弾性体には、第2内筒体を挟んで長手方向(第2内筒体の筒軸直交方向)の両側それぞれに、当該弾性体を第2内筒体の筒軸方向に貫通する貫通孔が形成されており、これにより、第2内筒体から第2筒状部に向かって略径方向に延びる主ばね部が形成されている。
【0004】
このように構成されたトルクロッドは、ペンデュラムマウント方式に適用されるときには、その長手方向が車体前後方向(主荷重入力方向)となるように、また、その長手方向に直交する短手方向が車体上下方向となるように、第1内筒体がパワープラント(被支持体)に連結される一方、第2内筒体が車両のサブフレーム(車体)に連結されることになる。
【0005】
そうして、八角形状の第2筒状部の内周面の内、第2内筒体に対し、第1筒状部側で対向する設置部は、短手方向に略平坦となるように形成されており、この設置部には、ゴム弾性体から成るストッパが、略一定の肉厚で設けられている。これにより、ストッパは、第2内筒体と貫通孔を介して長手方向に対向すると共に、短手方向に略平坦(主荷重入力方向に直交する直交方向に略平坦)となるように形成されている。このストッパは、第2内筒体と第2筒状部とが長手方向に大きく相対変位したときには、第2内筒体(正確にはそれを囲む弾性体の部分であり、以下においては、第2内筒体とそれを囲む弾性体部分とを含めて、第2内筒体側と呼ぶ場合がある)と当接することになり、そのことにより、第2内筒体と第2筒状部との長手方向に対する相対変位を所定量に規制する機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4046072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に開示されたトルクロッドのように、第2筒状部の筒孔形状を筒軸方向視で多角形にすることは、ばね特性のチューニング幅の向上、主ばね自由長の拡大、ストッパ形状の多様化を図る上では有利である。
【0008】
しかしながら、本願発明者らは、こうした多角形状の筒孔形状を有するトルクロッドにおいては、当該トルクロッドに荷重が入力して第2筒状部と第2内筒体とが車体前後方向に大きく相対変位をしたときに、ストッパによって定められる最大ストローク量を超えて変位してしまう現象が起こり得ることを見いだした。最大ストローク量を超えて相対変位してしまうことは、パワープラントが設定以上に変位してしまうことにもなるため、パワープラントと他の部品や部位との干渉を招く虞がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、パワープラント等の被支持体と車体とを連結する防振装置において、設定した最大ストローク量を超えて相対変位してしまうことを確実に防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らが、前記の現象について検討したところ、多角形状の筒孔形状を有する防振装置、特に、ストッパが設けられる設置部が、主荷重入力方向に直交する直交方向に略平坦となった防振装置においては、第2筒状部と第2内筒体との相対変位が主荷重入力方向に沿う場合、換言すれば、第1内筒体の筒軸と第2筒状部の筒軸とを結び、主荷重入力方向に延びる基準軸上を前記の第2内筒体が相対変位して、その主荷重入力方向に直交する設置部(ストッパ)に当接する場合は、その当接後に第2内筒体が相対変位することは規制されて、それ以上にストローク量が増えることは回避される。
【0011】
これに対し、防振装置に入力される荷重の方向がずれて、第2内筒体が前記基準軸からずれて相対変位をして前記設置部のストッパに当接した場合は、ブラケットが回動するようになり、そのブラケットの回動の分だけ、第2内筒体がさらに、主荷重入力方向に相対変位をしてしまうことを、本願発明者らは見いだした。
【0012】
そこで第2内筒体が、仮に基準軸からずれて相対変位をした場合でも、ブラケットの回動を防止することに着目して、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
本発明の防振装置は、被支持体と車体とを連結する防振装置を対象とする。
【0014】
そして、第1の発明では、防振装置は、前記被支持体側に配置される第1筒状部と、前記第1筒状部に対して主荷重入力方向に間隔を空けて、前記車体側に配置される第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを連結する連結部とを有するブラケットと、前記第1筒状部の筒孔内に配設されて、当該第1筒状部に弾性連結されると共に、前記被支持体と連結される第1内筒体と、前記第2筒状部の筒孔内に前記第1内筒体の筒軸と平行となるように配設されると共に、前記車体と連結される第2内筒体と、前記第2筒状部と前記第2内筒体とを連結するゴム弾性体と、前記第2筒状部の内周面の内、前記第2内筒体に対し前記主荷重入力方向に対向する部位である設置部に設けられかつ、荷重が入力するに伴い前記第2筒状部及び第2内筒体が前記主荷重入力方向に相対変位したときに、前記第2内筒体側と当接することで、前記の相対変位を規制するストッパと、を備え、前記ストッパは、前記第1内筒体の筒軸と前記第2筒状部の筒軸とを結ぶように前記主荷重入力方向に延びる基準軸を挟んだ、前記主荷重入力方向に直交する直交方向の一側において、前記基準軸に対し離れた側から当該基準軸に近づくにつれて前記第2筒状部の筒軸から離れるように、前記直交方向に対して傾斜した第1案内部と、前記基準軸を挟んだ前記直交方向の他側において、前記第1案内部とは逆方向に、前記直交方向に対して傾斜した第2案内部とを有しており、前記の入力荷重によって前記第2内筒体側が前記ストッパの第1案内部又は第2案内部に当接したときには、前記第2内筒体側が、前記第1案内部又は前記第2案内部に沿って前記基準軸に近づくように相対移動をするよう構成されている。
【0015】
ここで、「第2内筒体側」とは、第2内筒体そのもののみならず、第2内筒体の表面に弾性体が一体に設けられている場合には、その弾性体をも含む意味である。
【0016】
この構成によると、防振装置に対し、例えば被支持体からの荷重(主荷重入力方向の荷重)が入力されると、第2筒状部及び第2内筒体が主荷重入力方向に相対変位をして、第2内筒体側とストッパとが当接する。
【0017】
これに対し、第2内筒体が、前記基準軸からずれて相対変位をしたときであって、第2内筒体が基準軸に対し直交方向の一側にずれたときには、ストッパの第1案内部に当接し、基準軸に対し直交方向の他側にずれたときには、ストッパの第2案内部に当接する。ここで、第1案内部は、基準軸に対し離れた側から基準軸に近づくにつれて第2筒状部の筒軸から離れるように直交方向に対し傾斜しているため、第2内筒体側が第1案内部に当接した後は、その第1案内部に沿って相対移動をして、第2内筒体は、最終的には基準軸上に位置するようになる。また、第2案内部は、第1案内部とは逆方向に、直交方向に対して傾斜しているため、第2内筒体側が第2案内部に当接した後は、その第2案内部に沿って相対移動をして、このときも第2内筒体は、最終的には基準軸上に位置するようになる。
【0018】
こうして、第2内筒体が基準軸に対してずれて相対変位をし、第1又は第2案内部に当接したときには、その第1又は第2案内部によって第2内筒体の位置が基準軸上となるように矯正されるため、ブラケットが回動してしまうことが回避される。その結果、最大ストローク量を超えて第2内筒体が相対変位してしまうことが、確実に防止される。
【0019】
第2の発明では、防振装置は、前記被支持体側に配置される第1筒状部と、前記第1筒状部に対して主荷重入力方向に間隔を空けて、前記車体側に配置される第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを連結する連結部とを有するブラケットと、前記第1筒状部の筒孔内に配設されて、当該第1筒状部に弾性連結されると共に、前記被支持体と連結される第1内筒体と、前記第2筒状部の筒孔内に前記第1内筒体の筒軸と平行となるように配設されると共に、前記車体と連結される第2内筒体と、前記第2筒状部と前記第2内筒体とを連結するゴム弾性体と、前記第2筒状部の内周面の内、前記第2内筒体に対し前記主荷重入力方向に対向する部位である設置部に設けられかつ、荷重が入力するに伴い前記第2筒状部及び第2内筒体が前記主荷重入力方向に相対変位したときに、前記第2内筒体側と当接することで、前記の相対変位を規制するストッパと、を備え、前記設置部は、前記第1内筒体の筒軸と前記第2筒状部の筒軸とを結ぶように前記主荷重入力方向に延びる基準軸を挟んだ、前記主荷重入力方向に直交する直交方向の一側において、前記基準軸に対し離れた側から当該基準軸に近づくにつれて前記第2筒状部の筒軸から離れるように、前記直交方向に対して傾斜した第1設置面と、前記基準軸を挟んだ前記直交方向の他側において、前記第1設置面とは逆方向に、前記直交方向に対して傾斜した第2設置面とを有しており、前記ストッパは、前記第1設置面及び第2設置面に沿うように設けられており、前記の入力荷重によって前記第2内筒体側が、前記ストッパに当接したときには、前記第2内筒体側が前記第1設置面又は前記第2設置面に沿って前記基準軸に近づくように相対移動をするよう構成されている。
【0020】
ここで、「第2内筒体側」とは、第2内筒体そのもののみならず、第2内筒体の表面に弾性体が一体に設けられている場合には、その弾性体をも含む意味である。
【0021】
この構成によると、第2内筒体が、前記基準軸から直交方向の一側にずれて相対変位をしたときには、設置部における第1設置面側のストッパと当接し、直交方向の他側にずれて相対変位をしたときには、設置部における第2設置面側のストッパと当接する。第1設置面は、前記の第1案内部と同様に、基準軸に対し離れた側から基準軸に近づくにつれて第2筒状部の筒軸から離れるように、直交方向に対し傾斜しているため、第1設置面側のストッパと当接したときには、第1設置面に沿うようにストッパ上を相対移動をして、第2内筒体は、最終的には基準軸上に位置するようになる。また、第2設置面は、第1設置面とは逆方向に、直交方向に対して傾斜しているため、第2内筒体が第2設置面に当接した後は、その第2設置面に沿うようにストッパ上を相対移動をして、このときも第2内筒体は、最終的には基準軸上に位置するようになる。
【0022】
こうして、第2の発明においても、第1の発明と同様に、第2内筒体が基準軸に対してずれて相対変位をしたときには、第1設置面又は第2設置面によって第2内筒体の位置が基準軸上となるように矯正されるため、ブラケットの回動が回避され、最大ストローク量を超えて第2内筒体が相対変位してしまうことが確実に防止される。
【0023】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、前記第2内筒体、前記第2筒状部及び前記ゴム弾性体は、加硫一体成形されている。
【0024】
第2筒状部の筒孔内に第2内筒体を配設する方法の1つとして、第2筒状部に対し第2内筒体及び外筒体を有するゴムブッシュを圧入する方法がある。このゴムブッシュを圧入する方法では、ゴムブッシュを圧入可能にするために、第2筒状部の筒孔の形状を、筒軸方向視で円形又は楕円形にする必要がある。これに対し、第2筒状部、第2内筒体及びゴム弾性体を加硫一体成形によって形成するようにすれば、第2筒状部の筒孔形状を筒軸方向視で円形又は楕円形にする必要はなく、所望の形状にすることができるので、ばね特性のチューニング幅の向上、主ばね自由長の拡大、ストッパ形状の多様化に有利な、例えば多角形の筒孔形状を有する第2筒状部を実現することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明の防振装置では、第2内筒体側が基準軸からずれてストッパと当接したときに、その第2内筒体の位置を基準軸上となるように矯正するようにして、ブラケットの回動を回避したから、設定した最大ストローク量を超えて相対変位してしまうことを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】自動車のエンジンマウントシステムの概略構成を示す斜視図である。
【図2】実施形態1に係るトルクロッドの側面図である。
【図3】実施形態2に係るトルクロッドの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
(実施形態1)
図1は、実施形態に係る自動車のエンジンマウントシステムの概略構成を示す斜視図である。図1において、符号Pは、エンジンE及び変速機Tが直列に連結されたパワープラントである。
【0028】
パワープラントPは、その長手方向が車幅方向となるようにエンジンルームに対して横置きに配設されており、その長手方向両端部にそれぞれ配設された防振マウントM1,M2により車両のサイドフレームSに対して弾性支持されている。そうして、この2つの防振マウントM1,M2はそれぞれ、パワープラントPの慣性主軸(ロール軸)よりも高い位置に配設されており、そのことにより、パワープラントPは、2つの防振マウントM1,M2の荷重の支持点を結ぶ揺動支軸周りに振り子(ペンデュラム)のように揺動可能になっている。
【0029】
このエンジンマウントシステムにおいて、例えば自動車の急加減速時のように大きな駆動反力が作用すると、パワープラントPが振り子のように車体前後方向に大きく揺れようとするところ、そうした車体前後方向の揺れは、パワープラントPの下端部と該パワープラントPの車体後方に位置する車両のサブフレームFとがトルクロッド1を介して連結されていることにより規制されている。このパワープラントPが被支持体を、サブフレームFが車体をそれぞれ構成する。そして、このエンジンマウントシステムにおいては、主荷重入力方向が車体前後方向になり、その車体前後方向に直交する直交方向が車体上下方向になる。
【0030】
トルクロッド1は、図2に示すように、相対的に小さい筒孔を有する第1筒状部21、該第1筒状部21に対して主荷重入力方向(つまり、車体前後方向)に間隔を空けて配置されかつ、その第1筒状部21の筒孔と同一方向に開口する相対的に大きい筒孔を有する第2筒状部22、及び、第1筒状部21と第2筒状部22とを連結する連結部23から成る、側面視で略瓢箪状のブラケット2を備えており、第1筒状部21側がパワープラントPに連結され、第2筒状部22側がサブフレームFに連結される。
【0031】
第1筒状部21は、円筒状を成しており、その筒孔には、ゴムブッシュ3が同軸となるように嵌め込まれている。
【0032】
ゴムブッシュ3は、第1内筒体31と、該第1内筒体31の外周囲に一体に設けられたゴム弾性体とを有している。
【0033】
第1内筒体31は、円筒状の部材であり、その筒孔に挿通された図示省略のボルト等によってパワープラントPの下端部に連結され、これにより、トルクロッド1の第1筒状部21側がパワープラントPに連結される。
【0034】
第2筒状部22は、その筒孔が側面視で八角形となるように形成されていて、その筒孔内の略中央位置には、第2内筒体4が、第1内筒体31の筒軸と平行となるように配設されている。そうして、この第2内筒体4と第2筒状部22とは、ゴム弾性体5により連結されている。このように、第2内筒体4と第2筒状部22とをゴム弾性体5により連結するには、例えば、加硫一体成形とすればよく、具体的には射出成形金型に対して、ブラケット2を設置した後、該ブラケット2の第2筒状部22の内側に第2内筒体4を設置し、型締め後に、第2内筒体4と第2筒状部22との間に未加硫のゴム弾性体5を射出すると共に、加熱加硫して、ゴム弾性体5と第2内筒体4及び第2筒状部22とを加硫接着させればよい。加硫一体成形を採用することは、第2筒状部22の筒孔の形状を円形状や楕円形状といった形成にしなければならないという制約をなくして、その形状の自由度を高め得る。第2筒状部22の筒孔形状を筒軸方向視で多角形にすることは、ばね特性のチューニング幅の向上、主ばね自由長の拡大、ストッパ形状の多様化を図る上では有利である。ここでは、第2筒状部22の筒孔の形状を八角形にしているが、これに限定されず、その他の多角形状にしてもよい。
【0035】
第2内筒体4は、円筒状の部材であり、その筒孔に挿通された図示省略のボルト等によってサブフレームFに連結され、これにより、トルクロッド1の第2筒状部22側がサブフレームFに連結される。こうして、第1内筒体31がパワープラントPに連結されることと、第2内筒体4がサブフレームFに連結されることとにより、サブフレームFとパワープラントPとがトルクロッド1を介して連結される。
【0036】
ゴム弾性体5には、第2内筒体4を挟んで車体前後方向(第2内筒体4の筒軸直交方向)の両側それぞれに、当該ゴム弾性体5を第2内筒体4の筒軸方向(車幅方向)に貫通する貫通孔51,52が形成されている。これにより、第2内筒体4から第2筒状部22に向かって略径方向に延びる2つの主ばね部53,53が形成されている。
【0037】
車体後側の貫通孔51には、第2筒状部22の内周面から車体前方に向かって突出するゴム弾性体から成るストッパ54が設けられている一方、車体前側の貫通孔52には、第2筒状部22の内周面に沿ってゴム弾性体から成るストッパ55が設けられている。これらのストッパ54,55はそれぞれ、第2内筒体4を挟んだ主荷重入力方向、換言すれば車体前後方向のそれぞれにこの第2内筒体4に対向するように設けられている。
【0038】
ストッパ55は、後述するように、第2内筒体4及び第2筒状部22が車体前後方向に相対変位したときに、第2内筒体4(正確にはそれを囲む弾性体の部分であり、以下においては、第2内筒体4とそれを囲む弾性体部分とを含めて、第2内筒体4側と呼ぶ場合がある)と当接することになり、そのことにより、第2内筒体4と第2筒状部22との車体前後方向に対する相対変位を所定量に規制する機能を有している。
【0039】
ストッパ55は、具体的には、八角形状の第2筒状部22の内周面の内、第2内筒体4に対し車体前側で対向すると共に、車体上下方向に平坦となるように形成された設置部221及び該設置部221に隣接する2面に亘って伸びるように、当該内周面上に設けられている。このストッパ55は、その上側が車体後側に、その下側が車体前側になるように傾斜した第1案内部551と、該第1案内部551の下端に連続すると共に、第1案内部551とは逆方向、即ち、その上側が車体前側に、その下側が車体後側になるように傾斜した第2案内部552とを有していることにより、第2内筒体4側から第1内筒体31に向かって凹状となるように形成されている。
【0040】
そうして、ストッパ55は、第1案内部551と第2案内部552とが、第1内筒体31の筒軸と第2筒状部22の筒軸とを結ぶように、車体前後方向に延びる基準軸Aに対して線対称となるように形成されている。即ち、第1案内部551は、基準軸Aを挟んだ上側において、基準軸Aに対し離れた側(上側)から基準軸Aに近づくにつれて第2筒状部22の筒軸から離れるように傾斜している一方、第2案内部552もまた、基準軸Aを挟んだ下側において、基準軸Aに対し離れた側(下側)から基準軸Aに近づくにつれて第2筒状部22の筒軸から離れるように傾斜していて、これによって第1案内部551とは逆方向に傾斜している。そうして、第1案内部551及び第2案内部552は、概略V字状を成すように構成されており、基準軸Aは、そのV字状のストッパ55の底部を通っている。
【0041】
トルクロッド1は、以上のように構成されており、次に、トルクロッド1の作用効果について説明する。
【0042】
例えば自動車が急減速すると、大きな駆動反力により、パワープラントPから第1内筒体31を通じてトルクロッド1に荷重が入力され、ブラケット2が車体後方に移動する。第2内筒体4はサブフレームFに固定されているためほとんど移動せず、結果として、第2筒状部22と第2内筒体4とが車体前後方向に大きく相対変位することになる。そうして、第2内筒体4が基準軸A上に沿って相対移動をし、第2内筒体4側とストッパ55とが当接したときには、第2内筒体4側は、V字状のストッパ55の底部に当接する。このときには、第2筒状部22と第2内筒体4との、これ以上の相対移動が規制される。
【0043】
一方、トルクロッド1に入力される荷重に、主荷重入力方向だけでなく、それに直交する方向の成分が含まれている場合には、第2内筒体4が、基準軸Aからずれて相対移動をし、これにより、第2内筒体4側は、ストッパ55の第1案内部551又は第2案内部552と当接するようになる。
【0044】
ここで、設置部221が車体上下方向に平坦となるように形成される一方で、仮に、傾斜した第1及び第2案内部551,552が設けられていないトルクロッドにおいては、第2内筒体4側が、基準軸Aからずれた位置でストッパ55に当接することにより、ブラケット2が、第1筒状部21側を中心として回動し得るようになるところ、前記のトルクロッド1では、傾斜した第1及び第2案内部551,552が設けられていることにより、第2内筒体4側が第1又は第2案内部551,552に当接したときには、その傾斜に沿って第2内筒体4側は、基準軸Aの方に相対移動をするようになり、最終的には、第1及び第2案内部551,552に挟まれるように、第2内筒体4側は基準軸A上に位置するようになる。これにより、ブラケット2の回動が回避される。
【0045】
このようにトルクロッド1によると、第2内筒体4側が、基準軸Aからずれてストッパ55と当接したときには、第1案内部551と第2案内部552とによって、第2内筒体4の位置を基準軸Aとなるように矯正するように構成したから、ブラケット2の回動を回避することができる。これにより、予め定めた最大ストローク量を超えて変位することを防止することができるから、パワープラントPが、エンジンルーム内の他の部材等と干渉することを、確実に回避することができる。
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るトルクロッド101について説明する。
【0046】
この実施形態2に係るトルクロッド101は、図3に示すように、第2筒状部及びストッパの構成が実施形態1と異なる。そこで、実施形態1と同様の構成については同様の符号を付して適宜説明を省略し、実施形態1と異なる構成について中心に説明する。
【0047】
トルクロッド101は、図2に示す上下方向に平坦な面である設置部221を有するトルクロッド1とは異なり、設置部241が、基準軸Aを挟んだ上下の両側それぞれに傾斜する設置面を有している。
【0048】
具体的に第2筒状部24は、その筒孔が側面視で七角形となるように形成されており、七角形状の第2筒状部24の内周面の内、第2内筒体4に対し車体前側で対向する2面から成る設置部241は、その上側が車体後側に、その下側が車体前側になるように傾斜した第1設置面241aと、該第1設置面241aの下端に連続すると共に、第1設置面241aとは逆方向に傾斜した、即ち、その上側が車体前側に、その下側が車体後側になるように傾斜した第2設置面241bとを有していることにより、第2内筒体4側から第1内筒体31に向かって凹状となるように形成されている。
【0049】
そうして、設置部241は、第1設置面241aが、基準軸Aを挟んだ上側において、基準軸Aに対し離れた側(上側)から基準軸Aに近づくにつれて第2筒状部24の筒軸から離れるように傾斜している一方、第2設置部241bも、基準軸Aを挟んだ下側において、基準軸Aに対し離れた側(下側)から基準軸Aに近づくにつれて第2筒状部24の筒軸から離れるように傾斜しており、これにより、第1設置面241aと第2設置面241bとは、基準軸Aに対して線対称となるように形成されている。
【0050】
ストッパ56は、第1設置部241aの上に、略一定の肉厚となるように設けられていることにより、該第1設置部241aの傾斜方向と同じ方向に傾斜した第1傾斜部561と、第2設置部241bの上に、略一定の肉厚となるように設けられていることにより、該第2設置部241bの傾斜方向と同じ方向に傾斜した第2傾斜部562とを有している。これにより、ストッパ56は、第2内筒体4側から第1内筒体31に向かって凹状となるように形成されている。
【0051】
本実施形態2のトルクロッド101は、以上のように構成されており、次に、トルクロッド101の作用効果について説明する。
【0052】
トルクロッド101に入力される荷重に、上下方向の成分が含まれていることにより、第2内筒体4が基準軸Aからずれて相対移動をしたときには、第2内筒体4側は、ストッパ56の第1傾斜部561又は第2傾斜部562と当接する。
【0053】
このときに、設置部241の第1設置面241a及び第2設置面241bがそれぞれ、上下方向に傾斜していることから、第2内筒体4側は、図2に示すトルクロッド1と同様に、その第1設置面241a(ストッパの第1傾斜部561)又は第2設置面241b(第2傾斜部562)に沿って基準軸Aの方に相対移動をして、最終的に第2内筒体4側は、第1傾斜部561及び第2傾斜部562に挟まれるように、基準軸A上に位置するようになる。その結果、このトルクロッド101においても、ブラケット2が回動してしまうことを回避して、予め定めた最大ストローク量を超えて変位することを防止することができる。図2に示すトルクロッド1と図3に示すトルクロッド101とを比較したときに、図2に示すトルクロッド1では、ゴム弾性体から成るストッパ55が第1及び第2案内部551,552を有しており、第2内筒体4と当接したときに若干傾斜が変形してしまう一方、図3に示すトルクロッド101では設置面241a,241bの傾斜が変形することがないため、ブラケット2の回動防止機能はより高くなる。
【0054】
以上説明したように、実施形態に係るトルクロッドでは、第2内筒体側が基準軸からずれてストッパと当接したときに、その第2内筒体の位置を基準軸上となるように矯正するようにしたから、ブラケットの回動を回避して、最大ストローク量を超えて変位することを確実に防止することができる。
《その他の実施形態》
本発明は、前記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0055】
すなわち、前記実施形態では、第2内筒体を円筒状の部材にしているが、これに限られず、例えば楕円筒状の部材にしてもよい。
【0056】
また、第1案内部及び第2案内部(又は第1傾斜部及び第2傾斜部)を基準線に対して対称となるように形成しているが、これに限られず、例えば、第1案内部の傾斜角度と第2案内部の傾斜角度が異なるように形成してもよい。第1案内部及び第2案内部は、基準線まで延びて形成しなくともよく、例えば、ストッパにおける基準線上の位置に凹陥部を設けると共に、その凹陥部の開口縁に、第1及び第2案内部が連続するように形成してもよい。
【0057】
また、ブラケットの回動は、減速時に起きやすいため、前記実施形態に係るトルクロッドにおいては、第1案内部及び第2案内部(又は第1傾斜部及び第2傾斜部)を有するストッパを、第2内筒体に対して車体前側に設けているが、加速時において、前記と同様の効果を得るために、車体後側に設けてもよいし、加速及び減速の双方において前記と同様の効果を得るために、車体前後両側それぞれに設けるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の防振装置は、第2内筒体側とストッパとが当接した後における、ブラケットの回動を回避することができるから、例えばペンデュラムマウント方式で支持されるパワープラントのトルクロッドとして適用したときに、パワープラントがエンジンルーム内の他の部材等と干渉することを確実に回避することができる点で有用である。
【符号の説明】
【0059】
1,101 トルクロッド(防振装置)
2 ブラケット
21 第1筒状部
22,24 第2筒状部
221,241 設置部
241a 第1設置面
241b 第2設置面
23 連結部
31 第1内筒体
4 第2内筒体
5 ゴム弾性体
55,56 ストッパ
551 第1案内部
552 第2案内部
561 第1傾斜部
562 第2傾斜部
A 基準軸
F サブフレーム(車体)
P パワープラント(被支持体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被支持体と車体とを連結する防振装置であって、
前記被支持体側に配置される第1筒状部と、前記第1筒状部に対して主荷重入力方向に間隔を空けて、前記車体側に配置される第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを連結する連結部とを有するブラケットと、
前記第1筒状部の筒孔内に配設されて、当該第1筒状部に弾性連結されると共に、前記被支持体と連結される第1内筒体と、
前記第2筒状部の筒孔内に前記第1内筒体の筒軸と平行となるように配設されると共に、前記車体と連結される第2内筒体と、
前記第2筒状部と前記第2内筒体とを連結するゴム弾性体と、
前記第2筒状部の内周面の内、前記第2内筒体に対し前記主荷重入力方向に対向する部位である設置部に設けられかつ、荷重が入力するに伴い前記第2筒状部及び第2内筒体が前記主荷重入力方向に相対変位したときに、前記第2内筒体側と当接することで、前記の相対変位を規制するストッパと、を備え、
前記ストッパは、前記第1内筒体の筒軸と前記第2筒状部の筒軸とを結ぶように前記主荷重入力方向に延びる基準軸を挟んだ、前記主荷重入力方向に直交する直交方向の一側において、前記基準軸に対し離れた側から当該基準軸に近づくにつれて前記第2筒状部の筒軸から離れるように、前記直交方向に対して傾斜した第1案内部と、前記基準軸を挟んだ前記直交方向の他側において、前記第1案内部とは逆方向に、前記直交方向に対して傾斜した第2案内部とを有しており、
前記の入力荷重によって前記第2内筒体側が前記ストッパの第1案内部又は第2案内部に当接したときには、前記第2内筒体側が、前記第1案内部又は前記第2案内部に沿って前記基準軸に近づくように相対移動をするよう構成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
被支持体と車体とを連結する防振装置であって、
前記被支持体側に配置される第1筒状部と、前記第1筒状部に対して主荷重入力方向に間隔を空けて、前記車体側に配置される第2筒状部と、前記第1筒状部と前記第2筒状部とを連結する連結部とを有するブラケットと、
前記第1筒状部の筒孔内に配設されて、当該第1筒状部に弾性連結されると共に、前記被支持体と連結される第1内筒体と、
前記第2筒状部の筒孔内に前記第1内筒体の筒軸と平行となるように配設されると共に、前記車体と連結される第2内筒体と、
前記第2筒状部と前記第2内筒体とを連結するゴム弾性体と、
前記第2筒状部の内周面の内、前記第2内筒体に対し前記主荷重入力方向に対向する部位である設置部に設けられかつ、荷重が入力するに伴い前記第2筒状部及び第2内筒体が前記主荷重入力方向に相対変位したときに、前記第2内筒体側と当接することで、前記の相対変位を規制するストッパと、を備え、
前記設置部は、前記第1内筒体の筒軸と前記第2筒状部の筒軸とを結ぶように前記主荷重入力方向に延びる基準軸を挟んだ、前記主荷重入力方向に直交する直交方向の一側において、前記基準軸に対し離れた側から当該基準軸に近づくにつれて前記第2筒状部の筒軸から離れるように、前記直交方向に対して傾斜した第1設置面と、前記基準軸を挟んだ前記直交方向の他側において、前記第1設置面とは逆方向に、前記直交方向に対して傾斜した第2設置面とを有しており、
前記ストッパは、前記第1設置面及び第2設置面に沿うように設けられており、
前記の入力荷重によって前記第2内筒体側が前記ストッパに当接したときには、前記第2内筒体側が、前記第1設置面又は前記第2設置面に沿って前記基準軸に近づくように相対移動をするよう構成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の防振装置において、
前記第2内筒体、前記第2筒状部及び前記ゴム弾性体は、加硫一体成形されていることを特徴とする防振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−13211(P2012−13211A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153215(P2010−153215)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】