説明

防振部材

【課題】単純な配置構成であっても、外部から防振対象物への振動の伝達を抑えつつ防振対象物が変位した際には確実に防振対象物の変位を抑制する。
【解決手段】磁性エラストマからなる剛性変化部2と、荷重を受けることにより磁界を形成すると共に防振対象物から受ける荷重の大きさの変化する方向と同じ方向に磁界の強さを変化させる超磁歪部3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自ら振動するエンジンや移動体に搭載される精密機器、さらには地震による影響を受ける建物等は、防振装置等を介して固定部に固定されることで、振動の抑制が図られている。
このような防振装置では、防振対象物の振動をできるだけ早く減衰させることが求められる場合があり、このような場合には、特許文献1に示すような減衰力を調節可能な可変減衰装置を用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−127443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ただし、特許文献1に示す可変減衰装置によれば、防振装置の減衰特性を変化させることはできるが、剛性を変化させることはできない。
【0005】
一方で、防振装置によって防振対象物の振動を抑制する場合には、様々な方向からの振動を抑制するために、通常、複数の防振ゴムを防振対象物に対して固定する。
このような複数の防振ゴムによる支持された防振対象物に対して、静的あるいは準静的に加速度が加わると、防振ゴムは、それぞれの取り付け位置の相違に起因して、圧縮方向や引張方向等の方向やその大きさが異なる荷重を受ける。
そして、防振ゴムの剛性は、防振ゴムが受けている荷重によって変化する荷重依存性を有する。このため、防振対象物に対して静的あるいは準静的に加速度が加わった場合には、防振対象物に固定された複数の防振ゴム間で剛性にばらつきが生じることとなる。よって、防振対象物に対して傾いた方向から加速度が加わり、引張荷重を受ける防振ゴムの剛性が大きく低下する等により防振ゴム間の剛性のばらつきが大きくなると、防振対象物に回転運動が生じることになる。
このように防振対象物に回転運動が生じると、防振対象物が固定面と干渉する虞があるため、当該干渉を防ぐために防振対象物の設置スペースを広く確保する等、設定スペースの面からのデメリットが生じる。
このため、2つの防振ゴムを一対とし、圧縮方向と引張方向とのいずれの方向に力が加わっても一対の防振ゴムにおいて剛性が一定となる方法も考えられるが、複雑な構成となることに加えてこの場合も設置スペースを広く確保する必要がある。
【0006】
なお、特許文献1に示す可変減衰装置を用いた場合であっても、上述のように剛性を変化させることができないため、防振対象物の回転運動を抑制することはできない。
【0007】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、単純な配置構成であっても、外部から防振対象物への振動の伝達を抑えつつ確実に防振対象物の変位を抑制することが可能な防振部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0009】
第1の発明は、防振対象物に固定されると共に上記防振対象物の振動を抑制する防振部材であって、磁性エラストマからなる剛性変化部と、荷重を受けることにより磁界を形成すると共に上記防振対象物から受ける荷重の大きさの変化する方向と同じ方向に磁界の強さを変化させる超磁歪部とを備えるという構成を採用する。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記超磁歪部を挟み込んで上記剛性変化部が配置されているという構成を採用する。
【0011】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記剛性変化部を挟み込んで上記超磁歪部が配置されているという構成を採用する。
【0012】
第4の発明は、上記第1〜第3いずれかの発明において、上記剛性変化部と上記超磁歪部とが上記防振対象物から受ける荷重の作用方向に対して直列に配列されているという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、防振対象物に静的あるいは準静的に大きな加速度が加わっていないには、防振対象物から超磁歪部に作用する荷重が殆どなく、超磁歪部が発生する磁界が弱く、剛性変化部の剛性が低い状態が保たれるため、剛性変化部の初期剛性からの変化量が小さく、外部から防振対象物への振動の伝達を抑えることができる。
【0014】
一方、防振対象物に静的あるいは準静的に大きな加速度が加わる場合には、防振対象物から超磁歪部に作用する荷重が大きく、超磁歪部が発生する磁界が強くなるため、剛性変化部の剛性が初期剛性に比べて高くなり、静的あるいは準静的に加わった加速度に対する防振対象物の移動量が抑制される。
さらに、超磁歪部は、引張荷重と圧縮荷重とに関わらず磁界を発生する。このため、本発明の防振部材に荷重が作用した場合には、その方向に関わらず剛性変化部の剛性が高くなる。したがって、従来の防振ゴムのように引張荷重を受けることによる剛性の低下が生じず、複数の防振部材を防振対象物に固定した場合における防振部材間の剛性のばらつきが大きくなることを抑制することができ、これによって防振対象物が回転運動することを抑制することができる。
このように本発明によれば、防振対象物が運動した際には、その運動による防振対象物の変位を確実に抑制することができる。
【0015】
また、本発明によれば、上述のように引張荷重と圧縮荷重とに関わらず剛性が高まるため、防振対象物に対してどのように配置した場合であっても、防振対象物の変位量を抑制することができる。
したがって、本発明によれば、単純な配置構成であっても防振対象物の変位を抑制することができる。
【0016】
このように本発明によれば、単純な配置構成であっても、外部から防振対象物への振動の伝達を抑えつつ確実に防振対象物の変位を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態における防振部材の概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1実施形態における防振部材の配置例を示す斜視図である。
【図3】従来の防振ゴムを用いた場合における防振対象物の移動を示す模式図である。
【図4】本発明の第1実施形態における防振部材を用いた場合における防振対象物の移動を示す模式図である。
【図5】本発明の第2実施形態における防振部材の概略構成を示す斜視図である。
【図6】本発明の第3実施形態における防振部材の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明に係る防振部材の一実施形態について説明する。なお、以下の図面においては、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
(第1実施形態)
図1は、本実施形態の防振部材1の概略構成を示す斜視図である。
この図に示すように、本実施形態の防振部材1は、磁性エラストマからなる剛性変化層2(剛性変化部)と、超磁歪素子からなる超磁歪層3(超磁歪部)とを備えている。
【0020】
剛性変化層2は、晒される磁界の強さに応じて剛性が変化する層であり、磁性粉が練り込まれたエラストマ材料である磁性エラストマから形成されている。
より詳細には、剛性変化層2は、晒される磁界の強さが強くなるほど剛性が高くなり、晒される磁界の強さが弱くなるほど剛性が低くなる。つまり、剛性変化層2は、晒される磁界の強さの変化方向と同じ方向に自らの剛性を変化させるものである。
【0021】
そして、図1に示すように、本実施形態の防振部材1において剛性変化層2は、超磁歪層3を挟み込むようにして超磁歪層3の両側に配置されている。そして、各剛性変化層2は、接着剤を介して超磁歪層3に対して密接されている。
【0022】
なお、超磁歪層3を挟み込んで配置される2つの剛性変化層2のうち、片側の剛性変化層2が防振対象物A(図2参照)に対して固定され、もう片側の剛性変化層2が防振対象物Aの固定される固定部Wに対して固定される。
つまり、本実施形態の防振部材1が防振対象物Aと固定部Wとの間に設置された場合には、剛性変化層2と超磁歪層3とは、防振対象物Aと固定部Wとの間に直列に配列される。さらに説明すると、本実施形態の防振部材1においては、剛性変化層2と超磁歪層3とが防振対象物Aから受ける荷重の作用方向に対して直列に配置されている。
【0023】
超磁歪層3は、荷重が作用して歪んだ(変形した)際に、歪み量に応じた強さの磁界を発生する層であり、超磁歪材料から形成されている。
より詳細には、超磁歪層3は、受ける荷重が大きくなって歪み量が大きくなるほど強い磁界を発生し、受ける荷重が小さくなって歪み量が小さくなるほど弱い磁界を発生する。
【0024】
このように構成された本実施形態の防振部材1は、例えば、図2に示すように、防振対象物Aと固定部Wとの間に複数配置され、防振対象物A及び固定部Wに対して固定されている。つまり、防振対象物Aは、複数の本実施形態の防振部材1を介して固定部Wに対して固定されている。
【0025】
このような本実施形態の防振部材1によれば、防振対象物Aに静的あるいは準静的に大きな加速度が加わっていない場合には、防振対象物Aから超磁歪層3に作用する荷重が殆どなく、超磁歪層3が発生する磁界が弱く、剛性変化層2の剛性が低い状態が保たれるため、剛性変化層2の初期剛性からの変化量が小さく、外部から防振対象物Aへの振動の伝達を抑えることができる。
【0026】
一方、防振対象物Aに静的あるいは準静的に大きな加速度が加わる場合には、防振対象物Aから超磁歪層3に作用する荷重が大きく、超磁歪層3が発生する磁界が強くなるため、剛性変化層2の剛性が高くなり、静的あるいは準静的に加わった加速度に対する防振対象物Aの移動量が抑制される。
さらに、超磁歪層3は、引張荷重と圧縮荷重とに関わらず磁界を発生する。このため、本実施形態の防振部材1の防振部材に荷重が作用した場合には、その方向に関わらず剛性変化層2の剛性が高くなる。したがって、従来の防振ゴムのように引張荷重を受けることによる剛性の低下が生じず、複数の防振部材を防振対象物に固定した場合における防振部材間の剛性のばらつきが大きくなることを抑制することができ、防振対象物Aが回転運動することを抑制することができる。
このように本実施形態の防振部材1によれば、防振対象物Aが運動した際には、その運動による防振対象物Aの変位を確実に抑制することができる。
【0027】
図3及び図4を用いてより詳細に説明する。なお、説明を簡素化するために、図3及び図4は、平面における防振対象物Aの移動について考える。なお、図3及び図4において仮想線で示すAは、変位していない場合(すなわち基準位置)の防振対象物Aを示している。
図3は、従来のように防振ゴム10(10a〜10d)を用いて防振対象物Aを支持し、斜め方向に力F(荷重)が防振対象物Aに作用した場合における防振対象物Aの移動を示した模式図である。また、図4は、本実施形態の防振部材1を用いて防振対象物Aを支持し、図3と同様の力F(荷重)が防振対象物Aに作用した場合における防振対象物Aの移動を示した模式図である。
【0028】
従来のように防振ゴム10(10a〜10d)を用いて防振対象物Aを支持した場合には、防振ゴム10a,10bが小さな引張荷重を受け、防振ゴム10cが大きな引張荷重を受け、防振ゴム10dが大きな圧縮荷重を受けることとなる。このため、防振ゴム10cの剛性が大幅に低くなり、防振ゴム10dの剛性が大幅に高くなる。この結果、防振ゴム10a〜10d間における剛性のばらつきが大きくなり、図3に示すように防振対象物Aが回転運動する。
【0029】
一方、本実施形態の防振部材1(1a〜1d)を用いて防振対象物Aを支持した場合には、防振部材1a,1cが小さな引張荷重を受け、防振部材1b,1dが小さな圧縮荷重を受けることとなる。このため、全ての防振部材1a〜1dがほぼ同じの剛性となり、図4に示すように防振対象物Aの回転運動を抑制する。
【0030】
また、本実施形態の防振部材1によれば、上述のように引張荷重と圧縮荷重とに関わらず剛性が高まるため、防振対象物Aに対してどのように配置した場合であっても、防止対象体Aが変位した際にはその変位を抑制することができる。
したがって、本実施形態の防振部材1によれば、単純な配置構成であっても防振対象物Aの変位を抑制することができる。
【0031】
以上のように、本実施形態の防振部材1によれば、単純な配置構成であっても、外部から防振対象物Aへの振動の伝達を抑えつつ防振対象物Aが変位した際には確実に防振対象物Aの変位を抑制することが可能となる。
【0032】
また、本実施形態の防振部材1においては、超磁歪層3を挟み込んで剛性変化層2が配置されている。
このため、単一の超磁歪層3から発する磁界によって両側の剛性変化層2の剛性が同様に変化する。よって、防振部材1における剛性分布を均一化することが可能となる。
【0033】
また、本実施形態の防振部材1においては、剛性変化層2と超磁歪層3とが防振対象物Aから受ける荷重の作用方向に対して直列に配列されている。
このため、剛性変化層2を介して防振対象物Aからの荷重を確実に超磁歪層3に作用させることができる。
【0034】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0035】
図5は、本実施形態の防振部材1Aの概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、本実施形態の防振部材1Aにおいては、超磁歪層3が剛性変化層2を挟み込むようにして剛性変化層2の両側に配置されている。
そして、超磁歪層3は、剛性変化層2よりも平面視において広く形成されており、防振対象物Aと固定部Wとに接続するためのフランジとして機能するように構成されている。
【0036】
このような構成を採用する本実施形態の防振部材1Aによれば、超磁歪層3が剛性変化層2を挟み込むようにして剛性変化層2の両側に配置されているため、いずれかの超磁歪層3さえ変形すれば剛性変化層2の剛性を変化させることができる。
したがって、本実施形態の防振部材1Aによれば、確実に剛性変化層2の剛性を変化させることができる。
【0037】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について説明する。なお、本実施形態の説明においても、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0038】
図6は、本実施形態の防振部材1Bの概略構成を示す斜視図である。この図に示すように、本実施形態の防振部材1Bは、剛性変化層2、超磁歪層3、剛性変化層2、超磁歪層3、剛性変化層2の順に合計5層が積層されて構成されている。
つまり、本実施形態の防振部材1Bにおいては、超磁歪層3を剛性変化層2で挟み込む構成と、剛性変化層2と超磁歪層3で挟み込む構成とが合わせて用いられている。
【0039】
このような構成を採用する本実施形態の防振部材1Bによれば、積層方向に超磁歪層3と剛性変化層2とが分散して配置されるため、積層方向における磁界の強さの分布を均一化し、さらには積層方向における剛性の分布を均一化することが可能となる。
そして、さらに複数の剛性変化層2、超磁歪層3を積層することによって、機能性を損なうことなく、防振部材1Bの厚みを容易に厚くすることが可能となる。
【0040】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、本発明における超磁歪部及び剛性変化部が層構造である構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、超磁歪部及び剛性変化部の形状は、製造の容易性や配置の容易性を考慮して任意に設定することが可能である。
【0042】
また、上記実施形態においては、剛性変化層2と超磁歪層3とが荷重の作用方向に配列された構成について説明した。
しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、剛性変化層と超磁歪層とが荷重の作用方向に対して並列して配置される構成を採用することも可能である。
【0043】
また、本発明の防振部材は、静的あるいは準静的な加速度を受ける防振対象物に限られず、建物等の静止している防振対象物に用いることも可能である。
【符号の説明】
【0044】
1,1A,1B……防振部材、2……剛性変化層(剛性変化部)、3……超磁歪層(超磁歪部)、A……防振対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防振対象物に固定されると共に前記防振対象物の振動を抑制する防振部材であって、
磁性エラストマからなる剛性変化部と、
荷重を受けることにより磁界を形成すると共に前記防振対象物から受ける荷重の大きさの変化する方向と同じ方向に磁界の強さを変化させる超磁歪部と
を備えることを特徴とする防振部材。
【請求項2】
前記超磁歪部を挟み込んで前記剛性変化部が配置されていることを特徴とする請求項1記載の防振部材。
【請求項3】
前記剛性変化部を挟み込んで前記超磁歪部が配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の防振部材。
【請求項4】
前記剛性変化部と前記超磁歪部とが前記防振対象物から受ける荷重の作用方向に対して直列に配列されていることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の防振部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−231829(P2011−231829A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−101354(P2010−101354)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】