説明

防汚性シート及び防汚性屋外用防水シート

【課題】光触媒をバインダー樹脂なしでドット状に存在させ、コストが安く、ウエルダー加工性も良好で、軽量性も確保できる防汚性シートを提供する。
【解決手段】本発明の防汚性シートは、繊維基材の少なくとも一表面に樹脂フィルムが一体化されて樹脂被膜を備えたシートであって、前記樹脂フィルムの少なくとも一表面には、親水性無機化合物で被覆されたアパタイト被覆光触媒及びシリカ被覆光触媒から選ばれる少なくとも一つの光触媒が存在し、前記光触媒の平均一次粒子径は1nm以上100nm未満であり、前記光触媒はドット状に吸着されて固着しており、前記光触媒が表面に占める面積は50%未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縫製によらず、ウエルダー加工でテントや縁かがりが容易にでき、ドレープ性に優れ、光触媒によって防汚性が付与された防汚性シート及び屋外用防水シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近、防汚防水シートとして、光触媒を含む親水性被膜を表面に貼り付けたり、または光触媒粒子を防水被膜全面に熱圧着して担持した光触媒を用いた防汚処理が普及しつつある。前者の例としては、特許文献1に開示されているように、光触媒を、表面被膜を形成する樹脂に混合するか、特許文献2に開示されているように、光触媒を、防水被膜の上にバインダー樹脂を介して固着させるものであるか、または特許文献3に開示されているように、表面層の一部に光触媒を練り込んだ樹脂を配して、光触媒の使用量を少なくしたものが試みられている。後者の例としては、特許文献4に開示されている様に、光触媒粒子を表面被膜に熱圧着して担持させるものである。
【0003】
光触媒はその機能として、光触媒表面の有機物を酸化させる機能を持っており、有機性汚れの酸化分解だけでなく、光触媒を保持または担持している樹脂をも酸化劣化させるため、酸化劣化しにくいアパタイトなどで光触媒を覆い、直接光触媒を保持または担持している樹脂との直接接触を避けて該樹脂を保護する光触媒加工品も数多く提案されている。これら樹脂を保護する光触媒を用いた防汚性を特徴とする加工品の何れも、表面被膜全体に均一に光触媒を配してなるものである。
【0004】
防水のため樹脂で表面を被覆されている防水シートは、糸で縫製するとその縫い目からの漏水または染み出しがあり、簡単に接着加工できる高周波融着(ウエルダー)加工による接着成形(縫製)が望ましく、防水シート素材にはウエルダー加工性が求められ、現在普及している塩化ビニル被覆の防水シートは大半がこのウエルダー加工で縫製されている。なお、表面は樹脂が厚く塗布され、かつ、カレンダー加工されて平滑化されている、裏面まで樹脂が浸透して露出して覆われている塩化ビニル被覆の防水シートを、一般にウエルダー加工するには、平滑化した表面の熱可塑性樹脂の厚みを80μm以上必要とする。即ち、2枚の塩化ビニル被覆の防水シートを、それぞれの表面を上にして重ねてウエルダー加工する場合に、接着に供する最少の樹脂量が、厚み80μm以上に相当するということであり、塩化ビニル樹脂以外の熱可塑性樹脂もほぼ同じである。
【0005】
また、防水シートは、テントや自動車のカバーなど、折り畳んで格納できる機能も必要であり、折り畳みが容易なように、柔らかくドレープ性に優れているものが強く望まれている。また、折り畳んだ時に折れ筋や表皮の亀裂の発生は問題外であり、表皮を形成する樹脂は、軟質で耐候性の高いものが望まれている。しかし、該樹脂に光触媒などの粒子を混合すると、硬くなってドレープ性が低下して、折れ筋などが発生し易くなり、また、混合した粒子が障害となりウエルダー加工の低下を招き、光触媒を用いた防汚防水シートは加工上と使用の利便性の点で、そして高価な光触媒を量多く使用するため従来品より価格が高くなるという経済的な問題で普及が遅れている。
【特許文献1】特開平9−78454号公報
【特許文献2】特開2001−162172号公報
【特許文献3】特開2003−211569号公報
【特許文献4】特許2939524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した光触媒は、現状では汎用するにはまだ高価であり、ウエルダー加工に必要な80μmの樹脂全部に光触媒を添加するには経済的に不都合なため、防汚防水シートの表面被覆樹脂被膜は、光触媒を混入した層と混入していない層の少なくとも2層で形成されているが、樹脂に混合して使用すると、いずれにしても防汚防水シートの表面に露出する光触媒はその添加量の数%に過ぎず、不経済であり、かつ、その層全体に光触媒が分布しているため、樹脂の層内部からの酸化劣化も生じ、ウエルダー接着部の剥離などの危険性を持っているため、ウエルダー加工時に、該光触媒層を剥離させて光触媒が添加されていない樹脂層を露出させ、この層同士をウエルダー加工して接着している。この不経済な点を解決したのが光触媒粒子を防汚する防水シートの表皮に熱圧着担持する手法の防水シートであるが、ウエルダー加工時に、この光触媒粒子層が接着に邪魔となり、ウエルダー加工が旨く行かない問題があった。いずれにしても、これらは多量の無機物である光触媒を混入または担持させるため、ドレープ性の低下もあるという問題があった。
【0007】
また特許文献2や特許文献3のように、光触媒を、バインダー樹脂を介して基材に固着する方法であっても、屋外シートとして使用すると、バインダー樹脂が光に暴露されて劣化するため、光触媒が剥がれ落ちてしまうという問題があった。
【0008】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、光触媒の触媒機能が効率よく発揮できるように存在させ、コストが安く、ウエルダー加工性も良好で、軽量性も確保できる防汚性シート及び防汚性屋外用防水シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の防汚性シートは、繊維基材の少なくとも一表面に合成樹脂フィルムが一体化されて樹脂被膜を備えたシートであって、前記樹脂フィルムの少なくとも一表面には、親水性無機化合物で被覆された光触媒が存在し、前記光触媒の平均一次粒子径は1nm以上100nm未満であり、前記光触媒はドット状に合成樹脂フィルム表面に吸着されて固着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、合成樹脂フィルム表面に、微粉末の光触媒を、バインダー樹脂を使用せず、ドット状に吸着・固着させることにより、光触媒の触媒機能を効率よく発揮させ、コストは安く、ウエルダー加工性も良好で、軽量性も確保できる防汚性シートを提供できる。
【0011】
また、本発明の防汚性屋外用防水シートは、光触媒の触媒機能を効率よく発揮し、コストは安く、ウエルダー加工性も良好であることから、屋外で使用したときの耐久性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、光触媒が有機物を酸化劣化させることとこの周囲の有機物の劣化を防止するために光触媒の周りを無機化合物のアパタイトで被覆したアパタイト系光触媒が市販されていること、非常に微細なこのアパタイト系光触媒を入手可能なこと、アパタイトは吸着し易いこと、そして、この微細なアパタイトで被覆された光触媒は白色であることと物理吸着し易いことから、このアパタイト系光触媒の懸濁エマルジョン液を合成樹脂フィルムに塗布してその付着状況を観察したところ、水に濡れ易い(親水性)フィルムは容易に薄く均一に塗布することができ、前記マルジョンを乾燥すると、白い天花粉を塗した様な外観のフィルムとなったが、吸着効果が大きくて、簡単には塗布したアパタイト被覆光触媒を除去できないことを知った。
【0013】
このため、本発明に使用する基材の防水シートは、水に懸濁させた光触媒をドット状に塗布することをより有効にするために、少なくとも塗布する時には光触媒を塗布する面を出来るだけ親水化しておくことが好ましい。親水化処理としては、経済的観点からコロナ放電処理が最も好ましいが、プラズマ処理、スルホン化処理、オゾン酸化処理や弗素処理など接着剤を用いた接着改良処理に使用する親水化処理も好ましく用いることができる。また、接着剤を用いた接着改良処理に使用するアンカー処理などで親水性を付与する薬剤や塗料を用いた親水化処理も都合良く用いることができる。なお、前記したコロナ放電処理の親水持続性は長くないが、本発明で用いる光触媒を一回付着させると3か月経っても当初と同じしっかりした吸着による固着性を示しているので、少なくとも塗布する時に親水化しておくとよい。
【0014】
また、さらにこのフィルムを、このフィルムを構成している樹脂の軟化点より高く、融点に近い温度で、熱プレスすると、より固着が強化され、好ましい。
【0015】
このフィルムを屋外暴露して光触媒の機能を観察したが、容易には光触媒が脱落せず、光触媒による防汚効果が発揮されている。
【0016】
アパタイト系光触媒の懸濁エマルジョン液を多数の微細なドットを彫刻したフレキソ機のインクの代わりに用いて、これら親水性フィルムに表面積の25%を占める様になしてドット塗布したところ、単純に塗った時に見られた白化(白っぽさ)がなく、光触媒を吸着により固着することができた。吸着による固着については、屋外暴露による防汚効果が発現することより確認した。
【0017】
本発明に用いられる親水性無機化合物で被覆された光触媒としては、アパタイト被覆光触媒、シリカ被覆光触媒などが挙げられる。なお、本発明でいうアパタイト系光触媒またはシリカ系光触媒とは、アパタイト系化合物またはシリカ系化合物で覆われた光触媒のことをいう。また、親水性無機化合物は、多孔質の無機化合物であることが好ましい。前記アパタイトよりもより親水性のシリカで被覆したシリカ系光触媒を検討したところ、同様の良い結果を得た。以下、簡略化のためアパタイト系光触媒で説明する。
【0018】
本発明のもう1つの主題であるトレープ性について調査したところ、防水のための樹脂被覆は軟質の樹脂を用い、できるだけ薄い被覆が好ましいこと、及びウエルダー加工を容易に行うには、その樹脂被膜の厚みを80μm以上とすることが好ましい。
【0019】
また、塩化ビニル樹脂用のウエルダー加工機を用いてウエルダー加工できる熱可塑性樹脂として、人工皮革の含浸接着剤に使われている耐候性の良いポリウレタンエラストマーやエチレン−酢酸ビニル共重合体があり、廃棄処分で環境に優しい対応を望む脱塩素系高分子動向に対応して塩化ビニル樹脂を嫌う用途には、このポリウレタンエラストマーやエチレン−酢酸ビニル共重合体を使用すると塩化ビニル樹脂被覆防水シートと同様にウエルダー加工できる。
【0020】
前記繊維基材としては、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリビニルアルコール系繊維、アクリル繊維、木綿またはレーヨンなどのセルロース繊維およびガラス繊維から選ばれた1つまたは複数種の繊維からなる織物、編物又は不織布などを使用できる。
【0021】
前記合成樹脂フィルムは、例えば、可塑剤を含む軟質塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロプレンゴム、クロロスルホン化エチレンゴム、または、融点が140℃以下のウレタンエラストマー樹脂から選ばれた熱可塑性樹脂が用いられる。
【0022】
前記繊維基材の少なくとも一表面には前記合成樹脂フィルムが一体化されて樹脂被膜を備えている。
【0023】
また、前記光触媒の平均一次粒子径は1nm以上100nm未満であり、50nm未満であることが好ましい。
【0024】
また、前記ドットの平均面積が0.13mm2未満であることが好ましい。
【0025】
前記ドットを形成するには、フレキソ、オフセットまたはドット塗布などの手段で、微細な面積の円または角形などの点が多数ある塗布方式により、親水性無機化合物で被覆された光触媒、例えばアパタイト被覆光触媒および/またはシリカ被覆光触媒を塗布し、前記光触媒が表面に占める面積は50%未満であり、前記親水性無機化合物が塗布面に少なくとも吸着されて固着することで、光触媒が合成樹脂フィルム表面に固定・担持されており、ウエルダー加工によって接着成形加工できる。
【0026】
前記織物はポリエチレンテレフタレート繊維からなり、前記繊維を構成する樹脂にベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が添加されている耐候性繊維であることが好ましい。
【0027】
少なくとも前記樹脂被膜が、難燃性を有するまたは難燃性を付与されている樹脂で形成され、少なくとも前記被膜側からの難燃評価ではシート全体が難燃化されていることが好ましい。
【0028】
また、合成樹脂フィルムとして軟質塩化ビニル樹脂を用い、ポリエチレンテレフタレート繊維からなる織物の片面をカレンダーロールで平滑化すると共にコロナ放電処理して一時的な親水強化を行った後、フレキソ塗布機で、水に懸濁させた親水性無機化合物で被覆されたアパタイト被覆光触媒および/またはシリカ被覆光触媒を塗布し、熱カレンダーロールまたは乾燥機で乾燥させて製造することもできる。
【0029】
織物としてポリエチレンテレフタレート繊維とポリプロピレン繊維、夫々からなる織物に、前記軟質塩化ビニル樹脂とポリウレタンエラストマーを夫々含浸させ、その片面に、厚さ90μmの同じ樹脂の被膜層を形成させた。この被膜層に、多数の微細なドットを彫刻したフレキソ塗布機を用いて、水に懸濁させたアパタイト被覆アナターゼ型酸化チタンエマルジョンを塗布面積が全表面の25%となる様に塗布して、乾燥して防汚防水シートとした。得られたシートは指で擦っても粘着テープによる剥離テストでも大半の光触媒がしっかり固着しており、これを3か月間室外に放置して暴露したところ、雨水によって汚れが除去され、防汚性を有することを確認した。
【0030】
また、光触媒の固着をより望まれる用途では、該防汚防水シートをさらに熱ロールで加圧カレンダー加工して光触媒と樹脂被膜の馴染みを良くすることで耐久性を向上させることも1つの手段である。
【0031】
これらの防水シートは、ウエルダー加工面の軟質樹脂被膜が75%も露出しているため、塩化ビニル樹脂用のウエルダー加工機を用いてウエルダー加工して張り合わせを行ったところ、十分な張り合わせ強力の縫製ができ、屋外で暴露テストを行ったが、防汚処理をしていない防水シートに比べ、格段に汚れが付着しておらず、また、ドレープ性も、防汚処理前後で目立った差が無く、目的のウエルダー加工が容易にでき、ドレープ性に優れ、光触媒によって防汚性が付与された屋外用防水シートとすることができた。
【0032】
本発明の防汚防水シートは、微細なドット状に吸着により固着した親水性無機化合物で被覆された光触媒で少なくとも1表面が覆われているため、該表面を表面として、テントや幌として、屋外で使用しても、防汚性が格段に優れており、有機性の汚れによるくすみなどが極端に少なく、従来の光触媒で全面が覆われている原料着色によって着色されている防水シートに比べ、白っぽさが無く、色鮮やかさに優れたシートとすることができる。さらには、フレキソ塗布機、グラビア塗布機やドット塗布機を用いると、光触媒が塗布されていない部分に任意の顔料を塗布できるので、文字やデザイン絵を光触媒の塗布と同時に描くことも容易にできる。これらは、間近で見るのではなく、ある程度離れた場所から見る用途が大半であるため、表示の目的をも十分発揮できる。なお、光触媒の塗布状態を確認するため、耐候性の無いメチレンブルーなどの染料を光触媒塗布液に添加し、塗布すると塗布状態の状況把握が簡単にでき、これを日光暴露すると、数週間で該染料が酸化分解されて無色化され、添加されていない商品と同じ状態に復帰する。この原理を使用して、テントなどの寸法表示や形の塗布を行い、縫製をし易くすることや、最終ユーザー宛の使用上の注意書きなども塗布できる。
【0033】
なお、本発明では、防汚性屋外用防水シートとして屋外で使用している時に、シートの表面に光で活性化されて超親水性となった光触媒が微細なドット状に多数吸着により固着しており、雨滴が前記ドット状に配置された光触媒に接触すると、その超親水性のために雨滴が捕獲される。雨滴が多数であるか大きいと、隣接する光触媒とも接触し、シート全面が雨水で覆われて、シート表面に付着している汚れを押し流して洗浄効果を発現すると推定される。すなわち、シート表面全体に光触媒が塗布されていなくとも、同様の洗浄効果を発揮する。
【0034】
本発明の防汚性シートは、微細なドット状に配置された親水性無機化合物で被覆された光触媒で少なくとも1表面が覆われているが、その表面の過半はウエルダー接着に関与する防水のための被膜が露出しており、従来の防汚防水シートの様に全面に光触媒からなる層で覆われているものと違い、ウエルダー加工で、張り合わせするシート同士の樹脂が相溶してしっかりと接着できるほど、前記被膜がウエルダー加工面に露出しているため、そのまま容易にウエルダー接着することができる。
【0035】
本発明の防汚性シートは、被膜が難燃性の塩化ビニル樹脂などの塩素含有熱可塑性樹脂であるか、縮重合高分子であるため燐系難燃剤で簡単に難燃化できるウレタンエラストマーで被覆されているため、難燃性の必要な用途に、容易に難燃化して対応ができる。
【0036】
一般に光触媒を用いた防汚防水シートは、光触媒を、防水を目的とした熱可塑性樹脂に練り込むまたは混合して使用され、光触媒が高価なため、防水性被膜の一部である上層のみに練り込んだり、表層にめり込ませて表面に散布させたり、表面層の一部に光触媒を練り込んだ樹脂を配したりして、光触媒の使用量を少なくすることが試みられていた。これらは何れも、光触媒単独または無機化合物により練り込まれた樹脂の酸化劣化を防止する対策が打たれているが、樹脂を接着剤としていずれも使用して、光触媒をシートに固定するものであり、光触媒を吸着によってシートに保持させる考えのものではなかった。
【0037】
本発明では、微細な吸着能のあるアパタイトで覆った光触媒を使用し、このアパタイトの吸着力で光触媒をシートに吸着保持、固定させることを基本とし、塗布形態をドットプリントの点状塗布として部分塗布とすることで、光触媒の塗布絶対面積と量を少なくして、光触媒の全面塗布による白っぽさを回避し、かつウエルダー加工可能としたものである。
【0038】
本発明は、フレキソ塗布、オフセット塗布またはドット塗布などの塗布手段を用いて、光触媒の微細なドット状の塗布を行い、シートに付着する汚れを酸化分解させることで防汚作用を発揮させるとともに、ウエルダー接着するに十分なほどの、光触媒が塗布されていないウエルダー接着に供する防水性の合成樹脂フィルムの表面露出を確保し、そのままウエルダー加工して接着できるようになした、光触媒を使用した防汚性を持つ防水シートである。
【0039】
本発明は、ウエルダー加工できる防水性被膜を、水濡れ性のある(親水性の)熱可塑性樹脂である、可塑剤を含む軟質塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、クロロプレンゴム、クロロスルホン化エチレンゴム、または、融点が140℃以下のウレタンエラストマー樹脂で形成しており、これら樹脂で被覆、防水される、防水シートの基布としては、一般的に現用されているポリエチレンテレフタレート繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリビニルアルコール系繊維、アクリル繊維、木綿またはレーヨンなどのセルロース繊維およびガラス繊維から選ばれた1つまたは複数種の繊維からなる織物を使用したものであることが好ましい。このウエルダー加工できる水濡れ性のある(親水性の)防水性被膜の表面に、上記の微細な面積の円または角形などの点が多数ある点塗布方式で、親水性無機化合物で被覆されたアパタイト被覆光触媒および/またはシリカ被覆光触媒を全面的に塗布することで、ウエルダー加工でテントなどの縫製ができ、かつ、防汚性も保持する防汚性屋外用防水シートである。
【0040】
なお、塗布する親水性無機化合物で被覆された光触媒は、例えば、水を主体とした水系の懸濁エマルジョン液であり、この場合は、塗布する面が水に馴染み易い状態となっていないと、はじきの問題で円滑な塗布ができないため、塗布する面の親水性が重要となる。前記したシート表面を形成する熱可塑性樹脂は少なくとも撥水性でないのでそのままでも塗布できるが、塗布パターンを明確にするためには、シート表面をより親水性とするのがより好ましい。この親水化手段は、経済的観点からコロナ放電処理が最も好ましいが、プラズマ処理、スルホン化処理、オゾン酸化処理や弗素処理など接着剤を用いた接着改良処理に使用する親水化処理が好ましく転用できる。また、接着剤を用いた接着改良処理に使用するアンカー処理などで親水性を付与する薬剤や塗料を用いた親水化処理も都合良く用いることができる。また、光触媒の塗布面を、アクリル樹脂で極めて薄くコーティングするなど、平滑性と親水性を強化する手段を講じることも光触媒を固定する上で好ましい。
【0041】
本発明の説明では、前記した様に光触媒の水系懸濁物で話を進めるが、生産する上での速乾性の要望に対してはアルコールやアセトンなどの水に溶ける有機溶剤の併用なども好ましい。
【0042】
前記光触媒を塗布するにおいて、塗布時は少なくともシート表面が親水性であり、親水性のシート表面に光触媒を内包する親水性無機化合物が少なくとも吸着されて固着される。即ち、前記親水性無機化合物を介して光触媒が合成樹脂フィルム表面に吸着により固着する。言い換えると、光触媒が塗布面の表面に固定・担持される。
【0043】
この吸着による固着は、前述したようにしっかり固着しており、吸着効果が大きくて、簡単には塗布した親水性無機化合物で被覆された光触媒(アパタイト被覆光触媒)を除去できない状態に容易にすることができる。
【0044】
本発明では、前述したように、シート表面を点状のドットで光触媒を塗布するのであるが、ウエルダー加工して接着する縫製方法を採ることをも目的としているため、表面に露出している合成樹脂フィルムのシート表面(塗布面)に占める割合が50%を超えることが望ましく、より好ましくは60%を超えることである。逆に見れば、光触媒の点塗布総面積が塗布面の40%以下であることが特に好ましいこととなる。光触媒がシート表面に占める面積が50%以上であると、未接着部分が発生してウエルダー接着が完全には実施できなくなり、シートからの漏水の発生に繋がるため好ましくない。逆に言えば、光触媒がシート表面に占める面積は50%未満であることが好ましい。
【0045】
本発明では、前述したように、シート表面を点状のドットで光触媒を塗布して、光触媒の酸化効果で防汚効果を発揮させるのであるが、その表面被覆割合は単位面積当たりの点状のドットの数が多いほど被覆割合を減じることができる。光触媒がシート表面に占める面積は50%未満の場合は、ドットの個数を稼ぐために、点状のドット1個当たりの面積を0.13mm2未満とすることにより、十分な防汚効果を発揮させ得る。シートの平滑性にもよるが、点状のドットを等間隔の規則性ある配置を行った場合は、光触媒のシート表面に対する被覆割合を10%以上とすれば、十分な防汚効果を発揮することができ、より好ましくは、被覆割合が20〜40%であると、防汚効果とウエルダー加工性に優れたものとなる。無論、点状のドット1個当たりの面積が0.13mm2を超えても、本発明の防汚性シートとすることができるが、点状のドットの数を稼ぐために、光触媒による表面被覆割合を50%にできるだけ近くする必要があるため、光触媒の使用量も増え、経済的には不利である。
【0046】
また、点状のドット1個当たりの面積を小さくして点状のドットの数を稼ぐことは、防汚効果からすると好ましいが、塗布冶具の彫刻をより精密とする必要があることと、前記塗布冶具の耐磨耗性を考慮すると、むやみに面積を小さくすることは経済的に好ましいことではない。点状のドット1個当たりの面積は、通常0.06〜0.12mm2が都合良く使用できる。
【0047】
本発明の光触媒の使用量は、シート表面の被覆割合を50%としても、全面に表面に塗布する方法に比べると50%の量であり、一般に行われている従来の樹脂含浸方法に比べは、5%以下の使用量となり、多少塗布などの費用が増えても同等の防汚効果を発揮する上での経済効果は大きい。
【0048】
本発明に使用する光触媒は、アナターゼ型酸化チタンなど公知の光触媒が都合良く用いられ、これら光触媒は周辺の樹脂の劣化を低減する対策のために親水性無機化合物で被覆されており、本発明ではこの被覆されている光触媒を使用する。アナターゼ型酸化チタンにはアンチモンなど任意の元素をドープしても良い。
【0049】
また、本発明に使用する光触媒は、市販されている極微小の粉体を用いるのであるが、平均一次粒子径が100nm未満のものも市販されており、後述する吸着効果を高めるために、平均一次粒子径が100nm未満の光触媒が用いられる。光触媒の好ましい平均一次粒子径は、80nm以下であり、50nm以下であることがより好ましい。なお、微小の粉体につき物の二次凝集はできるだけ避けることが好ましく、凝集した場合のその二次凝集粒子は、数が少なく、その径は1μm未満が好ましい。より好ましくは平均二次粒子径が500nm以下であり、さらに小さいほど表面積が大きくなって吸着力が向上して、固着力が高くなるのでさらに好ましくなる。
【0050】
さらに、本発明で使用する光触媒を被覆している物質は、親水性無機化合物が好ましい。親水性無機化合物としてはアパタイトやシリカがあり、これらの微粉末はガスなどを極めて吸着し易いことが知られている。この被覆されたアパタイト被覆光触媒やシリカ被覆光触媒は、単品の化合物と同様に吸着能が高く、逆に親水性高分子にそれ自体が吸着して固着する現象を本発明者らは確認した。なお、吸着現象は同じ吸着材では表面積が大きいほど大きいこと、そして、粉体では粒子径が小さいほど単位質量当たりの表面積が大きく、すなわち、逆に吸着材が極小であるほど、親水性高分子に吸着し易いことになる。この理由により、本発明に使用する光触媒の粒子径が決まるのである。
【0051】
本発明の防汚性シートの基材となる基布は、強度などの物性を担当する因子であり、例えば、テント倉庫などの簡易な構造の建築物を規定している平成12年建設省告示1443号文献に記載のガラス繊維、ポリアミド繊維、ポリアラミド繊維、ポリエステル繊維やポリピニルアルコール繊維からなる織物が都合良く用いられ、これに加えてポリプロピレン繊維、アクリル繊維や木綿またはレーヨンなどのセルロース繊維からなる織物も同様に都合良い。また、これら繊維は、紡績糸やマルチフィラメント繊維、およびコアヤーンなどの糸条であるのが織りやすく都合が良い。また、繊維が分割タイプの複合繊維にあっては、これらの糸条の織物を高圧水流交絡処理して分割処理した極細繊維を含む織物とすると、ドレープ性を向上させ得るので好ましい。
【0052】
本発明の防汚性シートは、テント倉庫などの建築物用途向けの屋外用防水シートとして用いた場合、シートの厚みは0.5mm〜0.7mmであり、目付けは600〜900g/m2であり、引張強力は400〜900cN/cmであり、耐水性が2000mmH2Oであることが好ましい。防水カバー用のシートは、目付けを減らした400〜700g/m2のものであるが、用途により、これ以外でも不都合はない。
【0053】
また、前記織物を防水する熱可塑性樹脂としては、前記告示の塩化ビニル樹脂、クロロプレンゴムやクロロスルホン化エチレンゴムに加え、可塑剤を含む軟質塩化ビニル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、または、融点が140℃以下のウレタンエラストマー樹脂も都合良く用いることができる。前者は主としてテント倉庫などの建築物用途の屋外用防水シートであり、後者はドレープ性を必要としているトラックの防水シートなどの防水カバー用途の屋外用防水シートである。
【0054】
本発明の防汚性屋外用防水シートに用いられる光触媒を塗布する表面を形成する樹脂は、特別なウエルダー加工機ではなく、現状の塩化ビニル樹脂で被膜を形成した防水シートの接着に汎用されているウエルダー加工機で加工できることが最も好ましいため、前述したように可塑剤を含む軟質塩化ビニル樹脂や融点が140℃以下のウレタンエラストマー樹脂などに限定したが、ウエルダー加工できる他の非撥水性熱可塑性樹脂であっても何ら差し支えない。しかしウエルダー加工の観点から融点が140℃以下の樹脂がより好ましい。また本発明で樹脂素材を限定したのは、素材として耐候性を要求される用途が過半を占めており、耐候性の実績のある、例えば、現在流通している防水シートに光触媒を塗布して防汚性防水シートとすることも考慮しているためである。前記ウレタンエラストマー樹脂の融点を140℃以下としたのは、汎用されている塩化ビニル樹脂のウエルダー加工機の加工性からの制限によるものであり、特別なウエルダー加工機を用意するのであれば制限はないのは無論であるが、少なくとも基布を形成している繊維より20℃下回る融点の熱可塑性樹脂である方が加工上好ましい。
【0055】
本発明の防汚性屋外用防水シートは、自動車カバーやテントなどの軽量化とドレープ性を重視してウエルダー加工ではなく縫製によって商品を仕上げる用途には、片面の樹脂被覆で十分であるが、テント倉庫などのウエルダー加工を必須要件とする場合は、被膜を形成している樹脂が前記織物内部にも浸透しており、もう片面にも該樹脂が露出している状態となっていることが重要である。すなわち、本発明の防水シートにおける光触媒を塗布する表面を形成する被膜(合成樹脂フィルム)の厚みは、被膜を形成している樹脂が前記織物内部にも浸透して他面にも前記樹脂が露出している状態の場合は、少なくとも50μm、より好ましくは80μmである。前記樹脂が他面に露出していない状態の場合は、樹脂塗布面同士の接着でない時は、より厚くすることが重要である。後者の場合は、軽量化を意図している場合に起こり、基本的には樹脂塗布面同士の接着で接着成型を行う。
【0056】
なお、これらをウエルダー加工して縫製する都合上、融点は100℃を超え、140℃以下のものが都合良く、融点が高くても可塑剤を添加して140℃以下の見かけの融点(軟化点)としても良い。特にウレタンエラストマー樹脂でこの温度を上限としたのは、最も日本で普及している塩化ビニル樹脂に使用するウエルダー加工機での縫製を可能とするものである。他の樹脂について温度限定していないのは、ウエルダー加工できる樹脂品種が公知であるからである。
【0057】
さらに、本発明では、加工成形と品質確保の都合上、含浸している樹脂と表皮を形成している樹脂が異なっても良く、同じ種類であっても可塑剤の添加量や軟化温度が異なった種類であってもなんら問題はない。
【0058】
本発明の防汚性屋外用防水シートは、光透過性を重視して光触媒以外の無機物を含まない場合、基布をポリエチレンテレフタレート繊維とする時は、該繊維に紫外線吸収剤を添加して耐候性を強化しておくことが重要であり、薬剤としてベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤を使用するのが好ましい。また、他の基布を用いる場合にあっても耐候剤の添加が望ましい。
【0059】
本発明の防汚性シートを着色する要望があれば、被覆樹脂に着色用の無機顔料または耐候性の良い有機顔料または染料を練りこんで原料着色したシートとするか、光触媒を塗布していない部分に着色用の無機顔料または耐候性の良い有機顔料または染料で着色された点を塗布して着色することも好ましい。なお、後者においては、文字や絵を同様にして塗布して意匠あるシートとすることも容易である。
【0060】
また、本発明の防汚性シートは、光触媒を塗布しても無色透明に近いため、塗布していないものと区別がつきにくく、光触媒液に耐光性の劣る有機染料を添加して着色することで判別し易くすることもできる。またこの液で施工上の注意書きなどを塗布することも好ましく、光触媒の作用によってこれらシートは数週間の使用で退色して無着色の状態となるので使用には全く差し支えなくなる。
【0061】
本発明の防汚性シートは、従来の防汚性シートと異なり、光触媒の表面がバインダー樹脂で全く被覆されていないため、最初から防汚効果を発揮し得るが、過剰に塗布された余分な光触媒の脱落と他の物への光触媒の付着を防止するため、予め光触媒塗布面に水を塗布または噴霧させた後に塗布面に紫外線照射して光触媒を活性化させ、さらに水で洗浄することで、使用直後から光触媒の脱落もなく防汚効果を発揮させ得るようにすることも容易に可能である。
【0062】
本発明の光触媒を用いた防汚処理方法は、少なくとも1表面が、ウエルダー加工可能な合成樹脂フィルムの被膜で覆われたシートの表面に、微細な面積のドットが多数あるドット塗布でアパタイト系またはシリカ系化合物で覆われた光触媒が塗布したもので、塗布総面積が全塗布面の50%未満であるように、すなわち親水性無機化合物で被覆された光触媒で覆われていない部分が50%以上であるようになしたものである。この光触媒で覆われていない部分に露出する合成樹脂フィルムを少なくとも用いて、ウエルダー加工によって接着成形加工に供して、ウエルダー加工を良好に行えるようになしている。
【実施例】
【0063】
次に、本発明を実施例と比較例で具体的に説明する。なお、以下ではアパタイト被覆光触媒で説明するが、シリカ被覆光触媒も同様であり、他の親水性無機化合物で被覆した光触媒も説明はしないが、以下の記載を参考とすれば容易に使用することができよう。また、主にポリエチレンテレフタレート繊維織物で説明するが、他の織物も同様に実施できる。
[使用する光触媒]
本発明に用いるアパタイト系化合物で覆われた光触媒は、具体的にその1例を示すと、昭和電工社製商品名“ジュピター”として市販されており、その平均一次粒子径は約30nm、凝集した平均二次粒子径は200〜500nmのものである。これらの光触媒を溶媒に均一分散させたものを用いて、塗布する。なお平均粒子径は顕微鏡法や光散乱法で測定できる。
【0064】
この光触媒の、例えば水への均一分散には、極少量の分散増粘剤や浸透剤を、場合によってはアルコール類を添加して、粒子の沈降を防ぎ、水懸濁液の安定性向上および塗布適正の向上を行った、バインダー樹脂を実質的に含まない塗布液として使用するのが都合良い。
【0065】
使用する光触媒は微細であり、微細な面積でドット状に塗布して被膜上に乗せると、被膜表面に吸着されて、固着される。
【0066】
なお、本発明に用いられる光触媒は、アナターゼ型の酸化チタンだけでなく、一般に公知の光触媒をアパタイト系またはシリカ系化合物で覆うことで、同様に使用できる。
【0067】
本発明で使用するアパタイト系またはシリカ系化合物で覆われた光触媒の大きさは、光触媒を主として吸着させて固定するため、1μm未満が好ましく、また2次凝集をできるだけ防ぐ工夫をした光触媒の塗布液が好ましい。さらに光触媒の1次粒子の大きさは、平均粒子径100nm、さらには50nm以下と、微細なほど好ましい。
【0068】
以上の理由で、上記の昭和電工社製の光触媒を以下の実施例で使用して説明するが、光触媒としてアパタイトと同様に親水性であるシリカで被覆されているシリカ系光触媒も、アパタイト系光触媒と同様であった。
【0069】
本発明の実施例で使用する塗布液は、前記粒子径の昭和電工社製アパタイト化合物でコーティングされたアパタイト系光触媒微粒子20質量%と、粒子分散のための浸透剤0.5質量%を含む水分散液に、分散光触媒微粒子を保管中に沈降分離させ難くするための分散増粘剤0.4質量%を添加して混合したもので、数百(約300)センチポイズの粘度の水分散液を用いた。粘度は分散増粘剤の添加量を変えることで任意に設定でき、フレキソ塗布機に合わせている。
[使用する防水シートの基布]
繊度7dtexのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂からなるステープル繊維を紡績して10番手の単糸(10s/1と表示する)を用い、縦糸46本/インチ(織密度46と表示)横糸43本/インチ(織密度43と表示)の目付け230g/m2のPET織物Aとした。
【0070】
同じく、20番手PET紡績糸の双糸(20s/2と表示する)を縦糸とし、横糸を(10s/1)とする織密度(縦49本/インチ、横46本/インチ)の目付け250g/m2のPET織物Bとした。
【0071】
PET繊維を2dtexのポリプロピレン(PP)樹脂からなるステープル繊維を紡績して10s/1紡績糸とし、織密度(縦46本/インチ、横43本/インチ)の目付け230g/m2のPP織物Cとした。
【0072】
同じく10番手綿糸を用い、織密度(縦49本/インチ、横46本/インチ)の目付け250g/m2の織物Dとした。
【0073】
トータル繊度5.5dtex、フィラメント数72本のPETマルチフィラメントを3子撚りした糸条を用い、織密度(縦14本/インチ、横14本/インチ)の目付け155g/m2のPET織物Eとした。
【0074】
直径3μmのガラス繊維からなる、目付けが365g/m2のガラス繊維平織物をガラス織物Fとした。
[使用する防水シート]
前記織物A、織物C、及び織物Dに、下記可塑剤及び添加剤を添加したペースト塩化ビニル樹脂を、トルエンを溶剤としたオルガノゾル1とし、この浴に1面を浸漬して片面からオルガノゾル1を均一に注入し、これを引き上げると同時にマングルローラーで圧搾して、少なくとも片面均一に塩化ビニル樹脂を含浸・付着させ、150℃と175℃の熱風乾燥機でそれぞれ1分乾燥・熱処理し、続いて再びオルガノゾル1浴にもう片面を浸漬してもう片面からもオルガノゾル1を均一に注入し、これを引き上げると同時にマングルローラーで圧搾して、少なくとももう片面にも均一に塩化ビニル樹脂を含浸・付着させ、先と同様に150℃と175℃の熱風乾燥機でそれぞれ1分乾燥・熱処理し、引き続いて180℃の熱ロールで少なくとも片面の表面を滑らかにして、塩化ビニル樹脂の含浸量が310g/m2で厚みが約0.5mmのシートA1、シートC1とシートD1とした。
【0075】
織物Bと織物Aを、1回目のオルガノゾル1浴での塩化ビニル樹脂の含浸を少なくし、2回目の含浸をシートA1と同様の含浸量に増やして、この面を熱ロールで滑らかにして、塩化ビニル樹脂の含浸量が300g/m2で織物Bは厚みが約0.6mmのシートB1とし、織物Aは約0.5mmのシートA3とした。
【0076】
シートA1、シートC1、及びシートD1において、片面含浸して乾燥・熱処理後、直ちに180℃の熱ロールで片面の表面を滑らかにして、塩化ビニル樹脂の含浸量が155g/m2で厚みが約0.5mmのそれぞれシートA2、シートC2、及びシートD2とした。
【0077】
シートA1と同様にして、PET織物Eとガラス織物Fに両面より塩化ビニル樹脂を含浸・付着させて厚みが約0.5mmのそれぞれシートE1とシートF1とした。
【0078】
また、シートA1の片面に添加物揮散防止のための、目付け12g/m2のアクリル樹脂(固形分30質量%の商品名“ソニーボンドSC−474”を使用)層をロールコーターで塗り、100℃の熱風乾燥機で乾燥して添加物揮散防止層付きのシートA4とした。
[可塑剤及び添加剤を添加したペースト塩化ビニル樹脂]
ペースト塩化ビニル樹脂(P−1600) 100質量部
可塑剤(アジピン酸ポリエステルとDINPなど) 65質量部
その他、変性大豆油、防黴剤、着色材、安定剤、硬化剤など 16質量部
溶剤(トルエン) 20質量部
[実施例1〜5、比較例1]
シートA1、シートC1、シートD1、シートE1とシートF1の熱ロールで滑らかにした面にフレキソ機を用いて、前記した昭和電工社製アパタイト被覆光触媒の水系塗布液で、点状のドット1個当たりの面積を0.1mm2とする塗布された面積が総対象面積の40%を占めるように10g/m2塗布して、図1で示したように付着させた本発明の防汚性(防水)シートとした。これらは、一見して光触媒を塗布されているとは判らず、斜めから反射光を通してみて、表面の照り具合を比べることで判断することができる。これらと光触媒を塗布していないシートA1を夏場の3カ月間屋外で日光暴露したところ、比較例のシートA1は汚れが目立つ状態であったが、塗布面を暴露面としたこれら実施例はいずれも最初の降雨から、雨筋は付かず暴露開始時との変化はなかった。
【0079】
また、これらを塩化ビニル樹脂用のウエルダー加工機で接着を試みたが、光触媒塗布面同士でもしっかり接着しており、テントとしての使用には全く問題のない接着状況であった。
[実施例6〜7]
シートB1とシートA3の熱ロールで滑らかにした面にフレキソ塗布機を用いて、前記した昭和電工社製アパタイト化合物の水系塗布液で、点状ドット1個当たりの面積を0.1mm2とする塗布された面積が総対象面積の25%を占めるように6g/m2塗布して、本発明の防汚性(防水)シートとした。これらの防汚性とウエルダー加工性は、実施例1のシートA1と変わらず、いずれも良好であった。
[実施例8]
添加物揮散防止層付きのシートA4のアクリル樹脂層の上に、実施例1のシートA1と同様にして光触媒を塗布して本発明の防汚性(防水)シートとした。この防汚性とウエルダー加工性は、実施例1のシートA1と変わらず光触媒が吸着し、いずれも良好であった。
[実施例9〜11]
シートA2、シートC2とシートD2の塩化ビニル樹脂を含浸した面に、実施例1のシートA1と同様にして光触媒を塗布して本発明の防汚性(防水)シートとした。この防汚性は、実施例1のシートA1と変わらず光触媒が吸着し、いずれも良好であった。また、ウエルダー加工性は、塩化ビニル樹脂を含浸した面同士を合わせて行うと、実施例1のシートA1と変わらずいずれも良好であった。
[実施例12]
シートA1およびA4において、熱ロールで滑らかにした面にコロナ放電加工した後、実施例1のシートA1と同様にして光触媒を塗布して本発明の防汚性(防水)シートとした。光触媒の塗布性が改善され、電子顕微鏡で見ると光触媒の塗布がより鮮明となった。この防汚性とウエルダー加工性は、実施例1のシートA1と変わらず、いずれも良好であった。
[実施例13]
シートA1の片面に、アルミニウム粉を8質量%混合した下記の可塑剤及び添加剤を添加した塩化ビニル樹脂を170℃のカレンダーロールを通過させて圧延して0.2mmのフィルムとしたものをカレンダーロールで熱圧着して貼りあわせ、その上に実施例1のシートA1と同様にして光触媒を塗布して本発明の熱反射型防汚性(防水)シートとした。この防汚性とウエルダー加工性は、実施例1のシートA1と変わらず光触媒が吸着し、いずれも良好であった。
[可塑剤及び添加剤を添加した塩化ビニル樹脂]
ペースト塩化ビニル樹脂(P−1000) 100質量部
可塑剤(アジピン酸ポリエステルと高分子可塑剤など) 90質量部
その他、変性大豆油、防黴剤、着色材、安定剤、硬化剤など 20質量部
光反射材(アルミニウム粉) 8質量部
[実施例14]
実施例1において、フレキソ塗布機の代わりにグラビア塗布機を用いて、実施例1と同様にして、光触媒を塗布した。若干塗布の乱れは生じるが、この防汚性とウエルダー加工性は実施例1のシートA1と変わらず光触媒が吸着し、いずれも良好であった。
[比較例2]
アパタイトで被覆された光触媒で、数年前に入手した、粒子径が1μmを超え、2〜3μmを用いて、シートA1の片面に手塗りしたが、乾くとぼろぼろ剥離してシートへの固着が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明における光触媒の塗布形状を示す一例である(円形部分がドット状光触媒)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材の少なくとも一表面に樹脂フィルムが一体化されて樹脂被膜を備えたシートであって、
前記樹脂フィルムの少なくとも一表面には、親水性無機化合物で被覆された光触媒が存在し、前記光触媒の平均一次粒子径は1nm以上100nm未満であり、前記光触媒はドット状に合成樹脂フィルム表面に吸着されて固着していることを特徴とする防汚性シート。
【請求項2】
前記光触媒の平均一次粒子径は50nm未満である請求項1に記載の防汚性シート。
【請求項3】
前記ドットの平均面積が0.13mm2未満である請求項1に記載の防汚性シート。
【請求項4】
前記光触媒が表面に占める面積は50%未満である請求項1又は2に記載の防汚性シート。
【請求項5】
前記合成樹脂フィルムは、前記繊維基材内部にも浸透しており、もう片面にも前記樹脂が露出している請求項1に記載の防汚性シート。
【請求項6】
前記合成樹脂フィルムは、着色用の無機顔料、耐候性有機顔料又は染料が含まれて着色されている請求項1又は5に記載の防汚性シート。
【請求項7】
前記光触媒が配置されている以外の部分に、着色用の無機顔料、耐候性有機顔料又は染料で着色されている請求項1,2又は4に記載の防汚性シート。
【請求項8】
前記合成樹脂フィルム面の光触媒塗布面は親水化しておく請求項1に記載の防汚性シート。
【請求項9】
親水性無機化合物で被覆された光触媒は、アパタイト被覆光触媒及びシリカ被覆光触媒から選ばれる少なくとも一つの光触媒である請求項1に記載の防汚性シート。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の防汚性シートにおける樹脂被膜が、防水性被膜である防汚性屋外用防水シート。
【請求項11】
前記防水シートは、ウエルダー加工によって接着加工できる請求項10に記載の防汚性屋外用防水シート。

【図1】
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【公開番号】特開2006−312254(P2006−312254A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135213(P2005−135213)
【出願日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(000002923)大和紡績株式会社 (173)
【出願人】(300049578)ダイワボウポリテック株式会社 (120)
【Fターム(参考)】