説明

防汚性印刷用基材およびそれを用いた印刷物、印刷体

【課題】長期間において光触媒活性作用による自己浄化性を有する防汚性印刷用基材およびそれを用いた印刷物および印刷体を提供すること。
【解決手段】有機基材2の一方の面に活性遮断層3を介して光触媒活性層4を有し、他方の面を印刷面とすることを特徴とする防汚性印刷用基材とした。活性遮断層3は有機化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつ金属成分の含有率が該層の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒活性作用による自己浄化性を有する防汚性印刷用基材およびそれを用いた印刷物および印刷体に関するものである。
【0002】
光触媒活性材料は、超親水化による表面浄化作用があることから、看板等の表面をメイテンナンスフリーで美麗に保つ、いわゆる防汚効果が期待され、具体的に種々の方法が提案され、試みられている。
【0003】
例えば、外気に直接暴露又は長期間展示される印刷物において、少なくとも印刷層と、光活性を遮断する無機物からなる活性遮断層、及び光活性をもつ防汚層とから構成される保護層とを順次積層した積層体からなる耐候性印刷物が提案されている。(特許文献1参照)
この耐候性印刷物は、印刷面に粉塵や油分による汚れが付着しても、油分を分解し洗い流したり拭き取ることができ、表面の粉塵による汚染を防止し、紫外線遮断層との相乗作用で印刷物の光による変色や褪色を防止する効果を期待できる。
しかし、特許文献1の印刷物は、基材の表面に印刷を施し、その上層に活性遮断層、光活性層を塗り重ねて施すので、塗工時に使用する有機溶剤や加熱乾燥工程で印刷のにじみ、インクの蒸発気化などの発生により印刷の鮮明さを損なう可能性があった。また、経済性も考慮した連続生産を考えた場合には、定形の同一印刷物が多量にあることが望ましいが、印刷物は少量多品種の場合がほとんどで、その都度何回も塗工する工程が必要になり非常に手間がかかった。
【0004】
また、基材の一方の面上に、光触媒機能を有する金属酸化物を含有する防汚層を少なくとも有し、かつ、昇華転写印刷法により、防汚層の表面から内部を透過して基材に画像を転写形成してなる印刷体が提案されている。(特許文献2参照)
しかし、特許文献2に記載の方法は、防汚層側から昇華転写印刷法により印刷を行うので、昇華インクが防汚層に残り、防汚性を初期的に低下させる、あるいは、昇華インクが経時的にブリードアウトして光触媒活性を低下させる危惧があった。
また、防汚層の形成において、ポーラスの層とするため、低温ゾル−ゲル法とし、印刷方法も昇華転写印刷法に限定されるなど、技術的制限があり、広く一般の印刷に適応できないという問題があった。
【0005】
以上、多品種少量の印刷物において、印刷層に影響を及ぼすことなく防汚処理を施せる実用性のある印刷物は、未だ開発されていない。
さらに、多品種少量の印刷物に対応できる防汚効果のある印刷用基材であって、美粧な印刷が可能な、高い印刷適性を有する印刷用基材は、未だ得られていない。
【0006】
【特許文献1】特開2000−117187号公報
【特許文献2】特開2003− 43960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、長期間において光触媒活性作用による自己浄化性を有する防汚性印刷用基材およびそれを用いた印刷物および印刷体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、予め有機基材の一方の面に活性遮蔽層、光触媒活性層形成した印刷用基材を準備し、他方の面に印刷を施すことで上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)有機基材の一方の面に活性遮断層を介して光触媒活性層を有し、他方の面を印刷面とすることを特徴とする防汚性印刷用基材、
(2)前記(1)に記載の防汚性印刷用基材に印刷を施してなることを特徴とする防汚性印刷物、
(3)前記(2)記載の防汚性印刷物の表面に粘着層を施してなることを特徴とする防汚性印刷体
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の防汚性印刷用基材(以下「印刷用基材」という。)は、有機基材の一方の面に活性遮断層を介して光触媒活性層を有し、他方の面を印刷面とし、印刷後の印刷層を透明な有機基材よって隔離された構成としているので、印刷を施した後において、光触媒活性層が印刷層に悪影響を及ぼすことがなく、活性遮断層、光触媒活性層を構成する組成物を耐候性、耐クラック性と相俟って、長期間、印刷層を美麗かつ明瞭に保持できる。
本発明の印刷用基材によれば、透明性有機基材の一方の表面に活性遮断層を介して光触媒活性層を既に設けているので、印刷物の大きさや、量に応じて、印刷用基材を必要数準備し、この印刷用基材の他方の面に所要の印刷を施せばよいので、多種少量の印刷内容にも柔軟に対応でき、広告媒体等として、自己浄化作用による防汚性を有する多種多様の屋外展示用等の防汚性印刷物および印刷体を提供できる。加えて、防汚機能が初期的に付加されているので家庭用の印刷機(プリンター)にて、各ユーザーが容易に任意の写真や絵などを印刷し、屋外に汚れ付かずで掲示することが可能になる。
さらにこの印刷時に、白色顔料等を印刷面に付着させることで、印刷彩度を向上させることができる。
また、本発明の印刷体は、印刷層の表面に粘着層を設けてなるので、看板の基板や、建築物のガラス、壁面等への貼着が容易になる。
本発明の印刷物、印刷体は、印刷層自体が、活性遮断層や、光触媒層と直接接しないので、これらの層に使用される溶媒等を考慮することなく、種々のインクを選択使用できるので、発色性の良い、鮮やかな表示物、例えば、写真、絵やポスター等とすることができ、光触媒作用による自浄効果と相俟って、高い宣伝効果を発現できる。
さらに、ビルや建屋のガラスや壁などに施工し洗浄目的で水を掛けてやると、超親水効果により水が全面に濡れ広がり、打ち水効果でその施工対象物を冷却する効果も期待できる。
光触媒機能により、降雨または散水により自己浄化できるので、屋外シアターに類似した内部照明を利用した屋外美術展示用途、ガーデニング資材用途(印刷垣根、印刷花壇など)、あるいは季節に合わせて何度でも掲示、取り外しをする屋外掲示用資材用途(例えば印刷クリスマスツリー、印刷鯉のぼり、印刷おひな様、印刷ステンドグラス、印刷自作カレンダーなど)等に、表面が美麗な状態で長期間あるいは繰り返し使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の印刷用基材に使用できる有機基材としては、印刷層の支持体をなし、印刷物、印刷体として支障のない程度の強度を有するとともに、屋外や太陽光暴露に耐え得る劣化の少ない材料であって、すくなくとも、印刷内容が光触媒活性層側から視認できる程度の透明性を有する有機材料から選ばれる。
本発明の有機基材の形体としては、フィルム、シート、板材物等であって、透明性を有し、印刷用インクとの化学吸着力、親和力、相溶性に優れるプラスチック等が好ましく用いられる。
また、自立性のある看板等とする場合は、板状等の厚みのある透明材料が好ましい。板状材の場合は、必ずしも中実で均一肉厚のものである必要がなく、上下のライナー間に平行のリブを有するプラスチックダンボール状のものや、上下のライナー間に独立した円柱状空間を有するシート状物であっても、ライナー表面が、印刷や活性遮断層を形成するのに十分な平坦性を有するものであれば使用することができる。これらを使用すれば、取付け工事等における軽量による利便性や、コストの削減を図ることができる。
さらに、本発明に使用できる有機基材には、透明性を有する合成繊維、天然繊維等の織布や不織布あるいは合成紙を含めることができる。
繊維状の有機基材は、意匠性等の必要に応じて、熱カレンダーローラー等でフィルム状にしてもよい。
【0012】
上記有機基材としては、例えばポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレンやABS樹脂などのスチレン系樹脂、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなる基材を挙げることができる。なかでも、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂が透明性という点で好適である。
【0013】
これらの有機基材は、活性遮断層あるいは印刷インクとの密着性をさらに向上させるために、所望により、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれる。
有機基材は、印刷層が視認できる程度の透明性が必要であるが、必ずしも無色透明である必要はなく、印刷彩度を上げるために着色された透明であってもよい。
透明性としては、概ね全光線透過率が70%以上のものが使用できる。
【0014】
有機基材の一方の面に設ける活性遮断層は、光触媒作用による有機基材の劣化を防止するためおよび印刷層への影響を阻止するために設けるもので、有機基材に対する密着性を向上させる機能も有しており、通常、光触媒フィルムの保護層として用いられるものを使用できる。
一般に保護層としては、シリコーン樹脂やアクリル変性シリコーン樹脂などからなる厚さ数μm程度のものが用いられており、本発明においてこれらのものも使用できる。
本発明において、前記従来の中間層を活性遮断層としてもよいが、その際、要すれば、有機基材表面には、前述の表面処理や変性材料によるラミネートを施してもよい。変性材料としては、アクリル、ポリエステルや、エポキシ基、ウレタン基を含むものが好適に使用される。
【0015】
屋外展示用等の印刷物としてより高い耐久性、耐候性を望む場合には、活性遮断層は、有機高分子化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつ金属成分の含有率が該膜の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものであって、実質上、光触媒活性層との界面では金属酸化物系化合物成分の濃度が高く、かつ有機基材に当接している面では有機高分子化合物成分の濃度が高い有機−無機複合傾斜層とすることがより望ましい。
【0016】
このような、前記活性遮断層が、(A)一般式(I)で表される金属アルコキシドの加水分解縮合物を少なくとも1種類以上含むコーティング組成物から形成されていることが望ましい。
MR1x(OR2m-x ‥(I)
(式中、MはSi,Ti,Al,Zrの金属、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、mは金属Mの価数、xは0〜2の整数を示す。)
前記一般式(I)において、R1は非加水分解性基であって、そのうちのアルキル基は
、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、また、アルケニル基およびアルキニル基は、
炭素数2〜20のものが好ましい。アリール基は、炭素数6〜20、アラルキル基は、炭
素数7〜20のものが好ましい。さらに、アシル基としては、炭素数2〜20の脂肪族ア
シル基や、炭素数7〜20の芳香族アシル基(アロイル基)を好ましく挙げることができ
る。
一方、OR2は加水分解性基であって、R2で示される炭素数1〜6のアルキル基は、直
鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n
−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、te
rt−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが
挙げられる。xは0〜2の整数であり、R1が複数ある場合、各R1はたがいに同一であっ
てもよいし、異なっていてもよく、またOR2が複数ある場合、各OR2はたがいに同一で
もよいし、異なっていてもよい。
このような、有機−無機複合傾斜層による前記活性遮断層を、(B)非晶質酸化チタン形成用化合物および(C)無機塩類、有機塩類およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種のチタン以外の金属の化合物とを含むコーティング組成物から形成することが、耐久性、耐クラック性、耐候性の点でより望ましい。
前記(B)非晶質酸化チタン形成用化合物すなわち(B)成分としては、例えば一般式(II)
TiR1x(OR24-x …(II)
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又
はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドをそのまま含むものであってもよいし、その加水分解・縮合物を含むものであってもよく、あるいはその両方を含むものであってもよいが、加水分解・縮合物がより好ましい。
【0017】
前記一般式(II)において、R1は非加水分解性基であって、そのうちのアルキル基は
、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、また、アルケニル基およびアルキニル基は、
炭素数2〜20のものが好ましい。アリール基は、炭素数6〜20、アラルキル基は、炭
素数7〜20のものが好ましい。さらに、アシル基としては、炭素数2〜20の脂肪族ア
シル基や、炭素数7〜20の芳香族アシル基(アロイル基)を好ましく挙げることができ
る。
【0018】
一方、OR2は加水分解性基であって、R2で示される炭素数1〜6のアルキル基は、直
鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n
−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、te
rt−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが
挙げられる。xは0〜2の整数であり、R1が複数ある場合、各R1はたがいに同一であっ
てもよいし、異なっていてもよく、またOR2が複数ある場合、各OR2はたがいに同一で
もよいし、異なっていてもよい。
【0019】
この一般式(II)で表されるチタンアルコキシドの中ではチタンテトラアルコキシドが
好ましく、該チタンテトラアルコキシドの例としては、チタンテトラメトキシド、チタン
テトラエトキシド、チタンテトラ−n−プロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、
チタンテトラ−n−ブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラ−sec−
ブトキシドおよびチタンテトラ−tert−ブトキシドなどが好ましく挙げられる。これ
らは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の活性遮断層を形成する組成物において、加水分解・縮合に用いる溶媒としては、アルコール類が好ましく、炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類が、加水分解−縮合反応の制御および縮合物の安定化の点からさらに好ましい。
この炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類としては、チタンアルコキシドに対して相互作用を有する溶剤、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのセロソルブ系溶剤、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどを挙げることができる。これらの中で、特にセロソルブ系溶剤が好ましい。これらの溶剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
チタンテトラアルコキシドの加水分解・縮合物を用いる場合、チタンテトラアルコキシ
ドの加水分解−縮合反応は、チタンテトラアルコキシドに対し、好ましくは4〜20倍モ
ル、より好ましくは5〜12倍モルの前記アルコール類と、好ましくは0.5以上4倍モ
ル未満、より好ましくは1〜3.0倍モルの水を用い、塩酸、硫酸、硝酸などの酸性触媒
の存在下、通常0〜70℃、好ましくは20〜50℃の範囲の温度において行われる。酸
性触媒は、チタンテトラアルコキシドに対し、通常0.1〜1.0倍モル、好ましくは0
.2〜0.7倍モルの範囲で用いられる。
【0022】
一方、(D)成分であるチタン以外の金属化合物は、非晶質酸化チタンの結晶化阻
害化合物として機能するものであり、効果の点から、無機塩類、有機塩類およびアルコキ
シド類の中から選ばれる化合物、具体的には、硝酸、酢酸、硫酸、塩化アルミニウムなら
びにジルコニウムの各塩類、ならびに、これら無機塩類の水和物、アルミニウムトリアセ
チルアセトナートなどのアルミニウムキレート類、テトラ−n−プロポキシジルコニウム
、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシランなどの金属アルコキシド類、なら
びにこれら化合物の加水分解物、あるいは、その縮合物を挙げることができる。これらの
中で、異種金属がアルミニウムおよび/またはジルコニウムであるものが好ましく、特に硝酸アルミニウムならびにその水和物がより好ましい。前記金属化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
この(C)成分である異種金属化合物は、前記(B)成分を含む液にそのまま添加すれ
ばよく、その添加順序については特に制限はない。
本発明の活性遮断層の形成においては、(C)成分であるチタン以外の金属化合物の使用量は、チタン原子に対して、通常5〜50モル%の範囲で選定される。使用量が5モル%以上であれば、良好な結晶化阻害効果が得られ、また50モル%以下では非晶質酸化チタンが本来有する物理的性質が良好に発揮される。異種金属化合物として硝酸アルミニウムを用いる場合の特に好ましい使用量は10〜30モル%の範囲である。
【0024】
このようにして得られた本発明の活性遮断層形成用コーティング組成物は、前述した性状を有するものであり、その固形分濃度は、通常0.1〜30質量%程度、好ましくは0.5〜20質量%程度である。このコーティング組成物を、所望の基材上に、乾燥厚さが0.01〜2μm程度、好ましくは0.02〜0.7μmになるように塗布し、例えば常温乾燥することにより、あるいは所望により、さらに加熱処理することにより、無色で透明性に優れ、50nm〜5μm程度の長さの微小なクラックなどが新たに発生しにくい非晶質酸化チタン複合塗膜を形成することができる。
【0025】
本発明の活性遮断層形成用コーティング組成物は、さらに、(D)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分を含ませることにより、有機基材上に塗膜を設けた場合に、非晶質酸化チタン成分の含有率が、該塗膜の表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性を有する組成物からなる塗膜とすることができる。
【0026】
この(D)非晶質酸化チタンと化学結合し得る有機成分としては、例えば(a)金属を含まないエチレン性不飽和単量体と、(b)カップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体とを共重合させることにより得られる有機高分子化合物を好ましく挙げることができる。
【0027】
上記(a)金属を含まないエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(III)
【0028】
【化1】

(式中、R3は水素原子またはメチル基、Xは一価の有機基である。)
で表されるエチレン性不飽和単量体、好ましくは一般式(III−a)
【0029】
【化2】

(式中、R3は水素原子またはメチル基、R4は一価の炭化水素基またはエポキシ基、ハロ
ゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基を示す。)
で表されるエチレン性不飽和単量体を一種または二種以上混合して使用してもよい。
【0030】
上記一般式(III−a)で表されるエチレン性不飽和単量体において、R4で示される炭
化水素基としては、炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜1
0のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10のアラルキル基を
好ましく挙げることができる。炭素数1〜10のアルキル基の例としては、メチル基、エ
チル基、n−プロピル基、イソプロピル基、および各種のブチル基、ペンチル基、ヘキシ
ル基、オクチル基、デシル基などが挙げられる。炭素数3〜10のシクロアルキル基の例
としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロオク
チル基などが、炭素数6〜10のアリール基の例としては、フェニル基、トリル基、キシ
リル基、ナフチル基、メチルナフチル基などが、炭素数7〜10のアラルキル基の例とし
ては、ベンジル基、メチルベンジル基、フェネチル基、ナフチルメチル基などが挙げら
れる。エポキシ基、ハロゲン原子若しくはエーテル結合を有する炭化水素基としては、こ
れらの基、原子若しくは結合を有する炭素数1〜10の直鎖状若しくは分岐状のアルキル
基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜10
のアラルキル基を好ましく挙げることができる。上記置換基のハロゲン原子としては、塩
素原子等が挙げられる。
【0031】
この一般式(III−a)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3−グリシドキシプロピル(メタ)アクリレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート、2−ブロモエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
また、前記一般式(III)で表されるエチレン性不飽和単量体としては、これら以外にもスチレン、α−メチルスチレン、α−アセトキシスチレン、m−、o−またはp−ブロモスチレン、m−、o−またはp−クロロスチレン、m−、o−またはp−ビニルフェノール、1−または2−ビニルナフタレンなど、さらにはエチレン性不飽和基を有する重合性高分子用安定剤、例えばエチレン性不飽和基を有する、酸化防止剤、紫外線吸収剤および光安定剤なども用いることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
一方、前記(b)カップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体としては、例えば一般式(IV)
【0034】
【化3】

(式中、R5は水素原子またはメチル基、Aは炭素数1〜4のアルキレン基、R6はメチル
基又はエチル基を示す。)
で表される化合物を好ましく挙げることができる。前記一般式(III)において、3つの
6はたがいに同一でも異なっていてもよい。
この一般式(IV)で表されるエチレン性不飽和単量体の例としては、2−(メタ)ア
クリロキシエチルトリメトキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシ
ラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキ
シプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
この(D)成分のカップリング性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体は、1
種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
前記(a)成分の金属を含まないエチレン性不飽和単量体と、(b)成分のカップリン
グ性ケイ素含有基を有するエチレン性不飽和単量体とを、ラジカル重合開始剤の存在下、
ラジカル重合させることにより、(D)成分の成分として用いられるカップリング性ケイ
素含有基を有する有機高分子化合物からなる自己傾斜性を有する化合物が得られる。
【0036】
本発明の活性遮断層においては、このようにして得られた(D)成分であるカップリング性ケイ素含有基を有する有機高分子化合物をアルコール、ケトン、エーテルなどの適当な溶剤中に溶解させた溶液と、前述の(B)成分であるチタンアルコキシドの加水分解・縮合物と、(C)成分のチタン以外の金属化合物単体および/またはそれを含む反応液を必要により希釈した溶液とを混合することにより、前記有機高分子化合物中のカップリング性ケイ素含有基が加水分解し、(B)成分の反応液におけるチタンアルコキシドの加水分解縮合物と選択的に反応し、有機−無機複合傾斜膜形成用のコーティング組成物、すなわち本発明における印刷用基材の活性遮断層用組成物が得られる。
なお、この際、用いるチタンアルコキシドの加水分解縮合物を含む反応液の希釈溶媒としては、前述した理由により炭素数3以上のエーテル系酸素を有するアルコール類を含む溶媒を使用することが望ましい。
【0037】
このようなコーティング組成物を用いることにより、有機基材に塗布、乾燥した際に、
実質上有機基材側が有機高分子化合物成分で、その反対側が非晶質酸化チタン成分であっ
て、両者の含有割合が膜厚方向に連続的に変化する良好な成分傾斜構造を有する有機−無
機複合傾斜膜を、安定して形成することができる。そして、この有機−無機複合傾斜膜を活性遮断層とすることができる。
【0038】
この複合傾斜性の活性遮断層は、無機成分として非晶質酸化チタン成分を含むことにより、促進耐候試験下に曝露されても、無機成分の結晶化が抑えられるため、機械的特性の低下、クラックの発生、透明性の低下などが抑制される。
【0039】
有機基材上に、活性遮断層としての複合傾斜膜を形成させるには、このようにして得られた本発明のコーティング組成物を、乾燥塗膜の厚さが、通常5μm以下、好ましくは0.01〜1.0μm、より好ましくは0.02〜0.7μmの範囲になるように、ディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などの公知の手段により塗布し、溶媒を揮散させて塗膜を形成させる。
なお、本発明における有機基材は、前に例示した有機系材料以外の材料、例えばガラスや透明性セラミックス系材料からなる基材の表面に、有機系塗膜を有するものも包含する。
【0040】
また、活性遮断層の傾斜構造の確認は、例えば塗膜表面にスパッタリングを施して膜を削っていき、経時的に膜表面の炭素原子とチタン原子の含有率を、X線光電子分光法などにより測定することによって、行うことができる。
この活性遮断層としての複合傾斜膜における金属成分の含有量は、特に制限はないが、金属酸化物換算で、通常5〜98質量%、好ましくは20〜98質量%、特に好ましくは50〜95質量%の範囲である。有機高分子化合物の重合度や分子量としては、製膜化しうるものであればよく特に制限されず、高分子化合物の種類や所望の傾斜膜材料の物性などに応じて適宜選定すればよい。
【0041】
本発明の光触媒活性層としては、一般的に光触媒層として用いられているアナターゼ型の酸化チタンをバインダーで固めた層でもよいが、耐久性、耐候性を考慮して、次の組成物により構成することが望ましい。
すなわち、本発明の改良された光触媒活性層のコーティング組成物としては、前記(A)、(C)にさらに、(E)光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子を含めることができる。
前記光触媒機能を有する微粒子としては、アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン
粒子を用いることができる。
前記アナターゼ型結晶を主成分とする酸化チタン微粒子(以下、アナターゼ結晶酸化チ
タン粒子と称すことがある。)は、光触媒粒子であり、少量のルチル型結晶が混在してい
てもよく、また、窒化チタンや低次酸化チタン等を一部含む可視光応答型の光触媒粒子も
使用することができる。このアナターゼ結晶酸化チタン粒子の平均粒子径は、1〜500
nmの範囲が好ましく、1〜100nmの範囲がより好ましく、1〜50nmの範囲が優
れた光触媒機能を有するために最も好ましい。上記平均粒子径は、レーザー光を利用した
散乱法によって測定することができる。
【0042】
また、当該酸化チタン粒子の内部および/またはその表面に、第二成分として、V、F
e、Co、Ni、Cu、Zn、Ru、Rh、Pd、Ag、PtおよびAuの中から選ばれ
る少なくとも1種の金属および/または金属化合物を含有させると、一層高い光触媒機能
を有するため好ましい。前記の金属化合物としては、例えば、金属の酸化物、水酸化物、
オキシ水酸化物、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、さらには金属イオンなどが挙げられる。
第二成分の含有量はその物質の種類に応じて適宜選定される。
【0043】
このアナターゼ結晶酸化チタン粒子は、従来公知の方法によって製造することができる
が、塗工液中に均質に分散させるために酸化チタンゾルの形態で用いるのが有利である。
該酸化チタンゾルを製造するには、例えば粉末状のアナターゼ結晶酸化チタンを酸やアルカリの存在下で解こうさせてもよいし、粉砕によって粒子径を制御してもよい。また、硫酸チタンや塩化チタンを熱分解あるいは中和分解して得られる含水酸化チタンを物理的、化学的な方法で結晶子径、粒子径の制御を行ってもよい。さらにゾル液中での分散安定性を付与するために、分散安定剤を使用することができる。
【0044】
一方、コロイダルシリカは光触媒膜に、暗所保持時においても超親水性維持性能を発現させる作用を有している。
光触媒は、紫外線などの光の照射によって、その表面に存在する有機物質を分解する性
質や、超親水化を発現するが、暗所では、一般にこのような光触媒機能が発現されない。
しかし、光触媒膜中にコロイダルシリカを含有させることにより、該光触媒膜は、暗所でも超親水性維持性能を発現する。
このコロイダルシリカは、高純度の二酸化ケイ素(SiO2)を水またはアルコール系
溶剤に分散させてコロイド状にした製品であって、平均粒子径は、通常1〜200nm、
好ましくは5〜50nmの範囲である。シリコンアルコキシドの加水分解・縮合物では、
反応が終結していないので、水で溶出されやすく、それを含む光触媒膜は耐水性に劣る。
一方、コロイダルシリカは、反応終結微粒子であるため、水で溶出されにくく、それを含む光触媒膜は、耐水性が良好なものとなる。
このコロイダルシリカは、塗膜の強度や硬度を向上させる作用の他に、表面を凹凸化させる作用も発現させる場合がある。
【0045】
本発明の光触媒活性層に用いる、光触媒機能を有するコーティング組成物は、その一例として、前記(B)成分であるチタンアルコキシドの加水分解・縮合物と(C)成分であるチタン以外の金属化合物単体および/またはその反応液を含む液に、所定量のアナターゼ結晶酸化チタンゾルと場合によりコロイダルシリカを加え、均質に分散させることにより、調製することができる。
【0046】
このようにして調製された光触媒機能を有するコーティング組成物を活性遮断層が形成された有機基材上に、公知の方法、例えばディップコート法、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより塗布し、成膜したのち、自然乾燥または加熱乾燥することにより、所望の光触媒膜すなわち光触媒活性層が得られる。加熱乾燥する場合は、200℃以下の温度を採用することができる。
このように、成膜したのち、低温での保持処理により、形成された光触媒膜は、十分な
光触媒機能を発現し得るので、本発明の防汚性印刷用基材として、好適に用いることができる。
【0047】
本発明の有機基材は、厚み50μm以上の透明なプラスチックフィルムまたはプラスチックシートとすることができる。
厚みが50μm未満では、印刷工程や、光触媒の塗工工程での取扱いが難しく、また、薄いために、外力により、変形、伸び、破損等が生じやすい。
本発明の有機基材の厚みは、印刷後の取扱い性、被貼付体への追従性、看板等としての自立性など、使用目的、用途に応じて適宜決定される。
また、本発明の有機基材の形態は、フィルム、シート等で巻取り可能なものであれば、長尺のロール状のものが、活性遮断層、光触媒活性層、印刷層等の連続形成に便利である。
厚みのある板状物であれば、定尺にカットされたものを使用する。
また、印刷用基材は、印刷方法等によって、連続ロール状としたり、枚葉のシート状とすればよい。
一方、本発明の有機基材の幅は、印刷適性の点から2000mm以下、好ましくは300mm〜1600mmのものを使用できる。2000mmを超えると、印刷時の取扱いがし難くなる。
【0048】
本発明においては、有機基材の一方の面の表層に耐候性向上剤を含有させて紫外線遮断層を設け、紫外線による劣化や表面のひび割れ、脆性等による破壊を防止することができる。本発明に使用できる耐候性向上剤としては、例えばベンゾフェノール系、ベンゾトリアゾール系、シュウ酸アニリド系、シアノアクリレート系、トリアジン系等の有機系紫外線吸収剤や、ヒンダードアミン系光安定剤、励起エネルギー吸収剤、ラジカル捕捉剤等が例示されるが、これらに限定されるものではない。耐候性向上剤は、有機基材中に含有させる代わりに、有機基材上に耐候性向上層として一層を設けてもよく、この場合は、使用する耐候性向上剤の使用量を削減でき、コスト低減を図ることができる。
【0049】
本発明の印刷用基材の表面には、インク受容層を設けることができる。単に表面を改質しただけのインク受容層は、印刷インクとの密着性を向上させるためのもので、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことにより設けることができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は有機基材の種類、印刷インクの種類に応じて適宜選ばれる。インクジェット用のインク受容層としては、シリカやアルミナを含有した多孔質のハイブリッド膜や、三菱樹脂株式会社のホットメルト式のインクジェットメディア“プリメイクHL”と同様の特殊親水性樹脂などを必要に応じて適宜選択できる。
【0050】
本発明の防汚性印刷物を製造する際の印刷方法は、特に限定されないが、被印刷体に適応した印刷方法を採用できる。例えば、平版方式のオフセット印刷、凹版式のグラビア印刷、凸版印刷、シルクスクリーン印刷などの版式や、インクジェットプリンター、静電プリンター、昇華性インク転写、レーザー印刷等任意の印刷手段により行うことができる。
印刷は、印刷面側から見て、印像が正規の視覚時と鏡像関係にある、いわゆる反転印刷を行えば、光触媒活性層側から見て、正規の状態で視認できる。
一方、窓ガラスの外側に本発明の印刷物を貼付し、主として室内から視覚する目的の場合は、反転させることなく通常の印刷を行えばよい。
また、目的の印刷物の上に背景となる白色等の着色地を印刷すれば、印刷内容を際立たせることができる。
印刷用インクとしては、溶剤系顔料等によるインクのほか各種のものを使用できる。
【0051】
また、本発明において、印刷表面に直接粘着層を形成した印刷体としてもよい。
なお、この粘着層は、粘着後の再剥離を予測される場合であるが、再剥離を予定しない場合は接着層であってもよい。
粘着層の、粘着剤は、有機基材との粘着性、印刷層への影響度、被粘着対象物との粘着力等を勘案して、選択される。使用できる粘着剤としては、例えば従来から一般的に使用されているアクリル系、ウレタン系、シリコーンゴム系、ゴム系などの粘着剤を適宜使用でき、特に限定されるものでないが、粘着力と再剥離性を設計しやすいアクリル系粘着剤がより好ましい。
粘着層の表面には、セパレータ(剥離紙)を積層しておくことが望ましく、また、保護層を設けた場合においても、セパレータを介在させておくことが望ましい。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例により説明するが、本発明は、以下の例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例に示す全光線透過率、ヘイズは、以下に示す要領に従って求めた。
(塗膜の全光線透過率)
JIS K7361−1に準拠し、下記の装置、測定サンプルを用いて、全光線透過率とヘイズを測定した。
装置名; 日本電色(株)製 Haze Mater NDH2000
(X線光電子分光測定法)
XPS装置「PHI−5600」[アルバックファイ(株)製]を用い、アルゴンスパッタリング(4kV)を3分間隔で施して膜を削り、膜表面の炭素原子と各金属原子の含有率を測定し、傾斜性を調べた。
【0053】
実施例1
(光触媒層つきフィルムの作成)
(1)活性遮断層の成膜
1Lセパラブルフラスコに窒素雰囲気下でメチルイソブチルケトン424.0g、メタクリル酸メチル200.0g、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン23.5gを添加し、60℃まで昇温した。この混合溶液にアゾビスイソブチロニトリル1.9gを溶かしたメチルイソブチルケトン溶液を滴下し重合反応を開始し、30時間攪拌し有機成分溶液(a)を得た。
チタンテトライソプロポキシド35.55gをエチルセルソルブ70.02gに溶解した溶液に、60質量%硝酸5.94g、水2.14gとエチルセロソルブ27.39gの混合溶液を攪拌しながらゆっくりと滴下し、その後30℃で4時間攪拌し混合溶液(b)を得た。
次いで、上記混合溶液(b)とエチルセルソルブおよびチタン以外の金属化合物として硝酸アルミニウムを用いて、硝酸アルミニウムの添加量がTi原子に対して15モル%、溶液全体の固形分濃度が5質量%になるように調製し、複合金属化合物の溶液(c)を得た。
次いで、上記溶液(a)1.46g、メチルイソブチルケトン47.15g、エチルセルソルブ19.01g、溶液(c)29.60gおよびコロイダルシリカ分散液2.78gを混合し、15分間攪拌した。その後5〜10℃で一晩保管し、有機―無機成分傾斜溶液(e)を得た。
次に、図1に示す有機基材2として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材(東レ製、T−60 厚み100μm、幅1600mm)2aの上面にHALS(アデカアーガス社製、アデカスタブLA-68、MW=1900)による紫外線遮蔽層2bを設けた全厚み105μmPETフィルムにグラビアコートにて膜厚が100nmになるように成膜して、活性遮断層3を形成した。
前記のXPS測定法により、この活性遮断層3の成分傾斜性を調べたところ、有機成分と無機成分の成分傾斜が確認された。XPS測定結果を図2に示す。
【0054】
(2)光触媒活性層の成膜ならびに粘着処理による印刷用基材の作製
エチルセルソルブ40.63g、1−プロパノール44.50gの混合溶媒に、60質量%硝酸0.34g、水6.84g、光触媒分散液(チタン工業社製「PC−201、固形分濃度20.7重量%」)0.483gおよびコロイダルシリカ分散液(日産化学社製「スノーテックス IPA−ST、固形分濃度30重量%」)2.167gを添加し、さらに上記溶液(b)5.00gを加え、全体の固形分濃度が1質量%になるように調製し、光触媒液(f)を作製した。
この光触媒溶液を、上記活性遮断層3を備えたPETフィルムにグラビアコートにて膜厚が40nmになるように成膜して、光触媒活性層4を形成した。さらに、この光触媒活性層の上に厚さ30μmのPET製剥離フィルム(図示省略)をコールドラミネートし印刷用基材1としての光触媒フィルムを得た。
【0055】
(3)印刷用基材の評価
この印刷用基材1としての光触媒フィルムを前記の測定要領で全光線透過率ならびにヘイズを測定したところ、全光線透過率91%、ヘイズ1.0%であった。
この印刷用基材をカーボンアーク式サンシャインウェザーメータ(SWM)(スガ試験機社製、S300)にて2000時間の加速耐候試験を実施したところ、全光線透過率は90%、ヘイズ1.5%であり、全光線透過率の低下および、ヘイズの上昇の少ない印刷用基材であることが確認できた。
【0056】
(4)印刷
前記(2)で得られた印刷用基材1の光触媒活性層4と反対側の面5にセイコーインスツルメント社(SII)製インクジェット式プリンター(商品名64S)にて、溶剤系顔料(IP6シリーズ)を用いて任意の絵柄の画像を印刷した印刷層9を形成し、この上から38μmのPET製剥離フィルム6に粘着剤層7を有する粘着剤付き剥離フィルム8をラミネートし、光触媒活性層上の厚さ30μmのPET製剥離フィルム(図示省略)を剥離して、図3に示す印刷物10を得た。この印刷物10を、国道沿いの電柱看板に貼り合わせて置き、汚れの付き具合ならびに意匠性の変化を1年後に確認した。汚れが殆どついておらず印刷層9は鮮明であり意匠性が維持されていた。
【0057】
比較例1
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム基材2aの上面に実施例1と同一のHALSによる紫外線遮蔽層2bを設けた全厚み100μmのPETフィルム(東レ製、TP−60)に予め厚さ38μmのPET製剥離フィルム8をラミネートし、比較サンプルを作製した。
(印刷用基材としての評価)
このフィルムについて実施例1と同一要領で、全光線透過率ならびにヘイズを測定したところ、全光線透過率91%、ヘイズ1.0%であった。
この比較サンプル品について、カーボンアーク式サンシャインウェザーメータ(SWM)(スガ試験機社製、S300)にて2000時間の加速耐候試験を実施したところ、全光線透過率は90%、ヘイズ3.0%であった。
(印刷)
このPETフィルム上に実施例1と同様にSII製インクジェット式プリンター(商品名:64S)にて、溶剤系顔料(IP6シリーズ)を用いて実施例1と同一の任意の絵柄の画像を印刷した後、この上から前記剥離フィルムを貼り付けた。これを、国道沿いの電柱看板に貼り合わせて、汚れの付き具合ならびに意匠性の変化を1年後に確認した。汚れが付着し、意匠性が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の防汚性印刷用基材は、有機基材の一方の面に耐候性および耐クラック性を改良した活性遮断層および光触媒活性層を形成し、有機基材の他方の面を印刷面とし、これに印刷を施すので、光触媒層からの印刷層対する悪影響がなく、光触媒活性層の自浄作用による防汚効果を有する印刷用基材として利用できる。
また、本発明の防汚性印刷物および防汚性印刷体は、印刷層の意匠性を長期にわたって維持できるので、屋外美術展示や屋外展示物の案内表示、広告宣伝用の看板、ガーデニング用資材(印刷垣根、印刷花壇など)、屋外シアターに類似した内部照明を利用した屋外美術展示用途、屋外掲示用(例えば印刷クリスマスツリー、印刷鯉のぼり、印刷おひな様、印刷ステンドグラス、印刷自作カレンダーなど)や家庭の窓貼り用装飾性印刷物等として有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施例による印刷用基材の模式断面図である。
【図2】実施例1で得られた活性遮断層用塗膜のXPSの測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例による印刷物の模式断面図である。
【符号の説明】
【0060】
1. 印刷用基材
2. 有機基材
2a. フィルム基材
2b. 紫外線遮蔽層
3. 活性遮断層(傾斜膜層)
4. 光触媒活性層
5. 基材表面
6. 剥離フィルム
7. 粘着剤層
8. 粘着剤付き剥離フィルム
9. 印刷層
10. 印刷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機基材の一方の面に活性遮断層を介して光触媒活性層を有し、他方の面を印刷面とすることを特徴とする防汚性印刷用基材。
【請求項2】
前記有機基材が、厚み50μm以上の透明なプラスチックフィルムまたはプラスチックシートである請求項1記載の防汚性印刷用基材。
【請求項3】
前記有機基材の一方の面の表層に紫外線遮断層を設けてなる請求項1または2に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項4】
前記活性遮断層が、有機高分子化合物と金属酸化物系化合物とが化学的に結合した複合体を含み、かつ金属成分の含有率が該層の厚み方向に連続的に変化する成分傾斜構造を有するものであって、実質上、光触媒活性層との界面では金属酸化物系化合物成分の濃度が高く、かつ有機基材に当接している面では有機高分子化合物成分の濃度が高い有機−無機複合傾斜層である請求項1〜3のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項5】
前記活性遮断層が、(A)一般式(I)で表される金属アルコキシドの加水分解縮合物を少なくとも1種類以上含むコーティング組成物から形成されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
MR1x(OR2m-x ‥(I)
(式中、MはSi,Ti,Al,Zrの金属、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、mは金属Mの価数、xは0〜2の整数を示す。)
【請求項6】
前記活性遮断層が、(B)非晶質酸化チタン形成用化合物および(C)無機塩類、有機塩類、無機酸化物およびアルコキシド類の中から選ばれる少なくとも1種のチタン以外の金属の化合物を含むコーティング組成物から形成されてなる請求項1〜5のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項7】
前記(B)成分の非晶質酸化チタン形成用化合物が、一般式(II)
TiR1x(OR24-x …(II)
(式中、R1はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アラルキル基又
はアシル基、R2は炭素数1〜6のアルキル基、xは0〜2の整数を示す。)
で表されるチタンアルコキシドおよび/またはその加水分解・縮合物からなる非晶質酸化チタン塗膜形成用コーティング組成物から形成されてなる請求項6記載の防汚性印刷用基材。
【請求項8】
前記(C)成分のチタン以外の金属がアルミニウムおよび/またはジルコニウムである請求項6または7記載の防汚性印刷用基材。
【請求項9】
前記(C)成分の金属化合物が硝酸アルミニウムである請求項6〜8のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項10】
前記活性遮断層が、さらに、(D)金属アルコキシドの加水分解縮合物と化学結合し得る有機成分を含み、かつ基材上に塗膜を設けた場合に、金属アルコキシドの加水分解縮合物の含有率が、該塗膜の表面から基材に向かって傾斜する、自己傾斜性組成物より形成されてなる請求項5〜9のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項11】
前記光触媒活性層が、前記(A)、(C)に、(E)光触媒機能を有する微粒子および/またはシリカ微粒子を含む組成物より形成されてなる請求項5〜10のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項12】
前記防汚性印刷用基材の他方の表面にインク受容層を設けてなる請求項1〜11のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の防汚性印刷用基材に印刷を施してなることを特徴とする防汚性印刷物。
【請求項14】
請求項13記載の屋外展示用印刷物の表面に粘着層を施してなることを特徴とする防汚性印刷体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−1088(P2007−1088A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182473(P2005−182473)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000120010)宇部日東化成株式会社 (203)
【Fターム(参考)】