説明

防火フィルムおよび防火ガラス

【課題】容易に経済的に防火対象物に防火性能を付与することができる。
【解決手段】樹脂系フィルム2の片面に、発泡性断熱材と弾力性付与材とを含み所定の含水率の発泡性断熱層3を一体に積層し、この発泡性断熱層3の樹脂系フィルム2と接していない側一面に剥離紙4を設けて防火フィルム1を形成する。そして、防火フィルム1の剥離紙4を剥がして、発泡性断熱層3側を、例えば既存建物のガラス窓やガラス扉、ガラス壁などのフロートガラスの両表面に貼り付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防火性能を付与するためにガラスなどの防火対象物の表面に貼り付ける防火フィルムおよび防火フィルムを貼り付けて構成される防火ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、火災時の建物の焼損防止や避難の安全を確保するために建物の開口部の防火性能を向上させて、開口部を通しての火炎や煙の貫通を防ぐことが必要である。しかし、建物のガラス窓やガラス扉、またガラス壁等に多用されているフロートガラスは火災時に高温で加熱されると破壊し、火炎や煙の貫通を防ぐことができないという欠点があった。
そこで、網目状のワイヤをガラスに埋設し、ガラスにひび割れが生じてもワイヤによってガラスが保持されて脱落しないようにした網入りガラスや、純粋な無水珪酸のみを成分として形成された耐熱強化ガラスなどが建物のガラス窓やガラス扉、またガラス壁等に使用されている。また、ガラスが破壊した際に飛散しないように飛散防止フィルムなどをガラスに貼り付ける方法も行われている。
【0003】
しかし、網入りガラスや耐火強化ガラスは火災時に脱落しないものの、放射熱がガラスを透過して火災側から非火災側へ伝達して延焼が生じるおそれがあった。そして、網入りガラスはガラスに埋設されたワイヤが通常時のガラスの見栄えを悪くしている。また、飛散防止フィルムはガラスが割れた際に飛散を防止するもので耐熱性が低く遮炎には対応できていなかった。
そこで、複層ガラスの間に珪酸ソーダなどの透明の発泡性断熱材を配設して構成された防火ガラスが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。この防火ガラスにおいては、火災時に高温で加熱されると発泡性断熱材が発泡して遮炎性を発揮するため、特に非火災側のガラスが割れることを防止でき、火災の拡大を抑制することが可能になる。また、透明の発泡性断熱材が発泡すると共に、不透明に変化することで火災側から非火災側に放射熱が伝搬することを防止できて、非火災側への延焼を防ぎ、確実に火災の拡大を防止することが可能になる。
【特許文献1】特開昭57−183338号公報
【特許文献2】特開昭58−45141号公報
【特許文献3】特開平3−40944号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の防火ガラスでは以下のような問題があった。
既存の建物のフロートガラスに耐火性能を付与するには、既存のフロートガラスを全て耐火性能の高いガラスに交換しなければならなかった。耐火性能の高い網入りガラスや耐火強化ガラス、また特許文献1、2、3による防火ガラスは、フロートガラスに比べて非常に高価であり経済的な負担が大きく、ガラスの交換や運搬、また既存のフロートガラスの処分に要する労力もかかるという問題があった。
また、特許文献1、特許文献2、特許文献3による防火ガラスでは、複数のガラスと、隣り合うガラスの間に設けられた発泡性断熱材とを備えて構成されているため、その厚さは、例えば二十数ミリと大きくなり、既存の建物に配設された数ミリの単層のフロートガラスに換えて設置することが困難な場合もあった。
【0005】
本発明は、上述する事情に鑑みてなされたもので、容易に、また経済的にフロートガラスなどの防火対象物に防火性能を付与することができる防火フィルムおよびこの防火フィルムを貼り付けて構成される防火ガラスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る防火フィルムは、防火対象物の表面に貼り付けて防火対象物に防火性能を付与するための防火フィルムであって、発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む発泡性断熱層が樹脂系フィルムに積層されていることを特徴とする。
本発明では、防火フィルムは樹脂系フィルムに発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む発泡性断熱層が積層された構成なので、防火対象物に防火フィルムを貼り付けることで容易に防火性能を付与することができる。また、発泡性断熱層は弾力性付与材を含んでおり、防火フィルムは弾力性を有しているので、防火対象物への貼り付け作業や運搬が行い易い。
【0007】
また、本発明に係る防火フィルムでは、発泡性断熱材は珪酸ソーダであり、弾力性付与材は水酸化カリウム、または水酸化ナトリウム、または金属塩、またはこれらの混合物であることが好ましい。
本発明では、発泡性断熱材に安価な珪酸ソーダを使用し、弾力性付与材に水酸化カリウム、または水酸化ナトリウム、または金属塩、またはこれらの混合物を使用することにより、経済的に弾力性を有する防火フィルムを形成することができる。また、いずれも有機化合物でないため、防火性が高い。
【0008】
また、樹脂系フィルムは発泡性断熱層との接着面に易接着処理が施されていることが好ましい。
本発明では、樹脂系フィルムは発泡性断熱層との接着面に易接着処理が施されていることにより、樹脂系フィルムと発泡性断熱層の接着を容易に、また確実に行うことができて、防火フィルムの品質管理が行いやすい。
【0009】
また、本発明に係る防火ガラスでは、発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む発泡性断熱層が樹脂系フィルムに積層されている防火フィルムを、ガラスの表面に貼り付けて構成されていることを特徴とする。
本発明では、ガラスの表面に防火フィルムを貼り付けることで、防火性能の優れた防火ガラスを形成することができる。また、発泡性断熱層には弾力性付与材が含まれているので防火フィルムには弾力性があり、ガラス面への防火フィルムの貼り付けが行いやすいと共に、防火ガラスの品質が安定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、防火フィルムは、発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む発泡性断熱層が樹脂系フィルムに積層されているので、貼り付けることで容易に、また経済的に防火対象物へ防火性能を付与できる防火フィルムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態による防火フィルムおよび防火ガラスについて、図1および図2に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態による防火フィルムの一例を示す図、図2は本発明の実施の形態による防火ガラスの一例を示す図である。
【0012】
図1に示すように、本実施の形態による防火フィルム1は、樹脂系フィルム2の片面に所定の含水率の発泡性断熱層3を一体に積層し、発泡性断熱層3の樹脂系フィルム2と接していない側の面3aに剥離紙4が設けられた構成である。そして、図2に示すように、本実施の形態による防火ガラス10は、剥離紙4が剥がされた防火フィルム1の発泡性断熱層3側の面3aがフロートガラスGの両表面G1、G2に貼り付けられた構成である。
【0013】
樹脂系フィルム2は、透明または色付きのフィルムシートであり、例えばポリエステルなどで形成されている。また、樹脂系フィルム2の厚さは、フロートガラスGへの貼り付け時の作業性が悪くならないように、例えば0.075mm程度で0.1mm未満とするのが好ましい。樹脂系フィルム2は、通常時に発泡性断熱層3を保護し、発泡性断熱層3の保水の役割も果たす。火災時には、100〜150℃ほどで溶融する。
樹脂系フィルム2は発泡性断熱層3と密着するように、その表面にコロナ放電処理などの易接着処理がされている。
【0014】
発泡性断熱層3は、発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む構成で、本実施の形態では発泡性断熱材は珪酸ソーダ(珪酸ナトリウム)とし、弾力性付与材は水酸化カリウムおよび金属塩の硼砂とする。発泡性断熱層3は、粉末珪酸ソーダと水酸化カリウムと硼砂と水とを基材とした透明の珪酸ソーダ層である。発泡性断熱層3は1mm前後の厚みとし、この厚みは要求される防火性能によって調整可能である。発泡性断熱層3の含水率は、例えば50%〜60%程度を中心に40%から70%程度とするのが好ましい。
珪酸ソーダは、100℃前後の温度で加熱されると発泡して断熱性を発揮し、発泡すると共に透明の珪酸ソーダが不透明に変化し、厚みを増大させる。水酸化カリウムと硼砂は珪酸ソーダ層へ弾力性を付与するものである。
また、弾力性付与材として、水酸化カリウム、または水酸化ナトリウム、または硼砂などの金属塩、またはこれらの混合物を採用することができる。
【0015】
また、発泡性断熱層3に含まれる珪酸ソーダ、水酸化カリウムおよび硼砂の調合は、調合のモル比Aを下記のような式(1)から設定する。
A={SiO /[SiO ]}/{Na O/[Na O]+X/[X]+Y/[Y]} ・・・(1)
ここで、珪酸ソーダはSiO(二酸化ケイ素)とNa O(酸化ナトリウム)に分けて設定され、Xは水酸化カリウム、Yは硼砂とし、SiO 、Na O、X、Yはそれぞれの重量(g)または重量比(%)を示し、[SiO ]、[Na O]、[X]、[Y]はそれぞれの式量を表す。モル比Aは2.2〜2.3を中心に2.0〜3.0程度となるように設定される。
【0016】
剥離紙4は、例えばポリエステルやポリオレフィンなどから形成されるフィルムシートで、その厚みは0.045mm〜0.075mm程度の0.1mm以下とするのが好ましい。剥離紙4は、使用前の防火フィルム1の発泡性断熱層3を保護するもので、発泡性断熱層3の保水の役割も果たす。
【0017】
上記のように構成された本実施の形態による防火フィルム1による防火対象物への防火性能の付与方法は、防火フィルム1の剥離紙4を剥がして防火対象物へ貼り付けて行う。例えば、図2に示すように、フロートガラスGの両表面G1、G2に防火フィルム1が貼り付けられて防火性能が付与された防火ガラス10が形成される。
このとき、防火フィルム1は、表面G1、G2に散水されたフロートガラスGに水貼りされる。そして、発泡性断熱層3は防火フィルム1をフロートガラスGに接着させるための接着剤の役割をする。
フロートガラスGは、既存建物のガラス窓やガラス扉、ガラス壁などの既設のフロートガラスである。
なお、防火ガラス10では、フロートガラスGの両表面G1、G2にそれぞれ防火フィルム1を貼り付けているが、どちらか片面に貼り付けてもよい。
【0018】
次に、上述した防火フィルムおよび防火ガラスの作用効果について図面を用いて説明する。
防火フィルム1は剥離紙4を剥がしてフロートガラスGに水貼りするだけで、フロートガラスGに防火性能を付与することができて、また発泡性断熱層3には弾力性付与材の水酸化カリウムおよび硼砂が含まれているので、弾力性を有して施工や運搬が行い易いという作用効果を奏する。また、既存のフロートガラスGを網入りガラスや耐熱強化ガラスなどへ交換する従来の方法に比べ、既存のフロートガラスGを交換せずに、安価な珪酸ソーダや樹脂系フィルム2で形成された防火フィルム1を既存のフロートガラスGに貼り付けることで防火性能を付与できるので、コストや労力を低減することができる

【0019】
そして、火災時には、フロートガラスGよりも先に火災側の防火フィルム1が加熱されて100℃前後の温度に達すると、樹脂系フィルム2は溶融し、発泡性断熱層3は発泡してその厚さを増大させて遮炎性および癒着性を発揮しはじめる。このように、100℃前後で発泡性断熱層3は発泡し始めて、樹脂系フィルム2は溶融するため、樹脂系フィルム2が発泡性断熱層3の発泡に支障をきたすことがなく、確実に発泡性断熱層3は発泡で遮炎性および癒着性を発揮することができる。
【0020】
また、火災側から800℃近い高温で加熱された場合においても、発泡した発泡性断熱層3により熱が遮断され、フロートガラスGに破損が生じることが抑制される。この一方で、800℃近い高温で長時間継続的に加熱された場合には、フロートガラスGにひび割れが生じるおそれがあるが、フロートガラスGの表面G1、G2に発泡性断熱層3が癒着し、且つその発泡によって発泡性断熱層3がひび割れに入り込むことによって、フロートガラスGの脱落が確実に防止される。このとき、発泡性断熱層3が発泡と共に透明から不透明に変化することによって、放射熱が遮断され、非火災側に延焼が生じることも防止される。このように、火炎や煙、放射熱が確実に遮断され、非火災側に火災が拡大することを抑制できる。
また、防火フィルム1には有機物が含まれていない構成なので、防火性能を高めることができる。
【0021】
また、通常時には、外面側に配された樹脂系フィルム2によって発泡性断熱層3が外部の衝撃から保護されると共に、好適な保水状態で保持される。これにより、発泡性断熱層3は発泡性能が長期に亘って確実に維持されて、樹脂系フィルム2によって発泡性断熱層3が機能劣化を生じることがないように保護される。
さらに、防火フィルム1が透明であるため、従来の網入りガラスのようにガラスに埋設した網目状のワイヤが見えてしまい建物のガラス窓、ガラス扉、ガラス壁などに求められる空間の開放感や空間同士の連続感などを損なうようなこともなく、好適にフロートガラスGに防火性能を付与することが可能になる。また、防火フィルム1は、フロートガラスGの表面G1、G2を被覆するように貼り付けられることで、火災時の防火性能のみならず、地震発生時などフロートガラスGが割れた場合に、このフロートガラスGの飛散を防止することができる。
【0022】
ここで、図3に示すような、幅1.2m、高さ3.0mの防火ガラス20を形成し、この防火ガラス20にISO834による標準加熱試験を行った。
防火ガラス20は、図2に示す防火ガラス10と同様の構造で、厚さ6mmのフロートガラスGの両面に発泡性断熱層3の厚みが1mmの防火フィルム1が貼り付けられている構成である。そして、防火ガラス20の非火災側の防火フィルム1表面の温度計測点P1〜P10にて時間の経過と共に温度を計測した。
図4(a)では加熱時の炉内温度の変化を示し、図4(b)では各温度計測点の温度変化を示す。図4では、炉内の4つの異なる高さごとに4箇所ずつ計16箇所の測定点での温度変化を示している。
また、目視によって、防火ガラス10の非火災側へ火煙の噴出が無いことや、防火ガラスの脱落が防止されていることを確認した。
【0023】
図4(b)に示すように、温度計測点P1〜P10の温度は、加熱後の20分まで、概ね100℃程度であり、このことからも防火ガラス10の非火災側へ火煙の噴出がないことがわかり、延焼の危険性が極めて小さいことがわかる。つまり、発泡性断熱層3の厚さが1mmあると少なくとも20分は、火煙の噴出や防火ガラス10の脱落を防止することが可能であることがわかる。
【0024】
以上、本発明による防火フィルムおよび防火ガラスの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した実施の形態では、発泡性断熱材を珪酸ソーダとしているが、珪酸ソーダに代わって、例えば窒素りん酸化合物などの火災時の加熱によって発泡し、断熱性を発揮するものとしてもよい。また、上述した実施の形態では、弾力性付与材を水酸化カリウムと硼砂としているが、水酸化カリウムや硼砂に代えて水酸化ナトリウムや、硼砂以外の金属塩としてもよい。あるいはこれらの任意の1種、または任意の2種以上を含む混合物でもよい。
また、上記の実施の形態では、既存の建物のフロートガラスGに防火フィルム1を貼り付けているが、新設のフロートガラスGへ防火フィルム1を貼り付けてもよく、また、フロートガラスG以外の防火対象物に防火フィルム1を貼り付けてもよい。また、工場などで予め形成された防火ガラス10を既存や新設の建物などに取り付けてもよい。また、防火フィルム1には必ずしも剥離紙4が備えられていなくてもよい。
要は、本発明において所期の機能が得られればよいのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態による防火フィルムの一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態による防火ガラスの一例を示す図である。
【図3】標準加熱試験を行った防火ガラスと温度計測点を示す図である。
【図4】(a)は標準加熱試験時の炉内温度を示す図、(b)は図3に示す温度計測点の温度変化を示す図である。
【符号の説明】
【0026】
1 防火フィルム
2 樹脂系フィルム
3 発泡性断熱層
4 剥離紙
10、20 防火ガラス
G フロートガラス
G1、G2 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防火対象物の表面に貼り付けて前記防火対象物に防火性能を付与するための防火フィルムであって、
発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む発泡性断熱層が樹脂系フィルムに積層されていることを特徴とする防火フィルム。
【請求項2】
前記発泡性断熱材は珪酸ソーダであり、前記弾力性付与材は水酸化カリウム、または水酸化ナトリウム、または金属塩、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の防火フィルム。
【請求項3】
前記樹脂系フィルムは発泡性断熱層との接着面に易接着処理が施されていることを特徴とする請求項1または2に記載の防火フィルム。
【請求項4】
発泡性断熱材と弾力性付与材とを含む発泡性断熱層が樹脂系フィルムに積層されている防火フィルムを、ガラスの表面に貼り付けて構成されていることを特徴とする防火ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−143061(P2010−143061A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322350(P2008−322350)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】