防眩フィルムの製造方法、防眩フィルムおよび金型の製造方法
【課題】優れた防眩性能を示しながら、白ちゃけによる視認性の低下を防止でき、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができる防眩フィルムの製造方法、ならびに、当該製造方法において好適に用いられる金属金型の製造方法を提供する。
【解決手段】2種以上のセグメントからなるブロック共重合体をモデルとして、計算機シミュレーションによりブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算する工程と、該ミクロ相分離構造に基づいて、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを作成する工程と、該ミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に凹凸表面を形成する工程とを含む防眩フィルムの製造方法、および当該製造方法において好適に用いられる金属金型の製造方法を提供する。
【解決手段】2種以上のセグメントからなるブロック共重合体をモデルとして、計算機シミュレーションによりブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算する工程と、該ミクロ相分離構造に基づいて、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを作成する工程と、該ミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に凹凸表面を形成する工程とを含む防眩フィルムの製造方法、および当該製造方法において好適に用いられる金属金型の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩(アンチグレア)フィルムの製造方法および当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、ブラウン管(陰極線管:CRT)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの画像表示装置は、その表示面に外光が映り込むと視認性が著しく損なわれてしまう。従来、このような外光の映り込みを防止するために、画質を重視するテレビやパーソナルコンピュータ、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラやデジタルカメラ、および反射光を利用して表示を行なう携帯電話などにおいては、画像表示装置の表面に外光の映り込みを防止するためのフィルム層が設けられている。このフィルム層は、光学多層膜による干渉を利用した無反射処理が施されたフィルムからなるものと、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかす防眩処理が施されたフィルムからなるものとに大別される。前者の無反射フィルムは、均一な光学膜厚の多層膜を形成する必要があるため、コスト高になる。これに対して、後者の防眩フィルムは、比較的安価に製造することができるため、大型のパーソナルコンピュータやモニタなどの用途に広く用いられている。
【0003】
このような防眩フィルムは従来、たとえば、微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に膜厚を調整して塗布し、該微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな表面凹凸を基材シート上に形成する方法などにより製造されている。しかしながら、このような微粒子を分散させた樹脂溶液を用いて製造された防眩フィルムは、樹脂溶液中の微粒子の分散状態や塗布状態などによって表面凹凸の配置や形状が左右されてしまうため、意図したとおりの表面凹凸を得ることが困難であり、防眩フィルムのヘイズを低く設定する場合、十分な防眩効果が得られないという問題があった。さらに、このような従来の防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した場合、散乱光によって表示面全体が白っぽくなり、表示が濁った色になる、いわゆる「白ちゃけ」が発生しやすいという問題があった。また、最近の画像表示装置の高精細化に伴って、画像表示装置の画素と防眩フィルムの表面凹凸形状とが干渉し、その結果、輝度分布が発生して表示面が見えにくくなる、いわゆる「ギラツキ」現象が発生しやすいという問題もあった。ギラツキを解消するために、バインダー樹脂とこれに分散される微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させる試みもあるが、そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂との界面における光の散乱によって、コントラストが低下しやすいという問題もあった。
【0004】
一方、微粒子を含有させずに、透明樹脂層の表面に形成された微細な凹凸だけで防眩性を発現させる試みもある。たとえば、特開2002−189106号公報(特許文献1)には、透明樹脂フィルム上に、三次元10点平均粗さ、および、三次元粗さ基準面上における隣接する凸部同士の平均距離が、それぞれ所定値を満足する微細な表面凹凸を有する電離放射線硬化性樹脂層の硬化物層が積層された防眩フィルムが開示されている。この防眩フィルムは、エンボス鋳型と透明樹脂フィルムとの間に電離放射線硬化性樹脂を挟んだ状態で、当該電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより製造される。しかしながら、特許文献1に開示される防眩フィルムによっても、十分な防眩効果、白ちゃけの抑制、高コントラスト、およびギラツキの抑制を達成することは難しかった。
【0005】
また、表面に微細な凹凸が形成されたフィルムを作製する方法として、凹凸表面を有するロールの凹凸形状をフィルムに転写する方法が知られている。このような凹凸表面を有するロールの作製方法として、たとえば、特開平6−34961号公報(特許文献2)には、金属などを用いて円筒体を作り、その表面に電子彫刻、エッチング、サンドブラストなどの手法により凹凸を形成する方法が開示されている。また、特開2004−29240号公報(特許文献3)には、ビーズショット法によってエンボスロールを作製する方法が開示されており、特開2004−90187号公報(特許文献4)には、ロールの表面に金属めっき層を形成する工程、金属めっき層の表面を鏡面研磨する工程、さらに必要に応じてピーニング処理をする工程を経て、エンボスロールを作製する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このようにエンボスロールの表面にブラスト処理を施したままの状態では、ブラスト粒子の粒径分布に起因する凹凸径の分布が生じるとともに、ブラストにより得られるくぼみの深さを制御することが困難であり、防眩機能に優れた凹凸の形状を再現性よく得ることに課題があった。
【0007】
また、上述した特許文献1には、好ましくは鉄の表面にクロムめっきしたローラを用い、サンドブラスト法やビーズショット法により凹凸型面を形成することが記載されている。さらに、このように凹凸が形成された型面には、使用時の耐久性を向上させる目的で、クロムめっきなどを施してから使用することが好ましく、それにより硬膜化および腐食防止を図ることができる旨の記載もある。一方、特開2004−45471号公報(特許文献5)、特開2004−45472号公報(特許文献6)のそれぞれの実施例には、鉄芯表面にクロムめっきし、#250の液体サンドブラスト処理をした後に、再度クロムめっき処理して、表面に微細な凹凸形状を形成することが記載されている。
【0008】
しかしながら、このようなエンボスロールの作製法では、硬度の高いクロムめっきの上にブラストやショットを行なうため、凹凸が形成されにくく、しかも形成された凹凸の形状を精密に制御することが困難であった。
【0009】
特開2000−284106号公報(特許文献7)には、基材にサンドブラスト加工を施した後、エッチング工程および/または薄膜の積層工程を施すことが記載されている。また、特開2006−53371号公報(特許文献8)には、基材を研磨し、サンドブラスト加工を施した後、無電解ニッケルめっきを施すことが記載されている。また、特開2007−187952号公報(特許文献9)には、基材に銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、クロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。さらに、特開2007−237541号公報(特許文献10)には、銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、エッチング工程または銅めっき工程を施した後にクロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。これらのサンドブラスト加工を用いる製法では、表面凹凸形状を精密に制御された状態で形成することが難しいため、表面凹凸形状に50μm以上の周期を持つ比較的大きい凹凸形状も作製されてしまう。その結果、それらの大きい凹凸形状と画像表示装置の画素とが干渉し、輝度分布が発生して表示面が見にくくなる、いわゆるギラツキが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−189106号公報
【特許文献2】特開平6−34961号公報
【特許文献3】特開2004−29240号公報
【特許文献4】特開2004−90187号公報
【特許文献5】特開2004−45471号公報
【特許文献6】特開2004−45472号公報
【特許文献7】特開2000−284106号公報
【特許文献8】特開2006−53371号公報
【特許文献9】特開2007−187952号公報
【特許文献10】特開2007−237541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができる防眩フィルムを製造するための方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数の同種単量体単位の集合であるセグメントを構成単位とし、異種の単量体単位から構成された2種以上のセグメントからなるブロック共重合体をモデルとして、計算機シミュレーションにより当該ブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算する工程と、得られたミクロ相分離構造に基づいて、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを作成する工程と、作成されたミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に凹凸表面を形成する工程とを含む防眩フィルムの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の防眩フィルムの製造方法においては、計算機シミュレーションの長さの単位を調整することにより、ミクロ相分離パターンのエネルギースペクトルが有する極大値の位置が、空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内に制御される。また、該凹凸表面を形成する工程において、凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに対応するように形成されることが好ましい。
【0014】
ミクロ相分離パターンは、ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに着目して、階調を有する画像データとして作成することができる。この場合、上記凹凸表面を形成する工程において、凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離パターンの階調に対応するように形成される。ミクロ相分離パターンは、0と1に二値化された画像データであってもよく、この場合、上記凹凸表面を形成する工程において、凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離パターンの0である領域に対応するように形成される。
【0015】
本発明の防眩フィルムの製造方法において、上記計算機シミュレーションは、2次元系の計算機シミュレーションであることが好ましい。
【0016】
モデルとされるブロック共重合体は、第1のセグメントおよび該第1のセグメントを構成する単量体単位とは異種の単量体単位から構成された第2のセグメントを構成単位とする2元ブロック共重合体であることが好ましい。また、当該2元ブロック共重合体を構成する第1のセグメントの数と第2のセグメントの数とは同じであることが好ましい。
【0017】
本発明の防眩フィルムの製造方法において、上記計算機シミュレーションは、結合揺動法を用いて行なわれることが好ましい。
【0018】
上記凹凸表面を形成する工程は、上記ミクロ相分離パターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製し、該金型の凹凸面を透明基材上に転写する工程を含むことが好ましい。
【0019】
また本発明は、上記本発明の防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供する。本発明の金型の製造方法は、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、研磨された面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、感光性樹脂膜上に上記ミクロ相分離パターンを露光する露光工程と、ミクロ相分離パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行ない、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程とを含む。
【0020】
本発明の金型の製造方法は、感光性樹脂膜剥離工程と第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面の凹凸形状をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。
【0021】
第2めっき工程におけるクロムめっきにより形成されるクロムめっき層は、1〜10μmの厚みを有することが好ましい。また、第2めっき工程において形成されるクロムめっきが施された凹凸面が、透明基材上に転写される金型の凹凸面であることが好ましい。すなわち、第2めっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま透明基材上に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現する防眩フィルムを再現性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】2種以上のセグメントから構成されるブロック共重合体を模式的に例示する図である。
【図2】2次元平面の計算機シミュレーションによって計算されたセグメントAおよびBからなる2元ブロック共重合体のミクロ相分離構造の例を示す図である。
【図3】結合揺動法におけるブロック共重合体のモデルを説明するための図である。
【図4】結合揺動法における制約条件を満たすように多数の2元ブロック共重合体が配置された状態の一例を示す図である。
【図5】結合揺動法においてブロック共重合体のセグメントを変位させる際の制約条件[I]および[II]の充足性を説明するための図である。
【図6】結合揺動法においてブロック共重合体のセグメントを変位させたときに生じ得る系のポテンシャルエネルギー変化を説明するための図である。
【図7】総セグメント数2の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図8】総セグメント数4の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図9】総セグメント数8の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図10】総セグメント数16の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図11】図7に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図12】図8に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図13】図9に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図14】図10に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図15】本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
【図16】本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
【図17】第1エッチング工程においてサイドエッチングが進行する状態を模式的に示す図である。
【図18】第1エッチング工程によって形成された凹凸面が第2エッチング工程によって鈍る状態を模式的に示す図である。
【図19】比較例1に用いたパターンを示す図である。
【図20】実施例1、実施例2および比較例1に用いたパターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<防眩フィルムの製造方法>
本発明の防眩フィルムの製造方法は、計算機シミュレーションを行なうことにより得られたブロック共重合体のミクロ相分離構造に基づいて、当該ミクロ相分離構造が反映されたパターン(ミクロ相分離パターン)を作成し、このパターンを用いて透明基材上に微細な凹凸表面(微細凹凸表面)を形成することを特徴とする。ここで、「パターン」とは、典型的には、防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するために用いられる、計算機によって作成された2階調または3階調以上のグラデーションからなる画像データを意味するが、これに限定されるものではなく、当該画像データへ一義的に変換可能なデータ(行列データなど)も含み得る。画像データへ一義的に変換可能なデータとしては、各画素の座標および階調のみが保存されたデータなどが挙げられる。
【0025】
まず、計算機シミュレーションにより得られるブロック共重合体のミクロ相分離構造に基づいて作成されるミクロ相分離パターンを用いることの意義について説明する。一般的に、異種の高分子(異種のホモポリマー)は互いに非相溶であるため、異種の高分子を混合した濃厚溶液もしくは溶融体は巨視的な相分離を示す一方、2種以上の単量体から形成され、同種の単量体がある程度連続し、ブロック的な配列をとるブロック共重合体においては、異種の高分子鎖が化学的に結合しているため、巨視的な相分離は発生せず、同種の高分子鎖同士が各々独立して凝集するミクロ相分離構造を示す。ブロック共重合体のミクロ相分離構造は、ブロック共重合体を構成する、同種の単量体から形成される各高分子鎖の組成、各高分子鎖の長さ、および系の温度等に依存して、たとえば海島構造、ラメラ構造、共連続構造等の構造を示すことが知られている。
【0026】
このように、ブロック共重合体のミクロ相分離構造は、異種の高分子鎖が化学的に結合しているため、巨視的には均一でありながら、各高分子鎖の長さ程度の距離では異種の高分子鎖が分離しているという特徴を有している。ミクロ相分離構造における相関長、すなわち同種の高分子鎖同士が凝集している領域の大きさおよび同種の高分子鎖同士が凝集している領域間の距離は、各高分子鎖の組成、各高分子鎖の長さ、系の温度等に依存して決まるため、それらの条件を適切に選定すれば、所定の相関長を有するミクロ相分離構造を得ることが可能である。
【0027】
ここで、防眩フィルムの微細凹凸表面は、防眩フィルムの微細凹凸表面によって発生するギラツキを抑制するという観点から、50μmを超える長周期成分を含まないことが好ましい。一方、10μm未満の短周期成分のみを含む微細凹凸表面では、映り込み防止効果などの防眩効果を十分に発現できない。したがって、防眩フィルムの微細凹凸表面は、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキを十分に抑制するために、10〜50μmの周期を有する表面形状を主成分として含むことが好ましい。
【0028】
上述したように、ブロック共重合体のミクロ相分離構造は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するという特性を示す。したがって、ブロック共重合体のミクロ相分離構造から得られるパターンを用いて微細凹凸表面を形成すれば、ミクロ相分離構造の上記特性が反映される結果、特定範囲に限定された周期を有する表面形状を主成分として含む微細凹凸表面を形成することが可能となる。しかしながら、現実のブロック共重合体を用いた系では、ブロック共重合体の長さが大きくても1μm程度であり、かつ、そのような巨大なブロック共重合体を用いた場合、均一なミクロ相分離構造を形成するためには長時間を要するため、目標とする10〜50μmの周期を有する微細凹凸表面を形成するためのパターンを作成することは容易ではない。
【0029】
現実のブロック共重合体を用いる場合の上記課題は、本発明に従う計算機シミュレーションによってミクロ相分離構造を計算する方法によって解決できる。すなわち、本発明に従い、計算機シミュレーションによりブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算し、得られたミクロ相分離構造に基づいてミクロ相分離パターンを作成し、作成されたミクロ相分離パターンを用いて透明基材上に微細凹凸表面を形成すれば、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を示すというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性が反映された微細凹凸表面を作成することができ、しかも、計算機シミュレーションにおいては長さの単位はパラメータとして設定することが可能であるため、計算機シミュレーションよりミクロ相分離構造を作成した後、計算機シミュレーションの長さの単位を適切に設定してミクロ相分離パターンを作成すれば、微細凹凸表面を構成する主な表面形状の周期を目標とする10〜50μmの範囲内に精度良く制御することができる。このようにして得られた防眩フィルムの微細凹凸表面は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有しているため、特定の空間周波数分布を示すようになり、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができるという優れた光学特性を示すこととなる。
【0030】
以下、本発明の防眩フィルムの製造方法に係る好適な実施形態について、各工程ごとに詳細に説明する。
【0031】
〔1〕計算機シミュレーションによるミクロ相分離構造の計算
本工程では、ブロック共重合体の濃厚溶液または溶融体の計算機シミュレーションによってミクロ相分離構造を計算する。濃厚溶液または溶融体を想定して計算機シミュレーションを行なうのは、実質的に溶媒の影響を排除してシミュレーションを行なうことが可能となるため、計算負荷を低減できるとともに、所望の特性を示すミクロ相分離構造が構築されやすいためである。
【0032】
計算機シミュレーションに供されるブロック共重合体としては、複数の同種単量体単位の集合であるセグメントを構成単位とし、異種の単量体単位から構成された2種以上のセグメントからなるブロック共重合体モデルが用いられる。このように、複数の同種単量体単位を1つのセグメントとみなしてシミュレーションを行なうことにより、計算負荷を低減することができる。上記ブロック共重合体モデルとしては、たとえば、図1を参照して、セグメントAおよびBの2種のセグメントからなる(セグメントAから構成される高分子鎖とセグメントBから構成される高分子鎖とをブロック的に配列した)2元ブロック共重合体;さらにセグメントCを含む(さらにセグメントCから構成される高分子鎖を連結した)3元ブロック共重合体;さらにセグメントDを含む(さらにセグメントDから構成される高分子鎖を連結した)4元ブロック共重合体などを挙げることができる。なお、図1において、A、B、C、Dはそれぞれ、異種の単量体単位から構成された異種のセグメントである。
【0033】
ブロック共重合体モデルに含まれる2種以上のセグメントの各セグメント数は特に制限されず、それぞれ1以上あればよい。各セグメントのセグメント数の上限は特に制限されないが、計算負荷を考慮すると、50以下とすることが好ましく、20以下とすることがより好ましい。図1に示される2元ブロック共重合体において、セグメントAおよびBのセグメント数はともに6である。
【0034】
上述のように、計算機シミュレーションに供されるブロック共重合体は、2元あるいは3元以上のブロック共重合体であってよいが、3元以上のブロック共重合体を用いて計算する場合、系の自由度が増加するために、ミクロ相分離構造を制御する方法が複雑となる。したがって、計算機シミュレーションには、2元ブロック共重合体(第1のセグメントおよび第1のセグメントを構成する単量体単位とは異種の単量体単位から構成された第2のセグメントを構成単位とするブロック共重合体)を用いることが好ましい。
【0035】
また、第1のセグメントおよび第2のセグメントから構成される2元ブロック共重合体を用いる場合において、第1のセグメントのセグメント数と第2のセグメントのセグメント数は、同じであるか、または略同じであることが好ましい。このことは、第1のセグメントから構成される高分子鎖の長さと第2のセグメントから構成される高分子鎖の長さとが同じまたは略同じであることを意味する。これらの高分子鎖を同じかまたは略同じにすることにより、シミュレーションにより得られるミクロ相分離構造がラメラ相に近い構造を示すため、より安定した相関長を得ることができ、その結果、防眩フィルムの微細凹凸表面の周期を制御することが容易となる。
【0036】
図2は、2次元平面の計算機シミュレーションによって計算されたセグメントAおよびBからなる2元ブロック共重合体のミクロ相分離構造の例を示す図である。図2のミクロ相分離構造は、後述する結合揺動法を用いた計算機シミュレーションによって計算されたものである。図2に示した系の大きさは256a×256a(aは、計算機シミュレーションの長さの単位である)であり、セグメントAのセグメント数とセグメントBのセグメント数の合計は8であり、異種セグメント間の相互作用パラメータεは2とした。図2においては、計算されたミクロ相分離構造を明確に把握するために、セグメントAが存在する領域を白色で表示し、セグメントBが存在する領域を黒色で表示している。図2(a)〜(g)は、セグメントAのセグメント数と、セグメントBのセグメント数を変化させた場合のミクロ相分離構造を示しており、セグメントAのセグメント数とセグメントBのセグメント数との比は、それぞれ1/7、2/6、3/5、4/4、5/3、6/2、7/1である。図2(a)、(b)、(f)および(g)に示されるミクロ相分離構造では、セグメントBもしくはセグメントAの領域にセグメントAもしくはセグメントBが小さい凝集体を形成した海島構造を形成している。図2(c)、(d)および(e)に示されるミクロ相分離構造においては、セグメントAおよびセグメントBがそれぞれ連続したラメラ構造に近い連続構造を形成している。このように、安定した相関長を得るためには、セグメントAから構成される高分子鎖の長さとセグメントBから構成される高分子鎖の長さとを同じかまたは略同じにすることが好ましいことがわかる。
【0037】
上記のような、セグメントを構成単位とするブロック共重合体モデルを用いた、ブロック共重合体の濃厚溶液もしくは溶融体の計算機シミュレーションの具体的手法としては、格子モデルを用いる方法(R.G.Larson, J.Chem.Phys.91,2479 (1989)、I.Carmesin and K.Kremer,Macromolecules 21,2819 (1988)、および、A.Hoffmann,J.U.Sommer,and A.Blumen,J.Chem.Phys.106,6709 (1997)参照);バネ・ビーズモデルを用いる方法(F.Tanaka,T.Koga,Bull.Chem.Soc,Jpn.74,201 (2001)参照);ギンズブルグ・ランダウ理論を用いる方法(R.Holyst and W.T.Gozdz,J.Chem.Phys.106,4773 (1997)参照)等の従来公知の方法を用いることができる。この中でも格子モデルを用いることが好ましく、格子モデルの中でも特に結合揺動法(Bond Fluctuation Model(BFM)とも呼ばれる)を用いて計算機シミュレーションを行なうことがより好ましい。これは、後述するように、微細凹凸表面を作製する際に使用するミクロ相分離パターンは、たとえばラスタ形式の画像データのように、離散的な座標に対応する階調を有する形式で作成することができ、この場合、離散的な座標に対するセグメントの存在の有無を計算する格子モデルによって計算機シミュレーションを行なえば、得られたミクロ相分離構造から直接的にミクロ相分離パターンを得ることができるためである。また、その中でも、結合揺動法は計算負荷が小さく自由度が高いため好ましい。
【0038】
また、ブロック共重合体の濃厚溶液もしくは溶融体の計算機シミュレーションによってミクロ相分離構造を計算する際には、2次元平面上(2次元系)の計算機シミュレーションによって計算を行なうことが好ましい。これは、実際に微細凹凸表面を作製する際に使用するミクロ相分離パターンは2次元平面のパターンであるためである。3次元空間での計算機シミュレーションによって3次元のミクロ相分離構造を計算し、得られた3次元のミクロ相分離構造の任意の断面から、2次元平面のミクロ相分離パターンを作成することも可能であるが、2次元平面上での計算機シミュレーションによって、2次元平面のミクロ相分離構造を計算し、2次元平面のミクロ相分離パターンを作成する方が、計算負荷が少ないため好ましい。
【0039】
以下では、本発明において好ましく用いられる結合揺動法による計算機シミュレーションを例に挙げ、その具体的な計算のアルゴリズムについて説明する。まず、図3を参照して、結合揺動法におけるブロック共重合体のモデルについて説明する。図3は、説明をわかりやすくするために、結合揺動法において用いられる系に、2元ブロック共重合体を1分子配置した場合を示している。ただし、実際のシミュレーションにおいては、1つの系に複数のブロック共重合体を配置してシミュレーションを行なう。図3に示されるように、結合揺動法においては、正方形、長方形等の外形形状を有し、縦横に等間隔に引かれた破線によって正方形の複数のマスに区分された系(破線の間隔aは、計算機シミュレーションの長さの単位に相当する)に、2種以上のセグメントからなるブロック共重合体が配置される。この際、系に配置されるブロック共重合体は、これを構成する1つのセグメントを、たとえば破線で形成されるマスを4つ占有する正方形で表し、ブロック共重合体分子内で隣り合うセグメント間(4つのマスを占有する正方形の中心間)を直線で結合したものとして表現する。図3に示されるブロック共重合体は、セグメント1(セグメント数5)と、これとは異種のセグメントであるセグメント2(セグメント数5)とから構成された2元ブロック共重合体であり、セグメント1およびセグメント2はともに、破線で形成されるマスを4つ占有する正方形として表現されている。また、隣り合うセグメント同士は、セグメントとしての正方形の中心間を結ぶ直線である結合3によって結合されている。図3において、セグメント2には、セグメント1との区別が明確となるよう、ドット状のハッチングを付している。
【0040】
次に、結合揺動法を用いた具体的な計算のアルゴリズムについて説明する。まず、複数のブロック共重合体を図3に示されるような系に配置する。配置されるブロック共重合体の数は、系の大きさ等に依存し特に限定されないが、一般的には、系の中でセグメントの占める割合(セグメントの占有率φ)が60〜90%となるように配置することが好ましく、70〜80%となるように配置することがより好ましい。セグメントの占有率φは、下記式:
φ(%)={(4a2nN)/(a2l2)}×100={(4nN)/l2}×100
に基づき計算することができる。上記式において、aは、計算機シミュレーションの長さの単位(破線の間隔)であり、lは系の一辺の格子数(マスの数)、Nはブロック共重合体1分子を構成するセグメントの総数、nは系の中に配置されるブロック共重合体の数である。たとえば図2の場合のように、l=256、N=8の場合には、nを1230〜1840とすることによって、φを60〜90%の範囲内とすることができる。なお、後述する図7〜10に示されるミクロ相分離パターンは、φ=78%となるようにブロック共重合体を配置して作成したものである。ここで、結合揺動法においては、ブロック共重合体の初期配置について、次の制約条件[I]および[II]が課される。
【0041】
[I]セグメントの中心間を結ぶ結合(図3における結合3)の長さLがそれぞれ下記式(1)を満たす。下記式(1)におけるaは、破線の間隔であり、計算機シミュレーションの長さの単位に相当する。
2a≦L≦131/2a (1)
[II]セグメントを重ねて配置することはできない(正方形として表現されたセグメントが、他のセグメントと、破線で形成された同じマスを占有できない)。
【0042】
図4に、上記制約条件[I]および[II]を満たすように複数(26分子)の2元ブロック共重合体を配置した状態の一例を示す。
【0043】
次に、系の中からランダムに1つのセグメント(着目したセグメントP)を選択し、そのセグメントPを1マス分ランダムに変位させる。すなわち、破線の交点上にあるセグメントPの中心を、隣り合ういずれかの破線の交点上にランダムに変位させる。ここで、当該変位においては、同様に、上記制約条件[I]および[II]が課される。上記式(1)における2a≦Lを満たすことは、結合されたセグメント同士が重ねて配置されないという条件を満たすことを意味し、L≦131/2aを満たすことは、セグメント間の結合の交差が生じないという条件を満たすことを意味する。すなわち、上記セグメントPの変位においては、セグメントの重なりが発生せず、セグメント間の結合に交差が生じないという排除体積が考慮される。
【0044】
図5は、ブロック共重合体のセグメントを変位させる際の制約条件[I]および[II]の充足性を説明するための図である。図5(a)は、変位前の状態を示す図であり、図5(b)〜図5(d)は、ランダムに選択されたセグメントPを1マス分ランダムに変位させた後の状態を示す図である。図5(b)に至る変位は、上記制約条件[I]および[II]を満たす。一方、図5(c)に至る変位は、長さが131/2aを超える結合を生じさせるため、制約条件[I]を満たさない。また、図5(d)に至る変位は、セグメントが重ねて配置されることとなるため、制約条件[II]を満たさない。
【0045】
また、セグメントPのランダム変位においては、上記制約条件[I]および[II]を満たした上で、さらに次の制約条件[III]または[IV]のいずれかが課される。すなわち、上記制約条件[I]および[II]を満たすランダム変位のうち、下記制約条件[III]を満たすか、または[IV]を満たす変位のみが採用される。
【0046】
[III]変位前後におけるポテンシャルエネルギーの差を計算したとき、ポテンシャルエネルギーの差が負もしくはゼロである。
【0047】
[IV]上記ポテンシャルエネルギーの差が正である場合において、確率的に変位の採用可否を決定する手法を適用し、当該手法によって変位が採用可と判断される。
【0048】
図3を参照して、セグメントPの変位前後におけるポテンシャルエネルギーの差を計算する方法について説明する。着目したセグメントPとは異種のセグメントが下記式(2):
2a≦r≦51/2a (2)
の条件を満たす範囲に配置されている場合、すなわち、図3を参照して、当該異種のセグメントの中心が図3の黒丸を付した破線の交点(格子点4)上に配置されている場合には、系のポテンシャルエネルギーが、このような条件を満たす当該異種のセグメント1個あたり、ΔE=εkBTだけ増加する。ここで、εはフローリー・ハギンズの格子理論のχパラメータに相当するものであり、異種高分子間の相互作用を示す無次元量パラメータである。εが大きいほど、異種高分子が相溶しにくい傾向を示す。したがって、εが大きいほど、セグメントPが異種のセグメントの近傍に変位した際のポテンシャルエネルギーが増加しやすくなるため、上記式(2)を満たす配置が採用されにくくなる。また、kBはボルツマン定数、Tは系の温度である。上記式(2)中のrは、着目したセグメントPの中心とこれとは異種のセグメントの中心との距離である。
【0049】
したがって、セグメントPの変位前後におけるポテンシャルエネルギーの差は、変位前における上記式(2)を満たすセグメントPとは異種のセグメントの数をmとし、変位後における上記式(2)を満たすセグメントPとは異種のセグメントの数をnとするとき、ΔE×(m−n)となる。たとえば、図5(a)から図5(b)への変位における変位前後のポテンシャルエネルギーの差は、m=1、n=1であるためゼロである。図6にはその他の変位の例について示している。図6(a)から図6(b)への変位における変位前後のポテンシャルエネルギーの差は、m=1、n=2であるためΔEである。また、図6(c)から図6(d)への変位における変位前後のポテンシャルエネルギーの差は、m=0、n=1であるためΔEである。
【0050】
上記制約条件[IV]における確率的に変位の採用可否を決定する方法としては、たとえばメトロポリスの方法が挙げられる。メトロポリスの方法では、0以上1未満の乱数xを計算によって発生させ、exp(−ΔE/kBT)が乱数xより大きければ変位を採用し、乱数xより小さければ変位を採用しない。
【0051】
以上のようにして、系の中からランダムに1つのセグメントを選択し、変位の採用の可否を決定するという計算機シミュレーションをモンテカルロ法によって定常状態に達するまで行なうことにより、ブロック共重合体の与えられたパラメータにおけるミクロ相分離構造を計算することができる。定常状態に達するまでの計算回数は、系の大きさ、ブロック共重合体の長さ等に依存するため、一概には言えないが、少なくとも10万回以上の計算を行なうことが好ましく、1000万回以上の計算を行なうことがより好ましい。
【0052】
なお、計算機シミュレーションを行なうにあたっては、系の境界条件には周期境界条件を用いることが好ましい。周期境界条件を用いれば、得られたミクロ相分離構造から作成されたミクロ相分離パターンの複数を繰り返し並べて作成した複合パターンを用いて、防眩フィルムを製造する場合であっても、各ミクロ相分離パターンに対応する微細凹凸表面間の連続性が確保され、防眩フィルムの光学特性に悪影響を与えることがない。
【0053】
〔2〕ミクロ相分離パターンの作成
ミクロ相分離パターンは、上述した計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離構造を画像データに変換することにより作成することができる。この際、たとえば、少なくとも1種類のセグメントの密度分布に着目し、密度の最小値を0とし、密度の最大値を255として256階調のグレースケールの画像データを作成すれば、256階調のミクロ相分離パターンが得られる。また、ミクロ相分離構造からミクロ相分離パターンを作成する際に、少なくとも1種類のセグメントの存在の有無に着目し、存在しない箇所を0とし、存在する箇所を1として二値化された画像データを作成すれば、二値化されたミクロ相分離パターンが得られる。さらに、少なくとも1種類のセグメントの密度分布に着目し、密度に適切な閾値を設定して、設定された閾値以下の箇所を0とし、設定された閾値より大きい箇所を1として、二値化された画像データを作成することによっても、二値化されたミクロ相分離パターンが得られる。ミクロ相分離パターンを二値化された画像データとして作成する方が、計算負荷を減少させることが可能であるため好ましい。
【0054】
上述したブロック共重合体の計算機シミュレーションにおいて、ギンズブルグ・ランダウ理論を用いる方法では、ミクロ相分離構造がそれぞれのセグメントの密度分布として得られるため、セグメントの密度分布に基づいてミクロ相分離パターンを作成する方法を用いることが好ましい。対して、結合揺動法を含む格子モデルを用いる方法やバネ・ビーズモデルを用いる方法においては、ミクロ相分離構造がそれぞれのセグメントの位置座標として得られるため、セグメントの存在の有無に着目して、ミクロ相分離パターンを作成する方法を用いることが好ましい。
【0055】
ミクロ相分離パターンである画像データは、ラスタ形式の画像データとして作成してもよいし、ベクトル形式の画像データとして作成してもよい。
【0056】
得られたミクロ相分離パターンである画像データに基づいて、後述する方法によって微細凹凸表面を有する防眩フィルムを作製すれば、当該微細凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離構造の少なくとも1種のセグメントに対応するように形成されるため、得られた防眩フィルムの微細凹凸表面は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有し、特定の空間周波数分布を示すようになる。その結果、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができるという優れた光学特性を示すこととなる。
【0057】
微細凹凸表面の凹部または凸部が、ミクロ相分離構造の少なくとも1種のセグメントに対応するように形成される場合とは、たとえば、次のような場合を挙げることができる。
1)ギンズブルグ・ランダウ理論を用いた計算機シミュレーションにより計算されたミクロ相分離構造に基づき、2種以上のセグメントのうち1つのセグメントの密度分布に着目して、当該密度分布に対応する256階調のミクロ相分離パターンを作成する。ついで、この256階調のパターンを用いて、256階調のマスクを作製し、得られたマスクを介して、光硬化性樹脂が塗布された透明基材上に全面露光を行なう。この場合、マスクの階調に応じて光硬化性樹脂の露光量が異なるため、現像した際に、その露光量に応じて、透明基材上に残存する光硬化性樹脂の量が変化した微細凹凸形状が形成される。
2)金型基材上にレジストを塗布した後に、上記256階調のパターンをレーザーで直描する。この状態で現像を行なうと、256階調のマスクが存在する金型基材が得られ、このマスクを介してエッチングを行なうことにより、マスクの階調に対応した凹凸を有する金型が得られる。この金型の凹凸面を透明基材上に転写することにより、マスクの階調に対応した凹部と凸部とからなる微細凹凸表面を有する防眩フィルムが得られる。
3)結合揺動法を用いた計算機シミュレーションにより計算されたミクロ相分離構造に基づき、2種以上のセグメントのうち1つのセグメントに着目して、当該着目したセグメントが存在しない箇所を0とし、存在する箇所を1として二値化されたミクロ相分離パターンを作成する。微細凹凸表面の凹部または凸部がミクロ相分離パターンの0の領域に対応するように微細凹凸表面を形成することにより、ミクロ相分離パターンの階調に対応した凹部と凸部とからなる微細凹凸表面を有する防眩フィルムが得られる。
【0058】
図7〜10に、2元ブロック共重合体のセグメント数N(2元ブロック共重合体を構成するセグメントの総数)とパラメータεを変化させたときのミクロ相分離パターンを示す。図7〜10に示されるミクロ相分離パターンは、第1のセグメントおよびこれとは異種の第2のセグメントからなる2元ブロック共重合体を用いて計算機シミュレーションによりミクロ相分離構造を計算し、第1のセグメントが存在する領域を0とし、その他の領域を1とした2値化された画像データである。第1のセグメントのセグメント数と第2のセグメントのセグメント数は同じである。系の大きさは256a×256aであり、12800000000万回の計算を行なって定常状態を得た。図7より、セグメント数Nが2の場合には、特にεが2以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。図8より、セグメント数Nが4の場合には、特にεが1.5以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。図9より、セグメント数Nが8の場合には、特にεが1.5以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。また、図10より、セグメント数Nが16の場合には、特にεが1以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。
【0059】
ここで、本発明において用いられるミクロ相分離パターンは、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すものである。このような空間周波数特性を示すミクロ相分離パターンに基づいて微細凹凸表面を形成することにより、防眩性能に優れるとともに、ギラツキおよび白ちゃけが抑制された視認性に優れる防眩フィルムを得ることが可能となる。
【0060】
ミクロ相分離パターンのエネルギースペクトルは、画像データとして得られたミクロ相分離パターンの階調に着目して、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数G(fx,fy)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは、画像データ面内の直交座標を表し(たとえば、x方向が画像データの横方向、y方向が画像データの縦方向である)、fxおよびfyはそれぞれ、x方向の空間周波数、y方向の空間周波数を表している。実際には、画像データの階調を示す二次元関数g(x,y)は、各画素毎の階調が離散的なデータ点の集合として得られるため離散関数である。よって、下記式(3)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数G(fx,fy)を計算し、離散関数G(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルが求められる。ここで、式(3)中のπは円周率、iは虚数単位である。また、Mはx方向の画素数であり、Nはy方向の画素数であり、lは−M/2以上M/2以下の整数であり、mは−N/2以上N/2以下の整数である。さらに、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の空間周波数間隔であり、式(4)および式(5)で定義される。式(4)および式(5)中のΔxおよびΔyはそれぞれ、x軸方向、y軸方向における水平分解能である。なお、画像データとして得られたミクロ相分離パターンにおいては、ΔxおよびΔyは、それぞれ1画素のx軸方向の長さおよびy軸方向の長さと等しい。すなわち、6400dpiの画像データとしてミクロ相分離パターンを作成した場合には、Δx=Δy=4μmであり、12800dpiの画像データとしてミクロ相分離パターンを作成した場合には、Δx=Δy=2μmである。
【0061】
【数1】
【0062】
上述のようにして作成されたミクロ相分離パターンにおいては、通常、エネルギースペクトルG2(fx,fy)は、横、縦、高さをそれぞれfx、fy、エネルギースペクトルG2(fx,fy)とする3次元グラフで表したとき、fx=0およびfy=0の原点を中心とする点対称となる。したがって、本発明において「エネルギースペクトルの極大値を示す空間周波数」は、エネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図(横軸が、空間周波数fyであり、縦軸がエネルギースペクトルである二次元グラフ)から求められる空間周波数とする。この二次元グラフにおいて、横軸の空間周波数fyは、エネルギースペクトルがfy=0に関しても対称であることから、空間周波数fyの絶対値とすることができる。
【0063】
なお、本発明において、「エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示す」とは、エネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図において、エネルギースペクトルが複数の極大値を有し、これらの極大値の1以上が空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内に位置する場合を含む。
【0064】
図11〜14は、それぞれ図7〜図10で得られたミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。横軸は、空間周波数を計算機シミュレーションの長さの単位で除したものである。図11より、セグメント数Nが2の場合には、特にεが2以上で、エネルギースペクトルが0.057/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.46〜2.28μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。図12より、セグメント数Nが4の場合には、特にεが1.5以上で、エネルギースペクトルが0.041/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.33〜1.64μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。図13より、セグメント数Nが8の場合には、特にεが1.5以上で、エネルギースペクトルが0.023/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.18〜0.92μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。また、図14より、セグメント数Nが16の場合には、特にεが1以上で、エネルギースペクトルが0.016/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.13〜0.64μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。
【0065】
このように、計算機シミュレーションの長さの単位aを適切に設定して、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンを作成し、作成されたミクロ相分離パターンを用いて、防眩フィルムの微細凹凸表面の凹部または凸部が、ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに対応するように微細凹凸表面を形成すれば、得られた防眩フィルムの微細凹凸表面は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有し、かつ、相関長が適切に設定されているため、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキおよび白ちゃけが十分に防止されるという優れた光学特性を示すこととなる。計算機シミュレーションの長さの単位aを、エネルギースペクトルが0.025μm-1より低い空間周波数位置に極大値を示すように設定する場合は、得られる防眩フィルムに周期が50μmを超える微細凹凸表面形状が形成されやすくなり、その結果、高精細の画像表示装置の表面に、得られた防眩フィルムを配置したときにギラツキが発生することとなる。また、計算機シミュレーションの長さの単位aを、エネルギースペクトルが0.125μm-1より高い空間周波数位置に極大値を示すように設定する場合は、得られる防眩フィルムの微細凹凸表面は10μm以下の短周期成分を多く含むようになり、優れた防眩性能が発現しない。
【0066】
ミクロ相分離パターンをラスタ形式の画像データとして作成する際には、計算機シミュレーションの長さの単位aが適切な値となるように、解像度を設定することにより、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを得ることができる。たとえば、結合揺動法においてa=2μmの場合には解像度は12800dpiであり、a=1μmの場合には解像度は25600dpiである。ベクトル形式の画像データとしてミクロ相分離パターンを作成する場合には、計算機シミュレーションの長さの単位aが適切な値となるように、縮尺を設定することにより、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを得ることができる。
【0067】
なお、計算機シミュレーションによってブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算するのではなく、現実のブロック共重合体を用いてミクロ相分離構造を形成し、これを写真に撮り、得られた画像データに対して拡大等の編集を施すことにより、ミクロ相分離パターンを得ることも可能であるが、現実のブロック共重合体を用いる場合には、安定したミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体の組成や温度条件などを探索するために多大な試行錯誤を要すること、および現実のブロック共重合体より得られたミクロ相分離構造からミクロ相分離パターンを得るためには、100nm以下の解像度を有する顕微鏡や散乱実験によって繰り返し観察を行ない、画像データを取得し、得られた画像データを多数並べて継ぎ目の無いミクロ相分離パターンを作成する必要がある。これらの労力に鑑みると、本発明に従う方法によりミクロ相分離パターンを作成することが望ましい。
【0068】
〔3〕ミクロ相分離パターンを用いた微細凹凸表面の形成
本工程において、上記したミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に微細凹凸表面を形成する。微細凹凸表面を構成する凹部または凸部は、ミクロ相分離構造の少なくとも1種のセグメントに対応する。たとえば、ミクロ相分離パターンが0と1に二値化された画像データである場合には、微細凹凸表面の凹部または凸部がミクロ相分離パターンの0の領域(または1の領域)に対応するように微細凹凸表面が形成される。微細凹凸表面の形成に用いるパターンは、2以上のミクロ相分離パターンを繰り返し並べて作成したパターンであってもよい。
【0069】
上記ミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に微細凹凸表面を形成する具体的方法としては、たとえば、印刷法、パターン露光法、エンボス法などを挙げることができる。印刷法では、たとえば、光硬化性樹脂もしくは熱硬化性樹脂を用いたフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などによって、上述したミクロ相分離パターンを透明基材上に印刷して作製した後、乾燥、または、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。また、パターン露光法では、光硬化性樹脂を透明基材上に塗布した後、上述したミクロ相分離パターンを用いたレーザーによる直描露光や、上述したミクロ相分離パターンを有するマスクを介しての全面露光により、パターン露光を行ない、必要に応じて現像した後、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。さらにエンボス法では、上述したミクロ相分離パターンを用いて微細凹凸表面を有する金型を製造し、製造された金型の凹凸面を透明基材上に転写し、次いで凹凸面が転写された透明基材を金型から剥がすことによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。ここで、本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造する観点から、エンボス法によって製造されることが好ましい。
【0070】
エンボス法としては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
【0071】
UVエンボス法は、透明基材の表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明基材上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明基材側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明基材を剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
【0072】
UVエンボス法を用いる場合、透明基材としては、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0073】
UVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されず、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
【0074】
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂からなる透明基材を加熱状態で金型に押し付け、金型の表面凹凸形状を透明基材に転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明基材としては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための透明基材としても好適に用いることができる。
【0075】
<防眩フィルム作製用の金型の製造方法>
以下では、本発明の防眩フィルムの製造方法に好適に用いることができる金型の製造方法について説明する。本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したミクロ相分離パターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、〔1〕第1めっき工程と、〔2〕研磨工程と、〔3〕感光性樹脂膜形成工程と、〔4〕露光工程と、〔5〕現像工程と、〔6〕第1エッチング工程と、〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と、〔8〕第2めっき工程を基本的に含むことが好ましい。図15は、本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図15には、各工程での金型の断面を模式的に示している。以下、図15を参照しながら、本発明の金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0076】
〔1〕第1めっき工程
本発明の金型の製造方法ではまず、金型に用いる基材の表面に、銅めっきまたはニッケルめっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。すなわち、鉄などの表面にクロムめっきを施した場合、あるいはクロムめっき表面にサンドブラスト法やビーズショット法などで凹凸を形成してから再度クロムめっきを施した場合には、表面が荒れやすく、細かいクラックが生じて、金型の表面の凹凸形状が制御しにくくなる。これに対して、まず、基材表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施しておくことにより、このような不都合をなくすことができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や巣などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきまたはニッケルめっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や巣に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきまたはニッケルめっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
【0077】
第1めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行なっても無電解めっきで行なってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
【0078】
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどに鑑み、めっき層厚みの上限は500μm程度までとすることが好ましい。
【0079】
本発明の金型の製造方法において、金型用基材の形成に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。取扱いの利便性から、軽量なアルミニウムを用いることがより好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
【0080】
また、金型用基材の形状は、当該分野において従来採用されている適宜の形状であってよく、たとえば、平板状のほか、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
【0081】
〔2〕研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する。当該工程を経て、基材表面は、鏡面に近い状態に研磨されることが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。図15(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきまたはニッケルめっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
【0082】
銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性がある。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
【0083】
〔3〕感光性樹脂膜形成工程
続く感光性樹脂膜形成工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した金型用基材7の研磨された表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。図15(b)には、金型用基材7の研磨された表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
【0084】
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては、たとえば、分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物等を用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂系やノボラック樹脂系等を用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0085】
これらの感光性樹脂を金型用基材7の研磨された表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましい。溶媒としては、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒等を使用することができる。
【0086】
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、およびカーテン塗布等の公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚さは乾燥後で1〜6μmの範囲とすることが好ましい。
【0087】
〔4〕露光工程
続く露光工程では、上述した階調パターンを上述した感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は、塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザー(波長:830nm、532nm、488nm、405nm等)、YAGレーザー(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザー(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザー(波長:193nm)、F2エキシマーレーザー(波長:157nm)等を用いることができる。
【0088】
本発明の金型の製造方法において、表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上記ミクロ相分離パターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましい。本発明の金型の製造方法においては、上記ミクロ相分離パターンを感光性樹脂膜上に精度良く露光するために、計算機によって作成された画像データであるミクロ相分離パターンに基づいて、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザー光によって、感光性樹脂膜上にパターンを描画することが好ましい。このようなレーザー描画を行なうに際しては印刷版作成用のレーザー描画装置を使用することができる。このようなレーザー描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)等が挙げられる。
【0089】
図15(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。よって、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。よって、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
【0090】
〔5〕現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
【0091】
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩、ピロール、ピペリジン等の環状アミン類などのアルカリ性水溶液;および、キシレン、トルエン等の有機溶剤等を挙げることができる。
【0092】
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
【0093】
図15(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図15(c)において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。図15(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図15(c)において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
【0094】
〔6〕第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材をエッチングし、研磨されためっき面に凹凸を形成する。図16は、本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図16(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い箇所13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い箇所13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い箇所13との境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い箇所13との境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることを、以下ではサイドエッチングと呼ぶ。図17に、サイドエッチングの進行を模式的に示した。図17の点線14は、エッチングの進行とともに変化する金型用基材の表面を段階に示している。
【0095】
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)等を用いて、金属表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法等によって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
【0096】
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムを適用した画像表示装置において白ちゃけが生じる虞がある。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0097】
〔7〕感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができて、pH、温度、濃度および浸漬時間等を変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
【0098】
図16(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスク12として使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜からなるマスク12を利用したエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成されている。
【0099】
〔8〕第2めっき工程
続いて、形成された凹凸面(第1の表面凹凸形状15)にクロムめっきを施すことによって、表面の凹凸形状を鈍らせる。図16(c)には、第1エッチング工程のエッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15にクロムめっき層16を形成することにより、第1の表面凹凸形状15よりも凹凸が鈍った表面(クロムめっきの表面17)が形成されている状態が示されている。
【0100】
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用する。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行なわれ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
【0101】
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。
【0102】
また、上述した特開2004−90187号公報などに開示されているようなめっき後の表面研磨も、やはり本発明では好ましくない。すなわち、第2のめっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま透明基材上に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
【0103】
このように本発明の金型の製造方法では、微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られる。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明基材上に転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0104】
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【0105】
また、本発明の金型の製造方法においては、上述した〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と〔8〕第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図18には、第2エッチング処理によって、金型用基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状18が形成された状態が示されている。
【0106】
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明基材上に転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0107】
本発明の金型の製造方法により得られる金型を用いることにより、微細凹凸表面形状が精度よく制御されて形成されるため、十分な防眩性を発現し、かつ、白ちゃけが発生せず、高精細な画像表示装置の表面に配置した際にもギラツキが発生せず、高いコントラストを示す防眩フィルムを得ることが可能となる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0109】
<実施例1>
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意する。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定する。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成する。ついで、図7(d)に示されるミクロ相分離パターンの複数を連続して繰り返し並べてなるパターンを感光性樹脂膜上にレーザー光によって露光し、現像する。レーザー光による露光、および現像はLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行なう。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用する。また、図7(d)において計算機シミュレーションの長さの単位aは2μmに設定する。
【0110】
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行なう。その際のエッチング量は7μmとなるように設定する。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行なう。その際のエッチング量は18μmとなるように設定する。その後、クロムめっき加工を行ない、金型Aを作製する。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定する。
【0111】
光硬化性樹脂組成物GRANDIC 806T(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製する。厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが10μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させる。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させる。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させる。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製する。
【0112】
<実施例2>
レーザー光によって露光するパターンとして、図8(d)に示されるミクロ相分離パターンを用いること以外は実施例1と同様にして金型Bを得る。得られる金型Bを用いること以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製する。図8(d)において計算機シミュレーションの長さの単位aは1μmに設定する。
【0113】
<比較例1>
レーザー光によって露光するパターンとして、図19に示したような直径が14μmであるドットをランダムに配置した二値化された画像パターンを用いること以外は実施例1と同様にして金型Cを得る。得られる金型Cを用いること以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムCを作製する。
【0114】
図20は、実施例1、実施例2および比較例1に用いたパターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す。実施例1で用いたミクロ相分離パターンは、空間周波数0.057μm-1に極大値を有しており、実施例2で用いたミクロ相分離パターンは、空間周波数0.078μm-1に極大値を有しており、比較例1で用いたパターンは、空間周波数0.047μm-1に極大値を有している。また、図20より、実施例1および実施例2で用いたミクロ相分離パターンは、0.025μm-1より低い空間周波数成分が、比較例1で用いたパターンよりも少なく、巨視的に均一であることが分かる。これより、本発明の方法によって作製される防眩フィルムAおよびBにおいては、微細凹凸表面の形成に用いたパターンが、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有し、かつ、相関長が適切に設定されているため、得られる微細凹凸表面も巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有することとなり、ギラツキが発生せず、十分な防眩性を示し、白ちゃけも発生しないものとなる。また、ヘイズも低いため、画像表示装置に配置した際にもコントラストの低下を引き起こすことが無い。対して、ミクロ相分離パターンを用いないパターンを用いて作製される防眩フィルムCは、パターンの低空間周波数成分がミクロ相分離パターンよりも大きいため、ランダムな長周期の微細凹凸表面を有することなり、ギラツキが発生するものとなる。
【0115】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0116】
A,B,C,D,1,2 セグメント、3 セグメントの中心間を結ぶ結合、P 着目したセグメント、4 セグメントPとは異種のセグメントが配置された際にポテンシャルの発生する格子点、7 金型用基材、8 研磨工程によって研磨された基材の表面、9 感光性樹脂膜、10 露光工程において露光された感光性樹脂膜、11 露光工程において露光されない感光性樹脂膜、12 マスク、13 マスクの無い箇所、14 エッチングによって段階的に形成される表面、15 第1エッチング工程後の基材表面(第1の表面凹凸形状)、16 クロムめっき層、17 クロムめっきの表面、18 第2エッチング工程後の基材表面(第2の表面凹凸形状)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、防眩(アンチグレア)フィルムの製造方法および当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル、ブラウン管(陰極線管:CRT)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(EL)ディスプレイなどの画像表示装置は、その表示面に外光が映り込むと視認性が著しく損なわれてしまう。従来、このような外光の映り込みを防止するために、画質を重視するテレビやパーソナルコンピュータ、外光の強い屋外で使用されるビデオカメラやデジタルカメラ、および反射光を利用して表示を行なう携帯電話などにおいては、画像表示装置の表面に外光の映り込みを防止するためのフィルム層が設けられている。このフィルム層は、光学多層膜による干渉を利用した無反射処理が施されたフィルムからなるものと、表面に微細な凹凸を形成することにより入射光を散乱させて映り込み像をぼかす防眩処理が施されたフィルムからなるものとに大別される。前者の無反射フィルムは、均一な光学膜厚の多層膜を形成する必要があるため、コスト高になる。これに対して、後者の防眩フィルムは、比較的安価に製造することができるため、大型のパーソナルコンピュータやモニタなどの用途に広く用いられている。
【0003】
このような防眩フィルムは従来、たとえば、微粒子を分散させた樹脂溶液を基材シート上に膜厚を調整して塗布し、該微粒子を塗布膜表面に露出させることでランダムな表面凹凸を基材シート上に形成する方法などにより製造されている。しかしながら、このような微粒子を分散させた樹脂溶液を用いて製造された防眩フィルムは、樹脂溶液中の微粒子の分散状態や塗布状態などによって表面凹凸の配置や形状が左右されてしまうため、意図したとおりの表面凹凸を得ることが困難であり、防眩フィルムのヘイズを低く設定する場合、十分な防眩効果が得られないという問題があった。さらに、このような従来の防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した場合、散乱光によって表示面全体が白っぽくなり、表示が濁った色になる、いわゆる「白ちゃけ」が発生しやすいという問題があった。また、最近の画像表示装置の高精細化に伴って、画像表示装置の画素と防眩フィルムの表面凹凸形状とが干渉し、その結果、輝度分布が発生して表示面が見えにくくなる、いわゆる「ギラツキ」現象が発生しやすいという問題もあった。ギラツキを解消するために、バインダー樹脂とこれに分散される微粒子との間に屈折率差を設けて光を散乱させる試みもあるが、そのような防眩フィルムを画像表示装置の表面に配置した際には、微粒子とバインダー樹脂との界面における光の散乱によって、コントラストが低下しやすいという問題もあった。
【0004】
一方、微粒子を含有させずに、透明樹脂層の表面に形成された微細な凹凸だけで防眩性を発現させる試みもある。たとえば、特開2002−189106号公報(特許文献1)には、透明樹脂フィルム上に、三次元10点平均粗さ、および、三次元粗さ基準面上における隣接する凸部同士の平均距離が、それぞれ所定値を満足する微細な表面凹凸を有する電離放射線硬化性樹脂層の硬化物層が積層された防眩フィルムが開示されている。この防眩フィルムは、エンボス鋳型と透明樹脂フィルムとの間に電離放射線硬化性樹脂を挟んだ状態で、当該電離放射線硬化性樹脂を硬化させることにより製造される。しかしながら、特許文献1に開示される防眩フィルムによっても、十分な防眩効果、白ちゃけの抑制、高コントラスト、およびギラツキの抑制を達成することは難しかった。
【0005】
また、表面に微細な凹凸が形成されたフィルムを作製する方法として、凹凸表面を有するロールの凹凸形状をフィルムに転写する方法が知られている。このような凹凸表面を有するロールの作製方法として、たとえば、特開平6−34961号公報(特許文献2)には、金属などを用いて円筒体を作り、その表面に電子彫刻、エッチング、サンドブラストなどの手法により凹凸を形成する方法が開示されている。また、特開2004−29240号公報(特許文献3)には、ビーズショット法によってエンボスロールを作製する方法が開示されており、特開2004−90187号公報(特許文献4)には、ロールの表面に金属めっき層を形成する工程、金属めっき層の表面を鏡面研磨する工程、さらに必要に応じてピーニング処理をする工程を経て、エンボスロールを作製する方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、このようにエンボスロールの表面にブラスト処理を施したままの状態では、ブラスト粒子の粒径分布に起因する凹凸径の分布が生じるとともに、ブラストにより得られるくぼみの深さを制御することが困難であり、防眩機能に優れた凹凸の形状を再現性よく得ることに課題があった。
【0007】
また、上述した特許文献1には、好ましくは鉄の表面にクロムめっきしたローラを用い、サンドブラスト法やビーズショット法により凹凸型面を形成することが記載されている。さらに、このように凹凸が形成された型面には、使用時の耐久性を向上させる目的で、クロムめっきなどを施してから使用することが好ましく、それにより硬膜化および腐食防止を図ることができる旨の記載もある。一方、特開2004−45471号公報(特許文献5)、特開2004−45472号公報(特許文献6)のそれぞれの実施例には、鉄芯表面にクロムめっきし、#250の液体サンドブラスト処理をした後に、再度クロムめっき処理して、表面に微細な凹凸形状を形成することが記載されている。
【0008】
しかしながら、このようなエンボスロールの作製法では、硬度の高いクロムめっきの上にブラストやショットを行なうため、凹凸が形成されにくく、しかも形成された凹凸の形状を精密に制御することが困難であった。
【0009】
特開2000−284106号公報(特許文献7)には、基材にサンドブラスト加工を施した後、エッチング工程および/または薄膜の積層工程を施すことが記載されている。また、特開2006−53371号公報(特許文献8)には、基材を研磨し、サンドブラスト加工を施した後、無電解ニッケルめっきを施すことが記載されている。また、特開2007−187952号公報(特許文献9)には、基材に銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、クロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。さらに、特開2007−237541号公報(特許文献10)には、銅めっきまたはニッケルめっきを施した後、研磨し、サンドブラスト加工を施した後、エッチング工程または銅めっき工程を施した後にクロムめっきを施してエンボス版を作製することが記載されている。これらのサンドブラスト加工を用いる製法では、表面凹凸形状を精密に制御された状態で形成することが難しいため、表面凹凸形状に50μm以上の周期を持つ比較的大きい凹凸形状も作製されてしまう。その結果、それらの大きい凹凸形状と画像表示装置の画素とが干渉し、輝度分布が発生して表示面が見にくくなる、いわゆるギラツキが発生しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−189106号公報
【特許文献2】特開平6−34961号公報
【特許文献3】特開2004−29240号公報
【特許文献4】特開2004−90187号公報
【特許文献5】特開2004−45471号公報
【特許文献6】特開2004−45472号公報
【特許文献7】特開2000−284106号公報
【特許文献8】特開2006−53371号公報
【特許文献9】特開2007−187952号公報
【特許文献10】特開2007−237541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができる防眩フィルムを製造するための方法を提供することである。また、本発明の他の目的は、当該防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、複数の同種単量体単位の集合であるセグメントを構成単位とし、異種の単量体単位から構成された2種以上のセグメントからなるブロック共重合体をモデルとして、計算機シミュレーションにより当該ブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算する工程と、得られたミクロ相分離構造に基づいて、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを作成する工程と、作成されたミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に凹凸表面を形成する工程とを含む防眩フィルムの製造方法を提供する。
【0013】
本発明の防眩フィルムの製造方法においては、計算機シミュレーションの長さの単位を調整することにより、ミクロ相分離パターンのエネルギースペクトルが有する極大値の位置が、空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内に制御される。また、該凹凸表面を形成する工程において、凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに対応するように形成されることが好ましい。
【0014】
ミクロ相分離パターンは、ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに着目して、階調を有する画像データとして作成することができる。この場合、上記凹凸表面を形成する工程において、凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離パターンの階調に対応するように形成される。ミクロ相分離パターンは、0と1に二値化された画像データであってもよく、この場合、上記凹凸表面を形成する工程において、凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離パターンの0である領域に対応するように形成される。
【0015】
本発明の防眩フィルムの製造方法において、上記計算機シミュレーションは、2次元系の計算機シミュレーションであることが好ましい。
【0016】
モデルとされるブロック共重合体は、第1のセグメントおよび該第1のセグメントを構成する単量体単位とは異種の単量体単位から構成された第2のセグメントを構成単位とする2元ブロック共重合体であることが好ましい。また、当該2元ブロック共重合体を構成する第1のセグメントの数と第2のセグメントの数とは同じであることが好ましい。
【0017】
本発明の防眩フィルムの製造方法において、上記計算機シミュレーションは、結合揺動法を用いて行なわれることが好ましい。
【0018】
上記凹凸表面を形成する工程は、上記ミクロ相分離パターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製し、該金型の凹凸面を透明基材上に転写する工程を含むことが好ましい。
【0019】
また本発明は、上記本発明の防眩フィルムの製造方法に好適に用いられる金型の製造方法を提供する。本発明の金型の製造方法は、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、研磨された面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、感光性樹脂膜上に上記ミクロ相分離パターンを露光する露光工程と、ミクロ相分離パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行ない、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程とを含む。
【0020】
本発明の金型の製造方法は、感光性樹脂膜剥離工程と第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面の凹凸形状をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。
【0021】
第2めっき工程におけるクロムめっきにより形成されるクロムめっき層は、1〜10μmの厚みを有することが好ましい。また、第2めっき工程において形成されるクロムめっきが施された凹凸面が、透明基材上に転写される金型の凹凸面であることが好ましい。すなわち、第2めっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま透明基材上に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現する防眩フィルムを再現性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】2種以上のセグメントから構成されるブロック共重合体を模式的に例示する図である。
【図2】2次元平面の計算機シミュレーションによって計算されたセグメントAおよびBからなる2元ブロック共重合体のミクロ相分離構造の例を示す図である。
【図3】結合揺動法におけるブロック共重合体のモデルを説明するための図である。
【図4】結合揺動法における制約条件を満たすように多数の2元ブロック共重合体が配置された状態の一例を示す図である。
【図5】結合揺動法においてブロック共重合体のセグメントを変位させる際の制約条件[I]および[II]の充足性を説明するための図である。
【図6】結合揺動法においてブロック共重合体のセグメントを変位させたときに生じ得る系のポテンシャルエネルギー変化を説明するための図である。
【図7】総セグメント数2の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図8】総セグメント数4の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図9】総セグメント数8の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図10】総セグメント数16の2元ブロック共重合体の2次元の計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離パターンを示す図である。
【図11】図7に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図12】図8に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図13】図9に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図14】図10に示されるミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【図15】本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
【図16】本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。
【図17】第1エッチング工程においてサイドエッチングが進行する状態を模式的に示す図である。
【図18】第1エッチング工程によって形成された凹凸面が第2エッチング工程によって鈍る状態を模式的に示す図である。
【図19】比較例1に用いたパターンを示す図である。
【図20】実施例1、実施例2および比較例1に用いたパターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<防眩フィルムの製造方法>
本発明の防眩フィルムの製造方法は、計算機シミュレーションを行なうことにより得られたブロック共重合体のミクロ相分離構造に基づいて、当該ミクロ相分離構造が反映されたパターン(ミクロ相分離パターン)を作成し、このパターンを用いて透明基材上に微細な凹凸表面(微細凹凸表面)を形成することを特徴とする。ここで、「パターン」とは、典型的には、防眩フィルムの微細凹凸表面を形成するために用いられる、計算機によって作成された2階調または3階調以上のグラデーションからなる画像データを意味するが、これに限定されるものではなく、当該画像データへ一義的に変換可能なデータ(行列データなど)も含み得る。画像データへ一義的に変換可能なデータとしては、各画素の座標および階調のみが保存されたデータなどが挙げられる。
【0025】
まず、計算機シミュレーションにより得られるブロック共重合体のミクロ相分離構造に基づいて作成されるミクロ相分離パターンを用いることの意義について説明する。一般的に、異種の高分子(異種のホモポリマー)は互いに非相溶であるため、異種の高分子を混合した濃厚溶液もしくは溶融体は巨視的な相分離を示す一方、2種以上の単量体から形成され、同種の単量体がある程度連続し、ブロック的な配列をとるブロック共重合体においては、異種の高分子鎖が化学的に結合しているため、巨視的な相分離は発生せず、同種の高分子鎖同士が各々独立して凝集するミクロ相分離構造を示す。ブロック共重合体のミクロ相分離構造は、ブロック共重合体を構成する、同種の単量体から形成される各高分子鎖の組成、各高分子鎖の長さ、および系の温度等に依存して、たとえば海島構造、ラメラ構造、共連続構造等の構造を示すことが知られている。
【0026】
このように、ブロック共重合体のミクロ相分離構造は、異種の高分子鎖が化学的に結合しているため、巨視的には均一でありながら、各高分子鎖の長さ程度の距離では異種の高分子鎖が分離しているという特徴を有している。ミクロ相分離構造における相関長、すなわち同種の高分子鎖同士が凝集している領域の大きさおよび同種の高分子鎖同士が凝集している領域間の距離は、各高分子鎖の組成、各高分子鎖の長さ、系の温度等に依存して決まるため、それらの条件を適切に選定すれば、所定の相関長を有するミクロ相分離構造を得ることが可能である。
【0027】
ここで、防眩フィルムの微細凹凸表面は、防眩フィルムの微細凹凸表面によって発生するギラツキを抑制するという観点から、50μmを超える長周期成分を含まないことが好ましい。一方、10μm未満の短周期成分のみを含む微細凹凸表面では、映り込み防止効果などの防眩効果を十分に発現できない。したがって、防眩フィルムの微細凹凸表面は、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキを十分に抑制するために、10〜50μmの周期を有する表面形状を主成分として含むことが好ましい。
【0028】
上述したように、ブロック共重合体のミクロ相分離構造は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するという特性を示す。したがって、ブロック共重合体のミクロ相分離構造から得られるパターンを用いて微細凹凸表面を形成すれば、ミクロ相分離構造の上記特性が反映される結果、特定範囲に限定された周期を有する表面形状を主成分として含む微細凹凸表面を形成することが可能となる。しかしながら、現実のブロック共重合体を用いた系では、ブロック共重合体の長さが大きくても1μm程度であり、かつ、そのような巨大なブロック共重合体を用いた場合、均一なミクロ相分離構造を形成するためには長時間を要するため、目標とする10〜50μmの周期を有する微細凹凸表面を形成するためのパターンを作成することは容易ではない。
【0029】
現実のブロック共重合体を用いる場合の上記課題は、本発明に従う計算機シミュレーションによってミクロ相分離構造を計算する方法によって解決できる。すなわち、本発明に従い、計算機シミュレーションによりブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算し、得られたミクロ相分離構造に基づいてミクロ相分離パターンを作成し、作成されたミクロ相分離パターンを用いて透明基材上に微細凹凸表面を形成すれば、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を示すというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性が反映された微細凹凸表面を作成することができ、しかも、計算機シミュレーションにおいては長さの単位はパラメータとして設定することが可能であるため、計算機シミュレーションよりミクロ相分離構造を作成した後、計算機シミュレーションの長さの単位を適切に設定してミクロ相分離パターンを作成すれば、微細凹凸表面を構成する主な表面形状の周期を目標とする10〜50μmの範囲内に精度良く制御することができる。このようにして得られた防眩フィルムの微細凹凸表面は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有しているため、特定の空間周波数分布を示すようになり、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができるという優れた光学特性を示すこととなる。
【0030】
以下、本発明の防眩フィルムの製造方法に係る好適な実施形態について、各工程ごとに詳細に説明する。
【0031】
〔1〕計算機シミュレーションによるミクロ相分離構造の計算
本工程では、ブロック共重合体の濃厚溶液または溶融体の計算機シミュレーションによってミクロ相分離構造を計算する。濃厚溶液または溶融体を想定して計算機シミュレーションを行なうのは、実質的に溶媒の影響を排除してシミュレーションを行なうことが可能となるため、計算負荷を低減できるとともに、所望の特性を示すミクロ相分離構造が構築されやすいためである。
【0032】
計算機シミュレーションに供されるブロック共重合体としては、複数の同種単量体単位の集合であるセグメントを構成単位とし、異種の単量体単位から構成された2種以上のセグメントからなるブロック共重合体モデルが用いられる。このように、複数の同種単量体単位を1つのセグメントとみなしてシミュレーションを行なうことにより、計算負荷を低減することができる。上記ブロック共重合体モデルとしては、たとえば、図1を参照して、セグメントAおよびBの2種のセグメントからなる(セグメントAから構成される高分子鎖とセグメントBから構成される高分子鎖とをブロック的に配列した)2元ブロック共重合体;さらにセグメントCを含む(さらにセグメントCから構成される高分子鎖を連結した)3元ブロック共重合体;さらにセグメントDを含む(さらにセグメントDから構成される高分子鎖を連結した)4元ブロック共重合体などを挙げることができる。なお、図1において、A、B、C、Dはそれぞれ、異種の単量体単位から構成された異種のセグメントである。
【0033】
ブロック共重合体モデルに含まれる2種以上のセグメントの各セグメント数は特に制限されず、それぞれ1以上あればよい。各セグメントのセグメント数の上限は特に制限されないが、計算負荷を考慮すると、50以下とすることが好ましく、20以下とすることがより好ましい。図1に示される2元ブロック共重合体において、セグメントAおよびBのセグメント数はともに6である。
【0034】
上述のように、計算機シミュレーションに供されるブロック共重合体は、2元あるいは3元以上のブロック共重合体であってよいが、3元以上のブロック共重合体を用いて計算する場合、系の自由度が増加するために、ミクロ相分離構造を制御する方法が複雑となる。したがって、計算機シミュレーションには、2元ブロック共重合体(第1のセグメントおよび第1のセグメントを構成する単量体単位とは異種の単量体単位から構成された第2のセグメントを構成単位とするブロック共重合体)を用いることが好ましい。
【0035】
また、第1のセグメントおよび第2のセグメントから構成される2元ブロック共重合体を用いる場合において、第1のセグメントのセグメント数と第2のセグメントのセグメント数は、同じであるか、または略同じであることが好ましい。このことは、第1のセグメントから構成される高分子鎖の長さと第2のセグメントから構成される高分子鎖の長さとが同じまたは略同じであることを意味する。これらの高分子鎖を同じかまたは略同じにすることにより、シミュレーションにより得られるミクロ相分離構造がラメラ相に近い構造を示すため、より安定した相関長を得ることができ、その結果、防眩フィルムの微細凹凸表面の周期を制御することが容易となる。
【0036】
図2は、2次元平面の計算機シミュレーションによって計算されたセグメントAおよびBからなる2元ブロック共重合体のミクロ相分離構造の例を示す図である。図2のミクロ相分離構造は、後述する結合揺動法を用いた計算機シミュレーションによって計算されたものである。図2に示した系の大きさは256a×256a(aは、計算機シミュレーションの長さの単位である)であり、セグメントAのセグメント数とセグメントBのセグメント数の合計は8であり、異種セグメント間の相互作用パラメータεは2とした。図2においては、計算されたミクロ相分離構造を明確に把握するために、セグメントAが存在する領域を白色で表示し、セグメントBが存在する領域を黒色で表示している。図2(a)〜(g)は、セグメントAのセグメント数と、セグメントBのセグメント数を変化させた場合のミクロ相分離構造を示しており、セグメントAのセグメント数とセグメントBのセグメント数との比は、それぞれ1/7、2/6、3/5、4/4、5/3、6/2、7/1である。図2(a)、(b)、(f)および(g)に示されるミクロ相分離構造では、セグメントBもしくはセグメントAの領域にセグメントAもしくはセグメントBが小さい凝集体を形成した海島構造を形成している。図2(c)、(d)および(e)に示されるミクロ相分離構造においては、セグメントAおよびセグメントBがそれぞれ連続したラメラ構造に近い連続構造を形成している。このように、安定した相関長を得るためには、セグメントAから構成される高分子鎖の長さとセグメントBから構成される高分子鎖の長さとを同じかまたは略同じにすることが好ましいことがわかる。
【0037】
上記のような、セグメントを構成単位とするブロック共重合体モデルを用いた、ブロック共重合体の濃厚溶液もしくは溶融体の計算機シミュレーションの具体的手法としては、格子モデルを用いる方法(R.G.Larson, J.Chem.Phys.91,2479 (1989)、I.Carmesin and K.Kremer,Macromolecules 21,2819 (1988)、および、A.Hoffmann,J.U.Sommer,and A.Blumen,J.Chem.Phys.106,6709 (1997)参照);バネ・ビーズモデルを用いる方法(F.Tanaka,T.Koga,Bull.Chem.Soc,Jpn.74,201 (2001)参照);ギンズブルグ・ランダウ理論を用いる方法(R.Holyst and W.T.Gozdz,J.Chem.Phys.106,4773 (1997)参照)等の従来公知の方法を用いることができる。この中でも格子モデルを用いることが好ましく、格子モデルの中でも特に結合揺動法(Bond Fluctuation Model(BFM)とも呼ばれる)を用いて計算機シミュレーションを行なうことがより好ましい。これは、後述するように、微細凹凸表面を作製する際に使用するミクロ相分離パターンは、たとえばラスタ形式の画像データのように、離散的な座標に対応する階調を有する形式で作成することができ、この場合、離散的な座標に対するセグメントの存在の有無を計算する格子モデルによって計算機シミュレーションを行なえば、得られたミクロ相分離構造から直接的にミクロ相分離パターンを得ることができるためである。また、その中でも、結合揺動法は計算負荷が小さく自由度が高いため好ましい。
【0038】
また、ブロック共重合体の濃厚溶液もしくは溶融体の計算機シミュレーションによってミクロ相分離構造を計算する際には、2次元平面上(2次元系)の計算機シミュレーションによって計算を行なうことが好ましい。これは、実際に微細凹凸表面を作製する際に使用するミクロ相分離パターンは2次元平面のパターンであるためである。3次元空間での計算機シミュレーションによって3次元のミクロ相分離構造を計算し、得られた3次元のミクロ相分離構造の任意の断面から、2次元平面のミクロ相分離パターンを作成することも可能であるが、2次元平面上での計算機シミュレーションによって、2次元平面のミクロ相分離構造を計算し、2次元平面のミクロ相分離パターンを作成する方が、計算負荷が少ないため好ましい。
【0039】
以下では、本発明において好ましく用いられる結合揺動法による計算機シミュレーションを例に挙げ、その具体的な計算のアルゴリズムについて説明する。まず、図3を参照して、結合揺動法におけるブロック共重合体のモデルについて説明する。図3は、説明をわかりやすくするために、結合揺動法において用いられる系に、2元ブロック共重合体を1分子配置した場合を示している。ただし、実際のシミュレーションにおいては、1つの系に複数のブロック共重合体を配置してシミュレーションを行なう。図3に示されるように、結合揺動法においては、正方形、長方形等の外形形状を有し、縦横に等間隔に引かれた破線によって正方形の複数のマスに区分された系(破線の間隔aは、計算機シミュレーションの長さの単位に相当する)に、2種以上のセグメントからなるブロック共重合体が配置される。この際、系に配置されるブロック共重合体は、これを構成する1つのセグメントを、たとえば破線で形成されるマスを4つ占有する正方形で表し、ブロック共重合体分子内で隣り合うセグメント間(4つのマスを占有する正方形の中心間)を直線で結合したものとして表現する。図3に示されるブロック共重合体は、セグメント1(セグメント数5)と、これとは異種のセグメントであるセグメント2(セグメント数5)とから構成された2元ブロック共重合体であり、セグメント1およびセグメント2はともに、破線で形成されるマスを4つ占有する正方形として表現されている。また、隣り合うセグメント同士は、セグメントとしての正方形の中心間を結ぶ直線である結合3によって結合されている。図3において、セグメント2には、セグメント1との区別が明確となるよう、ドット状のハッチングを付している。
【0040】
次に、結合揺動法を用いた具体的な計算のアルゴリズムについて説明する。まず、複数のブロック共重合体を図3に示されるような系に配置する。配置されるブロック共重合体の数は、系の大きさ等に依存し特に限定されないが、一般的には、系の中でセグメントの占める割合(セグメントの占有率φ)が60〜90%となるように配置することが好ましく、70〜80%となるように配置することがより好ましい。セグメントの占有率φは、下記式:
φ(%)={(4a2nN)/(a2l2)}×100={(4nN)/l2}×100
に基づき計算することができる。上記式において、aは、計算機シミュレーションの長さの単位(破線の間隔)であり、lは系の一辺の格子数(マスの数)、Nはブロック共重合体1分子を構成するセグメントの総数、nは系の中に配置されるブロック共重合体の数である。たとえば図2の場合のように、l=256、N=8の場合には、nを1230〜1840とすることによって、φを60〜90%の範囲内とすることができる。なお、後述する図7〜10に示されるミクロ相分離パターンは、φ=78%となるようにブロック共重合体を配置して作成したものである。ここで、結合揺動法においては、ブロック共重合体の初期配置について、次の制約条件[I]および[II]が課される。
【0041】
[I]セグメントの中心間を結ぶ結合(図3における結合3)の長さLがそれぞれ下記式(1)を満たす。下記式(1)におけるaは、破線の間隔であり、計算機シミュレーションの長さの単位に相当する。
2a≦L≦131/2a (1)
[II]セグメントを重ねて配置することはできない(正方形として表現されたセグメントが、他のセグメントと、破線で形成された同じマスを占有できない)。
【0042】
図4に、上記制約条件[I]および[II]を満たすように複数(26分子)の2元ブロック共重合体を配置した状態の一例を示す。
【0043】
次に、系の中からランダムに1つのセグメント(着目したセグメントP)を選択し、そのセグメントPを1マス分ランダムに変位させる。すなわち、破線の交点上にあるセグメントPの中心を、隣り合ういずれかの破線の交点上にランダムに変位させる。ここで、当該変位においては、同様に、上記制約条件[I]および[II]が課される。上記式(1)における2a≦Lを満たすことは、結合されたセグメント同士が重ねて配置されないという条件を満たすことを意味し、L≦131/2aを満たすことは、セグメント間の結合の交差が生じないという条件を満たすことを意味する。すなわち、上記セグメントPの変位においては、セグメントの重なりが発生せず、セグメント間の結合に交差が生じないという排除体積が考慮される。
【0044】
図5は、ブロック共重合体のセグメントを変位させる際の制約条件[I]および[II]の充足性を説明するための図である。図5(a)は、変位前の状態を示す図であり、図5(b)〜図5(d)は、ランダムに選択されたセグメントPを1マス分ランダムに変位させた後の状態を示す図である。図5(b)に至る変位は、上記制約条件[I]および[II]を満たす。一方、図5(c)に至る変位は、長さが131/2aを超える結合を生じさせるため、制約条件[I]を満たさない。また、図5(d)に至る変位は、セグメントが重ねて配置されることとなるため、制約条件[II]を満たさない。
【0045】
また、セグメントPのランダム変位においては、上記制約条件[I]および[II]を満たした上で、さらに次の制約条件[III]または[IV]のいずれかが課される。すなわち、上記制約条件[I]および[II]を満たすランダム変位のうち、下記制約条件[III]を満たすか、または[IV]を満たす変位のみが採用される。
【0046】
[III]変位前後におけるポテンシャルエネルギーの差を計算したとき、ポテンシャルエネルギーの差が負もしくはゼロである。
【0047】
[IV]上記ポテンシャルエネルギーの差が正である場合において、確率的に変位の採用可否を決定する手法を適用し、当該手法によって変位が採用可と判断される。
【0048】
図3を参照して、セグメントPの変位前後におけるポテンシャルエネルギーの差を計算する方法について説明する。着目したセグメントPとは異種のセグメントが下記式(2):
2a≦r≦51/2a (2)
の条件を満たす範囲に配置されている場合、すなわち、図3を参照して、当該異種のセグメントの中心が図3の黒丸を付した破線の交点(格子点4)上に配置されている場合には、系のポテンシャルエネルギーが、このような条件を満たす当該異種のセグメント1個あたり、ΔE=εkBTだけ増加する。ここで、εはフローリー・ハギンズの格子理論のχパラメータに相当するものであり、異種高分子間の相互作用を示す無次元量パラメータである。εが大きいほど、異種高分子が相溶しにくい傾向を示す。したがって、εが大きいほど、セグメントPが異種のセグメントの近傍に変位した際のポテンシャルエネルギーが増加しやすくなるため、上記式(2)を満たす配置が採用されにくくなる。また、kBはボルツマン定数、Tは系の温度である。上記式(2)中のrは、着目したセグメントPの中心とこれとは異種のセグメントの中心との距離である。
【0049】
したがって、セグメントPの変位前後におけるポテンシャルエネルギーの差は、変位前における上記式(2)を満たすセグメントPとは異種のセグメントの数をmとし、変位後における上記式(2)を満たすセグメントPとは異種のセグメントの数をnとするとき、ΔE×(m−n)となる。たとえば、図5(a)から図5(b)への変位における変位前後のポテンシャルエネルギーの差は、m=1、n=1であるためゼロである。図6にはその他の変位の例について示している。図6(a)から図6(b)への変位における変位前後のポテンシャルエネルギーの差は、m=1、n=2であるためΔEである。また、図6(c)から図6(d)への変位における変位前後のポテンシャルエネルギーの差は、m=0、n=1であるためΔEである。
【0050】
上記制約条件[IV]における確率的に変位の採用可否を決定する方法としては、たとえばメトロポリスの方法が挙げられる。メトロポリスの方法では、0以上1未満の乱数xを計算によって発生させ、exp(−ΔE/kBT)が乱数xより大きければ変位を採用し、乱数xより小さければ変位を採用しない。
【0051】
以上のようにして、系の中からランダムに1つのセグメントを選択し、変位の採用の可否を決定するという計算機シミュレーションをモンテカルロ法によって定常状態に達するまで行なうことにより、ブロック共重合体の与えられたパラメータにおけるミクロ相分離構造を計算することができる。定常状態に達するまでの計算回数は、系の大きさ、ブロック共重合体の長さ等に依存するため、一概には言えないが、少なくとも10万回以上の計算を行なうことが好ましく、1000万回以上の計算を行なうことがより好ましい。
【0052】
なお、計算機シミュレーションを行なうにあたっては、系の境界条件には周期境界条件を用いることが好ましい。周期境界条件を用いれば、得られたミクロ相分離構造から作成されたミクロ相分離パターンの複数を繰り返し並べて作成した複合パターンを用いて、防眩フィルムを製造する場合であっても、各ミクロ相分離パターンに対応する微細凹凸表面間の連続性が確保され、防眩フィルムの光学特性に悪影響を与えることがない。
【0053】
〔2〕ミクロ相分離パターンの作成
ミクロ相分離パターンは、上述した計算機シミュレーションによって得られたミクロ相分離構造を画像データに変換することにより作成することができる。この際、たとえば、少なくとも1種類のセグメントの密度分布に着目し、密度の最小値を0とし、密度の最大値を255として256階調のグレースケールの画像データを作成すれば、256階調のミクロ相分離パターンが得られる。また、ミクロ相分離構造からミクロ相分離パターンを作成する際に、少なくとも1種類のセグメントの存在の有無に着目し、存在しない箇所を0とし、存在する箇所を1として二値化された画像データを作成すれば、二値化されたミクロ相分離パターンが得られる。さらに、少なくとも1種類のセグメントの密度分布に着目し、密度に適切な閾値を設定して、設定された閾値以下の箇所を0とし、設定された閾値より大きい箇所を1として、二値化された画像データを作成することによっても、二値化されたミクロ相分離パターンが得られる。ミクロ相分離パターンを二値化された画像データとして作成する方が、計算負荷を減少させることが可能であるため好ましい。
【0054】
上述したブロック共重合体の計算機シミュレーションにおいて、ギンズブルグ・ランダウ理論を用いる方法では、ミクロ相分離構造がそれぞれのセグメントの密度分布として得られるため、セグメントの密度分布に基づいてミクロ相分離パターンを作成する方法を用いることが好ましい。対して、結合揺動法を含む格子モデルを用いる方法やバネ・ビーズモデルを用いる方法においては、ミクロ相分離構造がそれぞれのセグメントの位置座標として得られるため、セグメントの存在の有無に着目して、ミクロ相分離パターンを作成する方法を用いることが好ましい。
【0055】
ミクロ相分離パターンである画像データは、ラスタ形式の画像データとして作成してもよいし、ベクトル形式の画像データとして作成してもよい。
【0056】
得られたミクロ相分離パターンである画像データに基づいて、後述する方法によって微細凹凸表面を有する防眩フィルムを作製すれば、当該微細凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、ミクロ相分離構造の少なくとも1種のセグメントに対応するように形成されるため、得られた防眩フィルムの微細凹凸表面は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有し、特定の空間周波数分布を示すようになる。その結果、低ヘイズでありながら、画像表示装置に適用したときに、優れた防眩性能を示し、かつ、白ちゃけによる視認性の低下を防止することができるとともに、高精細の画像表示装置に適用した場合においても、ギラツキを発生せずに高いコントラストを発現することができるという優れた光学特性を示すこととなる。
【0057】
微細凹凸表面の凹部または凸部が、ミクロ相分離構造の少なくとも1種のセグメントに対応するように形成される場合とは、たとえば、次のような場合を挙げることができる。
1)ギンズブルグ・ランダウ理論を用いた計算機シミュレーションにより計算されたミクロ相分離構造に基づき、2種以上のセグメントのうち1つのセグメントの密度分布に着目して、当該密度分布に対応する256階調のミクロ相分離パターンを作成する。ついで、この256階調のパターンを用いて、256階調のマスクを作製し、得られたマスクを介して、光硬化性樹脂が塗布された透明基材上に全面露光を行なう。この場合、マスクの階調に応じて光硬化性樹脂の露光量が異なるため、現像した際に、その露光量に応じて、透明基材上に残存する光硬化性樹脂の量が変化した微細凹凸形状が形成される。
2)金型基材上にレジストを塗布した後に、上記256階調のパターンをレーザーで直描する。この状態で現像を行なうと、256階調のマスクが存在する金型基材が得られ、このマスクを介してエッチングを行なうことにより、マスクの階調に対応した凹凸を有する金型が得られる。この金型の凹凸面を透明基材上に転写することにより、マスクの階調に対応した凹部と凸部とからなる微細凹凸表面を有する防眩フィルムが得られる。
3)結合揺動法を用いた計算機シミュレーションにより計算されたミクロ相分離構造に基づき、2種以上のセグメントのうち1つのセグメントに着目して、当該着目したセグメントが存在しない箇所を0とし、存在する箇所を1として二値化されたミクロ相分離パターンを作成する。微細凹凸表面の凹部または凸部がミクロ相分離パターンの0の領域に対応するように微細凹凸表面を形成することにより、ミクロ相分離パターンの階調に対応した凹部と凸部とからなる微細凹凸表面を有する防眩フィルムが得られる。
【0058】
図7〜10に、2元ブロック共重合体のセグメント数N(2元ブロック共重合体を構成するセグメントの総数)とパラメータεを変化させたときのミクロ相分離パターンを示す。図7〜10に示されるミクロ相分離パターンは、第1のセグメントおよびこれとは異種の第2のセグメントからなる2元ブロック共重合体を用いて計算機シミュレーションによりミクロ相分離構造を計算し、第1のセグメントが存在する領域を0とし、その他の領域を1とした2値化された画像データである。第1のセグメントのセグメント数と第2のセグメントのセグメント数は同じである。系の大きさは256a×256aであり、12800000000万回の計算を行なって定常状態を得た。図7より、セグメント数Nが2の場合には、特にεが2以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。図8より、セグメント数Nが4の場合には、特にεが1.5以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。図9より、セグメント数Nが8の場合には、特にεが1.5以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。また、図10より、セグメント数Nが16の場合には、特にεが1以上で相関長が略一定のミクロ相分離パターンが得られることが分かる。
【0059】
ここで、本発明において用いられるミクロ相分離パターンは、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すものである。このような空間周波数特性を示すミクロ相分離パターンに基づいて微細凹凸表面を形成することにより、防眩性能に優れるとともに、ギラツキおよび白ちゃけが抑制された視認性に優れる防眩フィルムを得ることが可能となる。
【0060】
ミクロ相分離パターンのエネルギースペクトルは、画像データとして得られたミクロ相分離パターンの階調に着目して、画像データの階調を二次元関数g(x,y)で表し、得られた二次元関数g(x,y)をフーリエ変換して二次元関数G(fx,fy)を計算し、得られた二次元関数G(fx,fy)を二乗することによって求められる。ここで、xおよびyは、画像データ面内の直交座標を表し(たとえば、x方向が画像データの横方向、y方向が画像データの縦方向である)、fxおよびfyはそれぞれ、x方向の空間周波数、y方向の空間周波数を表している。実際には、画像データの階調を示す二次元関数g(x,y)は、各画素毎の階調が離散的なデータ点の集合として得られるため離散関数である。よって、下記式(3)で定義される離散フーリエ変換によって離散関数G(fx,fy)を計算し、離散関数G(fx,fy)を二乗することによってエネルギースペクトルが求められる。ここで、式(3)中のπは円周率、iは虚数単位である。また、Mはx方向の画素数であり、Nはy方向の画素数であり、lは−M/2以上M/2以下の整数であり、mは−N/2以上N/2以下の整数である。さらに、ΔfxおよびΔfyはそれぞれx方向およびy方向の空間周波数間隔であり、式(4)および式(5)で定義される。式(4)および式(5)中のΔxおよびΔyはそれぞれ、x軸方向、y軸方向における水平分解能である。なお、画像データとして得られたミクロ相分離パターンにおいては、ΔxおよびΔyは、それぞれ1画素のx軸方向の長さおよびy軸方向の長さと等しい。すなわち、6400dpiの画像データとしてミクロ相分離パターンを作成した場合には、Δx=Δy=4μmであり、12800dpiの画像データとしてミクロ相分離パターンを作成した場合には、Δx=Δy=2μmである。
【0061】
【数1】
【0062】
上述のようにして作成されたミクロ相分離パターンにおいては、通常、エネルギースペクトルG2(fx,fy)は、横、縦、高さをそれぞれfx、fy、エネルギースペクトルG2(fx,fy)とする3次元グラフで表したとき、fx=0およびfy=0の原点を中心とする点対称となる。したがって、本発明において「エネルギースペクトルの極大値を示す空間周波数」は、エネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図(横軸が、空間周波数fyであり、縦軸がエネルギースペクトルである二次元グラフ)から求められる空間周波数とする。この二次元グラフにおいて、横軸の空間周波数fyは、エネルギースペクトルがfy=0に関しても対称であることから、空間周波数fyの絶対値とすることができる。
【0063】
なお、本発明において、「エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示す」とは、エネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図において、エネルギースペクトルが複数の極大値を有し、これらの極大値の1以上が空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内に位置する場合を含む。
【0064】
図11〜14は、それぞれ図7〜図10で得られたミクロ相分離パターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す図である。横軸は、空間周波数を計算機シミュレーションの長さの単位で除したものである。図11より、セグメント数Nが2の場合には、特にεが2以上で、エネルギースペクトルが0.057/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.46〜2.28μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。図12より、セグメント数Nが4の場合には、特にεが1.5以上で、エネルギースペクトルが0.041/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.33〜1.64μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。図13より、セグメント数Nが8の場合には、特にεが1.5以上で、エネルギースペクトルが0.023/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.18〜0.92μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。また、図14より、セグメント数Nが16の場合には、特にεが1以上で、エネルギースペクトルが0.016/a付近に明確な極大値を示す。これより、計算機シミュレーションの長さの単位aを0.13〜0.64μmに設定すれば、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンが得られる。
【0065】
このように、計算機シミュレーションの長さの単位aを適切に設定して、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を有するミクロ相分離パターンを作成し、作成されたミクロ相分離パターンを用いて、防眩フィルムの微細凹凸表面の凹部または凸部が、ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに対応するように微細凹凸表面を形成すれば、得られた防眩フィルムの微細凹凸表面は、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有し、かつ、相関長が適切に設定されているため、十分な防眩効果を発現しつつ、ギラツキおよび白ちゃけが十分に防止されるという優れた光学特性を示すこととなる。計算機シミュレーションの長さの単位aを、エネルギースペクトルが0.025μm-1より低い空間周波数位置に極大値を示すように設定する場合は、得られる防眩フィルムに周期が50μmを超える微細凹凸表面形状が形成されやすくなり、その結果、高精細の画像表示装置の表面に、得られた防眩フィルムを配置したときにギラツキが発生することとなる。また、計算機シミュレーションの長さの単位aを、エネルギースペクトルが0.125μm-1より高い空間周波数位置に極大値を示すように設定する場合は、得られる防眩フィルムの微細凹凸表面は10μm以下の短周期成分を多く含むようになり、優れた防眩性能が発現しない。
【0066】
ミクロ相分離パターンをラスタ形式の画像データとして作成する際には、計算機シミュレーションの長さの単位aが適切な値となるように、解像度を設定することにより、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを得ることができる。たとえば、結合揺動法においてa=2μmの場合には解像度は12800dpiであり、a=1μmの場合には解像度は25600dpiである。ベクトル形式の画像データとしてミクロ相分離パターンを作成する場合には、計算機シミュレーションの長さの単位aが適切な値となるように、縮尺を設定することにより、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを得ることができる。
【0067】
なお、計算機シミュレーションによってブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算するのではなく、現実のブロック共重合体を用いてミクロ相分離構造を形成し、これを写真に撮り、得られた画像データに対して拡大等の編集を施すことにより、ミクロ相分離パターンを得ることも可能であるが、現実のブロック共重合体を用いる場合には、安定したミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体の組成や温度条件などを探索するために多大な試行錯誤を要すること、および現実のブロック共重合体より得られたミクロ相分離構造からミクロ相分離パターンを得るためには、100nm以下の解像度を有する顕微鏡や散乱実験によって繰り返し観察を行ない、画像データを取得し、得られた画像データを多数並べて継ぎ目の無いミクロ相分離パターンを作成する必要がある。これらの労力に鑑みると、本発明に従う方法によりミクロ相分離パターンを作成することが望ましい。
【0068】
〔3〕ミクロ相分離パターンを用いた微細凹凸表面の形成
本工程において、上記したミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に微細凹凸表面を形成する。微細凹凸表面を構成する凹部または凸部は、ミクロ相分離構造の少なくとも1種のセグメントに対応する。たとえば、ミクロ相分離パターンが0と1に二値化された画像データである場合には、微細凹凸表面の凹部または凸部がミクロ相分離パターンの0の領域(または1の領域)に対応するように微細凹凸表面が形成される。微細凹凸表面の形成に用いるパターンは、2以上のミクロ相分離パターンを繰り返し並べて作成したパターンであってもよい。
【0069】
上記ミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に微細凹凸表面を形成する具体的方法としては、たとえば、印刷法、パターン露光法、エンボス法などを挙げることができる。印刷法では、たとえば、光硬化性樹脂もしくは熱硬化性樹脂を用いたフレキソ印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷などによって、上述したミクロ相分離パターンを透明基材上に印刷して作製した後、乾燥、または、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。また、パターン露光法では、光硬化性樹脂を透明基材上に塗布した後、上述したミクロ相分離パターンを用いたレーザーによる直描露光や、上述したミクロ相分離パターンを有するマスクを介しての全面露光により、パターン露光を行ない、必要に応じて現像した後、活性光線もしくは加熱により硬化させることによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。さらにエンボス法では、上述したミクロ相分離パターンを用いて微細凹凸表面を有する金型を製造し、製造された金型の凹凸面を透明基材上に転写し、次いで凹凸面が転写された透明基材を金型から剥がすことによって、本発明の防眩フィルムを製造することができる。ここで、本発明の防眩フィルムは、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造する観点から、エンボス法によって製造されることが好ましい。
【0070】
エンボス法としては、光硬化性樹脂を用いるUVエンボス法、熱可塑性樹脂を用いるホットエンボス法が例示され、中でも、生産性の観点から、UVエンボス法が好ましい。
【0071】
UVエンボス法は、透明基材の表面に光硬化性樹脂層を形成し、その光硬化性樹脂層を金型の凹凸面に押し付けながら硬化させることで、金型の凹凸面が光硬化性樹脂層に転写される方法である。具体的には、透明基材上に紫外線硬化型樹脂を塗工し、塗工した紫外線硬化型樹脂を金型の凹凸面に密着させた状態で透明基材側から紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させ、その後金型から、硬化後の紫外線硬化型樹脂層が形成された透明基材を剥離することにより、金型の形状を紫外線硬化型樹脂に転写する。
【0072】
UVエンボス法を用いる場合、透明基材としては、実質的に光学的に透明なフィルムであればよく、たとえばトリアセチルセルロースフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどの樹脂フィルムが挙げられる。
【0073】
UVエンボス法を用いる場合における紫外線硬化型樹脂の種類は特に限定されず、市販の適宜のものを用いることができる。また、紫外線硬化型樹脂に適宜選択された光開始剤を組み合わせて、紫外線より波長の長い可視光でも硬化が可能な樹脂を用いることも可能である。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの多官能アクリレートをそれぞれ単独で、あるいはそれら2種以上を混合して用い、それと、イルガキュアー907(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、イルガキュアー184(チバ・スペシャルティー・ケミカルズ社製)、ルシリンTPO(BASF社製)などの光重合開始剤とを混合したものを好適に用いることができる。
【0074】
一方、ホットエンボス法は、熱可塑性樹脂からなる透明基材を加熱状態で金型に押し付け、金型の表面凹凸形状を透明基材に転写する方法である。ホットエンボス法に用いる透明基材としては、実質的に透明なものであればいかなるものであってもよく、たとえば、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ノルボルネン系化合物をモノマーとする非晶性環状ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂の溶剤キャストフィルムや押出フィルムなどを用いることができる。これらの透明樹脂フィルムはまた、上で説明したUVエンボス法における紫外線硬化型樹脂を塗工するための透明基材としても好適に用いることができる。
【0075】
<防眩フィルム作製用の金型の製造方法>
以下では、本発明の防眩フィルムの製造方法に好適に用いることができる金型の製造方法について説明する。本発明の防眩フィルムの製造に用いる金型の製造方法については、上述したミクロ相分離パターンを用いた所定の表面形状が得られる方法であれば、特に制限されないが、微細凹凸表面を精度よく、かつ、再現性よく製造するために、〔1〕第1めっき工程と、〔2〕研磨工程と、〔3〕感光性樹脂膜形成工程と、〔4〕露光工程と、〔5〕現像工程と、〔6〕第1エッチング工程と、〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と、〔8〕第2めっき工程を基本的に含むことが好ましい。図15は、本発明の金型の製造方法の前半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図15には、各工程での金型の断面を模式的に示している。以下、図15を参照しながら、本発明の金型の製造方法の各工程について詳細に説明する。
【0076】
〔1〕第1めっき工程
本発明の金型の製造方法ではまず、金型に用いる基材の表面に、銅めっきまたはニッケルめっきを施す。このように、金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施すことにより、後の第2めっき工程におけるクロムめっきの密着性や光沢性を向上させることができる。すなわち、鉄などの表面にクロムめっきを施した場合、あるいはクロムめっき表面にサンドブラスト法やビーズショット法などで凹凸を形成してから再度クロムめっきを施した場合には、表面が荒れやすく、細かいクラックが生じて、金型の表面の凹凸形状が制御しにくくなる。これに対して、まず、基材表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施しておくことにより、このような不都合をなくすことができる。これは、銅めっきまたはニッケルめっきは、被覆性が高く、また平滑化作用が強いことから、金型用基材の微小な凹凸や巣などを埋めて平坦で光沢のある表面を形成するためである。これらの銅めっきまたはニッケルめっきの特性によって、後述する第2めっき工程においてクロムめっきを施したとしても、基材に存在していた微小な凹凸や巣に起因すると思われるクロムめっき表面の荒れが解消され、また、銅めっきまたはニッケルめっきの被覆性の高さから、細かいクラックの発生が低減される。
【0077】
第1めっき工程において用いられる銅またはニッケルとしては、それぞれの純金属であることができるほか、銅を主体とする合金、またはニッケルを主体とする合金であってもよく、したがって、本明細書でいう「銅」は、銅および銅合金を含む意味であり、また「ニッケル」は、ニッケルおよびニッケル合金を含む意味である。銅めっきおよびニッケルめっきは、それぞれ電解めっきで行なっても無電解めっきで行なってもよいが、通常は電解めっきが採用される。
【0078】
銅めっきまたはニッケルめっきを施す際には、めっき層が余り薄いと、下地表面の影響が排除しきれないことから、その厚みは50μm以上であるのが好ましい。めっき層厚みの上限は臨界的でないが、コストなどに鑑み、めっき層厚みの上限は500μm程度までとすることが好ましい。
【0079】
本発明の金型の製造方法において、金型用基材の形成に好適に用いられる金属材料としては、コストの観点からアルミニウム、鉄などが挙げられる。取扱いの利便性から、軽量なアルミニウムを用いることがより好ましい。ここでいうアルミニウムや鉄も、それぞれ純金属であることができるほか、アルミニウムまたは鉄を主体とする合金であってもよい。
【0080】
また、金型用基材の形状は、当該分野において従来採用されている適宜の形状であってよく、たとえば、平板状のほか、円柱状または円筒状のロールであってもよい。ロール状の基材を用いて金型を作製すれば、防眩フィルムを連続的なロール状で製造することができるという利点がある。
【0081】
〔2〕研磨工程
続く研磨工程では、上述した第1めっき工程にて銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する。当該工程を経て、基材表面は、鏡面に近い状態に研磨されることが好ましい。これは、基材となる金属板や金属ロールは、所望の精度にするために、切削や研削などの機械加工が施されていることが多く、それにより基材表面に加工目が残っており、銅めっきまたはニッケルめっきが施された状態でも、それらの加工目が残ることがあるし、また、めっきした状態で、表面が完全に平滑になるとは限らないためである。すなわち、このような深い加工目などが残った表面に後述する工程を施したとしても、各工程を施した後に形成される凹凸よりも加工目などの凹凸の方が深いことがあり、加工目などの影響が残る可能性があり、そのような金型を用いて防眩フィルムを製造した場合には、光学特性に予期できない影響を及ぼすことがある。図15(a)には、平板状の金型用基材7が、第1めっき工程において銅めっきまたはニッケルめっきをその表面に施され(当該工程で形成した銅めっきまたはニッケルめっきの層については図示せず)、さらに研磨工程によって鏡面研磨された表面8を有するようにされた状態を模式的に示している。
【0082】
銅めっきまたはニッケルめっきが施された基材表面を研磨する方法については特に制限されるものではなく、機械研磨法、電解研磨法、化学研磨法のいずれも使用できる。機械研磨法としては、超仕上げ法、ラッピング、流体研磨法、バフ研磨法などが例示される。研磨後の表面粗度は、JIS B 0601の規定に準拠した中心線平均粗さRaが0.1μm以下であることが好ましく、0.05μm以下であることがより好ましい。研磨後の中心線平均粗さRaが0.1μmより大きいと、最終的な金型表面の凹凸形状に研磨後の表面粗度の影響が残る可能性がある。また、中心線平均粗さRaの下限については特に制限されず、加工時間や加工コストの観点から、おのずと限界があるので、特に指定する必要性はない。
【0083】
〔3〕感光性樹脂膜形成工程
続く感光性樹脂膜形成工程では、上述した研磨工程によって鏡面研磨を施した金型用基材7の研磨された表面8に、感光性樹脂を溶媒に溶解した溶液として塗布し、加熱・乾燥することにより、感光性樹脂膜を形成する。図15(b)には、金型用基材7の研磨された表面8に感光性樹脂膜9が形成された状態を模式的に示している。
【0084】
感光性樹脂としては従来公知の感光性樹脂を用いることができる。感光部分が硬化する性質をもったネガ型の感光性樹脂としては、たとえば、分子中にアクリル基またはメタアクリル基を有するアクリル酸エステルの単量体やプレポリマー、ビスアジドとジエンゴムとの混合物、ポリビニルシンナマート系化合物等を用いることができる。また、現像により感光部分が溶出し、未感光部分だけが残る性質をもったポジ型の感光性樹脂としては、たとえば、フェノール樹脂系やノボラック樹脂系等を用いることができる。また、感光性樹脂には、必要に応じて、増感剤、現像促進剤、密着性改質剤、塗布性改良剤等の各種添加剤を配合してもよい。
【0085】
これらの感光性樹脂を金型用基材7の研磨された表面8に塗布する際には、良好な塗膜を形成するために、適当な溶媒に希釈して塗布することが好ましい。溶媒としては、セロソルブ系溶媒、プロピレングリコール系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、高極性溶媒等を使用することができる。
【0086】
感光性樹脂溶液を塗布する方法としては、メニスカスコート、ファウンティンコート、ディップコート、回転塗布、ロール塗布、ワイヤーバー塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、およびカーテン塗布等の公知の方法を用いることができる。塗布膜の厚さは乾燥後で1〜6μmの範囲とすることが好ましい。
【0087】
〔4〕露光工程
続く露光工程では、上述した階調パターンを上述した感光性樹脂膜形成工程で形成された感光性樹脂膜9上に露光する。露光工程に用いる光源は、塗布された感光性樹脂の感光波長や感度等に合わせて適宜選択すればよく、たとえば、高圧水銀灯のg線(波長:436nm)、高圧水銀灯のh線(波長:405nm)、高圧水銀灯のi線(波長:365nm)、半導体レーザー(波長:830nm、532nm、488nm、405nm等)、YAGレーザー(波長:1064nm)、KrFエキシマーレーザー(波長:248nm)、ArFエキシマーレーザー(波長:193nm)、F2エキシマーレーザー(波長:157nm)等を用いることができる。
【0088】
本発明の金型の製造方法において、表面凹凸形状を精度良く形成するためには、露光工程において、上記ミクロ相分離パターンを感光性樹脂膜上に精密に制御された状態で露光することが好ましい。本発明の金型の製造方法においては、上記ミクロ相分離パターンを感光性樹脂膜上に精度良く露光するために、計算機によって作成された画像データであるミクロ相分離パターンに基づいて、コンピュータ制御されたレーザヘッドから発するレーザー光によって、感光性樹脂膜上にパターンを描画することが好ましい。このようなレーザー描画を行なうに際しては印刷版作成用のレーザー描画装置を使用することができる。このようなレーザー描画装置としては、たとえばLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)等が挙げられる。
【0089】
図15(c)には、感光性樹脂膜9にパターンが露光された状態を模式的に示している。感光性樹脂膜をネガ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の架橋反応が進行し、後述する現像液に対する溶解性が低下する。よって、現像工程において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスクとなる。一方、感光性樹脂膜をポジ型の感光性樹脂で形成した場合には、露光された領域10は露光によって樹脂の結合が切断され、後述する現像液に対する溶解性が増加する。よって、現像工程において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスクとなる。
【0090】
〔5〕現像工程
続く現像工程においては、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光されていない領域11は現像液によって溶解され、露光された領域10のみ金型用基材上に残存し、続く第1エッチング工程においてマスクとして作用する。一方、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いた場合には、露光された領域10のみ現像液によって溶解され、露光されていない領域11が金型用基材上に残存して、続く第1エッチング工程におけるマスクとして作用する。
【0091】
現像工程に用いる現像液については従来公知のものを使用することができる。たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、アンモニア水等の無機アルカリ類、エチルアミン、n−プロピルアミン等の第一アミン類、ジエチルアミン、ジ−n−ブチルアミン等の第二アミン類、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン等の第三アミン類、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルコールアミン類、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム塩、ピロール、ピペリジン等の環状アミン類などのアルカリ性水溶液;および、キシレン、トルエン等の有機溶剤等を挙げることができる。
【0092】
現像工程における現像方法については特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
【0093】
図15(d)には、感光性樹脂膜9にネガ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図15(c)において露光されていない領域11が現像液によって溶解され、露光された領域10のみ基材表面上に残りマスク12となる。図15(e)には、感光性樹脂膜9にポジ型の感光性樹脂を用いて、現像処理を行なった状態を模式的に示している。図15(c)において露光された領域10が現像液によって溶解され、露光されていない領域11のみ基材表面上に残りマスク12となる。
【0094】
〔6〕第1エッチング工程
続く第1エッチング工程では、上述した現像工程後に金型用基材表面上に残存した感光性樹脂膜をマスクとして用いて、主にマスクの無い箇所の金型用基材をエッチングし、研磨されためっき面に凹凸を形成する。図16は、本発明の金型の製造方法の後半部分の好ましい一例を模式的に示す図である。図16(a)には第1エッチング工程によって、主にマスクの無い箇所13の金型用基材7がエッチングされる状態を模式的に示している。マスク12の下部の金型用基材7は金型用基材表面からはエッチングされないが、エッチングの進行とともにマスクの無い箇所13からのエッチングが進行する。よって、マスク12とマスクの無い箇所13との境界付近では、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされる。このようなマスク12とマスクの無い箇所13との境界付近において、マスク12の下部の金型用基材7もエッチングされることを、以下ではサイドエッチングと呼ぶ。図17に、サイドエッチングの進行を模式的に示した。図17の点線14は、エッチングの進行とともに変化する金型用基材の表面を段階に示している。
【0095】
第1エッチング工程におけるエッチング処理は、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)等を用いて、金属表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した際の金型用基材に形成される凹形状は、下地金属の種類、感光性樹脂膜の種類およびエッチング手法等によって異なるため、一概にはいえないが、エッチング量が10μm以下である場合には、エッチング液に触れている金属表面から略等方的にエッチングされる。ここでいうエッチング量とは、エッチングにより削られる基材の厚みである。
【0096】
第1エッチング工程におけるエッチング量は好ましくは1〜50μmである。エッチング量が1μm未満である場合には、金属表面に凹凸形状がほとんど形成されずに、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。また、エッチング量が50μmを超える場合には、金属表面に形成される凹凸形状の高低差が大きくなり、得られた金型を使用して作製した防眩フィルムを適用した画像表示装置において白ちゃけが生じる虞がある。第1エッチング工程におけるエッチング処理は1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0097】
〔7〕感光性樹脂膜剥離工程
続く感光性樹脂膜剥離工程では、第1エッチング工程でマスクとして使用した残存する感光性樹脂膜を完全に溶解し除去する。感光性樹脂膜剥離工程では剥離液を用いて感光性樹脂膜を溶解する。剥離液としては、上述した現像液と同様のものを用いることができて、pH、温度、濃度および浸漬時間等を変化させることによって、ネガ型の感光性樹脂膜を用いた場合には露光部の、ポジ型の感光性樹脂膜を用いた場合には非露光部の感光性樹脂膜を完全に溶解して除去する。感光性樹脂膜剥離工程における剥離方法についても特に制限されず、浸漬現像、スプレー現像、ブラシ現像、超音波現像等の方法を用いることができる。
【0098】
図16(b)は、感光性樹脂膜剥離工程によって、第1エッチング工程でマスク12として使用した感光性樹脂膜を完全に溶解し除去した状態を模式的に示している。感光性樹脂膜からなるマスク12を利用したエッチングによって、第1の表面凹凸形状15が金型用基材表面に形成されている。
【0099】
〔8〕第2めっき工程
続いて、形成された凹凸面(第1の表面凹凸形状15)にクロムめっきを施すことによって、表面の凹凸形状を鈍らせる。図16(c)には、第1エッチング工程のエッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15にクロムめっき層16を形成することにより、第1の表面凹凸形状15よりも凹凸が鈍った表面(クロムめっきの表面17)が形成されている状態が示されている。
【0100】
本発明では、平板やロールなどの表面に、光沢があって、硬度が高く、摩擦係数が小さく、良好な離型性を与え得るクロムめっきを採用する。クロムめっきの種類は特に制限されないが、いわゆる光沢クロムめっきや装飾用クロムめっきなどと呼ばれる、良好な光沢を発現するクロムめっきを用いることが好ましい。クロムめっきは通常、電解によって行なわれ、そのめっき浴としては、無水クロム酸(CrO3)と少量の硫酸を含む水溶液が用いられる。電流密度と電解時間を調節することにより、クロムめっきの厚みを制御することができる。
【0101】
なお、第2めっき工程において、クロムめっき以外のめっきを施すことは好ましくない。何故なら、クロム以外のめっきでは、硬度や耐摩耗性が低くなるため、金型としての耐久性が低下し、使用中に凹凸が磨り減ったり、金型が損傷したりする。そのような金型から得られた防眩フィルムでは、十分な防眩機能が得られにくい可能性が高く、また、フィルム上に欠陥が発生する可能性も高くなる。
【0102】
また、上述した特開2004−90187号公報などに開示されているようなめっき後の表面研磨も、やはり本発明では好ましくない。すなわち、第2のめっき工程後に表面を研磨する工程を設けることなく、クロムめっきが施された凹凸面を、そのまま透明基材上に転写される金型の凹凸面として用いることが好ましい。研磨することにより、最表面に平坦な部分が生じるため、光学特性の悪化を招く可能性があること、また、形状の制御因子が増えるため、再現性のよい形状制御が困難になることなどの理由による。
【0103】
このように本発明の金型の製造方法では、微細表面凹凸形状が形成された表面にクロムめっきを施すことにより、凹凸形状が鈍らせられるとともに、その表面硬度が高められた金型が得られる。この際の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、第1エッチング工程より得られた凹凸のサイズと深さ、まためっきの種類や厚みなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、やはりめっき厚みである。クロムめっきの厚みが薄いと、クロムめっき加工前に得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明基材上に転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、めっき厚みが厚すぎると、生産性が悪くなるうえに、ノジュールと呼ばれる突起状のめっき欠陥が発生してしまうため好ましくない。そこで、クロムめっきの厚みは1〜10μmの範囲内であるのが好ましく、3〜6μmの範囲内であるのがより好ましい。
【0104】
当該第2めっき工程で形成されるクロムめっき層は、ビッカース硬度が800以上となるように形成されていることが好ましく、1000以上となるように形成されていることがより好ましい。クロムめっき層のビッカース硬度が800未満である場合には、金型使用時の耐久性が低下するうえに、クロムめっきで硬度が低下することはめっき処理時にめっき浴組成、電解条件などに異常が発生している可能性が高く、欠陥の発生状況についても好ましくない影響を与える可能性が高いためである。
【0105】
また、本発明の金型の製造方法においては、上述した〔7〕感光性樹脂膜剥離工程と〔8〕第2めっき工程との間に、第1エッチング工程によって形成された凹凸面をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含むことが好ましい。第2エッチング工程では、感光性樹脂膜をマスクとして用いた第1エッチング工程によって形成された第1の表面凹凸形状15を、エッチング処理によって鈍らせる。この第2エッチング処理によって、第1エッチング処理によって形成された第1の表面凹凸形状15における表面傾斜が急峻な部分がなくなり、得られた金型を用いて製造された防眩フィルムの光学特性が好ましい方向へと変化する。図18には、第2エッチング処理によって、金型用基材7の第1の表面凹凸形状15が鈍化し、表面傾斜が急峻な部分が鈍らされ、緩やかな表面傾斜を有する第2の表面凹凸形状18が形成された状態が示されている。
【0106】
第2エッチング工程のエッチング処理も、第1エッチング工程と同様に、通常、塩化第二鉄(FeCl3)液、塩化第二銅(CuCl2)液、アルカリエッチング液(Cu(NH3)4Cl2)などを用い、表面を腐食させることによって行なわれるが、塩酸や硫酸などの強酸を用いることもできるし、電解めっき時と逆の電位をかけることによる逆電解エッチングを用いることもできる。エッチング処理を施した後の凹凸の鈍り具合は、下地金属の種類、エッチング手法、および第1エッチング工程により得られた凹凸のサイズと深さなどによって異なるため、一概にはいえないが、鈍り具合を制御する上で最も大きな因子は、エッチング量である。ここでいうエッチング量も、第1エッチング工程と同様に、エッチングにより削られる基材の厚みである。エッチング量が小さいと、第1エッチング工程により得られた凹凸の表面形状を鈍らせる効果が不十分であり、その凹凸形状を透明基材上に転写して得られる防眩フィルムの光学特性があまり良くならない。一方で、エッチング量が大きすぎると、凹凸形状がほとんどなくなってしまい、ほぼ平坦な金型となってしまうので、防眩性を示さなくなってしまう。そこで、エッチング量は1〜50μmの範囲内であることが好ましく、4〜20μmの範囲内であることがより好ましい。第2エッチング工程におけるエッチング処理についても、第1エッチング工程と同様に、1回のエッチング処理によって行なってもよいし、エッチング処理を2回以上に分けて行なってもよい。エッチング処理を2回以上に分けて行なう場合には、2回以上のエッチング処理におけるエッチング量の合計が1〜50μmであることが好ましい。
【0107】
本発明の金型の製造方法により得られる金型を用いることにより、微細凹凸表面形状が精度よく制御されて形成されるため、十分な防眩性を発現し、かつ、白ちゃけが発生せず、高精細な画像表示装置の表面に配置した際にもギラツキが発生せず、高いコントラストを示す防眩フィルムを得ることが可能となる。
【実施例】
【0108】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0109】
<実施例1>
直径200mmのアルミロール(JISによるA5056)の表面に銅バラードめっきが施されたものを用意する。銅バラードめっきは、銅めっき層/薄い銀めっき層/表面銅めっき層からなるものであり、めっき層全体の厚みは、約200μmとなるように設定する。その銅めっき表面を鏡面研磨し、研磨された銅めっき表面に感光性樹脂を塗布、乾燥して感光性樹脂膜を形成する。ついで、図7(d)に示されるミクロ相分離パターンの複数を連続して繰り返し並べてなるパターンを感光性樹脂膜上にレーザー光によって露光し、現像する。レーザー光による露光、および現像はLaser Stream FX((株)シンク・ラボラトリー製)を用いて行なう。感光性樹脂膜にはポジ型の感光性樹脂を使用する。また、図7(d)において計算機シミュレーションの長さの単位aは2μmに設定する。
【0110】
その後、塩化第二銅液で第1のエッチング処理を行なう。その際のエッチング量は7μmとなるように設定する。第1のエッチング処理後のロールから感光性樹脂膜を除去し、再度、塩化第二銅液で第2のエッチング処理を行なう。その際のエッチング量は18μmとなるように設定する。その後、クロムめっき加工を行ない、金型Aを作製する。このとき、クロムめっき厚みが4μmとなるように設定する。
【0111】
光硬化性樹脂組成物GRANDIC 806T(大日本インキ化学工業(株)製)を酢酸エチルにて溶解して、50重量%濃度の溶液とし、さらに、光重合開始剤であるルシリンTPO(BASF社製、化学名:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド)を、硬化性樹脂成分100重量部あたり5重量部添加して塗布液を調製する。厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム上に、この塗布液を乾燥後の塗布厚みが10μmとなるように塗布し、60℃に設定した乾燥機中で3分間乾燥させる。乾燥後のフィルムを、先に得られた金型Aの凹凸面に、光硬化性樹脂組成物層が金型側となるようにゴムロールで押し付けて密着させる。この状態でTACフィルム側より、強度20mW/cm2の高圧水銀灯からの光をh線換算光量で200mJ/cm2となるように照射して、光硬化性樹脂組成物層を硬化させる。この後、TACフィルムを硬化樹脂ごと金型から剥離して、表面に凹凸を有する硬化樹脂とTACフィルムとの積層体からなる、透明な防眩フィルムAを作製する。
【0112】
<実施例2>
レーザー光によって露光するパターンとして、図8(d)に示されるミクロ相分離パターンを用いること以外は実施例1と同様にして金型Bを得る。得られる金型Bを用いること以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムBを作製する。図8(d)において計算機シミュレーションの長さの単位aは1μmに設定する。
【0113】
<比較例1>
レーザー光によって露光するパターンとして、図19に示したような直径が14μmであるドットをランダムに配置した二値化された画像パターンを用いること以外は実施例1と同様にして金型Cを得る。得られる金型Cを用いること以外は、実施例1と同様にして防眩フィルムCを作製する。
【0114】
図20は、実施例1、実施例2および比較例1に用いたパターンから計算されたエネルギースペクトルG2(fx,fy)のfx=0における断面を示す。実施例1で用いたミクロ相分離パターンは、空間周波数0.057μm-1に極大値を有しており、実施例2で用いたミクロ相分離パターンは、空間周波数0.078μm-1に極大値を有しており、比較例1で用いたパターンは、空間周波数0.047μm-1に極大値を有している。また、図20より、実施例1および実施例2で用いたミクロ相分離パターンは、0.025μm-1より低い空間周波数成分が、比較例1で用いたパターンよりも少なく、巨視的に均一であることが分かる。これより、本発明の方法によって作製される防眩フィルムAおよびBにおいては、微細凹凸表面の形成に用いたパターンが、巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有するというブロック共重合体のミクロ相分離構造の特性を有し、かつ、相関長が適切に設定されているため、得られる微細凹凸表面も巨視的には均一でありながら、所定の相関長を有することとなり、ギラツキが発生せず、十分な防眩性を示し、白ちゃけも発生しないものとなる。また、ヘイズも低いため、画像表示装置に配置した際にもコントラストの低下を引き起こすことが無い。対して、ミクロ相分離パターンを用いないパターンを用いて作製される防眩フィルムCは、パターンの低空間周波数成分がミクロ相分離パターンよりも大きいため、ランダムな長周期の微細凹凸表面を有することなり、ギラツキが発生するものとなる。
【0115】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0116】
A,B,C,D,1,2 セグメント、3 セグメントの中心間を結ぶ結合、P 着目したセグメント、4 セグメントPとは異種のセグメントが配置された際にポテンシャルの発生する格子点、7 金型用基材、8 研磨工程によって研磨された基材の表面、9 感光性樹脂膜、10 露光工程において露光された感光性樹脂膜、11 露光工程において露光されない感光性樹脂膜、12 マスク、13 マスクの無い箇所、14 エッチングによって段階的に形成される表面、15 第1エッチング工程後の基材表面(第1の表面凹凸形状)、16 クロムめっき層、17 クロムめっきの表面、18 第2エッチング工程後の基材表面(第2の表面凹凸形状)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の同種単量体単位の集合であるセグメントを構成単位とし、異種の単量体単位から構成された2種以上のセグメントからなるブロック共重合体をモデルとして、計算機シミュレーションにより前記ブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算する工程と、
前記ミクロ相分離構造に基づいて、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを作成する工程と、
前記ミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に凹凸表面を形成する工程と、
を含む、防眩フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記計算機シミュレーションの長さの単位を調整することにより、前記ミクロ相分離パターンのエネルギースペクトルが有する極大値の位置が、空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内に制御される請求項1に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記凹凸表面を形成する工程において、前記凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、前記ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに対応するように形成される請求項1または2に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに着目して、階調を有する画像データとしてミクロ相分離パターンを作成し、
前記凹凸表面を形成する工程において、前記凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、前記ミクロ相分離パターンの階調に対応するように形成される請求項1〜3のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ミクロ相分離パターンは、0と1に二値化された画像データであり、
前記凹凸表面を形成する工程において、前記凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、前記ミクロ相分離パターンの0である領域に対応するように形成される請求項4に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項6】
2次元系の計算機シミュレーションにより前記ブロック共重合体のミクロ相分離構造が計算される請求項1〜5のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ブロック共重合体は、第1のセグメントおよび前記第1のセグメントを構成する単量体単位とは異種の単量体単位から構成された第2のセグメントを構成単位とする2元ブロック共重合体である請求項1〜6のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記2元ブロック共重合体を構成する第1のセグメントの数と第2のセグメントの数とは同じである請求項7に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記計算機シミュレーションは、結合揺動法を用いて行なわれる請求項1〜8のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記凹凸表面を形成する工程は、前記ミクロ相分離パターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製し、前記金型の凹凸面を前記透明基材上に転写する工程を含む請求項1〜9のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の金型を製造する方法であって、
金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、
第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、
研磨された面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、
感光性樹脂膜上に前記ミクロ相分離パターンを露光する露光工程と、
前記ミクロ相分離パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、
現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行ない、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、
感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、
形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程と、
を含む、金型の製造方法。
【請求項12】
前記感光性樹脂膜剥離工程と前記第2めっき工程との間に、形成された凹凸面の凹凸形状をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含む、請求項11に記載の金型の製造方法。
【請求項13】
前記第2めっき工程におけるクロムめっきにより形成されるクロムめっき層の厚みは、1〜10μmであり、
前記第2めっき工程において形成されるクロムめっきが施された凹凸面が、前記透明基材上に転写される金型の凹凸面である、請求項11または12に記載の金型の製造方法。
【請求項1】
複数の同種単量体単位の集合であるセグメントを構成単位とし、異種の単量体単位から構成された2種以上のセグメントからなるブロック共重合体をモデルとして、計算機シミュレーションにより前記ブロック共重合体のミクロ相分離構造を計算する工程と、
前記ミクロ相分離構造に基づいて、エネルギースペクトルが空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内において極大値を示すミクロ相分離パターンを作成する工程と、
前記ミクロ相分離パターンを用いて、透明基材上に凹凸表面を形成する工程と、
を含む、防眩フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記計算機シミュレーションの長さの単位を調整することにより、前記ミクロ相分離パターンのエネルギースペクトルが有する極大値の位置が、空間周波数0.025〜0.125μm-1の範囲内に制御される請求項1に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記凹凸表面を形成する工程において、前記凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、前記ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに対応するように形成される請求項1または2に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ミクロ相分離構造における少なくとも1種のセグメントに着目して、階調を有する画像データとしてミクロ相分離パターンを作成し、
前記凹凸表面を形成する工程において、前記凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、前記ミクロ相分離パターンの階調に対応するように形成される請求項1〜3のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記ミクロ相分離パターンは、0と1に二値化された画像データであり、
前記凹凸表面を形成する工程において、前記凹凸表面は、これを構成する凹部または凸部が、前記ミクロ相分離パターンの0である領域に対応するように形成される請求項4に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項6】
2次元系の計算機シミュレーションにより前記ブロック共重合体のミクロ相分離構造が計算される請求項1〜5のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記ブロック共重合体は、第1のセグメントおよび前記第1のセグメントを構成する単量体単位とは異種の単量体単位から構成された第2のセグメントを構成単位とする2元ブロック共重合体である請求項1〜6のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記2元ブロック共重合体を構成する第1のセグメントの数と第2のセグメントの数とは同じである請求項7に記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記計算機シミュレーションは、結合揺動法を用いて行なわれる請求項1〜8のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記凹凸表面を形成する工程は、前記ミクロ相分離パターンを用いて、凹凸面を有する金型を作製し、前記金型の凹凸面を前記透明基材上に転写する工程を含む請求項1〜9のいずれかに記載の防眩フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載の金型を製造する方法であって、
金型用基材の表面に銅めっきまたはニッケルめっきを施す第1めっき工程と、
第1めっき工程によってめっきが施された表面を研磨する研磨工程と、
研磨された面に感光性樹脂膜を形成する感光性樹脂膜形成工程と、
感光性樹脂膜上に前記ミクロ相分離パターンを露光する露光工程と、
前記ミクロ相分離パターンが露光された感光性樹脂膜を現像する現像工程と、
現像された感光性樹脂膜をマスクとして用いてエッチング処理を行ない、研磨されためっき面に凹凸を形成する第1エッチング工程と、
感光性樹脂膜を剥離する感光性樹脂膜剥離工程と、
形成された凹凸面にクロムめっきを施す第2めっき工程と、
を含む、金型の製造方法。
【請求項12】
前記感光性樹脂膜剥離工程と前記第2めっき工程との間に、形成された凹凸面の凹凸形状をエッチング処理によって鈍らせる第2エッチング工程を含む、請求項11に記載の金型の製造方法。
【請求項13】
前記第2めっき工程におけるクロムめっきにより形成されるクロムめっき層の厚みは、1〜10μmであり、
前記第2めっき工程において形成されるクロムめっきが施された凹凸面が、前記透明基材上に転写される金型の凹凸面である、請求項11または12に記載の金型の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2010−286528(P2010−286528A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138104(P2009−138104)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]