説明

防食用組成物

【課題】電子デバイスの無機物、有機物の剥離液、除去液、エッチング液、洗浄液と併せて用いることにより、それら薬液の剥離、除去、エッチング、洗浄機能に悪影響することなく、金属アルミ又はアルミ合金を腐食しない防食用組成物を提供する。
【解決手段】フッ化物と環状アミン、特に2種以上の環状アミンの混合組成物、或いはフッ化物、環状アミン、アルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンの混合組成物では、他の剥離液、除去液、エッチング液、洗浄液と併せて用いることにより、それらの薬液の機能を損なうこと無く、金属アルミ又はアルミ合金の腐食を著しく抑制することができる。環状アミンとしては、ピペラジン類、モルホリン類、ピロリジン類等が例示できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイス等の製造プロセスにおいて有機物、無機物を剥離、除去、エッチング、洗浄等をする際に、アルミニウム又はアルミニウム合金に対して防食性を付与する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属アルミは加工しやすく、電気抵抗が低いため、半導体、LCDなどフラットパネルディスプレー等の電子デバイスの配線材として広く使用されている。
【0003】
電子デバイスの洗浄時に製造工程においては、現像液、エッチング液、洗浄液、レジスト剥離液、ポリマー除去液など多くの薬液が使用されている。これらの薬液にはアミンを使用しているものが多い。アミンは金属イオンを含まない塩基成分として広く使用されているが、アルミを激しく腐食するため、限られた条件でしか使用することができなかった。また、薬液の中にはフッ化物が含有されている薬液も多い。フッ化物は種々の無機物と水溶性の錯塩を形成し、また有機物の結合を切断するため多くの薬液で使用されている。しかし、フッ化水素酸のようなフッ化物も金属アルミを激しく腐食し、溶解させてしまうため限られた条件でしか使用できなかった。
【0004】
一方、フッ化物と併用できる防食剤としては、芳香族ヒドロキシ化合物、アセチレンアルコール、カルボキシ基含有有機化合物、トリアゾール化合物のような防食剤が知られている(特許文献1)。しかし、これらの防食剤は有機溶媒と併用しないと効果が充分発現されなかった。
【0005】
一方、Al、Al−Si、Al−Cu、Al−Si−Cu等の金属に対して腐食を防止したホトレジストの剥離液、除去液、あるいは洗浄液そのものとして、フッ化水素、複素環式アミンを含む塩基、水溶性有機溶媒、一定の酸解離乗数を有するアミン、水を含む組成物が提案されている(例えば特許文献2参照)。しかし、この様な組成物は、アミンをフッ化水素酸で中和することにより、pHをコントロールして、Alの腐食を抑制するものではあるが、Alの腐食を充分には抑制できず、水溶性有機溶媒の併用が必須であった。近年、環境に対する負荷軽減のため、有機溶媒を削減する動向があるが、有機溶媒を使用しない場合、あるいは水の含有量が50%を超えるような条件で、金属アルミを腐食しないアミン及びフッ化物を含有する防食用組成物はなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−202052
【特許文献2】特許第3410434号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の課題に鑑み、半導体やLCD等の電子デバイスの製造工程に用いられる剥離液、除去液、エッチング液、洗浄液等とあわせて用いることにより、金属アルミ又はアルミ合金の腐食を防止する組成物、特に50%を超える水を含む系において、使用できる防食用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、有機物、無機物の剥離、除去、エッチング、洗浄等における金属アルミ又はアルミ合金の防食について鋭意検討した結果、特定のフッ化物と環状アミンを組み合わせた組成物では、成分にフッ化物を含んでいるにもかかわらず、環状アミン単独、あるいは他のアミン単独の場合より金属アルミ又はアルミ合金の防食性に優れ、中でも50%を超える水を含む系において金属アルミ又はアルミ合金の腐食が著しく抑制されることを見いだし、本発明を完成させるに至ったものである。
【0009】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0010】
本発明の組成物の必須成分は、フッ化物及び環状アミンであり、特に2種類以上の環状アミンを含むものが好ましい。フッ化物、環状アミンのどちらかが欠けても、金属アルミやアルミ合金の腐食が大きくなる。
【0011】
本発明の組成物において特に効果のある環状アミンを例示すると、ピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ヒドロキシエチルピペラジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピロリジン、N−メチルピロリジンを挙げることができる。これらの環状アミンを使用すると、金属アルミやアルミ合金の腐食を抑制することができる。これらの環状アミンは2種類以上を併用するか、1種類とする場合にはさらにアルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンと併用することが特に好ましい。
【0012】
アルキレンアミンを例示すると、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びこれらのメチル化体、例えばペンタメチルジエチレントリアミンなどが挙げられる。
【0013】
アルカノールアミンを例示すると、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドロキシエチルピペラジン及びこれらのメチル化体が挙げられる。
【0014】
本発明の組成物におけるフッ化物は、環状アミンと混合すると、環状アミンの一部あるいは全部が環状アミンのフッ酸塩に変化するものであればよい。例えば、フッ化水素(水溶液中ではフッ化水素酸)、フッ化アンモニウム、アミン類のフッ酸塩などが挙げられる。中でもフッ化水素、フッ化アンモニウムが安価で、入手しやすいため、工業的には有利である。
【0015】
本発明の組成物は、金属アルミやアルミ合金を腐食することなく用いることができる。金属アルミ及びアルミ合金としては、Al及びAl−Cu、Al−Si、Al−Si−Cuなどが挙げられる。
【0016】
本発明の組成物は水の存在下で使用することができる。一般に金属アルミやアルミ合金は水溶液の方が腐食されやすいが、本発明の組成物を使用すれば、水が存在しても金属アルミやアルミ合金の腐食は抑制される。
【0017】
本発明の組成物において、金属アルミやアルミ合金に対するダメージの低減、表面張力の低減、有機物に対する洗浄力の向上などの目的で、さらに水溶性有機溶媒を添加することもできる。水溶性有機溶媒としては、アルコール、エーテル、アミド、エステル、スルホキシド、アミンオキシド、ニトリル、アルカノールアミンから成る群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
本発明の組成物をフッ化物、環状アミン、特に2種類以上の環状アミン、或いは環状アミンとアルキレンアミン及び/又はアルカノールアミン、水の組合せで用いる場合、おおよそ剥離用組成物全体に対し、フッ化物が0.01〜20重量%、トータル環状アミンが0.01〜40重量%、アルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンが0.01〜40重量%、水が50.1〜99.9重量%であることが好ましい。
【0019】
フッ化物が0.01重量%未満であると、フッ化物を使用する効果が小さく、20重量%を超えると、防食剤としての働きがなくなり、金属アルミが腐食されてしまう。また、トータル環状アミンが0.01重量%未満であると、環状アミンを使用する効果が小さく、40重量%を超えると、ピペラジンなどの環状アミンは固体として析出してしまい、取扱が困難になる。アルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンが、0.01重量%未満であると、アルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンを使用する効果が小さく、40重量%を超えると金属アルミの腐食が大きくなってしまう。水の量は50.1%未満であると、ピペラジンなどの環状アミンが固体として析出するため取り扱いが難しくなる。また99.9重量%を超えるとフッ化物及び環状アミンを加えた効果が小さくなる。
【0020】
本発明の組成物は、電子デバイスの製造工程において各種成分の剥離用の薬液等に添加する防食成分として使用することができ、さらにはフッ化物とアミンの比率を選択することにより、防食機能に加えて一部剥離、除去、洗浄効果を付与することもできる。ここで電子デバイスとは、LCDモジュール、PDPモジュール、有機ELモジュールなどのフラットパネルディスプレーや半導体が例示できるが、それらに限定されるものではない。本発明の組成物は、これら電子デバイスの製造プロセスにおいて発生する有機物、無機物の剥離液、除去液、エッチング液、洗浄液に添加する防食用の成分として使用することができる。特に電子デバイス製造プロセス上発生する不要な有機物、無機物を剥離、除去、エッチング、洗浄等する液に添加する防食用の成分として用いられる。
【0021】
電子デバイスの製造プロセスにおいて発生する有機物としてはレジストやレジスト残渣、反射防止膜、ギャップフィル材、絶縁膜が例示できる。
【0022】
電子デバイスの製造プロセスにおいて発生する無機物としては、金属チタン、金属タンタル、窒化チタン、窒化タンタル、カーボン、ケイ素酸化物、アルミ酸化物、チタン酸化物、セリウム酸化物、タンタル酸化物、銅酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、クロム酸化物が例示できる。これらの無機物は、電子デバイスの製造プロセスにおいて、例えばアッシングなどの処理の過程で生成するものである。本発明の組成物を他の剥離液、除去液、洗浄液とあわせて使用すれば、金属アルミやアルミ合金にはダメージを与えることなく、剥離、除去、洗浄が出来、これらの無機物の剥離、除去、エッチング、洗浄等の機能に対して悪影響がない。
【0023】
本発明の組成物の使用温度は、あわせ用いる薬液にもよるが、0〜100℃の範囲が好ましい。例えば、剥離液、除去液、洗浄液と用いる場合、通常は0℃未満では、洗浄速度が現実的でないほど遅くなる。一方、100℃を越える温度では、本発明の組成物であるフッ化物、水、有機溶媒の蒸散、蒸発が激しく、実用的ではない。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、他の剥離液、除去液、洗浄液と併せて用いることにより、それらの剥離性、除去性、洗浄性に影響を与えることなく、金属アルミやアルミ合金に対する腐食を防止することができる。
【実施例】
【0025】
本発明を以下の実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表記を簡潔にするため、以下の略記号を使用した。
PZ:ピペラジン
PD:ピペリジン
NMM:N−メチルモルホリン
NEM:N−エチルモルホリン
MHEP:N−メチル-N’−ヒドロキシエチルピペラジン
HF:フッ化水素酸
NH4F:フッ化アンモニウム
DEG:ジエチレングリコール
NMP:メチルピロリドン
DMSO:ジメチルスルホキシド
MEA:モノエタノールアミン
PMDETA:ペンタメチルジエチレントリアミン
実施例1〜13、比較例1〜7
あらかじめ重量を精秤した金属アルミのテストピースを、表1の組成物に50℃で1時間、浸漬した。浸漬後、水洗、乾燥し、その重量減少から金属アルミの腐食速度を求めた。その結果を表1に示した。なお、表1の組成物の残部は水である。
【0026】
【表1】

本発明の組成物は、いずれもアルミの腐食速度が小さかった。
実施例14
本発明の組成として0.2重量%HF、2.8重量%PZ、0.2重量%MEAに、レジストエッチング成分として汎用のNMPを30重量%混合した液(残りは水)に、砒素を10の14乗レベルでイオン注入したi線用レジストを成膜したシリコンウエハを室温で5分間浸漬した。その後、水洗、乾燥し、表面状態を観察した。なお、レジスト剥離性の評価は、以下のようにした。その結果、レジストは完全に剥離した。
【0027】
本発明の組成物は、アルミに対する高い防食機能に加えて、高いレジストの剥離性能が認められた。
実施例15
窒化ケイ素を成膜したシリコンウエハを、0.1%シリカゾル水溶液に浸漬し、乾燥した。実施例14と同じ液に、これを70℃で10分浸漬した。その後、水洗、乾燥し、表面状態を観察した。その結果、シリカは完全に除去されていた。
【0028】
本発明の組成物は、アルミの防食機能に加えて高いシリカ除去性能も認められた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化物及び環状アミンを含んでなる金属アルミ及び/又はアルミ合金の防食用組成物。
【請求項2】
フッ化物、環状アミン、さらにアルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンを含んでなる請求項1に記載の防食用組成物。
【請求項3】
環状アミンが2種類以上の環状アミンの組み合わせである請求項1〜2に記載の防食用組成物。
【請求項4】
フッ化物が、フッ化水素及び/又はフッ化アンモニウムである請求項1〜3に記載の組成物。
【請求項5】
環状アミンが、ピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、N−メチル−N’−ヒドロキシエチルピペラジン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピペリジン、N−メチルピペリジン、ピロリジン、N−メチルピロリジンから成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4に記載の組成物。
【請求項6】
アルキレンアミン及び/又はアルカノールアミンが、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−アミノエチルピペラジン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン及びこれらのメチル化体、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、プロパノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、ヒドロキシエチルピペラジン及びこれらのメチル化体から成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
金属アルミ及び/又はアルミ合金が、Al、Al−Cu、Al−Si、Al−Si−Cuから成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
水を含んでなる請求項1〜7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
フッ化物が0.01〜20重量%、環状アミンが0.01〜40重量%、エチレンアミン及び/又はエタノールアミンが0.01〜40重量%、水が50.1〜99.9重量%である請求項1〜8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
電子デバイスの製造プロセスにおいて生成する有機物、無機物を剥離、除去、エッチング又は洗浄する際に使用する請求項1〜9のいずれかに記載の組成物。
【請求項11】
電子デバイスが、半導体又はフラットパネルディスプレーである請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
有機物、無機物が、レジスト、レジスト残渣、反射防止膜、ギャップフィル材、絶縁膜、金属チタン、金属タンタル、窒化チタン、窒化タンタル、カーボン、ケイ素酸化物、アルミ酸化物、チタン酸化物、セリウム酸化物、タンタル酸化物、銅酸化物、モリブデン酸化物、タングステン酸化物、クロム酸化物から成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項10〜11に記載の組成物。

【公開番号】特開2006−169553(P2006−169553A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360314(P2004−360314)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】