説明

降伏強度が低く、材質変動の小さい高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法

【課題】YPが低く、材質変動の小さい高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供する。
【解決手段】鋼の成分組成として、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.2%以下、Mn:2%未満、P:0.04%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.3%以下、N:0.01%以下、Cr:0.3%超2%以下を含有し、更に2.1≦[Mneq]≦3および0.24≦[%Cr]/[%Mn]を満足し、残部鉄および不可避不純物からなり、鋼の組織として、フェライトと第2相を有し、第2相の面積率が2〜25%、第2相におけるパーライトもしくはベイナイトの面積率が0%以上20%未満、第2相の平均粒子径が0.9〜7μm、かつ第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率が15%未満であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板;ここで、[Mneq]はMn当量であり、[Mneq]=[%Mn]+1.3[%Cr]を表し、[%Mn]、[%Cr]は、Mn、Crのそれぞれの含有量を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車、家電等においてプレス成形工程を経て使用されるプレス成形用高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フード、ドア、トランクリッド、バックドア、フェンダーといった耐デント性の要求される自動車外板パネルには、極低炭素鋼をベースにNb、Ti等の炭窒化物形成元素を添加して固溶C量を制御した引張強度TS:340MPaクラスのBH鋼板(焼付け硬化型鋼板、以後、単に340BHと呼ぶ)やTS:270MPaクラスのIF鋼板(Interstitial Free鋼板、以後、単に270IFと呼ぶ)が適用されてきた。近年、車体軽量化ニーズの更なる高まりから、これらの外板パネルを更に高強度化して耐デント性を向上させ、鋼板を薄肉化しようとする検討が進められている。また、現状と同板厚で高強度化により耐デント性の向上を図ろうとする検討やBHの付与される焼付け塗装工程の低温、短時間化を図ろうとする検討も進められている。
【0003】
しかしながら、降伏強度YP:230MPaの340BHやYP:180MPaの270IFをベースに更にMn、P等の固溶強化元素を添加して高強度化し、鋼板を薄肉化しようとすると、面歪の問題が生じる。ここで、面歪とは、YPの増加により生じるプレス成形面の微小なしわ、うねり状の模様であり、この面歪が生じるとドアやトランクリッドなどの意匠性、デザイン性を著しく損なう。このため、このような用途では、プレスおよび焼付け塗装後の降伏応力YPは従来以上に増加させつつも、プレス成形前には極力低いYPを有することが望まれる。
【0004】
このような背景から、例えば、特許文献1には、C:0.005〜0.15%、Mn:0.3〜2.0%、Cr:0.023〜0.8%を含有する鋼の焼鈍後の冷却速度を適正化し、主としてフェライトとマルテンサイトからなる複合組織を形成させることで、低いYP、高い加工硬化WH、高いBHを兼ね備えた鋼板を得る方法が開示されている。また、特許文献2には、C:0.005〜0.05%、Mn:3%以下を含有する鋼においてマルテンサイトの平均粒子径を1.5μm以下、第2相におけるマルテンサイトの割合を60%以上として、更にフェライト粒の個数に対するマルテンサイト粒子の個数の比を0.7〜2.4とすることで耐面歪性と耐割れ成形性の両立を図る方法が開示されている。特許文献3には、C:0.010〜0.06%、Mn:0.5〜2.0%、Cr:1%以下を含有する鋼の焼鈍後の冷却速度を適正化し、第2相中のマルテンサイトの割合を80%以上に高め、高延性で降伏比YRの低い鋼板が得られることが開示されている。更に、特許文献4には、Mn:1.5〜2.5%、Cr:0.03〜0.5%を含有する鋼でC:0.02〜0.033%とC量を少なくすることでフェライトとマルテンサイトからなるYPの低い複合組織鋼板が得られることが開示されている。
【特許文献1】特公昭62-40405号公報
【特許文献2】特開2004-307992号公報
【特許文献3】特開2001-207237号公報
【特許文献4】特開2001-303184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に記載の複合組織鋼板では、強化組織として硬質なマルテンサイトを分散させているので、本質的に材料特性の変動が生じやすい。例えば、硬質第2相の割合は鋼中の数10ppmのC量や30〜50℃の焼鈍温度の変化により顕著に変化するので、従来のMn、Pで固溶強化した340BHや270IFと比べて極めて大きな材質変動を生じる。
【0006】
また、外板パネル部品の更なる高強度化あるいは鋼板を薄肉化した上で、塗装焼付け工程の低温、短時間化を図ろうとする場合、TS:490〜590MPaクラスの鋼板が求められるが、このような高強度鋼板では材質変動が極めて大きいことが問題となる。
【0007】
更に、特許文献1〜4に記載の鋼板では、TS:440MPa程度、YP:210〜260MPa程度であり、従来の固溶強化型のTS:440MPaクラスのIF鋼のYP:320MPaと比べると、YPは低く抑えられているので耐面歪性は改善されるが、実際のドアなどにプレス成形を行うと、340BHと比べて面歪の発生量は依然として大きく、YPの絶対値もより一層低減することが望まれている。
【0008】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、YPが低く、材質変動の小さい高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来の複合組織を有する高強度溶融亜鉛めっき鋼板について、YPを従来と同等かさらに低減しつつ、製造因子の変動によるYPの変動量ΔYPを低減する方法について検討を行ったところ、以下の知見を得た。
(i) Mn当量およびMnとCrの組成範囲を適正に制御し、更に連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)における焼鈍時の加熱速度と冷却速度を適正に制御することで、焼鈍後に緩冷却が施されるCGLの熱履歴においても第2相の粗大化、分散形態の均一化が図られ、YPの低減と材質変動の低減を両立することができる。
(ii) 熱間圧延後に急速冷却し、冷間圧延率を適正化することで、圧延方向に対して45度方向のYPが圧延方向および圧延直角方向のYPと同等レベルまで低減でき、自動車のドアなどの面歪の生じやすい取手周りにおいて、面歪を効果的に低減できる。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたもので、鋼の成分組成として、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.2%以下、Mn:2%未満、P:0.04%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.3%以下、N:0.01%以下、Cr:0.3%超2%以下を含有し、更に2.1≦[Mneq]≦3および0.24≦[%Cr]/[%Mn]を満足し、残部鉄および不可避不純物からなり、鋼の組織として、フェライトと第2相を有し、第2相の面積率が2〜25%、第2相におけるパーライトもしくはベイナイトの面積率が0%以上20%未満、第2相の平均粒子径が0.9〜7μm、かつ第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率が15%未満であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。ここで、[Mneq]はMn当量であり、[Mneq]=[%Mn]+1.3[%Cr]を表し、[%Mn]、[%Cr]は、Mn、Crのそれぞれの含有量を表す。
【0011】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板においては、2.2<[Mneq]<2.9を満足させたり、0.34≦[%Cr]/[%Mn]を満足させることが好ましい。
【0012】
更に、質量%で、B:0.005%以下を含有させることが好ましい。また、質量%で、Mo:0.15%以下およびV:0.2%以下のうちの少なくとも1種を含有させることが好ましい。更にまた、質量%で、Ti:0.014%未満、Nb:0.01%未満、Ni:0.3%以下およびCu:0.3%以下のうちの少なくとも1種を含有させることが好ましい。
【0013】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、上記の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延および冷間圧延した後、CGLにおいて、680〜740℃の温度範囲を3℃/sec未満の平均加熱速度で加熱し、740℃超820℃未満の焼鈍温度で焼鈍し、前記焼鈍温度から3〜20℃/secの平均冷却速度で冷却し、亜鉛めっき浴に浸漬後、あるいは前記亜鉛めっき浴に浸漬後更にめっきの合金化処理を施した後、7〜100℃/secの平均冷却速度で冷却することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法により製造できる。
【0014】
本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法では、CGLにおいて、680〜740℃の温度範囲を2℃/sec未満の平均加熱速度で加熱することが好ましい。また、熱間圧延後、3sec以内に冷却を開始して、40℃/sec以上の平均冷却速度で600℃以下まで冷却し、その後400〜600℃の巻取温度で巻き取り、70〜85%の圧延率で冷間圧延することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、YPが低く、材質変動の小さい高強度溶融亜鉛めっき鋼板を製造できる。本発明の高強度溶融亜鉛めっき鋼板は、優れた耐面歪性を備えているため、自動車部品の高強度化、薄肉化に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の詳細を説明する。なお、成分の量を表す%は、特に断らない限り質量%を意味する。
【0017】
1) 成分組成
C:0.01〜0.12%
Cは所定量の第2相の面積率を確保するために必要な元素である。C量が少なすぎると十分な第2相の面積率が確保できなくなり、低いYPが得られなくなる。更に、十分なBHが確保できなくなると同時に耐時効性も劣化する。十分な第2相の面積率を確保するためにはC量は0.01%以上添加する必要がある。一方、C量が0.12%超となると第2相の面積率が多くなりすぎてYPが増加し、焼鈍温度に対するΔYPも増加する。また、溶接性も劣化する。したがって、C量は0.12%以下とする。より低いYPを得るためにはC量は0.08%未満とすることが好ましく、更に低いYPを得るためにC量は0.06%未満とすることがより好ましい。
【0018】
Si:0.2%以下
Siは微量添加することで熱間圧延でのスケール生成を遅延させて表面品質を改善する効果、めっき浴中あるいは合金化処理中の地鉄と亜鉛の合金化反応を適度に遅延させる効果、鋼板のミクロ組織をより均一、粗大化する効果等があるので、このような観点から添加することができる。しかしながら、Siを0.2%超えで添加するとめっき外観品質が劣化して外板パネルへの適用が難しくなるとともにYPの上昇を招くので、Si量は0.2%以下とする。
【0019】
Mn:2%未満
Mnは焼入れ性を高め、焼鈍後の冷却時および合金化処理時のパーライトおよびベイナイトの生成を抑制し、フェライト中の固溶Cを低減するので、低YP化の観点から添加される。しかしながら、その含有量が多すぎると第2相が微細化、不均一化して焼鈍温度に対するΔYPが大きくなる。つまり、Mn量が増加しすぎると再結晶温度が低くなり、再結晶直後の微細なフェライト粒界あるいは再結晶途中の回復粒の界面にγ粒が微細かつ不均一に生成し、後述する粒子径0.8μm未満の第2相粒子の面積率が焼鈍後の組織において増加する。その結果、低YP化やΔYPの低減が阻害される。低YP化とともに、焼鈍温度に対するΔYPを小さくするためには、Mn量は2%未満にする必要がある。より一層ΔYPを低減し、低YP化する観点からはMn量は1.8%未満とすることが望ましい。更なるΔYP低減、低YP化の観点からは、Mn量は1.6%未満とすることがより望ましい。Mn量の下限は特に設けないが、Mn量が0.1%以下ではMnSの析出による赤熱脆性が生じて表面欠陥が生じやすくなるので、Mn量は0.1%超えとするのが望ましい。
【0020】
P:0.04%以下
Pはめっき浴中あるいは合金化処理中の地鉄と亜鉛の合金化反応を適度に遅延させる効果、鋼板のミクロ組織をより粗大化する効果等があるので、このような観点から添加することができる。しかしながら、Pは固溶強化能が大きく、過剰に添加されると著しいYPの上昇を招く。したがって、P量はYP上昇への悪影響の小さい0.04%以下とする。
【0021】
S:0.02%以下
Sは鋼中でMnSとして析出するが、その含有量が多いと鋼板の延性を低下させ、プレス成形性を低下させる。また、スラブを熱間圧延する際に熱間延性を低下させ、表面欠陥を発生させやすくする。このため、S量は0.02%以下とするが、少ないほど好ましい。
【0022】
sol.Al:0.3%以下
Alは脱酸元素、あるいはNをAlNとして固定して耐時効性を向上させる元素として利用されるが、熱間圧延後の巻き取り時もしくは焼鈍時に微細なAlNを形成してフェライトの粒成長を抑制し、低YP化をわずかに阻害する。鋼中の酸化物を低減する、あるいは耐時効性を向上させる観点からは、Alは0.02%以上添加するのが良い。一方、粒成長性を向上させる観点からは、巻取温度を620℃以上に高温化することでフェライトの粒成長性は向上するが、微細なAlNは少ないほど好ましい。それには、sol.Al量を0.15%以上としAlNを巻き取り時に粗大に析出させることが好ましいが、0.3%を超えるとコスト増を招くので、sol.Al量は0.3%以下とする。ただし、sol.Al量が0.1%を超えて添加されると、鋳造性を劣化させ、表面品質の劣化原因になるので、表面品質を厳格管理することが求められる外板パネル用途では、sol.Al量は0.1%以下とするのが好ましい。
【0023】
N:0.01%以下
Nは、熱間圧延後の巻き取り時もしくは焼鈍時に析出して微細なAlNを形成し、粒成長性を阻害する。このため、N量は0.01%以下とするが、少ないほど好ましい。また、N量が増加すると耐時効性の劣化を招く。粒成長性の向上ならびに耐時効性の向上の観点からは、N量は0.008%未満とすることが望ましく、さらには0.005%未満とすることがより好ましい。
【0024】
Cr:0.3%超2%以下
Crは本発明で最も重要な元素である。固溶強化量が小さく、マルテンサイトを微細化する効果が小さく、かつ高い焼入れ性を付与できるため、YPの絶対値を低減し、同時に焼鈍温度に対するΔYPを低減するのにも有効な元素である。後述するとおり、Cr量はMn量に応じて[Mneq]や[%Cr]/[%Mn]が上記の範囲になるように制御する必要があるが、少なくとも0.3%を超えて添加する必要がある。また、後述するYPおよび材質変動ΔYPの低減に特に好適な範囲である[Mneq]>2.2、[%Cr]/[%Mn]≧0.34に制御する場合には、Crの含有量は少なくとも0.5%超が必要となる。一方、Cr量が2%を超えるとコスト増やめっき鋼板の表面品質の劣化を招くので、Cr量は2%以下とする。
【0025】
[Mneq]:2.1〜3
[Mneq]は焼鈍後の冷却中、合金化処理中にパーライトおよびベイナイトが生じるのを抑制し、低YP化および焼鈍温度に対するΔYPを低減するために2.1以上にする必要がある。更にパーライトの生成を低減してYPを低減する観点から、[Mneq]は2.2超にするのが望ましい。パーライトおよびベイナイトをCGLの熱履歴でほぼ完全に消失させ、YPを低減するためには、[Mneq]は2.3超とすることがより一層望ましい。一方、[Mneq]が増加しすぎるとめっき表面の外観品質の劣化や合金元素の多量添加によるコスト増を招くので、[Mneq]は3以下、好ましくは2.9未満とする。
【0026】
[%Cr]/[%Mn]:0.24以上
[%Cr]/[%Mn]は、第2相の粗大化とその分散形態の均一化による低YP化の観点から、0.24以上にする必要がある。更に、[%Cr]/[%Mn]をこの範囲に制御することにより、焼鈍温度に対するΔYPが低減される。つまり、[Mneq]を制御することでパーライト、ベイナイトの生成が抑制されるが、同一[Mneq]でもMn量が多いと組織が微細化して材質変動の低減につながらない。これに対して、[%Cr]/[%Mn]を所定範囲に制御することで組織の均一、粗大化が図れ、焼鈍温度が変化して第2相の面積率が変化したときの強度変化が小さく抑えられる。低YP化ならびに焼鈍温度に対するΔYPのさらなる低減の観点からは[%Cr]/[%Mn]≧0.34とすることが望ましく、より好ましい範囲は[%Cr]/[%Mn]≧0.44である。
【0027】
残部は、鉄および不可避不純物であるが、更に以下の元素を所定量含有させることもできる。
【0028】
B:0.005%以下
Bは同様に焼入れ性を高める元素として活用することができる。また、NをBNとして固定して粒成長性を向上させる作用がある。特に、本発明鋼においてBを0.001%超、添加することで、フェライトの粒成長性の向上効果も十分に発揮され、極めて低いYPを得ることができる。したがって、Bは0.001%超含有させることが望ましい。しかしながら、Bを過剰に添加すると残存する固溶Bの影響で組織が逆に微細化するので、B量は0.005%以下とすることが望ましい。
【0029】
Mo:0.15%以下
MoはMn、Crと同様に焼入れ性を高める元素であり、焼入性を改善する目的、あるいは、めっき鋼板の表面品質を改善する目的で添加することができる。しかしながら、Moは、過剰に添加されると、Mnと同様に組織を微細化、硬質化して、焼鈍温度に対するΔYPを増加させるので、本発明ではYPならびに焼鈍温度に対するΔYP上昇への影響が小さい0.15%以下の範囲で添加することが好ましい。YPならびにΔYPを一層低減する観点からは、Mo量は0.02%未満(無添加)とすることが望ましい。
【0030】
V:0.2%以下
Vは同様に焼入れ性を高める元素であり、めっき鋼板の表面品質を改善する目的で添加することができる。しかしながら、0.2%を超えて添加すると著しいコスト上昇を招くので、Vは0.2%以下の範囲で添加することが好ましい。
【0031】
Ti:0.014%未満
TiはNを固定して耐時効性を向上させる効果や鋳造性を向上させる効果がある。しかし、鋼中でTiN、TiC、Ti(C,N)等の微細な析出物を形成し粒成長性を阻害するので、低YP化の観点からは、Ti量は0.014%未満とすることが好ましい。
【0032】
Nb:0.01%未満
Nbは熱間圧延での再結晶を遅延させて集合組織を制御し、圧延方向と45度方向のYPを低減する効果を有する。しかしながら、鋼中で微細なNbC、Nb(C,N)を形成して粒成長性を著しく劣化させるので、NbはYP上昇の影響の少ない0.01%未満の範囲で含有させることが望ましい。
【0033】
Cu:0.3%以下
Cuはスクラップ等を積極活用するときに混入する元素であり、Cuの混入を許容することでリサイクル資材を原料資材として活用でき、製造コストを削減することができる。本発明では材質に及ぼすCuの影響は小さいが、過剰に混入すると表面キズの原因となるので、Cu量は0.3%以下とすることが望ましい。
【0034】
Ni:0.3%以下
Niも鋼板の材質に対する影響は小さいが、Cuを添加する場合に表面キズを低減する観点から添加することができる。しかしながら、Niは過剰に添加するとスケールの不均一性に起因した表面欠陥を助長するので、Ni量は0.3%以下とすることが望ましい。
【0035】
2) 組織
本発明の鋼板は、主としてフェライト、マルテンサイト、パーライト、ベイナイトからなり、微量の残留γ、炭化物を僅かに含むが、最初に、これらの組織形態の測定方法を説明する。
【0036】
第2相の面積率は鋼板のL断面(圧延方向に平行な垂直断面)を研磨後ナイタールで腐食し、SEMで4000倍の倍率にて12視野観察し、撮影した組織写真を画像解析して求めた。組織写真で、フェライトはやや黒いコントラストの領域であり、炭化物がラメラー状もしくは点列状に生成している領域をパーライトおよびベイナイトとし、白いコントラストの付いている粒子をマルテンサイトもしくは残留γとした。なお、SEM写真上で認められる直径0.4μm以下の微細な点状粒子は、TEM観察より主に炭化物であり、また、これらの面積率は非常に少ないため、材質に殆ど影響しないと考え、ここでは0.4μm以下の粒子径の粒子は面積率や平均粒子径の評価から除外し、主にマルテンサイトである焼戻し熱処理前の白いコントラストの粒子とパーライトおよびベイナイトからなるラメラーもしくは点列状の炭化物を含む組織を対象として面積率、平均粒子径を求めた。第2相の面積率はこれらの組織の総量を示す。平均粒子径は球状粒子の場合はその直径を採用したが、SEM画面上で楕円形の粒子の場合は、その長軸aと長軸と直角方向の単軸bを測定して(a×b)0.5をその相当粒子径とした。やや矩形形状を呈している粒子についてもここでは楕円形状の粒子と同様に扱い、上記の式に従い長軸と単軸を測定して粒子径を求めた。なお、第2相同士が隣接して存在している場合は、両者の接触部分が一旦粒界と同じ幅になっているものは別々にカウントし、粒界の幅より広い場合、つまりある幅で接触している場合は一つの粒子としてカウントした。
【0037】
フェライトと第2相
本発明の鋼板は、主としてフェライトと、第2相であるマルテンサイト、パーライト、ベイナイト、微量の残留γ、炭化物からなる組織を有する。このなかで炭化物の面積率は1%未満と少ない。フェライト粒は、粗大化しすぎるとプレス成形時に肌荒れなどが生じるので、その粒径は4〜15μmにするのが好ましい。
【0038】
第2相の面積率:2〜25%
鋼板のYPElを低減してYPを十分低減させるためには、第2相の面積率は2%以上である必要がある。また、これにより高いWH、高いBH、優れた耐時効性など外板パネルに求められる機能を付与することができる。しかしながら、第2相の面積率が25%を超えると十分に低いYPが得られないばかりか、焼鈍温度に対するΔYPが増大する。したがって、第2相の面積率は2〜25%の範囲とする。
【0039】
第2相の平均粒子径:0.9〜7μm
上述したように、本発明の鋼板はフェライト、マルテンサイト、パーライト、ベイナイト、残留γからなる組織を有するが、その大部分はフェライトとマルテンサイトである。マルテンサイトが微細に不均一分散するとYPが上昇する。なお、TEMで観察すると、マルテンサイトの周囲には焼入時に付与された転位が多数導入されているが、マルテンサイトが微細で、かつ不均一に分散していると、マルテンサイト周囲の転位の導入されている領域が互いにオーバーラップしていることが明らかになった。このようなマルテンサイトの周囲の転位はすでに絡み合った状態にあり、初期の低い応力からの変形に寄与しにくいと考えられる。YPを低減するためには第2相の粒子径は大きく、均一に分散しているほどよい。[Mneq]の高い本発明の鋼板において十分にYPを低減し、焼鈍温度に対するΔYPを低減するためには第2相の平均粒子径は少なくとも0.9μm以上とすることが必要である。一方、第2相の粒径が7μmを超えるとフェライト粒径も著しく粗大化させる必要があり、プレス成形時に肌荒れが生じることが懸念されるため、第2相の粒子径は7μm以下とする。
【0040】
なお、焼鈍後に400℃未満まで急冷することの可能なCALでは700℃付近からの急冷により組織を凍結することができ、第2相を比較的粗大に分散させることが可能であるが、めっき処理の施されるCGLの熱履歴においては、焼鈍後に適度な冷却速度で緩冷却する必要があるので、700〜500℃の温度域を緩冷却する間にγ→α変態が進行して第2相が微細化する。本発明鋼では、Mn当量、CrとMnの組成範囲、焼鈍時の加熱速度を適性化することで、CGLの熱履歴においても第2相を粗大に分散させることが出来る。
【0041】
第2相におけるパーライトもしくはベイナイトの面積率:0%以上20%未満
焼鈍後に緩冷却が施され、特に合金化処理も施される場合、[Mneq]が適正化されていなければ、主にマルテンサイトに隣接して微細なパーライトもしくはベイナイトが生成し、焼鈍温度に対するYPの変動要因になる。パーライトもしくはベイナイトの第2相における面積率を0%以上20%未満とすることで十分な低YP化が図られ、ΔYPを小さくできるが、その面積率を0〜10%とすることが好ましい。ここで、第2相におけるパーライトもしくはベイナイトの面積率とは、第2相の面積率を100としたときのパーライトもしくはベイナイトの面積率の割合を示す。
【0042】
第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率:15%未満
YPやΔYPを低減するための組織因子について詳細に調査した結果、YPやΔYPは第2相の平均粒径を制御に加え、微細な第2相の存在頻度も制御しなければならないことを知見した。つまり、YPやΔYPは、第2相の平均粒子径との相関も認められるものの、ほぼ同一の第2相粒子径を有している鋼板においても材質変動の大きい鋼板と小さい鋼板が認められる場合があり、そのような鋼板の組織を詳細に調査したところ、粒子径0.8μm未満の微細な第2相粒子がクラスター状に分布している鋼板でYPおよびΔYPが大きいことが明らかになった。また、そのようなクラスター状に第2相が微細分散した組織は焼鈍時の加熱速度を制御することで低減し得ることも知見した。これは、再結晶が完全に完了する前にα→γ変態が進行すると微細な回復粒や再結晶直後の微細なフェライト粒界に優先的に第2相が近接して生成するが、加熱速度を低減することで再結晶が十分完了して第2相が生成するので、第2相がフェライト粒界の3重点に多く生成し、均一、粗大に分散するためである。
【0043】
C:0.024%、Si:0.01%、Mn:1.8%、P:0.01%、S:0.01%、sol.Al:0.04%、Cr:0.55%、N:0.003%を含有する鋼を実験室で溶製し、27mm厚のスラブを製造した。このスラブを1250℃に加熱し、仕上圧延温度830℃で2.3mmまで熱間圧延し、620℃で1hrの巻き取り処理を施した。得られた熱延板を0.75mmまで圧延率67%で冷間圧延した。得られた冷延板を、680〜740℃の範囲の平均加熱速度を0.3〜20℃/secに変化させ、770℃×40secの焼鈍を施し、焼鈍温度から470℃(溶融亜鉛めっき浴温度)まで平均冷却速度6℃/secで冷却し、溶融亜鉛めっきした後、470〜530℃まで15℃/secで加熱して530℃×20secの合金化処理を行い、その後100℃以下の温度域まで30℃/secの平均冷却速度にて冷却した。得られた鋼板よりJIS5号引張試験片を採取し、引張試験(JISZ2241に準拠、引張方向は圧延方向と直角方向)を実施した。また、上記したように、SEMによる組織観察を行い、第2相の面積率を求めた。
【0044】
図1に、第2相における粒子径0.8μm未満の粒子の面積率とYPの関係を示す。第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率が15%未満になるとYPが210MPa以下に低減され、12%未満になるとYPが205MPa以下にまで低減される。更に、焼鈍温度を760〜810℃で変化させ、ΔYPを調査したところ、第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率が26%のサンプル(加熱速度:20℃/sec)では、ΔYPが24MPaであるのに対して、第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率が15%未満(加熱速度:3℃/sec未満)のサンプルでは、ΔYPが15MPa以下に低減されることが明らかになった。
【0045】
このように、0.8μm未満の粒子の生成量を低減することでYPが低く、かつ焼鈍温度に対するΔYPの小さい鋼板が得られる。したがって、本発明において第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率は15%未満とする。また、YPならびに焼鈍温度に対するΔYPを更に低減する観点からは、この面積率は12%未満とすることが好ましい。ここで、上記測定方法と同様に、第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率とは、第2相の面積率を100としたときの粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率の割合を示す。
【0046】
3) 製造条件
本発明の鋼板は、上述したように、上記の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延および冷間圧延した後、CGLにおいて、680〜740℃の温度範囲を3℃/sec未満の平均加熱速度で加熱し、740℃超820℃未満の焼鈍温度で焼鈍し、前記焼鈍温度から3〜20℃/secの平均冷却速度で冷却し、亜鉛めっき浴に浸漬後、あるいは前記亜鉛めっき浴に浸漬後更にめっきの合金化処理を施した後、7〜100℃/secの平均冷却速度で冷却する方法により製造できる。
【0047】
熱間圧延
鋼スラブを熱間圧延するには、スラブを加熱後圧延する方法、連続鋳造後のスラブを加熱することなく直接圧延する方法、連続鋳造後のスラブに短時間加熱処理を施して圧延する方法などで行える。熱間圧延は、常法にしたがって実施すればよく、例えば、スラブ加熱温度は1100〜1300℃、仕上圧延温度はAr3変態点以上、仕上圧延後の平均冷却速度は10〜200℃/sec、巻取温度は400〜720℃とすればよい。外板パネル用の美麗なめっき表面品質を得るためには、スラブ加熱温度は1200℃以下、仕上圧延温度は840℃以下とするのがよい。また、鋼板表面に生成した1次、2次スケールを除去するためにデスケーリングを十分に行うことが好ましい。YP低減の観点からは、巻取温度は高い方が望ましく、巻取温度は640℃以上とするのが良い。680℃以上の巻取温度では、熱延板の状態でMnやCrを十分に第2相に濃化させることができ、その後の焼鈍工程でのγの安定性を向上させ、低YP化に寄与する。
【0048】
一方、ドア取手部のように、45度方向の材料流入と材料収縮がエンボス外周の面歪に大きな影響を及ぼすような形状の外板パネル部品に鋼板を適用する場合、この45度方向のYPを低く抑えることが面歪の低減に有効と考えられるので、このような用途の場合は、仕上圧延後3sec以内に冷却を開始し、40℃/sec以上の平均冷却速度にて600℃以下まで冷却し、その後400〜600℃の巻取温度で巻き取ることが好ましい。このような熱延条件とすることで、主としてベイナイトからなる微細な低温変態相を面積率で30%以上生成させることができ、45度方向のYPを相対的に低く抑える集合組織の発達を増長する。通常、C、Mn、Crからなる複合組織鋼板を常法に従い製造すると、圧延45度方向のYP(YPD)が圧延方向のYP(YPL)や圧延直角方向のYP(YPC)と比べて5〜15MPa高くなる傾向があるが、上記の熱延条件により、-10≦YPD-YPC≦5MPaの範囲に抑えることができる。
【0049】
冷間圧延
冷間圧延では、圧延率を50〜85%とすればよい。圧延率を50〜65%に低下させればYPCは低減される。しかし、圧延率を低下させると45度方向のYPが相対的に増加して異方性も大きくなるので、ドア取手部のような用途の鋼板に対しては、圧延率を70〜85%にすることが好ましい。
【0050】
CGL
冷間圧延後の鋼板には、CGLで焼鈍とめっき処理が施される。焼鈍後に粗大な第2相を均一に分散させるためおよび焼鈍温度に対するΔYPを低減するためには、焼鈍時の680℃〜740℃の温度域における加熱速度を制御することが効果的である。
【0051】
図2に、焼鈍時における680〜740℃の温度域の平均加熱速度とYPの関係を示す。ここで、図2の結果は、図1の結果を導くために行った実験データを整理して求めたものである。加熱速度が3℃/sec未満で210MPa以下のYPが得られ、加熱速度が2℃/sec未満で205MPa以下のYPが得られることがわかる。加熱速度を3℃/sec未満にすると、未再結晶ままのフェライト粒界面にγ粒が生成するのが抑制され、微細な第2相の生成を抑制することができ低YP化が図れる。また、加熱速度を2℃/sec未満とすると、未再結晶フェライトからのγ変態が抑制されるだけでなく、再結晶したフェライト粒も十分に粒成長することができ、組織がより均一、粗大化するため、より一層低YP化し、ΔYPが小さくなる。
【0052】
焼鈍温度は740℃超820℃未満とする。740℃以下では炭化物の固溶が不十分となり、安定して第2相の面積率が確保できなくなる。820℃以上では焼鈍中のγの割合が多くなりすぎてγへのMn、C等の元素濃化が不十分になり、十分に低いYPが得られなくなる。これは、γへの元素濃化が不十分になることで、マルテンサイトの周囲に十分な歪が付与されなくなるとともに冷却過程でパーライト、ベイナイト変態が生じ易くなるためと考えられる。均熱時間は通常の連続焼鈍で実施される740℃超の温度域で20sec以上とすればよく、40sec以上とすることがより好ましい。均熱後は、焼鈍温度から通常450〜500℃に保持されている亜鉛めっき浴の温度まで平均冷却速度3〜20℃/secで冷却する。冷却速度が3℃/secより遅い場合、550〜650℃の温度域でパーライト生成ノーズを通過するため、第2相中にパーライトおよびベイナイトが多量に生成し、十分に低いYPが得られなくなる。一方、冷却速度が20℃/secより大きくなると、焼鈍温度から650℃までの温度域でのγ→α変態によるγへのMn、Cr、C等の元素の濃化が不十分となり、合金化処理を施した時にパーライトが生成しやすくなり、また、480〜550℃の温度域においてγ→α変態および炭化物析出によるフェライト中の固溶Cの低減を十分に促進させることができなくなり、低YP化が不十分になる。
【0053】
その後、亜鉛めっき浴に浸漬されるが、必要に応じて500〜650℃の温度域で30sec以内保持することにより合金化処理を施すこともできる。従来の[Mneq]が適正化されていない鋼板では、このような合金化処理を施すことにより材質が著しく劣化していたが、本発明の鋼板ではYPの上昇が小さく、良好な材質を得ることができる。亜鉛めっき浴浸漬後あるいは合金化処理後は、平均冷却速度7〜100℃/secの冷却速度で冷却する。冷却速度が7℃/secより遅いと550℃付近でパーライトが、また400℃〜450℃の温度域でベイナイトが生成してYPを上昇させる。一方、冷却速度が100℃/secより大きいと連続冷却中に生じるマルテンサイトの自己焼戻しが不十分となってマルテンサイトが硬質化しすぎてYPが上昇するとともに延性が低下する。
【0054】
得られた亜鉛めっき鋼板は、本発明である第2相の面積率、第2相平均粒子径、第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率、所定のパーライトおよびベイナイトの面積率に制御されていれば、めっき処理ままの状態でYPElは0.5%未満でありYPも十分に低いのでそのままプレス成形用鋼板として使用することができる。しかしながら、上述したとおり、表面粗度の調整、板形状の平坦化などプレス成形性を安定化させる観点から通常スキンパス圧延が施される。その場合は、低YP、高El、高WH化の観点からその伸長率は0.3〜0.5%とすることが好ましい。
【実施例1】
【0055】
表1に示す鋼番A〜CCの鋼を溶製後、230mm厚のスラブに連続鋳造した。このスラブを1180〜1250℃に加熱後、830℃(鋼番A〜D、G〜U、X〜CC)、870℃(鋼番E、V)、900℃(鋼番F、W)の仕上圧延温度で熱間圧延を施した。その後、20℃/secの平均冷却速度で冷却し、640℃の巻取温度で巻き取った。得られた熱延板は67%の圧延率にて冷間圧延を施し、板厚0.75mmの冷延板とした。得られた冷延板は、CGLにおいて、表2、3に示す680〜740℃の温度範囲における平均加熱速度、焼鈍温度AT、冷却速度にて焼鈍を施し、冷却過程で溶融亜鉛めっき処理を施した。ここで、焼鈍温度ATからめっき浴温度460℃までの冷却工程を1次冷却、めっき浴温度あるいは合金化する場合には合金化温度からの冷却を2次冷却とし、その平均冷却速度を表2、3に示してある。また、合金化処理は、めっき浴浸漬後、15℃/secの平均加熱速度で510〜530℃まで加熱してめっき中Fe含有量が9〜12%の範囲になるように10〜25sec保持して行った。めっき付着量は片側あたり45g/m2とし両面に付着させた。得られた溶融亜鉛めっき鋼板は未調圧(スキンパス圧延無し)の状態からサンプル採取した。
【0056】
得られたサンプルについて、先に述べた方法にて第2相の面積率、第2相の平均粒子径、第2相中のパーライトもしくはベイナイトの面積率、第2相における粒子径が0.8μm未満の面積率を調査した。更に、圧延方向と直角方向よりJIS5号試験片を採取して引張試験(JISZ2241に準拠)を実施し、YP、TSを評価した。また、各成分組成の鋼板について焼鈍温度を760〜810℃の範囲で変化させたときのYPの最大値と最小値の差を求め、YPの変動量ΔYPとした。
【0057】
結果を表2、3に示す。
【0058】
本発明例の鋼板は、同一TSレベルの材料と比較してΔYPが小さい。また、従来鋼と同等あるいは従来鋼より低いYP、すなわち低いYRも兼ね備えている。例えば、TS:440MPaクラス(440以上490未満)の鋼板では、ΔYPは15MPa以下に抑えられておりYPも206MPa以下と低い。TS:490MPaクラス(440以上540未満)の鋼でもΔYPは20MPa、TS:590MPaクラスの鋼でもΔYPは32MPaに抑えられている。とりわけ、[Mneq]が2.2超で、かつ[%Cr]/[%Mn]が0.34以上に適正化された鋼板は、第2相における粒子径が0.8μm未満の微細な粒子が低減され、パーライトとベイナイトの生成も抑えられ、Mnや固溶Cによる固溶強化も低減されているので、YPが低く、ΔYPも小さい。例えば、鋼番Aに対して鋼番Bの鋼では、[Mneq]が増加しているが、[%Cr]/[%Mn]が0.27〜0.33の範囲なので、[Mneq]の増加にともないパーライト、ベイナイトの生成量は低減されているものの、組織が微細化し加熱速度1.5℃/sec、焼鈍温度775℃の条件では、YPは202〜203MPaの範囲となっており、ΔYPは11〜15MPaの範囲となっている。これに対して、[Mneq]を2.2超に増加させつつ[%Cr]/[%Mn]を0.34以上に調整した鋼番C、E、F、Z、AAの鋼等では加熱速度1.5℃/s、焼鈍温度775〜805℃、1次冷却速度4〜5℃/sの製造条件では、YPは182〜198MPa、ΔYPは5〜9MPaと非常に低い。更に、ΔYPは、[Mneq]が同一であれば[%Cr]/[%Mn]が大きくなるほど小さくなっている。また、このような鋼では、合金化処理の有無によるYPの変化も非常に小さく抑えられている。例えば、鋼番Cの加熱速度1.5℃/sec、焼鈍温度775℃の鋼板では、合金化処理の有無でのYPの差は2MPaと小さく、合金化処理によるYP上昇が抑制されている。すなわち、本発明例の鋼板は合金化処理を施しても良好な材質を得ることができ、このような用途に好適である。また、Cを増加させたときのYPの上昇も非常に小さく、鋼番H、IとCを0.051%まで増加させてもYPは219MPa以下に抑えられている。さらに、Cを0.108%としたTS:590MPaクラスの鋼番JにおいてもYPは262MPaに抑えられており、YRの低い鋼板が安定して得られる。さらに、Bを0.001%超添加したF、BB、CCはフェライト粒および第2相が粗大であり、YP(あるいはYR)やΔYP小さく抑えられている。例えば、AAとBBは[%Cr]/[%Mn]は同程度、[Mneq]がBBの方が少ないにも関わらず、Bが添加されているBBの方がYPやΔYPは低い。
【0059】
これに対して、焼鈍時の加熱速度や冷却速度が適正化されておらず、第2相における粒子径0.8μm未満の微細な粒子が多く生成している鋼板やパーライト、ベイナイトが多く生成している鋼板では、同一強度レベルの本発明例の鋼板と比べてΔYPが大きく、YPの絶対値も高い。例えば、[Mneq]の少ない鋼番P、Wはパーライト、ベイナイトの生成量が多く、同一強度レベルの本発明例の鋼板と比べてYPが高く、ΔYPが大きい。[Mneq]は所定範囲にあっても[%Cr]/[%Mn]が適正化されていない鋼番Q、T、Uはマルテンサイトが微細でMnの固溶強化量も大きいのでYPが高く、ΔYPが大きい。Moが添加された鋼番Rは組織が微細化する傾向があり、ΔYPが大きい。C量が所定範囲になく、結果的として第2相の面積率が所定範囲にない鋼番Sでは、低いYRが得られない。P、Siの添加量の多い鋼番X、Yは組織は粗大化するものの固溶強化量が大きくなりすぎ、YPの絶対値が高い。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【実施例2】
【0063】
表1に示した鋼番Cの組成のスラブを1200℃に加熱し、830℃の仕上圧延温度で熱間圧延後、表4に示す種々の時間保持して冷却開始時間を調整し、表4に示す種々の冷却速度で600℃まで冷却し、表4に示す巻取温度CTで巻き取った。得られた熱延板について77%の圧延率で冷間圧延し、CGLにおいて、加熱速度1.5℃/secで加熱し、775℃で焼鈍後、1次平均冷却速度4℃/secで冷却し、次いで溶融亜鉛めっきを施し、520℃×20secの合金化処理をした後、2次平均冷却速度30℃/secの条件にて冷却を行った。得られた鋼板より圧延方向と直角方向(C方向)、圧延方向と45度方向(D方向)よりJIS5号引張試験片を採取し、引張試験を実施した。
【0064】
結果を表4に示す。
【0065】
仕上圧延後3sec以内に40℃/sec以上の冷却速度で急冷することで、圧延方向と45度方向のYPが低く抑えられる。このように熱延条件を制御することで得られた圧延方向と45度方向に極めてYPの低い本発明例の鋼板は、ドアの取手回りの面歪を効果的に低減できると考えられる。
【0066】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】第2相における粒子径0.8μm未満の粒子の面積率とYPの関係を示す図。
【図2】焼鈍時の加熱速度とYPの関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の成分組成として、質量%で、C:0.01〜0.12%、Si:0.2%以下、Mn:2%未満、P:0.04%以下、S:0.02%以下、sol.Al:0.3%以下、N:0.01%以下、Cr:0.3%超2%以下を含有し、更に2.1≦[Mneq]≦3および0.24≦[%Cr]/[%Mn]を満足し、残部鉄および不可避不純物からなり、鋼の組織として、フェライトと第2相を有し、第2相の面積率が2〜25%、第2相におけるパーライトもしくはベイナイトの面積率が0%以上20%未満、第2相の平均粒子径が0.9〜7μm、かつ第2相における粒子径が0.8μm未満の粒子の面積率が15%未満であることを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板;ここで、[Mneq]はMn当量であり、[Mneq]=[%Mn]+1.3[%Cr]を表し、[%Mn]、[%Cr]は、Mn、Crのそれぞれの含有量を表す。
【請求項2】
2.2<[Mneq]<2.9を満足することを特徴とする請求項1に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項3】
0.34≦[%Cr]/[%Mn]を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
更に、質量%で、B:0.005%以下を含有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
更に、質量%で、Mo:0.15%以下およびV:0.2%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
更に、質量%で、Ti:0.014%未満、Nb:0.01%未満、Ni:0.3%以下およびCu:0.3%以下のうちの少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の成分組成を有する鋼スラブを、熱間圧延および冷間圧延した後、連続溶融亜鉛めっきライン(CGL)において、680〜740℃の温度範囲を3℃/sec未満の平均加熱速度で加熱し、740℃超820℃未満の焼鈍温度で焼鈍し、前記焼鈍温度から3〜20℃/secの平均冷却速度で冷却し、亜鉛めっき浴に浸漬後、あるいは前記亜鉛めっき浴に浸漬後更にめっきの合金化処理を施した後、7〜100℃/secの平均冷却速度で冷却することを特徴とする高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
CGLにおいて、680〜740℃の温度範囲を2℃/sec未満の平均加熱速度で加熱することを特徴とする請求項7に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項9】
熱間圧延後、3sec以内に冷却を開始して、40℃/sec以上の平均冷却速度で600℃以下まで冷却し、その後400〜600℃の巻取温度で巻き取り、70〜85%の圧延率で冷間圧延することを特徴とする請求項7または8に記載の高強度溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−35815(P2009−35815A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177467(P2008−177467)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】