説明

陰イオン伝導性樹脂及びその製造方法

【課題】 陰イオン伝導性膜を用いた固体高分子電解質形燃料電池において、陰イオン伝導性膜の耐酸化性を改良し、高出力で耐久性の高い上記燃料電池を提供する。
【解決手段】 4級アンモニウム基などの塩基性基と該塩基性基にイオン結合する対イオンを有する陰イオン伝導性樹脂であって、前記対イオンの0.5mol%以上20mol%未満をハロゲン化物イオンとし、80mol%以上99.5mol%未満をOH及び/またはHCOとした陰イオン伝導性樹脂を樹脂製微多孔膜の孔内に充填した陰イオン伝導性膜を用いて固体高分子電解質形燃料電池を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰イオン伝導性膜に関し、さらに詳しくは、固体高分子電解質形燃料電池の電解質に好適に用いられる耐酸化性に優れた高耐久性陰イオン伝導性膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質形燃料電池は、イオン伝導性樹脂等の固体高分子を電解質として用いた燃料電池であり、動作温度が比較的低いという特徴を有する。固体高分子電解質の中でも、陰イオン伝導型電解質膜(以下、「陰イオン伝導性膜」ともいう。)を使用した燃料電池は、従来の陽イオン伝導型電解質膜(以下、「陽イオン伝導性膜」ともいう。)を使用した燃料電池と比較して次のような利点を有することから注目を集めている。
(I)反応場が強塩基性のため、安価な遷移金属触媒が使用可能となる。
(II)触媒種の選択枝が広がるため、電池の高出力化や様々な燃料の使用が可能となる。
【0003】
このような陰イオン伝導性膜としては、特許文献1のように炭化水素系の陰イオン伝導性膜を用いたものが知られている。また、特許文献2に示されているように、炭化水素系の陰イオン伝導性膜の欠点である熱による劣化を抑制するため、耐熱性に優れた炭化水素系陰イオン伝導性膜の開発も行われている。
【0004】
ところで、固体高分子電解質形燃料電池においては、電池反応によって生成した過酸化物が、電解質中で拡散しながらラジカルとなって電解質を酸化劣化させるといった問題が知られている。電解質の酸化劣化を防ぐために、陽イオン伝導性膜を使用した燃料電池においては、これまでに特許文献3に示されるような、セリウムイオンを膜内の酸性基の対イオンとして保持することにより、過酸化物を分解する技術が開示されている。さらに、特許文献4には、陽イオン伝導性膜内に過酸化物を接触分解する遷移金属酸化物を分散配合して、過酸化物を分解する技術が開示されており、遷移金属酸化物を分散配合した陽イオン伝導性膜が、過酸化物に対して耐性を有することが示されている。
【0005】
しかしながら、これらの特許文献3,4は固体高分子電解質膜を用いた燃料電池に関するものではあるが、具体的には陽イオン伝導性膜を使用した燃料電池についてのみ記載されているに過ぎず、陰イオン伝導性膜を使用した燃料電池について実施されているものはこれまでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−135137号公報
【特許文献2】WO2010/0558890
【特許文献3】特開2006−302600号公報
【特許文献4】特開2001−118591号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、陰イオン伝導性膜を使用した燃料電池の実用化に向けて種々検討を行ってきた。その結果、長期間使用すると出力が低下することが判明した。そして、長期間使用後の燃料電池について調べたところ、陰イオン伝導性膜、特に該膜に用いた陰イオン伝導性樹脂の質量が減少していた。このような事実から、上記出力低下の原因は、陽イオン伝導性膜を用いた燃料電池の場合と同様に、過酸化物にイオン伝導性膜よって酸化劣化するためではないかと推定し、陰イオン伝導性膜について過酸化物と接触させる耐久性試験を行ったところ、耐久性試験後において膜の質量減少が確認された。このような結果から、前記特許文献3又は4に記載される方法を適用すれば前記出力低下を防止できるのではないかと考えて実験を行ったが所期の効果を得ることができなかった。すなわち、陰イオン伝導性膜の耐酸化性の向上を狙い、セリウムイオンを導入しようと試みたが、膜内の塩基性基とセリウムイオンが反発するため、導入することができなかった。また、二酸化マンガンを分散配合した場合には、予想に反して耐久性試験後において著しい膜の質量減少が確認された。
【0008】
そこで、本発明は耐久性の高い陰イオン伝導性膜を提供し、ひいては耐久性の高い陰イオン伝導性膜を使用した燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、炭化水素系陰イオン伝導性膜の耐酸化性を向上させる方法について鋭意検討を行った。その結果、塩基性基の対イオンの一部をハロゲン化物イオンとした場合には、耐酸化性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は下記〔1〕〜〔7〕に示すものである。
【0011】
〔1〕 塩基性基と該塩基性基にイオン結合する対イオンを有する陰イオン伝導性樹脂であって、前記対イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOであることを特徴とする陰イオン伝導性樹脂。
【0012】
〔2〕 陰イオン交換樹脂が炭化水素系陰イオン交換樹脂である上記〔1〕に記載の陰イオン交換樹脂。
【0013】
〔3〕 上記〔1〕または〔2〕に記載の陰イオン伝導性樹脂を製造する方法であって、目的物である陰イオン伝導性樹脂とは対イオンの組成が異なる原料陰イオン伝導性樹脂と、溶液に含まれる陰イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである水溶液とを接触させることを特徴とする上記〔1〕または〔2〕に記載の陰イオン伝導性樹脂の製造方法。
【0014】
〔4〕 上記〔1〕に記載の陰イオン伝導性樹脂からなる陰イオン伝導性膜。
【0015】
〔5〕 多数の連通孔を有する樹脂製微多孔膜の孔内に前記〔1〕に記載の陰イオン伝導性樹脂が充填されていることを特徴とする陰イオン伝導性膜。
【0016】
〔6〕 多数の連通孔を有する樹脂製微多孔膜の孔内に、目的物である陰イオン伝導性樹脂とは対イオンの組成が異なる原料陰イオン伝導性樹脂が充填された原料陰イオン伝導性膜を、溶液に含まれる陰イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである水溶液と接触させて、該原料陰イオン伝導性膜の孔内に充填された前記原料陰イオン交換樹脂を上記〔1〕に記載の陰イオン交換樹脂に転化させることを特徴とする上記〔5〕に記載の陰イオン伝導性膜の製造方法。
【0017】
〔7〕 上記〔4〕または〔5〕に記載の陰イオン伝導性膜からなることを特徴とする陰イオン伝導性膜型燃料電池用電解質。
【0018】
〔8〕 前記〔7〕に記載の陰イオン伝導性膜型燃料電池用電解質を用いることを特徴とする陰イオン伝導性膜型燃料電池。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐酸化性に優れた陰イオン伝導性膜が提供される。したがって、本発明の陰イオン伝導性膜を電解質として燃料電池に使用した場合は、その性能が長期間維持される。
【0020】
このような優れた効果が得られる機構は必ずしも明らかではないが、本発明者らは次のようなものであると推定している。
【0021】
すなわち、陰イオン伝導性膜を使用した燃料電池の理想的な酸素の還元反応は、下記式(1)に示されるものであるが、実際の燃料電池ではこの主反応の他に下記式(2)に示される副反応が起こることが知られている。
+ 2HO + 4e → 4OH (1)
+ HO + 2e → HOO + OH (2) 。
【0022】
上記式(2)で示す副反応により副生した過酸化物イオン(HOO)は、容易にラジカル(・OH、・OOH)となるため、該ラジカルが陰イオン伝導性膜内を拡散移動する過程において陰イオン伝導性膜を構成する炭化水素系陰イオン伝導性樹脂の主鎖を切断することにより該樹脂が劣化する。しかしながら、塩基性基の対イオンとしてハロゲン化物イオンが存在する場合には、ハロゲン化物イオン(X)とラジカルとの間で下記式(3)に示される平衡反応がおこる。
・OH(or ・OOH) + X ⇔ ・HOX(or ・HOOX) (3) 。
【0023】
上記式(3)で示す平衡反応によりラジカルが安定化されて、該陰イオン伝導性樹脂の主鎖の切断が防止され、陰イオン伝導性樹脂の耐久性を高くすることができる。またここで、ハロゲン化物イオンは塩基性基の対イオンとして存在するため、燃料電池の長時間運転においても消失することはない。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書において、陰イオン伝導性樹脂とは、分子内に塩基性基を有する高分子からなる樹脂であって、該塩基性基は対イオンである陰イオンにより電気的に中和されているものを意味する。したがって、樹脂の基本構造、すなわち対イオンを除く“分子内に塩基性基を有する高分子”の構造(以下、単に「基本構造」ともいう。)は同じであっても対イオンが異なる場合には、異なる陰イオン伝導性樹脂であるとする。
【0025】
本発明の陰イオン伝導性樹脂は、塩基性基の対イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOであることを特徴とする。
【0026】
ここで、対イオンとして使用するハロゲン化物イオンとは、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、及びよう化物イオンよりなる群より選ばれる少なくとも一種類であるが、陰イオン伝導性樹脂の耐久性(耐酸化性)向上効果の観点から、塩化物イオン、臭化物イオン又はよう化物イオンであることが好ましく、耐久性(耐酸化性)向上効果が特に高いという理由から、臭化物イオン又はよう化物イオンであることが最も好ましい。
【0027】
本発明の陰イオン伝導性樹脂は、その塩基性基の対イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである以外は従来の陰イオン伝導性樹脂と特に変わることはなく、基本構造としては従来知られている陰イオン伝導性樹脂における基本構造が特に限定なく採用できる。このような基本構造としては、炭化水素系高分子またはパーフルオロカーボン系高分子に塩基性基が結合したものを挙げることができる。
【0028】
ここで、炭化水素系高分子とは、実質的に炭素−フッ素結合を含まず、重合体を構成する主鎖及び側鎖の結合の大部分が、炭素−炭素結合で構成されている重合体を意味し、主鎖の炭素−炭素結合の合間に、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、シロキサン結合等により酸素、窒素、珪素、硫黄、ホウ素、リン等の他の原子が少量含まれていてもよく、たとえば特許文献1に記載されているようなポリスチレン系高分子、特開2001−302729号公報等に記載されているようなポリオレフィン系などが使用できる。また、パーフルオロカーボン系高分子としては、たとえば特開昭63−68640号公報等に記載されている高分子などがある。中でもパーフルオロカーボン系高分子に比べてコストが低く、含水率が低く、機械的強度が高いという理由から、塩基性基を除く樹脂部分が炭化水素系高分子で構成されていることが好ましい。
【0029】
また、塩基性基としては、陰イオンを電気的に中和してイオン対を形成する機能を有する官能基であれば良いが、中でも陰イオン伝導性に優れることから、4級アンモニウム基やピリジニウム基であることが好ましい。
【0030】
本発明の陰イオン伝導性樹脂においては、その塩基性基の対イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである必要がある。このような条件を満たすことにより、高い陰イオン導電性を実現しながら前記式(3)に示されるような平衡反応によりラジカルを十分に安定化することができ、その結果として高分子骨格の切断を防止し、陰イオン伝導性樹脂の耐久性を高くすることができる。対イオンに占めるハロゲン化物イオンの組成が1mol%未満の場合には十分な効果を得ることができない。また、該組成が20mol%を超えて高すぎると燃料電池用電解質として用いた場合に電池出力が低下してしまう。耐久性(耐酸化性)の向上および燃料電池用電解質として使用したときの燃料電池の特性の観点から、対イオンの1〜13mol%がハロゲン化物イオンであり、99〜87mol%がOH及び/またはHCOであることが好ましく、さらには1〜10mol%がハロゲン化物イオンであり、99〜90mol%がOH及び/またはHCOであることがより好ましい。
【0031】
なお、前記式(3)によるラジカルの安定化効果に基づく樹脂の耐酸化性向上効果を得るためには、ハロゲン化物イオンは樹脂に固定化されている(別言すれば対イオンとして存在している)必要があり、フリーのハロゲン化物が存在していてもこのような効果を得ることはできない。
【0032】
なお、本発明の陰イオン伝導性樹脂に含まれるハロゲン化物イオン量は、例えば、硝酸ナトリウム水溶液を用いて本発明のイオン伝導性樹脂の対イオンを全て硝酸イオンに置換させ、そのときに遊離したハロゲン化物イオンを硝酸銀水溶液で滴定することにより求めることができる。また、本発明の陰イオン伝導性樹脂に含まれるOH及び/またはHCOの量は、例えば、塩化ナトリウム水溶液を用いて本発明のイオン伝導性樹脂の対イオンを全てハロゲン化物イオンに置換させ、そのときに遊離したOH及び/またはHCOを塩酸で滴定することにより求めることができる。なお、本発明の陰イオン伝導性樹脂の製造工程から、対イオンとしてハロゲン化物イオン並びにOH及び/またはHCO以外の陰イオンを含まないことが明らかな場合は、対イオンの総量を別途測定するか或いは樹脂に含まれる塩基性基の総量およびその価数から計算により求め、その値(対イオンの総量)から上記方法によって求めたハロゲン化物イオン量を差し引くことによりOH及び/またはHCOの量を求めることもできる。
【0033】
前記したように、本発明の陰イオン伝導性樹脂は、その「基本構造」は従来の陰イオン伝導性樹脂と特に変わることはなく、対イオンが特定の組成を有する点に特徴を有する。一般に陰イオン伝導性樹脂は、所謂陰イオン交換樹脂と同様の基本構造を有するが、高い陰イオン導電性を得るために、通常、全ての対イオンはOH及び/またはHCOとされている。これは、一般的な陰イオン交換樹脂は、製造上の理由から、製造直後の陰イオン交換樹脂の対イオンは全てハロゲン化物イオンであるところ、塩基性基に対する親和性はOH及び/またはHCOに比べてハロゲン化物イオンの方が圧倒的に強いため、対イオンをハロゲン化物イオンからOH及び/またはHCOに変換するためには、特殊な事情がない限り、大過剰量のOH及び/またはHCOによりイオン交換が行われるため、イオン交換後に対イオンとしてハロゲン化物イオンが残存することは殆どないからである。
【0034】
本発明者等は、前記式(3)で示される平衡反応によりラジカルが安定化して陰イオン伝導性樹脂の耐酸化性が向上を図ろうとしたわけであるが、全ての対イオンはOH及び/またはHCOである陰イオン伝導性樹脂について、これを希薄ハロゲン化物イオン水溶液と接触させてその対イオンの一部のみをハロゲン化物イオンに変換しようとしたが目的を達することができなかった。すなわち、希薄ハロゲン化物イオン水溶液と接触させる条件(時間及び温度)を変えてもイオン交換はほぼ瞬時に起ってしまうため、対イオンの大部分がハロゲン化物イオンに交換されてしまう結果となった。また、接触させる希薄ハロゲン化物イオン水溶液に含まれるハロゲン化物イオンの総量を予定する交換量に対応するように制御した場合には、水溶液中のハロゲン化物イオン濃度が薄くなりすぎ、おそらくイオン平衡によるためと思われるが、イオン交換を行うことができなかった。
【0035】
このような状況下、本発明者等は、陰イオン導電性を殆ど有しない、対イオンの全てハロゲン化物イオンである陰イオン交換樹脂を原料として、これを特定の陰イオン組成を有する水溶液と接触させてイオン交換を行うことにより、陰イオン伝導性樹脂の対イオン組成を制御することに成功し、対イオンとして一部導入したハロゲン化物イオンによる前記耐酸化性向上効果を確認するに至ったものである。
【0036】
そして、このような知見に基づき、本発明者等は、本発明の陰イオン伝導性樹脂を好適に製造する方法として、目的物である本発明の陰イオン伝導性樹脂とは対イオンの組成が異なる原料陰イオン伝導性樹脂と、溶液に含まれる陰イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである水溶液(以下、原料水溶液ともいう。)とを接触させることを特徴とする方法(本発明の方法)を見出すに至った。
【0037】
本発明の方法で使用される原料陰イオン伝導性樹脂としては、入手又は合成が容易であるという理由から、対イオンの全てがハロゲン化物イオンであることが好ましい。なお、原料陰イオン伝導性樹脂の「基本構造」は、目的物である本発明の陰イオン伝導性樹脂と同じ構造と同じである。
【0038】
本発明の方法で使用される原料水溶液は、水に溶解したときに対応するイオンを与える塩、具体的にはハロゲン化物塩並びに金属水酸化物及び/又は金属炭酸水素化物を夫々所定の濃度で溶解した水溶液を使用することができる。ここで、ハロゲン化物塩としては公知のものが制限なく使用できるが、好適な塩としては、ハロゲン化リチウム、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化カリウム、ハロゲン化セシウム等が挙げられる。また、OH及び/またはHCO源となる塩としては公知のものが制限なく使用できるが、好適なものとして、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。なお、特開2010−092660号公報に記載されているように、対イオンをOHとしても、これは大気中ではHCOに変換されていくこと、また弱塩基であり、特に穏やかな環境でイオン交換を行うことができることから、OH及び/またはHCO源としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムを使用することが好ましい。
【0039】
原料水溶液に含まれる陰イオンは、その0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOであればよいが、耐久性(耐酸化性)の向上および燃料電池用電解質として使用したときの燃料電池の特性の観点から好適な本発明の陰イオン伝導性樹脂を製造し易いという観点から、1〜13mol%がハロゲン化物イオンであり、99〜87mol%がOH及び/またはHCOであることが好ましく、さらには1〜10mol%がハロゲン化物イオンであり、99〜90mol%がOH及び/またはHCOであることがより好ましい。
【0040】
原料陰イオン伝導性樹脂と原料水溶液との接触は、原料水溶液に原料陰イオン伝導性樹脂を浸漬することにより好適に行うことができる。このとき使用する原料水溶液の量は、原料水溶液に含まれる陰イオンの総数(mol)が、接触させる原料陰イオン伝導性樹脂の全対イオン数(mol)に対して1倍から10000倍となる量とすることが好ましい。1倍以下では組成のコントロールが困難となる傾向があり、10000倍以上では処理する溶液量が過度に増大してしまう。
【0041】
また、原料陰イオン伝導性樹脂を原料水溶液と接触させる時間は、30分〜24時間が好ましい。交換は通常24時間以内で終了するので、それ以上接触させる必要は特にない。また、接触の際の原料水溶液の温度は特に制限されず、たとえば0℃〜70℃の範囲から適宜選択できるが、操作性の観点から20℃〜50℃が好ましい。
【0042】
本発明の陰イオン伝導性樹脂は陰イオン伝導性や耐酸化性に優れるという特徴を有するので、燃料電池用電解質として好適に使用できる。本発明の陰イオン伝導性樹脂を燃料電池に適応させるためには、本発明の陰イオン伝導性樹脂を固体電解質とする固体電解質膜(陰イオン伝導性膜)を製造する必要があるが、このような固定電解質膜を製造する方法としては、本発明の陰イオン伝導性樹脂を含む溶液をキャストして溶媒を除去することにより製膜する所謂キャスト製膜法、または微多孔膜の孔内に本発明の陰イオン伝導性樹脂を充填することにより陰イオン伝導性膜とする方法等が採用できる。これらの中でも、後者の方法では、得られた膜において微多孔膜が補強部分として働くため、膜厚が薄くても十分な強度を保ことができ、結果として電気抵抗(膜抵抗)を低くできる。このような理由から、本発明の陰イオン伝導性樹脂を固体電解質とする陰イオン伝導性膜としては、樹脂製微多孔膜の孔内に本発明の陰イオン伝導性樹脂が充填された陰イオン伝導性膜(以下、単に「本発明の陰イオン伝導性膜」ともいう。)が好ましい。
【0043】
ここで微多孔膜とは、公知のイオン伝導性膜の基材として使用できるものであれば特に制限はないが、具体的には、樹脂製微多孔膜、不織布、織布、紙、不織紙、無機膜等を挙げることができる。また、これら微多孔膜の材質としては、特に制限されるものではなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、あるいは無機物、およびこれらの混合物を挙げることができる。これらの多孔質膜の中でも、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れ、陰イオン交換樹脂との馴染みがよい等の観点から、炭化水素系材料であるポリオレフィンを材質とした微多孔膜(以下、「ポリオレフィン系微多孔膜」ともいう。)であることが好ましい。このようなポリオレフィン系微多孔膜としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィンより製造されたものが例示される。これらの中でも、ポリエチレン、またはポリプロピレンからなる微多孔膜が好ましく、特に、ポリオレフィン系微多孔膜が好ましい。陰イオン伝導性膜の母材となる微多孔膜の膜厚は、一般には3〜200μmの範囲であり、膜抵抗のより小さい膜を得る観点等から5〜60μmであることが好ましく、さらに、メタノール等の燃料透過性の低さ、必要な機械的強度のバランスを考慮すると、7〜40μmであることが最も好ましい。
【0044】
本発明の陰イオン伝導性膜は、膜厚が5〜60μmであり、膜抵抗が0.5mol/LNaCl水溶液中の測定で0.05〜1.5Ω・cmであり、破断強度が0.08MPa以上、陰イオン交換容量が0.2〜5mmol/gであることが好ましい。
【0045】
本発明の陰イオン伝導性膜は、多数の連通孔を有する樹脂製微多孔膜の孔内に原料陰イオン伝導性樹脂が充填された原料陰イオン伝導性膜を製造し、次いで本発明の方法により充填られた原料陰イオン伝導性樹脂を本発明の陰イオン伝導性樹脂とすることにより好適に製造することができる。
【0046】
上記原料陰イオン伝導性膜の具体的な製造方法を例示すると、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体(例えば、クロロメチルスチレン、ブロモメチルスチレン、ヨードメチルスチレン、ブロモブチルスチレン等)、架橋性重合性単量体(例えば、ジビニルベンゼン化合物)、および有効量の重合開始剤(例えば、有機化酸化物)を含む重合性組成物を前記微多孔膜と接触させることにより、該微多孔膜の空隙部に該重合性組成物を充填させた後、重合硬化させ、次いで、ハロゲノアルキル基を前記陰イオン交換基に変換する方法(以下、「接触重合法」ともいう。)を挙げることができる。なお、この接触重合法においては、前記重合性組成物にエポキシ化合物等を配合することもできる。
【0047】
また他の製造方法を例示すると、前記接触重合法において、ハロゲノアルキル基を有する重合性単量体に替えて、スチレン等のハロゲノアルキル基を導入可能な官能基を有する重合性単量体を使用し、前記の通り、重合性組成物を重合硬化させ、ハロゲノアルキル基を導入可能な官能基に、ハロゲノアルキル基を導入し、次いで、導入したハロゲノアルキル基を塩基性基に変更する方法が挙げられる。
【0048】
燃料電池に適応する陰イオン伝導性膜は、前記の方法の中でも、得られる膜が十分な密着性、およびイオン交換容量を有し、かつ燃料の透過を十分に抑制できるものとなるためには、前記接触重合法により製造することが好ましい。
【0049】
この製造方法により製造された原料陰イオン伝導性膜は、必要に応じて洗浄、裁断などを行った後、前述した本発明の方法により本発明の陰イオン伝導性膜とすることができる。
【0050】
本発明の陰イオン伝導性膜は、燃料電池用電解質として好適に使用することができる。なお、本発明の陰イオン伝導性膜を燃料電池用電解質として使用する場合、燃料電池用電解質として本発明の陰イオン伝導性膜を使用する以外、特に変わる点はない。たとえば、本発明の陰イオン伝導性膜が採用される燃料電池としては、公知の構造を有する陰イオン伝導性膜を使用した燃料電池に制限なく適用することができる。燃料としては、水素またはメタノールが最も一般的であり、本発明の効果が最も顕著に発揮されるものであるが、その他、エタノール、エチレングリコール、ジメチルエーテル、アンモニア、ヒドラジン等においても同様の優れた効果が発揮される。
【実施例】
【0051】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0052】
なお、原料陰イオン伝導性膜の製造および陰イオン伝導性膜における対イオン組成の決定は以下に示す方法により行った。
【0053】
〔原料陰イオン伝導性膜の製造〕
まず、クロロメチルスチレン100質量部、ジビニルベンゼン(ジビニルベンゼン57質量%、エチルビニルベンゼン40質量%、ジエチルベンゼン3質量%)10質量部、重合開始剤(商品名:パーブチルO)5質量部、エポキシ化合物(商品名:エポライト40E)5質量部を混合して重合性単量体組成物を得た。得られた重合性組成物に多孔質膜(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%)を25℃にて1分間浸漬した。続いて、この多孔質膜を重合性組成物中から取り出し、窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合することで陰イオン交換基を導入する前の原膜(以下、単に「原膜」ともいう。)を得た。
得られた原膜を、25質量%トリメチルアミンと25質量%アセトンを含む水溶液に室温で20時間浸漬することで、塩基性基としてトリメチルアンモニウム基を導入した。その後、膜に付着したトリメチルアミンを除去するため、膜を0.5規定塩酸に30分浸漬させた。さらに膜を取り出し水で洗浄することで、原料陰イオン伝導性膜を得た。
【0054】
〔対イオン組成の決定〕
先ず、陰イオン伝導性膜を0.2mol/L−硝酸ナトリウム水溶液で対イオンを硝酸イオンに置換させ遊離したハロゲン化物イオンを、硝酸銀水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で滴定することでハロゲン化物イオン数(Xmol)を求めた。
次に、上記陰イオン伝導性膜を0.5Mmol/l−塩化ナトリウム水溶液に30分浸漬し、対イオンを全て塩化物イオンとした後、同様の操作で滴定することで全対イオン数(Ymol)を求めた。
これらの値を用いて、下式に基づき対イオン全体に占めるハロゲン化物イオンの含有率(mol%)、OH及び/またはHCOの含有率(mol%)を求めた。
(ハロゲン化物イオンの含有率)=(X/Y)×100
(OH及び/またはHCOの割合)={(1−X)/Y}×100 。
【0055】
実施例1
1mol/L塩化ナトリウム水溶液と1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液を準備し、各水溶液の割合がそれぞれ、1:99、10:90、13:87となるよう全量を100mlに調製して原料水溶液を調製した(水溶液中の全陰イオン数:0.1mol)。
上記原料水溶液に原料陰イオン伝導性膜0.3g(対イオン数:0.5mmol)を浸漬した。1時間後膜を取り出し水で洗浄することで、本発明の陰イオン伝導性膜を得た。得られた膜の対イオンの組成(mol比)はそれぞれ、(Cl:HCO)=1:99、10:90、13:87であった。得られた陰イオン伝導性膜について、以下に示す方法により耐酸化性評価、及び陰イオン伝導性膜を用いた燃料電池の出力評価を行った。その結果を表1に示す。
【0056】
(1)陰イオン伝導性膜の耐酸化性評価
陰イオン伝導性膜の耐酸化性評価実験は以下の通り行った。80℃の3質量%H水溶液に膜を24時間浸漬し、浸漬前後の膜重量を測定し、膜の耐酸化性は、樹脂残存率で評価した。浸漬前の膜重量をAg、浸漬後の膜重量をBg、陰イオン伝導性膜を構成する多孔質膜の重量をZgとして、下式により樹脂残存率を求めた。樹脂残存率が高いほど陰イオン伝導性膜及び該膜に用いた陰イオン伝導性樹脂の耐酸化性は高いといえる。
(樹脂残存率) =(B−Z)/(A−Z)×100 。
【0057】
(2)陰イオン伝導性膜を用いた燃料電池の出力評価
(2−1)陰イオン伝導性膜‐触媒電極接合体の作製
{ポリスチレン‐ポリ(エチレン‐ブチレン)‐ポリスチレン}トリブロック共重合体(旭化成ケミカルズ製、タフテックH1031)をクロロメチル化したものを、6質量%のトリメチルアミンと25質量%のアセトンを含む水溶液中に室温で16時間浸漬し、さらに0.5mol/L−NaOH水溶液に10時間以上浸漬して触媒電極層用のアニオン伝導性アイオノマー(OH型)を合成した。該アイオノマーは、アニオン交換容量は1.5mmol/g−乾燥樹脂であった。
このアイオノマーを、130℃のオートクレーブ中で1−プロパノールに3時間かけて溶解させ、濃度5質量%のアイオノマー溶液を得た。
次いで、上記アイオノマー溶液と、平均粒子径2nmの白金触媒を50質量%担持したカーボンブラックとを混合して触媒電極層形成用組成物を作成した。次いで、該組成物を陰イオン伝導性膜の片面に印刷し、大気中25℃で12時間以上乾燥した。さらに、陰イオン伝導性膜のもう一方の面にも同様にして触媒電極層を形成し、陰イオン伝導性膜−触媒電極接合体を得た。両面共に、白金量は0.4mg/cmとなるようにし、触媒電極層中のアイオノマーの含有量は30質量%である。また、触媒電極層の面積はそれぞれ5cmである。
【0058】
(2−2)燃料電池出力評価
(2−1)で得られた陰イオン伝導性膜−触媒電極接合体の両面に、ポリテトラフルオロエチレンで撥水化処理した厚みが300μmのカーボンクロス(エレクトロケム社製EC−CC1−060T)を重ね、燃料電池セルに組み込んだ。次いで、燃料電池セル温度を50℃に設定し、アノード室に50℃で95%RHに加湿した水素を50ml/minで供給し、カソード室には、二酸化炭素を除去した(0.1ppm以下)空気を50℃で95%RHに加湿して200ml/minで供給して発電試験を行なった。100mA/cmにおけるセル電圧を測定し、出力を評価した。なお、ここで作製した燃料電池は、陰イオン伝導型電解質膜(陰イオン伝導性膜)を用いているので、該燃料電池が出力を示せば、用いた陰イオン伝導性膜および陰イオン伝導性樹脂は陰イオン導電性を示すことになる。
【0059】
実施例2
1mol/L臭化ナトリウム水溶液と1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液を準備し、各水溶液の割合が10:90となるよう、全量を100mlに調製して原料水溶液を調製した(水溶液中の全陰イオン数:0.1mol)。
上記原料水溶液に原料陰イオン伝導性膜0.3g(交換基:0.5mmol)を浸漬した。1時間後膜を取り出し水で洗浄することで、本発明の陰イオン伝導性膜を得た。得られた膜の対イオンの組成(mol比)は(Br:HCO)=9:91であった。
得られた陰イオン伝導性膜について、実施例1と同様にしての耐酸化性評価および燃料電池出力評価を行った。その結果を表1に示す。
【0060】
実施例3
1mol/Lよう化ナトリウム水溶液と1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液を準備し、各水溶液の割合が5:95となるよう、全量を100mlに調製して原料水溶液を調製した(水溶液中の全陰イオン数:0.1mol)。
上記原料水溶液に原料陰イオン伝導性膜0.3g(交換基:0.5mmol)を浸漬した。1時間後膜を取り出し水で洗浄することで、本発明の陰イオン伝導性膜を得た。得られた膜の対イオンの組成(mol)は(I:HCO)=4:96であった。
得られた陰イオン伝導性膜について、実施例1と同様にしての耐酸化性評価および燃料電池出力評価を行った。その結果を表1に示す。
【0061】
比較例1
1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液100mlに原料陰イオン伝導性膜0.3g(交換基:0.5mmol)を浸漬した。1時間後膜を取り出し水で洗浄することで、全対イオンがHCOの陰イオン伝導性膜を得た。対イオン組成の測定により、ハロゲン化物イオンがないことを確認している。
得られた陰イオン伝導性膜について、実施例1と同様にしての耐酸化性評価および燃料電池出力評価を行った。その結果を表1に示す。
【0062】
比較例2
用いた原料水溶液の、1mol/L塩化ナトリウム水溶液と1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液の割合が異なる以外は実施例1と同様にして、対イオンの組成が(Cl:HCO)=19:81である膜を得た。得られた陰イオン伝導性膜について、実施例1と同様にしての耐酸化性評価および燃料電池出力評価を行った。その結果を表1に示す。
【0063】
比較例3
用いた原料水溶液の、1mol/Lよう化ナトリウム水溶液と1mol/L炭酸水素ナトリウム水溶液の割合が異なる以外は実施例3と同様にして、対イオンの組成が(I:HCO)=18:82である膜を得た。得られた陰イオン伝導性膜について、実施例1と同様にしての耐酸化性評価および燃料電池出力評価を行った。その結果を表1に示す。
【0064】
比較例4
比較例1で作製した全対イオンがHCOの陰イオン伝導性膜0.3g(交換基:0.5mmol)を、0.01mol/L塩化ナトリウム水溶液100ml(水溶液中の塩化物イオン数:1mmol)に浸漬し、対イオンのイオン交換を行った。10分後膜を取り出し水で洗浄してから膜の対イオン組成を測定したところ、対イオンの組成は(Cl:HCO)=96:4であった。10分という短時間で大部分の対イオンが塩化物イオンに交換してしまったことから、塩化物イオンの希薄水溶液を用い、接触時間を制御することにより対イオン組成を制御することは非常に困難であることが確認された。
【0065】
比較例5
比較例1で作製した全対イオンがHCOの陰イオン伝導性膜0.3g(交換基:0.5mmol)を、0.1mmol/L塩化ナトリウム水溶液100ml(水溶液中の塩化物イオン数:0.01mmol)に浸漬した。5時間後取り出し水で洗浄することで得られた膜は、対イオン組成の測定では塩化物イオンは検出されなかった。このことから、所定量の塩化物イオンを含む希薄水溶液と長時間接触させても対イオン組成を制御することはできなかった。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるように、実施例1で製造した、対イオンの組成(Cl:HCO)=1:99、10:90、13:87である本発明の陰イオン伝導性膜は、それぞれ電圧値で0.43、0.42、0.40Vであり、樹脂残存率で58、53、74%であった。また、実施例2で製造した、対イオンの組成(Br:HCO)=9:91である本発明の陰イオン伝導性膜は、電圧値で0.41Vであり、樹脂残存率で86%であった。さらに、実施例3で製造した、対イオンの組成(I:HCO)=4:96である本発明の陰イオン伝導性膜は、電圧値で0.40Vであり、樹脂残存率で98%であった。これら結果から、対イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである本発明の陰イオン伝導性樹脂を用いた本発明の陰イオン伝導性膜は耐酸化性が高く、本発明の陰イオン伝導性膜を用いた燃料電池は、その出力が高く、また(樹脂残存率が高いことから)出力安定性も高くなると考えられる。
一方、系の同一性から実施例1と対比される比較例1および2の結果について見てみると、比較例1で製造した全対イオンがHCOの陰イオン伝導性膜は、電圧値で0.43Vと高いものの、樹脂残存率は18%と極めて低かった。また比較例2で製造した、対イオンの組成(Cl:HCO)=19:81である膜は、樹脂残存率で93%と高いものの、電圧値は0.24Vと極めて低かった。
さらに系の同一性から実施例3と対比される比較例3で製造した、対イオンの組成(I:HCO)=18:82である膜は、樹脂残存率は97%と高いものの、電圧値は0.20Vと極めて低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性基と該塩基性基にイオン結合する対イオンを有する陰イオン伝導性樹脂であって、前記対イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOであることを特徴とする陰イオン伝導性樹脂。
【請求項2】
陰イオン交換樹脂が炭化水素系陰イオン交換樹脂である請求項1に記載の陰イオン交換樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載の陰イオン伝導性樹脂を製造する方法であって、目的物である陰イオン伝導性樹脂とは対イオンの組成が異なる原料陰イオン伝導性樹脂と、溶液に含まれる陰イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである水溶液とを接触させることを特徴とする請求項1または2に記載の陰イオン伝導性樹脂の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の陰イオン伝導性樹脂からなる陰イオン伝導性膜。
【請求項5】
多数の連通孔を有する樹脂製微多孔膜の孔内に請求項1に記載の陰イオン伝導性樹脂が充填されていることを特徴とする陰イオン伝導性膜。
【請求項6】
多数の連通孔を有する樹脂製微多孔膜の孔内に、目的物である陰イオン伝導性樹脂とは対イオンの組成が異なる原料陰イオン伝導性樹脂が充填された原料陰イオン伝導性膜を、溶液に含まれる陰イオンの0.5mol%以上15mol%未満がハロゲン化物イオンであり、85mol%以上99.5mol%未満がOH及び/またはHCOである水溶液と接触させて、該原料陰イオン伝導性膜の孔内に充填された前記原料陰イオン交換樹脂を請求項1に記載の陰イオン交換樹脂に転化させることを特徴とする請求項5に記載の陰イオン伝導性膜の製造方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載の陰イオン伝導性膜からなることを特徴とする陰イオン伝導性膜型燃料電池用電解質。
【請求項8】
請求項7に記載の陰イオン伝導性膜型燃料電池用電解質を用いることを特徴とする陰イオン伝導性膜型燃料電池。

【公開番号】特開2012−201772(P2012−201772A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66884(P2011−66884)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】