説明

集積型光発電素子及び集積型光発電素子の製造方法

【課題】成膜された発電層が大気中に曝露されることを原因とする性能低下の問題を解決した集積型光発電素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】共通の基板10上に形成された複数のセルを有する集積型光発電素子Iであって、セルは、基板10と基板10上に分割形成された裏面電極層11と化合物半導体を用い隣接する他のセルと分割溝16によって分割された発電層12と透明電極層14と、を少なくとも備え、発電層12に含まれる元素の少なくとも一部を含み且つ裏面電極層11と透明電極層14とを電気的に短絡する短絡層15を有する集積型光発電素子I

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積型光発電素子等に関し、より詳しくは、化合物半導体を用いる集積型光発電素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池モジュールでは、基本単位ユニットである太陽電池セルを複数個直列に接続することにより、所定の電圧が得られている。中でも、CIS系等の薄膜太陽電池は、パターニングにより基板上に複数の太陽電池セルが分割形成され、これらを直列に接続した集積型構造を形成する製造方法が採用されている(特許文献1,2参照)。
【0003】
【特許文献1】特公昭58−021827号公報
【特許文献2】特公昭62−005353号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えばCIS薄膜系太陽電池は、通常、以下の手順により製造される。
図5は、従来のCIS薄膜系太陽電池の製造工程を説明する図である。初めに、絶縁性の基板1上に短冊状の裏面電極層2を形成した後(図5(a))、スパッタリング法等により発電層3を形成し、(図5(b))、続いて、メカニカルパターン法により発電層3の一部をストライプ状に除去し(図5(c))、その後、透明電極層4を形成し(図5(d))、最後に、透明電極層4を短冊状に分割する(図5(e))。
【0005】
しかし、上述したような集積型構造の太陽電池モジュールの製造工程では、発電層3を成膜後にパターニングが行われる。このため、成膜された発電層3の表面が大気中に曝露されることによる界面の酸化や埃の付着等が生じ、太陽電池の性能を低下させるという問題がある。
また、パターニングが行われるメカニカルパターニング工程は長時間を要し、製造コストを増大させる。さらに、メカニカルパターニング工程の際に発生した粉塵によりピンホールが生じることがあり、このピンホールにより光発電素子が部分的に短絡することに加え、パターニングされた界面から酸化等の劣化が進行し、光発電素子の寿命が低下するという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、成膜された発電層が大気中に曝露されることを原因とする性能低下の問題を解決した集積型光発電素子及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かくして本発明によれば、共通の基板上に形成された複数のセルを有する集積型光発電素子であって、セルは、基板と、基板上に分割形成された裏面電極層と、裏面電極層上に化合物半導体を用いて形成され、隣接する他のセルと分割溝によって分割された発電層と、発電層上にそれぞれ形成された透明電極層と、を少なくとも備え、発電層に含まれる元素の少なくとも一部を含み、且つ裏面電極層と透明電極層とを電気的に短絡する短絡層を有することを特徴とする集積型光発電素子が提供される。
【0008】
ここで、本発明が適用される集積型光発電素子において、発電層は、IB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含むことが好ましい。
さらに、発電層の化合物半導体は、カルコパイライト構造を有するCu−In−Se系半導体であることが好ましい。
また、短絡層に含まれるIB族元素とIIIB族元素との比(Ib/IIIb)が1.15以上であることが好ましい。
さらに、短絡層に含まれるIB族元素がCu又はAgであることが好ましい。
【0009】
次に、本発明によれば、複数のセルを有する集積型光発電素子の製造方法であって、基板上に裏面電極層を成膜する裏面電極層成膜工程と、成膜された裏面電極層の一部を除去し分割する第1のパターニング工程と、分割された裏面電極層の表面の一部に少なくともIB族元素を含む導電性ペースト層を形成するペースト層形成工程と、形成された導電性ペースト層を含む裏面電極層上にIB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含む化合物半導体からなる半導体層を成膜する半導体層成膜工程と、成膜された半導体層上に透明電極層を成膜する透明電極層成膜工程と、透明電極層が成膜された半導体層を加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層を形成すると共に、導電性ペースト層に含まれるIB族元素を化合物半導体に拡散させ、裏面電極層と透明電極層とを短絡する短絡層を形成する加熱工程と、形成された発電層と透明電極層との一部を除去し分割する第2のパターニング工程と、を有することを特徴とする集積型光発電素子の製造方法が提供される。
【0010】
ここで、本発明が適用される集積型光発電素子の製造方法において、短絡層に含まれるIB族元素とIIIB族元素との比(Ib/IIIb)が1.15以上であり、且つ、発電層に含まれるIB族元素とIIIB族元素との比(Ib/IIIb)が0.9以下であることが好ましい。
また、半導体層と透明電極層とをスパッタリングにより成膜することが好ましい。
さらに、半導体層成膜工程により成膜された半導体層の上にバッファー層を成膜することが好ましい。
【0011】
さらに、本発明によれば、複数のセルを有する集積型光発電素子の製造方法であって、基板上に裏面電極層を成膜する裏面電極層成膜工程と、成膜された裏面電極層の一部を除去し分割する第1のパターニング工程と、分割された裏面電極層上にIB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含む化合物半導体からなる半導体層を成膜する半導体層成膜工程と、成膜された半導体層上に透明電極層を成膜する透明電極層成膜工程と、成膜された透明電極層の表面の一部に少なくともIB族元素を含む導電性ペースト層を形成するペースト層形成工程と、半導体層を加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層を形成すると共に、導電性ペースト層に含まれるIB族元素を化合物半導体中に拡散させ、裏面電極層と透明電極層とを短絡させる短絡層を形成する加熱工程と、形成された透明電極層と発電層と裏面電極層の一部を除去し分割する第2のパターニング工程と、を有することを特徴とする集積型光発電素子の製造方法が提供される。
ここで、本発明が適用される集積型光発電素子の製造方法において、半導体層には、少なくとも銅(Cu)、インジウム(In)及びセレン(Se)が含有されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、メカニカルパターニング工程により生じる性能低下の問題を解決した集積型光発電素子が得られる。
本発明によれば、化合物半導体を含む発電層が大気に暴露される機会が低減することにより、太陽電池の性能低下が防止される。
本発明によれば、メカニカルスクライブ工程を削減することにより量産性の低下を防ぐことができる。
本発明によれば、メカニカルスクライブ後に生じる切削された端面からの劣化が抑制される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0014】
図1は、本実施の形態が適用される集積型光発電素子の一例を説明する図である。
図1に示すように、集積型光発電素子Iは、共通の基板10上に形成された複数の単位セル素子(セル)(Ia,Ib,Ic,Id,・・・)を有する。これらの単位セル素子は分割溝16により所定の間隔を隔て分離されている。
【0015】
次に、複数の単位セル素子(Ia,Ib,Ic,Id,・・・)は、それぞれ、基板10上に分割形成された裏面電極層11と、裏面電極層11上に化合物半導体を用いて形成され、隣接する他のセルと分割溝16によって分割された発電層12と、発電層12上にそれぞれ形成されたバッファー層13と透明電極層14と、を備えている。さらに、発電層12を構成する元素の一部を含み、且つ裏面電極層11と隣接する他のセルの透明電極層14とを電気的に短絡する短絡層15が設けられている。複数の単位セル素子(Ia,Ib,Ic,Id,・・・)は、短絡層15により電気的に直列接続されている。
【0016】
次に、集積型光発電素子Iの構成要素について説明する。
基板10を構成する材料としては、例えば、ステンレス等の金属フィルム、有機フィルム、ガラス等が挙げられる。基板10の大きさは特に限定されないが、本実施の形態では縦×横が10cm×10cmであり、厚さは、0.5mmである。
裏面電極層11を構成する材料としては、金属が好ましく、例えば、Mo、Ti、Cr、Al、Ag、Au、CuおよびPtから選択された少なくとも1つの金属またはこれらの合金が挙げられる。裏面電極層11は、本実施の形態では厚さ0.3μm程度の金属薄膜である。裏面電極層11は、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法(化学気相成長法:Chemical Vapor Deposition)等によって基板10上に成膜された後、後述するようにパターニングにより分割形成される。
【0017】
発電層12は、例えば、周期表IB族、IIIB族、VIB族の元素を含むカルコパイライト型化合物半導体が挙げられる。本実施の形態では、銅(Cu)、インジウム(In)及びセレン(Se)を含むカルコパイライト構造を有するCu−In−Se系半導体材料により構成されることが好ましい。
ここで、Cu−In−Se系半導体材料を採用する場合、裏面電極層11側に、p型半導体を形成しやすいCuとSeとの混合物からなるp型半導体形成用前駆体層を成膜し、次に、透明電極層14側に、n型半導体を形成しやすいInとSeとの混合物からなるn型半導体形成用前駆体層を成膜することが好ましい。p型半導体形成用前駆体層とn型半導体形成用前駆体層とは、相互に溶融拡散することにより、良好な結晶性を有する発電層12が生成し、pn接合を形成させることができる。
発電層12の厚さは、本実施の形態では、0.3μm〜5μmの範囲内である。
【0018】
透明電極層14は、本実施の形態では、ITO(Indium Tin Oxide)、SnO、ZnOから選択された少なくとも1つを含む金属材料を用い、スパッタリングまたは蒸着法により成膜することが好ましい。透明電極層14の厚さは、本実施の形態では、約0.6μmである。
本実施の形態では、発電層12と透明電極層14との間にバッファー層13を設けている。バッファー層13を構成する材料は特に限定されないが、本実施の形態では、InS、ZnS等の硫化物を使用している。発電層12と透明電極層14の間にバッファー層13を設けることにより、発電層12と透明電極層14との界面で発生する欠陥を抑制することができる。
【0019】
短絡層15は、発電層12を構成する元素の一部を含み、且つ裏面電極層11と隣接する他のセルの透明電極層14とを電気的に短絡している。本実施の形態では、短絡層15には、発電層12を構成する化合物半導体の元素である周期表IB族、IIIB族、VIB族の元素が、発電層12とは異なる組成比で含まれている。
【0020】
ここで、短絡層15に含まれる元素の組成比と電気的な抵抗率ρ(Ωcm)との関係について図4を用いて説明する。尚、図4は、平成元年度新エネルギー・産業技術総合開発機構委託業務成果報告書「新型太陽電池の実用化解析に関する調査研究II−化合物薄膜太陽電池−」第50頁から引用した。
図4は、化合物半導体に含まれる(IB族元素/IIIB族元素)組成と抵抗率との関係を示すグラフである。図4において、横軸は、IB族元素のCu(銅)とIIIB族元素のIn(インジウム)との組成比(Cu/In)を表し、縦軸は、抵抗率ρ(Ωcm)を表す。図4に示すように、化合物半導体に含まれるCu元素とIn元素との組成比(Cu/In)が0.9以下の場合は、抵抗率ρ(Ωcm)が10Ωcm以上の高抵抗率を示す発電領域Aとなる。一方、Cu元素とIn元素との組成比(Cu/In)が1.15以上の場合は、抵抗率ρ(Ωcm)が約10−1Ωcm以下の低抵抗率を示す短絡領域Bとなる。この結果に従えば、IIIB族元素に対するIB族元素の割合を調整することにより、化合物半導体の抵抗率ρ(Ωcm)を調製することが可能となる。
【0021】
具体的には、本実施の形態では、短絡層15に含まれるIB族元素(Cu)とIIIB族元素(In)との比(Ib/IIIb)が1.15以上、好ましくは1.2以上となるように構成されている。尚、本実施の形態では、IB族元素として、Cu元素以外に銀(Ag)元素を使用することができる。周期表においてCu元素と同族(IB族)に属するAg元素は、Cu元素と同じ数の最外殻電子を有することから、Cu元素とIn元素との組成比(Cu/In)と同様に、Ag元素とIn元素との組成比(Ag/In)を調整することにより、化合物半導体の抵抗率ρ(Ωcm)を短絡領域Bにおける低抵抗率ρ(Ωcm)の範囲に調整することが可能となる。
【0022】
次に、集積型光発電素子の製造方法について説明する。
図2は、集積型光発電素子Iの製造方法の第1の実施形態を説明する図である。図1と同じ構成については同じ符号を用い、その説明を省略する。
先ず、図2(a)に示すように、前述した材料からなる基板10を用意する。次に、図2(b)に示すように、基板10上にスパッタリングにより金属薄膜からなる裏面電極層11を連続的に成膜する(裏面電極層成膜工程)。
続いて、図2(c)に示すように、連続的に成膜された裏面電極層11の一部をパターニングにより除去し、複数の分割溝16によって複数に分割された裏面電極層11を形成する(第1のパターニング工程)。本実施の形態では、第1のパターニング工程は、例えば、ネオジウムYAGレーザ等の赤外領域(1064nm)のビームを使用するレーザスクライブ法を採用している。
【0023】
次に、図2(d)に示すように、第1のパターニング工程により分割された複数の裏面電極層11の表面の一部に、スクリーン印刷法により、少なくともIB族元素を含む導電性ペースト層15を形成する(ペースト層形成工程)。
ここで、導電性ペースト層15を構成する導電性ペーストとしては、通常、熱可塑性ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂をバインダとし、これに銀、銅、アルミニウム等の金属の微粉末やカーボンブラック等の導電性微粉末を添加し、種々の有機溶媒にこれらバインダ、導電性微粒子を溶解、分散させて調製されたものとして定義される。金属の微粉末としては、例えば、銅粒子、ニッケル粒子、アルミニウム粒子等の表面の一部が、例えば、銀、金等の他の金属で被覆された複合金属粉も使用される。また、中でも銀については、例えば、酸化第1銀、酸化第2銀、炭酸銀、酢酸銀、アセチルアセトン銀錯体等の粒子状銀化合物が好ましい。
このような導電性ペーストとしては、市販されている従来公知のものを使用することができる。本実施の形態では、例えば、藤倉化成株式会社製Agペースト:ドータイトXA−9053を使用している。
【0024】
続いて、図2(e)に示すように、形成された導電性ペースト層15を含む裏面電極層11上にIB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含む化合物半導体からなる半導体層12を成膜する(半導体層成膜工程)。本実施の形態では、半導体層12は、複数のp型半導体形成用前駆体層とn型半導体形成用前駆体層とを積層させて成膜する。
即ち、本実施の形態では、化合物半導体としてCu−In−Se系半導体材料を採用し、裏面電極層11側にp型半導体を形成しやすいCuとSeとの混合物からなるp型半導体形成用前駆体層を成膜し、次に、透明電極層14側にn型半導体を形成しやすいInとSeとの混合物からなるn型半導体形成用前駆体層を成膜することが好ましい。p型半導体形成用前駆体層とn型半導体形成用前駆体層とは、後述する加熱工程において相互に溶融拡散することにより、良好な結晶性を有する半導体からなる発電層12が生成し、pn接合を形成させることができる。
【0025】
本実施の形態では、成膜された半導体層12上にバッファー層13が成膜され、さらに、バッファー層13上に透明電極層14が成膜される(透明電極層成膜工程)。
本実施の形態では、前述した半導体層12とバッファー層13と透明電極層14とは、スパッタリング法により連続的に一貫成膜される。
【0026】
次に、図2(f)に示すように、透明電極層14が成膜された半導体層12を加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層12を形成すると共に、導電性ペースト層15に含まれるIB族元素を発電層12中の化合物半導体に拡散させ、裏面電極層11と透明電極層14とを短絡する短絡層15を形成する(加熱工程)。
前述したように、加熱工程において、半導体層12のp型半導体形成用前駆体層とn型半導体形成用前駆体層とは相互に溶融拡散することにより、良好な結晶性を有する半導体からなる発電層12が生成する。
【0027】
さらに、導電性ペースト層15に含まれるCu元素やAg元素等のIB族元素が金属イオンとして半導体層12に拡散することにより、半導体層12の導電性ペーストが拡散した部分のみ、IB族元素の組成比が増大する。その結果、半導体層12に含まれるIB族元素とIIIB族元素との組成(IB族元素/IIIB族元素)が、低抵抗率を得る範囲(図4に示す短絡領域)にシフトし、裏面電極層11と透明電極層14とを短絡する短絡層15が形成される。本実施の形態では、短絡層15は発電層12とバッファー層13に拡散し透明電極層14に達することにより、裏面電極層11と透明電極層14とを電気的に短絡させている。
【0028】
続いて、図2(g)に示すように、形成された発電層12とバッファー層13と透明電極層14の一部をパターニングにより除去し、複数の分割溝16によって分割された複数の単位セル素子(Ia,Ib,Ic,Id,・・・)を形成し、集積型光発電素子Iを得る(第2のパターニング工程)。本実施の形態では、第2のパターニング工程は、例えば、金属刃、カッターナイフ、金属針又はニードル等を用いて発電層12と透明電極層14との一部を短冊状に切り分けるメカニカルスクライブ法を採用している。
【0029】
上述したように、本実施の形態が適用される集積型光発電素子Iの製造方法は、従来から行われているCIS薄膜系太陽電池の製造工程と比べ、メカニカルスクライブ工程を経ることなく、発電層12とバッファー層13と透明電極層14とが連続的に一貫成膜できるので、化合物半導体を含む発電層12が大気に暴露される機会が低減し、太陽電池の性能低下が防止される。また、通常、長時間を要するメカニカルスクライブ工程を削減することにより量産性の低下を防ぐことができる。さらに、メカニカルスクライブ後に生じる切削された端面からの劣化が抑制される。
【0030】
また、本実施の形態が適用される集積型光発電素子Iは、裏面電極層11と透明電極層14とを電気的に短絡させる短絡層15を設けることにより、透明電極層14の厚さを薄くすることが可能となり、製造コストの低減と共に、光透過率の向上及び発電効率の増大が期待できる。即ち、従来の集積型の光発電素子では、インターコネクトの抵抗を低下させるために、変換効率の低下をある程度犠牲にして、透明電極層を厚く形成する必要があった。しかし、本実施の形態における集積型光発電素子Iのように、半導体層12の導電性ペーストが塗布された部分のみに、IB族元素とIIIB族元素との組成が低抵抗率が得られる範囲にシフトした短絡層15を設けることにより、上述した問題が解決される。
【0031】
次に、集積型光発電素子の他の製造方法について説明する。
図3は、集積型光発電素子IIの製造方法の第2の実施形態を説明する図である。図1及び図2と同じ構成については同じ符号を用い、その説明を省略する。
先ず、図3(a)に示すように基板10を用意し、次に、図3(b)に示すように、基板10上に裏面電極層11を成膜する(裏面電極層成膜工程)。続いて、図3(c)に示すように、パターニングにより複数の分割溝16によって分割された裏面電極層11を形成する(第1のパターニング工程)。
【0032】
次に、図3(d)に示すように、裏面電極層11上に化合物半導体からなる半導体層12を成膜し(半導体層成膜工程)、半導体層12上にバッファー層13を成膜し、さらに、バッファー層13上に透明電極層14を成膜する(透明電極層成膜工程)。
半導体層12の成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、気相セレン化法、スパッタリング法、ハイブリッドスパッタ法等が知られている。バッファー層13の成膜方法としては、スパッタリング法、化学溶液成長法等が挙げられる。透明電極層14の成膜方法は、スパッタリング法、MOCVD法等が挙げられる。
【0033】
続いて、図3(e)に示すように、透明電極層14の表面の一部に、スクリーン印刷法により、少なくともIB族元素を含む導電性ペースト層15を形成する(ペースト層形成工程)。
次に、図3(f)に示すように、透明電極層14が成膜された半導体層12を加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層12を形成する。同時に、導電性ペースト層15に含まれるIB族元素を、透明電極層14及びバッファー層13を通して半導体層12の化合物半導体中に拡散させ、裏面電極層11と透明電極層14とを短絡する短絡層15を形成する(加熱工程)。
前述した図2(f)において説明したと同様に、導電性ペースト層15に含まれるCu元素やAg元素等のIB族元素が金属イオンとして半導体層12に拡散した部分のみ抵抗率が大幅に低下し、裏面電極層11と透明電極層14とを短絡する短絡層15が形成される。
【0034】
続いて、図3(g)に示すように、形成された発電層12とバッファー層13と透明電極層14の一部をパターニングにより除去し、複数の分割溝16によって分割された複数の単位セル素子(Ia,Ib,Ic,Id,・・・)を形成し、集積型光発電素子IIを得る(第2のパターニング工程)。
【0035】
尚、以上の説明は、本発明の実施の形態を説明するための一例に過ぎず、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。
本発明は複数の元素から構成される半導体層と、これを挟む2つの電極層を備える光発電素子や、このような構造を有する光発電素子の製造方法に応用することができる。例えば、Cd−Te系に代表されるIII−V族半導体、Cu−In−Se系に代表されるI−III−VI族半導体、Cu−Zn−Sn−S系化合物に代表されるI−II−IV−VI族半導体、II−IV−V族半導体、Si−Ge系等の2種類以上の元素からなるIV族半導体に適用することも可能である。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例に基づき本実施の形態をさらに詳細に説明する。尚、本実施の形態は以下の実施例に限定されない。
【0037】
(実施例1)
以下の操作により、図1に示す集積型光発電素子Iを調製した。ガラス製の基板10上に成膜した裏面電極層11としてのMo(モリブデン)層をレーザスクライブ法により分割した。次に、分割形成した裏面電極層11の表面の一部に、スクリーン印刷法により導電性ペースト層15を形成した。導電性ペーストには、藤倉化成株式会社製Agペースト:ドータイトXA−9053を使用した。
続いて、スパッタリング法により、第1In−Se層、第1Cu−Se層、第2In−Se層、第2Cu−Se層、第3In−Se層とを順に積層してなる半導体層12を成膜し、その上にバッファー層13としてIn層を成膜し、さらに透明電極層14としてAl−Zn−O層を成膜した。
【0038】
次に、窒素ガス中で400℃、2時間程度加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層12を形成すると共に、導電性ペースト層15に含まれるIB族元素を化合物半導体に拡散させ、裏面電極層11と透明電極層14とを短絡する短絡層15を形成した。
続いて、形成された発電層12とバッファー層13と透明電極層14の一部をパターニングにより除去し、複数の分割溝16によって分割された複数の単位セル素子(Ia,Ib,Ic,Id,・・・)を形成し、集積型光発電素子Iを調製した。
【0039】
調製した集積型光発電素子I内の単位セル素子Ia,Ib,Ic,Idが直列に接続されているかどうかを調べるため、集積型光発電素子Iの両端の電圧と、単位セル素子Ia,Ib,Ic,Idの裏面電極層11と透明電極層14との間の電圧を測定した。
その結果、集積型光発電素子Iの両端の電圧が1,750mVであり、単位セル素子Ia,Ib,Ic,Idの各セルの電圧がそれぞれ450mVであった。これにより、本発明による集積化方法により集積化が可能であることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施の形態が適用される集積型光発電素子の一例を説明する図である。
【図2】集積型光発電素子の製造方法の第1の実施形態を説明する図である。
【図3】集積型光発電素子の製造方法の第2の実施形態を説明する図である。
【図4】化合物半導体に含まれる(IB族元素/IIIB族元素)組成と抵抗率との関係を示すグラフである。
【図5】従来のCIS薄膜系太陽電池の製造工程を説明する図である。
【0041】
1,10…基板、2,11,11…裏面電極層、3,12…発電層、12…半導体層、13,13…バッファー層、4,14,14…透明電極層、15…短絡層、15…導電性ペースト層、16,16…分割溝、I,I…集積型光発電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の基板上に形成された複数のセルを有する集積型光発電素子であって、
前記セルは、
基板と、
前記基板上に分割形成された裏面電極層と、
前記裏面電極層上に化合物半導体を用いて形成され、隣接する他のセルと分割溝によって分割された発電層と、
前記発電層上にそれぞれ形成された透明電極層と、を少なくとも備え、
前記発電層に含まれる元素の少なくとも一部を含み、且つ前記裏面電極層と前記透明電極層とを電気的に短絡する短絡層を有する
ことを特徴とする集積型光発電素子。
【請求項2】
前記発電層は、IB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の集積型光発電素子。
【請求項3】
前記発電層の化合物半導体は、カルコパイライト構造を有するCu−In−Se系半導体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の集積型光発電素子。
【請求項4】
前記短絡層に含まれるIB族元素とIIIB族元素との比(Ib/IIIb)が1.15以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の集積型光発電素子。
【請求項5】
前記短絡層に含まれるIB族元素がCu又はAgであることを特徴とする請求項4に記載の集積型光発電素子。
【請求項6】
複数のセルを有する集積型光発電素子の製造方法であって、
基板上に裏面電極層を成膜する裏面電極層成膜工程と、
成膜された前記裏面電極層の一部を除去し分割する第1のパターニング工程と、
分割された前記裏面電極層の表面の一部に少なくともIB族元素を含む導電性ペースト層を形成するペースト層形成工程と、
形成された前記導電性ペースト層を含む前記裏面電極層上にIB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含む化合物半導体からなる半導体層を成膜する半導体層成膜工程と、
成膜された前記半導体層上に透明電極層を成膜する透明電極層成膜工程と、
前記透明電極層が成膜された前記半導体層を加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層を形成すると共に、前記導電性ペースト層に含まれるIB族元素を当該化合物半導体に拡散させ、前記裏面電極層と当該透明電極層とを短絡する短絡層を形成する加熱工程と、
形成された前記発電層と前記透明電極層との一部を除去し分割する第2のパターニング工程と、を有する
ことを特徴とする集積型光発電素子の製造方法。
【請求項7】
前記短絡層に含まれるIB族元素とIIIB族元素との比(Ib/IIIb)が1.15以上であり、且つ、前記発電層に含まれるIB族元素とIIIB族元素との比(Ib/IIIb)が0.9以下であることを特徴とする請求項6に記載の集積型光発電素子の製造方法。
【請求項8】
前記半導体層と前記透明電極層とをスパッタリングにより成膜することを特徴とする請求項6又は7に記載の集積型光発電素子の製造方法。
【請求項9】
前記半導体層成膜工程により成膜された前記半導体層の上にバッファー層を成膜することを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1項に記載の集積型光発電素子の製造方法。
【請求項10】
複数のセルを有する集積型光発電素子の製造方法であって、
基板上に裏面電極層を成膜する裏面電極層成膜工程と、
成膜された前記裏面電極層の一部を除去し分割する第1のパターニング工程と、
分割された前記裏面電極層上にIB族元素、IIIB族元素、VIB族元素を含む化合物半導体からなる半導体層を成膜する半導体層成膜工程と、
成膜された前記半導体層上に透明電極層を成膜する透明電極層成膜工程と、
成膜された前記透明電極層の表面の一部に少なくともIB族元素を含む導電性ペースト層を形成するペースト層形成工程と、
前記半導体層を加熱し、化合物半導体の結晶からなる発電層を形成すると共に、前記導電性ペースト層に含まれるIB族元素を当該化合物半導体中に拡散させ、前記裏面電極層と当該透明電極層とを短絡させる短絡層を形成する加熱工程と、
形成された前記透明電極層と前記発電層と前記裏面電極層の一部を除去し分割する第2のパターニング工程と、を有する
ことを特徴とする集積型光発電素子の製造方法。
【請求項11】
前記半導体層には、少なくとも銅(Cu)、インジウム(In)及びセレン(Se)が含有されていることを特徴とする請求項10に記載の集積型光発電素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−114147(P2010−114147A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283418(P2008−283418)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】