説明

離型用ポリプロピレンフィルム及びそれからなる積層フィルム及び積層シート

【課題】
主としてシリコーンゴム類の硬化毒性を有せず、低分子量物の転写も少ない離型性に優れたポリプロピレンフィルムを提供することにある。
【解決手段】
融点が155〜163℃であるポリプロピレン樹脂からなり、冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))が0.1〜2重量%であり、含有する酸化防止剤の添加割合(AO(重量%))の、冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))に対する比(AO/CXS)が0.01〜1であることを特徴とするポリプロピレンフィルム。(ここで、CXS(重量%):ポリプロピレンフィルムから冷キシレンで抽出される、アタクチックポリプロピレンに起因する成分の重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合、 AO(重量%):ポリプロピレンフィルムに含有する酸化防止剤の総重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱寸法安定性に優れる離型用ポリプロピレンフィルムに関するものであり、特にエポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂等の熱硬化性樹脂および/またはゴム状物の製造に好ましく用いられるポリプロピレンフィルムに関するものである。ここで離型用とは、例えば、熱硬化性樹脂シート・部材等を成形する際に、該樹脂等が硬化するまで支持体として、あるいは他の部材と接着しないように分離する目的で使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、その分子構造に極性基を有しないために、表面エネルギーが小さく、離型性に優れるという特性を有する。特に、その中でも高い立体規則性を有するアイソタクチックポリプロピレンは耐熱性にも優れ、フレキシブルプリント基盤、繊維強化プラスチック成型体、加硫ゴム等を製造する際に使用する離型シートあるいは離型フィルムとして用いられるケースが増えてきた。
【0003】
これら材料に用いられる樹脂としては、多くが熱硬化性樹脂であり、樹脂の前駆体と必要なフィラー及び必要に応じて溶媒等からなる粘張な組成物を、離型フィルム上にシート状に形成し、溶媒を除去後オーブン等で硬化反応を進め、目的の材料を得る。この際に、離型フィルムに含有する成分が組成物に移行することがあるが、その成分によっては、硬化反応を妨げたり、あるいは特性を劣化させたりする可能性がある。
【0004】
具体的には、シリコーンゴムに代表される架橋高分子材料シートを製造する際に前駆体となるスラリー状の液体をポリプロピレンフィルムで挟み込み、加熱して架橋反応を進行させる製造方法があるが、特定のポリプロピレンフィルムは、シリコーンの架橋反応を阻害する場合がある。たとえば付加型シリコーンゴムの被毒物質については、非特許文献1において、以下のような記載が見出せる。
【0005】
“付加型シリコーンゴムは硬化触媒として白金化合物を用いており、この白金化合物がある種の化合物と比較的強い相互作用をもち、ヒドロシリル化の能力を失い、硬化不良を起こすという欠点を有している。”
この被毒物質としては、N、P、S等を含む有機化合物、Sn、Pb、Hg、Bi、As等の重金属のイオン性化合物、アセチレン基等の多重結合を含む有機化合物などがあり具体例としては有機ゴム(硫黄加硫品や老化防止剤)、アミン類(エポキシ、ウレタン樹脂の架橋剤や硬化剤、触媒、アミノシラン等)、ハンダフラックス、軟質塩ビに含まれる可塑剤、安定剤、縮合型シリコーンゴム(特にSn系触媒を用いているもの)等があげられる。
【0006】
すなわち、ポリプロピレンフィルムでは樹脂の安定化や機能付加のため、さまざまな添加剤をもちいているが、こうした添加剤がシリコーンゴム等の製造工程で架橋反応を阻害しないよう、ポリプロピレンフィルムに使用される添加剤の組成を選定する必要があった。
【0007】
また、この様な成型過程では加熱により反応を進行させる必要があるため、離型フィルムの熱寸法安定性が求められるが、このため、用いられるポリプロピレン樹脂の低分子量成分と融点を規定することで熱収縮率を低減する試みが提案されている(例えば特許文献1)。しかしながら、このようなポリプロピレン樹脂を選択した場合は、延伸性が悪化するために均一で肉厚のフィルムを得ることが困難で、特に離型用の様に支持体として用いるために十分な厚さのフィルムを製造することは困難であるという問題を有していた。
【非特許文献1】伊藤邦雄「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社(1990年9月)、p.391
【特許文献1】特開2001−146536号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はシリコーンゴムシート等の製造工程において、架橋反応を阻害せず、しかも耐熱性・耐久性に優れるポリプロピレンフィルム及びそれからなる積層シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のポリプロピレンフィルムは次の構成を有するものである。すなわち、本発明のポリプロピレンフィルムは、融点が155〜163℃であるポリプロピレン樹脂からなり、冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))が0.1〜2重量%であることを特徴とするポリプロピレンフィルムである。ここで、冷キシレン可溶分の割合CXS(重量%)とは、ポリプロピレンフィルムの冷キシレン可溶分の内、ポリプロピレン樹脂に起因する成分の重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合のことを意味する。
【0010】
また、本発明の好ましい態様によれば、上記ポリプロピレンフィルムにおいて、含有する酸化防止剤の添加割合(AO(重量%))の、冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))に対する比(AO/CXS)が0.01〜1である。ここで、含有する酸化防止剤の添加割合AO(重量%)とは、ポリプロピレンフィルムに含有する酸化防止剤の総重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合のことを意味する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によればシリコーンゴムシート等の熱硬化性樹脂シート等の製造工程において架橋反応を阻害せず、しかも耐熱性・耐久性に優れるポリプロピレンフィルム及び積層シートを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。 本発明のポリプロピレンフィルムにかかるポリプロピレン樹脂の融点は155〜163℃であることが必要であり、好ましくは156〜162℃、より好ましくは156〜161℃である。融点が155℃を下回ると耐熱性が悪化し、163℃を上回ると延伸性が悪化して厚み斑・熱収縮斑が発生して、結果的に平面性・熱寸法安定性に劣ったものになる。融点が上記155〜163℃の範囲であるポリプロピレン樹脂は、立体規則性でコントロールする方法、エチレン、αーオレフインを共重合する方法、プロピレンとエチレン、αオレフインとからなる共重合ポリマーをポリプロピレンホモポリマーにブレンドする方法等が例示されるが、立体規則性でコントロールする方法がCXSを低く抑えることが容易なので好ましい。立体規則性は触媒構成により決定され、立体規則性の指標であるメソペンタッド分率を0.86〜0.96の範囲に制御することで得られる。
【0013】
また、プロピレンにα−オレフィンを共重合する方法も融点を所望の範囲に制御する方法として好ましい方法であり、α−オレフィンとしては1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンなどが例示されるが、特に1−ブテンが延伸性が良好となるので好ましい。この際のα―オレフインの共重合量としては、融点を上述の範囲とするように適宜設定すれば良いが、0.5〜4mol%であることが好ましく、更に好ましくは1〜3mol%であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のポリプロピレンフィルムは冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))が0.1〜2重量%であることが必要であり、好ましくは0.2〜1重量%、さらに好ましくは0.2〜0.7重量%である。ここで、冷キシレン可溶分の割合CXS(重量%)とは、ポリプロピレンフィルムを冷キシレンで抽出した際の可溶分の内、ポリプロピレン樹脂に起因する成分の重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合のことを意味する。CXSが0.1重量%未満であると製膜安定性に劣り、2重量%を越えると熱収縮が大きくなる。CXSを所望の範囲とする方法は、触媒活性を高めることで、極力低分子量成分を低減する、あるいは公知の重合法でポリプロピレン原末を得た後にプロピレンで洗浄し、低分子量物を排除する等の方法がある。
【0015】
次いで本発明のポリプロピレンフィルムにおいては、ポリプロピレンフィルムに含まれる酸化防止剤の総重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合(AO(重量%))と前述のCXSとの比(AO/CXS)が0.01〜1であることが好ましい。より好ましくは0.1〜0.4である。AO/CXSが0.01未満であると酸化劣化等によりフィルムの機械特性の劣化が問題となる。一方、AO/CXSが1より大きいと、余剰の酸化防止剤の副作用として、架橋阻害等の問題を生じる場合がある。
【0016】
本発明に用いられる酸化防止剤としては、フェノール系、ヒンダードアミン系、フォスファイト系、ラクトン系、トコフェロール類が例示され、具体的には、ジブチルヒドロキシトルエン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株):Irganox(登録商標)1010)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ)ベンゼン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株):Irganox(登録商標)1330)、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株):Irgafos(登録商標)168)が挙げられる。この中で、フェノール系酸化防止剤系から選ばれた少なくとも1種あるいはそれらの組み合わせ、あるいはフェノール系とフォスファイト系との組み合わせ、及び、フェノール系とラクトン系、フェノール系とフォスファイト系とラクトン系の組み合わせが、ポリプロピレンの安定性を向上する観点から好ましい。
【0017】
燐系酸化防止剤は通常二次酸化防止剤として機能するため、一次酸化防止剤であるフェノール系と組み合わせる形で用いられることが多い。一方、燐系酸化防止剤はシリコーン架橋反応に対して比較的強い阻害能を有する場合が多く、効率的に添加することが好ましい。この観点から、酸化防止剤が燐系酸化防止剤を含有する場合は、前記燐系酸化防止剤が全酸化防止剤の20重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは10重量%以下である。この観点からフェノール系と燐系酸化防止剤の組み合わせを選定する場合、ラクトン併用系とすることで、燐系酸化防止剤の添加量を低減することが容易となるので好ましい。
【0018】
更に、フェノール系酸化防止剤の中でも融点が高い物ほど架橋反応の阻害性が低減する傾向にあり、酸化防止剤としての機能とのバランスに置いて、その融点は100〜250℃であると好ましい。
【0019】
この様な特性を有するポリプロピレンフィルムはゴム状高分子架橋体シートを製造する際に好ましく用いられる。具体的には前駆体となるスラリーを二枚のポリプロピレンフィルムにはさみ、オーブン中で100〜140℃で加熱架橋反応を進行させる。この際にポリプロピレンフィルムの収縮によるシートの変形を避けるため、ポリプロピレンフィルムにポリエステルフィルムを貼り合わせておくと好ましい。シート変形を低減する観点から該ポリエステルフィルムとポリプロピレンフィルムとの厚み比(ポリエステルフィルムの厚み:ポリプロピレンフィルムの厚み)は2:1〜10:1の範囲としておくと好ましい。他方で、ポリプロピレンフィルム単体で使用する場合については腰を強くして利便性を高めるため、30〜200μm程度の厚みとすることが好ましい。ここで、ポリプロピレンフィルムと貼り合わされるポリエステルフィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレン(2,6)ナフタレート(PEN)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、これらの樹脂から選ばれた混合樹脂および/または共重合樹脂、からなるフィルムが例示されるが、耐熱性の観点からその融点は200℃以上であることが好ましく、更に好ましくは230℃以上である。この観点から、PET、PENから選ばれた樹脂からなるフィルムが特に好ましい。
【0020】
本発明においては、本発明ポリプロピレンフィルム単独で、あるいは前記ポリエステルフィルムとの積層フィルムとして、熱硬化性樹脂シートの成形工程および/または該樹脂の支持フィルムとして好ましく使用される。ここで、熱硬化性樹脂シートとは、シリコーンゴム、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂等が例示され、該樹脂には必要に応じて無機および/または有機のフィラーが添加される。特に本発明フィルムはポリプロピレンフィルムの熱寸法安定性が優れており、表面の酸化防止剤等のブリードアウトが少ないために、シリコーン系樹脂・ゴム等の硬化阻害の問題を生じることが少なく、また離型性の点でも優れているので好ましい。熱寸法安定性を示す尺度として120℃での熱収縮率がポリプロピレンフィルム単独である場合、長手方向3.0%以下であることが好ましい。またポリエステルフィルムとの積層フィルムとすることで長手方向0.5〜1.5%程度になり、さらに好ましい。
【0021】
この様にして得られたゴム状高分子架橋体シートはポリプロピレンフィルムを貼り合わせた状態のまま保存し、必要に応じて該ポリプロピレンフィルムを剥離して使用される。そのためポリプロピレンフィルムの剥離力を示す濡れ張力は剥離面で40mN/m以下であることが必要であり、さらに好ましくは36mN/m以下である。
【0022】
次いで、本発明ポリプロピレンフィルムおよび積層フィルムの製造方法について述べるが、これに限定されるものでは無い。
【0023】
ポリプロピレン原末の製造工程において、触媒活性を高め極力低分子量成分を低減する、あるいはポリプロピレン原末を得た後にプロピレンで洗浄し、低分子量物を排除することによりCXS値を制御したポリプロピレン原末を得る。プロピレンとα−オレフィンとの共重合体を得るためには、特開2002−128825号に記載の方法を用いることで達成でき、洗浄によりCXS値を制御する。
【0024】
そして、次の造粒工程において、各種酸化防止剤をその量を調整しながら添加する。こうして得られたポリプロピレン樹脂を押出機に供給し、240℃〜270℃の温度で融解させ濾過フィルターを経た後、Tダイを用いて押し出し、20〜100℃にコントロールした金属ドラムで成形し未延伸フィルムを得た。 この未延伸フィルムを110〜150℃の温度に予熱してから長手方向に3〜10倍延伸し、室温に冷却した後テンター式延伸機で140〜185℃で横手方向に4〜12倍延伸し、140〜160℃で0〜8%弛緩させた後、必要な表面処理を施して巻き取り、離型用2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。このようにして得られたポリプロピレンフィルムはCXS値が0.1〜2重量%であり、AO/CXSが0.01〜1である。また積層フィルムの場合、この2軸延伸ポリプロピレンフィルムの表面処理面側にアクリル系粘着剤等の粘着剤を塗布し、その面にポリエステルフィルム、熱硬化性樹脂シート、ゴム状高分子架橋体シートを貼り合わせた後巻き取ることで製造する。
【0025】
次に本発明に用いる測定法及び評価法について説明する。
(1)融点
セイコー社製RDC220示差走査熱量計を用いて、下記の条件で測定を行った。
【0026】
試料の調整:ポリプロピレン樹脂10mgを測定用のアルミパンに計量し、クリンパーでアルミパンをサンドイッチする。
【0027】
測定条件:
1st run:20℃/分の割合で280℃まで昇温し、5分間保持する。その後20℃/分の割合で25℃まで降温する。
【0028】
2nd run:1st runを実施直後引き続き20℃/分の割合で280℃まで昇温する。
【0029】
2nd run時の融解ピーク値を融点として読み取る。融解ピーク値が複数ある場合は最もピーク面積が大きい融解ピークを採用する。
【0030】
上記測定を5回繰り返し、その内の最大値と最小値の2点を省いた残り3点の平均値を融点とした。
(2)CXS値(冷キシレン可溶分)
ポリプロピレンフィルム試料0.5gを沸騰キシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶化させた後のろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法にて定量する(X(g))。試料0.5gの精量値(X0(g))を用いて以下の式で求める。
【0031】
CXS値(重量%)=X/X0×100
(3)メソペンタッド分率
ポリプロピレンフィルム試料を溶媒に溶解し、13C−NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)(100分率)を求める。測定条件は次のようにして行った。
【0032】
装置:Bruker社製、DRX−500
測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
測定濃度:10重量%(ポリプロピレンフィルム試料の溶媒に対する重量%)
溶媒:ベンゼン/重オルトジクロロベンゼン=1:3混合溶液(体積比)
測定温度:130℃
スピン回転数:12Hz
NMR試料管:5mm管
パルス幅:45°(4.5μs)
パルス繰り返し時間:10秒
データポイント:64K
換算回数:10000回
測定モード:complete decoupling
測定した結果を解析するに当たり、LB(ラインブロードニングファクター)を1.0としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker社製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下の様にピーク分割を行い、更にソフトの自動フィッテイングを行い、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmとss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)のピーク分率の合計をメソペンタッド分率(mmmm)とする。尚、測定はn=5で行い、その平均値を求める。ピークは次の10種類が検出されるが、前述のmmmmは(i)であり、ssは(h)である。
【0033】
(a)mrrm、(b)(c)rrrm(2つのピークとして分割)、(d)rrrr、(e)mrmm+rmrr、(f)mmrr、(g)mmmr、(h)ss(mmmmのスピニングサイドバンドピーク)、(i)mmmm、(j)rmmr
(4)濡れ張力
ポリプロピレンフィルム試料の濡れ張力をホルムアミドとエチレングリコールモノエチルエーテルとの混合液によるJIS K 6768に規定された測定方法に基づいて測定する。濡れ張力は40mN/m以下であれば良好である。
(5)加熱収縮率
ポリプロピレンフィルム試料、又はポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルムとの積層フィルム試料の長手方向の加熱収縮率を、JIS Z1712の加熱収縮率のA法に準じて測定する。加熱収縮率は、ポリプロピレンフィルム試料では3.0%以下、ポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルムとの積層フィルム試料では0.5〜1.5%であれば良好である。
(6)AO/CXS
ポリプロピレンフィルムを裁断した試料片5gをソックスレー抽出機に入れ、クロロホルムで連続8時間抽出する。この液をエバポレータ(水浴温度40℃)で20〜40ml程度に濃縮後50mlのメスフラスコに移し、容器をクロロホルムで洗浄してこれもメスフラスコに移し、さらにクロロホルムを加えて50ml溶液とする。このうち2mlを10mlメスフラスコにとり、容器を振りながらアセトニトリルを加えて10ml溶液とする。析出した沈殿をディスクフィルターで濾過後、次のような測定条件でHPLC分析を行う。
【0034】
システム:島津LC−10A(sys−4)システム
カラム:TSKgel ODS−120T 4.6×150mm
移動相:アセトニトリル:水=97:3(体積比)
流速:1.5ml/min
カラム温度:45℃
検出器:フォトダイオードアレイ
注入量:20μl
このようにして各酸化防止剤の定量を行い、その総和としてAOを算出する。AOをCXSで除した値をAO/CXSとする。
(7)熱硬化性樹脂シートの硬化の評価方法
ポリプロピレンフィルム試料、又はポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルムとの積層フィルム試料で、大きさが400mm×400mmで厚みが2mmのスラリー状シリコーンを挟み(積層フィルム試料で挟む場合は、ポリプロピレンフィルム面とスラリー状シリコーンが接触するようにして挟む)、120℃で15分間の硬化処理を施した後、シリコーン樹脂シートの硬化度をJIS K2207による針入度試験により測定する。針入度の値は0.1mmが1であり、40〜80の数値で硬化反応が硬化阻害無く進行したと判定した。
(8)1−ブテン含有量
高分子分析ハンドブック(1985年、朝倉書店発行)の256頁(i)ランダム共重合体の項記載の方法に従ってIRスペクトル法により次式から重量%で求め、mol%に変換した。
【0035】
1−ブテン共重合量(重量%)=1.208K’
K’=767cm−1の吸光度
【実施例】
【0036】
ポリプロピレン重合触媒と原末のプロピレン洗浄工程で、洗浄時間を変えることにより、立体規則性とCXS含有量の異なる6種類のポリプロピレン樹脂A〜Fを準備した(表1)。この樹脂を用いて、以下の様にフイルムを作製して特性を評価した。また、特開2002−128825号の方法を用いて1−ブテンの量を調整し、かつ原末の洗浄時間を調整してプロピレンに1−ブテンを2mol%共重合したポリプロピレン樹脂Gを準備した(表1)。
【0037】
【表1】

【0038】
(実施例1)
ポリプロピレン樹脂Bに酸化防止剤としてIrganox(登録商標)1010を1500ppmおよびジブチルヒドロキシトルエンを3000ppm添加したポリプロピレン樹脂を押出機へ供給し260℃に加熱溶融し、Tダイを用いて押出し40℃の金属ドラムで冷却固化し、未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムを140℃の温度に予熱して長手方向に4.5倍延伸し、室温に冷却した後160℃に加熱されたテンター式延伸機に導き、幅方向に8倍に延伸し、更に140℃で5%弛緩しつつ熱処理して、厚さ50μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムはCXSが1.0重量%、AO/CXSが0.12で、均一に延伸されており熱収縮率は120℃で長手方向1.7%と耐熱性に優れており、濡れ張力が32mN/mと離型用途に適していた。また図1のように、該ポリプロピレンフィルムでスラリー状シリコーンの両面を挟み、120℃で15分間の硬化処理を施しても架橋阻害を生じず、シリコーン硬化が確認された。
【0039】
(実施例2)
実施例1においてポリプロピレン樹脂CにIrganox(登録商標)1010添加量を3000ppmおよびジブチルヒドロキシトルエンを3000ppm添加したポリプロピレン樹脂を使用した以外は同様にして、厚さ50μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムはCXSが1.5重量%、AO/CXSが0.16で、均一に延伸されており熱収縮率は120℃で長手方向2.0%と耐熱性に優れており、濡れ張力が32mN/mと離型用途に適していた。また実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認された。
【0040】
(実施例3)
実施例1においてポリプロピレン樹脂CにIrganox(登録商標)1010添加量を1500ppmおよびジブチルヒドロキシトルエンを3000ppm添加したポリプロピレン樹脂を使用した以外は同様にして、厚さ49μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムはCXSが1.5重量%、AO/CXSが0.08で、均一に延伸されており熱収縮率は120℃で長手方向1.9%と耐熱性に優れており、濡れ張力が32mN/mと離型用途に適していた。また実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認された。
【0041】
(実施例4)
実施例1においてポリプロピレン樹脂Aからなるポリプロピレン樹脂を使用した以外は同様にして、厚さ50μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムはCXSが0.5重量%、AO/CXSが0.24で、均一に延伸されており熱収縮率は120℃で長手方向1.5%と耐熱性に優れており、濡れ張力が31mN/mと離型用途に適していた。また実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認された。
【0042】
(実施例5)
実施例1のポリプロピレンフィルムに厚み50μmのポリエステルフィルムを積層したフィルムで、図2のように、ポリプロピレンフィルム面がスラリー状シリコーンに接触するようにして、スラリー状シリコーンの両面を挟んだ。実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認された。
【0043】
(比較例1)
実施例1においてポリプロピレン樹脂Dからなるポリプロピレン樹脂を使用した以外は同様にして、厚さ49μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムはCXSが3.0重量%、AO/CXSが0.08であり、実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認されるが、120℃での加熱収縮率が長手方向で4.1%を示し耐熱性に劣った。
【0044】
(比較例2)
実施例1においてポリプロピレン樹脂Eからなるポリプロピレン樹脂を使用した以外は同様にして、厚さ48μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムは実施例1と同様のCXS値、AO/CXSであり、実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認されるが、延伸性に劣りフィルムに厚みムラが生じた。
【0045】
(実施例6)
実施例1において酸化防止剤をIrganox(登録商標)1010を10000ppmおよびIrgafos(登録商標)168を10000ppm添加した以外は同様にして、厚さ50μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムは実施例1と同様のCXS値であり、熱収縮率は120℃で長手方向2.0%と耐熱性に優れているが、AO/CXSが1.5であり実施例1と同様の方法でシリコーン硬化処理を施したとき、架橋阻害を生じた。
【0046】
(比較例3)
実施例1においてポリプロピレン樹脂Fからなるポリプロピレン樹脂を使用した場合、実施例1と同様方法でフィルム化を図ると途中工程でフィルムが破れてしまい、安定して生産できなかった。
【0047】
(比較例4)
比較例1のポリプロピレンフィルムに厚み50μmのポリエステルフィルムを積層したフィルムでは、120℃での加熱収縮率が長手方向で1.5%であるが、同時にポリプロピレンフィルム側へ大きくカールし、シリコーン硬化成形に使用できなかった。
【0048】
(実施例7)
実施例1においてポリプロピレン樹脂Gからなるポリプロピレン樹脂を使用した以外は同様にして、厚さ49μmの2軸延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該ポリプロピレンフィルムはCXSが1.5重量%、AO/CXSが0.08で、均一に延伸されており熱収縮率は120℃で長手方向1.9%と耐熱性に優れており、濡れ張力が31mN/mと離型用途に適していた。また実施例1と同様の方法でシリコーン硬化が確認された。
【0049】
各実施例、比較例の結果を表2にまとめる。
【0050】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明はシリコーンゴム等の製造工程で用いられるフィルムに限らず、フレキシブルプリント基盤、繊維強化プラスチック成型体、加硫ゴム等の製造用の離型シートあるいはフィルムとして用いられることもできるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1〜4、7にかかる積層シートの断面模式図を示す。
【図2】本発明の実施例5にかかる積層シートの断面模式図を示す。
【符号の説明】
【0053】
1:ポリプロピレンフィルム
2:ゴム状高分子架橋体シート(スラリー状シリコーン)
3:ポリエステルフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が155〜163℃であるポリプロピレン樹脂からなり、冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))が0.1〜2重量%であることを特徴とするポリプロピレンフィルム。
(ただし、CXS(重量%):ポリプロピレンフィルムの冷キシレン可溶分の内、ポリプロピレン樹脂に起因する成分のポリプロピレンフィルムに対する重量比)
【請求項2】
含有する酸化防止剤の添加割合(AO(重量%))の、冷キシレン可溶分の割合(CXS(重量%))に対する比(AO/CXS)が0.01〜1であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。
(ただし、AO(重量%):ポリプロピレンフィルムに含有する酸化防止剤の総重量の、ポリプロピレンフィルム重量に対する割合)
【請求項3】
ポリプロピレン樹脂がプロピレンとα−オレフィンとの共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
α−オレフィンが1−ブテンであることを特徴とする請求項3に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
酸化防止剤として、融点100〜250℃のフェノール系酸化防止剤を含有していることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
厚みが30〜200μmである請求項1〜5のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムとポリエステルフィルムとが貼り合わされてなる積層フィルム。
【請求項8】
ポリエステルフィルムを構成する樹脂の融点が200℃以上であることを特徴とする請求項7に記載の積層フィルム。
【請求項9】
熱硬化性樹脂シートの少なくとも片面に、請求項1〜6のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムが積層されてなる積層シート。
【請求項10】
熱硬化性樹脂シートの少なくとも片面に、請求項7または8に記載の積層フィルムが、該熱硬化性樹脂シートと該積層フィルムのポリプロピレンフィルム面とが接触するように積層されてなる積層シート。
【請求項11】
熱硬化性樹脂シートの熱硬化性樹脂が、ゴム状高分子架橋体であることを特徴とする請求項9または10に記載の積層シート。
【請求項12】
ゴム状高分子架橋体がシリコーン系ゴムであることを特徴とする請求項11に記載の積層シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−77238(P2006−77238A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−233125(P2005−233125)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】