説明

難消化性オリゴ糖含有組成物の製造方法及び飲食品

【課題】水溶性食物繊維として有用な、難消化性オリゴ糖を含有する組成物を、澱粉の使用や澱粉の焙焼工程を経ることなしに提供する方法及び該難消化性オリゴ糖含有組成物を含む飲食品を提供すること。
【解決手段】濃度が40〜80質量%のデキストリン類の水溶液を酸性下で加熱する工程を含む難消化性オリゴ糖含有組成物の製造方法、該方法により得られた難消化性オリゴ糖含有組成物、及びこれを含む飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性食物繊維として有用な、難消化性オリゴ糖を含有する組成物の製造方法、該方法により製造された難消化性オリゴ糖含有組成物及び該組成物を含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維やオリゴ糖は、便秘の改善を中心とした生体調節機能を有することから、食品や飼料の機能を高める素材として注目を集め、またすでに広く利用されている。これらの食物繊維やオリゴ糖は、小腸での消化吸収を免れ、大腸まで達することが知られており、腸内細菌による資化を受け、種々の生理効果を発現させる。特に水溶性食物繊維は、強い生理機能を有することが知られており、機能性食品および飼料素材として注目されている。
水溶性食物繊維としては、グアーガム、グルコマンナン、ペクチンなどの天然ガム類、焙焼デキストリンを精製することによって製造される難消化性デキストリンなどが挙げられる。しかし、前者は高粘性で、単独摂取が難しい点や、加工食品に使用する際に製造上の問題が発生しやすく、後者は原料の焙焼デキストリンを澱粉から調製する際に、十分な難消化性成分を得るための長時間の処理が必要であり、また均質化も難しいという問題があった(特許文献1〜2)。
特に、難消化性デキストリンの製造工程では、これらの問題を解決するため、常に攪拌しながら鉱酸類を加えるなどの方法を用いて完全な均質化を目指しているが、実際には困難である。また焙焼時間の短縮も、難消化性成分含量の減少に繋がるため、実際には困難である。
【0003】
一方、デキストリンよりも低分子で便通改善や腸内ビフィズス菌の増殖促進作用を有する種々の難消化性オリゴ糖が開発されている。これらの難消化性オリゴ糖類としては、キシロオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、アガロオリゴ糖などが知られているが、原料の入手が限られること、夾雑物や異味、異臭、着色などの除去が困難であること、又、分解するために特殊な酵素を必要とすること等の解決すべき問題点がある。
そこで、安価な澱粉を原料とした難消化性オリゴ糖組成物も開発されている(特許文献3)。この難消化性オリゴ糖組成物は、澱粉又は澱粉誘導体を焙焼した後、酸又は酵素で加水分解して得られる、グルコース残基が2〜8の難消化性オリゴ糖を含む組成物である。
しかしながら、この方法は前記難消化性デキストリンの製造と同様に、澱粉を酸の存在下に焙焼する工程を含み、加熱による着色や焙焼臭の発生を伴うので、これらの除去のための後処理が繁雑であるという欠点を有する。
これまでに、澱粉を酸加水分解する条件で、少量の難消化性成分が合成されることが知られている(非特許文献1)。すなわち、懸濁液中の澱粉濃度が25%程度の酸加水分解条件で、少量の難消化性成分が合成されることが明らかになっているが、懸濁液中の澱粉濃度をこれ以上引き上げることが難しいため、難消化性成分の生成量は極めて少ない。また、生成する難消化性成分はマルトデキストリンに属するものである。
【0004】
【特許文献1】特開平2−145169号公報
【特許文献2】特開平2−154664号公報
【特許文献3】特開平3−172200号公報
【非特許文献1】J. Appl. Glycosci. Vol. 49, No. 4 p. 479-485 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、水溶性食物繊維として有用な、難消化性オリゴ糖を含有する組成物を、澱粉の使用や澱粉の焙焼工程を経ることなしに提供する方法を提供することである。
本発明の他の目的は、上記難消化性オリゴ糖含有組成物を含む飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、DE(デキストロース等量)が一定範囲のデキストリンを原料に用いて、一定濃度以上の水溶液を調製し、これを酸性条件で加圧加熱することにより、相当量の難消化性オリゴ糖を含む組成物が得られることを見出した。さらに該組成物に糖質関連酵素を作用させることにより、飲食品への用途拡大が可能な難消化性オリゴ糖を含む種々の糖類が得られることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、下記の難消化性オリゴ糖含有組成物の製造方法及び該組成物を含む飲食品を提供するものである。
1.濃度が40〜80質量%のデキストリン類の水溶液を酸性下で加熱する工程を含む難消化性オリゴ糖含有組成物の製造方法。
2.さらに糖質関連酵素を作用させる工程を含む、上記1記載の方法。
3.糖質関連酵素が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、枝切り酵素、グルコースイソメラーゼ、トランスグルコシダーゼ、及びグルコースオキシダーゼから選択される少なくとも一種である、上記2記載の方法。
4.さらに水素添加する工程を含む、上記1〜3のいずれか1項記載の方法。
5.デキストリン類が、デキストリン、マルトデキストリン、粉飴、及び澱粉由来のオリゴ糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である上記1〜4のいずれか1項記載の方法。
6.デキストリン類のDE(デキストロース当量)値が50以下である上記1〜5のいずれか1項記載の方法。
7.デキストリン類をpH3以下で、110〜140℃、0.6〜2.5kg/cm2、15〜60分処理する、上記1〜6のいずれか1項記載の方法。
8.上記1〜7のいずれか1項記載の方法により製造された、難消化性オリゴ糖含有組成物。
9.難消化性オリゴ糖の平均分子量が約500である、上記8記載の難消化性オリゴ糖含有組成物。
10.難消化性オリゴ糖のグルコースの重合度が2〜10である、上記8又は9記載の難消化性オリゴ糖含有組成物。
11.難消化性オリゴ糖の含量が10%以上である、上記8〜10のいずれか1項記載の難消化性オリゴ糖含有組成物。
12.上記8〜11のいずれか1項に記載の難消化性オリゴ糖含有組成物を含んで成る飲食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来よりも効率的、かつ経済的に難消化性オリゴ糖含有組成物を提供することができるので、水溶性食物繊維含有食品素材として、様々な飲食品への利用価値が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で原料として使用可能なデキストリン類としては、従来から知られているあらゆるデキストリン、マルトデキストリン、粉飴、澱粉由来のオリゴ糖類が使用できるが、特に本発明においては、難消化性オリゴ糖の生成量を多くするため、DE(デキストロース当量)値が50以下、好ましくは40以下のデキストリン類を使用することが好ましい。
本発明におけるデキストリンの水溶液は、40質量%〜80質量%にすることが必要であり、さらに好ましくは60〜70質量%である。40質量%未満では難消化性オリゴ糖の生成量が低く、80質量%を超えると水溶液の調製が困難になる。
このようにして調製したデキストリンの水溶液を適当な酸、例えば塩酸、シュウ酸、硝酸、好ましくは塩酸を用いてpHを好ましくは3以下、さらに好ましくは2以下の酸性に調整する。pHが3を超えると難消化性オリゴ糖の生成量が低下する傾向がある。
酸性に調整された前記デキストリン水溶液を加圧加熱することにより、本発明の難消化性オリゴ糖含有組成物を得ることが出来る。加熱温度は、好ましくは110〜140℃、さらに好ましくは120〜133℃、加熱時間は好ましくは15〜60分、さらに好ましくは20〜40分である。圧力は、好ましくは0.6〜2.5kg/cm2、さらに好ましくは1.1〜2.0kg/cm2である。この範囲未満では所望レベルの難消化性オリゴ糖を生成させることが困難であり、この範囲を超えると難消化性オリゴ糖の生成量をさらに増加させることは出来るが、同時に好ましくない加熱生成物も増加し、又、高価な装置も必要となる。
【0009】
前記デキストリン水溶液を前記加熱条件で処理することで、本発明の難消化性オリゴ糖を含む組成物を得ることができるが、該組成物には難消化性オリゴ糖以外の糖類も多く含まれており、難消化性オリゴ糖の含量は組成物の固形分に対して通常は10〜35質量%程度である。これを中和して脱塩、脱色した後、そのまま、あるいは乾燥して製品としてもよいが、所望により、難消化性オリゴ糖以外の糖類を適当な手段で除去して難消化性オリゴ糖含量の高い製品とすることも出来る。本発明の難消化性オリゴ糖含有組成物の形態は、液体又は固体(粉末、顆粒等)のいずれでも良い。
【0010】
難消化性オリゴ糖以外の糖類を除去する手段としては、例えば前記加熱処理物にアミラーゼ等の糖質分解酵素を作用させて難消化性オリゴ糖以外の糖類をグルコースに変換した後、既知のイオン交換樹脂クロマトグラフィーを行う方法が挙げられる。これにより大部分の単糖類を除去することが出来る。グルコースの除去には、低阻止率の逆浸透膜(ルーズRO膜)、例えば日東電工(株)のNTR−7250を使用することもできる。また、グルコースオキシダーゼによりグルコースをグルコン酸に変換した後、塩基性イオン交換体に吸着させて除去することもできる。
【0011】
また、前記加熱処理物に各種糖質関連酵素を単独又は組合せて作用させることにより、難消化性オリゴ糖含有シロップとして製品化しても良い。そのようなシロップとしては、例えばマルトース含量の多いマルトース型シロップ、グルコース含量の多いグルコース型シロップ、異性化糖含量の多い異性化糖型シロップ、あるいはそれらを水素添加した糖アルコール型シロップを例示することが出来る。さらに、グルコース型シロップにグルコースオキシダーゼを作用させれば、グルコン酸の生理機能が付加されたグルコン酸型シロップにすることもできる。これらのシロップを乾燥して粉末、顆粒等の固体製品とすることも出来る。糖質関連酵素としては、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、枝切り酵素(イソアミラーゼ、プルラナーゼ等)、グルコアミラーゼ、グルコースイソメラーゼ、トランスグルコシダーゼ、グルコースオキシダーゼを例示することが出来る。
【0012】
本発明の難消化性オリゴ糖は、グルコースの重合度(DP)が2〜10、GPC用HPLCカラムを用いて測定したときの平均分子量が約500の、ヒトの消化酵素で分解され難いオリゴ糖であり、衛新第13号(栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について)に記載の高速液体クロマトグラフ法(酵素−HPLC法)で測定される食物繊維(グルコースの重合度が3以上の難消化性成分)を含む難消化性オリゴ糖である。
【0013】
本発明の難消化性オリゴ糖含有組成物は、水溶性食物繊維を含む食品素材として各種飲食品、例えば健康食品、機能性食品、清涼飲料、アルコール飲料、発酵食品、乳製品、菓子類、冷菓等に利用することができる。
【実施例】
【0014】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例によって本発明が限定されるものではない。以下の実施例、比較例において他に明記しない限り、「部」は「質量部」、「%」は質量%である。また、以下の実施例で使用したデキストリンは、全て商業的に入手が可能である。
実施例1(pHの影響)
松谷化学工業株式会社製デキストリンMAX1000(DE=9)120gと、純水80gを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.0、2.0、3.0、4.0、5.0に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分保持し、処理液を水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。この処理液に活性炭を加えて脱色し、ミックスイオン交換樹脂のカラムに通液して脱塩した後、濃縮して難消化性オリゴ糖を含む濃縮液を得た。
この濃縮液を固形分質量で1gとなるように秤量し、50mlの0.08Mリン酸緩衝液(pH6.0)に溶解させ、0.1mlのα−アミラーゼ(和光純薬工業株式会社製)で95℃、30分間加水分解した。その後、塩酸を用いてpHを4.5に調整し、0.1mlのグルコアミラーゼ(シグマ社製)で60℃、30分間加水分解した。溶液は80℃、10分間失活反応を行い、珪藻土でろ過した後、ロータリーエバポレーターで濃縮した。濃縮液を脱塩し、三菱化成(株)製の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラム(MCI GEL CK04SS)を使用した組成分析を行ったところ、表1に示すような結果を得た。なお、表中の「難消化性オリゴ糖」及び「低分子難消化糖」は、それぞれDP3以上の難消化性オリゴ糖(食物繊維に相当)及びDP2以下の難消化性糖を示している。以後の実施例についても同様である。
【0015】
表1

表1の結果から、難消化性オリゴ糖の生成に最適なpHは2付近にあることがわかる。
【0016】
実施例2(濃度の影響)
DE値の異なるデキストリンとして、MAX1000及び日食ハイマルトースMC−90((DE=45〜50、日本食品加工)を、実施例1と同様に仕込み、質量濃度30%、40%、50%、60%、70%又は80%になるように耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH2.2に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で60分加熱・加圧処理を行い、処理液を水酸化ナトリウムでpH5.5に調整した。得られた処理液を実施例1と同様に脱色、脱塩及び濃縮した。濃縮液を固形分質量で1gとなるように秤量し、実施例1と同様の組成分析を行ったところ、表2−1(MAX1000)及び2(MC−90)に示すような結果を得た。






【0017】
表2−1(MAX1000)

【0018】
表2−2(MC−90)

表2の結果から、デキストリンの仕込み濃度が高いほど難消化性オリゴ糖の生成量が高くなることがわかる。
【0019】
実施例3(温度の影響)
デキストリン(MAX1000)を実施例1と同様に60質量%になるように耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブによりそれぞれ110℃(0.6kg)、120℃(1.1kg)、133℃(2.0kg)でそれぞれ30分、加熱・加圧処理を行い、処理液を水酸化ナトリウムでpH5.5に調整した。この処理液を実施例1と同様に脱色、脱塩および濃縮した。濃縮液を固形分質量で1gとなるように秤量し、実施例1と同様な組成分析を行ったところ、表3に示す結果を得た。
【0020】
表3

表3の結果から、加熱温度が高いほど難消化性オリゴ糖の生成量が多くなるが、同時に低分子難消化糖の生成量も多くなることがわかる。
【0021】
実施例4(加熱時間の影響)
デキストリン(MAX1000)を実施例1と同様に60質量%になるように耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)でそれぞれ10分、30分、60分加熱・加圧処理を行い、処理液を水酸化ナトリウムでpH5.5に調整した。この処理液を実施例1と同様に脱色、脱塩及び濃縮した。濃縮液を固形分質量で1gとなるように秤量し、実施例1と同様な組成分析を行ったところ、表4に示す結果を得た。




【0022】
表4

表4の結果から、加熱時間が長いほど難消化性オリゴ糖の生成量が多くなるが、同時に低分子難消化性糖の生成量も多くなることがわかった。
【0023】
実施例5(DEの影響)
DEの異なるデキストリンとして、パインデックス#100(DE=4、松谷化学工業)、MAX1000(DE=9、松谷化学工業)、グリスターP(DE=15、松谷化学工業)、TK−16(DE=18、松谷化学工業)、パインデックス#3(DE=25、松谷化学工業)、パインデックス#6(DE=40、松谷化学工業)、麦芽糖(DE=45〜50、日食ハイマルトースMC−90、日本食品化工)、及びブドウ糖(DE=90〜100、ゴールドシュガー、林原株式会社)を、実施例1と同様に、それぞれ60質量%になるように耐圧・耐熱容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解し、塩酸を用いてpH1.8に調整した。溶液はオートクレーブにより133℃(2kg)で30分間加熱・加圧処理を行い、処理液を水酸化ナトリウムでpH5.5に調整した。これを実施例1と同様に、脱色、脱塩及び濃縮した。濃縮液を固形分質量で1gとなるように秤量し、実施例1と同様な組成分析を行ったところ、表5に示すような水溶性食物繊維を含有する糖液を得た。
【0024】
表5

表5の結果から、DEが40を超えると難消化性オリゴ糖の生成量が減少することがわかる。
【0025】
実施例6(食物繊維含有の発泡性果実酒の製造)
デキストリン(MAX1000)3kgと純水2kgを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分加熱処理し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。これを実施例1と同様に脱色、脱塩および濃縮して、固形分濃度Bx=57の溶液とした。この溶液は、実施例4で30分加熱処理した時と同様の食物繊維及び低分子難消化糖含量を示した。この溶液を用いて表6の処方により食物繊維含有の発泡性果実酒を製造した。


【0026】
表6

上記配合で原料を仕込み、7日間、酵母による発酵を行った。発酵液は珪藻土を利用して酵母を取り除き、食物繊維含有の発泡性果実酒を得た。この発泡性果実酒を濃縮、脱塩し、固形分1g相当量を秤量した後、酵素−HPLC法によって食物繊維含量を分析した結果、100gあたり1.5gの水溶性食物繊維が含まれていた。
【0027】
実施例7(濃縮難消化性オリゴ糖の製造)
デキストリン(MAX1000)120gと純水80gを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分間加熱処理し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。この加熱処理液は、実施例4で30分加熱処理した時と同様の食物繊維および低分子難消化糖含量を示しており、固形分濃度Bx=59であった。
この加熱処理液を、固形分濃度Bx=35になるように調整し、0.1%α−アミラーゼ(ターマミル120L、天野エンザイム株式会社)を添加し、95℃、30分間加水分解反応を行った後、121℃、15分間加熱・加圧して酵素を失活させた。反応液は、pH5.5に再び調整し、0.1%グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野エンザイム株式会社)によって、60℃、1時間加水分解反応を行ったあと、80℃、30分間失活処理を行った。反応液は珪藻土によってろ過を行ったあと、ミックスイオン交換樹脂のカラムに通液して脱塩した後、濃縮して難消化性オリゴ糖を含む、固形分濃度Bx=78の濃縮液約130gを得た。
この濃縮液を、再び固形分濃度Bx=35に調整し、固形分質量で10gになるように調整した。これを架橋度8のCa型陽イオン交換樹脂(アンバーライトIR−120B、オルガノ株式会社)を充填した100mlのカラムに通液し、グルコースとの粗分離を行った。この操作により、難消化性オリゴ糖含量が、約70%の溶液が得られた。分離されたフラクションと、分離前の濃縮液を比較したHPLCのパターンを、図1(糖組成)および図2(分子量分布)に示す。
【0028】
実施例8(濃縮難消化性オリゴ糖の製造)
デキストリン(MAX1000)6kgと純水4kgを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分間加熱処理し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。この加熱処理液は、実施例4で30分加熱処理した時と同様の食物繊維および低分子難消化糖含量を示しており、固形分濃度Bx=59であった。この加熱処理液を、固形分濃度Bx=35になるように調整し、日東電工(株)製NTR−7250型逆浸透(RO)膜モジュールを使用して、単糖類と2糖類以上に粗分離した。この方法により、単糖類を約70%除去することができた。表7に、反応前後の糖組成を示す。






【0029】
表7

さらに分離液中の食物繊維および低分子難消化糖の含量を測定したところ、表8に示す結果が得られた。
【0030】
表8

表8の結果から、RO膜処理により、DP3以上の難消化性オリゴ糖(食物繊維)含量は42.5%に、低分子難消化糖(DP=2)を含む難消化性オリゴ糖含量は、58.2%に引き上げられることが示された。
【0031】
実施例9(難消化性オリゴ糖含有食品の製造)
実施例8で得られた難消化性オリゴ糖含有糖液を配合した食品を製造した。
<食パン>
強力粉 250g
砂糖 17g
食塩 5g
圧搾酵母 3g
イーストフード 6g
バター 11g
実施例8で得た難消化性オリゴ糖含有糖液 20g
水 200g
上記成分を配合し、常法により食パンを製造した(食物繊維含量:3.0%)。
【0032】
<アイスクリーム>
バター 6.5部
全脂練乳 8.0部
脱脂粉乳 6.5部
実施例8で得た難消化性オリゴ糖含有糖液 7.0部
砂糖 5.0部
乳化剤 0.3部
安定剤 0.2部
水 62.5部
上記成分を配合し、常法によりアイスクリームを製造した(食物繊維含量:3.0%)。
<ドレッシング>
サラダ油 58.0g
食用酢 30.0g
香辛料 3.5g
MSG 0.5g
実施例8で得た難消化性オリゴ糖含有糖液 8.0g
上記成分を配合し、常法によりドレッシングを製造した(食物繊維含量:3.3%)。
【0033】
実施例10(難消化性オリゴ糖含有ヨーグルトの製造)
デキストリン(MAX1000)300gと純水200gを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH=1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分加熱処理し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。この加熱処理液は、実施例4で30分加熱処理した時と同様の食物繊維および低分子難消化糖含量を示しており、固形分濃度Bx=58であった。
この加熱処理液を、固形分濃度Bx=35になるように調整し、0.1%α−アミラーゼ(ターマミル120L、天野エンザイム株式会社)を添加し、95℃、30分間加水分解反応を行った後、121℃、15分間加熱・加圧して酵素を失活させた。反応液は、pH5.5に再び調整し、0.1%グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野エンザイム株式会社)によって、60℃、1時間加水分解反応を行ったあと、80℃、30分間失活処理を行った。反応液は珪藻土によってろ過を行ったあと、ミックスイオン交換樹脂のカラムに通液して脱塩した後、濃縮して難消化性オリゴ糖を含む、固形分濃度Bx=78の濃縮液約350gを得た。この糖液の難消化性オリゴ糖及びブドウ糖含量は、それぞれ14.2%及び78.8%であった。
このようにして得られた難消化性オリゴ糖含有糖液を用いて、以下の処方によりヨーグルトを製造した。
全脂乳 59.73g
脱脂粉乳 3.00g
難消化性オリゴ糖含有糖液 27.00g
ゼラチン 0.50g
水 3.77g
スターター 6.00g
上記成分を配合して常法によりヨーグルトを製造した。次いで、固形分質量で1g相当量を秤量し、酵素−HPLC法で食物繊維含量を測定した結果、100gあたり3.0gの水溶性食物繊維が含まれていた。
【0034】
実施例11(食物繊維含有の清涼飲料水の製造)
デキストリン(MAX1000)3kgと純水2kgを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分加熱処理し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。この加熱処理液は、実施例4で30分加熱処理した時と同様の食物繊維および低分子難消化糖含量を示しており、固形分濃度Bx=59であった。
この加熱処理液を、固形分濃度Bx=35になるように調整し、0.1%α−アミラーゼ(ターマミル120L、天野エンザイム株式会社)を添加し、95℃、30分間加水分解反応を行った後、121℃、15分間加熱・加圧して酵素を失活させた。反応液は、pH5.5に再び調整し、0.1%グルコアミラーゼ(グルクザイムNL4.2、天野エンザイム株式会社)によって、60℃、1時間加水分解反応を行ったあと、80℃、30分間失活処理を行った。反応液は珪藻土によってろ過を行ったあと、ミックスイオン交換樹脂のカラムに通液して脱塩した後、濃縮して難消化性オリゴ糖を含む、固形分濃度Bx=78の濃縮液約3.5kgを得た。この糖液の難消化性オリゴ糖及びブドウ糖含量は、それぞれ14.8%、78.9%であった。
【0035】
この濃縮液を固形分濃度Bx=45に調整し、固定化グルコースイソメラーゼ製剤(スウィートザイムIT、ノボザイム社)のカラム(2000ml)に、SV(ml通液量/hr/mlカラム容量)1.2、カラム温度55℃で通液し、ブドウ糖と果糖、難消化性オリゴ糖の混合液を得た。これをミックスイオン交換樹脂に通液して、脱塩したのち濃縮液を得た。
この溶液の組成は、難消化性オリゴ糖14.8%、ブドウ糖39.9%、果糖39.0%であり、ブドウ糖から果糖への異性化率は49.4%であった。
このようにして得られた難消化性オリゴ糖を含む異性化糖液糖(難消化性オリゴ糖14.8%、低分子難消化糖7.3%、ブドウ糖39.9%、果糖39.0%)を、固形分濃度Bx=50に調整し、その一部を用いて、以下の表9に示す処方に従って清涼飲料水(オレンジエイド)を製造した。
【0036】
表9

上記成分の食物繊維含量を酵素−HPLC法で測定したところ、1.5%の食物繊維が含まれていた。
【0037】
実施例12(食物繊維含有のビール風アルコール飲料の製造)
デキストリン(MAX1000)3kgと純水2kgを耐熱・耐圧容器に入れ、攪拌しながら完全に溶解した。溶解液は塩酸を用いてpH1.8に調整し、オートクレーブにより133℃(2kg)で30分加熱処理し、次いで水酸化ナトリウムを用いてpH5.5に調整した。この加熱処理液は、実施例4で30分加熱処理した時と同様の食物繊維及び低分子難消化糖含量を示しており、固形分濃度Bx=57であった。
この加熱処理液を、固形分濃度Bx=35、pH5.5になるように調整し、0.1%α−アミラーゼ(ターマミル120L、天野エンザイム株式会社)を添加し、95℃、30分間加水分解反応を行った後、121℃、15分間加熱・加圧し、酵素を失活させた。反応液は、pH5.5に再び調整し、0.3%β−アミラーゼ(ビオザイムL、天野エンザイム株式会社)および0.13%プルラナーゼ(クライスターゼPL45、大和化成工業株式会社)によって、60℃、16時間加水分解反応を行った後、80℃、30分間、失活処理を行った。反応液は、珪藻土によってろ過を行ったあと、濃縮し、固形分濃度Bx=78の難消化性オリゴ糖含有糖液(シロップ)を得た。この糖液の難消化性オリゴ糖、酵母資化性糖及びマルトース含量は、それぞれ14.8%、63.8%及び27.1%であった。
このようにして得られた難消化性オリゴ糖含有糖液を用いて、表10の処方によりビール様発泡アルコール飲料を製造した。コントロールには、難消化性デキストリンとしてファイバーソル2(松谷化学)を用いた。






【0038】
表10

【0039】
上記成分を用いて、7日間、酵母による発酵を行った。発酵液は珪藻土を利用して酵母を取り除き、ビール様発泡アルコール飲料を得た。このビール様発泡アルコール飲料を濃縮、脱塩し、固形分1g相当量を秤量した後、酵素−HPLC法によって食物繊維含量を分析した結果、100gあたり2.3gの水溶性食物繊維が含まれていた。さらにこの発酵液の官能検査を行ったところ、総合評価においてコントロールと同等以上の評価が得られた。特に、ボディ感、こく味の付与において、又独特の風味においてコントロールよりも優れているとの評価が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施例7において、加熱処理液を酵素消化して得られる消化液(A)及びそれをカラム分離した後の粗分離液(B)の糖組成を分析した時のHPLCプロファイルを示す。
【図2】実施例7において、加熱処理液を酵素消化して得られる消化液(A)及びそれをカラム分離した後の粗分離液(B)の分子量分布を分析した時のHPLCプロファイルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濃度が40〜80質量%のデキストリン類の水溶液を酸性下で加熱する工程を含む難消化性オリゴ糖含有組成物の製造方法。
【請求項2】
さらに糖質関連酵素を作用させる工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
糖質関連酵素が、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、枝切り酵素、グルコースイソメラーゼ、トランスグルコシダーゼ、及びグルコースオキシダーゼから選択される少なくとも一種である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらに水素添加する工程を含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
デキストリン類が、デキストリン、マルトデキストリン、粉飴、及び澱粉由来のオリゴ糖類からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
デキストリン類のDE(デキストロース当量)値が50以下である請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
デキストリン類をpH3以下で、110〜140℃、0.6〜2.5kg/cm2、15〜60分処理する、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により製造された、難消化性オリゴ糖含有組成物。
【請求項9】
難消化性オリゴ糖の平均分子量が約500である、請求項8記載の難消化性オリゴ糖含有組成物。
【請求項10】
難消化性オリゴ糖のグルコースの重合度が2〜10である、請求項8又は9記載の難消化性オリゴ糖含有組成物。
【請求項11】
難消化性オリゴ糖の含量が10%以上である、請求項8〜10のいずれか1項記載の難消化性オリゴ糖含有組成物。
【請求項12】
請求項8〜11のいずれか1項に記載の難消化性オリゴ糖含有組成物を含んで成る飲食品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−332277(P2007−332277A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165923(P2006−165923)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000188227)松谷化学工業株式会社 (102)
【Fターム(参考)】