説明

難燃性フィルムおよびその製造方法

【課題】電気製品内などに使用する絶縁フィルムとして必要な難燃性および耐湿耐久性を向上したポリ乳酸系の難燃性フィルムおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】難燃性材料が樹脂中に配合されたポリ乳酸系ベースフィルム10と、ポリ乳酸系ベースフィルム10に積層された被覆フィルム11と、を備え、各被覆フィルム11a、11bは、プラスチックフィルムであり、ポリ乳酸系ベースフィルム10の両面に積層して設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性および耐湿耐久性を付与したポリ乳酸系の難燃性フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチックフィルムの廃棄処理問題から、生分解性を有する、例えば植物プラスチックフィルムなどの生分解性フィルムの開発がなされている。これらは、農林水産、建築土木、食品関係などの広い分野で、繊維、フィルム、不織布、コーティング剤、接着剤、成形品などの形で利用されつつある。生分解性フィルムは、土壌中や水中で加水分解や生分解を受け、徐々にフィルムの崩壊や分解が進み、最後は微生物の作用で無害な分解物へと変化するものである。そのような生分解性フィルムとしては、脂肪族ポリエステル、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、デンプンなどから成形したフィルムが知られている。これらの生分解性フィルムの中でもポリ乳酸(PLA)系フィルムは、優れた生分解性を有している。ポリ乳酸系フィルムは、引張強度および伸度に優れるとともに、寸法安定性を有している。
【0003】
しかしながら、上述のポリ乳酸系フィルムそのものは高い難燃性を有しておらず、従来の石油を原料とするプラスチックフィルムと同様に燃えやすく、そのままでは難燃性を必要とする分野には対応できない。
【0004】
他方、地球環境問題であるCOガスを削減する見地から、電気製品や電気部品などの内部に使用する絶縁フィルムとして、植物原料由来のポリ乳酸系樹脂(PLA樹脂)を用いたポリ乳酸系フィルムの利用を大いに進める必要がある。しかし、従来、絶縁フィルムとして用いる場合、強度的に2mm〜3mmの膜厚の厚いポリ乳酸系フィルムが必要となり、材料コストが高くなるという問題があった。また、ポリ乳酸系フィルムそのものは、高温高湿下の耐久性に劣るので、そのままでは、例えば電気製品分野などには使用することが困難であるという問題がある。従って、電気製品分野などに用いる絶縁フィルムとしては、ポリ乳酸系フィルムの強度を向上させて薄い膜厚にするとともに、難燃性および高温高湿下の耐久性を向上させる必要がある。
【0005】
上記問題を改善するひとつの方法として、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルなどの生分解性樹脂中にジシアンジアミドなどの有機窒素系難燃剤が配合された難燃性フィルムが開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1にはさらに、生分解性樹脂のポリ乳酸フィルムの少なくとも一方の面に上記難燃性フィルムを設けることが記載されている。これにより、難燃性と生分解性を有し、柔軟性、加工性に優れた難燃性フィルムとなるとしている。
【0006】
また、上記問題を改善する他の方法として、ポリ乳酸系フィルムの少なくとも一方の面にアクリル系樹脂層を設ける積層構造のフィルムが開示されている(例えば、特許文献2参照)。これにより、包装材料として低温ヒートシール性に優れた生分解性フィルムにできるとしている。
【特許文献1】特開2005−36148号公報
【特許文献2】特開2000−185380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の、生分解性樹脂中に有機窒素系難燃剤を配合した難燃性フィルムをポリ乳酸フィルムの少なくとも一方の面に設け積層する技術によれば、難燃性の向上は期待できるが、高温高湿下での耐久性の課題は解決できない。
【0008】
また、特許文献2に記載のように、ポリ乳酸系フィルムの面にアクリル系樹脂層を積層する技術によれば、フィルム加工性は向上できるが、難燃性および耐湿耐久性の課題は解決されない。
【0009】
一方、電気製品分野などに用いる絶縁フィルムとしては、地球環境問題の点から植物原料由来の絶縁フィルムが要求される。植物原料由来のフィルムとしてポリ乳酸系ベースフィルムを用いた場合には、絶縁フィルムの強度を向上させて薄くして安価にするとともに、難燃性と高温高湿下の耐久性に対する課題を解決する必要がある。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、電気製品内などに使用する絶縁フィルムとして、難燃性と高温高湿下の耐久性を向上させた、ポリ乳酸系フィルムをベースとする難燃性フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の難燃性フィルムは、難燃性材料を樹脂中に配合したポリ乳酸系ベースフィルムと、ポリ乳酸系ベースフィルムの両面に積層して設けたプラスチックの被覆フィルムとを備えている。
【0012】
このような構成により、難燃性および高温高湿使用下における耐久性を向上させるとともに、ポリ乳酸系ベースフィルムの膜厚が薄い難燃性フィルムを実現できる。その結果、電気製品内において、植物原料由来のポリ乳酸系フィルムを用い地球環境を考慮した絶縁フィルムとして利用できる。
【0013】
さらに、難燃性材料が、SiO/MgO、Cu(acac)/SiOおよびFe(acac)/SiOのうちの少なくとも1種を含むことが望ましい。
【0014】
このような構成により、フィルムの難燃性をさらに向上させることができる。
【0015】
さらに、被覆フィルムは、難燃性プラスチックフィルムであることが望ましく、フィルム全体の耐熱性や難燃性をさらに向上させることができる。
【0016】
さらに、被覆フィルムが、水蒸気バリヤー性を有するポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートの少なくとも1種を含むプラスチックフィルムであってもよい。
【0017】
このような構成により、ベースフィルムへの水蒸気の侵入を防ぎ、高温高湿使用下における耐久性をさらに向上させることができる。
【0018】
さらに、ポリ乳酸系ベースフィルムの厚みは、10μm〜1000μmであることが望ましく、さらに、被覆フィルムの厚みは、1μm〜1000μmが望ましい。
【0019】
このような構成によれば、被覆フィルムにより機械強度を向上させながら、ポリ乳酸系ベースフィルムの膜厚を薄くできるためポリ乳酸系材料コストを安価にできる。
【0020】
さらに、被覆フィルム形成工程が、被覆フィルム用押し出し機から押し出された被覆フィルムをポリ乳酸系ベースフィルム用押し出し機から押し出されたポリ乳酸系ベースフィルムの表裏に重ね合わせる工程であってもよい。
【0021】
これにより、難燃性および耐湿耐久性を向上した積層構造のポリ乳酸系の難燃性フィルムを、ポリ乳酸系ベースフィルムと被覆フィルムとを同時に連続して安価に製造できる。
【0022】
さらに、被覆フィルム形成工程が、ポリ乳酸系ベースフィルム用押し出し機から押し出されたポリ乳酸系ベースフィルムの表裏に被覆フィルムを圧着または接着の少なくともひとつにより重ね合わせる工程であってもよい。
【0023】
これにより、難燃性および耐湿耐久性を向上した積層構造のポリ乳酸系の難燃性フィルムを簡易な方法で安価に製造できる。
【0024】
さらに、ポリ乳酸系樹脂材料形成工程における樹脂材料が生分解性樹脂を含むことが望ましい。
【0025】
これにより、ポリ乳酸系樹脂材料として、主成分のポリ乳酸樹脂とPBSなどの生分解性樹脂とを混練するので、より耐熱性が向上した樹脂になり、ベースフィルムの耐熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、難燃性および高温高湿使用下における耐久性を有し、膜厚が薄いポリ乳酸系ベースの難燃性フィルムを実現し、植物原料由来のポリ乳酸系フィルムを用いた絶縁フィルムを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0028】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態における難燃性フィルムの構成を示す断面図である。
【0029】
図1に示すように、難燃性フィルム1は、難燃性材料が樹脂中に配合されたポリ乳酸系ベースフィルム10と、ポリ乳酸系ベースフィルム10の両面に積層された被覆フィルム11とを備えた三層で構成されている。被覆フィルム11はプラスチックフィルムであり、被覆フィルム11a、11bがポリ乳酸系ベースフィルム10の両面に積層されている。
【0030】
各層の構成およびその製造方法について説明する。まず、ポリ乳酸系ベースフィルム10は、ポリ乳酸系樹脂を含んだ樹脂材料を用い、ポリ乳酸系樹脂として脂肪族ポリエステル、脂肪族−芳香族共重合ポリエステルあるいはこれらのブレンド体を用いる。比較的柔軟性に富んだ脂肪族−芳香族共重合ポリエステルに、生分解速度が速く比較的硬い脂肪族ポリエステルを配合している。その配合割合を調整することで、フィルムの柔軟性や分解速度を適宜調整できる。脂肪族ポリエステルは、具体的には乳酸の単独重合体、または乳酸と他のヒドロキシカルボン酸または脂肪族ラクトンとの共重合体、あるいはこれらの組成物である。乳酸としては、L−乳酸、D−乳酸、またはそれらの混合物であってもよい。
【0031】
他のヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ吉草酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などが代表的に挙げられ、またこれらヒドロキシカルボン酸のエステル化物などの誘導体であってもよい。ラクトンとしてはカプロラクトンなどが挙げられる。耐熱性、機械的特性などを考慮すると光学異性体を有するポリ乳酸同士の組み合わせたポリ乳酸系樹脂や、L−乳酸とD−乳酸のステレオコンプレックス樹脂の使用が特に好ましい。脂肪族−芳香族共重合ポリエステルは、柔軟性に優れるポリブチレンアジペートとブチレンテレフタレートとのランダム共重合体が好ましい。
【0032】
本発明の実施の形態では、ポリ乳酸系ベースフィルム10は、主成分樹脂であるポリ乳酸樹脂材料に、樹脂材料として、例えばPBS(ポリブチレンサクシネート)などの耐熱性を有する生分解性樹脂材料をさらに配合しポリ乳酸系樹脂材料としてフィルム化する。PBSは植物原料から生成された脂肪族ポリエステルであり、ポリ乳酸系樹脂とともに生分解性に優れる。生分解性材料としては、PBSの他に、PCL(ポリカプロラクトン)、PHB(ポリヒドロキシブチレート)などやそれらの混合物を用いてもよい。これらの材料を配合して用いることにより、生分解性を有するとともに耐熱性が向上し難燃性が向上する。
【0033】
例えばPBSの配合比は、ポリ乳酸系樹脂およびPBSからなるポリ乳酸系樹脂材料全体量に対して1重量%以上35重量%以下とすることが好ましい。PBSの配合割合が1重量%未満であると十分な耐熱性が得られない。また、PBS材料の配合割合が35重量%を超えると、耐熱性には優れるもののフィルム化が難しくなり生産性が低下し、また、得られたフィルムの機械的強度が劣る。
【0034】
ポリ乳酸系ベースフィルムのポリ乳酸系樹脂材料中に添加し配合する難燃性材料としては、例えばSiO/MgO(シリカ/マグネシア)を、望ましくは材料全体量に対して1重量%〜20重量%配合することが好ましい。SiO/MgOの添加が材料全体量に対して1重量%より少ないと難燃性が低くなり、20重量%より多いと難燃性は高いがフィルムの柔軟性が劣る。また、難燃性材料はSiO/MgOの他に、Cu(acac)(銅(II)アセチルアセトナト)/SiO、Fe(acac)(鉄(III)アセチルアセトナト)/SiOなどやこれらを組み合わせた難燃性材料を用いることができる。多孔質シリカに添着させたCu(acac)、多孔質シリカに添着させたFe(acac)3、Cu(acac)あるいはFe(acac)の添加は、材料全体量に対して0.1重量%〜5重量%配合することが好ましい。これらの材料は難燃性が高い材料なので配合量が少なくてよいが、0.1重量%より少ないと難燃性が低くなり、5重量%より多いと難燃性は高いがフィルムの柔軟性が劣る。
【0035】
また、上記難燃性材料の他に、有機窒素系難燃性材料などのジシアンジアミドまたはメラミンシアヌレートまたはこれらの混合物を含んで用いてもよい。有機窒素系難燃材料とは、酸素、窒素、水素、炭素のみで分子構成されている窒素系難燃材料をいう。
【0036】
このようにして、難燃性を付与したポリ乳酸系樹脂を主成分とするポリ乳酸系ベースフィルム10の両面にプラスチックフィルムからなる被覆フィルム11a、11bを積層し、難燃性フィルム1を形成する。これにより、難燃性および高温高湿使用下における耐久性が向上するとともに、ポリ乳酸系ベースフィルムの膜厚を薄くした安価な難燃性フィルムを実現することができる。
【0037】
また、本発明の実施の形態では、さらに、被覆フィルム11のプラスチックフィルムとして、難燃性プラスチックフィルムを用いている。これらの材料は石油原料から生成するが、難燃性が付与された膜厚の薄いポリ乳酸系ベースフィルムの両面に積層する被覆フィルム11a、11bとして用いることにより、フィルム全体の耐熱性や難燃性をさらに向上させることができる。さらに、本発明の実施の形態では、被覆フィルム11a、11bとして、水分を通しにくい水蒸気(HO)バリヤー性を有するポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルイミドおよびポリフェニレンサルファイドの少なくとも1種を含むプラスチックフィルムを用いている。これにより、ポリ乳酸系ベースフィルム10に水分や水蒸気が侵入するのを防止して、高温高湿使用下における耐久性をさらに向上することができる。これにより、ポリ乳酸系ベースフィルムの膜厚が薄くても難燃性および高温高湿使用下における耐久性を向上させ実使用環境下における耐久性が向上した難燃性フィルムを実現し、例えば使用条件の厳しい電気製品内部における絶縁フィルムとして用いることができる。
【0038】
また、ポリ乳酸系ベースフィルム10の厚みは、10μm〜1000μmであることが望ましい。プラスチックフィルムの被覆フィルム11a、11bを両面側から積層することによりフィルムとしての機械強度が向上するので、ポリ乳酸系ベースフィルムを薄くすることができ、ポリ乳酸系樹脂の材料コストを安価にすることができる。10μmより薄いとポリ乳酸系樹脂を用いる環境への効果が期待できず、1000μmを超えると材料コストが高くなる。また、被覆フィルム11a、11bの厚みは、1μm〜1000μmの範囲の厚みであることが望ましい。被覆フィルムが1μmより薄いと機械的補強効果が期待できず、1000μmを超えると環境負荷が重くなる。
【0039】
上記により、難燃性および高温高湿使用下における耐久性を向上させるとともに、ポリ乳酸系ベースフィルムの膜厚が薄い難燃性フィルムを実現できる。
【0040】
なお、上記において、ポリ乳酸系ベースフィルムは、ポリ乳酸系樹脂とPBS樹脂を配合混練してポリ乳酸系樹脂材料を形成しフィルム化するとして説明したが、ポリ乳酸系樹脂単独による樹脂材料に難燃材料を添加してフィルム化し積層してもよい。これにより、耐熱性は若干不足するが難燃性、耐久性を向上できる。
【0041】
以下に、難燃性フィルムの製造方法について、図2と図3を用いて説明する。
【0042】
図2は、本発明の実施の形態における難燃性フィルムの製造方法を示すフローチャートである。図3は、本発明の実施の形態における難燃性フィルムを製造する工程の一部を示す図である。図4は、本発明の実施の形態における難燃性フィルムの図3に続く工程の一部を示す図である。
【0043】
まず、図2に示すポリ乳酸系樹脂材料を形成する工程(SB1)について説明する。図3(a)に示すように、本発明の実施の形態では、ポリ乳酸系樹脂材料として、主成分樹脂であるポリ乳酸系樹脂21とPBSの生分解性樹脂22の各樹脂材料ペレットを混練機31に投入し、これらを溶融加熱しながら混練する。これによって、ポリ乳酸系樹脂およびPBSを含むポリ乳酸系樹脂材料23のペレットを形成する。具体的には、例えば70重量部のポリ乳酸系樹脂21と、30重量部のPBSの生分解性樹脂22の各ペレットを混練機31に投入し溶融し混練する。なお、本発明の目的を損なわない範囲で、カルボジイミドなどの加水分解抑制剤やその他の高分子材料、可塑剤、滑剤、無機充填剤、酸化防止剤、耐候安定剤、帯電防止剤、顔料、染料などを添加することができる。
【0044】
次に、図2に示すポリ乳酸系ベースフィルム形成工程(SB2)について説明する。図3(b)に示すように、押し出し機32でポリ乳酸系樹脂材料23に難燃性材料24を添加して混合し、押し出しすることによってポリ乳酸系ベースフィルム10を形成する。ポリ乳酸系ベースフィルム10は、未配向状態のキャストフィルムであっても、または1軸ないし2軸方向に配向したフィルムであってもよいが、絶縁フィルムに求められている機械強度を保持するためには、配向フィルムの方が適している。
【0045】
配向フィルムとしては、まずキャストフィルムを成形し、次いで延伸処理を施すことによって製造する。まずキャストフィルムは、混練機31で配合して混練して形成したポリ乳酸系樹脂材料23を1軸または2軸の押し出し機32に供給する。また、90重量部のポリ乳酸系樹脂材料23に、例えば10重量部のSiO/MgOからなる難燃性材料24を添加配合して混合し、溶融し混練する。そして、混合した材料の融点以上の温度で溶融し、T−ダイなどを通してフィルム状に押し出し、その後、急冷して引き取ることによってキャストフィルムを形成する。また、一旦成形したキャストフィルムは、引き続き1軸または2軸方向に延伸することによって、フィルム分子を配向させることができる。
【0046】
延伸方法は、キャストフィルムを、樹脂のガラス転移点以上かつ結晶化温度以下の温度範囲で、1軸延伸法、あるいは逐次二軸延伸法または同時二軸延伸法で行う。その結果、1軸方向または2軸方向に配向したポリ乳酸系ベースフィルム10を製造することができる。延伸条件としては、ポリ乳酸系樹脂材料23の組成や未延伸シートの熱履歴によっても異なるが、例えば、延伸温度40℃〜100℃、延伸倍率1.5倍〜6.0倍で行われる。延伸操作の後、好ましくはフィルムを再度熱処理してフィルムにヒートセットを施すが、熱処理温度は樹脂の結晶化温度以上かつ融点以下の温度範囲でなされる。
【0047】
このようにして製造されたポリ乳酸系ベースフィルム10は、1軸方向または2軸方向に配向され、無配向フィルムの持つ脆さを改良することができる。このようなポリ乳酸系ベースフィルム10は、ポリプロピレン延伸フィルム、ポリスチレン延伸フィルム、ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムに近い優れた物性を有している。特に2軸配向されていると、高い機械強度を示すので絶縁フィルムのベースフィルムとして好適である。また、ヒートセット処理を施すと、ポリマーの分子構造が安定化して結晶化度が増大し、フィルムの機械強度を一層向上させることができる。また、後述する被覆フィルム形成工程に先立ち、ポリ乳酸系ベースフィルムと被覆フィルムとの密着あるいは接着強度を高める目的で、ポリ乳酸系ベースフィルムの両面にコロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理などの表面活性化処理、あるいはアンカー処理剤を用いたアンカーコーティング処理を施してもよい。
【0048】
次に、図2に示す被覆フィルム形成工程について説明する。図4に示すように、被覆フィルム11a、11bはポリ乳酸系ベースフィルム10と同様に、押し出し機33a、33bから押し出して形成する(SB3)。本発明の実施の形態では、押し出し機32から押し出してポリ乳酸系ベースフィルム10を形成しながら、ポリ乳酸系ベースフィルム10の表裏に対して、押し出し機33a、33bから押し出された被覆フィルム11a、11bを同時に連続的に被覆積層するようにしている(SB4)。
【0049】
さらに具体的には、Tダイ法による共押し出しにより、図4の押し出し機32でポリ乳酸系ベースフィルム10を形成するとともに、被覆フィルム形成用の押し出し機33a、33bでプラスチック材料である、例えばポリカーボネートペレット(図示省略)を溶融して押し出す。その後、急冷して引き取ることによってフィルム化し、被覆フィルム11a、11bを延伸配向させて形成する。そして、ポリ乳酸系ベースフィルム10の両面の表裏表面上にともに形成した被覆フィルム11a、11bを接触させ重ね合わせ、ダイスから出た段階で三層の形状でフィルムを連続して積層し、難燃性フィルム1を形成する。
【0050】
このような方法により、難燃性および耐湿耐久性を向上させた積層構造のポリ乳酸系の難燃性フィルムを簡易な方法で連続して安価に製造できる。
【0051】
なお、上記において、ポリ乳酸系ベースフィルムおよび被覆フィルムを共押し出し積層するとして説明したが、ポリ乳酸系ベースフィルム形成工程と被覆フィルム形成工程とは、いずれを優先して行ってもよい。それぞれ形成したポリ乳酸系ベースフィルムの両面上に被覆フィルムを相前後して重ね合わせダイスから出た段階で三層の形状でフィルムを連続して積層することにより、難燃性フィルムを形成できる。
【0052】
また、本発明の実施の形態における難燃性フィルムの製造方法の他の実施例としては、ポリ乳酸系ベースフィルムの両面にフィルム化した被覆フィルムを重ね合わせて固着あるいは接着して積層してもよい。すなわち、ポリ乳酸系ベースフィルムの表裏面に、プラスチック材料を押し出して形成した被覆フィルムをラミネートして重ね合わせ固着し積層してもよい。また、接着剤により、ポリ乳酸系ベースフィルムの両側に被覆フィルムを貼り合わせて接着し被覆フィルムを積層してもよい。なお、被覆フィルムの形成は、ポリ乳酸系ベースフィルム形成と同時に行う必要はない。
【0053】
この場合、被覆フィルムを積層する前に、ポリ乳酸系ベースフィルムと被覆フィルムとの密着および接着強度を高める目的で、ポリ乳酸系ベースフィルムの両面にコロナ放電処理、フレーム処理、オゾン処理などの表面活性化処理、あるいはアンカー処理剤を用いたアンカーコーティング処理を施すことが好ましい。また、接着は熱圧着する方法や接着剤をコーティングし接着する方法が適用できる。
【0054】
このような方法により、難燃性および耐湿耐久性を向上させた積層構造のポリ乳酸系の難燃性フィルムを簡易な方法で安価に製造できる。
【0055】
なお、本実施の形態においては、ポリ乳酸系樹脂とPBSを混練機に投入し混合混練しポリ乳酸系樹脂材料を形成するとして説明したが、ポリ乳酸系樹脂材料はポリ乳酸樹脂単独による樹脂材料を準備してもよい。ポリ乳酸樹脂材料単独なので耐熱性は若干不足するが、難燃性を付与するので難燃性、耐久性を向上した難燃性フィルムを製造できる。
【0056】
以下に、本発明の実施の形態の具体的な実施例について説明する。
【0057】
なお、各実施例では、本発明の難燃性フィルムの効果を明確にする目的で、試験フィルムとして長さ200mm、幅50mm、厚さ約0.5mmの試験片を切り出し作成した。また、各実施例、比較例で難燃性テスト用5片、耐久性テスト用5片をそれぞれ作成した。評価は、UL−VTM(薄手材料垂直燃焼)試験に基づいて行った。
【0058】
(実施例1)
まず、ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレットを準備した。
【0059】
次に、このポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット90重量部と難燃性材料のSiO/MgO10重量部を2軸のフィルム押し出し機に投入して溶融し、T−ダイなどを通してフィルム状に押し出し、その後、急冷して引き取りキャストフィルムを形成した。成形したキャストフィルムを、引き続き2軸方向に延伸してフィルム分子を配向させ、幅約10cm、厚み約400μmの長尺のポリ乳酸系ベースフィルムを作製した。
【0060】
上記ポリ乳酸系ベースフィルム形成工程とともに、被覆フィルム形成用の2台のフィルム押し出し機により、プラスチック材料のポリカーボネートペレットを溶融して共押し出し、その後、急冷して引き取ってフィルム化し、延伸させ、幅約10cm、厚み約50μmの長尺の被覆フィルムをそれぞれ作製した。Tダイ法で共押し出したポリ乳酸系ベースフィルムの両面の裏表面上に、ともに形成した被覆フィルムを重ね合わせ、ダイスから出た段階で三層構成でフィルムを連続して積層し、幅約10cm、全体厚み約500μmの長尺の難燃性フィルムを形成した。
【0061】
次に、その難燃性フィルムを切断し、長さ約200mm、幅約50mm、全体厚さ約0.5mmの試験片を10片作製した。
【0062】
これを、サンプル1とする。
【0063】
(実施例2)
実施例1のポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料を用いた代わりに、70重量部のポリ乳酸系樹脂ペレットと30重量部のPBSペレットとを混練機に投入して混合溶融し混練して、ポリ乳酸系樹脂およびPBSからなるポリ乳酸系樹脂材料を用いた以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0064】
これを、サンプル2とする。
【0065】
(実施例3)
ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット90重量部と難燃性材料のSiO/MgO10重量部を用いた代わりに、70重量部のポリ乳酸系樹脂と30重量部のPBSとを混練機で混合混練し形成したポリ乳酸系樹脂およびPBSからなるポリ乳酸系樹脂ペレット98重量部と、難燃性材料の多孔質シリカに添着させたCu(acac)0.5重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0066】
これを、サンプル3とする。
【0067】
(実施例4)
ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット90重量部と難燃性材料のSiO/MgO10重量部を用いた代わりに、70重量部のポリ乳酸系樹脂と30重量部のPBSとを混練機で混合混練し形成したポリ乳酸系樹脂およびPBSからなるポリ乳酸系樹脂ペレット98重量部と、難燃性材料の多孔質シリカに添着させたFe(acac)0.5重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0068】
これを、サンプル4とする。
【0069】
(比較例1)
ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット90重量部と難燃性材料のSiO/MgO10重量部を用いた代わりに、ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット100重量部を用い難燃性材料を用いなかった以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0070】
これを、サンプルC1とする。
【0071】
(比較例2)
ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット90重量部と難燃性材料のSiO/MgO10重量部を用い、被覆フィルムを形成しベースフィルムの両面に積層した代わりに、ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット100重量部を用い難燃性材料を用い、被覆フィルムを形成せずベースフィルムに積層しなかった以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0072】
これを、サンプルC2とする。
【0073】
(比較例3)
ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット100重量部を投入して用い、被覆フィルムを形成しベースフィルムの両面に積層した代わりに、ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット85重量部と難燃性材料の有機窒素系のジシアンジアミド15重量部を用い、被覆フィルムを形成せずベースフィルムに積層しなかった以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0074】
これを、サンプルC3とする。
【0075】
(比較例4)
ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット100重量部を投入して用いた代わりに、ポリ乳酸系樹脂単独からなるポリ乳酸系樹脂材料ペレット85重量部と難燃性材料の有機窒素系のジシアンジアミド15重量部を用いた以外は、実施例1と同様にして難燃性フィルムを作製した。
【0076】
これを、サンプルC4とする。
【0077】
以上のように作製した難燃性フィルムに対し、以下に示すように、難燃性評価をUL−VTM試験に基づいて行い、耐久性評価を高温高湿下における耐久性試験を行った。
【0078】
難燃性評価はUL−VTM試験に基づいて行い、200mm×50mm×厚さ0.5mmの各試験片を、円筒状に丸め巻いて上方に垂直に保持し、下から125mmの位置に印を付け、燃焼判断は、この125mmの範囲で行った。評価項目と内容、および結果を(表1)に示す。
【0079】
耐久性評価は試験片各5片を60℃95%湿度の高温高湿器に投入し、高温高湿下の耐久性テストを行って、試験片のフィルム強度の半減時間を測定しその平均半減時間を求め、半減時間が500時間以上を○、300時間〜500時間を△、300時間以下を×とした。
【0080】
以下に、サンプル1、2、3、4とサンプルC1、C2、C3、C4の諸元と評価結果を(表1)に示す。なおより耐湿熱性を向上させるためには、ポリ乳酸に加水分解抑制剤例えばカルボジイミドを2重量部前後混練すれば、効果的である。
【0081】
【表1】

【0082】
(表1)からわかるように、本発明の難燃性フィルムであるサンプル1、2、3、4においては、残炎時間が短く、残塵や着火がなく、UL−VTM試験のV−0の基準を満たし、難燃性に優れたものであった。また、高温高湿下でフィルム強度の半減時間が長く耐久性に優れたものであった。これは、ポリ乳酸系ベースフィルム自体に難燃性に優れた材料のSiO/MgO、Cu(acac)/SiO、Fe(acac)/SiOをそれぞれ添加配合し難燃性をさらに付与したことによるものである。さらに、難燃性でHOバリヤー性のプラスチックフィルムである被覆フィルムをベースフィルムの両面に積層したことによるものである。さらに、サンプル2、3、4はポリ乳酸系樹脂にPBSを混合して用いたので耐熱性も優れ、サンプル1より難燃性が優れていることがわかる。
【0083】
一方、難燃性材料を配合せずにポリ乳酸系樹脂単独材料を用い、被覆フィルムを積層したサンプルC1、被覆フィルムを積層しなかったサンプルC2は、残炎時間が長く、残塵はなかったが着火があり、難燃性はV−2基準のものであった。また、サンプルC1は高温高湿下でフィルム強度の半減時間が中程度に長く耐久性は中程度であったが、サンプルC2は耐久性に劣っていた。これは、ポリ乳酸樹脂ベースフィルム自体に難燃性が付与されておらず、難燃性が不足していたためと考えられる。また、サンプルC1はHOバリヤー性のプラスチックフィルムでベースフィルムの両面に積層し被覆しているので、耐久性があったためであり、サンプルC2はHOバリヤー性のフィルムでベースフィルムの両面を被覆していなかったので、耐久性がなかったためと考えられる。
【0084】
また、ポリ乳酸系樹脂単独材料を用い難燃性材料である有機窒素系のジシアンジアミドを配合した、被覆フィルムを積層しなかったサンプルC3、被覆フィルムを積層したサンプルC4は、残炎時間はサンプル1、2、3、4よりは長く、サンプルC1、C2よりは短かったが、残塵着火がなく、難燃性はV−1基準のものであった。また、サンプルC3は、高温高湿下での耐久性に劣り、サンプルC4は耐久性を中程度に有していた。これは、有機窒素系の難燃性材料で難燃性を付与したポリ乳酸系樹脂を用いたので、中程度の難燃性を有していたためと考えられる。
【0085】
また、サンプルC3はHOバリヤー性のフィルムをベースフィルムの両面に積層被覆しなかったので耐久性がなかったためであり、サンプルC4はHOバリヤー性のフィルムでベースフィルムの両面を被覆したので耐久性があったためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、難燃性および高温高湿使用下の耐久性を向上させ、薄い膜厚のポリ乳酸系ベースフィルムを有する難燃性フィルムを安価に製造でき、電気製品などへの地球環境を考慮した絶縁フィルムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施の形態における難燃性フィルムの構成を示す断面図
【図2】本発明の実施の形態における難燃性フィルムの製造方法を示すフローチャート
【図3】本発明の実施の形態における難燃性フィルムを製造する工程の一部を示す図
【図4】本発明の実施の形態における難燃性フィルムの図3に続く工程の一部を示す図
【符号の説明】
【0088】
1 難燃性フィルム
10 ポリ乳酸系ベースフィルム
11a,11b 被覆フィルム
21 ポリ乳酸系樹脂(PLA樹脂)
22 生分解性樹脂
23 ポリ乳酸系樹脂材料
24 難燃性材料
31 混練機
32,33a,33b 押し出し機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性材料を樹脂中に配合したポリ乳酸系ベースフィルムと、
前記ポリ乳酸系ベースフィルムの両面に積層して設けたプラスチックの被覆フィルムとを備えたことを特徴とする難燃性フィルム。
【請求項2】
前記難燃性材料が、SiO/MgO、Cu(acac)/SiOおよびFe(acac)/SiOのうちの少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の難燃性フィルム。
【請求項3】
前記被覆フィルムが、難燃性プラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の難燃性フィルム。
【請求項4】
前記被覆フィルムが、水蒸気バリヤー性を有するポリカーボネート、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートの少なくとも1種を含むプラスチックフィルムであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の難燃性フィルム。
【請求項5】
前記ポリ乳酸系ベースフィルムの厚みが、10μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の難燃性フィルム。
【請求項6】
前記被覆フィルムの厚みが、1μm以上1000μm以下であることを特徴とする請求項5に記載の難燃性フィルム。
【請求項7】
ポリ乳酸系樹脂と樹脂材料とを混練してポリ乳酸系樹脂材料を形成するポリ乳酸系樹脂材料形成工程と、
前記ポリ乳酸系樹脂材料に難燃性材料を添加して混合し、ポリ乳酸系ベースフィルム用押し出し機によりポリ乳酸系ベースフィルムを形成するポリ乳酸系ベースフィルム形成工程と、
前記ポリ乳酸系ベースフィルムの表裏に被覆フィルムを被覆する被覆フィルム形成工程とを含む難燃性フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記被覆フィルム形成工程が、被覆フィルム用押し出し機から押し出された被覆フィルムを前記ポリ乳酸系ベースフィルム用押し出し機から押し出された前記ポリ乳酸系ベースフィルムの表裏に重ね合わせる工程であることを特徴とする請求項7に記載の難燃性フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記被覆フィルム形成工程が、前記ポリ乳酸系ベースフィルム用押し出し機から押し出された前記ポリ乳酸系ベースフィルムの表裏に被覆フィルムを圧着または接着の少なくともひとつにより重ね合わせる工程であることを特徴とする請求項7に記載の難燃性フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ポリ乳酸系樹脂材料形成工程における前記樹脂材料が生分解性樹脂を含むことを特徴とする請求項7から請求項9のいずれか1項に記載の難燃性フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−195003(P2008−195003A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34795(P2007−34795)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】