説明

難燃性樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体

【課題】 耐熱性、耐衝撃性、耐久性を備えた難燃性ポリ乳酸樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸樹脂(A)50〜85質量%と、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)10〜40質量%と、ガラス繊維(C)5〜40質量%と、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)0.03〜5質量%と、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)0.1〜1.0質量%と、加水分解抑制剤(F)0.1〜10質量%とを含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸樹脂を含有する難燃性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、成形用の原料としては、ポリプロピレン(PP)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド(PA6、PA66など)、ポリエステル(PET、PBTなど)、ポリカーボネート(PC)などの樹脂が使用されている。しかしながら、このような樹脂から製造された成形体は、成形性、機械的強度に優れているが、廃棄する際、ゴミの量を増すうえに、自然環境下でほとんど分解されないために、埋設処理しても半永久的に地中に残留する。
【0003】
一方、近年、環境保全の見地から生分解性ポリエステル樹脂が注目されている。生分解性ポリエステル樹脂の中でも、ポリ乳酸、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどは、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。そのうち、ポリ乳酸は既にトウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造可能となっており、使用後に焼却されても、これらの植物の生育時に吸収した二酸化炭素を考慮すると、炭素の収支として中立であることから、特に、地球環境への負荷の低い樹脂とされている。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸は難燃性が不充分であり、これを単体で電気製品等の筺体に利用する場合には、安全上の問題がある。加えて、それらの用途には、多くの場合、少なくとも100℃を上回る高温環境にも耐えうる耐熱性が必要である。このように、ポリ乳酸には、このような難燃性と耐熱性とに加えて、さらに耐衝撃性を兼ね備えたものが求められている。
【0005】
これらの特性のうち、難燃性は、難燃剤を高比率で配合することにより改善され、また、耐熱性、特に大荷重(1.8MPa)での荷重たわみ温度は、強化用充填剤を高比率で配合することで改善される。しかしながらこれらの配合により、組成物に占めるポリ乳酸の比率が小さくなり、環境への有用性を低減させるため好ましくない。ポリ乳酸が組成物全体のうちの過半を占めた上で、前記各物性を満足することが要求されている。
【0006】
すでに、特許文献1には、ポリ乳酸に有機充填剤と難燃剤(芳香族縮合リン酸エステル等)を添加し、金型温度90℃で射出成形することにより、V−2〜V−0の難燃性とある程度の耐熱性が得られることが開示されている。
この方法では、有機充填剤として古紙粉末を20%以上添加することで、耐熱性を向上させているが、混錬や成形の際の溶融時に、熱により変色することは免れず、色調の調整が難しいものであった。また得られた耐熱性は、荷重たわみ温度が小荷重(0.45MPa)でも110℃未満という低いレベルのものであり、電気機器筺体などへの使用に供するためには不充分であった。
さらに、特許文献1においては、V−0の難燃性を満たすうちでの、接炎後の残炎時間については考慮されていない。電気製品等の筺体として利用する場合には、残炎時間が長いと、引火の恐れなど、安全上問題がある。
加えて、特許文献1では、アイゾット衝撃値が25J/m未満の値しか得られていない。
【0007】
また、特許文献2には、表面処理を施した水酸化物を添加することで、難燃性とある程度の耐熱性が得られることが開示されている。しかしながら、得られた難燃性はV−2であり、前記用途への使用に際してはまだ不充分なレベルであった。
【0008】
特許文献3には、ホスフィン酸系化合物により難燃化したポリ乳酸系メッシュシートが開示されている。特許文献3にはホスフィン酸系化合物としてジメチルホスフィン酸等の遊離酸を例示されているが、射出成形用途での高い難燃性レベルに関して検討されていない。
【0009】
特許文献4には、金属塩系結晶核剤の難燃性ポリ乳酸系樹脂組成物への適用が開示され、金属塩系結晶核剤として有機カルボン酸金属塩を用いることが提案されている。しかしながら、達成される難燃性や成形性については示されていない。
【0010】
特許文献5には、フッ素樹脂系ドリップ防止剤の難燃性ポリ乳酸系樹脂組成物への適用が開示され、ポリテトラフルオロエチレン等のドリップ防止剤を用いることが提案されている。しかしながら、V−0(1.6mmt)の難燃性レベルを得るには、難燃剤を多量に添加して、組成物におけるポリ乳酸の割合を50質量部未満としなければならず、ポリ乳酸の環境へのメリットを充分に活かすことができないものであった。
【0011】
また、特許文献6には、コアシェル型耐衝撃剤を用いて一定の耐衝撃性が得られたことが開示されている。特許文献6では、60℃95%×200hという極めて緩い条件で耐久性が検討されているが、1割程度の劣化が見られ、また耐熱性については検討されていない。また、特許文献7には、グリシジル系化合物とコアシェル型耐衝撃剤がともに用いられている例が示されているが、特許文献4と同様の結果である。
【0012】
グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤が、ポリ乳酸に対して耐衝撃効果および耐熱効果を有することが三菱レイヨン社の資料に開示されているが、難燃組成における難燃性や耐久性については言及されておらず、組成としても示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−23260号公報
【特許文献2】特開2005−139441号公報
【特許文献3】特開2005−105472号公報
【特許文献4】特開2006−193561号公報
【特許文献5】国際公開第2005/061626号パンフレット
【特許文献6】特開2006−016447号公報
【特許文献7】特開2006−016446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、前記の問題点を解決しようとするものであり、耐熱性、耐衝撃性、耐久性を備えた難燃性ポリ乳酸樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリ乳酸樹脂に、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤と、ガラス繊維と、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤と、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤と、加水分解抑制剤とを配合して得られる樹脂組成物が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂(A)50〜85質量%と、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)10〜40質量%と、ガラス繊維(C)5〜40質量%と、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)0.03〜5質量%と、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)0.1〜1.0質量%と、加水分解抑制剤(F)0.1〜10質量%とを含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
(2)さらに、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(G)1〜15質量%を含有することを特徴とする(1)記載の樹脂組成物。
(3)ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)0.01〜20質量部と、過酸化物(I)0.1〜20質量部とともに溶融混練されていることを特徴とする(1)または(2)に記載の難燃性樹脂組成物。
(4)ポリ乳酸樹脂(A)におけるD−乳酸成分の割合が0.6モル%以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、成形性、難燃性、物性性能、耐湿熱性に優れ、かつ、植物由来比率の高い難燃性熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。この樹脂組成物を電気製品の部品などに用いることで、低環境負荷材料であるポリ乳酸樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂(A)50〜85質量%と、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)10〜40質量%と、ガラス繊維(C)5〜40質量%と、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)0.03〜5質量%と、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)0.1〜1.0質量%と、加水分解抑制剤(F)0.1〜10質量%とを含有する。
【0018】
本発明の樹脂組成物におけるポリ乳酸樹脂(A)としては、耐熱性、成形性の面からポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができるが、生分解性、および、成形加工性の観点からは、ポリ(L−乳酸)を主体とすることが好ましい。
【0019】
また、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)の融点は、光学純度によってその融点が異なるが、本発明においては、成形体の機械的特性や耐熱性を考慮すると、融点を160℃以上とすることが好ましい。ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)において、融点を160℃以上とするためには、D−乳酸成分の割合を約3モル%未満とすればよい。さらに、樹脂組成物の成形性および耐熱性の点から、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸樹脂(A)においては、D−乳酸成分の割合が0.6モル%以下であることが、特に好ましい。市販のポリ乳酸樹脂としては、たとえば、トヨタ製ポリ乳酸樹脂『S−09』、『S−12』、『S−17』などが挙げられる。
【0020】
ポリ乳酸樹脂(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート(例えば、JIS規格K−7210(試験条件4)による値)は通常0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜20g/10分、最適には0.5〜10g/10分である。メルトフローレートが50g/10分を超える場合は、溶融粘度が低すぎて成形物の機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。また、メルトフローレートが0.1g/10分未満の場合は成形加工時の負荷が高くなって、操業性が低下する場合がある。
【0021】
ポリ乳酸樹脂(A)は公知の溶融重合法で、あるいは、さらに固相重合法を併用して製造される。また、そのメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、メルトフローレートが大きすぎる場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、ビスオキサゾリン化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法が挙げられる。逆に、メルトフローレートが小さすぎる場合はメルトフローレートの大きなポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法が挙げられる。
【0022】
本発明の樹脂組成物におけるポリ乳酸樹脂(A)の配合量は、50〜85質量%であり、51〜75質量%であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂(A)の配合量が50質量%未満では、環境に対する有用性が不充分であり、85質量%を超えて配合した場合、他の必要成分を所定量配合することができず、本発明の目的を満足することができない。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の燃焼性を抑制し、一定の難燃性を付与することを目的として、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)を含有する。有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)は、難燃性効果および耐熱性などに優れており、これを配合することにより、燃焼性の高いポリ乳酸樹脂(A)が多く配合されている場合でも、燃焼継続を効果的に抑制することが可能となる。さらに、耐熱性においても良好な効果を期待できる。一方、他種の難燃剤はこれらの効果に劣るため、本発明には不適当である。なお、含ハロゲン系難燃剤は、難燃性効果には優れるものの環境に対する負荷が大きく、本発明には不適当である。
有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)は、公知のあらゆるものを用いることができ、市販のものとしては、例えば、クラリアント製『エクソリットОP』シリーズなどが挙げられる。
【0024】
樹脂組成物における有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)の配合量は、10〜40質量%であり、15〜35質量%であることが好ましい。有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)の配合量が10質量%未満では、充分な難燃性が得られない場合があり、40質量%を超えて配合すると、耐衝撃性、破断歪等の物性性能を低下させる場合があり、さらに、混練時の操業性を低下させることがある。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、樹脂組成物の結晶化を促進し、耐熱性を改善することを目的として、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)を含有する。有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)は、難燃剤の難燃効果を大きく阻害することがないので難燃性への悪影響が小さく、また、結晶化促進効果にも優れている。一方、他種の結晶核剤はこれらの効果に劣るため、本発明には不適当である。
有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)のうち市販のものとしては、例えば、竹本油脂製『TLA114』、『TLA140』などが挙げられる。
【0026】
樹脂組成物における有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)の配合量は、0.03〜5質量%であり、0.05〜4質量%であることが好ましい。有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)の配合量が0.03質量%未満では、目的とする耐熱性が得られず、また5質量%を超えて配合すると、混練時の操業性が低下することがある。
【0027】
本発明の樹脂組成物は、燃焼時の滴下を抑制し、UL規格V−1以上の高い難燃性を得るために、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)を含有する。高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)は、ドリップ防止効果に加えて、燃焼時間短縮効果も高く、これを樹脂組成物に配合することによって、燃焼時の滴下を防止するとともに、燃焼テストにおける離炎後の残炎を抑えることができ、高い難燃性を得ることができる。これは、高分子量フッ素樹脂が燃焼時の燃焼片を大きく収縮させることにより、効果的に残炎が抑制されるためとみられる。一方、他種のフッ素樹脂系ドリップ防止剤はこれらの効果に劣るため、本発明には不適当である。
高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)としては、公知のあらゆるものを用いることができ、市販のものとしては、例えば、スリーエム製『MM5935EF』などが挙げられる。
【0028】
樹脂組成物における高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)の配合量は、0.1〜1質量%であり、0.2〜0.5質量%であることが好ましい。高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)の配合量が0.1質量%未満では必要な燃焼粒滴下抑制効果を得ることができない。一方、1質量%を超えて配合すると、コスト面で不利であるだけでなく、環境負荷の点でも好ましくない。
【0029】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の堅牢性を増加させ、またドリップ防止剤(E)による燃焼時の燃焼粒滴下抑制効果を補助するために、ガラス繊維(C)を含有する。ガラス繊維(C)の配合により、樹脂組成物の荷重たわみ温度を上昇させることもできる。
ガラス繊維としては、あらゆる形状のものを用いることができる。
ガラス繊維(C)のうち市販のものとしては、オーエンスコーニング製『FT592』などが挙げられる。
【0030】
樹脂組成物におけるガラス繊維(C)の配合量は、5〜40質量%であり、7〜25質量%であることが好ましい。ガラス繊維(C)の配合量が5質量%未満では、必要な燃焼粒滴下抑制効果や荷重たわみ抑制効果を得ることができない。また、40質量%を超えて配合した場合、他の必要成分を所定量配合することができず、本発明の目的を満足することができない。
【0031】
本発明の樹脂組成物は、樹脂組成物の耐久性を向上させ、その難燃性および耐熱性を長期間、安定的に維持することを目的として、加水分解抑制剤(F)を含有する。
加水分解抑制剤(F)としては、カルボジイミド化合物をはじめ、種々のものを用いることができる。
【0032】
カルボジイミド化合物としては、種々のものを用いることができ、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有するものであれば特に限定されず、例えば、脂肪族モノカルボジイミド、脂肪族ポリカルボジイミド、脂環族モノカルボジイミド、脂環族ポリカルボジイミド、芳香族モノカルボジイミド、あるいは芳香族ポリカルボジイミドなど、この範囲の全てのものを用いることができる。さらに、分子内に各種複素環、あるいは各種官能基を有するものであってもよい。
カルボジイミド化合物を製造する方法としては、特に限定されず、イソシアネート化合物を原料に製造する方法など、多くの方法が挙げられる。
カルボジイミド化合物としては、イソシアネート基を分子内に有するカルボジイミド化合物、およびイソシアネート基を分子内に有していないカルボジイミド化合物のどちらも区別無く用いることができる。
カルボジイミド化合物のカルボジイミド骨格としては、N,N′−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N′−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N′−シクロヘキシルカルボジイミド、N−トリイル−N′−フェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N′−ジ−p−トリイルカルボジイミド、p−フェニレン−ビス−ジ−o−トリイルカルボジイミド、4,4′−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、N,N−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなど、多くのカルボジイミド骨格が挙げられる。
【0033】
カルボジイミド化合物の具体例としては、多くのものが挙げられるが、例えば、前記分類の脂環族モノカルボジイミドとしては、ジシクロヘキシルカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の脂環族ポリカルボジイミドとしては、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の芳香族モノカルボジイミドとしては、N,N′−ジフェニルカルボジイミド、N,N′−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが挙げられ、また、前記分類の芳香族ポリカルボジイミドとしては、フェニレン−p−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピル−フェニレン−2,4−ジイソシアネートに由来するポリカルボジイミドなどが挙げられる。
なお、ポリカルボジイミドにおいては、その分子の両端あるいは分子中の任意の部位が、イソシアネート基等の官能基を有する、あるいは分子鎖が分岐しているなど他の部位と異なる分子構造となっていてもよい。
【0034】
樹脂組成物における加水分解抑制剤(F)の配合量は、0.1〜10質量%であり、0.1〜5質量%であることが好ましい。加水分解抑制剤(F)の配合量が0.1質量%未満では目的とする耐久性が得られない場合があり、また、10質量%を超えて配合すると、色調が大きく損なわれる場合があり、またコスト的にも不利である。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(G)を含有することが好ましい。グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(G)は、耐久性に良好な効果を及ぼすグリシジルメタクリレートと、コアシェル型耐衝撃剤とが一体化されていることにより、含有量に対して効率的に両方の効果を発揮できる。すなわち、樹脂組成物にグリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(G)を配合することによって、耐衝撃性を充分付与することができる他、加水分解抑制剤(F)の効果がさらに促進され、極めて良好な耐久性を得ることができる。
グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(F)としては、たとえば、三菱レイヨン製『メタブレン』シリーズ『S2200』が挙げられる。
グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(F)の配合量は、1〜15質量%であることが好ましく、3〜12質量%であることがより好ましい。配合量が1質量%未満ではその効果が十分に得られず、15質量%を超えると、コスト的に不利である他、植物由来成分であるポリ乳酸樹脂(A)の配合比率を低下させることになる。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)と、過酸化物(I)とともに溶融混練されていることが好ましい。樹脂組成物に(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)と過酸化物(I)とを配合して溶融混練することにより、ポリ乳酸樹脂(A)の結晶化を促進し、耐熱性を改善することができる。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)の具体的な化合物としては、ポリ乳酸樹脂(A)との反応性が高く、モノマーが残りにくく、かつ毒性が少なく、樹脂の着色も少ないことから、分子内に2個以上の(メタ)アクリル基を有するか、または、1個以上の(メタ)アクリル基と1個以上のグリシジル基もしくはビニル基を有する化合物が好ましい。
具体的な化合物としては、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリセロールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、アリロキシポリエチレングリコールモノアクリレート、アリロキシ(ポリ)エチレングリコールモノメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールジアクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジアクリレート、(ポリ)テトラメチレングリコールジメタクリレート、また、これらのアルキレングリコール部が様々な長さのアルキレンの共重合体、ブタンジオールメタクリレート、ブタンジオールアクリレート等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)の配合量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部であることが好ましい。配合量が0.01質量部未満では、目的とする耐熱性が得られず、また20質量部を超えて添加すると、混練時の操業性が低下することがある。
【0038】
本発明において過酸化物(I)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)とポリ乳酸樹脂(A)との反応を促進し、耐熱性を改善することを目的として配合されるものである。
過酸化物(I)の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)トリメチルシクロヘキサン、ビス(ブチルパーオキシ)シクロドデカン、ブチルビス(ブチルパーオキシ)バレレート、ジクミルパーオキサイド、ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキサイド、ビス(ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジメチルジ(ブチルパーオキシ)ヘキシン、ブチルパーオキシクメンなどが挙げられる。
過酸化物(I)の配合量は、ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜20質量部であることが好ましい。配合量が0.1質量部未満では、目的とする耐熱性が得られず、また20質量部を超えて添加すると、混練時の操業性が低下することがある。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂組成物にはその特性を大きく損なわない限りにおいて、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等を添加することができる。難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、リン系難燃剤や水酸化金属などが挙げられる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0040】
本発明において、ポリ乳酸樹脂(A)と、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)と、ガラス繊維(C)と、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)と、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)と、加水分解抑制剤(F)とを混合する手段、さらにグリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(G)を混合したり、(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)と、過酸化物(I)とともに溶融混練する手段は、特に限定されないが、一軸あるいは二軸の押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態をよくする意味で二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は(ポリ乳酸樹脂の融点+5℃)〜(ポリ乳酸樹脂の融点+100℃)の範囲が、また、混練時間は20秒〜30分が好ましい。この範囲より低温や短時間であると、混練や反応が不充分となったり、逆に、高温や長時間であると樹脂の分解や着色が起きる場合があり、ともに好ましくない。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは190〜270℃とし、また、金型温度は樹脂組成物の(融点−20℃)以下とするのが適当である。成形温度が低すぎると成形品にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすく、逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすく、ともに好ましくない場合がある。
【0042】
本発明の樹脂組成物を用いた成形体の具体例としては、パソコン周辺の各種部品および筐体、携帯電話部品および筐体、その他OA機器部品等の電化製品用樹脂部品、バンパー、インストルメントパネル、コンソールボックス、ガーニッシュ、ドアトリム、天井、フロア、エンジン周りのパネル等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。また、フィルム、シート、中空成形品などとすることもできる。
そのうち、柔軟性、耐衝撃性、難燃性を必要とされる部品において、本発明の樹脂組成物は、特に有用である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。実施例および比較例の樹脂組成物の評価に用いた測定法は次のとおりである。
(1)耐熱性:
ISO 75に準拠し、荷重1.8MPa(=大荷重)で熱変形温度を測定した。大荷重での熱変形温度が100℃以下のものを×、100〜120℃のものを△、120〜140℃のものを○、140℃以上のものを◎とした。
(2)難燃性:
UL94に準拠して測定した。試験片は1.6mm厚のものを用いた。燃焼試験時にドリップの見られなかったものについて、燃焼テストの際の各試験片における残炎時間(接炎1回目+接炎2回目)の平均を算出し、残炎時間の平均が6秒以上のものを×、3〜6秒のものを○、3秒以下のものを◎とした。安定してV−0レベルの難燃性を達成するためには、残炎時間平均が6秒以下、好ましくは、3秒以下であることが求められる。
(3)耐湿熱性:
試験片を60℃95%RHの高温高湿環境下に700h曝した場合の、ISO178に準拠して測定した曲げ強度および曲げ破断歪の処理前後の保持率を算出し、保持率が70〜90%のものを◎、50〜70%のものを○、50%未満のものを×とした。
(4)耐衝撃性:
ASTM D256に準拠して測定したアイゾット衝撃強度を用いた。アイゾット衝撃強度が40J/m以下のものを×、40〜60J/mのものを○、60J/m以上のものを◎とした。
(5)曲げ破断歪:
ISO178に準拠して曲げ破断歪を測定し、曲げ破断歪が3以上のものを◎、2〜3のものを○、2以下のものを×とした。
(6)曲げ強度:
ISO178に準拠して曲げ強度を測定し、曲げ強度が125MPa以上のものを◎、115〜125MPaのものを○、115以下のものを×とした。
(7)成形性:
試験片成形時に、試験片が変形等の問題なく取り出せる最短の冷却時間を見極めた。この時、射出+保圧は30秒に固定した。所要冷却時間が20秒以下のものを◎◎、20〜25秒のものを◎、25〜40秒のものを○、40秒を超えるものを×とした。
【0044】
また、実施例、比較例に用いた各種原料は次の通りである。
(1)ポリ乳酸樹脂:
・カーギルダウ製『3001D』(D−乳酸成分の割合1.4モル%)
・トヨタ製『S−12』(D−乳酸成分の割合0.1モル%)
(2)難燃剤:
・クラリアント製 有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤『OP1312』
・クラリアント製 ポリリン酸アンモニウム系難燃剤『AP422』
・大八化学製 芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤『PX200』
(3)ガラス繊維:
・オーエンスコーニング製『FT592』
(4)結晶核剤:
・竹本油脂製 有機スルホン酸バリウム系結晶核剤『TLA114』
・竹本油脂製 有機スルホン酸カリウム系結晶核剤『TLA140』
・新日本理化製 トリメシン酸アミド系結晶核剤『TF−1』
・大日化学製 ステアリン酸マグネシウム『SMO』
(5)ドリップ防止剤:
・スリーエム製 高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤『MM5935EF』(高分子量タイプフッ素樹脂を主成分とするフッ素樹脂系ドリップ防止剤)
・三菱レイヨン製 フッ素樹脂系ドリップ防止剤『A3700』
(6)加水分解抑制剤:
・日清紡製 イソシアネート変性カルボジイミド『LA−1』(イソシアネート基含有率1〜3%)
・松本油脂製 カルボジイミド『EN160』
(7)グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃改良剤:
・三菱レイヨン製 グリシジルメタクリレート変性コアシェル型シリコーン・アクリルゴム系耐衝撃剤『メタブレンS2200』
(8)(メタ)アクリル酸エステル化合物:
・日本油脂製 エチレングリコールジメタクリレート『ブレンマーPDE−50』(以下「EGDM」と称す。)
(9)過酸化物:
・日本油脂製 ジ−t−ブチルパーオキサイド『パーブチルD』
【0045】
実施例1
二軸押出機(東芝機械社製TEM26SS型)を用い、ポリ乳酸樹脂として『3001D』50質量部、難燃剤として『OP1312』28質量部、結晶核剤として『TLA114』1質量部、ドリップ防止剤として『MM5935EF』0.5質量部、加水分解抑制剤の『LA−1』1.3質量部と『EN160』1.3質量部、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃改良剤の『S2200』5質量部をドライブレンドして押出機の根元供給口から供給し、バレル温度180℃、スクリュー回転数150rpm、吐出20kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。また、ガラス繊維の『FT592』13質量部をシリンダ内にサイド供給した。さらに、(メタ)アクリル酸エステル化合物の『EGDM』0.10質量部、および、過酸化物の『パーブチルD』0.2質量部をシリンダ内に注入した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。
得られたペレットを70℃×24時間真空乾燥したのち、東芝機械社製IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を105℃に調整しながら、一般物性測定用試験片(ASTM型)を作製し、各種測定に供した。
【0046】
実施例2〜11、比較例1〜12
ポリ乳酸、難燃剤、結晶核剤、ドリップ防止剤、加水分解抑制剤、耐衝撃改良剤、ガラス繊維、(メタ)アクリル酸エステル化合物、過酸化物の量、種類を変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物ペレットを得て、これを射出成形して各種物性を測定した。
この結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表1から明らかなように、実施例1〜11においては、難燃性、耐衝撃性、柔軟性、耐熱性、耐久性、成形性に優れた結果が得られた。
実施例のうち、実施例2においては、(メタ)アクリル酸エステル化合物等を用いなかったため、実施例1に比べて、成形性に改善の余地を残す結果となった。実施例3においては、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤を用いなかったため、強度、柔軟性、耐衝撃性、耐湿熱性に改善の余地を残す結果となった。実施例10においては、ポリ乳酸樹脂として、分子鎖中のD体成分の比率が0.6%以下のポリ乳酸樹脂を用いたため、成形性に顕著に優れた結果が得られた。
【0050】
比較例1〜3においては、難燃剤として有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤を用いなかったため、難燃性に劣るか、操業不可能な結果となった。比較例4〜5においては、結晶核剤として有機スルホン酸金属塩系結晶核剤を用いなかったため、難燃性に劣る結果となった。比較例6〜7においては、フッ素樹脂系ドリップ防止剤として高分子量タイプフッ素樹脂を主成分とするものを用いなかったため、難燃性に劣る結果となった。
比較例8においては、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤の配合量が少なかったため、難燃性に劣る結果となった。比較例9においては、ガラス繊維の配合量が少なかったため、燃焼テスト中に滴下し、難燃性に劣る結果となった。比較例10においては、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤の配合量が少なかったため、成形性に劣る結果となった。比較例11においては、高分子量タイプフッ素樹脂を主成分とするフッ素樹脂系ドリップ防止剤の配合量が少なかったため、燃焼テスト中に滴下し、難燃性に劣る結果となった。比較例12においては、加水分解抑制剤の配合量が少なかったため、耐湿熱性に劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂(A)50〜85質量%と、有機ホスフィン酸金属塩系難燃剤(B)10〜40質量%と、ガラス繊維(C)5〜40質量%と、有機スルホン酸金属塩系結晶核剤(D)0.03〜5質量%と、高分子量フッ素樹脂系ドリップ防止剤(E)0.1〜1.0質量%と、加水分解抑制剤(F)0.1〜10質量%とを含有することを特徴とする難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに、グリシジルメタクリレート変性コアシェル型耐衝撃剤(G)1〜15質量%を含有することを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂(A)100質量部に対して、(メタ)アクリル酸エステル化合物(H)0.01〜20質量部と、過酸化物(I)0.1〜20質量部とともに溶融混練されていることを特徴とする請求項1または2に記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ乳酸樹脂(A)におけるD−乳酸成分の割合が0.6モル%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の難燃性樹脂組成物を成形してなる成形体。

【公開番号】特開2010−229228(P2010−229228A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−76351(P2009−76351)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】