説明

難燃性熱伝導組成物、およびこれを用いた難燃性熱伝導シート

【課題】高い熱伝導性と優れた難燃性を有する難燃性熱伝導シートを得るために、市場で求められる(メタ)アルキルアクリレートポリマー/アクリル酸モノマーのシロップと金属水酸化物を含有した系において、高分子分散剤を使用しても、難燃性熱伝導組成物の塗料製造工程中で増粘現象によって塗工ができない事実が多々生じる問題があった。
【解決手段】酸価が20mgKOH/g以上である分散剤を配合して、分子内に極性基を有する(メタ)アクリル系ポリマーおよび/またはモノマーと光重合開始剤と金属水酸化物を含む組成物にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は難燃性熱伝導組成物、及び難燃性熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータ等の電子機器の小型化、高性能化が進んでおり、それに伴いこれらの電子機器から発生する熱の放熱対策が重要となってきている。その対策として発熱する電子部品等とヒートシンクや放熱フィンといった放熱部材との間を熱伝導率が高い熱伝導性シートを介して接合することが行われている。この熱伝導性シートに求められる特性としては、接着性、高熱伝導性、また、安全性の面から難燃性が求められることが多い。
【0003】
これらの特性を満足するような検討は種々なされている(例えば特許文献1,2)。さらに、特許第4385573号公報(特許文献3)には、生産性としては塗工適性をとりあげ、全ての主な特性が良好なものとして、炭素数が1〜14個のアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレートに対して、光重合開始剤、難燃性熱伝導電気絶縁粒子、特定の分散剤を配合した組成物にすることとこれを使用した粘着シートを提案している。
特許文献3では、塗工適性低下は、特に高い熱伝導性と難燃性を付与する目的で、金属水酸化物を使用した場合をとりあげている。この金属水酸化物をアクリル系共重合体に対してある量以上配合することで組成物の粘度が著しく高くなる現象を指しており、その対策としてa)炭素数が1〜14個のアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレート単量体(単量体を以下モノマーという)と、d)高分子系分散剤を含有することを開示している。(特許文献3 段落0006から0009まで)
しかしながら、高分子分散剤の機能については、特許文献3の明細書本文の段落0020に、分散剤としての一般的記述とともに適度な流動性を発現するため良好な塗工適性を付与できるとの記述しかなく、樹脂成分として(メタ)アルキルアクリレート単量体のみを含む系に限定されたものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−2527公報
【特許文献2】特許第4228269号公報
【特許文献3】特許第4385573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、高い熱伝導性と優れた難燃性を有する難燃性熱伝導シートを得るために、市場で求められる(メタ)アルキルアクリレートポリマー/アクリル酸モノマーのシロップと金属水酸化物を含有した系において、高分子分散剤を使用しても、粘着剤用組成物の粘度が著しく高くなって、塗工ができないという現象が多々生じることを認めた。なお、本発明でいうシロップとは、粘着剤用組成物のもとになるモノマーとポリマーおよび/または部分重合物とが混合された液状の物質をいう。
本発明は、上記のような従来技術の欠点を解消した、すなわち塗工適性に優れる難燃性熱伝導組成物、及びこれを使用した熱伝導性や難燃性に優れる難燃性熱伝導シートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討の結果、分子内に酸性の官能基を有するモノマーおよび/またはポリマーに対して、光重合開始剤、金属水酸化物、酸価が特定の分散剤を配合した組成物にすることにより、塗工適性に優れる難燃性熱伝導組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。なお、ここでいうポリマーは単一構成の単量体からなる重合体(ホモポリマー)と共重合体(コポリマー)を含めて意味する。
すなわち本発明は、(メタ)アクリル系ポリマーと、金属水酸化物と、分散剤を含み、かつ、溶剤を含まない難燃性熱伝導組成物において
a)酸性の官能基を含有した、重量平均分子量が100,000以上の(メタ)アクリル系ポリマーと、
b)(メタ)アクリル系モノマーと
c)光重合性開始剤と、
d)金属水酸化物を含有し、
e)酸価が20mgKOH/g以上である分散剤
を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、難燃性熱伝導組成物を提供できる。さらに、それを使用した熱伝導率、接着性および難燃性に優れた難燃性熱伝導シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による熱伝導性シートの一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成物において、a) 酸性の官能基を含有した、重量平均分子量が100,000以上の(メタ)アクリル系ポリマーは、炭素数が1〜18個のアルキル基を有する (メタ)アクリル系モノマーまたは/および(メタ)アクリル酸モノマーとを重合して得られるポリマーである。
【0010】
実際の難燃性熱伝導組成物の製造では、最初の塗料化の段階で、シロップと呼称するモノマーを含有させた系から重合させたポリマーを含む組成で製造されることが多い。また、一般的な(メタ)アクリル系ポリマーの製造時には、主となる(メタ)アクリル系モノマー以外にも、重合体の凝集力やシートでの接着力を上げるために、(メタ)アクリル酸といった、官能基として酸性基であるカルボキシル基含有モノマーも共重合されていることが多い。(以下、酸性基の代表としてカルボキシル基を取り上げる)そうしたカルボキシル基を含有したポリマーと、一般的に難燃性を有する金属水酸化物を配合すると、両者の間で相互作用が働いて塗料の増粘が起こるということは前述した通りである。
この増粘現象の原因を明らかにしようと、(メタ)アクリル系ポリマー、(メタ)アクリル系モノマー、光重合開始剤、難燃性熱伝導電気絶縁粒子、特定の分散剤を配合した組成物について種々実験や試作して検討したところ、次のことがわかった。
(1)官能基としてカルボキシル基を含有するポリマーが存在すると増粘する。
(2)電気絶縁性粒子として金属酸化物を用いたときには生じないが、金属水酸化物を用いたときに増粘する。
(3)分散剤の極性基が塩基系であるときは増粘するが、酸系の場合は増粘しない。
【0011】
これらの事象の原因は詳細ではないが、次のように考えられる。金属水酸化物の表面とポリマー中のカルボキシル基とが何らかの相互作用を有した状態で、いわば系の全体の分子が架橋した巨大な一体化した分子のようになって増粘する。金属水酸化物の、カルボキシル基との相互作用をもつ活性点は塩基性と思われる。それゆえ、極性基が酸系の分散剤は、金属水酸化物の表面を覆うことでカルボキシル基をもつポリマーとの直接な相互作用を防止する。
【0012】
この推察に基づいて、塩基性を中和する量の尺度となる酸価の異なる分散剤を使用し、種々検討して本発明にいたったものである。すなわち、酸価が20mgKOH/g(該当物質g当りで、20mgのKOHが有する塩基性OHの量を中和できる)以上である分散剤を用いることで難燃性熱伝導組成物の製造工程中での増粘現象は防止できることを見出したものである。酸価が20mgKOH/g以上であれば問題ない。この値以下の分散剤でも、理論的には金属水酸化物の塩基性活性点を覆うに十分な酸価量がトータルとしてあればよいので、分散剤の添加量を増加して増粘現象は防止できる。しかし、多く添加すると耐熱性が阻害され、高温下での接着性が低下しやすくなるので金属水酸化物100重量部に対して10重量部以下で効果が出る酸価が20mgKOH/g以上の分散剤が好ましい。
【0013】
本発明の組成物において、(メタ)アクリル系ポリマーのもとになる(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル又はその誘導体が挙げられる。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、アルキル基の炭素数が1〜18のものが使用でき、具体的には、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸2エチルヘキシル等である。上記モノマーは、1種又は2種以上を使用できる。
本発明の難燃性熱伝導組成物において、a)成分の(メタ)アクリル系ポリマーの重合時または/およびb)成分の(メタ)アクリル系モノマーについて、官能基を有する共重合性モノマーを加えてもよい。上記官能基含有共重合性モノマーとしては、例えば、重合性の二重結合と、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、置換アミノ基、エポキシ基等の官能基を分子内に有するモノマーであり、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸2ヒドロキシエチル、アクリル酸2ヒドロキシプロピル、アクリル酸2ヒドロキシブチル、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド等であるが、少なくともa)成分の(メタ)アクリル系ポリマーには酸性の官能基を有していることが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸等の酸性基含有モノマーが共重合されていることが好ましい。また、これらの官能基含有モノマーも1種又は2種以上を使用できる。上記官能基含有モノマーの含有量は、重合性樹脂材料100重量部の全モノマーの1〜30重量部が好ましく、さらに好ましくは1〜15重量部である。
本発明の組成物において、c)成分の光重合開始剤としては、アセトフェノン類、べンゾフェノン類、ケタール類、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物、2,3−ジアルキルジオン化合物、ジスルフィド化合物、チウラム化合物、フルオロアミン化合物等を使用できる。これらの光重合開始剤は1種又は2種以上を使用できる。上記光重合開始剤の使用量は特に限定されないが、樹脂成分である(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系モノマーの合計100重量部に対して、0.01〜3重量部、好ましくは0.1〜2重量部とすればよい。
【0014】
本発明の組成物において、d)成分である金属水酸化物は、熱伝導性が高く、電気的に絶縁性かつ、難燃性の観点から水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムが好ましい。
本発明で使用するd)成分である金属水酸化物は、樹脂成分である(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系モノマーの合計100重量部に対して80〜500重量部、好ましくは100〜400重量部である。80重量部未満であると、高い熱伝導性が発揮できず、難燃性の発現も困難となる。500重量部を越えると、シートの粘着力が低下し、また柔軟性がなくなり、対象部材への追従性の低下が予想されるため、好ましくない。また、JIS K7201−2で酸素指数21以上を達成する難燃性を発揮させるような含有量は適宜設計すべきである。
【0015】
本発明で使用するd)成分の金属水酸化物の平均粒径は、特に限定されないが、0.5〜50μmが好ましく、更に好ましく1〜30μmである。金属水酸化物は、1種又は2種以上の粒子を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明のe)成分である分散剤は、酸価が20mgKOH/g以上である炭化水素鎖を主体とした疎水基を主鎖に有して、親水性の極性基を主鎖あるいは側鎖に有する、両親媒性の化合物であり、本特許では酸価を有することを特徴としているので、極性基として、例えば、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基といった酸性官能基を有していることが多い。このような分散剤を使用すると、金属水酸化物の活性点を覆うと同時に、塗料を配合した際の分散性が改善され、さらに本発明記載の配合量において適度な流動性を発現するため、良好な塗工適性を付与できる。
用いられる分散剤として例えば、高分子系の分散剤としては、ポリエステル系、ポリウレタン系、アクリル系、ポリエーテル系等およびそれらの複合物系があり、極性官能基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、カルボン酸エステル基、リン酸エステル基、スルホン酸エステル基、カルボン酸塩、リン酸塩、スルホン酸塩、ヒドロキシル基、アミノ基、及びアミド基等の極性基が挙げられるが、少なくともカルボキシル基、リン酸基、リン酸エステル基、スルホン酸基のように酸性の官能基を有し、分散剤の酸価が20mgKOH/g以上であることが好ましい。低分子系の分散剤としては、脂肪酸系、アルキルベンゼン系、スルホン酸系、リン酸系、コハク酸系等のアニオン系界面活性剤が挙げられるが、塗料安定性およびシート保存下でブリードアウト等の問題から高分子系の分散剤の方がより好ましい。具体的には、ビックケミー社のDIPERBYKシリーズ、ルーブリゾール社のSOLSPERSEシリーズ、SOLPLUSシリーズ、ウイルバー・エリス社のEFKAシリーズ、味の素ファインテクノ社のアジスパーシリーズ等を用いることができる。
【0017】
分散剤の種類と配合量は、d)成分の金属水酸化物の種類、粒子径等によって適宜選択されるが、分散剤の配合量は、d)成分の金属水酸化物100重量部に対して0.1〜10重量部、好ましくは0.3〜5.0重量部である。0.1重量部未満では、充分な分散性が得られず、10重量部を超えると、高温下での接着性が低下し易く、粘着力や保持力への影響が懸念される。
【0018】
上記難燃性熱伝導組成物には、 架橋剤を含ませてもよい。上記架橋剤としては、例えば、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、トリプロピレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。上記架橋剤の使用量は、樹脂成分である(メタ)アクリル系ポリマーと(メタ)アクリル系モノマーの合計100重量部に対して、0.05〜2重量部とすればよい。
上記難燃性熱伝導組成物には、必要に応じ粘着付与剤を添加しても良い。粘着付与剤としては、テルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂、石油系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。
本発明の難燃性熱伝導組成物の調整においては、a)成分とb)成分を含むシロップにe)成分の分散剤を攪拌機を用いて十分混合した後、c)成分を配合し、d)成分及びその他の添加剤を順次配合することが好ましい。また、塗料配合及び塗布時の作業性を考慮して、a)成分、b)成分の添加量を適宜調整して最適な粘度に設定すると良い。
【0019】
上記攪拌機は特に限定されないが、例えば、ディスパー、ホモミキサー、リボンミキサー、パドルミキサー、プラネタリミキサー、ロールミル、ニーダー、ボールミル等を用いることができる。
【0020】
本発明における難燃性熱伝導シートは、シリコーン樹脂等で離形層を有した樹脂フィルム基材上に前記組成物を塗布し、紫外線などを照射して、光重合物からなる難燃性熱伝導シートとして作製される。前記樹脂フィルムは、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、脂環式ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、トリアセチルセルロース系樹脂等の樹脂材料を、フィルム状又はシート状に加工したものを用いることができる。上記樹脂材料をフィルム状又はシート状に加工する方法としては、例えば、押し出し成形、カレンダー成形、圧縮成形、射出成形、上記樹脂材料を溶剤に溶解させてキャスティングする方法が挙げられる。上記基材の厚さは、通常10〜50μmで程度である。
本発明における難燃性熱伝導シートの作製においては、上記樹脂フィルム基材上に、前記難燃性熱伝導組成物の塗布を行い、紫外線などを照射して、光重合させる。紫外線の照射は、重合時の酸素による重合阻害を抑制するため、窒素ガス・アルゴンガス等の不活性雰囲気中で行うか、ポリエチレンテレフタレートなどの紫外線透過可能な樹脂フィルムによって被覆させ、外界の酸を遮断した状態で行うのが好ましい。上記重合に用いる光源としては、特に限定されないが、ブラックライトランプ、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等を用いることができる。
本発明の難燃性熱伝導性シートの粘着力は、180°ピール試験による粘着力が1.0N/10mm以上であることが好ましい。1.0N/10mm未満であると、例えば、
発熱する電子部品等とヒートシンクや放熱フィンといった放熱部材との間で剥離が生じる懸念がある。また、高温環境下の保持力についても、保持力が低いと同様の懸念があるため、好ましくない。
本発明の難燃性熱伝導性シートの熱伝導率は、熱伝達性を十分発現させるために、0.5W/m・K以上、好ましくは0.7W/m・Kである。難燃性は、大気中での燃焼を抑制するために酸素指数21以上であることが好ましい。
【実施例】
【0021】
以下本発明の理解を容易にするため、具体的な実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は実施例に記載されたもののみに限定されるものではない。以下、「重量部」は「部」、「重量%」は「%」と表示する。
(製造例1)
シロップAの作製:
容量1リットルの四つ口フラスコに、温度計、攪拌プロペラ、冷却管、及び窒素ガス注入管を取り付け、容器内にアクリル酸2エチルヘキシル(以下、2EHA)を450部、アクリル酸(以下、AA)を50部、及び、光重合開始剤として、チバスペシャリティケミカルズ社製の“イルガキュア369”を1.5部計量し、投入した。
容器温度を50℃になるよう調整し、照度5mW/cmのブラックライトを照射しながら30分間重合を行い、シロップAを得た。得られたシロップA中のポリマー分は21%、ポリマー分の重量平均分子量は100万であった。
(製造例2)
シロップBの作製:
製造例1と同様に装置を準備し、容器内に2EHAを500部、光重合開始剤として、イルガキュア369を1.5部計量し、投入した。
容器温度を50℃になるよう調整し、照度5mW/cmのブラックライトを照射しながら30分間重合を行い、シロップBを得た。得られたシロップB中のポリマー分は19%、ポリマー分の重量平均分子量は70万であった。
(製造例3)
シロップCの作製:
イルガキュア369の添加量を15部とした以外は、(製造例1)と同様に重合を行いシロップCを得た。得られたシロップC中のポリマー分は20%、ポリマー分の重量平均分子量は8万であった。
(実施例1)
前記シロップAを24部、(メタ)アクリル系モノマーとして2EHAを14.4部、AAを1.6部、金属水酸化物フィラーとして昭和電工社製の水酸化アルミニウム“ハイジライトH−32”を60部、分散剤としてビックケミー社製の“DISPERBYK−102”(酸価101mgKOH/g)を1.8部、光重合開始剤としてチバスペシャリティケミカルズ社製の“イルガキュア369”を0.12部とを、ディスパーにて攪拌し塗料Aを作製した。
【0022】
次に、基材として片面に離形層を形成したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを準備し、このPETフィルムの離形層側にギャップ間隔を500μmになるよう調整したドクターブレードを用いて、上記塗料Aを塗布した後、上記PETフィルムの離形層が接するように、塗膜の上に上記PETフィルムを貼り合せシートを作製し、続いて、このシートに、365nmに照度ピークを有するブラックライトにて積算光量300mJ/cmの条件で紫外線を照射させ、シートAを作製した。
(実施例2)
充填フィラーを堺化学社製の水酸化マグネシウム“MGZ−1”に変更した以外は、実施例1と同様にして塗料Bを作製した後、実施例1と同様にしてシートBを作製した。
(実施例3)
分散剤として、ルーブリゾール社製の“SOLSPERSE21000”(酸価72mgKOH/g)にした以外は実施例1と同様にして塗料Cを作製した後、シートCを作製した。
(実施例4)
分散剤として、ルーブリゾール社製の“SOLSPERSE3000”(酸価33mgKOH/g)にした以外は実施例1と同様にして塗料Dを作製した後、シートDを作製した。
(比較例1)
分散剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして塗料Eを作製した。作製した塗料Eは配合直後から塗料の増粘が見られ、塗布が困難となりシート化には至らなかった。
(比較例2)
シロップAに代えてシロップBを使用して、(メタ)アクリル系モノマーとして2EHAを16部に変更して、分散剤を使用しなかった以外は実施例1と同様にして塗料Fを作製した後、シートEを作製した。
(比較例3)
前記シロップAを30部、(メタ)アクリル系モノマーとして2EHAを27部、AAを3部、フィラーは昭和電工社製の窒化ホウ素“ショウビーエヌUHP−1”を40部、光重合開始剤として“イルガキュア369”を0.18部にした以外は実施例1と同様にして塗料Gを作製した後、シートEを作製した。
(比較例4)
分散剤をリーブリゾール社製の“SOLSPERSE 71000”(酸価なし)にした以外は、実施例1と同様にして塗料Hを作製した。作製した塗料は配合直後から塗料の増粘が見られ、塗布が困難となりシート化には至らなかった。
(比較例5)
シロップAを使用しないで、(メタ)アクリル系モノマーとして2EHAを36部、AAを4部にした以外は実施例1と同様にして、塗料Iを作製した後、シートGを作製した。
(比較例6)
分散剤を、ビックケミー社製の“DISPERBYK−102”に代えて“SOLSPERSE 32000”(酸価15mgKOH/g)にした以外は実施例1と同様にして塗料Jを作製した。作製した塗料は配合直後から塗料の増粘が見られ、塗布が困難となりシート化には至らなかった。
(比較例7)
シロップAに代えて、シロップCを使用した以外は実施例1と同様にして塗料Kを作製した後、シートHを作製した。
【0023】
おもな特性の評価方法と判定基準は以下の通りである。
(塗料安定性)
作製した塗料の粘度を芝浦システム社製のB型粘度計“ビスメトロンVS−A1”で塗料攪拌直後及び、25℃の雰囲気下で24時間放置後の粘度を測定して、攪拌直後の粘度に対し24時間放置後の粘度の変化率から判定した。
粘度変化率(%)=24時間放置後塗料粘度/攪拌直後塗料粘度 ×100
粘度変化率が150%を超えると塗工中に塗料が凝集して作業ができない。
○:粘度変化率150%以内
×:粘度変化率150%以上
(粘着力)
作製したシートに厚さ50μmのPETを片面の粘着層に裏打ちしたものを、幅25mm×長さ250mmにカットし、SUS304板に重さ2kgのローラーにて速度300mm/分で1往復圧着し、24時間放置後180°ピール試験を剥離速度300mm/分にて行った。
(保持力)
作製したシートに厚さ50μmのアルミニウム箔を片面の粘着層に裏打ちしたものを、SUS304板に面積が25mm×25mmになるよう、重さ5kgのローラーにて速度300mm/分で1往復圧着し、24時間室温放置後、80℃恒温槽にて10分間放置した後、1kgfの荷重をかけ、24時間後のズレ距離及び落下した場合は落下時間を測定した。
(熱伝導率)
作製したシートを、幅50mm×長さ150mmにカットし、京都電子工業社製の迅速熱伝導率計“QTM−500”で測定した。
(難燃性)
JIS K7201−2(プラスチック−酸素指数による燃焼性の試験方法)に基づき、燃焼性試験を実施した。酸素指数とは、材料が燃焼を持続するのに必要な最低酸素濃度の指標であり、基本的には酸素指数が21以上であれば、大気中で燃焼を維持することができず難燃性が高いと判断できる。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1、2比較例1〜7で得られた塗料の構成とシートの特性について表1に記した。表1の結果から、実施例1〜4では、組成中に酸性の官能基を含有する(メタ)アクリル系部分ポリマーを含有していても、本発明で規定した酸価を有する分散剤を添加することにより、塗料の安定化をもたらし、かつシート化を行った際に粘着力、保持力、熱伝導率といった特性を維持しつつ難燃性を有するシートを作製できたことがわかる。
【0026】
比較例1では、分散剤を添加していないために、塗料中でシロップ中のポリマーの酸性官能基と水酸化アルミニウムの相互作用により塗料が増粘した。また、比較例4では分散剤を添加したものの、分散剤が酸価を有していないために分散安定性に寄与することなく塗料が増粘した。また、比較例6では、分散剤を添加したものの、分散剤の酸価が不十分なので塗料の増粘抑制効果が不十分であった。従って、比較例1、4及び6はシート化に至らなかった。
【0027】
比較例7は、増粘現象はなかったがシート中の(メタ)アクリル系部分ポリマーの分子量が10万未満のために凝集力が不足しており、保持力試験にて落下が見られた。
【0028】
比較例2では、塗料中には樹脂として、アクリル酸を含まない2EHAのホモポリマーおよびモノマーのみを用いたので、分散剤を添加しなくても塗料の安定性は問題なかったが、シート化させた際に、極性官能基を含有していないので、粘着力が低くなった。また、保持力試験において、粘着面のズレが生じていた。これらの問題は実際に製品に展開した際に、剥がれが生じるといった不具合が発生する懸念があり、問題である。比較例3では、フィラーとして窒化ホウ素を用いたために、難燃性が発現していなかった。比較例5では、(メタ)アクリル系ポリマーを組成中に含有していないために、シート化時の架橋が不十分なために、保持力試験にて問題が生じていた。
【符号の説明】
【0029】
20 基材付き難燃性熱伝導シート
21,22基材
23 難燃性熱伝導シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル系ポリマーと、(メタ)アクリル系モノマーと、金属水酸化物と、分散剤を含み、かつ、溶剤を含まない難燃性熱伝導組成物において、
前記(メタ)アクリル系ポリマーが、酸性の官能基を含有し、重量平均分子量が100,000以上であり、かつ、前記分散剤が20mgKOH/g以上の酸価を有することを特徴とする難燃性熱伝導組成物。
【請求項2】
前記金属水酸化物が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムから選ばれた少なくとも1種類を含む請求項1に記載の難燃性熱伝導組成物。
【請求項3】
前記難燃性熱伝導組成物において、前記金属水酸化物が、(メタ)アクリル系ポリマーと、(メタ)アクリル系モノマーの合計100重量部に対して、80〜500重量部含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の難燃性熱伝導組成物。
【請求項4】
前記難燃性熱伝導組成物において、分散剤が、前記金属水酸化物に対して、0.1〜10重量部含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の難燃性熱伝導組成物。
【請求項5】
前記難燃性熱伝導組成物が、光重合開始剤をさらに含み、紫外線を照射されることで重合、硬化されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性熱伝導シート。
【請求項6】
前記熱難燃性伝導組成物の熱伝導率が、0.5W/m・K以上で、酸素指数が、21以上であることを特徴とする請求項5に記載の難燃性熱伝導シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−184644(P2011−184644A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53954(P2010−53954)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】