説明

難着氷性または易着氷除去性の塗料組成物、塗装方法、およびその評価方法

【課題】寒冷地域における各種構造物の物体表面に塗膜を形成した場合に、塗膜を形成した物体表面が実環境下で長期間に渡って着氷を抑制する難着氷性あるいは着氷しても簡単に除氷できる易着氷除去性を維持する塗料組成物を提供する。
【解決手段】 物体表面に塗膜を形成することにより前記物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくする塗料組成物として、基材樹脂と強化粒子とを含む塗料組成物を提供する。この塗料組成物は、基材樹脂としてフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを、強化粒子としてシリコーンゴム微粒子と、シリコーンゴム微粒子表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーンゴム表面改質微粒子とのうちの少なくとも1つの微粒子とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種構造物など物体表面への着氷を抑制するまたは物体表面に着氷しても簡単に除去する塗料組成物、塗装方法、およびその評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、着氷海域を航行する船舶や寒冷地域における電気通信施設、道路交通標識、信号機、地熱発電施設、自動車などの各種構造物の物体表面に氷が付着することにより色々な問題が発生している。そこで、寒冷地域における各種構造物の物体表面への着氷を防止する方法として、「着氷させない」(以下、非着氷性と称す)、「着氷を抑制する」(以下、「難着氷性」と称す)、「着氷しても簡単に除氷できるようにする」(以下、「易着氷除去性」と称す)などの方法が提案されている。
【0003】
このうち、各種構造物などの物体表面に「着氷させない」という考えは理想的な着氷防止方法といえる。しかしながら、その具体的手段となると電熱パイプに代表されるような物体表面を加熱する方式に頼らざるを得ない。そのためこの方法では、エネルギーコストがかさむことによる経済的負担が大きいという新たな問題が発生する。
【0004】
そのため、各種構造物などの物体表面への着氷を防止する方法としては、物体表面を「難着氷性」にするあるいは物体表面を「易着氷除去性」にする方法が実用的である。そこで、上記の物体表面に「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」という機能を付与する方法としては、物体表面に「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」を有する膜を形成することにより実現しようとする塗膜技術(または塗装技術)の開発が精力的に行われている。
【0005】
ここで、従来より塗膜に用いる塗料組成物として、例えば、バインダー用樹脂と撥水性微粒子とを混合した塗料組成物が提案されている。この塗料組成物のバインダー用樹脂としては、例えば、溶剤可溶型フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリルシリコーン樹脂が用いられており、特に、溶剤可溶型フッ素樹脂やアクリルシリコーン樹脂などが多く用いられている。一方、この塗料組成物の撥水性微粒子としては、例えば、フッ素樹脂粉末(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)、シリコーンレジン系粉末、撥水性シリカ粉末、フッ化グラファイト、フッ化ピッチなどが用いられている。
【0006】
ところで、上記説明した塗装組成物を用いて寒冷地域における各種構造物の物体表面に「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」という機能を付与する方法は、基本的には、物体表面に撥水性に優れる塗膜を形成し、それにより物体表面の表面自由エネルギーを極力小さくして、水との親和性を最小化することにより物体表面を撥水性に改質するという考えに基づいている。
【0007】
また、塗膜を形成した物体表面の特性の「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」を評価する方法として、塗膜形成直後の物体表面の撥水性能を調べるために水を物体表面に滴下して接触角を測定する「水接触角」を測定する方法(例えば、特許文献1参照)、あるいは、「水接触角」の測定に加えて更に、物体表面に水滴を落とし、水滴を凍結させて得られる氷の付着力(着氷付着力)を測定する方法(例えば、特許文献2参照)などが主に用いられてきている。
【特許文献1】特開平10−120941号公報
【特許文献2】特開平11−29722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記説明したように、各種構造物の物体表面に塗膜を形成することにより物体表面に「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」の性能を付与する技術は、従来より数多く提案されている。また、各種構造物の物体表面に塗膜形成直後の塗膜の「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」の評価方法として、例えば、「水接触角」を用いて「難着氷性」を評価する方法または、「水接触角」と「着氷付着力」を用いて「難着氷性」と「易着氷除去性」を合わせて評価する方法が利用されてきている。
【0009】
しかしながら、上記説明した塗装組成物を用いて寒冷地域における各種構造物の物体表面に「難着氷性」や「易着氷除去性」を付与したい場合に、塗膜形成直後の塗膜の「水接触角」または「水接触角」を測定してその塗膜の「難着氷性」や「易着氷除去性」を評価するのは危険である。なぜなら、塗膜は、実環境下を模擬した各種環境試験下に長期間晒されると低下することが知られているからである。例えば、水浸漬試験、屋外暴露試験、促進劣化試験後の塗膜の「水接触角」と「着氷付着力」は塗膜形成直後の性能に比べて低下する例が多く報告されていることから明らかである。そのため、塗膜形成時に塗膜が「難着氷性」や「易着氷除去性」を有していても、その性能が実環境下で長期間維持することを断定することは難しい。
【0010】
しかしながら、寒冷地域における各種構造物の物体表面に「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」を付与することは社会的ニーズである。そのため、実環境下で長期間に渡って塗膜が「難着氷性」あるいは「易着氷除去性」を有する塗料組成物の開発が強く望まれている。また、塗料組成物の実環境下での長期安定性を精度良く予測する評価方法も強く望まれている。
【0011】
本発明は、上記説明された従来技術の問題点を解決することを出発点としてなされたものである。その目的は、寒冷地域における各種構造物の物体表面に塗膜を形成した場合に、その塗膜が長期間に渡って「難着氷性」および「易着氷除去性」の性能を有する塗料組成物およびその塗装方法を提供することである。また本発明の別の目的は、塗料組成物を用いて形成された塗膜を寒冷地域で使用した場合に、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の長期間に渡る耐久性を精度良く予測することができる評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る一実施形態の塗料組成物は、以下の構成を有する。すなわち、物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように前記物体表面に塗膜を形成するための塗料組成物であって、フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーと、シリコーンゴム微粒子およびシリコーンゴム微粒子の表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーンゴム表面改質微粒子のうちの少なくとも1つの微粒子と、を含むことを特徴とする。
【0013】
ここで例えば、前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーは、ラジカル重合性フッ素樹脂と、ラジカル重合性ポリシロキサンと、アルコキシシリル含有モノマーと、水酸基含有モノマーと、架橋剤であるイソシアネート化合物とを用いて形成されることをが好ましい。
【0014】
ここで例えば、前記少なくとも1つの微粒子がシリコーンゴム微粒子であり、前記シリコーンゴム微粒子は前記塗料組成物中に前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分に対して10〜70重量%の割合で含まれていることが好ましい。
【0015】
ここで例えば、前記シリコーンゴム微粒子は、所定の平均粒径を持つシリコーンゴム微粒子または異なる平均粒径を持つ2種類以上のシリコーンゴム微粒子の混合物であることが好ましい。
【0016】
ここで例えば、前記少なくとも1つの微粒子がシリコーンゴム表面改質微粒子であり、前記シリコーンゴム表面改質微粒子は前記塗料組成物中に前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分に対して10〜70重量%の割合で含まれていることが好ましい。
【0017】
ここで例えば、前記シリコーンゴム表面改質微粒子は、所定の平均粒径を有するシリコーンゴム微粒子または異なる平均粒径を有する2種類以上のシリコーンゴム表面改質微粒子の混合物であることが好ましい。
【0018】
ここで例えば、前記少なくとも1つの微粒子がシリコーンゴム微粒子とシリコーンゴム表面改質微粒子との混合物であり、前記混合物が前記塗料組成物中に前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分に対して10〜70重量%の割合で含まれていることが好ましい。
【0019】
ここで例えば、前記シリコーンゴム微粒子が、所定の平均粒径を持つシリコーンゴム微粒子、または異なる平均粒径を持つ2種類以上のシリコーンゴム微粒子の混合物であり、前記シリコーンゴム表面改質微粒子が、所定の平均粒径を有するシリコーンゴム微粒子、または異なる平均粒径を有する2種類以上のシリコーンゴム表面改質微粒子の混合物であることが好ましい。
【0020】
また本発明の塗料組成物の評価方法は以下の構成を有する。すなわち、物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように前記物体表面に塗膜を形成する塗料組成物の評価方法であって、前記塗膜が使用される環境を模擬した環境試験に前記塗膜を晒す工程と、前記環境試験に晒された後の塗膜について、前記塗膜の着氷を抑制する難着氷性と着氷しても除氷しやすい易着氷除去性とを評価するための複数の測定試験を実施する工程と、前記複数の測定試験により得られる各測定値に基づいて判断される総合評価が予め決められた評価基準を満たすか否かによって、前記環境試験に晒された後の塗膜の前記難着氷性と前記易着氷除去性とを総合評価する評価工程と、を有することを特徴とする。
【0021】
ここで例えば、前記環境試験は、前記塗膜を水中に所定期間浸漬させる水浸漬試験と、前記水浸漬試験の後の前記塗膜を屋外の自然環境に所定期間晒す屋外暴露試験とを含むことが好ましい。
【0022】
ここで例えば、前記環境試験では、前記水浸漬試験と前記屋外暴露試験とを1サイクルとするサイクルを所定のサイクル回数だけ繰り返すことが好ましい。
【0023】
ここで例えば、前記複数の測定試験は、前記環境試験後の塗膜の水滴滑落角、水接触角、着氷付着力、着氷面積率、着氷量および撥水性の測定を含むことが好ましい。
【0024】
ここで例えば、前記評価工程では、各測定試験ごとに、測定された測定値を予め決められた評価基準に従って等級分けして等級値を算出することが好ましい。
【0025】
ここで例えば、前記評価工程では、前記各測定試験ごとに算出される前記等級値が、前記環境試験後の塗膜の前記「難着氷性」能と前記「易着氷除去性」能とを総合評価する総合評価基準のどの基準を満たすかを判別することにより、前記環境試験に晒された後の塗膜を総合評価することが好ましい。
【0026】
また本発明の塗装方法は以下の構成を有する。すなわち、物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように前記物体表面へ塗料組成物の塗膜を形成する塗装方法であって、物体表面に下塗り塗料を塗って下塗り層を形成する工程と、前記下塗り層の上に中塗り塗料を塗って中塗り層を形成する工程と、前記中塗り層の上に上記記載の塗料組成物を用いて中塗り層を形成する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、寒冷地域における各種構造物の物体表面に塗膜を形成した場合に、その塗膜が長期間に渡って「難着氷性」および「易着氷除去性」の性能を有する塗料組成物およびその塗装方法を提供することができる。また、本発明によれば、塗料組成物を用いて形成された塗膜を寒冷地域で使用した場合に、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の長期間に渡る耐久性を精度良く予測することができる評価方法を提供することができる。
【0028】
そのため、本発明の塗料組成物を用いて着氷海域を航行する船舶や寒冷地域における電気通信施設、道路交通標識、信号機、地熱発電施設、自動車などの各種構造物の物体表面に塗膜を形成すると、船舶をはじめとする各種構造物への着氷が抑制されるとともに仮に着氷しても簡単な作業で除氷することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
[特徴]
本発明では、寒冷地域での各種構造物の物体表面に「難着氷性」および「易着氷除去性」を有する塗膜を形成した場合に、その塗膜性能の長期耐久性を精度良く予測できる塗膜の実用性評価方法を見出すことができた。そこで、本発明では、塗膜の実用性評価方法を適用して、寒冷地域の各種構造物の物体表面に塗膜を形成した場合でも塗膜の「難着氷性」および「易着氷除去性」が実環境下で長期間に渡って保持されると予測される塗料組成物を見出すことができた。以下、本発明の塗膜の実用性の評価方法と本発明の塗料組成物の概要を説明する。
【0030】
まず、本発明の塗膜の実用性評価方法を説明すると、塗膜が使用される環境を模擬した環境試験に塗膜を晒す。次に、環境試験に晒された後の塗膜について、塗膜の着氷を抑制する「難着氷性」と着氷しても除氷しやすい「易着氷除去性」とを評価するために複数の測定試験を実施し、各測定試験ごとに、測定された測定値を予め決められた評価基準に従って等級分けして等級値を算出する。最後に、各測定試験ごとに算出される等級値が、環境試験後の塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」とを総合評価する総合評価基準のどの基準を満たすかを判別する。このようにして、本発明の塗膜の実用性評価方法では、環境試験に晒された後の塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の実用性を総合評価することができる。
【0031】
ここで、上記説明した本発明の塗膜の実用性評価方法を一例をあげて具体的に説明すると、環境試験では、塗膜を水中に所定期間(例えば1ヶ月)浸漬させる水浸漬試験と、水浸漬試験の後の塗膜を屋外の自然環境に所定期間(1ヶ月)晒す屋外暴露試験とを1サイクルとするサイクルを所定サイクル(例えば、6サイクル、合計12ヶ月)繰り返して、塗膜を劣化させる。次に、環境試験後の塗膜の測定試験では、塗膜の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」の6つの性能を測定する。そして、各測定試験ごとに測定された測定値を予め決められた評価基準に従って、例えば、5等級(5,4,3,2,1)に分類する。例えば、「水滴滑落角20度以下」の評価基準を「5(等級)」と予め規定しておくと、「水滴滑落角」が19度の測定値は、評価基準「5」に分類される。次に、各測定試験ごとに等級分けされた各等級値の等級を予め決められた評価基準に従って等級分けし、総合評価する。例えば、6つの測定試験の全てで評価基準「5」が得られた場合の塗膜の総合評価基準を「●:実用性が極めて高い」(塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後も極めて高いレベルで保持される)と規定しておくと、6つの測定試験のそれぞれで全て評価基準「5」が得られた場合は、総合評価基準「●」に分類される。その結果、本発明の塗膜の実用性評価方法によれば、上記説明した総合評価を用いることにより、塗膜を寒冷地域で使用した場合の塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の長期間に渡る耐久性を精度良く予測することができる。
【0032】
次に、本発明の塗料組成物の概要を説明する。本発明では、各種塗料組成物とその塗膜を作製し、作製した塗膜について上記説明した塗膜の実用性評価方法を適用して各種塗料組成物の評価を実施した。その結果、寒冷地域の各種構造物の物体表面に塗膜を形成した場合でも塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」とが実環境下で長期間に渡って保持されると予測される本発明の塗料組成物を見出すことができた。得られた本発明の塗料組成物は、基材樹脂と強化粒子とから構成されるものであり、基材樹脂にフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを、強化粒子にシリコーンゴム微粒子、シリコーンゴム微粒子表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーンゴム表面改質微粒子またはその両方の微粒子を含むことを特徴としている。
【0033】
特に、本発明の塗料組成物は、強化粒子が基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分)に対して10〜70重量%の割合で含まれる場合に優れた性能を示すものである。また、強化粒子のシリコーンゴム微粒子またはシリコーンゴム表面改質微粒子は、平均粒径が数〜数十μmであり、これらの微粒子を単独あるいは混合して使用することができる。なお、基材樹脂のフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーとは、ラジカル重合性フッ素樹脂と、ラジカル重合性ポリシロキサンと、アルコキシシリル含有モノマーと、水酸基含有モノマーと、架橋剤のイソシアネート化合物から形成されたものである。
【0034】
本発明の塗料組成物は、溶剤に分散させて分散液の形で刷毛塗りで塗装したり、あるいは、缶などに本発明の塗料組成物を貯蔵し、圧縮ガスを用いてスプレー塗装してもよい。また本発明の塗料組成物を物体表面への着氷を抑制するまたは物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように物体表面へ塗料組成物の塗膜を形成する場合には、物体表面に直接塗膜を形成しても良いし、物体表面の上に予め別の目的の塗料で下地の塗膜を形成してからその上に本発明の塗料組成物による塗膜を重ねて形成してもよい。下地の塗膜を形成する目的は様々であるが、一例を示せば、物体表面の錆止め、平滑化、着色などである。
【0035】
本発明の塗料組成物を例えば、船舶表面への着氷の抑制するまたは船舶表面に着氷した氷を除氷しやすくするように使用する場合の一例を示すと、下塗り塗料として、例えば、変性エポキシ樹脂塗料を用いて下塗り層を形成し、次に、下塗り層の上に中塗り塗料として、例えば、ポリウレタン系塗料を用いて中塗り層を形成し、最後に中塗り層の上に本発明の塗料組成物を用いて上塗り層を形成すればよい。なお、上記の例は一例であり、塗膜を必要とする構造物に応じて、下塗り層や中塗り層に用いる塗料の種類や層数を変更することができる。また、本発明の塗装組成物を着色して使用したい場合には、必要とする色の顔料を加えて使用してもよい。
【0036】
このように、本発明の塗料組成物を用いて着氷海域を航行する船舶や寒冷地域における電気通信施設、道路交通標識、信号機、地熱発電施設、自動車などの各種構造物の物体表面に塗膜を形成すると、船舶をはじめとする各種構造物への着氷の抑制が可能となるとともに仮に着氷しても簡単な作業で除氷することが可能となる。そのため、本発明の塗料組成物を使用することにより、寒冷地域において船舶を初めとする各種構造物の安全性を高めることができるとともにそれらが作動不全となることによる経済的損失を軽減することができる。
【0037】
次に、上記説明した本発明の塗料組成物、その塗膜方法および塗膜の実用性評価方法について詳細に説明する。以下の説明では、まず、本発明の塗料組成物の基材樹脂を選定する樹脂選定試験と本発明の塗料組成物の強化粒子を選定する強化粒子選定試験を説明する。次に、本発明の塗料組成物の構成成分と最適配合の特徴について説明する。また、最適配合の本発明の塗料組成物の作製方法についても説明する。次に、最適配合の塗料組成物を用いて形成された塗膜の環境試験(長期耐久試験)と環境試験後の塗膜の評価試験について説明する。最後に、本発明の塗料組成物を用いた塗膜の実用性の評価結果について比較例の塗料組成物と比較しながら説明する。
【0038】
[基材樹脂選定試験:図1]
まず本発明の塗料組成物の基材樹脂を選定する基材樹脂選定試験について説明する。本発明では、本発明の塗料組成物を開発するにあたり、最初に基材樹脂選定試験を行い、本発明の塗料組成物に適する基材樹脂を選定することとした。基材樹脂選定試験に用いる樹脂としては、予め選択した樹脂の中から「難着氷性」または「易着氷除去性」を有すると思われる4種類の樹脂として、図1に示すフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマー(R1)、溶剤可溶型フッ素樹脂(R2)、アクリルシリコーン樹脂(R3)、ポリウレタン樹脂(R4)を選択した。選択した樹脂の「難着氷性」は、撥水性の代表特性である「水接触角」を測定する簡易評価を用いて評価した。「水接触角」は、70×150×3.2mmtの試験片を作製し、次に、その表面に各樹脂を塗装し、次に、その塗膜表面に脱イオン水の液滴(5μL)を滴下して自動溶液接触角計(協和界面科学社製CA−W型)を用いて水滴の水接触角を測定して得た。
【0039】
図1に、基材樹脂選定試験結果を示す。図1に示すように、基材樹脂選定試験に用いた4種類の樹脂の「水接触角」は76〜99度と比較的大きかった。そのため選択された4種類の樹脂はそれ自身だけでも優れた「難着氷性」を有すると思われるが、その中では「水接触角」が94〜99度と最も大きかったフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを本発明の基材樹脂として用いることにした。ここで、基材樹脂選定試験により選定されたフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーは、ラジカル重合性フッ素樹脂、ラジカル重合性ポリシロキサン、アルコキシシリル含有モノマー、水酸基含有モノマーより構成され、架橋剤としてイソシアネート化合物を用いて形成された樹脂である。
【0040】
[強化粒子選定試験:図2]
次に、本発明の塗料組成物の基材樹脂に添加する強化粒子を選定する強化粒子選定試験について説明する。上記選択した基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマー)に加えた場合に、基材樹脂の「難着氷性」を向上するのに適した強化粒子を選定することとした。強化粒子選定試験では、基材樹脂に強化粒子を添加して得られる塗料組成物の塗膜の「難着氷性」を「水接触角」で評価した。
【0041】
強化粒子としては、撥水性、衝撃吸収性、耐寒性、紫外線吸収性を有するシリコーン系微粒子を予め選択し、次に、シリコーン系微粒子の中から特に撥水性に優れるものとして、図2に示すシリコーンレジン微粒子P1(三次元網目状に架橋した構造のポリオルガノシルセスキオキサン硬化物)、シリコーンゴム微粒子P2(直鎖状のジメチルポリシロキサンの架橋構造物)、及びシリコーンゴム表面改質微粒子P3(シリコーンゴム微粒子の表面をシリコーンレジンで被覆した微粒子)の3種類を選択して強化粒子選定試験に供した。
【0042】
強化粒子選定試験では、塗料組成物を以下の組成に調製した。すなわち、塗料組成物の構成成分として、基材樹脂であるフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーと、基材樹脂固形分に対して40重量%の強化粒子(シリコーンレジン微粒子P1、シリコーンゴム微粒子P2、シリコーンゴム表面改質微粒子P3のいずれか)と、希釈溶剤(キシレン/酢酸ブチル=1/1)と、硬化剤(架橋剤)のポリイソシアネートとを用いた。塗料組成物の調製は、基材樹脂を分散用容器に仕込み、緩やかに撹拌しながら強化粒子を加えて混合し、次に、希釈溶剤を加えて30分間撹拌し、最後に、硬化剤を加えて混合した。塗料組成物の評価は、基材樹脂選定試験と同様に「水接触角」を用いて行った。
【0043】
図2に、強化粒子選定試験結果を示す。図2より、シリコーンレジン微粒子P1を基材樹脂に添加した場合の「水接触角」は図1に示す基材樹脂の「水接触角」94〜99度と同じであり、シリコーンレジン微粒子を基材樹脂に添加しても「水接触角」は増加しなかった。しかしながら、シリコーンゴム微粒子P2を基材樹脂に添加した場合には「水接触角」は108〜113度に増加し、シリコーンゴム表面改質微粒子P3を基材樹脂に添加した場合には「水接触角」が106〜111度と「水接触角」がそれぞれ増加した。このことから、基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマー)に対する強化粒子としては、シリコーンゴム微粒子P2とシリコーンゴム表面改質微粒子P3が適していることが分かった。そこで、本発明の塗料組成物は、基材樹脂としてフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを、強化粒子としてシリコーンゴム微粒子あるいはシリコーンゴム表面改質微粒子あるいはそれらの混合物を用いることとした。
【0044】
[本発明の塗料組成物の構成成分の配合:図3〜図5]
次に、上記選定した基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマー)と強化粒子(シリコーンゴム微粒子、シリコーンゴム表面改質微粒子またはそれらの混合物)とから構成される本発明の塗料組成物の最適配合について説明する。
【0045】
図3〜図5の実施例1〜36は、本発明の塗料組成物の配合の一例を示すものであり、本発明の塗料組成物は、基材樹脂と強化粒子と希釈剤と硬化剤とから構成され、強化粒子は基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分)に対して10〜70重量%の割合で含まれる点が特徴である。以下、実施例1〜36に示す本発明の塗料組成物の最適配合の構成成分について詳しく説明する。
【0046】
まず、基材樹脂について説明すると、図3に示す実施例1〜12では、基材樹脂として富士化成工業製の常温硬化標準タイプ(商品名ZX−007C)を、図4に示す実施例13〜24では、基材樹脂として富士化成工業製の常温硬化高耐侯性タイプ(ZX−017)を、図5に示す実施例25〜36では、基材樹脂として富士化成工業製の常温硬化高架橋タイプ(ZX−022)を用いた。
【0047】
次に、強化粒子について説明すると、図3〜図5に示す実施例1〜36では、強化粒子としてはシリコーンゴム微粒子とシリコーンゴム表面改質微粒子を単独または混合して用いた。すなわち、シリコーンゴム微粒子として、信越化学工業製の2種類の微粒子A(平均粒径5μm:商品名KMP-597)と微粒子B(平均粒径13μm:商品名KMP-598)を、シリコーンゴム表面改質微粒子として、信越化学工業製の3種類の微粒子C(平均粒径40μm:商品名X-52-875)、微粒子D(平均粒径5μm:商品名KMP-600)、微粒子E(平均粒径30μm:商品名KMP-602)を用いた。また、希釈溶剤としては、キシレン/酢酸ブチル=1/1を用い、硬化剤(架橋剤)のポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアヌレート(商品名:コロネートHX)を用いた。
【0048】
また、図3〜図5では、本発明の塗料組成物の配合は、基材樹脂100に対して各構成成分の配合割合として示されている。例えば、実施例1では、基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分)に対して強化粒子(シリコーンゴム微粒子A)が10、希釈剤が110、硬化剤が20であり、強化粒子は基材樹脂に対して10重量%の割合で含まれている。
【0049】
[比較例の配合:図6]
図6は比較例の塗料組成物の構成成分の配合の一例を示すものであり、比較例1〜7の塗料組成物は、実施例1〜36に示す本発明の塗料組成物と同じ構成成分である基材樹脂と強化粒子と希釈剤と硬化剤とから構成されているが、異なる点は強化粒子の基材樹脂に対する割合である。すなわち、比較例1〜7では、強化粒子は基材樹脂に対して10重量%未満または70重量%より多い割合で含まれており、実施例1〜36に示す本発明の塗料組成物の強化粒子の割合(10〜70重量%の範囲)を外れるものである。
【0050】
一方、比較例8〜12の場合は、実施例1〜36に示す本発明の塗料組成物の基材樹脂と希釈剤と硬化剤の構成成分は同じであり、また強化粒子の基材樹脂に対する割合も10〜70重量%の範囲と同じであるが、異なる点は強化粒子の種類である。すなわち強化粒子として比較例8ではフッ化ピッチ(平均粒径40μm:商品名オグソ―ルFP−S)が、比較例9ではフッ化グラファイト(平均粒径6μm:商品名セフボンCMC)が、比較例10、11ではポリテトラフルオロエチレン(平均粒径7μm:商品名フルオン173J)が、比較例12では撥水性シリカ粉末(平均粒径5μm:商品名NipsilSS-70)が用いられている。
【0051】
[塗料組成物の作製方法]
次に、上記説明した本発明の塗料組成物と比較例の塗料組成物の作製方法の一例について説明する。上記説明した実施例1〜36および比較例1〜12に示される配合による塗料組成物の製造では、主剤と硬化剤とを別々に製造後、使用時に主剤に硬化剤を加えて塗料組成物とした。まず主剤は、基材樹脂としての有機溶剤を含むフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを分散用容器に仕込み、次に、緩やかに撹拌しながら強化粒子を添加して混合し、最後に希釈溶剤(キシレン/酢酸ブチル=1/1)を加えて30分間撹拌(回転数1,200rpm)することにより製造した。一方、硬化剤は、市販のポリイソシアネートを溶剤(酢酸ブチル)で希釈して製造した。
【0052】
[塗膜の環境試験(長期耐久試験)]
次に、上記説明した本発明の塗料組成物と比較例の塗料組成物を試験片上に塗布して塗膜を形成し、得られた試験片を寒冷地域を模擬する環境試験(長期耐久試験)に所定期間晒して塗膜を劣化させる一例について説明する。
【0053】
まず実施例1〜36および比較例1〜12の配合の塗料組成物を試験片へ塗装する方法について説明すると、所定の大きさの試験片に先ず下塗りとして変性エポキシ樹脂塗料を乾燥膜厚で40〜50μmスプレー塗装して24時間放置する。次に、下塗りの上に中塗りとしてポリウレタン系塗料を乾燥膜厚で25〜30μmスプレー塗装して24時間放置する。最後に、中塗りの上に上塗りとして上記説明した実施例1〜36および比較例1〜12に示される配合の各主剤と各硬化剤を混合し撹拌した後、乾燥膜厚で20〜30μmとなるようにアプリケーターで塗装して試験片を作製した。
【0054】
次に、実施例1〜36および比較例1〜12の配合を用いて塗膜を形成した試験片を寒冷地域を模擬する環境試験に所定期間晒して塗膜を劣化させた。すなわち、塗膜の環境試験では、上記説明した下塗り(40〜50μm)+中塗り(25〜30μm)+上塗り(20〜30μm)の三層構造からなる塗膜を形成した試験片を、環境試験として、水浸漬試験1ヵ月+屋外暴露試験1ヵ月を1サイクルとし、これを6回繰り返す6サイクル(合計12ヵ月間)の環境試験で塗膜表面を劣化させた。ここで、水浸漬試験は水温約10〜25℃で試験片を沈め、屋外暴露試験は、気温約1〜35℃で暴露台に試験片を取り付けて実施した。
【0055】
[環境試験後の塗膜の評価:図7〜9]
次に、上記説明した塗膜の環境試験後の実施例1〜36および比較例1〜12の配合の塗膜の性能評価を行った。図7、図8は、環境試験後の実施例1〜36の塗膜に対する「難着氷性」および「易着氷除去性」の耐久性の評価結果である。一方、図9は、環境試験後の比較例1〜12の各塗膜に対する「難着氷性」および「易着氷除去性」の耐久性の評価結果である。以下の説明では、図7〜9を説明するに先だって、環境試験後の塗膜の評価試験について説明し、最後に、図7〜9示す本発明の塗料組成物を用いた塗膜の実用性評価試験結果について比較例塗料組成物と比較しながら説明する。
【0056】
[塗膜の性能評価試験]
まず環境試験後の塗膜の評価試験について説明する。本発明の塗料組成物の「難着氷性」および「易着氷除去性」の耐久性を評価するためには、環境試験後の塗膜の「難着氷性」および「易着氷除去性」の性能を正しく評価しなければならない。そこで、本発明では、塗料組成物の「難着氷性」および「易着氷除去性」を適切に評価する性能評価試験として、環境試験後の塗膜の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」の6つの性能を測定する評価試験を選定し、次に、各性能評価試験で得られた測定値から環境試験後の塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の耐久性を以下に説明する実用性評価評価方法でまとめて評価することとした。
【0057】
すなわち、実用性評価方法では、環境試験に晒された後の塗膜について、塗膜の着氷を抑制する「難着氷性」と着氷しても除氷しやすい「易着氷除去性」とを評価するために「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」の測定試験を実施し、各測定試験ごとに、測定された測定値を予め決められた評価基準に従って5段階に等級分けして等級値を算出する。最後に、各測定試験ごとに5段階で評価された等級値を、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」とを総合評価する総合評価基準のどの基準を満たすかを判別して、塗膜の「難着氷性」および「易着氷除去性」の長期耐久性を総合的に評価する。
【0058】
[水滴滑落角評価試験]
次に、環境試験後の塗膜についての上記説明した6つの評価試験について順次説明する。水滴滑落角評価試験では、環境試験で劣化させた70×200×0.8mmtの試験片の背面に分度器を配し、試験片の端部に50μLの水滴をおき、ハンドルを回転させながら試験片の角度を上げていき、水滴の滑落開始の角度を読み取る方法で「水滴滑落角」を測定した。塗膜の「水滴滑落角」は以下の5段階で評価した。すなわち、水滴が20度以下の角度で最も早く滑落開始する塗膜を超撥水性塗膜と評価し、「水滴滑落角」の評価基準を5とした。以下同様に、撥水性または親水性の塗膜を下記のように評価基準4〜1で評価した。
評価基準 水滴滑落角 塗膜評価
5 20度以下 超撥水性塗膜
4 21〜30度 撥水性塗膜
3 31〜40度 撥水性〜親水性塗膜
2 41〜50度 親水性塗膜
1 51度以上 親水性塗膜
【0059】
[水接触角評価試験]
水接触角評価試験では、環境試験で劣化させた70×150×3.2mmtの試験片に液滴量5μlの脱イオン水を滴下し自動溶液接触角計(協和界面科学社製CA−W型)を用いて「水接触角」を測定した。塗膜の「水接触角」は以下の5段階で評価した。すなわち、「水接触角」が100度以上の塗膜を撥水性塗膜と評価し、「水接触角」の評価基準を5とした。以下同様に、撥水性または親水性の塗膜を下記のように評価基準4〜1で評価した。
評価基準 水接触角 塗膜評価
5 100度以上 撥水性塗膜
4 90〜99度 撥水性〜親水性塗膜
3 80〜89度 親水性塗膜
2 70〜79度 親水性塗膜
1 69度以下 親水性塗膜
【0060】
[着氷付着力評価試験]
着氷付着力評価試験では、環境試験で劣化させた70×150×3.2mmtの試験片の上に、硬質塩化ビニルビニル製リング(22mmΦ×22mmh、内径16mmΦ)を置き、この中に水を4ml入れ、−15℃の低温試験室で5時間氷結させた後、イマダ社製プッシュプルスケールで荷重負荷速度0.15/mmで「着氷付着力」を測定した。塗膜の「着氷付着力」は以下の5段階で評価した。すなわち、「着氷付着力」が1.0kg/cm2以下の最も弱い力で氷が剥がれる塗膜を最も「易着氷除去性」を有する塗膜と評価し、着氷付着力の評価基準を5とした。以下同様に、「着氷付着力」が1.0kg/cm2より大きい塗膜を下記のように評価基準4〜1で評価した。
評価基準 着氷付着力
5 1.0kg/cm2以下
4 1.1〜2.0kg/cm2
3 2.1〜3.0kg/cm2
2 3.1〜4.0kg/cm2
1 4.1kg/cm2以上
【0061】
[着氷面積率評価試験]
着氷面積率評価試験では、環境試験で劣化させた70×150×1.6mmtの試験片を−15℃の低温試験室で5時間放置した後、過冷却水中に10秒間浸漬した時の着氷面積率を測定した。塗膜の「着氷面積率」は以下の5段階で評価した。すなわち、「着氷面積率」が10%以下の塗膜を「難着氷性」の塗膜と評価し、「着氷面積率」の評価基準を5とした。以下同様に、「着氷面積率」が10%より大きい塗膜の難着水性を下記のように評価基準4〜1で評価した。
評価基準 着氷面積率
5 10%以下
4 11〜20%
3 21〜30%
2 31〜50%
1 50%以上
【0062】
[着氷量(残存量)評価試験]
着氷量(残存量)評価試験では、環境試験で劣化させた70×150×1.6mmtの試験片を−15℃の低温試験室で5時間放置した後30度の角度に設置し、過冷却水を100ml/5秒の散水を5回繰り返した後、1.5mの高さより着氷試験片を落下させた時の残存する着氷量を「着氷量(残存量)」として測定した。塗膜の「着氷量(残存量)」は以下の5段階で評価した。すなわち、「着氷量(残存量)」が0.20g以下の塗膜を最も易着氷性の塗膜と評価し、「着氷量(残存量)」の評価基準を5とした。以下同様に、「着氷量(残存量)」が0.21gより大きい塗膜の「着氷量(残存量)」を下記のように評価基準4〜1で評価した。
評価基準 着氷量(残存量)
5 0.20g以下
4 0.21〜0.50g
3 0.51〜1,00g
2 1.01〜2,00g
1 2.00g以上
【0063】
[撥水性評価試験]
撥水性評価試験では環境試験で劣化させた70×150×1.6mmtの試験片を水平に置き、常温で散水した時の水の弾き方を観察した。塗膜の「撥水性」は以下の5段階で評価した。すなわち、散水したとき瞬時に水を弾く塗膜を最も「撥水性」の塗膜と評価し、「撥水性」の評価基準を5とした。以下同様に、塗膜の「撥水性」を下記のように評価基準4〜1で評価した。
評価基準 撥水性
5 瞬時に弾き水滴が残らない
4 弾くが1〜10%水滴が残る
3 弾くが10〜30%水滴が残る
2 弾くが30〜50%水滴が残る
1 弾かず、全面濡れた状態である
【0064】
[塗膜の耐久性の総合評価]
最後に、上記説明した6つの評価試験結果に基づいて、環境試験(長期耐久試験)後の塗膜の「難着氷性」および「易着氷除去性」の耐久性を総合評価した。すなわち、上記説明した6つの評価試験の評価において、6つの評価試験において各評価基準がすべて5であったものを総合評価基準として●(実用性が極めて高い)と総合評価した。●と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に極めて高いレベルで保持されているものである。従って、この塗膜を寒冷地域で使用した場合には、この塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」は、長期間に渡って極めて高いレベルで保持されると予測されるものである。
【0065】
同様にして、6つの評価試験において各評価基準が5または4であったものを総合評価基準として○(実用性が高い)と総合評価した。○と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後も高いレベルで保持されているものである。従って、この塗膜を寒冷地域で使用した場合には、この塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」は、長期間に渡って高いレベルで保持されると予測されるものである。
【0066】
同様にして、6つの評価試験において各評価基準が4または3であったものを総合評価基準として△(実用性が低い)と総合評価した。△と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に低いものである。また、6つの評価試験において各評価基準が3または2であったものを総合評価基準として×(実用性が極めて低い)と総合評価した。×と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に極めて低いものである。
総合評価基準 塗膜の総合評価
各評価基準がすべて5 ●:実用性が極めて高い
各評価基準が5または4 ○:実用性が高い
各評価基準が4または3 △:実用性が低い
各評価基準が3または2 ×:実用性が極めて低い
【0067】
[環境試験の塗膜の評価結果:図7〜9]
次に、実施例1〜36および比較例1〜12に示す配合の塗料組成物を用いて作製した塗膜の環境試験(長期耐久試験)後の塗膜の評価結果について説明する。
【0068】
[実施例の評価結果]
まず、図7、図8を用いて実施例1〜36に示す塗料組成物(図3〜5)により形成された塗膜の環境試験(長期耐久試験)後の評価結果について説明する。
【0069】
図7〜図8に示すように、実施例3、6、10、12、13、15、18、20、24に示す本発明の塗料組成物から形成された塗膜の環境試験後の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」は、各評価基準が全て最高評価の5を示した。そのため、これらの配合の塗料組成物は、総合評価基準として●(実用性が極めて高い)と総合評価した。●と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に極めて高いレベルで保持されているものである。従って、実施例3、6、10、12、13、15、18、20、24に示す本発明の塗料組成物を寒冷地域で使用した場合に、その「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期間に渡って極めて高いレベルで保持されると予測される。
【0070】
一方、実施例1,2、4、5、7〜9、11、14,16,17、19、21〜23に示す本発明の塗料組成物から形成された塗膜の環境試験後の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」は、各評価基準が最高評価の5か2番目の評価の4を示した。そのため、これらの配合の塗料組成物は、総合評価基準として○(実用性が高い)と総合評価した。○と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に高いレベルで保持されているものである。従って、実施例1,2、4、5、7〜9、11、14、16、17、19、21〜23に示す本発明の塗料組成物を寒冷地域で使用した場合に、その「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期間に渡って高いレベルで保持されると予測される。
【0071】
このように、実施例1〜36に示す配合を有する本発明の塗料組成物は、全て総合評価が●(実用性が極めて高い)あるいは○(実用性が高い)であり、環境試験後の塗膜が優れた「難着氷性」および「易着氷除去性」を有するものことがわかった。
【0072】
以上説明したように、本発明の塗膜の実用性評価方法によれば、上記説明した総合評価を用いることにより、塗膜を寒冷地域で使用した場合の塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の長期間に渡る耐久性を精度良く予測することができた。また本発明の塗料組成物は、本発明の塗膜の実用性評価方法において、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に極めて高いレベルまたは高いレベルで保持されていると予測されたものである。ここで、本発明の塗料組成物は、基材樹脂にフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを、強化粒子にシリコーンゴム微粒子、シリコーンゴム微粒子表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーンゴム表面改質微粒子またはその両方の微粒子を含むものである。なお、本発明の塗料組成物は、強化粒子が基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分)に対して10〜70重量%の割合で含まれる場合に、特に優れた性能を示すことがわかった。
【0073】
[比較例の評価結果]
次に、図9を用いて比較例1〜12に示す塗料組成物(図6)により形成された塗膜の環境試験後の塗膜の評価結果について説明する。
【0074】
まず、比較例1〜7の塗料組成物の環境試験後の塗膜の評価結果について説明する。比較例1〜7の塗料組成物は、図6に示すように本発明の塗料組成物と同じ構成成分である基材樹脂と強化粒子と希釈剤と硬化剤とから構成されているが、強化粒子の基材樹脂に対する割合が5〜8重量%または75〜80重量%と本発明の塗料組成物の強化粒子の基材樹脂に対する割合(10〜70重量%の範囲)とは異なるものである。
【0075】
図9に示すように、比較例1〜7に示す塗料組成物から形成された塗膜の環境試験後の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」は、各評価基準が3または4を示した。そのため、比較例1〜7の配合の塗料組成物は、総合評価基準として△(実用性が低い)と総合評価した。△と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に低いものである。従って、比較例1〜7に示す塗料組成物を寒冷地域で使用した場合に、その「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期間使用後に低いと予測される。
【0076】
次に、図7〜図9を用いて、実施例1〜36と比較例1〜7に示す塗料組成物から形成された塗膜の環境試験後の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」の測定結果とその総合評価を比較する。図7〜8と図9の比較より、本発明の塗料組成物では、強化粒子の割合が基材樹脂に対して10〜70重量%の割合で含まれる場合に、特に、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」の耐久性能がよりよくなることが明らかとなった。
【0077】
次に、比較例8〜12の塗料組成物の環境試験後の塗膜の評価結果について説明する。比較例8〜12の塗料組成物は、図6に示すように実施例1〜36の塗料組成物の基材樹脂と希釈剤と硬化剤の構成成分は同じであり、強化粒子の基材樹脂に対する割合も35〜70重量%の範囲とその範囲に含まれるものであるが、強化粒子の種類が異なるものである。すなわち、強化粒子として実施例1〜36ではシリコーンゴム微粒子、シリコーンゴム表面改質微粒子あるいはその混合物が用いられているのに対して、比較例8ではフッ化ピッチが、比較例9ではフッ化グラファイトが、比較例10、11ではポリテトラフルオロエチレンが、比較例12では撥水性シリカ粉末が用いられている点が異なる。
【0078】
図9に示すように、比較例8〜12に示す塗料組成物から形成された塗膜の長期耐久試験後の水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」は、各評価基準が2または3の評価を示した。そのため、比較例8〜12の配合の塗料組成物は、総合評価として△(実用性が低い)または×(実用性が極めて低い)とと総合評価した。△または×と総合評価されたものは、塗膜の「難着氷性」と「易着氷除去性」が長期耐久試験後に低いものである。従って、比較例1〜7に示す塗料組成物を寒冷地域で使用した場合に、その「難着氷性」と「易着氷除去性」は長期間使用後に低いまたは極めて低いと予測される。
【0079】
次に、図7〜図9を用いて、実施例1〜36と比較例8〜12に示す塗料組成物から形成された塗膜の環境試験後の「水滴滑落角」、「水接触角」、「着氷付着力」、「着氷面積率」、「着氷量」、「撥水性」の測定結果とその総合評価を比較する。図7〜8と図9の比較より、本発明の塗料組成物では、基材樹脂(フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマー)に対する強化粒子としてはシリコーンゴム微粒子またはシリコーンゴム表面改質微粒子が適していることが示された。また、強化粒子がフッ化ピッチ、フッ化グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン、撥水性シリカ粉末の場合には、強化粒子が基材樹脂に対して10〜70重量%の割合で含んでいても環境試験後の塗膜は「難着氷性」と「易着氷除去性」の耐久性能は低いことが示された。
【0080】
[本発明の塗料組成物]
上記説明した本発明の塗料組成物の構成成分についてまとめる。本発明の塗料組成物は、基材樹脂としてフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを、強化粒子としてシリコーンゴム微粒子、シリコーンゴム表面改質微粒子、またはそれらの混合物を用いるものである。特に、強化粒子が基材樹脂に対して10〜70重量%で含まれる場合に、その塗料組成物により形成された塗膜は環境試験後に、より優れた「難着氷性」および「易着氷除去性」を示す。
【0081】
本発明の塗料組成物の強化粒子には、たとえば、信越化学工業製のシリコーンゴム系、シリコーンゴム表面改質微粒子(KMPシリーズ)を用いることができる。また、強化粒子であるシリコーンゴム微粒子またはシリコーンゴム表面改質微粒子は、それぞれ所定の平均粒径(数〜数十μm)を持つものを単独あるいは混合して使用することができる。
【0082】
本発明のフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーは、ラジカル重合性フッ素樹脂、ラジカル重合性ポリシロキサン、アルコキシシリル含有モノマー、水酸基含有モノマーより構成されるものであり、例えば、富士化成工業製の各種疎水性樹脂(ZXシリーズ)を用いることができる。例えば、常温硬化標準タイプ(ZX−007C),常温硬化高耐侯性タイプ(ZX−017),常温硬化高架橋タイプ(ZX−022),加熱硬化タイプ(ZX−001)を用いることができる。本発明においては常温硬化標準タイプが主体となるが、適用分野によってはこれに限定されるものではない。たとえば、船舶や鋼構造物などの大型構造物は常温硬化タイプが、工業製品には加熱硬化タイプも適用することができる。
【0083】
尚、本発明の塗料組成物ではフッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーを基材樹脂として単独で用いると機械的強度が不十分のため、架橋剤としてポリイソシアネー化合物を硬化剤として使用する必要である。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシヌレート型3量体(日本ポリウレタン製のコロネートHX)やイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート型3量体(住友バイエルウレタン製のデスモジュールZ4370)さらに、イソシアネート基をブロック化剤でブロックしたブロックポリイソシアネート化合物などを用いることができる。
【0084】
[本発明の塗料組成物の用途]
最後に、上記説明した本発明の塗料組成物の用途・および使用方法について説明する。本発明の塗料組成物は、例えば、着氷海域を航行する船舶や寒冷地域における電気通信施設、道路交通標識、信号機、地熱発電施設、自動車などの各種構造物の物体表面への着氷を抑制するまたは物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするために使用することができる。本発明の塗料組成物を用いて塗膜を形成すると、船舶をはじめとする各種構造物への着氷の抑制が可能となるとともに仮に着氷しても簡単な作業で除氷することが可能となる。そのため、本発明の塗料組成物を使用することにより、寒冷地域において船舶を初めとする各種構造物の安全性を高めることができるとともにそれらが作動不全となることによる経済的損失を軽減することができる。
【0085】
[本発明の塗料組成物の使用方法]
本発明の塗料組成物は、各種塗装方法で使用することができる。例えば、本発明の塗料組成物を溶剤に分散させて分散液の形で刷毛塗りで塗装することができる。あるいは、本発明の塗料組成物を缶などに貯蔵し、圧縮ガスを用いてスプレー塗装に使用することもできる。
【0086】
また本発明の塗料組成物を物体表面への着氷を抑制するまたは物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように物体表面へ塗料組成物の塗膜を形成する場合には、複数の塗料を重ねて形成してもよい。例えば、船舶表面への着氷の抑制するまたは船舶表面に着氷した氷を除氷しやすくするように船舶表面へ本発明の塗料組成物を用いて塗膜を形成する場合には、下塗り塗料として、例えば、変性エポキシ樹脂塗料を40〜50μm塗装し、次に、中塗り塗料として、例えば、ポリウレタン系塗料を25〜30μm塗装し、最後に上塗り層として本発明の塗料組成物20〜30μm塗装することにより形成される。
【0087】
なお、上記の例は一例であり、塗膜を必要とする構造物に応じて、下塗り層や中塗り層に用いる塗料の種類や層数を変更することができる。また、本発明の塗装組成物を着色して使用したい場合には、必要とする色の顔料を加えて使用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】基材樹脂選定試験結果を示す図である。
【図2】強化粒子選定試験を示す図である。
【図3】本発明の塗料組成物の構成成分の配合の一例を示す図である。
【図4】本発明の塗料組成物の構成成分の配合の一例を示す図である。
【図5】本発明の塗料組成物の構成成分の配合の一例を示す図である。
【図6】比較例の塗料組成物の構成成分の配合の一例を示す図である。
【図7】実施例の配合の塗膜に対する長期耐久性の評価結果を示す図である。
【図8】実施例の配合の塗膜に対する長期耐久性の評価結果を示す図である。
【図9】比較例の配合の塗膜に対する長期耐久性の評価結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように前記物体表面に塗膜を形成するための塗料組成物であって、
フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーと、
シリコーンゴム微粒子およびシリコーンゴム微粒子の表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーンゴム表面改質微粒子のうちの少なくとも1つの微粒子と、
を含むことを特徴とする塗料組成物。
【請求項2】
前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーは、ラジカル重合性フッ素樹脂と、ラジカル重合性ポリシロキサンと、アルコキシシリル含有モノマーと、水酸基含有モノマーと、架橋剤であるイソシアネート化合物とを用いて形成されることを特徴とする請求項1に記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの微粒子がシリコーンゴム微粒子であり、前記シリコーンゴム微粒子は前記塗料組成物中に前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分に対して10〜70重量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記シリコーンゴム微粒子は、所定の平均粒径を持つシリコーンゴム微粒子または異なる平均粒径を持つ2種類以上のシリコーンゴム微粒子の混合物であることを特徴とする請求項3に記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1つの微粒子がシリコーンゴム表面改質微粒子であり、前記シリコーンゴム表面改質微粒子は前記塗料組成物中に前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分に対して10〜70重量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記シリコーンゴム表面改質微粒子は、所定の平均粒径を有するシリコーンゴム微粒子または異なる平均粒径を有する2種類以上のシリコーンゴム表面改質微粒子の混合物であることを特徴とする請求項5に記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つの微粒子がシリコーンゴム微粒子とシリコーンゴム表面改質微粒子との混合物であり、前記混合物が前記塗料組成物中に前記フッ素樹脂-シロキサングラフト型ポリマーの固形分に対して10〜70重量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記シリコーンゴム微粒子が、所定の平均粒径を持つシリコーンゴム微粒子、または異なる平均粒径を持つ2種類以上のシリコーンゴム微粒子の混合物であり、前記シリコーンゴム表面改質微粒子が、所定の平均粒径を有するシリコーンゴム微粒子、または異なる平均粒径を有する2種類以上のシリコーンゴム表面改質微粒子の混合物であることを特徴とする請求項7に記載の塗料組成物。
【請求項9】
物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように前記物体表面に塗膜を形成する塗料組成物の評価方法であって、
前記塗膜が使用される環境を模擬した環境試験に前記塗膜を晒す工程と、
前記環境試験に晒された後の塗膜について、前記塗膜の着氷を抑制する難着氷性と着氷しても除氷しやすい易着氷除去性とを評価するための複数の測定試験を実施する工程と、
前記複数の測定試験により得られる各測定値に基づいて判断される総合評価が予め決められた評価基準を満たすか否かによって、前記環境試験に晒された後の塗膜の前記難着氷性と前記易着氷除去性とを総合評価する評価工程と、
を有することを特徴とする塗料組成物の評価方法。
【請求項10】
前記環境試験は、前記塗膜を水中に所定期間浸漬させる水浸漬試験と、前記水浸漬試験の後の前記塗膜を屋外の自然環境に所定期間晒す屋外暴露試験とを含むことを特徴とする請求項9に記載の塗料組成物の評価方法。
【請求項11】
前記環境試験では、前記水浸漬試験と前記屋外暴露試験とを1サイクルとするサイクルを所定のサイクル回数だけ繰り返すことを特徴とする請求項10に記載の塗料組成物の評価方法。
【請求項12】
前記複数の測定試験は、前記環境試験後の塗膜の水滴滑落角、水接触角、着氷付着力、着氷面積率、着氷量および撥水性の測定を含むことを特徴とする請求項11に記載の塗料組成物の評価方法。
【請求項13】
前記評価工程では、各測定試験ごとに、測定された測定値を予め決められた評価基準に従って等級分けして等級値を算出することを特徴とする請求項12に記載の塗料組成物の評価方法。
【請求項14】
前記評価工程では、前記各測定試験ごとに算出される前記等級値が、前記環境試験後の塗膜の前記難着氷性と前記易着氷除去性とを総合評価する総合評価基準のどの基準を満たすかを判別することにより、前記環境試験に晒された後の塗膜を総合評価することを特徴とする請求項13に記載の塗料組成物の評価方法。
【請求項15】
物体表面への着氷を抑制するまたは前記物体表面に着氷した氷を除氷しやすくするように前記物体表面へ塗料組成物の塗膜を形成する塗装方法であって、
物体表面に下塗り塗料を塗って下塗り層を形成する工程と、
前記下塗り層の上に中塗り塗料を塗って中塗り層を形成する工程と、
前記中塗り層の上に請求項1乃至請求8項のうちのいずれか1項に記載の塗料組成物を用いて上塗り層を形成する工程とを有することを特徴とする塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−263459(P2009−263459A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−113223(P2008−113223)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(597053016)株式会社タイム アソシエイツ (2)
【出願人】(595055162)社団法人日本舶用工業会 (25)
【Fターム(参考)】