説明

電力ケーブルおよび接続部の欠陥検出方法

【課題】 送電を停止させることなく、かつ当該電力ケーブルあるいは接続部の絶縁破壊を生じさせることなく、安全かつ確実に内部の欠陥位置の特定を可能にすること。
【解決手段】 電力ケーブルおよび接続部の部分放電測定により得られた図1の放電波形において、部分放電が発生していない電圧波形の位相に合わせて、電力ケーブルおよび接続部に放射線を照射する。そして内部の放射線写真を撮影し、この撮影された画像より電力ケーブルおよび接続部内部の欠陥を検出する。具体的には、電圧位相の一周期をT(50HzならT=0.02sec)としたとき、0(sec)〜0.178T(sec)、0.322T〜0.678T(sec)、または、0.822T〜1T(sec)のいずれかの間に放射線を照射する。また、特に劣化の著しいケーブルに対して、上記の電圧位相のうち、第2象限と第4象限に限定して放射線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力の輸送に用いる電力ケーブルおよび接続部の欠陥検出方法に関し、特に、放射線により内部の欠陥を検出する電力ケーブルおよび接続部の欠陥検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電力ケーブルおよび接続部の欠陥を検出する方法として、部分放電測定による絶縁体内部の欠陥を検出する方法が用いられてきた。また、X綿、γ線等の放射線を診断対象線路に照射してその放射線による内部観察写真を撮影し、その写真の解読により内部の欠陥を検出する技術も提案されている(例えば特許文献1参照)。
また、OFケーブルやPOFケーブルなどの油浸絶縁ケーブルの保守は、絶縁油分析、放射線内部診断、油量・油圧の監視が実施されている。
このうち、絶縁油分析はケーブル内部の異常診断法として広く行われている。内部に異常があれば、熱や放電により、油が分解され発生ガスや特性の劣化が見られる。
放射線内部診断は、ケーブルを傾斜地に布設した場合や交通量が多く振動の多い場所で行われる。これは、ケーブルコアと外装のアルミ被との相対移動により、絶縁紙のずれや損傷、遮蔽層の乱れにより、放電が発生し、やがて絶縁破壊を引き起こすためである。しかし、放射線内部診断の代わりに絶縁油分析で済ます場合が多い。
【0003】
油量・油圧の監視は、OFケーブルの外傷や金属疲労による金属シースの微小な亀裂などによる漏油異常の早期発生手段として行われている。しかし、内部異常についての情報は得ることが出来ない。
これらの保守のうち、絶縁油分析のための採油は、活線採油コネクタを採用する線路が増えてきている。そのため、活線中でも絶縁油分析が行えるようになってきた。また、油量・油圧の監視は、目視で行うので、活線中でも行われる。
しかしながら、放射線内部診断は、通常、線路を停止させた状態で行うので、実施頻度は少ない。
【特許文献1】特開2003−65975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記電力ケーブル及び接続部の欠陥検出方法の内、部分放電測定はその得られた結果により電力ケーブルまたは接続部の内部に何らかの異常有無を検知することは可能であるが、その異常箇所が内部のいずれの部位にあるのかを判別することは不可能である。
また、内部の異常箇所を判別・特定する方法として放射線撮影写真は有効であるものの、その撮影を行う場合は、通常、送電を停止させてから実施することが必要であった。
この理由は、放射線は仮に異常箇所に部分放電が生じているような場合、その放電を助長させるエネルギー源となるため、撮影中に万が一の絶縁破壊を生じさせる可能性を回避させるためである。
しかしながら、送電を停止させることは電力ケーブルの需要家においては時に多大なる負担を与える場合があるため、送電を停止した上での放射線撮影は実施が困難な場合が多い。よって、送電を停止させずに放射線撮影を実施することができれば、これらの諸問題を解決させることができると期待されるが、電力ケーブルあるいは接続部内部に生じている欠陥の有害度は様々であり、その程度を知らずに放射線照射条件を定めて安全に、絶縁破壊なしに送電中の放射線撮影を実施させることは事実上不可能であった。
【0005】
一方、油浸絶縁ケーブルにおいて絶縁油分析はOFやPOFの油浸絶縁ケーブルの内部診断の手法として大変有効であるが、絶縁油の量が非常に多いため、絶縁油分析での異常検出は遅れる場合が考えられる。
また、傾斜地などの特殊な布設場所やPOFケーブルのようにコアのずれが大きいケーブルには、絶縁油分析よりも、放射線で直接内部を確認したほうが異常の検出も早く、得られる情報も大きい。しかしながら、放射線を使用する場合、前記したように検査ケーブルの線路を停止させるため、その使用頻度は非常に少ない。
このように検査を行う際に線路を停止させるのは、前記したように、放射線の照射によって、活線中の電力ケーブルの絶縁特性が低下するためである。
すなわち、絶縁紙のずれや、損傷によって生じた気泡や空隙の欠陥部に放射線を照射すると、欠陥部の空気が電離され、電子を生じる。もし、ケーブルに部分放電が生じている場合、電子が供給されることで、部分放電の発生数が増加し、劣化を促進させて、絶縁破壊の危険を伴ってしまう。
本発明は、上述した不具合を回避させるためになされたものであって、送電を停止させることなく、かつ当該電力ケーブルあるいは接続部の絶縁破壊を生じさせることなく、安全かつ確実に内部の欠陥位置の特定を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、次のようにして前記課題を解決する。
(1)電力ケーブルおよび接続部の部分放電測定により得られた放電波形において、部分放電が発生しない電圧波形の位相に合わせて、電力ケーブルおよび/または接続部に放射線を照射して、内部の放射線写真を撮影し、この撮影された画像より電力ケーブルおよび/または接続部内部の欠陥を検出する。
(2)電圧位相の一周期をT(50HzならT=0.02sec)としたとき、0(sec)〜0.178T(sec)、0.322T〜0.678T(sec)、または、0.822T〜1T(sec)のいずれかの間に放射線を照射して、内部の放射線写真を撮影し、この撮影された画像より電力ケーブルおよび接続部内部の欠陥を検出する。
(3)上記(2)において、特に劣化の著しい電力ケーブルに対して、上記の電圧位相のうち、第2象限と第4象限に限定して、0.322T〜0.5T(sec)、または、0.822T〜1T(sec)のいずれかの間に放射線を照射する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電圧印加状態、すなわち実際のケーブル線路においては送電を停止させることなしに、放射線照射を行って欠陥の存在する電力ケーブルあるいは接続部中の欠陥の場所を検出することが可能となり、絶縁破壊の危険性なしに、安定した設備の診断/保守を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは、放射線の照射によって油浸絶縁ケーブルの部分放電の発生状況がどのように変わるのかを実験した。その結果、以下のことを確認した。
・部分放電の発生は課電位相(商用周波)の第1象限と第3象限に限定され、放射線のエネルギーの強さや照射時間を変えても、発生箇所は第1象限と第3象限に限定される。
・部分放電が出ている場合、放射線の照射によって部分放電の頻度は多くなる。
・部分放電の開始電圧は、放射線未照射時に比べて照射時に10%下がる。
【0009】
以上のことから活線中に放射線を照射する場合には、次のようにすればよいことがわかった。
(a)図1に示すように部分放電が発生しない位相時に放射線を照射すれば、新たな放電は生み出さないと考えられる。ほとんど全ての油浸絶縁ケーブルは、雷、開閉サージなどの異常電圧が入ったときだけ、一時的に部分放電が発生し、常時部分放電は発生していない。
そこで、欠陥有無の調査対象である電力ケーブルまたは接続部において、部分放電測定を実施し、欠陥の存在を検知する。
そして、放射線撮影における放射線の照射を、この測定した部分放電波形において、部分放電が発生しない位相角においてのみ行う。
上記放射線撮影を一定時間繰り返して実施することで、照射不足を回避させ、解像度の良好な写真撮影を行うことができる。
【0010】
(b)放射線の照射によって部分放電開始電圧が10%下がるのだから、電圧波形の90%を超える領域に放射線を照射しなければ、部分放電の開始を抑えることができる。
図2で、正弦波の1周期をT(50Hzならば0.02sec)とすると、(I) の領域(0.178T〜0.322T)と(II)の領域(0.678で〜0.822T)が正弦波の0.9以上に相当し、この箇所に放射線を照射しなければ、放射線照射によって新たな部分放電は生じない。
即ち、課電位相の一周期に対して、0〜0.178Tと0.322T〜0.678Tと0.922〜1Tの領域に放射線を照射すれば新たな部分放電は生じない。
【0011】
(c)一方、劣化が著しい油浸絶縁ケーブルの場合、常時部分放電が発生していると考えられる。この場合、部分放電は第1象限と、第3象限に広く分布しており、図3において、(III) の領域(0〜0.322T)と(IV)の領域(0.5T〜0.822T)に照射しなければ、新たな部分放電は生じない。
即ち、課電位相の一周期に対して、0.322T〜0.5Tと0.822T〜1Tの領域に照射すればよい。ここで劣化が著しいOFケーブルとは、例えば、絶縁油分析でアセチレンが10ppm以上検出して、改修を計画しているケーブルである。
上記では油浸絶縁ケーブルについて述べたが、上述した部分放電の発生を抑制する放射線の照射方法は、絶縁体にポリエチレンやゴムを用いたケーブルにも同様に適用することができる。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。
(1)実施例1
本発明では、まず、油浸紙のシート、油浸紙の短尺モデルケーブル、欠陥入りのOF接続部、欠陥入りのPOF接続部を使用して実験を行った。油浸紙はクラフト紙を使用し、油は鉱油、合成油(ハード)、ボリブデン油を使用した。それぞれのサンプルの欠陥にφ5mmのパンチ穴を開けておき、絶縁厚に対して1/2〜1/3の欠陥厚さを設けた。
シート試験、モデルケーブル試験、OF接続部、POF接続部のいずれも同じ傾向を見せて、放射線未照射時の部分放電開始電圧をVとした場合、表1の結果を得た。
【0013】
【表1】

【0014】
この表1によると、前記図2の(I)(II) 以外の領域あるいは図3の(III) (IV)以外の領域で放射線を照射する方法は部分放電の発生を抑制し、未照射の場合とほぼ同等の状態にすることができることが分かる。
よって、この方法により、活線時の放射線撮影によって、ケーブルの劣化を進めることはなく、活線撮影が可能となる。
【0015】
(2)実施例2
次に、積層油浸絶縁紙の層間に直径1mm、長さ8mmの銅線の破断片を人為的に巻き込ませた66kV 1×325mm2のOFケーブル(長さ15m)を複数作成し、試料に用いた。
このケーブルに運転電圧である商用周波電圧38kVを印加させたところ、部分放電が発生することが明らかとなった。
図4に本実施例で用いた部分放電測定回路を示す。
同図に示すように、トランス1から上記OFケーブル2に商用周波電圧を印加し、OFケーブル2のシース−接地間に検出インピーダンス3を接続するとともに、トランス1の端子−接地間に結合コンデンサ4と検出インピーダンス5の直列回路を接続し、検出インピーダンス3,5に部分放電測定器6を接続して部分放電を測定した。この部分放電発生状況を、図5に示す。
【0016】
まず、最初に、このケーブルに商用周波電圧38kVを印加した状態でX線の照射を通常の作業手順に則って実施した。その結果、当該試料はX線照射中に部分放電が急速に進展して絶縁破壊を起こしてしまった。このことは、送電を停止しない状態においてX線の照射を実施することの危険性を示す証拠として考えることができる。
次に、2本目の同じ欠陥をもうけたケーブルを使用して、X線の照射を位相角を限定して行う実験を実施した。
図5は前述の部分放電発生状況の波形を示したものであるが、図5は約10分間の部分放電波形を重ね書きさせたものであるため、放電が発生している位相と発生していない位相の区別が十分にできている。
【0017】
そこで、図5に示す部分放電を発生していないAおよびBの位相角の範囲のみ当該欠陥箇所にX線照射を行った。図6は、X線照射の様子を示す図であり、X線源10とX線フィルム11を同図に示すように配置し、X線源10からOFケーブル2にX線を照射し、X線写真の取得を行った。
X線の照射制御は、部分放電測定器6により部分放電を測定した結果に基づいて、シャッタ制御用コンピュータ12によりX線源10のシャッター13を開閉させることにより実施し、放電が発生している、あるいは発生する可能性のある位相角ではシャッターを閉じるように制御した。印加電圧は前述したように38kVである
X線の照射はシャッター閉の時間も含めて40分間実施した。この間、X線フィルム11を図6に示すように固定してX線写真の取得を行った。
【0018】
結果として、この40分間の間に絶縁破壊の生じることはなく、また、測定された部分放電も電荷量の増加やパルス数の増大といった欠陥の劣化につながる兆候を見せることもなかった。
終了後にフィルムを現像して、絶縁紙層間に前記金属異物が挟まっていることが現像された写真により確認され、欠陥部の特定が可能であることが示された。
なお、上記では、放射線源としてX線を用いる場合について説明したが、その他γ線などの放射線源も目的に応じて使用することは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】部分放電の発生状況を示す図である。
【図2】(I) ,(II)以外の領域で放射線を照射する場合を説明する図である。
【図3】(III) ,(IV)以外の領域で放射線を照射する場合を説明する図である。
【図4】部分放電測定回路の例を示す図である。
【図5】欠陥入りOFケーブルにおける部分放電発生状況を示した波形図である。
【図6】部分放電測定を実施しながら照射位相角を限定して放射線撮影を行った時の実験設備状況を示した図である。
【符号の説明】
【0020】
1 トランス
2 OFケーブル
3,5 検出インピーダンス
4 結合コンデンサ
6 部分放電測定器
10 X線源
11 X線フィルム
12 シャッタ制御用コンピュータ
13 シャッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線撮影により電力ケーブルおよび接続部内部の欠陥を活線状態で検出する方法であって、
該電力ケーブルおよび接続部の部分放電測定により得られた放電波形において、部分放電が発生しない電圧波形の位相に合わせて、電力ケーブルおよび接続部に放射線を照射して、内部の放射線写真を撮影し、
上記撮影された画像より電力ケーブルおよび接続部内部の欠陥を検出する
ことを特徴とする電力ケーブルおよび接続部の欠陥検出方法。
【請求項2】
放射線撮影により電力ケーブルおよび接続部内部の欠陥を活線状態で検出する方法であって、
電圧位相の一周期をT(50HzならT=0.02sec)としたとき、
0(sec)〜0.178T(sec)
0.322T〜0.678T(sec)
0.822T〜1T(sec)
のいずれかの間に放射線を照射して、内部の放射線写真を撮影し、
上記撮影された画像より電力ケーブルおよび接続部内部の欠陥を検出する
する
ことを特徴とする電力ケーブルおよび接続部の欠陥検出方法。
【請求項3】
特に劣化の著しい電力ケーブルに対して、上記の電圧位相のうち、第2象限と第4象限に限定して、
0.322T〜0.5T(sec)
0.822T〜1T(sec)
のいずれかの間に放射線を照射する
ことを特徴とする請求項2記載の電力ケーブルおよび接続部の欠陥検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−30008(P2006−30008A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209801(P2004−209801)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【Fターム(参考)】