説明

電動パワーステアリング装置

【課題】長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができるとともに、応答性の低下を防止することのできる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】EPSは、ウォーム軸26及びウォームホイール25を噛合してなる減速機構24と、減速機構24を介してステアリングシャフト3に駆動連結されるモータ21と、モータ21の出力軸36に対してウォーム軸26の基端部26aを傾動可能に連結する軸継手41と、ウォーム軸26の先端部26bをウォームホイール25側に付勢する湾曲板ばね51とを備えた。そして、軸継手41を固定式のボール型等速ジョイントにより構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)には、モータを駆動源としてステアリングシャフトを回転駆動することにより、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するものがある。こうしたEPSとして、モータにより回転されるウォーム軸及びステアリングシャフトに連結されるウォームホイールを噛合してなる減速機構を備えたものが知られている。
【0003】
ところで、上記のような減速機構を用いたEPSの場合、そのバックラッシュに起因して、操舵方向の切り替え時や逆入力の印加時等において、歯打ち音が発生することがある。そこで、こうしたEPSには、多くの場合、ウォーム軸の一端をモータの出力軸に対して傾動可能に連結するとともに、付勢手段を用いてウォーム軸の他端をウォームホイール側に押し付けることにより、これらの軸間距離を調整してバックラッシュを除去する所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれている(例えば、特許文献1参照)。一般に、こうしたウォーム軸をモータの出力軸に対して傾動可能に連結するための軸継手としては、一対の継体(ヨーク)と、これらの間に介在された弾性体とにより構成されるものが採用されている(特許文献1、第3図参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−203154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1のEPSに用いられる軸継手では、ウォーム軸は一対のヨーク間で弾性体が圧縮されることにより傾動するため、ウォーム軸の傾動に伴って弾性体の反発力(弾性力)が増大する。その結果、長期に亘る使用によりウォーム軸及びウォームホイールの各歯部の摩耗が進んだ場合において、ウォーム軸を十分に傾動させることができず、歯打ち音が発生し易くなる虞がある。
【0006】
そこで、弾性係数の低い材料により弾性体を構成することで、各歯部の摩耗が進んだ場合でも、十分にウォーム軸が傾動できるようにすることが考えられる。しかし、この場合には、弾性体が変形し易くなることから、モータトルクを伝達する際にも弾性体が大きく変形してしまうことでトルク伝達の遅れが発生し、アシスト力付与の応答性が低下するといった問題が生じる。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができるとともに、応答性の低下を防止することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構と、前記減速機構を介してステアリングシャフトに駆動連結されるモータと、前記モータの出力軸に対して前記ウォーム軸の一端部を傾動可能に連結する軸継手と、前記ウォーム軸の他端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記軸継手は、等速ジョイントであることを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、軸継手が等速ジョイントにより構成されるため、従来のように弾性体が圧縮されることによりウォーム軸が傾動する場合と異なり、ウォーム軸の傾動に伴って反発力が発生せず、各歯部の摩耗が進んだ場合でも十分にウォーム軸を傾動させることができるようになる。これにより、長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができる。また、等速ジョイントは、ウォーム軸がモータの出力軸に対して傾斜した状態となっても、等速で円滑にトルクを伝達できるため、トルク伝達の遅れが生じることを防いで応答性の低下を防止することができるようになる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記ウォーム軸は、前記減速機構を収容するハウジングに対して軸方向移動可能に設けられたことを要旨とする。
【0011】
ここで、ウォーム軸及びウォームホイールを噛合させてなる減速機構を備えたEPSでは、ステアリング操作によりステアリングシャフトを回転させる際に、同ステアリングシャフトに連結されたウォームホイールによってウォーム軸を回転させる必要がある。また、ウォーム軸及びウォームホイールは、回転する際にこれらの各歯部同士が互いに摺動する。従って、操舵開始時においては、ウォーム軸及びウォームホイールの各歯部の間に作用する摩擦力(静止摩擦力)を超える操舵力が必要となる。そして、アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれたEPSでは、ウォーム軸がウォームホイールに押し付けられることで、これらの各歯部間に作用する摩擦力が大きくなるため、これが引っ掛かり感となって操舵フィーリングの低下を招く虞がある。
【0012】
この点、上記構成によれば、ウォーム軸が軸方向に移動可能であるため、操舵開始時において、ウォームホイールの歯部とウォーム軸の歯部とが摺動することなく、ウォーム軸が軸方向に移動可能な範囲でウォームホイールが回転できるようになる。これにより、引っ掛かり感を低減することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記ウォーム軸と、前記ハウジングに固定された固定部材との間には、前記ウォーム軸の軸方向移動に伴って圧縮される弾性部材が設けられたことを要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、ウォーム軸が軸方向移動する際に、固定部材との間で弾性部材が圧縮されるため、ウォーム軸が同固定部材に直接接触してその移動が規制される場合に比べ、異音が生じることを抑制できるようになる。また、弾性部材の圧縮量の増加に伴って同弾性部材の反発力が徐々に大きくなることから、ステアリング操作に必要な操舵力が徐々に大きくなるため、より良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができるとともに、応答性の低下を防止することのできる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】EPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】軸継手の分解斜視図。
【図5】軸継手近傍を示す拡大断面図。
【図6】図5のB−B断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9、及びピニオンシャフト10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0018】
また、EPS1は、モータ21を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ22を備えている。本実施形態のEPSアクチュエータ22は、所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されており、モータ21は、減速機構24を介してコラムシャフト8と駆動連結されている。減速機構24は、コラムシャフト8に連結されたウォームホイール25と、モータ21に連結されたウォーム軸26とを噛合することにより構成されている。そして、モータ21の回転を減速機構24により減速してコラムシャフト8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成になっている。
【0019】
次に、本実施形態におけるEPSアクチュエータの構成について説明する。
図2に示すように、EPSアクチュエータ22は、減速機構24を収容するハウジング31を備えている。このハウジング31は、ウォーム軸26が収容されるウォーム軸収容部32、及び同ウォーム軸収容部32に連続して形成されるとともにウォームホイール25が収容されるウォームホイール収容部33を有している。ウォーム軸収容部32は、ウォーム軸26の軸方向(図2における左右方向)に延びる円柱状の空間であり、その一端側(図2における右側)は、モータ21が固定されるモータ固定孔34に連通している。また、ウォーム軸収容部32の他端側(図2における左側)は外部に開口しており、この開口端は、同開口端に固定されたエンドカバー35により閉塞されている。
【0020】
モータ21は、ハウジング31に貫設されたステアリングシャフト3(コラムシャフト8)の軸方向に対して、その出力軸36の軸方向が直交するように同ハウジング31のモータ固定孔34に固定されている。そして、その出力軸36に連結されたウォーム軸26は、その両端がハウジング31内に設けられた第1及び第2の転がり軸受37,38により回転可能に支持されるとともに、ステアリングシャフト3に連結されたウォームホイール25に噛合されている。なお、本実施形態では、これら第1及び第2の転がり軸受37,38には、ボール軸受が採用されている。
【0021】
ここで、本実施形態のEPSアクチュエータ22には、その減速機構24を構成するウォームホイール25とウォーム軸26との間の軸間距離を調整してバックラッシュを除去するための所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれている。
【0022】
詳述すると、ウォーム軸26の一端部(図2における右側端部、以下基端部26aという)は、軸継手41を介してモータ21の出力軸36に対して傾動可能に連結されている。また、ウォーム軸26の基端部26aは、第1の転がり軸受37により回転可能に支持されている。なお、第1の転がり軸受37は、ウォーム軸収容部32の一端側に形成された同ウォーム軸収容部32よりも大径の固定部42に設けられている。そして、第1の転がり軸受37は、外輪37aがウォーム軸収容部32の一端に固定された固定プラグ43により、ハウジング31に対して軸方向への移動が規制された状態で設けられている。
【0023】
一方、ウォーム軸26の他端部(図2における左側端部、以下先端部26bという)は、第2の転がり軸受38により回転可能に支持されている。第2の転がり軸受38は、ウォームホイール25に対して接離する方向(図2における上下方向)に移動可能に設けられており、その外周を囲繞するように湾曲した付勢手段としての湾曲板ばね51により、ウォームホイール25側に付勢されている。なお、先端部26bは、第2の転がり軸受38の内輪38bに圧入されている。
【0024】
具体的には、ウォーム軸収容部32の他端側(図2における左側)には、第2の転がり軸受38及び湾曲板ばね51を収容支持するための支持部52が形成されている。支持部52の内径は第2の転がり軸受38の外径よりも大きく形成されている。これにより、第2の転がり軸受38は、支持部52内で、ウォームホイール25に対して接離する方向に移動可能に設けられている。また、第2の転がり軸受38は、エンドカバー35との間にウォーム軸26の軸方向に間隔を空けて設けられており、ウォーム軸26の先端部26bは、第2の転がり軸受38と一体で軸方向に移動可能に設けられている。なお、支持部52内には、弾性材料からなるとともに、湾曲板ばね51と支持部52との間及びエンドカバー35と第2の転がり軸受38との間に介在される円弧状の弾性リング53が設けられている。
【0025】
図3に示すように、湾曲板ばね51は、第2の転がり軸受38の外輪38aに当接する円弧状の円弧部54と、この円弧部54よりも径方向外側に配置されるばね部55と、これら各ばね部55及び円弧部54の両端をそれぞれ接続する接続部56とからなる。支持部52の周壁には、そのウォームホイール25と反対側(図3における上側)に、湾曲板ばね51のばね部55を収容する収容凹部57が形成されている。そして、ばね部55が当該収容凹部57の底面57aに当接して当該底面57aを押圧することにより、第2の転がり軸受38は、ウォームホイール25側(図3における下側)に向って付勢されている。これにより、図2に示すように、ウォーム軸26がその一端側を中心として傾動し、ウォーム軸26とウォームホイール25との軸間距離が調整され、バックラッシュが除去されるようになっている。
【0026】
(ウォーム軸と出力軸との連結構造)
次に、本実施形態のEPSにおけるウォーム軸とモータの出力軸との連結構造について説明する。
【0027】
軸継手41は、二軸間の軸方向変位が規制される固定式のボール型等速ジョイントにより構成されている。具体的には、図4に示すように、軸継手41は、有底筒状(カップ状)のアウタレース61と、アウタレース61の内側に配置される円環状のインナレース62と、これらアウタレース61とインナレース62との間でトルクを伝達する複数のボール63と、各ボール63の位置を保持する保持器64とを備えている。
【0028】
詳述すると、図4及び図5に示すように、アウタレース61の内周面は、凹球面状に形成されている。アウタレース61の内周面には、同アウタレース61の軸方向(図5における左右方向)に延びる複数(本実施形態では、6つ)のボール溝65が形成されている。ボール溝65は、アウタレース61の軸方向と直交する断面形状が円弧状に形成されるとともに、周方向に等角度間隔で形成されている。
【0029】
インナレース62の外周面は、凸球面状に形成されている。インナレース62の外周面には、同インナレース62の軸方向(図5における左右方向)に延びる複数(本実施形態では、6つ)ボール溝66が形成されている。ボール溝66は、インナレース62の軸方向と直交する断面形状が円弧状に形成されるとともに、周方向に等角度間隔で形成されており、アウタレース61のボール溝65と対向する。
【0030】
ボール63は、アウタレース61のボール溝65と、当該ボール溝65に対向するインナレース62のボール溝66との間で転動可能に挟まれて配置されている。そして、各ボール63は、ボール溝65,66のそれぞれに対して周方向に係合することにより、アウタレース61とインナレース62との間でトルクを伝達する。
【0031】
保持器64は、円環状に形成されており、アウタレース61とインナレース62との間に配置されている。保持器64には、径方向に貫通した複数(本実施形態では、6つ)の保持孔67が形成されている。保持孔67は、略四角形状に形成されるとともに、周方向に等角度間隔で形成されている。また、各保持孔67には、ボール63が1つずつ収容されている。
【0032】
そして、図5に示すように、軸継手41のインナレース62には、ウォーム軸26の基端部26aが同インナレース62に対してその軸方向に相対移動可能且つ一体回転可能に連結されている。具体的には、基端部26aの外周面には、ウォーム軸26の軸方向に延びるセレーション歯71が形成されるとともに、インナレース62の内周面には、同インナレース62の軸方向に延びるセレーション歯72が形成されている。そして、ウォーム軸26の基端部26aは、インナレース62にセレーション嵌合することにより、同インナレース62に対して軸方向に相対移動可能且つ一体回転可能に連結されている。
【0033】
また、ウォーム軸26の基端部26aは、第1の転がり軸受37の内輪37bとの間に若干の隙間が設けられる隙間嵌めの状態で嵌合されており、同第1の転がり軸受37に対して軸方向に移動可能に設けられている。さらに、本実施形態では、ウォーム軸26の歯部が形成された本体部26cと、第1の転がり軸受37の内輪37bとの間には、弾性材料からなる弾性リング73が挟持されている。ここで、上述のように、上記ウォーム軸26の先端部26bは、図2に示されるエンドカバー35と第2の転がり軸受38との間に介在された弾性リング53の弾性変形を伴って、同第2の転がり軸受38と一体で軸方向に移動可能に設けられている。従って、ウォーム軸26は、弾性リング53,73が弾性変形することにより、ハウジング31内で軸方向移動可能となっている。
【0034】
一方、図5に示すように、軸継手41のアウタレース61には、モータ21の出力軸36が一体回転可能に連結されている。本実施形態では、アウタレース61は、円板状のヨーク74、及びアウタレース61とヨーク74との間に介在されるスペーサ75を介して出力軸36に連結されている。
【0035】
具体的には、図4及び図5に示すように、アウタレース61の出力軸36側の底面61aには、ヨーク74側に突出する複数(本実施形態では4つ)の係合爪76が形成されている。これに対し、ヨーク74のアウタレース61側の一端面74aには、アウタレース61側に突出する複数(本実施形態では4つ)の係合爪77が形成されている。そして、図6に示すように、アウタレース61とヨーク74とは、各係合爪76,77が周方向に交互に配置されるように連結される。一方、スペーサ75は、樹脂材料からなるとともに、円環状に形成されている。そして、スペーサ75には、径方向外側に延出されて隣接する係合爪76,77の間に挟持される係合片78が形成されている。なお、出力軸36の接続端部36aは、ヨーク74の他端面74bに開口する嵌合穴79に圧入されることにより、同ヨーク74と一体回転可能に連結されている。
【0036】
このように構成された軸継手41においては、各ボール63がボール溝65,66内で転動し、アウタレース61に対してインナレース62が揺動することで、ウォーム軸26がモータ21の出力軸36に対して傾動可能となっている。そして、ウォーム軸26は、操舵開始時において、その基端部26aが軸継手41のインナレース62に対して同ウォーム軸26の軸方向に相対移動するとともに、その先端部26bが第2の転がり軸受38と一体で軸方向に移動することにより、軸方向に移動するようになっている。なお、ウォーム軸26が一端側に移動する際には、ウォーム軸26の本体部26cと第1の転がり軸受37との間に設けられた弾性リング73が軸方向に圧縮され、ウォーム軸26が他端側に移動する際には、エンドカバー35と第2の転がり軸受38との間に設けられた弾性リング53が軸方向に圧縮されるようになっている。すなわち、本実施形態では、エンドカバー35及び第1の転がり軸受37がハウジング31に固定された固定部材に相当し、弾性リング53,73が弾性部材に相当する。
【0037】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)モータ21の出力軸36に対してウォーム軸26の基端部26aを傾動可能に連結する軸継手41を固定式のボール型等速ジョイントにより構成した。
【0038】
上記構成によれば、軸継手41が等速ジョイントにより構成されるため、従来のように弾性体が圧縮されることによりウォーム軸26が傾動する場合と異なり、ウォーム軸26の傾動に伴って反発力が発生せず、各歯部の摩耗が進んだ場合でも十分にウォーム軸26を傾動させることができる。これにより、長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができる。また、等速ジョイントは、ウォーム軸26がモータ21の出力軸36に対して傾斜した状態となっても、等速で円滑にトルクを伝達できるため、トルク伝達の遅れが生じることを防いで応答性の低下を防止することができる。
【0039】
(2)ウォーム軸26を減速機構24が収容されるハウジング31に対して軸方向移動可能に設けた。
ここで、上述ように操舵開始時においては、ウォーム軸26及びウォームホイール25の各歯部の間に作用する摩擦力(静止摩擦力)を超える操舵力が必要となるため、これが引っ掛かり感となって操舵フィーリングの低下を招く虞がある。この点、上記構成によれば、ウォーム軸26が軸方向に移動可能であるため、操舵開始時において、ウォームホイール25の歯部とウォーム軸26の歯部とが摺動することなく、ウォーム軸26が軸方向に移動可能な範囲でウォームホイール25が回転できるようになる。これにより、引っ掛かり感を低減して、操舵フィーリングの低下を招くことなく、容易に操舵量の小さい微妙な操舵ができるようになる。
【0040】
(3)ウォーム軸26と、ハウジング31に固定されたエンドカバー35及び第1の転がり軸受37との間に、ウォーム軸26の軸方向移動に伴って圧縮される弾性リング53,73をそれぞれ設けた。上記構成によれば、ウォーム軸26がエンドカバー35又は第1の転がり軸受37に直接接触してその移動が規制される場合に比べ、異音が生じることを抑制できるようになる。また、弾性リング53,73の圧縮量の増加に伴って同弾性リング53,73の反発力が徐々に大きくなることから、ステアリング操作に必要な操舵力が徐々に大きくなるため、より良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【0041】
(4)軸継手41として固定式のボール型等速ジョイントを採用し、ウォーム軸26の基端部26aを軸継手41のインナレース62にセレーション嵌合することにより、同基端部26aがインナレース62に対して軸方向移動可能且つ一体回転可能に連結した。上記構成によれば、摺動式のボール型等速ジョイントを用いる場合に比べ、ウォーム軸26を大きく傾動させることができる。また、セレーション嵌合するため、軸継手41のインナレース62からウォーム軸26にモータトルクを効率的に伝達することができる。
【0042】
(5)軸継手41のアウタレース61に、出力軸36側に突出する複数の係合爪76を形成するとともに、出力軸36に、アウタレース61の係合爪76間に周方向に交互に配置される複数の係合爪77を有するヨーク74を設けた。そして、アウタレース61とヨーク74との間に、隣接するアウタレース61の係合爪76とヨーク74の係合爪77とによって周方向に挟持される複数の係合片78が形成された樹脂材料からなるスペーサ75を設けた。上記構成によれば、アウタレース61の係合爪76とヨーク74の係合爪77との間にスペーサ75が介在されるため、アウタレース61及びヨーク74に寸法ばらつきがあっても、それぞれの係合爪76,77間に周方向のがたつきが生じることを抑制できる。これにより、アウタレース61及びヨーク74に要求される寸法精度を緩和することができ、製造コストの増大を抑制できる。
【0043】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、軸継手41のアウタレース61とヨーク74との間にスペーサ75を介在させたが、これに限らず、スペーサ75を廃してアウタレース61の係合爪76とヨーク74の係合爪77とが直接係合するようにしてもよい。また、ヨーク74及びスペーサ75を廃し、モータ21の出力軸36の接続端部36aを、直接アウタレース61に対して一体回転可能に連結してもよい。
【0044】
・上記実施形態では、ウォーム軸26の先端部26bと第2の転がり軸受38とが一体でハウジング31に対して軸方向に移動可能に構成した。しかし、これに限らず、例えば先端部26bを第2の転がり軸受38の内輪38bに対して隙間嵌めするとともに、同内輪38bとウォーム軸26の本体部26cとの間で軸方向に挟持される弾性リングを設けることにより、先端部26bがハウジング31に対して軸方向に移動可能となるようにしてもよい。
【0045】
・上記実施形態では、ウォーム軸26の本体部26cと第1の転がり軸受37の内輪37bとの間、及び第2の転がり軸受38の外輪38aとエンドカバー35との間にそれぞれ弾性リング53,73を設けたが、これに限らず、これら弾性リング53,73を設けなくともよい。なお、この場合には、ウォーム軸26の本体部26cと第1の転がり軸受37の内輪との間に軸方向に間隔を空けて同ウォーム軸26を配置する。
【0046】
・上記実施形態では、ウォーム軸26の基端部26aが軸継手41のインナレース62にセレーション嵌合することにより、同基端部26aをインナレース62に対して軸方向移動可能且つ一体回転可能に連結した。しかし、これに限らず、例えば基端部26aの外周面及びインナレース62の内周面の軸方向と直交する断面形状をそれぞれ多角形状に形成することで、ウォーム軸26をインナレース62に対して軸方向移動可能且つ一体回転可能に連結してもよい。
【0047】
・上記実施形態では、ウォーム軸26をハウジング31に対して軸方向移動可能に設けたが、これに限らず、ウォーム軸26がハウジング31に対して軸方向に移動できないように設けてもよい。
【0048】
・上記実施形態では、軸継手41のインナレース62にウォーム軸26を連結するとともに、アウタレース61にモータ21の出力軸36を連結したが、これに限らず、インナレース62に出力軸36を連結するとともに、アウタレース61にモータ21のウォーム軸26を連結してもよい。
【0049】
・上記実施形態では、第2の転がり軸受38の外周を囲繞するような円弧状に湾曲した湾曲板ばね51により付勢手段を構成したが、これに限らず、第2の転がり軸受38をウォームホイール25に近接するように付勢できれば、例えばコイルスプリング等の他の部材により付勢手段を構成してもよい。
【0050】
・上記実施形態では、軸継手41として固定式のボール型等速ジョイントを採用したが、これに限らず、クロスグルーブ型等速ジョイント(例えば、特開2008−89014号公報参照)やトリポード型等速ジョイント(例えば、特開2010−14259号公報参照)等の摺動式(スライド式)の等速ジョイントを採用してもよい。こうした摺動式の等速ジョイントでは、二軸間の軸方向変位が許容されるため、例えばセレーション嵌合させることでウォーム軸の基端部をインナレースに対して軸方向移動可能に連結しなくともよいため、これらの形状を簡素化することができる。
【0051】
・上記実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、これに限らず、例えばピニオンシャフト10に対してアシスト力を付与する所謂ピニオン型のEPSに適用してもよい。
【0052】
次に、上記各実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)請求項2又は3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記軸継手は、固定式のボール型等速ジョイントであり、前記ウォーム軸の一端部は、前記軸継手のインナレースにセレーション嵌合することにより、該インナレースに対して軸方向移動可能且つ一体回転可能に連結されたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。上記構成によれば、摺動式のボール型等速ジョイントを用いる場合に比べ、ウォーム軸を大きく傾動させることができる。また、セレーション嵌合するため、軸継手のインナレースからウォーム軸にモータトルクを効率的に伝達することができる。
【0053】
(ロ)請求項1〜3,上記(イ)のいずれか一項に記載の電動パワーステアリング装置において、前記軸継手のアウタレースには、前記出力軸側に突出する複数の係合爪が形成されるとともに、前記出力軸には、前記アウタレースの係合爪間に周方向に交互に配置される複数の係合爪を有するヨークが設けられ、前記アウタレースと前記ヨークとの間には、隣接する前記アウタレースの係合爪と前記ヨークの係合爪とにより周方向に挟持される係合部が形成された樹脂材料からなるスペーサが設けられたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。上記構成によれば、アウタレースの係合爪とヨークの係合爪との間にスペーサが介在されるため、アウタレース及びヨークに寸法ばらつきがあっても、各係合爪間に周方向のがたつきが生じることを抑制できる。これにより、アウタレース及びヨークに要求される寸法精度を緩和することができ、製造コストの増大を抑制できる。
【符号の説明】
【0054】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…ステアリングシャフト、21…モータ、24…減速機構、25…ウォームホイール、26…ウォーム軸、26a…基端部、26b…先端部、26c…本体部、31…ハウジング、35…エンドカバー、36…出力軸、37…第1の転がり軸受、38…第2の転がり軸受、41…軸継手、51…湾曲板ばね、53,73…弾性リング、61…アウタレース、62…インナレース、63…ボール、64…保持器、71,72…セレーション歯、74…ヨーク、75…スペーサ、76,77…係合爪、78…係合片。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構と、前記減速機構を介してステアリングシャフトに駆動連結されるモータと、前記モータの出力軸に対して前記ウォーム軸の一端部を傾動可能に連結する軸継手と、前記ウォーム軸の他端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記軸継手は、等速ジョイントであることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ウォーム軸は、前記減速機構を収容するハウジングに対して軸方向移動可能に設けられたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記ウォーム軸と、前記ハウジングに固定された固定部材との間には、前記ウォーム軸の軸方向移動に伴って圧縮される弾性部材が設けられたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101638(P2012−101638A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250868(P2010−250868)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】