説明

電動パーキングブレーキ装置

【課題】電源電位低下などによりアクチュエータの解除駆動の途中でECUなどの制御部がリセットされた場合に、電動パーキングブレーキを操作した場合であっても、確実且つ早く作動が可能な作動開始位置とすることができる電動パーキングブレーキ装置を提供する。
【解決手段】アクチュエータの駆動を作動駆動か解除駆動かの駆動状態を電動パーキングブレーキ作動情報として記憶させ、最初のアクチュエータのゼロ位置調整において、前記最初のアクチュエータのゼロ位置調整後であって前記アクチュエータの駆動中に中断した際に、解除位置復帰制御として、前記アクチュエータを最大量解除駆動した後に、前記解除完了位置ストローク量により前記アクチュエータを解除完了位置まで駆動して、前記パーキングブレーキの作動開始位置とすることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に備えられる電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パーキングブレーキの作動、解除をコントロールケーブルを介して電動で行うアクチュエータを備える電動パーキングブレーキ装置が知られている。このような電動パーキングブレーキ装置は、電気的に制御されている特性上、電源電位が低下した場合には、パーキングブレーキの作動または解除の途中であってもそのまま動作が中断される。
【0003】
そこで、車両における電源電位の低下といった不測の事態が生じた場合にもより適切に動作し得るように、制動要求があったときにパーキングブレーキを作動させるアクチュエータと、アクチュエータの動作を制御することにより前記パーキングブレーキの作動および解除を制御するアクチュエータ制御手段と、車両システムの起動時においてパーキングブレーキの解除制御を規制する解除規制手段と、を備え、アクチュエータ制御手段は、パーキングブレーキの作動または解除の制御途中に車両システムの電源オフによって作動または解除の制御を未完了のまま中断していたことが車両システムの起動時において検出された場合にその未完了の制御を途中から再開するとともに、解除の制御を途中から再開する場合には解除規制手段による規制の下で再開することを特徴とする電動パーキングブレーキ装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4466582号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、荷重センサを用いて目標荷重値までケーブルを引く為アクチュエータを作動駆動させ、所定量のストローク分だけアクチュエータを解除駆動させる電動パーキングブレーキ装置は、ブレーキ作動完了までに要する時間を適度な時間とするために、予め所定の位置を解除完了位置として設定する。しかし、電源の電位低下やオフとなるなどにより、電動パーキングブレーキの制御部としてのECUがリセットされた場合には、予め設定された所定の位置の記憶が消失してしまう。また、所定位置を記憶させてもアクチュエータにケーブルを用いるので、ケーブルの伸びにより本来の所定の位置がずれてしまい、アクチュエータの作動完了までに時間がかかってしまう。アクチュエータの作動完了までに時間がかかる場合には、作動完了前に車両から離れてしまうことが考えられる。
【0006】
そこで、本発明は、電源電位の低下などによりアクチュエータの解除駆動の途中でECUなどの制御部がリセットされた場合に、電動パーキングブレーキを操作した場合であっても、確実且つ早く作動が可能な作動開始位置とすることができる電動パーキングブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の電動パーキングブレーキ装置は、車両の車輪を制動するパーキングブレーキと、前記パーキングブレーキをコントロールケーブルを介して作動または解除するアクチュエータと、荷重センサと、ストローク量を測定するモータ回転センサと、前記アクチュエータを制御する制御部とを備えた電動パーキングブレーキ装置であって、前記制御部は、前記アクチュエータの駆動を作動駆動か解除駆動かの駆動状態を電動パーキングブレーキ作動情報として記憶させ、最初のアクチュエータのゼロ位置調整において、前記荷重センサにより最大荷重値まで前記アクチュエータが作動駆動された際の前記アクチュエータのストローク量を作動完了位置ストローク量として記憶させ、前記荷重センサにより規定荷重値まで前記アクチュエータが解除駆動された際の前記アクチュエータのストローク量を解除完了位置ストローク量として記憶させ、前記最初のアクチュエータのゼロ位置調整後であって前記アクチュエータの駆動中に中断した際に、前記制御部が、前記電動パーキングブレーキ作動情報、前記作動完了位置ストローク量及び前記解除完了位置ストローク量により、前記制御部リセット前の状態が、前記アクチュエータの解除駆動の途中の状態と判定したときは、解除位置復帰制御として、前記アクチュエータを最大量解除駆動した後に、前記解除完了位置ストローク量により前記アクチュエータを解除完了位置まで駆動して、前記パーキングブレーキの作動開始位置とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
(1)本発明の電動パーキングブレーキ装置によれば、電源電位低下などによりアクチュエータの解除駆動の途中で制御部がリセットされた場合であっても、解除位置復帰制御として、アクチュエータの総ストローク分の駆動をさせ、解除完了位置までアクチュエータを駆動させて解除完了初期位置とすることにより、確実に解除可能であり、しかも、電動パーキングブレーキを操作した場合においても確実な操作が可能な作動開始位置とすることができる。これにより初期位置から荷重が発生し始める位置までの駆動時間を省くことができ、ケーブル伸び吸収を同時に行う為、効率的である。
【0009】
(2)本発明の電動パーキングブレーキ装置によれば、電源電位低下などによりアクチュエータの作動駆動の途中で制御部がリセットされた場合であっても、作動完了位置ストローク量分のアクチュエータの作動駆動させた後に、解除位置復帰制御を行うことにより確実な操作が可能な作動開始位置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電動パーキングブレーキ装置の一実施形態を示す概略ブロック構成図。
【図2】車両出荷時等に行われるアクチュエータのゼロ位置調整処理、及び電源電位の低下などの要因で制御部がリセットした場合に行われる処理を示すフローチャート。
【図3】パーキングブレーキの作動又は解除を行うときのアクチュエータの動作を説明する図。
【図4】アクチュエータのストローク量と、アクチュエータがコントロールケーブルを牽引する荷重(張力)との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。本発明の電動パーキングブレーキ装置1は、図1に示すように、車両の車輪を制動するパーキングブレーキ2と、コントロールケーブル3を介してこのパーキングブレーキ2を作動又は解除するアクチュエータ4と、このアクチュエータ4のコントロールケーブル3への張力を検出する荷重センサ5と、アクチュエータ4のストローク量を検出するモータ回転センサ6と、アクチュエータ4を制御する制御部7とを備えている。そして、この電動パーキングブレーキ装置1は、さらに、アクチュエータ4の制御に関する情報を記憶するEEPROM8(不揮発性メモリ)と、パーキングブレーキ2の作動又は解除を行うために制御部7に対して作動信号・解除信号を送る操作部9、車両のエンジンのオン・オフを切り替えるために制御部7に対してオン信号、オフ信号を送るイグニッションスイッチ10、各部の異常(故障)を検出した際に当該異常を報知するワーニングランプ11、パーキングブレーキ2が作動していることを報知する作動ランプ12、車両の前後左右4輪の回転速度の情報や車両の勾配情報等を制御部7に対して逐次伝送するための車両CAN制御通信バス13が設けられている。
【0012】
パーキングブレーキ2は、主に駐停車時に車両が移動するのを防止するために車両の車輪を制動するものである。このパーキングブレーキ2は、例えば、車両の左右後輪のホイールハブ部にそれぞれ設けられるドラムインディスクタイプのものであって、フットブレーキとして用いられるディスクブレーキのロータの内側に配置された不図示のブレーキドラムと、このブレーキドラムに接触することにより、制動力を発生させるブレーキシュー等を備えている。
【0013】
アクチュエータ4は、コントロールケーブル3を介してパーキングブレーキ2のブレーキシューを駆動させて、パーキングブレーキ2に制動力を発生させる作動状態と、実質的に制動力を発生させない解除状態との間の移行を行うものである。このアクチュエータ4は、詳しくは図示しないが、制御部7によって制御される正転、逆転駆動可能なモータと、このモータの回転数を減速させる複数段のギアからなる減速機構と、この減速機構の出力にて回転駆動されるスクリューと、このスクリューの回転により該スクリューの軸方向に往復動するイコライザ機構を構成しているナット等を備えており、このイコライザ機構の往復運動により、イコライザ機構の先端に固定されているコントロールケーブル3が牽引又は弛緩される。
【0014】
なお、アクチュエータ4の駆動する範囲は例えば95mmであり、この長さを総ストローク量という。また、本実施形態においては、図3に示すように、アクチュエータ4がコントロールケーブル3を最も弛緩させた状態におけるイコライザ機構の先端位置を解除末端位置、アクチュエータ4がコントロールケーブル3を最も牽引した状態におけるイコライザ機構の先端位置を作動末端位置という。なお、アクチュエータ4がコントロールケーブル3を牽引して、パーキングブレーキ2を解除状態から作動状態に移行させる駆動を作動駆動といい、アクチュエータ4がコントロールケーブル3を弛緩させて、パーキングブレーキ2を作動状態から解除状態に移行させる駆動を解除駆動という。
【0015】
コントロールケーブル3は、外装のアウターケーシングと該アウターケーシングの内部を摺動自在なインナーケーブルを備えるものである。このコントロールケーブル3は、左右のパーキングブレーキ2に対応するようにそれぞれ設けられており、アクチュエータ4によって牽引又は弛緩されることにより、パーキングブレーキ2の作動又は解除が行われる。
【0016】
荷重センサ5は、コントロールケーブル3に作用する荷重(張力)を測定するセンサである。この荷重センサ5で得られた測定値は、制御部7へと送られ、制御部7は、この測定値が所定の目標荷重値に到達するようにアクチュエータ4の駆動を制御する。荷重センサ5は詳しくは図示しないが、例えば、主な構成部材として、シャフトと、主ばねと、副ばねと、マグネットと、ホールIC等を備えており、コントロールケーブル3の作動又は解除に伴って前記シャフトが軸方向に往復動し、このシャフトの往復動と共に、マグネットが往復動するようになっている。そして、このマグネットの往復動により該マグネットに対応して配置されているホールICが、コントロールケーブル3の荷重に相当する主ばねと副ばねとの圧縮、伸長変形量に応じた電位をコントロールケーブル3に作用する荷重の測定値として制御部7へ出力するようになっている。
【0017】
モータ回転センサ6は、アクチュエータ4のモータ回転数を計数することにより、アクチュエータ4のストローク量を計測するセンサである。詳しくは図示しないが、例えば、磁気パターンを形成した回転ディスクまたはドラムによって、回転の位置情報を周期的な磁界の変化としてとらえる磁気式のロータリーエンコーダを採用することができる。
【0018】
制御部7は、操作部9からの入力等に応じてアクチュエータ4及び車両の各部の制御を行う例えばECU(Engine Control Unit)であり、各種制御を行うCPU(Central Processing Unit)と、車両各部の制御を行うためのプログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、各種センサから得たデータなどを一時的に記憶するためのRAM(Random Access Memory)とを備えている。そして、制御部7には、さらに不揮発性記憶媒体であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)8が読み出し及び書き込み可能に接続されている。このEEPROM8の所定の記憶領域には、作動中の情報及びストローク量について記憶されている。例えば、この作動中の情報としては、「アクチュエータ4が解除駆動中」、「アクチュエータ4が作動駆動中」、「アクチュエータ4は停止しておりパーキングブレーキ2が解除中」、又は「アクチュエータ4が停止しておりパーキングブレーキ2が作動中」の4つの状態のうちのいずれの状態であるかを示す電動パーキングブレーキ作動情報がEEPROM8に記憶され、また、このストローク量としては、アクチュエータ4を作動又は解除駆動した場合のアクチュエータ4のストローク量がEEPROM8に記憶されている。
【0019】
操作部9は、パーキングブレーキ2の作動又は解除の指令を行うためのものであって、例えば、車両のインストルメントパネルに設けられている。この操作部9から制御部7に対して作動信号が送られると、制御部7は、アクチュエータ4のモータを正転駆動させてコントロールケーブル3を牽引することによりパーキングブレーキ2を作動させる。また、コントロールケーブル3が牽引されると、荷重センサ5からコントロールケーブル3に作用する荷重の測定値が制御部7へと送られ、同時にモータ回転センサ6からモータの回転情報が制御部7へと送られる。そして、コントロールケーブル3に作用する荷重の測定値が目標荷重値に到達すると、制御部7は、一定の制動力が確保されたと判断して、モータを停止させる。これにより、パーキングブレーキ2が作動した状態、すなわちブレーキが掛かった状態となる。また、パーキングブレーキ2の作動状態から、操作部9から解除信号が制御部7へ送られた場合には、制御部7は、パーキングブレーキ2の解除を行うようにコントロールケーブル3を弛緩させる。
【0020】
次に、主に制御部7が行う、車両の工場出荷時に行われる初期設定としてのアクチュエータ4のゼロ位置調整処理、及び電源電位の低下などの要因で制御部7がリセットした場合に行われる処理について、図2から図4を参照しつつ説明する。なお、図示の都合上、図2のフローチャートにおいてはアクチュエータ4を「ACTR」と省略して表記している。電源電位の低下により制御部7がリセットした状態からバッテリー等の電源が車両に組み込まれ、又は充電されることにより、電源電位が上昇すると、リセットされた制御部7が起動する。制御部7が起動すると、まず制御部7がリセットされたか否か判断する(S20)。制御部7がリセットされていないと判断すると(S20:NO)、そのまま処理を中断し待機する。一方、リセットされたと判断すると(S20:YES)、次にアクチュエータ4のゼロ位置調整が未実施か否か判断する(S21)。具体的には、例えば、アクチュエータ4のゼロ位置調整を完了した場合に、EEPROM8にゼロ位置調整を完了したことを示す情報を記憶することより、この情報が記憶されているか否かに基づいて、アクチュエータ4のゼロ位置調整が未実施か否か判断することができる。アクチュエータ4のゼロ位置調整が未実施であると判断すると(S21:YES)、未だ工場出荷時の初期設定が行われていないものであるので、アクチュエータ4のゼロ位置調整処理を実行する(S22〜S31)。
【0021】
アクチュエータのゼロ位置調整処理では、まず、操作部9の解除操作がなされたか否か判断する(S22)。すなわち、操作部9は解除操作がなされると制御部7に対して解除信号を送信し、この解除信号を制御部7が受信したか否か判断することにより、制御部7は操作部9の解除操作がなされたか否か判断する。操作部9の解除操作がなされていないと判断すると(S22:NO)、操作部9の解除操作がなされるまで処理を待機する。一方、操作部9の解除操作がなされたと判断すると(S22:YES)、アクチュエータ4を駆動させて最大量解除駆動を行う(S23)。すなわち、制御部7は、アクチュエータ4に対してモータを逆転駆動させる旨のコマンドを送信し、図3の(2)に示すように、アクチュエータ4のイコライザ機構の先端が解除末端位置になるまでモータを逆転駆動させる。これにより、アクチュエータ4はコントロールケーブル3を最も弛緩させた状態になる。
【0022】
最大量解除駆動を行うと(S23)、次に、現在のアクチュエータの作動方向の変位量である常時計測アクチュエータストローク量をゼロにする(S24)。この常時計測アクチュエータストローク量はモータ回転センサ6により計数され、アクチュエータ4のモータ回転数から演算されたアクチュエータ4のイコライザ機構の移動距離であり、例えば制御部7のRAMに記憶され、アクチュエータ4の駆動とともに常時書き換えられている。なお、常時計測アクチュエータストローク量は例えばEEPROM8等の書き換え可能な他の記憶手段に記憶してもよい。
【0023】
常時計測アクチュエータストローク量をゼロにすると(S24)、次に、操作部9の作動操作がなされたか否か判断する(S25)。すなわち、操作部9は作動操作がなされると制御部7に対して作動信号を送信し、この作動信号を制御部7が受信したか否か判断することにより、制御部7は操作部9の作動操作がなされたか否か判断する。操作部9の作動操作がなされていないと判断すると(S25:NO)、操作部9の作動操作がなされるまで処理を待機する。一方、操作部9の作動操作がなされたと判断すると(S25:YES)、アクチュエータ4を駆動させて図4に示す最大荷重値(イ)まで作動駆動を行う(S26)。この最大荷重値(イ)は、車両を適切に制動させることができる荷重値以上であって、且つ、パーキングブレーキ2、コントロールケーブル3、及びアクチュエータ4に必要以上の負担がかからない荷重値であり、予め試験等により算出した適切な値を算出し、制御部7のROM又はEEPROM8に記憶している。制御部7は、アクチュエータ4に対してモータを正転駆動させる旨のコマンドを送信し、図3の(3)に示すように、荷重センサ5が計測しているコントロールケーブル3に作用する荷重値が予め定められた最大荷重値(イ)に到達するまで、アクチュエータ4を駆動させる。
【0024】
アクチュエータ4を最大荷重値(イ)まで作動駆動すると(S26)、次に、この時点でのアクチュエータ4の常時計測アクチュエータストローク量を作動完了位置ストローク量としてEEPROM8に記憶する(S27)。これにより、アクチュエータ4のイコライザ機構の先端が解除末端位置にある状態から最大荷重値(イ)に到達するまでのストローク量が作動完了位置ストローク量として記憶される。
【0025】
そして、作動完了位置ストローク量を記憶すると(S27)、次に、操作部9の解除操作がなされたか否か判断する(S28)。前述と同様に、操作部9は解除操作がなされると制御部7に対して解除信号を送信し、この解除信号を制御部7が受信したか否か判断することにより、制御部7は操作部9の解除操作がなされたか否か判断する。操作部9が解除操作なされていないと判断すると(S28:NO)、操作部9の解除操作がなされるまで処理を待機する。
【0026】
一方、操作部9の解除操作がなされたと判断すると(S28:YES)、アクチュエータ4を図4に示す規定荷重値(ロ)まで解除駆動する(S29)。制御部7は、アクチュエータ4に対してモータを逆転駆動させる旨のコマンドを送信し、図3の(4)に示すように、荷重センサ5が計測しているコントロールケーブル3に作用する荷重値が予め定められた規定荷重値(ロ)に下がるまで、アクチュエータ4を解除駆動させる。この規定荷重値(ロ)は、パーキングブレーキ2の制動が解除される荷重値であって、例えばゼロである。図4に示すように、アクチュエータ4は解除末端位置から所定ストローク量までの範囲では、コントロールケーブル3に荷重が加わらないので、規定荷重値(ロ)がゼロであったとしても解除末端位置から所定ストローク量離間した位置でアクチュエータ4は解除駆動を止める。なお、規定荷重値(ロ)はゼロに限定されるものではなく、パーキングブレーキ2の制動が実質的に解除される範囲で多少の荷重が加わるものであってもよい。
【0027】
規定荷重値(ロ)まで解除駆動すると(S29)、次に、この時点でのアクチュエータ4の常時計測アクチュエータストローク量を解除完了位置ストローク量としてEEPROM8に記憶する(S30)。そしてその後、アクチュエータ4のゼロ位置調整処理を終了させる(S31)。具体的には、例えば、EEPROM8にゼロ位置調整を完了したことを示す情報を記憶し、インストルメントパネルの所定のランプを点灯するなどによりゼロ位置調整が完了したことを示した後、処理を終了する。
【0028】
一方、ステップS21において、アクチュエータ4のゼロ位置調整が未実施でないと判断すると(S21:NO)、ゼロ位置調整実施済の場合の制御部7のリセット後の処理を実行する(S32〜S44)。この処理では、まず、EEPROM8に記憶されている現時点での電動パーキングブレーキ作動情報を読み出すとともに、作動完了位置ストローク量及び解除完了位置ストローク量を読み出す処理を行う(S32)。なお、電動パーキングブレーキ作動情報は、アクチュエータ4が作動駆動を開始するときに「作動中」の情報に書き換えられ、アクチュエータ4が作動駆動を完了させたときに「作動完了」の情報に書き換えられ、アクチュエータ4が解除駆動を開始するときに「解除中」の情報に書き換えられ、アクチュエータ4が解除駆動を完了させたときに「解除完了」の情報に書き換えられることにより、アクチュエータ4及びパーキングブレーキ2の状態を判別可能な情報である。
【0029】
EEPROM8から電動パーキングブレーキ作動情報、作動完了位置ストローク量、及び解除完了位置ストローク量を読み出すと(S32)、次に、読み出し現在電動パーキングブレーキ作動情報が「解除完了」か否か判断する(S33)。解除完了であると判断すると(S33:YES)、常時計測アクチュエータストローク量として数値を記憶する領域にステップS32で読み出した解除完了位置ストローク量を記憶させて(S34)、そのまま処理を終了させる。
【0030】
一方、解除完了でないと判断すると(S33:NO)、次に、読み出し現在電動パーキングブレーキ作動情報が「作動完了」か否か判断する(S35)。作動完了であると判断すると(S35:YES)、常時計測アクチュエータストローク量として数値を記憶する領域にステップS32で読み出した作動完了位置ストローク量を記憶させて(S36)、処理を終了させる。
【0031】
ステップS35において作動完了ではないと判断すると(S35:NO)、次に、読み出し現在電動パーキングブレーキ作動情報が「作動中」か否か判断する(S37)。作動中であると判断すると(S37:YES)、アクチュエータ4の最大荷重値(イ)までアクチュエータ4を作動駆動する(S38)。具体的には、制御部7は、アクチュエータ4に対してモータを正転駆動させる旨のコマンドを送信し、図3の(3)に示すように、荷重センサ5が計測しているコントロールケーブル3に作用する荷重値が予め定められた最大荷重値(イ)に到達するまで、アクチュエータ4を駆動させる。そして、アクチュエータ4を最大荷重値(イ)まで作動駆動させると、次に操作部9の解除操作がなされたか否か判断する(S39)。すなわち、操作部9から制御部7に対して解除信号を送信し、この解除信号を制御部7が受信したか否か判断することにより、制御部7は操作部9の解除操作がなされたか否か判断する。操作部9の解除操作がなされていないと判断すると(S39:NO)、解除操作がなされるまで処理を待機する。一方、操作部9の解除操作がなされたと判断すると(S39:YES)、EEPROM8に記憶されている電動パーキングブレーキ作動情報に解除中の情報を書き込み(S40)、ステップS41に処理を進める。
【0032】
一方、ステップS37において読み出し現在電動パーキングブレーキ作動情報が作動中でないと判断すると(S37:NO)、電動パーキングブレーキ作動情報は、解除完了、作動完了、及び作動中のいずれでもないので、解除中であると判断し、ステップS41に処理を進める。
【0033】
ステップS41に進むと、解除位置復帰処理(S41からS44)が実行される。まずステップS41では、アクチュエータ4を駆動させて最大量解除駆動を行う。すなわち、制御部7は、アクチュエータ4に対してモータを逆転駆動させる旨のコマンドを送信し、図3の(2)に示すように、アクチュエータ4のイコライザ機構の先端が解除末端位置になるまでモータを逆転駆動させる。これにより、アクチュエータがコントロールケーブル3を最も弛緩させた状態になる。そして、次に、常時計測アクチュエータストローク量をゼロにする(S42)。その後、図3の(5)に示すように、解除完了位置ストローク量に基づいてアクチュエータ4を解除完了位置まで作動駆動する(S43)。そして、EEPROM8に記憶されている電動パーキングブレーキ作動情報に解除完了の情報を書き込み(S44)この処理を終了する。
【0034】
以上のように、例えばバッテリーの交換などの電源電位低下などによって、制御部7がリセットされ、常時計測アクチュエータストローク量の情報が失われた場合でも、EEPROM8に記憶されている電動パーキングブレーキ作動情報に基づいて、制御部7がリセットされたときのアクチュエータ4の状態が、解除完了して駆動が停止した状態、作動完了して駆動が停止した状態、作動駆動中、解除駆動中の4つの状態を判別して処理するので、アクチュエータ4のそれぞれの状態に応じて適切な処理を行うことができる。
【0035】
すなわち、制御部7がリセットされたときにおけるアクチュエータ4の状態が解除完了して駆動が停止した状態の場合は、EEPROM8に記憶されている解除完了位置ストローク量を読み出して常時計測アクチュエータストローク量として書き込み、アクチュエータ4の状態が作動完了して駆動を停止した状態の場合は、EEPROM8に記憶されている作動完了位置ストローク量を読み出して常時計測アクチュエータストローク量として書き込むことで、不必要なアクチュエータ4の駆動をすることなく、制御部7のリセット前の状態に復帰することができる。
【0036】
そして、制御部7がリセットされたときのアクチュエータ4の状態が解除駆動中であった場合は、アクチュエータ4を最大量解除駆動させた後、解除完了位置ストローク量に基づいて、解除完了位置までアクチュエータ4を作動駆動させて、解除完了位置とすることにより、確実に解除可能であって、且つ、作動操作した場合にこの解除完了位置から確実に作動駆動することができ、アクチュエータ4の解除末端位置から荷重が発生し始める解除完了位置までの駆動時間を省くことができ、同時にケーブル伸び吸収を行う為効率的である。
【0037】
また、制御部7がリセットされたときのアクチュエータ4の状態が作動駆動中であった場合は、作動完了位置ストローク量分のアクチュエータ4の作動駆動させた後に、解除完了位置に復帰する制御を行うことができるので確実に作動駆動することができる。なお、作動完了位置ストローク量は、ゼロ位置調整済以後においては通常のパーキングブレーキ操作の目標荷重値までのアクチュエータ作動駆動における作動完了位置においての常時計測ストローク量を用いても良く、解除完了位置ストローク量は、ゼロ位置調整済以後においては通常のパーキングブレーキ操作のアクチュエータ解除駆動における解除完了位置まで解除した位置における常時計測ストローク量を用いても良い。
【0038】
尚、本発明の電動パーキングブレーキ装置1は、上述の形態に限るものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る電動パーキングブレーキ装置1は、パーキングブレーキ2の作動、解除をアクチュエータ4を用いて電動で行う自動車等の車両用の電動パーキングブレーキ装置1として有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 電動パーキングブレーキ装置
2 パーキングブレーキ
3 コントロールケーブル
4 アクチュエータ
5 荷重センサ
6 モータ回転センサ
7 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪を制動するパーキングブレーキと、前記パーキングブレーキをコントロールケーブルを介して作動または解除するアクチュエータと、荷重センサと、ストローク量を測定するモータ回転センサと、前記アクチュエータを制御する制御部とを備えた電動パーキングブレーキ装置であって、
前記制御部は、
前記アクチュエータの駆動を作動駆動か解除駆動かの駆動状態を電動パーキングブレーキ作動情報として記憶させ、
最初のアクチュエータのゼロ位置調整において、
前記荷重センサにより最大荷重値まで前記アクチュエータが作動駆動された際の前記アクチュエータのストローク量を作動完了位置ストローク量として記憶させ、
前記荷重センサにより規定荷重値まで前記アクチュエータが解除駆動された際の前記アクチュエータのストローク量を解除完了位置ストローク量として記憶させ、
前記最初のアクチュエータのゼロ位置調整後であって前記アクチュエータの駆動中に中断した際に、
前記制御部が、
前記電動パーキングブレーキ作動情報、前記作動完了位置ストローク量及び前記解除完了位置ストローク量により、前記制御部リセット前の状態が、前記アクチュエータの解除駆動の途中の状態と判定したときは、
解除位置復帰制御として、
前記アクチュエータを最大量解除駆動した後に、前記解除完了位置ストローク量により前記アクチュエータを解除完了位置まで駆動して、前記パーキングブレーキの作動開始位置とする
ことを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
前記制御部が
前記電動パーキングブレーキ作動情報により前記制御部リセット前の状態が、前記アクチュエータの作動駆動の途中の状態と判定したときは、
前記アクチュエータを最大荷重値まで作動駆動させた後に、
前記解除位置復帰制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95249(P2013−95249A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239342(P2011−239342)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【Fターム(参考)】