説明

電動ブレーキアクチュエータの支持構造及び電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケット

【課題】軽量化を達成すると共に組付性を向上させること。
【解決手段】アクチュエータハウジング75の下方側に位置し、シリンダ本体82の軸線Aと略直交する方向に貫通する貫通孔117に沿って一側からボルト133を貫通させ、貫通孔117を貫通した前記ボルト133のねじ部133bが他側のナット143に締結される。モータシリンダ装置16が、アクチュエータハウジング75の左右側で貫通孔117の軸線方向に沿った両端部に設けられる第1ボス部113a及び第2ボス部113bと、アクチュエータハウジング75の下部側の第3ボス部113cからなる3点で安定的に支持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用ブレーキシステムに組み込まれる電動ブレーキアクチュエータの支持構造及び前記電動ブレーキアクチュエータを他の部材に固定することが可能な電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のブレーキ機構として、例えば、負圧式ブースタや油圧式ブースタを用いた倍力装置が知られている。この種の倍力装置として、近年、電動モータを倍力源として利用した電動倍力装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に開示された電動倍力装置は、ブレーキペダルの操作によって進退動作する主ピストンと、前記主ピストンと相対変位可能に外嵌された筒状のブースタピストンと、前記ブースタピストンを進退動作させる電動モータとを備えた単一のまとまった機器として構成される。
【0004】
この場合、主ピストン及びブースタピストンをマスタシリンダのピストンとして、それぞれの前端部をマスタシリンダの圧力室に臨ませ、ブレーキペダルから主ピストンに付与される入力推力と、電動モータからブースタピストンに付与されるブースタ推力とによって、マスタシリンダ内にブレーキ液圧を発生させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−23594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された電動倍力装置では、ブレーキペダルから入力される力により液圧を発生させる液圧発生機構と、電動モータから入力される力により液圧を発生させる液圧発生機構とを一体に構成しているため、装置全体が大型化する傾向がある。このため、通常よりも車体側取付部の強度を補強する等の対策が必要となり、補強によって装置全体の重量が増加すると共に、組付性が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、簡素な構造で安定して支持することにより、軽量化を達成すると共に組付性を向上させることが可能な電動ブレーキアクチュエータの支持構造及び電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生させるシリンダを有する電動ブレーキアクチュエータの支持構造であって、電動ブレーキアクチュエータ本体には、前記シリンダの軸線と略直交する方向に貫通する貫通孔が形成され、前記貫通孔を貫通する固定部材によって前記電動ブレーキアクチュエータ本体が支持されることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、シリンダの軸線と略直交する方向に貫通する貫通孔に沿って一側から固定部材を貫通させ、貫通孔を貫通した前記固定部材を他側で固定することにより、モータシリンダ装置を安定した状態で支持することができる。この結果、電動ブレーキアクチュエータを簡素な構造で安定して支持することにより、軽量化を達成すると共に組付性を向上させることができる。
【0010】
また、本発明は、前記固定部材が、ボルトからなり、前記ボルトには、前記電動ブレーキアクチュエータ本体を弾性支持する弾性体が設けられることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、ボルトに設けられた弾性体によって弾性支持されるため、電動ブレーキアクチュエータで発生する振動が抑制されると共に、電動ブレーキアクチュエータに対して外部から付与される外力を弾性体の弾性力によって好適に緩衝することができる。
【0012】
さらに、本発明は、前記貫通孔の軸線方向に沿った一端部に設けられる第1ボス部と、前記貫通孔の軸線方向に沿った他端部に設けられる第2ボス部と、前記貫通孔の軸線と直交する鉛直下方向に設けられる第3ボス部とを備え、前記電動ブレーキアクチュエータ本体は、前記第1〜第3ボス部による3点で支持されることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、電動ブレーキアクチュエータを、貫通孔の軸線方向に沿った両端部に設けられる第1ボス部及び第2ボス部と、鉛直下方向の第3ボス部からなる3点で安定的に支持することができる。この結果、電動ブレーキアクチュエータの変位を抑制することができる。
【0014】
さらにまた、本発明は、ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生させるシリンダが設けられた電動ブレーキアクチュエータを固定するための電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケットであって、前記電動ブレーキアクチュエータを前記シリンダの軸方向に沿って挿通し、通過した部分の変位を規制する挿通部と、前記シリンダの軸方向に沿って挿通した状態で前記電動ブレーキアクチュエータの略中央部を支持する支持部と、車体へ取り付けられて固定される固定部とを備えることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、電動ブレーキアクチュエータの一部を挿通させる挿通部と、中央部を支持する支持部と、車体に固定する固定部とからなる簡素な構造で電動ブレーキアクチュエータを安定して支持することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡素な構造で安定して支持することにより、軽量化を達成すると共に組付性を向上させることが可能な電動ブレーキアクチュエータの支持構造及び電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るモータシリンダ装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【図2】図1に示すモータシリンダ装置の斜視図である。
【図3】前記モータシリンダ装置の側面図である。
【図4】前記モータシリンダ装置の分解斜視図である。
【図5】前記モータシリンダ装置を構成する駆動力伝達部の分解斜視図である。
【図6】前記モータシリンダ装置を構成するシリンダ機構の分解斜視図である。
【図7】前記モータシリンダ装置を下方側から見た斜視図である。
【図8】前記モータシリンダ装置が3点で支持される固定ブラケットを介して車体フレームに固定される状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るモータシリンダ装置が組み込まれた車両用ブレーキシステムの概略構成図である。
【0019】
図1に示す車両用ブレーキシステム10は、通常時用として、電気信号を伝達してブレーキを作動させるバイ・ワイヤ(By Wire)式のブレーキシステムと、フェイルセイフ時用として、油圧を伝達してブレーキを作動させる旧来の油圧式のブレーキシステムの双方を備えて構成される。
【0020】
このため、図1に示すように、車両用ブレーキシステム10は、基本的に、操作者によってブレーキペダル12が操作されたときにその操作を入力する入力装置14と、ブレーキ液圧を制御するモータシリンダ装置16と、車両挙動の安定化を支援するビークルスタビリティアシスト装置18(以下、VSA装置18という、VSA;登録商標)とを別体として備えて構成されている。
【0021】
これらの入力装置14、モータシリンダ装置16、及び、VSA装置18は、例えば、ホースやチューブ等の管材で形成された液圧路によって接続されていると共に、バイ・ワイヤ式のブレーキシステムとして、入力装置14とモータシリンダ装置16とは、図示しないハーネスで電気的に接続されている。
【0022】
このうち、液圧路について説明すると、図1中の連結点A1を基準として、入力装置14の接続ポート20aと連結点A1とが第1配管チューブ22aによって接続され、また、モータシリンダ装置16の出力ポート24aと連結点A1とが第2配管チューブ22bによって接続され、さらに、VSA装置18の導入ポート26aと連結点A1とが第3配管チューブ22cによって接続されている。
【0023】
図1中の他の連結点A2を基準として、入力装置14の他の接続ポート20bと連結点A2とが第4配管チューブ22dによって接続され、また、モータシリンダ装置16の他の出力ポート24bと連結点A2とが第5配管チューブ22eによって接続され、さらに、VSA装置18の他の導入ポート26bと連結点A2とが第6配管チューブ22fによって接続されている。
【0024】
VSA装置18には、複数の導出ポート28a〜28dが設けられる。第1導出ポート28aは、第7配管チューブ22gによって右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30aのホィールシリンダ32FRと接続される。第2導出ポート28bは、第8配管チューブ22hによって左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30bのホィールシリンダ32RLと接続される。第3導出ポート28cは、第9配管チューブ22iによって右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構30cのホィールシリンダ32RRと接続される。第4導出ポート28dは、第10配管チューブ22jによって左側前輪に設けられたディスクブレーキ機構30dのホィールシリンダ32FLと接続される。
【0025】
この場合、各導出ポート28a〜28dに接続される配管チューブ22g〜22jによってブレーキ液がディスクブレーキ機構30a〜30dの各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに対して供給され、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL内の液圧が上昇することにより、各ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動し、対応する車輪(右側前輪、左側後輪、右側後輪、左側前輪)に対して制動力が付与される。
【0026】
なお、車両用ブレーキシステム10は、例えば、エンジン(内燃機関)のみによって駆動される自動車、ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車等を含む各種車両に対して搭載可能に設けられる。
【0027】
入力装置14は、運転者(操作者)によるブレーキペダル12の操作によって液圧を発生可能なタンデム式のマスタシリンダ34と、前記マスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36とを有する。このマスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、前記シリンダチューブ38の軸方向に沿って所定間隔離間する2つのピストン40a、40bが摺動自在に配設される。一方のピストン40aは、ブレーキペダル12に近接して配置され、プッシュロッド42を介してブレーキペダル12と連結されて直動される。また、他方のピストン40bは、一方のピストン40aよりもブレーキペダル12から離間して配置される。
【0028】
この一方及び他方のピストン40a、40bの外周面には、環状段部を介して一対のピストンパッキン44a、44bがそれぞれ装着される。一対のピストンパッキン44a、44bの間には、それぞれ、後記するサプライポート46a、46bと連通する背室48a、48bが形成される。また、一方及び他方のピストン40a、40bとの間には、ばね部材50aが配設され、他方のピストン40bとシリンダチューブ38の側端部と間には、他のばね部材50bが配設される。
【0029】
マスタシリンダ34のシリンダチューブ38には、2つのサプライポート46a、46bと、2つのリリーフポート52a、52bと、2つの出力ポート54a、54bとが設けられる。この場合、各サプライポート46a(46b)及び各リリーフポート52a(52b)は、それぞれ合流して第1リザーバ36内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0030】
また、マスタシリンダ34のシリンダチューブ38内には、運転者がブレーキペダル12を踏み込む踏力に対応したブレーキ液圧を発生させる第1圧力室56a及び第2圧力室56bが設けられる。第1圧力室56aは、第1液圧路58aを介して接続ポート20aと連通するように設けられ、第2圧力室56bは、第2液圧路58bを介して他の接続ポート20bと連通するように設けられる。
【0031】
マスタシリンダ34と接続ポート20aとの間であって、第1液圧路58aの上流側には圧力センサPmが配設されると共に、第1液圧路58aの下流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第1遮断弁60aが設けられる。この圧力センサPmは、第1液圧路58a上において、第1遮断弁60aよりもマスタシリンダ34側である上流側の液圧を検知するものである。
【0032】
マスタシリンダ34と他の接続ポート20bとの間であって、第2液圧路58bの上流側には、ノーマルオープンタイプ(常開型)のソレノイドバルブからなる第2遮断弁60bが設けられると共に、第2液圧路58bの下流側には、圧力センサPpが設けられる。この圧力センサPpは、第2液圧路58b上において、第2遮断弁60bよりもホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL側である下流側の液圧を検知するものである。
【0033】
この第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bにおけるノーマルオープンとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が開位置の状態(常時開)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1中において、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bは、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁閉状態をそれぞれ示している。
【0034】
マスタシリンダ34と第2遮断弁60bとの間の第2液圧路58bには、前記第2液圧路58bから分岐する分岐液圧路58cが設けられ、前記分岐液圧路58cには、ノーマルクローズタイプ(常閉型)のソレノイドバルブからなる第3遮断弁62と、ストロークシミュレータ64とが直列に接続される。この第3遮断弁62におけるノーマルクローズとは、ノーマル位置(通電されていないときの弁体の位置)が閉位置の状態(常時閉)となるように構成されたバルブをいう。なお、図1中において、第3遮断弁62は、ソレノイドが通電されて、図示しない弁体が作動した弁開状態を示している。
【0035】
このストロークシミュレータ64は、バイ・ワイヤ制御時において、ブレーキのストロークと反力を発生させて、あたかも踏力で制動力を発生させているかのごとく操作者に思わせる装置であり、第2液圧路58b上であって、第2遮断弁60bよりもマスタシリンダ34側に配置されている。前記ストロークシミュレータ64には、分岐液圧路58cに連通する液圧室65が設けられ、前記液圧室65を介して、マスタシリンダ34の第2圧力室56bから導出されるブレーキ液(ブレーキフルード)が吸収可能に設けられる。
【0036】
また、ストロークシミュレータ64は、互いに直列に配置されたばね定数の高い第1リターンスプリング66aとばね定数の低い第2リターンスプリング66bと、前記第1及び第2リターンスプリング66a、66bによって付勢されるシミュレータピストン68とを備え、ブレーキペダル12の踏み込み前期時にペダル反力の増加勾配を低く設定し、踏み込み後期時にペダル反力を高く設定してブレーキペダル12のペダルフィーリングを既存のマスタシリンダと同等となるように設けられている。
【0037】
液圧路は、大別すると、マスタシリンダ34の第1圧力室56aと複数のホィールシリンダ32FR、32RLとを接続する第1液圧系統70aと、マスタシリンダ34の第2圧力室56bと複数のホィールシリンダ32RR、32FLとを接続する第2液圧系統70bとから構成される。
【0038】
第1液圧系統70aは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54aと接続ポート20aとを接続する第1液圧路58aと、入力装置14の接続ポート20aとモータシリンダ装置16の出力ポート24aとを接続する配管チューブ22a、22bと、モータシリンダ装置16の出力ポート24aとVSA装置18の導入ポート26aとを接続する配管チューブ22b、22cと、VSA装置18の導出ポート28a、28bと各ホィールシリンダ32FR、32RLとをそれぞれ接続する配管チューブ22g、22hとによって構成される。
【0039】
第2液圧系統70bは、入力装置14におけるマスタシリンダ34(シリンダチューブ38)の出力ポート54bと他の接続ポート20bとを接続する第2液圧路58bと、入力装置14の他の接続ポート20bとモータシリンダ装置16の出力ポート24bとを接続する配管チューブ22d、22eと、モータシリンダ装置16の出力ポート24bとVSA装置18の導入ポート26bとを接続する配管チューブ22e、22fと、VSA装置18の導出ポート28c、28dと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ接続する配管チューブ22i、22jとを有する。
【0040】
この結果、液圧路が第1液圧系統70aと第2液圧系統70bとによって構成されることにより、各ホィールシリンダ32FR、32RLと各ホィールシリンダ32RR、32FLとをそれぞれ独立して作動させ、相互に独立した制動力を発生させることができる。
【0041】
図2は、図1に示すモータシリンダ装置の斜視図、図3は、前記モータシリンダ装置の側面図、図4は、前記モータシリンダ装置の分解斜視図、図5は、前記モータシリンダ装置を構成する駆動力伝達部の分解斜視図、図6は、前記モータシリンダ装置を構成するシリンダ機構の分解斜視図である。
【0042】
電動ブレーキアクチュエータとして機能するモータシリンダ装置16は、図2に示すように、電動モータ72及び駆動力伝達部73を有するアクチュエータ機構74と、前記アクチュエータ機構74によって付勢されるシリンダ機構76とを備える。この場合、図4に示すように、電動モータ72、駆動力伝達部73、及び、シリンダ機構76は、それぞれ分離可能に設けられる。
【0043】
また、前記アクチュエータ機構74の駆動力伝達部73は、電動モータ72の回転駆動力を伝達するギヤ機構(減速機構)78と、この回転駆動力を直線運動(直線方向の軸力)に変換してシリンダ機構74の後記するスレーブピストン88a、88b側に伝達するボールねじ構造体80とを有する。
【0044】
電動モータ72は、図示しない制御手段からの制御信号(電気信号)に基づいて駆動制御される、例えば、サーボモータからなり、シリンダ機構74の上方に配置されている。このように配置構成することにより、駆動力伝達部73内のグリス等の油成分が重力作用によって電動モータ72内に進入することを好適に回避することができる。
【0045】
前記電動モータ72は、有底円筒状に形成されたモータケーシング72aと、前記モータケーシング72aと一体的に結合され、図示しないハーネスが接続される基部72bとから構成される。前記基部72bには、ねじ部材77aを挿通するための挿通孔77bが複数形成され、前記ねじ部材77aを介して電動モータ72が後記するアクチュエータハウジング75に締結される。
【0046】
駆動力伝達部73は、アクチュエータハウジング75を有し、前記アクチュエータハウジング75内の空間部には、ギヤ機構(減速機構)78、ボールねじ構造体80等の駆動力伝達用の機械要素が収納される。前記アクチュエータハウジング75は、図5に示すように、シリンダ機構76側に配置される第1ボディ75aと、前記第1ボディ75aのシリンダ機構76と反対側の開口端を閉塞する第2ボディ75bとによって分割構成される。なお、アクチュエータハウジング75と後記するシリンダ本体82とによって、電動ブレーキアクチュエータ本体が構成される。
【0047】
図4に示すように、第1ボディ75aの上部側には、電動モータ72を駆動力伝達部73に取り付けるための一対のねじ穴77cが設けられ、一対のねじ部材77aを前記ねじ穴77cに締結することにより電動モータ72が固定される。また、第1ボディ75aのシリンダ機構76側の端部には、略菱形形状を呈するフランジ部79が設けられ、前記フランジ部79には、略円形状の開口部79aと、シリンダ機構76を取り付けるための一対のねじ穴81cが設けられる。この場合、後記するシリンダ本体82の他端部に設けられたフランジ部82aの挿通孔81bを貫通した一対のねじ部材81aが、前記ねじ穴81cに螺入されることにより、シリンダ機構76と駆動力伝達部73とが一体的に結合される。
【0048】
図5に示すように、第1ボディ75aと第2ボディ75bとの間には、ギヤ機構78とボールねじ構造体80が収容されている。ギヤ機構78は、電動モータ72の出力軸に軸着された小径のピニオンギヤ78a(図1参照)と、前記ピニオンギヤ78aに噛合する小径のアイドルギヤ78bと、前記アイドルギヤ78bに噛合される大径のリングギヤ78cとを備える。
【0049】
ボールねじ構造体80は、一端部側がシリンダ機構76の第1スレーブピストン88aに当接するボールねじ軸80aと、前記ボールねじ軸80aの外周面に形成された螺旋状のねじ溝に沿って転動する複数のボール80b(図1参照)と、前記リングギヤ78cに内嵌されて該リングギヤ78cと一体的に回動し、前記ボール80bに螺合される略円筒状のナット部材80cと、前記ナット部材80cの軸方向に沿った一端側及び他端側をそれぞれ回転自在に軸支する一対のボールベアリング80dとを備える。なお、ナット部材80cは、リングギヤ78cの内径面に、例えば、圧入されて固定される。
【0050】
駆動力伝達部73は、このように構成されることにより、ギヤ機構78を介して伝達される電動モータ72の回転駆動力がナット部材80cに入力された後、ボールねじ構造体80によって直線方向の軸力(直線運動)に変換され、ボールねじ軸80aを軸方向に沿って進退動作させる。
【0051】
アクチュエータハウジング75を構成する第1ボディ75aと第2ボディ75bとは、4本のボルト83aを介して一体的に結合されると共に、互いに分離可能に構成される。第1ボディ75aには、4本のボルト83aを挿通させる挿通孔83bが形成され、第2ボディ75bには、前記挿通孔83bと対応する位置にボルト83aのねじ部が螺入されるねじ穴83cが形成される。
【0052】
この場合、第1ボディ75aの挿通孔83bを貫通したボルト83aを第2ボディ75bのねじ穴83cに螺入することにより、第1ボディ75aと第2ボディ75bとが一体的に締結される。なお、第2ボディ75bの上部側には、円形凹部85bが設けられ、前記円形凹部85bには、電動モータ72の出力軸の先端部を回転可能に軸支する軸受85aが装着される。
【0053】
本実施形態では、シリンダ機構76のシリンダ本体82の軸線Aと略直交する面を分割面(図4参照)として、アクチュエータハウジング75を第1ボディ75aと第2ボディ75bとに分割構成することにより、複数のボルト83aの締結方向がシリンダ本体82の軸線Aと平行となり、その組付作業を容易に遂行することができる。
【0054】
シリンダ機構(シリンダ)76は、有底円筒状のシリンダ本体82と、前記シリンダ本体82に付設された第2リザーバ84とを有する。第2リザーバ84は、入力装置14のマスタシリンダ34に付設された第1リザーバ36と配管チューブ86で接続され、第1リザーバ36内に貯留されたブレーキ液が配管チューブ86を介して第2リザーバ84内に供給されるように設けられる。
【0055】
図1及び図6に示すように、シリンダ本体82内には、前記シリンダ本体82の軸方向に沿って所定間隔離間する第1スレーブピストン(ピストン)88a及び第2スレーブピストン(ピストン)88bが摺動自在に配設される。第1スレーブピストン88aは、ボールねじ構造体80側に近接して配置され、穴部89を介してボールねじ軸80aの一端部に当接して前記ボールねじ軸80aと一体的に矢印X1又はX2方向に変位する。また、第2スレーブピストン88bは、第1スレーブピストン88aよりもボールねじ構造体80側から離間して配置される。
【0056】
この第1及び第2スレーブピストン88a、88bの外周面には、環状段部を介して一対のスレーブピストンパッキン90a、90bがそれぞれ装着される。一対のスレーブピストンパッキン90a、90bの間には、それぞれ、後記するリザーバポート92a、92bとそれぞれ連通する第1背室94a及び第2背室94bが形成される(図1参照)。また、第1及び第2スレーブピストン88a、88bとの間には、第1リターンスプリング96aが配設され、第2スレーブピストン88bとシリンダ本体82の側端部(底壁)と間には、第2リターンスプリング96bが配設される。
【0057】
シリンダ機構76のシリンダ本体82には、2つのリザーバポート92a、92bと、2つの出力ポート24a、24bとが設けられる。この場合、リザーバポート92a(92b)は、第2リザーバ84内の図示しないリザーバ室と連通するように設けられる。
【0058】
また、シリンダ本体82内には、出力ポート24aからホィールシリンダ32FR、32RL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第1液圧室98aと、他の出力ポート24bからホィールシリンダ32RR、32FL側へ出力されるブレーキ液圧を制御する第2液圧室98bが設けられる。
【0059】
第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bとの間には、第1スレーブピストン88aと第2スレーブピストン88bの最大ストローク(最大変位距離)と最小ストローク(最小変位距離)とを規制するボルト形状の規制手段100が設けられ、さらに、第2スレーブピストン88bには、前記第2スレーブピストン88bの軸線と略直交する方向に貫通する貫通孔91に係合し、前記第2スレーブピストン88bの摺動範囲を規制して、第1スレーブピストン88a側へのオーバーリターンを阻止するストッパピン102が設けられ、これによって、特に、マスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧で制動するときのバックアップ時において、1系統の失陥時に他系統の失陥が防止される。
【0060】
なお、図6に示すように、シリンダ本体82の開口部には、図示しないサークリップを介して係止されるピストンガイド103が装着される。このピストンガイド103には、クリアランスを介して第1ピストン88aが挿通可能な貫通孔103aが形成され、前記貫通孔103に沿って第1ピストン88aのロッド部を摺動させることにより、ボールねじ軸80aの一端部に当接する第1ピストン88aを直線状に案内することができる。また、第2ピストン88bには、連結ピストン105が接続され、前記連結ピストン105には、ボルト状に形成された規制手段100の頭部100aが係合する図示しない係合孔が設けられる。
【0061】
図7は、前記モータシリンダ装置を下方側から見た斜視図、図8は、前記モータシリンダ装置が3点で支持される固定ブラケットを介して車体フレームに固定される状態を示す斜視図である。
【0062】
図7に示すように、アクチュエータハウジング75(第1ボディ75a)の下部側には、モータシリンダ装置16を支持し、例えば、車体フレーム等に取り付けるためのマウント部111が設けられる。このマウント部111は、第2ボディ75b側から見て左側に位置しシリンダ本体82の軸線Aと略直交する方向に突出する第1ボス部113aと、第2ボディ75b側から見て右側に位置し前記第1ボス部113aと反対方向に突出する第2ボス部113bと、第2ボディ75b側から見て下方側に突出する円筒状の第3ボス部113cとを有する。
【0063】
第1ボディ75aの左右両側に設けられた第1ボス部113a及び第2ボス部113bの開口部には円形状の段付き孔部115が形成されると共に、前記段付き孔部115のさらに奥側には、シリンダ本体82の軸線Aと略直交する方向に相互に貫通する貫通孔117が形成される。この場合、前記段付き孔部115及び貫通孔117内には、図8に示す支持機構119が配設される。
【0064】
換言すると、第1ボス部113aは、貫通孔117の軸線方向に沿った一端部に位置し、第2ボス部113bは、貫通孔117の軸線方向に沿った他端部に位置し、第3ボス部113cは、貫通孔117の軸線と略直交する鉛直下方向側に位置するように設けられる。なお、第3ボス部113cには、有底の穴部121が形成される。また、第1ボス部113a、第2ボス部113b及び第3ボス部113cは、例えば、アルミニウム合金等の軽金属製材料を用いたダイカスト成形によって第1ボディ75aと一体成形される。
【0065】
図8に示すように、モータシリンダ装置16は、支持機構119及び固定ブラケット(電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケット)123を介して、例えば、フロントサイドフレーム125等の車体に取り付けられる。なお、モータシリンダ装置16は、固定ブラケット123を介して、エンジンや走行モータ等の車両駆動装置が収納されるパワープラント室と車内のキャビンとを区画するダッシュボード(図示せず)の下部側に固定することも可能である。
【0066】
先ず、支持機構119について詳細に説明した後、固定ブラケット123について説明する。
支持機構119は、図8に示すように、中空の円筒体からなり貫通孔117の内部中央に挿入される単一のカラー部材127と、前記カラー部材127の軸線方向に沿った両端部に位置し、第1ボス部113a及び第2ボス部113bの段付き孔部115に装着されるゴム等の環状体からなる一対の弾性体129と、前記弾性体129の孔部129aに装着される軸部131aとフランジ131bとが一体的に形成され、軸部131aに軸線に沿って貫通する孔部131cが形成された一対の係止部材131と、シリンダ本体82の軸線Aと略直交する一側から挿入され、貫通孔117の内部に配設される一方の係止部材131、一方の弾性体129、カラー部材127、他方の弾性体129、及び、他方の係止部材131をそれぞれ貫通する単一のボルト(固定部材)133とを備える。
【0067】
前記ボルト133は、長尺な軸体133aを有し、前記軸体133aの軸方向に沿った一端部にはねじ部133bが設けられ、他端部にはワッシャが係着された頭部133cが設けられる。
【0068】
固定ブラケット123は、縦断面がコ字状を呈し、モータシリンダ装置16の第1ボス部113a及び第2ボス部113bを左右横方向から挟んで支持する一対の側板123a、123bと、ゴム等の弾性体129が装着され第3ボス部113cの穴部121に嵌挿される突起部135を有する底板123cと、前記一対の側板123a、123b及び底板123cに連結されてモータシリンダ装置16を支持する支持板123dとを含む。
【0069】
さらに、固定ブラケット123は、上面に形成されたねじ孔135に螺入されるねじ部材137を介して前記支持板123dの上面部に締結される連結板137と、略L字状に屈曲する屈曲部139aを有しフロントサイドフレーム125の側面に溶接されることによって固定ブラケット123を固定する固定板139とを備える。
【0070】
一側に位置する一方の側板123aには、略U字状の溝部141が形成され、前記溝部141で係止されることによってボルト133の軸体133aが保持される。また、他方の側板123bには、溶接されて固着されたナット143が設けられ、前記ナット143には、挿通孔145を貫通したボルト133のねじ部133bが螺入される。
【0071】
支持板123dの中央部には、シリンダ本体82の軸方向に沿ってモータシリンダ装置16(第2ボデイ75bの円筒部75c)を挿通させ、通過した部分の変位を規制する挿通部として機能する円形状孔部147が形成される。また、支持板123dは、シリンダ本体82の軸方向に沿って挿通した状態でモータシリンダ装置16の一部を支持する支持部として機能するものである。さらに、車体を構成するフロントサイドフレーム125に溶接される固定板139は、固定部として機能するものである。
【0072】
この場合、円形状孔部147と第2ボディ75bの円筒部75cとの間には、所定のクリアランスが形成され、何らかの原因によってモータシリンダ装置16に対して大きな荷重が付与されて、前記モータシリンダ装置16が過剰に変位したときに、前記クリアランスがゼロとなって第2ボディ75bの円筒部75cと円形状孔部147とが当接するように設けられている。
【0073】
取り付けに際しては、先に、フロントサイドフレーム125の側面に固定板139を溶接して固定ブラケット123をフロントサイドフレーム125に固定した後、モータシリンダ装置16の円筒部75cを円形状孔部147に挿通させ、第3ボス部113cの穴部121内に弾性体129を介して突起部135を嵌挿する。さらに、一側に位置する一方のブラケット123aの溝部141を介してアクチュエータハウジング75の下部側に形成された貫通孔117に沿ってボルト133を挿通させ、貫通孔117の内部に配設される一方の係止部材131、一方の弾性体129、カラー部材127、他方の弾性体129、及び、他方の係止部材131をそれぞれ貫通させた後、ボルト133のねじ部133bを他方の側板123bに固着されたナット143に締結する。
【0074】
この結果、本実施形態では、モータシリンダ装置16がアクチュエータハウジング75の左右側の第1ボス部113a及び第2ボス部113bと、アクチュエータハウジング75の下部側の第3ボス部113cからなる3点で安定的に支持される。
【0075】
その際、第1ボス部113aの段付き孔部115内に装着される弾性体129と、第2ボス部113bの段付き孔部115内に装着される弾性体129と、第3ボス部113cの穴部121内に装着される弾性体129とによって弾性支持されるため、モータシリンダ装置16の電動モータ72等で発生する振動が抑制されると共に、モータシリンダ装置16に対して外部から付与される外力が弾性体129の弾性力によって緩衝され、モータシリンダ装置16の変位が抑制される。
【0076】
なお、予め、固定ブラケット123に対してモータシリンダ装置16を装着し、貫通孔117を貫通させてボルト133を締結した後、モータシリンダ装置16が装着された固定ブラケット123をフロントサイドフレーム125に取り付けるようにしてもよい。
【0077】
図1に戻って、VSA装置18は、周知のものからなり、右側前輪及び左側後輪のディスクブレーキ機構30a、30b(ホィールシリンダ32FR、ホィールシリンダ32RL)に接続された第1液圧系統70aを制御する第1ブレーキ系110aと、右側後輪及び左側前輪のディスクブレーキ機構30c、30d(ホィールシリンダ32RR、ホィールシリンダ32FL)に接続された第2液圧系統70bを制御する第2ブレーキ系110bとを有する。
【0078】
なお、第1ブレーキ系110aは、左側前輪及び右側前輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、左側後輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。さらに、第1ブレーキ系110aは、車体片側の右側前輪及び右側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統からなり、第2ブレーキ系110bは、車体片側の左側前輪及び左側後輪に設けられたディスクブレーキ機構に接続された液圧系統であってもよい。
【0079】
この第1ブレーキ系110a及び第2ブレーキ系110bは、それぞれ同一構造からなるため、第1ブレーキ系110aと第2ブレーキ系110bで対応するものには同一の参照符号を付していると共に、第1ブレーキ系110aの説明を中心にして、第2ブレーキ系110bの説明を括弧書きで付記する。
【0080】
第1ブレーキ系110a(第2ブレーキ系110b)は、ホィールシリンダ32FR、32RL(32RR、32FL)に対して、共通する第1共通液圧路112及び第2共通液圧路114を有する。VSA装置18は、導入ポート26aと第1共通液圧路112との間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなるレギュレータバルブ116と、前記レギュレータバルブ116と並列に配置され導入ポート26a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から導入ポート26a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第1チェックバルブ118と、第1共通液圧路112と第1導出ポート28aとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1インバルブ120と、前記第1インバルブ120と並列に配置され第1導出ポート28a側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第1導出ポート28a側へのブレーキ液の流通を阻止する)第2チェックバルブ122と、第1共通液圧路112と第2導出ポート28bとの間に配置されたノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第2インバルブ124と、前記第2インバルブ124と並列に配置され第2導出ポート28b側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2導出ポート28b側へのブレーキ液の流通を阻止する)第3チェックバルブ126とを備える。
【0081】
さらに、VSA装置18は、第1導出ポート28aと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第1アウトバルブ128と、第2導出ポート28bと第2共通液圧路114との間に配置されたノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第2アウトバルブ130と、第2共通液圧路114に接続されたリザーバ132と、第1共通液圧路112と第2共通液圧路114との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へのブレーキ液の流通を許容する(第1共通液圧路112側から第2共通液圧路114側へのブレーキ液の流通を阻止する)第4チェックバルブ134と、前記第4チェックバルブ134と第1共通液圧路112との間に配置されて第2共通液圧路114側から第1共通液圧路112側へブレーキ液を供給するポンプ136と、前記ポンプ136の前後に設けられる吸入弁138及び吐出弁140と、前記ポンプ136を駆動するモータMと、第2共通液圧路114と導入ポート26aとの間に配置されるサクションバルブ142とを備える。
【0082】
なお、第1ブレーキ系110aにおいて、導入ポート26aに近接する液圧路上には、モータシリンダ装置16の出力ポート24aから出力され、前記モータシリンダ装置16の第1液圧室98aで制御されたブレーキ液圧を検知する圧力センサPhが設けられる。各圧力センサPm、Pp、Phで検出された検出信号は、図示しない制御手段に導入される。また、前記VSA装置18では、VSA制御がなされる他、ABS制御も含まれる。
【0083】
本実施形態に係るモータシリンダ装置16が組み込まれた車両用ブレーキシステム10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0084】
車両用ブレーキシステム10が正常に機能する正常時には、ノーマルオープンタイプのソレノイドバルブからなる第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bが通電により励磁されて弁閉状態となり、ノーマルクローズタイプのソレノイドバルブからなる第3遮断弁62が通電により励磁されて弁開状態となる。従って、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bによって第1液圧系統70a及び第2液圧系統70bが遮断されているため、入力装置14のマスタシリンダ34で発生したブレーキ液圧がディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達されることはない。
【0085】
このとき、マスタシリンダ34の第2圧力室56bで発生したブレーキ液圧は、分岐液圧路58c及び弁開状態にある第3遮断弁62を経由してストロークシミュレータ64の液圧室65に伝達される。この液圧室65に供給されたブレーキ液圧によってシミュレータピストン68がばね部材66a、66bのばね力に抗して変位することにより、ブレーキペダル12のストロークが許容されると共に、擬似的なペダル反力を発生させてブレーキペダル12に付与される。この結果、運転者にとって違和感のないブレーキフィーリングが得られる。
【0086】
このようなシステム状態において、図示しない制御手段は、運転者によるブレーキペダル12の踏み込みを検出すると、モータシリンダ装置16の電動モータ72を駆動させてアクチュエータ機構74を付勢し、第1リターンスプリング96a及び第2リターンスプリング96bのばね力に抗して第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bを図1中の矢印X1方向に向かって変位させる。この第1スレーブピストン88a及び第2スレーブピストン88bの変位によって第1液圧室98a及び第2液圧室98b内のブレーキ液がバランスするように加圧されて所望のブレーキ液圧が発生する。
【0087】
このモータシリンダ装置16における第1液圧室98a及び第2液圧室98bのブレーキ液圧は、VSA装置18の弁開状態にある第1、第2インバルブ120、124を介してディスクブレーキ機構30a〜30dのホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLに伝達され、前記ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FLが作動することにより各車輪に所望の制動力が付与される。
【0088】
換言すると、本実施形態に係る車両用ブレーキシステム10では、動力液圧源として機能するモータシリンダ装置16やバイ・ワイヤ制御する図示しないECU等が作動可能な正常時において、運転者がブレーキペダル12を踏むことでブレーキ液圧を発生するマスタシリンダ34と各車輪を制動するディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)との連通を第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bで遮断した状態で、モータシリンダ装置16が発生するブレーキ液圧でディスクブレーキ機構30a〜30dを作動させるという、いわゆるブレーキ・バイ・ワイヤ方式のブレーキシステムがアクティブになる。このため、本実施形態では、例えば、電気自動車等のように、旧来から用いられていた内燃機関による負圧が存在しない車両に好適に適用することができる。
【0089】
一方、モータシリンダ装置16等が作動不能となる異常時では、第1遮断弁60a及び第2遮断弁60bをそれぞれ弁開状態とし、且つ、第3遮断弁62を弁閉状態としてマスタシリンダ34で発生するブレーキ液圧をディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)に伝達して、前記ディスクブレーキ機構30a〜30d(ホィールシリンダ32FR、32RL、32RR、32FL)を作動させるという、いわゆる旧来の油圧式のブレーキシステムがアクティブになる。
【0090】
本実施形態では、アクチュエータハウジング75の下方側に位置し、シリンダ本体82の軸線Aと略直交する方向に貫通する貫通孔117に沿って一側からボルト133を貫通させ、貫通孔117を貫通した前記ボルト133のねじ部133bを他側のナット143に締結することにより、モータシリンダ装置16を安定した状態で支持することができる。この結果、本実施形態では、簡素な構造で安定して支持することにより、軽量化を達成すると共に組付性を向上させることができる。
【0091】
なお、アクチュエータハウジング75の貫通孔117を貫通したボルト133の頭部133cは、固定ブラケット123の一方の側板123aに形成された溝部141で係止され、ボルト133のねじ部133bは、固定ブラケット123の他方の側板123bに固着されたナット143に締結される。
【0092】
この場合、アクチュエータハウジング75の貫通孔117に対するボルト133の挿通は、一側の方向のみから行われるため、片側(一側)の組付スペース及びメンテナンススペースを確保するだけでよく、組付作業及びメンテナンス作業を効率的に遂行することができる。
【0093】
また、本実施形態では、貫通孔117を貫通するボルト133の軸方向に沿った両端部側に弾性体129が装着されるため、モータシリンダ装置16を前記弾性体129によって弾性支持することができる。従って、モータシリンダ装置16自体で発生する振動を弾性体129で好適に抑制することができると共に、外部から付与される外力を前記弾性体129の弾性力によって好適に緩衝することができる。この結果、本実施形態では、簡素な構造で安定して支持することにより、モータシリンダ装置16の変位を抑制することができる。
【0094】
さらに、本実施形態では、モータシリンダ装置16が、アクチュエータハウジング75の左右側で貫通孔117の軸線方向に沿った両端部に設けられる第1ボス部113a及び第2ボス部113bと、アクチュエータハウジング75の下部側の第3ボス部113cからなる3点で安定的に支持することができる。
【符号の説明】
【0095】
10 車両用ブレーキシステム
16 モータシリンダ装置(電動ブレーキアクチュエータ)
72 電動モータ
75 アクチュエータハウジング(電動ブレーキアクチュエータ本体)
76 シリンダ機構(シリンダ)
82 シリンダ本体(電動ブレーキアクチュエータ本体)
88a、88b スレーブピストン(ピストン)
98a、98b 液圧室
113a〜113c 第1〜第3ボス部
117 貫通孔
123 固定ブラケット(電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケット)
129 弾性体
133 ボルト(固定部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生させるシリンダを有する電動ブレーキアクチュエータの支持構造であって、
電動ブレーキアクチュエータ本体には、前記シリンダの軸線と略直交する方向に貫通する貫通孔が形成され、
前記貫通孔を貫通する固定部材によって前記電動ブレーキアクチュエータ本体が支持されることを特徴とする電動ブレーキアクチュエータの支持構造。
【請求項2】
前記固定部材は、ボルトからなり、前記ボルトには、前記電動ブレーキアクチュエータ本体を弾性支持する弾性体が設けられることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキアクチュエータの支持構造。
【請求項3】
前記貫通孔の軸線方向に沿った一端部に設けられる第1ボス部と、前記貫通孔の軸線方向に沿った他端部に設けられる第2ボス部と、前記貫通孔の軸線と直交する鉛直下方向に設けられる第3ボス部とを備え、前記電動ブレーキアクチュエータ本体は、前記第1〜第3ボス部による3点で支持されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電動ブレーキアクチュエータの支持構造。
【請求項4】
ブレーキ操作に応じた電気信号に基づいてブレーキ液圧を発生させるシリンダが設けられた電動ブレーキアクチュエータを固定するための電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケットであって、
前記電動ブレーキアクチュエータを前記シリンダの軸方向に沿って挿通し、通過した部分の変位を規制する挿通部と、
前記シリンダの軸方向に沿って挿通した状態で前記電動ブレーキアクチュエータの略中央部を支持する支持部と、
車体へ取り付けられて固定される固定部と、
を備えることを特徴とする電動ブレーキアクチュエータ用固定ブラケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−106597(P2012−106597A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256618(P2010−256618)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】