電動ブレーキ制御システム
【課題】全負荷点にてブレーキペダルを保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善すること。
【解決手段】電動ブレーキ制御システムは、ブレーキペダル10と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、カットバルブ84,84と、電動ブレーキ制御手段と、を備える。電動ブースタ3は、ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、ボールねじ機構を介して軸方向のアシスト推力に変換する。電動ブレーキ制御手段は、電動モータ30でのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、マスターシリンダ5の下流に配置したカットバルブ84,84により液路を閉じ、電動モータ30への印加電流を下げ、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向とは逆方向に戻す。
【解決手段】電動ブレーキ制御システムは、ブレーキペダル10と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、カットバルブ84,84と、電動ブレーキ制御手段と、を備える。電動ブースタ3は、ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、ボールねじ機構を介して軸方向のアシスト推力に変換する。電動ブレーキ制御手段は、電動モータ30でのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、マスターシリンダ5の下流に配置したカットバルブ84,84により液路を閉じ、電動モータ30への印加電流を下げ、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向とは逆方向に戻す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作時、電動ブースタを倍力装置としてホイールシリンダへのブレーキ液圧を作り出す電動ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル踏力と、電動ブースタによるアシスト推力と、をプライマリピストンとセカンダリピストンへ入力し、ホイールシリンダへのブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)を発生させる電動倍力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来の電動倍力装置において、ドライバーのペダル踏力は、インプットロッドおよびインプットピストンから、一対のコイルバネを介してプライマリピストンへと入力される。一方、アシスト推力は、電動モータの回転力を軸方向の力に変換するボールねじ機構により生成され、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトからプライマリピストンへと入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−154814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電動倍力装置にあっては、ブレーキペダルを踏み込んで定位置で保持(=液圧を一定に保持)した状態から、ブレーキペダルを踏み上げてブレーキ液圧を上昇させる際、ボールねじ機構に静摩擦係数が働くことになり、ボールねじ機構の変換効率が低下する。このため、ブレーキペダルを定位置に保持している状態からボールねじ機構を駆動させる必要電流は、ブレーキペダル位置が変動している状態でボールねじ機構を駆動させる電流よりも大きくなる。よって、フル電流を消費している全負荷点(電動モータでのアシスト限界点)でのペダル保持状態から踏み上げ操作を行うときは、ボールねじ機構が静摩擦状態から動摩擦状態へと移行するまでのギャップ分をペダル踏力のみでカバーする必要がある。したがって、全負荷点以降において、ペダル踏力がギャップ分を上回るまでは液圧が上昇せず、ペダル踏力(入力)に対するブレーキ液圧(出力)の特性が横流れする、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、全負荷点にてブレーキペダルを保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善することができる電動ブレーキ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の電動ブレーキ制御システムは、ブレーキペダルと、電動ブースタと、マスターシリンダと、カットバルブと、電動ブレーキ制御手段と、を備える手段とした。
前記ブレーキペダルは、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加える。
前記電動ブースタは、ブレーキ操作時、電動モータの回転力を、ボールねじ機構を介して軸方向のアシスト推力に変換する。
前記マスターシリンダは、前記ペダル踏力に前記電動ブースタによるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、マスターシリンダ圧を発生させる。
前記カットバルブは、前記マスターシリンダから各輪に設けられたホイールシリンダに至る液路の途中位置に設けられ、液路の開閉制御を行う。
前記電動ブレーキ制御手段は、前記電動モータでのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、前記マスターシリンダの下流に配置した前記カットバルブにより液路を閉じ、前記電動モータへの印加電流を下げ、前記ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向とは逆方向に戻す。
【発明の効果】
【0008】
よって、全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、電動ブレーキ制御手段において、マスターシリンダの下流に配置したカットバルブにより液路が閉じられ、電動モータへの印加電流が下げられ、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトがアシスト方向とは逆方向に戻される。
すなわち、全負荷点のペダル保持状態において、マスターシリンダの下流の液路を閉じることで、ボールねじ可動シャフトの戻し制御が行われたとしても、液路を閉じたときのマスターシリンダ圧(出力液圧)が維持される。これに伴いペダル踏力の変動が抑えられ、安定したペダル保持状態が確保される。
そして、電動モータへの印加電流を下げ、ボールねじ可動シャフトを戻すことで、消費電流を下げた分だけ再踏み込みのときに使用できるモータ電流を確保しつつ、再踏み込みのときにボールねじ機構の動摩擦状態を実現するための助走区間が確保される。つまり、次の再踏み込みに備え、再踏み込み時における踏力−液圧特性の横流れの原因である“モータ電流不足”と“ボールねじ機構の静止”を取り除くことができる状態を予め作り出して待機する。
この結果、全負荷点にてブレーキペダルを保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の電動ブレーキ制御システムを示す全体システム図である。
【図2】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットを示す断面図である。
【図3】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキコントローラにて実行される電動ブレーキ制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図4】比較例の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキ操作前の電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図5】比較例の電動ブレーキ制御システムにおける全負荷点での電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図6】比較例の電動ブレーキ制御システムにおけるフルストロークでの電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図7】比較例の電動ブレーキ制御システムによる全負荷点以降で横流れ特性がみられる踏力(入力)と液圧(出力)の関係を示す踏力−液圧特性図である。
【図8】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキ操作前の電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図9】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける全負荷点への到達時点での電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図10】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける全負荷点への到達後に制御が加わったときの電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図11】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットに採用された皿バネの皿バネ特性とコイルバネ特性の比較を示す特性対比図である。
【図12】実施例1の電動ブレーキ制御システムによる全負荷点までの倍力特性と全負荷点以降の非倍力特性による踏力(入力)と液圧(出力)の関係を示す踏力−液圧特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電動ブレーキ制御システムを実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、電動車両(電気自動車、ハイブリッド車、等)に適用された実施例1の電動ブレーキ制御システムを示す。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1の電動ブレーキ制御システムは、図1に示すように、ドライバー操作入力部材1と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、ブレーキコントローラ7と、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8と、前輪左ホイールシリンダ9FLと、前輪右ホイールシリンダ9FRと、後輪左ホイールシリンダ9RLと、後輪右ホイールシリンダ9RRと、を備えている。なお、ドライバー操作入力部材1と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、を一体に構成することにより電動型制御ブレーキユニットAが構成される。
【0013】
前記ドライバー操作入力部材1は、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を電動型制御ブレーキユニットAに対して入力する入力部材である。このドライバー操作入力部材1は、図1に示すように、ブレーキペダル10と、クレビスピン11と、クレビス12と、インプットロッド13と、を有する。そして、ドライバーがブレーキペダル10にペダル踏力を加えると、クレビスピン11およびクレビス12を介してインプットロッド13に伝達され、インプットロッド13を図1の左方向にストロークさせる。
【0014】
前記電動ブースタ3は、ブレーキ操作時、電気的に発生させた力を用いてペダル踏力をアシストすることができる電動倍力装置である。この電動ブースタ3は、図1に示すように、電動モータ30を有する。そして、ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、後述するボールねじ機構36(図2)を介して軸方向のアシスト推力に変換する。
【0015】
前記マスターシリンダ5は、ブレーキ操作時、液圧ピストンへ加えられる入力をマスターシリンダ圧に変換するシリンダ部材である。このマスターシリンダ5は、図1に示すように、ブレーキ作動油を溜めるリザーブタンク50を有する。そして、ブレーキ操作時、ペダル踏力に電動ブースタ3によるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、リザーブタンク50からのポートを閉じてマスターシリンダ圧(プライマリ液圧、セカンダリ液圧)を発生させる。
【0016】
前記ブレーキコントローラ7は、制動力が必要な様々の場面で電動ブースタ3の電動モータ30やABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各ソレノイドに対し制御指令を出力する電子制御装置である。このブレーキコントローラ7には、図1に示すように、ペダルストロークセンサ70、レゾルバ71、マスターシリンダ圧センサ72、等から制御必要情報が入力される。そして、制御必要情報に基づき演算処理が行われ、演算処理結果による制御指令が、電動モータ30やABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各ソレノイドに対し出力される。
【0017】
前記ペダルストロークセンサ70は、電動型制御ブレーキユニットAが固定されるダッシュパネルに対するインプットロッド13の絶対変位量を検出するポテンショメータである。前記レゾルバ71は、電動モータ30の回転角度を検出する回転角センサである。なお、レゾルバ71からのセンサ情報は、モータ回転情報としてだけでなく、アシスト部材の相対変位量情報としても用いられる。前記マスターシリンダ圧センサ72は、プライマリ液圧の油圧レベルを検出する。
【0018】
前記ABSブレーキ液圧アクチュエータ8は、図1に示すように、電動型制御ブレーキユニットAと各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRとの間に介装され、各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRへのブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)を独立に制御する。このABSブレーキ液圧アクチュエータ8と電動型制御ブレーキユニットAとは、プライマリ液圧配管61とセカンダリ液圧配管62により接続されている。そして、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8と各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRとは、X配管構成による左前輪圧配管63と右前輪圧配管64と左後輪圧配管65と右後輪圧配管66により接続されている。
【0019】
前記ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各構成要素を説明する。ABSブレーキ液圧アクチュエータ8は、図1に示すように、2つの液圧ポンプ80,80と、1つのポンプモータ81と、4つのABSインバルブ82,82,82,82と、4つのABSアウトバルブ83,83,83,83と、を有する。そして、2つのカットバルブ84,84と、2つのサクションバルブ85,85と、2つのリザーバ86,86と、2つのダンパ87,87と、を有する。
【0020】
前記液圧ポンプ80,80は、減圧によりリザーバ86内に貯えられたブレーキ液をマスターシリンダ5に戻す。前記ポンプモータ81は、ブレーキコントローラ7から送られてくる駆動指令により液圧ポンプ80を駆動させる。前記ABSインバルブ82,82,82,82は、ブレーキコントローラ7から送られてくるソレノイド指令により、増圧または保持の油圧経路に切り替える。前記ABSアウトバルブ83,83,83,83は、ブレーキコントローラ7から送られてくるソレノイド指令により、増圧または保持または減圧の油圧経路に切り替える。
【0021】
前記カットバルブ84,84は、VDC機能・TCS機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、マスターシリンダ5からの通常ブレーキ経路を遮断する。前記サクションバルブ85,85は、VDC機能・TCS機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、マスターシリンダ5から液圧ポンプ80への経路を開放する。前記リザーバ86,86は、減圧時、各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RR内から抜いたブレーキ液を一時的に貯えておく。前記ダンパ87,87は、VDC機能・TCS機能・ABS機能・EBD機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、ブレーキ液の脈動を抑え、ブレーキペダル10に伝わる振動を弱める。
【0022】
前記各ホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRは、前後各輪のブレーキディスクのキャリパに設定され、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8からのブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が印加される。そして、各ホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,8RRへのブレーキ液圧の印加時、ブレーキパットによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0023】
図2は、実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットAを示す。以下、図2に基づいて、電動型制御ブレーキユニットAの構成要素であるドライバー操作入力部材1、電動ブースタ3、マスターシリンダ5の具体的構成を説明する。
【0024】
前記ドライバー操作入力部材1は、図2に示すように、インプットロッド13と、インプットピストン14と、一対のコイルスプリング15,16と、を備えている。
【0025】
前記インプットロッド13は、ブレーキペダル10が連結されたペダル踏力伝達部材である。つまり、ドライバーがブレーキペダル10に対しペダル踏力を加えると、インプットロッド13にペダル踏力が伝達され、インプットロッド13を図2の左方向にストロークさせる。
【0026】
前記インプットピストン14は、マスターシリンダ5のプライマリピストン51の内側位置まで延在配置されたペダル踏力伝達部材である。このインプットピストン14は、インプットロッド13に対して球面結合により同軸上に連結され、インプットロッド13と一体に追従して進退動作をする。
【0027】
前記一対のコイルスプリング15,16は、インプットピストン14のフランジ部と、マスターシリンダ5のプライマリピストン51と、の間に介装され、ブレーキ非操作時、インプットピストン14を付勢中立位置に保つ。すなわち、ブレーキ操作時において、インプットピストン14には、図2の右方向にピストン端面の受圧面積とプライマリ液圧による液圧反力が作用し、図2の左方向にペダル踏力が作用する。加えて、ブレーキ操作時にコイルスプリング15,16の相対変位量があるときは、インプットピストン14に対し、コイルスプリング15,16の相対変位量とバネ定数に応じたバネ力が、図2の右方向あるいは左方向に作用する。
【0028】
前記電動ブースタ3は、図2に示すように、電動モータ30と、ブースタハウジング31と、ハウジングカバー32と、バネ受けカバー33と、軸受け34,35と、ボールねじ機構36と、リターンスプリング37と、皿バネ38(弾性体)と、を備えている。
【0029】
前記ブースタハウジング31は、ドライバー操作入力部材1側にハウジングカバー32が油密状態でボルト40により固定され、マスターシリンダ5側にバネ受けカバー33が連結プレート41を介してボルト・ナット42により油密状態で固定される。そして、ハウジングカバー32に設けたスタッドボルト43により、3部品構成によるハウジング部材が図外のダッシュパネルに固定される。
【0030】
前記電動モータ30は、前記ハウジング部材に内蔵され、ハウジングカバー32に固定されたモータステータ30aと、モータステータ30aに対しエアギャップを介して配置されたモータロータ30bと、により構成される。モータステータ30aは、積層板によるステータティースにモータコイルが巻き付けられている。モータロータ30bは、永久磁石を有する中空円筒状部材であり、軸受け34,35を介し、ブースタハウジング31とハウジングカバー32に回転可能に支持されている。この電動モータ30の隣接位置には、レゾルバステータ71aとレゾルバロータ71bにより構成されたレゾルバ71が配置されている。
【0031】
前記ボールねじ機構36は、電動モータ30の回転力を、軸方向のアシスト推力に変換する機構であり、ボールねじ固定シャフト36aと、ボール36bと、ボールねじ可動シャフト36cと、を有して構成される。ボールねじ固定シャフト36aは、モータロータ30bに固定され、モータロータ30bと共に回転するが、軸方向の移動が規制された軸方向固定部材である。ボール36bは、ボールねじ固定シャフト36aの内周面に形成された半円螺旋溝と、ボールねじ可動シャフト36cの外周面に形成された半円螺旋溝に複数個介装される。ボールねじ可動シャフト36cは、バネ受けカバー33に対しリターンスプリング37からの付勢力を受けて配置され、回転動作は規制されるが、軸方向に移動可能な軸方向可動部材である。このボールねじ可動シャフト36cのフランジ面と、マスターシリンダ5のプライマリピストン51の端面と、の対向面間には、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる非線形特性を持つ皿バネ38が介装されている。
【0032】
前記マスターシリンダ5は、図2に示すように、リザーバタンク50と、プライマリピストン51(液圧ピストン)と、セカンダリピストン52(液圧ピストン)と、シリンダハウジング53と、ポートシリンダ54と、連動スプリング55と、プライマリリターンスプリング56と、セカンダリリターンスプリング57と、を備えている。
【0033】
前記リザーバタンク50は、ブレーキ液を貯えているタンクであり、シリンダハウジング53に固定されている。リザーバタンク50内の液室は、ブレーキ非操作時、プライマリピストン51により形成されるプライマリ液圧室58と、セカンダリピストン52により形成されるセカンダリ液圧室59に対しポートを介して連通している。ブレーキ操作時には、プライマリピストン51とセカンダリピストン52の図2の左方向へのストロークによりポート連通を遮断し、ピストン推力に応じてプライマリ液圧とセカンダリ液圧を上昇させる。なお、ポートは、プライマリピストン51、セカンダリピストン52、シリンダハウジング53、ポートシリンダ54の必要位置に形成されている。
【0034】
前記プライマリピストン51は、ブレーキ非操作時、プライマリリターンスプリング56による付勢力により、図2に示すように、ポート連通位置に配置される。そして、ブレーキ操作時には、インプットピストン14から一対のコイルスプリング15,16を介してドライバーのペダル踏力が与えられると共に、ボールねじ可動シャフト36cから皿バネ38を介してアシスト推力が与えられる。このペダル踏力とアシスト推力の総和が、プライマリピストン51へのピストン推力になる。
【0035】
前記セカンダリピストン52は、ブレーキ非操作時、セカンダリリターンスプリング57による付勢力により、図2に示すように、ポート連通位置に配置される。そして、ブレーキ操作時には、連動スプリング55を介して、プライマリピストン51からペダル踏力とアシスト推力が与えられる。このペダル踏力とアシスト推力の総和が、セカンダリピストン52へのピストン推力になる。
【0036】
図3は、実施例1のブレーキコントローラ7にて実行される電動ブレーキ制御処理の構成および流れを示す(電動ブレーキ制御手段)。以下、図3の各ステップについて説明する。この電動ブレーキ制御処理は、等倍制御によるブレーキ踏み込み操作時に開始され、ブレーキ戻し操作が行われたとき、あるいは、ブレーキ踏み込み操作によりフルストロークまで達したことにより終了する。
【0037】
ステップS1では、ブレーキ操作の有無をあらわすブレーキスイッチ信号等により、ブレーキ操作開始であるか否かを判断する。YES(ブレーキ操作開始)の場合はステップS2へ進み、NO(ブレーキ非操作状態)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
【0038】
ステップS2では、ステップS1でのブレーキ操作開始であるとの判断、あるいは、ステップS3での全負荷点保持条件不成立であるとの判断に続き、電動モータ30への回転駆動指令により、一定の倍力比を得るアシスト推力によりペダル踏力を倍力させる等倍制御を実行し、ステップS3へ進む。
この等倍制御の実行中は、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8のカットバルブ84,84は、図1に示すように開いた状態である。
【0039】
ステップS3では、ステップS2での等倍制御の実行に続き、電動モータ30でのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態であるという全負荷点保持条件が成立するか否かを判断する。YES(全負荷点保持条件成立)の場合はステップS4へ進み、NO(全負荷点保持条件不成立)の場合はステップS2へ戻る。
ここで、全負荷点は、電動モータ30が既にフル電流域(例えば、40A域)の電流を消費している状態であるか否かにより判断する。ペダル保持状態は、ペダルストロークセンサ70からのペダルストローク信号が変化しないままで、所定のペダル保持判断時間を経過したか否かにより判断する。そして、全負荷点であり、かつ、ペダル保持状態と判断されたとき、全負荷点保持条件が成立したとする。
【0040】
ステップS4では、ステップS3での全負荷点保持条件成立であるとの判断に続き、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の開いているカットバルブ84,84を閉じる指令を出力し、ステップS5へ進む。
【0041】
ステップS5では、ステップS4でのカットバルブ84,84を閉じる指令出力、あるいは、ステップS6でのペダル再踏み込み状態非検出であるとの判断に続き、電動モータ30への印加電流を低下させる指令を出力し、ステップS6へ進む。
ここで、電動モータ30への印加電流を低下させる指令は、ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向とは逆方向に戻すストロークを生じさせる指令とする。
【0042】
ステップS6では、ステップS5でのモータ印加電流低下指令出力に続き、全負荷点でのペダル保持状態から、ブレーキペダル10の再踏み込み状態へ移行したか否かを判断する。YES(ペダル再踏み込み状態への移行検出)の場合はステップS7へ進み、NO(ペダル再踏み込み状態への移行非検出)の場合はステップS5へ戻る。
【0043】
ステップS7では、ステップS6でのペダル再踏み込み状態への移行検出との判断に続き、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の閉じているカットバルブ84,84を直ちに開く指令を出力し、ステップS8へ進む。
【0044】
ステップS8では、ステップS7でのカットバルブ84,84を開く指令出力、あるいは、ステップS9でのフルストローク未達であるとの判断に続き、ペダル再踏み込み状態への移行検出に連動して電動モータ30への印加電流を上昇させる指令を出力し、ステップS9へ進む。
【0045】
ステップS9では、ステップS8でのモータ印加電流の上昇指令出力に続き、ペダルストロークがフルストロークに達したか否かを判断する。YES(フルストローク到達)の場合はエンドへ進み、NO(フルストローク未達)の場合はステップS8へ戻る。
【0046】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける作用を、「ブレーキ操作時における全負荷点までの電動ブレーキ制御作用」、「全負荷点ペダル保持状態における電動ブレーキ制御作用」、「全負荷点ペダル保持状態における皿バネ作用」、「ペダル再踏み込み状態における電動ブレーキ制御作用」に分けて説明する。
【0047】
[比較例の課題]
特開2009−154814号公報に示される電動倍力装置を比較例とする。
比較例の電動倍力装置の特徴は、ボールねじ機構を静止させると、それまでの動摩擦状態から静摩擦状態に切り替わるため、ボールねじ機構による回転動作から直線動作への変換効率が低下する。つまり、ボールねじ機構を静止させた状態から動き出すまでは、静摩擦状態であることより、ボールねじ機構が動いている動摩擦状態での電流より大きな電流を必要とする。
【0048】
このため、比較例の電動倍力装置において、電動モータでのアシスト限界点である全負荷点でボールねじ機構を静止させると、すでにフル電流(例えば、40A)を消費している状態なので、踏力(入力)−液圧(出力)特性が横流れする、という課題がある。
【0049】
すなわち、図4に示すブレーキ非操作状態からブレーキペダルを踏み込んで、図5に示す電動モータでのアシスト限界点である全負荷点で保持(=液圧を一定に保持)した状態とする。この全負荷点ペダル保持状態のとき、図5の右方向にインプットピストンの受圧面積とプライマリ液圧を掛け合わせた液圧反力が作用する。一方、液圧反力は、インプットロッドから加わるドライバーのペダル踏力と、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトによる静摩擦抵抗力と、の双方で分担して受け持ち、図5に示す全負荷点状態で力のバランスを保つ。
【0050】
この図5に示す全負荷点ペダル保持状態から、ドライバーがブレーキペダルの再踏み込み操作を行うと、ドライバーに加えられるペダル踏力の増加分は、ボールねじ可動シャフトによる静摩擦抵抗力を減少させる力として用いられる。つまり、ボールねじ機構が静摩擦状態から動摩擦状態へと移行するまでのギャップ分をペダル踏力のみでカバーする必要があるため、ペダル踏力を増加させてもプライマリピストンを押し込む力とはならず、ブレーキ液圧は上昇しない。したがって、図7に示すように、ペダル踏力(入力)に対するブレーキ液圧(出力)の特性のうち、全負荷点ペダル保持状態でのペダル踏力F1から静摩擦抵抗力を上回るペダル踏力F2となるまで、ブレーキ液圧が変化せずに横這いのままで推移する横流れ特性を示す。
【0051】
そして、ペダル踏力の増加分が静摩擦抵抗力を上回ってペダル踏力F2になると、全負荷点でのブレーキ液圧P1からブレーキ液圧P2まで一気に立ち上がり、その後、図7に示すように、アシスト性能が無く、ペダル踏力の上昇に比例する特性によりブレーキ液圧が緩上昇する。そして、ペダル踏力がペダル踏力最大値Fmaxになり、フルストロークに達すると、図6に示すように、プライマリピストンとセカンダリピストンのストロークが規制され、ブレーキ液圧はブレーキ液圧最大値Pmaxになる。
【0052】
以上のように、比較例の電動倍力装置は、全負荷点における踏力−液圧特性の横流れ対策が必要である。これに対し、電動モータに印加する電流にディザをかけ、ボールねじ可動シャフトを常に微小振動させることで、静止状態を作らない。つまり、ボールねじ可動シャフトの静摩擦状態を作らず、常に動摩擦状態で待機することが考えられる。しかし、この場合、微小振動による音振への跳ね返りがあり、ブレーキペダルの保持中、常に異音が発生するという問題が発生することで実用性に乏しい。
【0053】
[ブレーキ操作時における全負荷点までの電動ブレーキ制御作用]
ブレーキ操作時において、全負荷点に達するまでは、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、ステップS2にて等倍制御が実行される。そして、ステップS3にて全負荷点でペダル保持状態であると判断されるまで、ステップS2→ステップS3へと進む流れが繰り返され、等倍制御の実行が維持される。
【0054】
すなわち、図8に示すブレーキ非操作状態から、ブレーキペダル10を踏み込み、ペダル踏力によりインプットロッド13およびインプットピストン14を前進動作させる。このインプットピストン14の前進動作に応じて電動モータ30を回転させると、その回転動作がボールねじ機構36により直線動作に変換され、アシスト推力がプリマリピストン51に伝達される。そして、ブレーキ操作に伴うペダル踏力とアシスト推力により、プリマリピストン51およびセカンダリピストン52が前進し、プライマリ液圧がプライマリ液圧室58にて発生し、セカンダリ液圧がセカンダリ液圧室59にて発生する。
【0055】
このとき、ブレーキ液圧を増加させる方向(フロント側)へプリマリピストン51を相対変位させるように電動モータ30の回転を制御すると、アシスト推力が加わることにより倍力比が大きくなり、電動モータ30によるブレーキアシスト作用が実現される。つまり、一定の倍力比を維持するように電動モータ30の回転を制御することで、等倍制御作用が実現されることになる。この等倍制御時、ブレーキ液圧の増大に伴ってブレーキペダル10への反力(ペダル反力)が増大しようとする。しかし、プリマリピストン51のフロント側への相対変位に応じて一対のコイルスプリング15,16のうち、ブレーキペダル10側(リヤ側)のコイルスプリング16のバネ力が増大するので、このバネ力によってペダル反力の増大分が相殺される。このペダル反力調整作用によって、等倍制御実行中のペダルフィーリングを改善することができる。
【0056】
なお、ブレーキ液圧を減少させる方向(リヤ側)へプリマリピストン51を相対変位させるように電動モータ30の回転を制御すると、倍力比(=制動力)が減少し、回生制動時の回生協調動作を実現することができる。このとき、一対のコイルスプリング15,16のうち、コイルスプリング15のバネ力が増大するので、このバネ力によってペダル反力の減少分が相殺され、回生協調制御中のペダルフィーリングを改善することができる。
【0057】
[全負荷点ペダル保持状態における電動ブレーキ制御作用]
ブレーキ操作時、全負荷点でペダル保持状態を検出すると、図3のフローチャートにおいて、ステップS3からステップS4→ステップS5→ステップS6へと進む。そして、ステップS4にてカットバルブ84,84を閉じる指令が出力され、ステップS5にて電動モータ30への印加電流を低下する指令が出力される。そして、ステップS6にてペダル再踏み込み状態と判断されるまで、ステップS5→ステップS6へと進む流れが繰り返され、電動モータ30への印加電流を低下する指令の出力が維持される。
【0058】
すなわち、図9に示すように、全負荷点にてペダル保持状態において、マスターシリンダ5の下流に配置したカットバルブ84,84により液路を閉じることで、ペダル保持時点のマスターシリンダ圧(出力液圧)が維持される。
この全負荷点ペダル保持状態のとき、図9の右方向にインプットピストン14の受圧面積とプライマリ液圧を掛け合わせた液圧反力が作用するが、プライマリ液圧を一定圧に維持することで、液圧反力の変動が解消される。したがって、変動する液圧反力をペダル踏力により受け持つときのようなペダル操作違和感をドライバーに与えることなく、ペダル踏力の変動を抑えた安定したペダル保持状態が確保される。特に、全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、ボールねじ可動シャフト36cをブレーキペダル10側(リヤ側)に戻す制御を行うが、このボールねじ可動シャフト36cの戻し動作に対しても、プライマリ液圧の変動が抑えられ、安定したペダル保持状態が確保される。
【0059】
そして、全負荷点にてペダル保持状態において、電動モータ30への印加電流を下げ、図10に示すように、ボールねじ可動シャフト36cをブレーキペダル10側(リヤ側)に戻す。これにより、電動モータ30での消費電流を下げた分だけ再踏み込みのときに使用できるモータ電流を確保しつつ、再踏み込みのときにボールねじ機構36の動摩擦状態を実現するための助走区間が確保される。つまり、ボールねじ可動シャフト36cを戻したストローク分が、ペダル再踏み込み時、全負荷点をボールねじ可動シャフト36cが駆け抜けるための助走区間となる。このように、全負荷点のペダル保持状態において、次のペダル再踏み込み操作に備え、再踏み込み時における踏力−液圧特性の横流れの原因である“モータ電流不足”と“ボールねじ機構36の静止”を取り除くことができる状態を予め作り出して待機する。
【0060】
上記のように、実施例1では、全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、マスターシリンダ5の下流の液路を閉じ、電動モータ30への印加電流を下げ、ボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向とは逆方向に戻す制御を行う構成を採用した。
したがって、全負荷点にてブレーキペダル10を保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングが改善される。
【0061】
[全負荷点ペダル保持状態における皿バネ作用]
上記のように、ブレーキペダル10の踏み込み位置を保持しつつ、ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cを戻す動作を行うと、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51が離れる。その結果、ボールねじ可動シャフト36cが受け持っていた液圧反力を、全てペダル踏力で受け持つことになるため、ドライバーのペダル踏力が急に高まるし、ペダル踏力ではカバーできないことがある。
【0062】
そこで、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51の間に、非線形なバネ特性をもった皿バネ38を挟み込む。この皿バネ38は、全負荷点付近で潰れ切るような最大域の縮み状態となり、ボールねじ可動シャフト36cを戻した際、戻し分をバネ力の低下を抑える接触を維持しながら伸びるような設計配置とした。
【0063】
したがって、ボールねじ可動シャフト36cを戻した際にも、図10に示すように、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51の接触を確保でき、図10の右方向に作用する液圧反力を、ペダル踏力とボールねじ可動シャフト36cによる支持力の双方で受け持つ構成とすることができる。
【0064】
この構成により、液圧反力をペダル踏力とボールねじ可動シャフト36cによる支持力の双方で受け持つことで、液圧反力を全てペダル踏力で受け持つ場合のように、ボールねじ可動シャフト36cが戻し動作により離れた時点でペダル踏力が急上昇するのが抑えられる。加えて、非線形なバネ特性をもった皿バネ38を採用したことで、ボールねじ可動シャフト36cの戻し量が増加しても、ボールねじ可動シャフト36cによる支持力の変化が小さく抑えられ、ペダル踏力の変動が小さく抑えられる。
【0065】
つまり、コイルバネの場合、図11の点線特性に示すように、バネ定数が一定の線形によるコイルバネ特性となり、例えば、最大縮み変位Xmaxから縮み変位X1までボールねじ可動シャフトが戻ると、バネ力はΔF'の変化幅で変化する。これに対し、皿バネ38の場合、図11の実線特性に示すように、荷重(=縮み変位X)が増えるほどバネ定数が小さくなる非線形による皿バネ特性となり、例えば、最大縮み変位Xmaxから縮み変位X1までボールねじ可動シャフト36cが戻ったとしても、バネ力はΔF(<ΔF')の変化幅に抑えられる。
【0066】
上記のように、実施例1では、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51の間に、非線形特性の皿バネ38を介装し、液圧反力を、ペダル踏力と、皿バネ38を介したボールねじ可動シャフト36cの支持力と、の双方にて受け持つ構成を採用した。
この構成により、ボールねじ可動シャフト36cの戻しによりペダル踏力が急上昇するのが抑えられるばかりでなく、ボールねじ可動シャフト36cの戻し量が増加しても、ペダル踏力の変動が小さく抑えられる。
したがって、全負荷点ペダル保持状態で、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51が離れるボールねじ可動シャフト36cの戻し制御を行うにもかかわらず、ペダル踏力が変化するのが抑制される。
【0067】
[ペダル再踏み込み状態における電動ブレーキ制御作用]
全負荷点でペダル保持状態から、ペダル再踏み込みを検出すると、図3のフローチャートにおいて、ステップS6からステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む。ステップS7にてカットバルブ84,84を開く指令を出力し、ステップS8にて電動モータ30への印加電流の上昇指令を出力する。そして、フルストロークに到達したと判断されるまで、ステップS8→ステップS9へと進む流れが繰り返され、電動モータ30への印加電流の上昇指令の出力が維持される。
【0068】
したがって、ボールねじ機構36を戻す途中でペダル再踏み込みが実施された場合は、直ちにボールねじ機構36の戻し動作を止め、ペダル踏み込みを優先することで、全負荷点でペダル保持することのないブレーキ操作と同様の踏力−液圧特性が実現される。
【0069】
すなわち、ペダル再踏み込みに連動して閉じていた液路を開き、ペダル再踏み込みに備えて確保されているモータ電流を用いて電動モータ30を回転させ、ボールねじ機構36を進めてプライマリピストン51を押し出すように制御される。これにより、ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cが、図10に示す戻し位置から助走を付けてプライマリピストン51を押し出し、全負荷点を通過するときにボールねじ機構36の動摩擦状態が作り出される。
【0070】
そして、ボールねじ機構36が動摩擦状態を維持しながら全負荷点を通過した後は、インプットピストン14とプリマリピストン51との間に相対変位が生じないように電動モータ30の回転が制御される。このモータ回転制御により、両ピストン14,51の間に介装した一対のコイルスプリング15,16が付勢中立位置を維持する。この全負荷点通過後の倍力比は、相対変位量がゼロであることで、インプットピストン14の受圧面積とプリマリピストン51の受圧面積との面積比で一義的に決まる。
【0071】
よって、全負荷点でのペダル保持状態から再踏み込みが行われたときの踏力−液圧特性は、図12に示すように、全負荷点でのペダル保持にかかわらず、横流れ特性が改善される。つまり、全負荷点までの等倍制御による倍力比の大きなアシスト特性と、全負荷点以降のペダル踏力に依存する倍力比の小さな非アシスト特性と、が連続的に繋がる。
【0072】
上記のように、実施例1では、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みを検出すると、ペダル再踏み込みに連動して閉じている液路を開放し、電動モータ30への印加電流を上げ、ボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向に進めてプライマリピストン51を押し出す構成を採用した。
したがって、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みにかかわらず、予め確保してあるモータ電流を用いてボールねじ機構36を動摩擦状態とすることで、踏力−液圧特性の横流れが改善される。
【0073】
次に、効果を説明する。
実施例1の電動ブレーキ制御システムにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0074】
(1) ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加えるブレーキペダル10と、
ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、ボールねじ機構36を介して軸方向のアシスト推力に変換する電動ブースタ3と、
前記ペダル踏力に前記電動ブースタ3によるアシスト推力を加えた力により液圧ピストン(プライマリピストン51、セカンダリピストン52)を押し、マスターシリンダ圧を発生させるマスターシリンダ5と、
前記マスターシリンダ5から各輪に設けられたホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRに至る液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)の途中位置に設けられ、液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)の開閉制御を行うカットバルブ84,84と、
前記電動モータ30でのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、前記マスターシリンダ5の下流に配置した前記カットバルブ84,84により液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)を閉じ、前記電動モータ30への印加電流を下げ、前記ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向とは逆方向に戻す電動ブレーキ制御手段(図3のステップS3〜ステップS5)と、
を備える。
このため、全負荷点にてブレーキペダル10を保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善することができる。
【0075】
(2) 前記電動ブースタ3は、前記ボールねじ可動シャフト36cと前記液圧ピストン(プライマリピストン51)との間に、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる弾性体(皿バネ38)を介在させた。
このため、(1)の効果に加え、全負荷点ペダル保持状態で、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51が離れるボールねじ可動シャフト36cの戻し制御を行うにもかかわらず、ペダル踏力が変化するのを抑制することができる。
【0076】
(3) 前記電動ブレーキ制御手段(図3)は、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みを検出すると、ペダル再踏み込みに連動して前記カットバルブ84,84により閉じている液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)を開放し、前記電動モータ30への印加電流を上げ、前記ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向に進めて前記液圧ピストン(プライマリピストン51)を押し出す(ステップS6〜ステップS8)。
このため、(1)または(2)の効果に加え、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みにかかわらず、予め確保してあるモータ電流を用いてボールねじ機構36を動摩擦状態とすることで、踏力−液圧特性の横流れを改善することができる。
【0077】
以上、本発明の電動ブレーキ制御システムを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0078】
実施例1では、電動ブースタ3として、インプットロッド13と同軸配置による電動モータ30を備える例を示した。しかし、電動ブースタとしては、電動モータをハウジングの外部配置とする例としても良い。
【0079】
実施例1では、カットバルブ84,84として、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8に内蔵されているソレノイドバルブを利用する例を示した。しかし、カットバルブとして、ABSブレーキ液圧アクチュエータ以外のVDCブレーキ液圧アクチュエータ等に内蔵されているソレノイドバルブを利用する例としても良い。また、マスターシリンダから各輪に設けられたホイールシリンダに至る液路の途中位置に、新たに付加したカットバルブを用いる例であっても良い。
【0080】
実施例1では、ボールねじ可動シャフトと液圧ピストンとの間に介在させる弾性体として、皿バネ38を用いる例を示した。しかし、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる特性を有する弾性体であれば、皿バネ以外の単体構造による弾性体や複合構造による弾性体を用いる例であっても良い。
【0081】
実施例1では、本発明の電動ブレーキ制御システムを電動車両に適用した例を示した。しかし、電動型制御ブレーキユニットを備えたエンジン車に対しても勿論適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
A 電動型制御ブレーキユニット
1 ドライバー操作入力部材
10 ブレーキペダル
3 電動ブースタ
30 電動モータ
36 ボールねじ機構
36a ボールねじ固定シャフト
36b ボール
36c ボールねじ可動シャフト
38 皿バネ(弾性体)
5 マスターシリンダ
51 プライマリピストン(液圧ピストン)
52 セカンダリピストン(液圧ピストン)
61 プライマリ液圧配管(液路)
62 セカンダリ液圧配管(液路)
7 ブレーキコントローラ
8 ABSブレーキ液圧アクチュエータ
84,84 カットバルブ
9FL 前輪左ホイールシリンダ
9FR 前輪右ホイールシリンダ
9RL 後輪左ホイールシリンダ
9RR 後輪右ホイールシリンダ
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作時、電動ブースタを倍力装置としてホイールシリンダへのブレーキ液圧を作り出す電動ブレーキ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキ操作時、ドライバーによるペダル踏力と、電動ブースタによるアシスト推力と、をプライマリピストンとセカンダリピストンへ入力し、ホイールシリンダへのブレーキ液圧(マスターシリンダ圧)を発生させる電動倍力装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来の電動倍力装置において、ドライバーのペダル踏力は、インプットロッドおよびインプットピストンから、一対のコイルバネを介してプライマリピストンへと入力される。一方、アシスト推力は、電動モータの回転力を軸方向の力に変換するボールねじ機構により生成され、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトからプライマリピストンへと入力される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−154814号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の電動倍力装置にあっては、ブレーキペダルを踏み込んで定位置で保持(=液圧を一定に保持)した状態から、ブレーキペダルを踏み上げてブレーキ液圧を上昇させる際、ボールねじ機構に静摩擦係数が働くことになり、ボールねじ機構の変換効率が低下する。このため、ブレーキペダルを定位置に保持している状態からボールねじ機構を駆動させる必要電流は、ブレーキペダル位置が変動している状態でボールねじ機構を駆動させる電流よりも大きくなる。よって、フル電流を消費している全負荷点(電動モータでのアシスト限界点)でのペダル保持状態から踏み上げ操作を行うときは、ボールねじ機構が静摩擦状態から動摩擦状態へと移行するまでのギャップ分をペダル踏力のみでカバーする必要がある。したがって、全負荷点以降において、ペダル踏力がギャップ分を上回るまでは液圧が上昇せず、ペダル踏力(入力)に対するブレーキ液圧(出力)の特性が横流れする、という問題があった。
【0006】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、全負荷点にてブレーキペダルを保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善することができる電動ブレーキ制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の電動ブレーキ制御システムは、ブレーキペダルと、電動ブースタと、マスターシリンダと、カットバルブと、電動ブレーキ制御手段と、を備える手段とした。
前記ブレーキペダルは、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加える。
前記電動ブースタは、ブレーキ操作時、電動モータの回転力を、ボールねじ機構を介して軸方向のアシスト推力に変換する。
前記マスターシリンダは、前記ペダル踏力に前記電動ブースタによるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、マスターシリンダ圧を発生させる。
前記カットバルブは、前記マスターシリンダから各輪に設けられたホイールシリンダに至る液路の途中位置に設けられ、液路の開閉制御を行う。
前記電動ブレーキ制御手段は、前記電動モータでのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、前記マスターシリンダの下流に配置した前記カットバルブにより液路を閉じ、前記電動モータへの印加電流を下げ、前記ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向とは逆方向に戻す。
【発明の効果】
【0008】
よって、全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、電動ブレーキ制御手段において、マスターシリンダの下流に配置したカットバルブにより液路が閉じられ、電動モータへの印加電流が下げられ、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトがアシスト方向とは逆方向に戻される。
すなわち、全負荷点のペダル保持状態において、マスターシリンダの下流の液路を閉じることで、ボールねじ可動シャフトの戻し制御が行われたとしても、液路を閉じたときのマスターシリンダ圧(出力液圧)が維持される。これに伴いペダル踏力の変動が抑えられ、安定したペダル保持状態が確保される。
そして、電動モータへの印加電流を下げ、ボールねじ可動シャフトを戻すことで、消費電流を下げた分だけ再踏み込みのときに使用できるモータ電流を確保しつつ、再踏み込みのときにボールねじ機構の動摩擦状態を実現するための助走区間が確保される。つまり、次の再踏み込みに備え、再踏み込み時における踏力−液圧特性の横流れの原因である“モータ電流不足”と“ボールねじ機構の静止”を取り除くことができる状態を予め作り出して待機する。
この結果、全負荷点にてブレーキペダルを保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の電動ブレーキ制御システムを示す全体システム図である。
【図2】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットを示す断面図である。
【図3】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキコントローラにて実行される電動ブレーキ制御処理の構成および流れを示すフローチャートである。
【図4】比較例の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキ操作前の電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図5】比較例の電動ブレーキ制御システムにおける全負荷点での電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図6】比較例の電動ブレーキ制御システムにおけるフルストロークでの電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図7】比較例の電動ブレーキ制御システムによる全負荷点以降で横流れ特性がみられる踏力(入力)と液圧(出力)の関係を示す踏力−液圧特性図である。
【図8】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおけるブレーキ操作前の電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図9】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける全負荷点への到達時点での電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図10】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける全負荷点への到達後に制御が加わったときの電動型制御ブレーキユニットを示す作用説明図である。
【図11】実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットに採用された皿バネの皿バネ特性とコイルバネ特性の比較を示す特性対比図である。
【図12】実施例1の電動ブレーキ制御システムによる全負荷点までの倍力特性と全負荷点以降の非倍力特性による踏力(入力)と液圧(出力)の関係を示す踏力−液圧特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の電動ブレーキ制御システムを実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、構成を説明する。
図1は、電動車両(電気自動車、ハイブリッド車、等)に適用された実施例1の電動ブレーキ制御システムを示す。以下、図1に基づき全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1の電動ブレーキ制御システムは、図1に示すように、ドライバー操作入力部材1と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、ブレーキコントローラ7と、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8と、前輪左ホイールシリンダ9FLと、前輪右ホイールシリンダ9FRと、後輪左ホイールシリンダ9RLと、後輪右ホイールシリンダ9RRと、を備えている。なお、ドライバー操作入力部材1と、電動ブースタ3と、マスターシリンダ5と、を一体に構成することにより電動型制御ブレーキユニットAが構成される。
【0013】
前記ドライバー操作入力部材1は、ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を電動型制御ブレーキユニットAに対して入力する入力部材である。このドライバー操作入力部材1は、図1に示すように、ブレーキペダル10と、クレビスピン11と、クレビス12と、インプットロッド13と、を有する。そして、ドライバーがブレーキペダル10にペダル踏力を加えると、クレビスピン11およびクレビス12を介してインプットロッド13に伝達され、インプットロッド13を図1の左方向にストロークさせる。
【0014】
前記電動ブースタ3は、ブレーキ操作時、電気的に発生させた力を用いてペダル踏力をアシストすることができる電動倍力装置である。この電動ブースタ3は、図1に示すように、電動モータ30を有する。そして、ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、後述するボールねじ機構36(図2)を介して軸方向のアシスト推力に変換する。
【0015】
前記マスターシリンダ5は、ブレーキ操作時、液圧ピストンへ加えられる入力をマスターシリンダ圧に変換するシリンダ部材である。このマスターシリンダ5は、図1に示すように、ブレーキ作動油を溜めるリザーブタンク50を有する。そして、ブレーキ操作時、ペダル踏力に電動ブースタ3によるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、リザーブタンク50からのポートを閉じてマスターシリンダ圧(プライマリ液圧、セカンダリ液圧)を発生させる。
【0016】
前記ブレーキコントローラ7は、制動力が必要な様々の場面で電動ブースタ3の電動モータ30やABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各ソレノイドに対し制御指令を出力する電子制御装置である。このブレーキコントローラ7には、図1に示すように、ペダルストロークセンサ70、レゾルバ71、マスターシリンダ圧センサ72、等から制御必要情報が入力される。そして、制御必要情報に基づき演算処理が行われ、演算処理結果による制御指令が、電動モータ30やABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各ソレノイドに対し出力される。
【0017】
前記ペダルストロークセンサ70は、電動型制御ブレーキユニットAが固定されるダッシュパネルに対するインプットロッド13の絶対変位量を検出するポテンショメータである。前記レゾルバ71は、電動モータ30の回転角度を検出する回転角センサである。なお、レゾルバ71からのセンサ情報は、モータ回転情報としてだけでなく、アシスト部材の相対変位量情報としても用いられる。前記マスターシリンダ圧センサ72は、プライマリ液圧の油圧レベルを検出する。
【0018】
前記ABSブレーキ液圧アクチュエータ8は、図1に示すように、電動型制御ブレーキユニットAと各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRとの間に介装され、各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRへのブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)を独立に制御する。このABSブレーキ液圧アクチュエータ8と電動型制御ブレーキユニットAとは、プライマリ液圧配管61とセカンダリ液圧配管62により接続されている。そして、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8と各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRとは、X配管構成による左前輪圧配管63と右前輪圧配管64と左後輪圧配管65と右後輪圧配管66により接続されている。
【0019】
前記ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の各構成要素を説明する。ABSブレーキ液圧アクチュエータ8は、図1に示すように、2つの液圧ポンプ80,80と、1つのポンプモータ81と、4つのABSインバルブ82,82,82,82と、4つのABSアウトバルブ83,83,83,83と、を有する。そして、2つのカットバルブ84,84と、2つのサクションバルブ85,85と、2つのリザーバ86,86と、2つのダンパ87,87と、を有する。
【0020】
前記液圧ポンプ80,80は、減圧によりリザーバ86内に貯えられたブレーキ液をマスターシリンダ5に戻す。前記ポンプモータ81は、ブレーキコントローラ7から送られてくる駆動指令により液圧ポンプ80を駆動させる。前記ABSインバルブ82,82,82,82は、ブレーキコントローラ7から送られてくるソレノイド指令により、増圧または保持の油圧経路に切り替える。前記ABSアウトバルブ83,83,83,83は、ブレーキコントローラ7から送られてくるソレノイド指令により、増圧または保持または減圧の油圧経路に切り替える。
【0021】
前記カットバルブ84,84は、VDC機能・TCS機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、マスターシリンダ5からの通常ブレーキ経路を遮断する。前記サクションバルブ85,85は、VDC機能・TCS機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、マスターシリンダ5から液圧ポンプ80への経路を開放する。前記リザーバ86,86は、減圧時、各輪のホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RR内から抜いたブレーキ液を一時的に貯えておく。前記ダンパ87,87は、VDC機能・TCS機能・ABS機能・EBD機能・ブレーキLSD機能・ブレーキアシスト機能・左右制動力配分機能の作動時、ブレーキ液の脈動を抑え、ブレーキペダル10に伝わる振動を弱める。
【0022】
前記各ホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRは、前後各輪のブレーキディスクのキャリパに設定され、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8からのブレーキ液圧(ホイールシリンダ圧)が印加される。そして、各ホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,8RRへのブレーキ液圧の印加時、ブレーキパットによりブレーキディスクを挟圧することにより、前後輪に液圧制動力を付与する。
【0023】
図2は、実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける電動型制御ブレーキユニットAを示す。以下、図2に基づいて、電動型制御ブレーキユニットAの構成要素であるドライバー操作入力部材1、電動ブースタ3、マスターシリンダ5の具体的構成を説明する。
【0024】
前記ドライバー操作入力部材1は、図2に示すように、インプットロッド13と、インプットピストン14と、一対のコイルスプリング15,16と、を備えている。
【0025】
前記インプットロッド13は、ブレーキペダル10が連結されたペダル踏力伝達部材である。つまり、ドライバーがブレーキペダル10に対しペダル踏力を加えると、インプットロッド13にペダル踏力が伝達され、インプットロッド13を図2の左方向にストロークさせる。
【0026】
前記インプットピストン14は、マスターシリンダ5のプライマリピストン51の内側位置まで延在配置されたペダル踏力伝達部材である。このインプットピストン14は、インプットロッド13に対して球面結合により同軸上に連結され、インプットロッド13と一体に追従して進退動作をする。
【0027】
前記一対のコイルスプリング15,16は、インプットピストン14のフランジ部と、マスターシリンダ5のプライマリピストン51と、の間に介装され、ブレーキ非操作時、インプットピストン14を付勢中立位置に保つ。すなわち、ブレーキ操作時において、インプットピストン14には、図2の右方向にピストン端面の受圧面積とプライマリ液圧による液圧反力が作用し、図2の左方向にペダル踏力が作用する。加えて、ブレーキ操作時にコイルスプリング15,16の相対変位量があるときは、インプットピストン14に対し、コイルスプリング15,16の相対変位量とバネ定数に応じたバネ力が、図2の右方向あるいは左方向に作用する。
【0028】
前記電動ブースタ3は、図2に示すように、電動モータ30と、ブースタハウジング31と、ハウジングカバー32と、バネ受けカバー33と、軸受け34,35と、ボールねじ機構36と、リターンスプリング37と、皿バネ38(弾性体)と、を備えている。
【0029】
前記ブースタハウジング31は、ドライバー操作入力部材1側にハウジングカバー32が油密状態でボルト40により固定され、マスターシリンダ5側にバネ受けカバー33が連結プレート41を介してボルト・ナット42により油密状態で固定される。そして、ハウジングカバー32に設けたスタッドボルト43により、3部品構成によるハウジング部材が図外のダッシュパネルに固定される。
【0030】
前記電動モータ30は、前記ハウジング部材に内蔵され、ハウジングカバー32に固定されたモータステータ30aと、モータステータ30aに対しエアギャップを介して配置されたモータロータ30bと、により構成される。モータステータ30aは、積層板によるステータティースにモータコイルが巻き付けられている。モータロータ30bは、永久磁石を有する中空円筒状部材であり、軸受け34,35を介し、ブースタハウジング31とハウジングカバー32に回転可能に支持されている。この電動モータ30の隣接位置には、レゾルバステータ71aとレゾルバロータ71bにより構成されたレゾルバ71が配置されている。
【0031】
前記ボールねじ機構36は、電動モータ30の回転力を、軸方向のアシスト推力に変換する機構であり、ボールねじ固定シャフト36aと、ボール36bと、ボールねじ可動シャフト36cと、を有して構成される。ボールねじ固定シャフト36aは、モータロータ30bに固定され、モータロータ30bと共に回転するが、軸方向の移動が規制された軸方向固定部材である。ボール36bは、ボールねじ固定シャフト36aの内周面に形成された半円螺旋溝と、ボールねじ可動シャフト36cの外周面に形成された半円螺旋溝に複数個介装される。ボールねじ可動シャフト36cは、バネ受けカバー33に対しリターンスプリング37からの付勢力を受けて配置され、回転動作は規制されるが、軸方向に移動可能な軸方向可動部材である。このボールねじ可動シャフト36cのフランジ面と、マスターシリンダ5のプライマリピストン51の端面と、の対向面間には、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる非線形特性を持つ皿バネ38が介装されている。
【0032】
前記マスターシリンダ5は、図2に示すように、リザーバタンク50と、プライマリピストン51(液圧ピストン)と、セカンダリピストン52(液圧ピストン)と、シリンダハウジング53と、ポートシリンダ54と、連動スプリング55と、プライマリリターンスプリング56と、セカンダリリターンスプリング57と、を備えている。
【0033】
前記リザーバタンク50は、ブレーキ液を貯えているタンクであり、シリンダハウジング53に固定されている。リザーバタンク50内の液室は、ブレーキ非操作時、プライマリピストン51により形成されるプライマリ液圧室58と、セカンダリピストン52により形成されるセカンダリ液圧室59に対しポートを介して連通している。ブレーキ操作時には、プライマリピストン51とセカンダリピストン52の図2の左方向へのストロークによりポート連通を遮断し、ピストン推力に応じてプライマリ液圧とセカンダリ液圧を上昇させる。なお、ポートは、プライマリピストン51、セカンダリピストン52、シリンダハウジング53、ポートシリンダ54の必要位置に形成されている。
【0034】
前記プライマリピストン51は、ブレーキ非操作時、プライマリリターンスプリング56による付勢力により、図2に示すように、ポート連通位置に配置される。そして、ブレーキ操作時には、インプットピストン14から一対のコイルスプリング15,16を介してドライバーのペダル踏力が与えられると共に、ボールねじ可動シャフト36cから皿バネ38を介してアシスト推力が与えられる。このペダル踏力とアシスト推力の総和が、プライマリピストン51へのピストン推力になる。
【0035】
前記セカンダリピストン52は、ブレーキ非操作時、セカンダリリターンスプリング57による付勢力により、図2に示すように、ポート連通位置に配置される。そして、ブレーキ操作時には、連動スプリング55を介して、プライマリピストン51からペダル踏力とアシスト推力が与えられる。このペダル踏力とアシスト推力の総和が、セカンダリピストン52へのピストン推力になる。
【0036】
図3は、実施例1のブレーキコントローラ7にて実行される電動ブレーキ制御処理の構成および流れを示す(電動ブレーキ制御手段)。以下、図3の各ステップについて説明する。この電動ブレーキ制御処理は、等倍制御によるブレーキ踏み込み操作時に開始され、ブレーキ戻し操作が行われたとき、あるいは、ブレーキ踏み込み操作によりフルストロークまで達したことにより終了する。
【0037】
ステップS1では、ブレーキ操作の有無をあらわすブレーキスイッチ信号等により、ブレーキ操作開始であるか否かを判断する。YES(ブレーキ操作開始)の場合はステップS2へ進み、NO(ブレーキ非操作状態)の場合はステップS1の判断を繰り返す。
【0038】
ステップS2では、ステップS1でのブレーキ操作開始であるとの判断、あるいは、ステップS3での全負荷点保持条件不成立であるとの判断に続き、電動モータ30への回転駆動指令により、一定の倍力比を得るアシスト推力によりペダル踏力を倍力させる等倍制御を実行し、ステップS3へ進む。
この等倍制御の実行中は、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8のカットバルブ84,84は、図1に示すように開いた状態である。
【0039】
ステップS3では、ステップS2での等倍制御の実行に続き、電動モータ30でのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態であるという全負荷点保持条件が成立するか否かを判断する。YES(全負荷点保持条件成立)の場合はステップS4へ進み、NO(全負荷点保持条件不成立)の場合はステップS2へ戻る。
ここで、全負荷点は、電動モータ30が既にフル電流域(例えば、40A域)の電流を消費している状態であるか否かにより判断する。ペダル保持状態は、ペダルストロークセンサ70からのペダルストローク信号が変化しないままで、所定のペダル保持判断時間を経過したか否かにより判断する。そして、全負荷点であり、かつ、ペダル保持状態と判断されたとき、全負荷点保持条件が成立したとする。
【0040】
ステップS4では、ステップS3での全負荷点保持条件成立であるとの判断に続き、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の開いているカットバルブ84,84を閉じる指令を出力し、ステップS5へ進む。
【0041】
ステップS5では、ステップS4でのカットバルブ84,84を閉じる指令出力、あるいは、ステップS6でのペダル再踏み込み状態非検出であるとの判断に続き、電動モータ30への印加電流を低下させる指令を出力し、ステップS6へ進む。
ここで、電動モータ30への印加電流を低下させる指令は、ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向とは逆方向に戻すストロークを生じさせる指令とする。
【0042】
ステップS6では、ステップS5でのモータ印加電流低下指令出力に続き、全負荷点でのペダル保持状態から、ブレーキペダル10の再踏み込み状態へ移行したか否かを判断する。YES(ペダル再踏み込み状態への移行検出)の場合はステップS7へ進み、NO(ペダル再踏み込み状態への移行非検出)の場合はステップS5へ戻る。
【0043】
ステップS7では、ステップS6でのペダル再踏み込み状態への移行検出との判断に続き、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8の閉じているカットバルブ84,84を直ちに開く指令を出力し、ステップS8へ進む。
【0044】
ステップS8では、ステップS7でのカットバルブ84,84を開く指令出力、あるいは、ステップS9でのフルストローク未達であるとの判断に続き、ペダル再踏み込み状態への移行検出に連動して電動モータ30への印加電流を上昇させる指令を出力し、ステップS9へ進む。
【0045】
ステップS9では、ステップS8でのモータ印加電流の上昇指令出力に続き、ペダルストロークがフルストロークに達したか否かを判断する。YES(フルストローク到達)の場合はエンドへ進み、NO(フルストローク未達)の場合はステップS8へ戻る。
【0046】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の課題」の説明を行う。続いて、実施例1の電動ブレーキ制御システムにおける作用を、「ブレーキ操作時における全負荷点までの電動ブレーキ制御作用」、「全負荷点ペダル保持状態における電動ブレーキ制御作用」、「全負荷点ペダル保持状態における皿バネ作用」、「ペダル再踏み込み状態における電動ブレーキ制御作用」に分けて説明する。
【0047】
[比較例の課題]
特開2009−154814号公報に示される電動倍力装置を比較例とする。
比較例の電動倍力装置の特徴は、ボールねじ機構を静止させると、それまでの動摩擦状態から静摩擦状態に切り替わるため、ボールねじ機構による回転動作から直線動作への変換効率が低下する。つまり、ボールねじ機構を静止させた状態から動き出すまでは、静摩擦状態であることより、ボールねじ機構が動いている動摩擦状態での電流より大きな電流を必要とする。
【0048】
このため、比較例の電動倍力装置において、電動モータでのアシスト限界点である全負荷点でボールねじ機構を静止させると、すでにフル電流(例えば、40A)を消費している状態なので、踏力(入力)−液圧(出力)特性が横流れする、という課題がある。
【0049】
すなわち、図4に示すブレーキ非操作状態からブレーキペダルを踏み込んで、図5に示す電動モータでのアシスト限界点である全負荷点で保持(=液圧を一定に保持)した状態とする。この全負荷点ペダル保持状態のとき、図5の右方向にインプットピストンの受圧面積とプライマリ液圧を掛け合わせた液圧反力が作用する。一方、液圧反力は、インプットロッドから加わるドライバーのペダル踏力と、ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトによる静摩擦抵抗力と、の双方で分担して受け持ち、図5に示す全負荷点状態で力のバランスを保つ。
【0050】
この図5に示す全負荷点ペダル保持状態から、ドライバーがブレーキペダルの再踏み込み操作を行うと、ドライバーに加えられるペダル踏力の増加分は、ボールねじ可動シャフトによる静摩擦抵抗力を減少させる力として用いられる。つまり、ボールねじ機構が静摩擦状態から動摩擦状態へと移行するまでのギャップ分をペダル踏力のみでカバーする必要があるため、ペダル踏力を増加させてもプライマリピストンを押し込む力とはならず、ブレーキ液圧は上昇しない。したがって、図7に示すように、ペダル踏力(入力)に対するブレーキ液圧(出力)の特性のうち、全負荷点ペダル保持状態でのペダル踏力F1から静摩擦抵抗力を上回るペダル踏力F2となるまで、ブレーキ液圧が変化せずに横這いのままで推移する横流れ特性を示す。
【0051】
そして、ペダル踏力の増加分が静摩擦抵抗力を上回ってペダル踏力F2になると、全負荷点でのブレーキ液圧P1からブレーキ液圧P2まで一気に立ち上がり、その後、図7に示すように、アシスト性能が無く、ペダル踏力の上昇に比例する特性によりブレーキ液圧が緩上昇する。そして、ペダル踏力がペダル踏力最大値Fmaxになり、フルストロークに達すると、図6に示すように、プライマリピストンとセカンダリピストンのストロークが規制され、ブレーキ液圧はブレーキ液圧最大値Pmaxになる。
【0052】
以上のように、比較例の電動倍力装置は、全負荷点における踏力−液圧特性の横流れ対策が必要である。これに対し、電動モータに印加する電流にディザをかけ、ボールねじ可動シャフトを常に微小振動させることで、静止状態を作らない。つまり、ボールねじ可動シャフトの静摩擦状態を作らず、常に動摩擦状態で待機することが考えられる。しかし、この場合、微小振動による音振への跳ね返りがあり、ブレーキペダルの保持中、常に異音が発生するという問題が発生することで実用性に乏しい。
【0053】
[ブレーキ操作時における全負荷点までの電動ブレーキ制御作用]
ブレーキ操作時において、全負荷点に達するまでは、図3のフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、ステップS2にて等倍制御が実行される。そして、ステップS3にて全負荷点でペダル保持状態であると判断されるまで、ステップS2→ステップS3へと進む流れが繰り返され、等倍制御の実行が維持される。
【0054】
すなわち、図8に示すブレーキ非操作状態から、ブレーキペダル10を踏み込み、ペダル踏力によりインプットロッド13およびインプットピストン14を前進動作させる。このインプットピストン14の前進動作に応じて電動モータ30を回転させると、その回転動作がボールねじ機構36により直線動作に変換され、アシスト推力がプリマリピストン51に伝達される。そして、ブレーキ操作に伴うペダル踏力とアシスト推力により、プリマリピストン51およびセカンダリピストン52が前進し、プライマリ液圧がプライマリ液圧室58にて発生し、セカンダリ液圧がセカンダリ液圧室59にて発生する。
【0055】
このとき、ブレーキ液圧を増加させる方向(フロント側)へプリマリピストン51を相対変位させるように電動モータ30の回転を制御すると、アシスト推力が加わることにより倍力比が大きくなり、電動モータ30によるブレーキアシスト作用が実現される。つまり、一定の倍力比を維持するように電動モータ30の回転を制御することで、等倍制御作用が実現されることになる。この等倍制御時、ブレーキ液圧の増大に伴ってブレーキペダル10への反力(ペダル反力)が増大しようとする。しかし、プリマリピストン51のフロント側への相対変位に応じて一対のコイルスプリング15,16のうち、ブレーキペダル10側(リヤ側)のコイルスプリング16のバネ力が増大するので、このバネ力によってペダル反力の増大分が相殺される。このペダル反力調整作用によって、等倍制御実行中のペダルフィーリングを改善することができる。
【0056】
なお、ブレーキ液圧を減少させる方向(リヤ側)へプリマリピストン51を相対変位させるように電動モータ30の回転を制御すると、倍力比(=制動力)が減少し、回生制動時の回生協調動作を実現することができる。このとき、一対のコイルスプリング15,16のうち、コイルスプリング15のバネ力が増大するので、このバネ力によってペダル反力の減少分が相殺され、回生協調制御中のペダルフィーリングを改善することができる。
【0057】
[全負荷点ペダル保持状態における電動ブレーキ制御作用]
ブレーキ操作時、全負荷点でペダル保持状態を検出すると、図3のフローチャートにおいて、ステップS3からステップS4→ステップS5→ステップS6へと進む。そして、ステップS4にてカットバルブ84,84を閉じる指令が出力され、ステップS5にて電動モータ30への印加電流を低下する指令が出力される。そして、ステップS6にてペダル再踏み込み状態と判断されるまで、ステップS5→ステップS6へと進む流れが繰り返され、電動モータ30への印加電流を低下する指令の出力が維持される。
【0058】
すなわち、図9に示すように、全負荷点にてペダル保持状態において、マスターシリンダ5の下流に配置したカットバルブ84,84により液路を閉じることで、ペダル保持時点のマスターシリンダ圧(出力液圧)が維持される。
この全負荷点ペダル保持状態のとき、図9の右方向にインプットピストン14の受圧面積とプライマリ液圧を掛け合わせた液圧反力が作用するが、プライマリ液圧を一定圧に維持することで、液圧反力の変動が解消される。したがって、変動する液圧反力をペダル踏力により受け持つときのようなペダル操作違和感をドライバーに与えることなく、ペダル踏力の変動を抑えた安定したペダル保持状態が確保される。特に、全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、ボールねじ可動シャフト36cをブレーキペダル10側(リヤ側)に戻す制御を行うが、このボールねじ可動シャフト36cの戻し動作に対しても、プライマリ液圧の変動が抑えられ、安定したペダル保持状態が確保される。
【0059】
そして、全負荷点にてペダル保持状態において、電動モータ30への印加電流を下げ、図10に示すように、ボールねじ可動シャフト36cをブレーキペダル10側(リヤ側)に戻す。これにより、電動モータ30での消費電流を下げた分だけ再踏み込みのときに使用できるモータ電流を確保しつつ、再踏み込みのときにボールねじ機構36の動摩擦状態を実現するための助走区間が確保される。つまり、ボールねじ可動シャフト36cを戻したストローク分が、ペダル再踏み込み時、全負荷点をボールねじ可動シャフト36cが駆け抜けるための助走区間となる。このように、全負荷点のペダル保持状態において、次のペダル再踏み込み操作に備え、再踏み込み時における踏力−液圧特性の横流れの原因である“モータ電流不足”と“ボールねじ機構36の静止”を取り除くことができる状態を予め作り出して待機する。
【0060】
上記のように、実施例1では、全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、マスターシリンダ5の下流の液路を閉じ、電動モータ30への印加電流を下げ、ボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向とは逆方向に戻す制御を行う構成を採用した。
したがって、全負荷点にてブレーキペダル10を保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングが改善される。
【0061】
[全負荷点ペダル保持状態における皿バネ作用]
上記のように、ブレーキペダル10の踏み込み位置を保持しつつ、ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cを戻す動作を行うと、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51が離れる。その結果、ボールねじ可動シャフト36cが受け持っていた液圧反力を、全てペダル踏力で受け持つことになるため、ドライバーのペダル踏力が急に高まるし、ペダル踏力ではカバーできないことがある。
【0062】
そこで、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51の間に、非線形なバネ特性をもった皿バネ38を挟み込む。この皿バネ38は、全負荷点付近で潰れ切るような最大域の縮み状態となり、ボールねじ可動シャフト36cを戻した際、戻し分をバネ力の低下を抑える接触を維持しながら伸びるような設計配置とした。
【0063】
したがって、ボールねじ可動シャフト36cを戻した際にも、図10に示すように、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51の接触を確保でき、図10の右方向に作用する液圧反力を、ペダル踏力とボールねじ可動シャフト36cによる支持力の双方で受け持つ構成とすることができる。
【0064】
この構成により、液圧反力をペダル踏力とボールねじ可動シャフト36cによる支持力の双方で受け持つことで、液圧反力を全てペダル踏力で受け持つ場合のように、ボールねじ可動シャフト36cが戻し動作により離れた時点でペダル踏力が急上昇するのが抑えられる。加えて、非線形なバネ特性をもった皿バネ38を採用したことで、ボールねじ可動シャフト36cの戻し量が増加しても、ボールねじ可動シャフト36cによる支持力の変化が小さく抑えられ、ペダル踏力の変動が小さく抑えられる。
【0065】
つまり、コイルバネの場合、図11の点線特性に示すように、バネ定数が一定の線形によるコイルバネ特性となり、例えば、最大縮み変位Xmaxから縮み変位X1までボールねじ可動シャフトが戻ると、バネ力はΔF'の変化幅で変化する。これに対し、皿バネ38の場合、図11の実線特性に示すように、荷重(=縮み変位X)が増えるほどバネ定数が小さくなる非線形による皿バネ特性となり、例えば、最大縮み変位Xmaxから縮み変位X1までボールねじ可動シャフト36cが戻ったとしても、バネ力はΔF(<ΔF')の変化幅に抑えられる。
【0066】
上記のように、実施例1では、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51の間に、非線形特性の皿バネ38を介装し、液圧反力を、ペダル踏力と、皿バネ38を介したボールねじ可動シャフト36cの支持力と、の双方にて受け持つ構成を採用した。
この構成により、ボールねじ可動シャフト36cの戻しによりペダル踏力が急上昇するのが抑えられるばかりでなく、ボールねじ可動シャフト36cの戻し量が増加しても、ペダル踏力の変動が小さく抑えられる。
したがって、全負荷点ペダル保持状態で、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51が離れるボールねじ可動シャフト36cの戻し制御を行うにもかかわらず、ペダル踏力が変化するのが抑制される。
【0067】
[ペダル再踏み込み状態における電動ブレーキ制御作用]
全負荷点でペダル保持状態から、ペダル再踏み込みを検出すると、図3のフローチャートにおいて、ステップS6からステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む。ステップS7にてカットバルブ84,84を開く指令を出力し、ステップS8にて電動モータ30への印加電流の上昇指令を出力する。そして、フルストロークに到達したと判断されるまで、ステップS8→ステップS9へと進む流れが繰り返され、電動モータ30への印加電流の上昇指令の出力が維持される。
【0068】
したがって、ボールねじ機構36を戻す途中でペダル再踏み込みが実施された場合は、直ちにボールねじ機構36の戻し動作を止め、ペダル踏み込みを優先することで、全負荷点でペダル保持することのないブレーキ操作と同様の踏力−液圧特性が実現される。
【0069】
すなわち、ペダル再踏み込みに連動して閉じていた液路を開き、ペダル再踏み込みに備えて確保されているモータ電流を用いて電動モータ30を回転させ、ボールねじ機構36を進めてプライマリピストン51を押し出すように制御される。これにより、ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cが、図10に示す戻し位置から助走を付けてプライマリピストン51を押し出し、全負荷点を通過するときにボールねじ機構36の動摩擦状態が作り出される。
【0070】
そして、ボールねじ機構36が動摩擦状態を維持しながら全負荷点を通過した後は、インプットピストン14とプリマリピストン51との間に相対変位が生じないように電動モータ30の回転が制御される。このモータ回転制御により、両ピストン14,51の間に介装した一対のコイルスプリング15,16が付勢中立位置を維持する。この全負荷点通過後の倍力比は、相対変位量がゼロであることで、インプットピストン14の受圧面積とプリマリピストン51の受圧面積との面積比で一義的に決まる。
【0071】
よって、全負荷点でのペダル保持状態から再踏み込みが行われたときの踏力−液圧特性は、図12に示すように、全負荷点でのペダル保持にかかわらず、横流れ特性が改善される。つまり、全負荷点までの等倍制御による倍力比の大きなアシスト特性と、全負荷点以降のペダル踏力に依存する倍力比の小さな非アシスト特性と、が連続的に繋がる。
【0072】
上記のように、実施例1では、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みを検出すると、ペダル再踏み込みに連動して閉じている液路を開放し、電動モータ30への印加電流を上げ、ボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向に進めてプライマリピストン51を押し出す構成を採用した。
したがって、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みにかかわらず、予め確保してあるモータ電流を用いてボールねじ機構36を動摩擦状態とすることで、踏力−液圧特性の横流れが改善される。
【0073】
次に、効果を説明する。
実施例1の電動ブレーキ制御システムにあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0074】
(1) ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加えるブレーキペダル10と、
ブレーキ操作時、電動モータ30の回転力を、ボールねじ機構36を介して軸方向のアシスト推力に変換する電動ブースタ3と、
前記ペダル踏力に前記電動ブースタ3によるアシスト推力を加えた力により液圧ピストン(プライマリピストン51、セカンダリピストン52)を押し、マスターシリンダ圧を発生させるマスターシリンダ5と、
前記マスターシリンダ5から各輪に設けられたホイールシリンダ9FL,9FR,9RL,9RRに至る液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)の途中位置に設けられ、液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)の開閉制御を行うカットバルブ84,84と、
前記電動モータ30でのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、前記マスターシリンダ5の下流に配置した前記カットバルブ84,84により液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)を閉じ、前記電動モータ30への印加電流を下げ、前記ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向とは逆方向に戻す電動ブレーキ制御手段(図3のステップS3〜ステップS5)と、
を備える。
このため、全負荷点にてブレーキペダル10を保持するブレーキ操作の際、ペダル保持状態からの再踏み込みに備えつつ、出力液圧の低下を抑えることで、全負荷点におけるペダルフィーリングを改善することができる。
【0075】
(2) 前記電動ブースタ3は、前記ボールねじ可動シャフト36cと前記液圧ピストン(プライマリピストン51)との間に、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる弾性体(皿バネ38)を介在させた。
このため、(1)の効果に加え、全負荷点ペダル保持状態で、ボールねじ可動シャフト36cとプライマリピストン51が離れるボールねじ可動シャフト36cの戻し制御を行うにもかかわらず、ペダル踏力が変化するのを抑制することができる。
【0076】
(3) 前記電動ブレーキ制御手段(図3)は、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みを検出すると、ペダル再踏み込みに連動して前記カットバルブ84,84により閉じている液路(プライマリ液圧配管61、セカンダリ液圧配管62)を開放し、前記電動モータ30への印加電流を上げ、前記ボールねじ機構36のボールねじ可動シャフト36cをアシスト方向に進めて前記液圧ピストン(プライマリピストン51)を押し出す(ステップS6〜ステップS8)。
このため、(1)または(2)の効果に加え、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みにかかわらず、予め確保してあるモータ電流を用いてボールねじ機構36を動摩擦状態とすることで、踏力−液圧特性の横流れを改善することができる。
【0077】
以上、本発明の電動ブレーキ制御システムを実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0078】
実施例1では、電動ブースタ3として、インプットロッド13と同軸配置による電動モータ30を備える例を示した。しかし、電動ブースタとしては、電動モータをハウジングの外部配置とする例としても良い。
【0079】
実施例1では、カットバルブ84,84として、ABSブレーキ液圧アクチュエータ8に内蔵されているソレノイドバルブを利用する例を示した。しかし、カットバルブとして、ABSブレーキ液圧アクチュエータ以外のVDCブレーキ液圧アクチュエータ等に内蔵されているソレノイドバルブを利用する例としても良い。また、マスターシリンダから各輪に設けられたホイールシリンダに至る液路の途中位置に、新たに付加したカットバルブを用いる例であっても良い。
【0080】
実施例1では、ボールねじ可動シャフトと液圧ピストンとの間に介在させる弾性体として、皿バネ38を用いる例を示した。しかし、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる特性を有する弾性体であれば、皿バネ以外の単体構造による弾性体や複合構造による弾性体を用いる例であっても良い。
【0081】
実施例1では、本発明の電動ブレーキ制御システムを電動車両に適用した例を示した。しかし、電動型制御ブレーキユニットを備えたエンジン車に対しても勿論適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
A 電動型制御ブレーキユニット
1 ドライバー操作入力部材
10 ブレーキペダル
3 電動ブースタ
30 電動モータ
36 ボールねじ機構
36a ボールねじ固定シャフト
36b ボール
36c ボールねじ可動シャフト
38 皿バネ(弾性体)
5 マスターシリンダ
51 プライマリピストン(液圧ピストン)
52 セカンダリピストン(液圧ピストン)
61 プライマリ液圧配管(液路)
62 セカンダリ液圧配管(液路)
7 ブレーキコントローラ
8 ABSブレーキ液圧アクチュエータ
84,84 カットバルブ
9FL 前輪左ホイールシリンダ
9FR 前輪右ホイールシリンダ
9RL 後輪左ホイールシリンダ
9RR 後輪右ホイールシリンダ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加えるブレーキペダルと、
ブレーキ操作時、電動モータの回転力を、ボールねじ機構を介して軸方向のアシスト推力に変換する電動ブースタと、
前記ペダル踏力に前記電動ブースタによるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、マスターシリンダ圧を発生させるマスターシリンダと、
前記マスターシリンダから各輪に設けられたホイールシリンダに至る液路の途中位置に設けられ、液路の開閉制御を行うカットバルブと、
前記電動モータでのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、前記マスターシリンダの下流に配置した前記カットバルブにより液路を閉じ、前記電動モータへの印加電流を下げ、前記ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向とは逆方向に戻す電動ブレーキ制御手段と、
を備えることを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載された電動ブレーキ制御システムにおいて、
前記電動ブースタは、前記ボールねじ可動シャフトと前記液圧ピストンとの間に、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる弾性体を介在させた
ことを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動ブレーキ制御システムにおいて、
前記電動ブレーキ制御手段は、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みを検出すると、ペダル再踏み込みに連動して前記カットバルブにより閉じている液路を開放し、前記電動モータへの印加電流を上げ、前記ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向に進めて前記液圧ピストンを押し出す
ことを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項1】
ブレーキ操作時、ドライバーのペダル踏力を加えるブレーキペダルと、
ブレーキ操作時、電動モータの回転力を、ボールねじ機構を介して軸方向のアシスト推力に変換する電動ブースタと、
前記ペダル踏力に前記電動ブースタによるアシスト推力を加えた力により液圧ピストンを押し、マスターシリンダ圧を発生させるマスターシリンダと、
前記マスターシリンダから各輪に設けられたホイールシリンダに至る液路の途中位置に設けられ、液路の開閉制御を行うカットバルブと、
前記電動モータでのアシスト限界点である全負荷点にてペダル保持状態を検出すると、前記マスターシリンダの下流に配置した前記カットバルブにより液路を閉じ、前記電動モータへの印加電流を下げ、前記ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向とは逆方向に戻す電動ブレーキ制御手段と、
を備えることを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載された電動ブレーキ制御システムにおいて、
前記電動ブースタは、前記ボールねじ可動シャフトと前記液圧ピストンとの間に、荷重が増えるほどバネ定数が小さくなる弾性体を介在させた
ことを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された電動ブレーキ制御システムにおいて、
前記電動ブレーキ制御手段は、全負荷点でのペダル保持状態からの再踏み込みを検出すると、ペダル再踏み込みに連動して前記カットバルブにより閉じている液路を開放し、前記電動モータへの印加電流を上げ、前記ボールねじ機構のボールねじ可動シャフトをアシスト方向に進めて前記液圧ピストンを押し出す
ことを特徴とする電動ブレーキ制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−106626(P2012−106626A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−257185(P2010−257185)
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月17日(2010.11.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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