説明

電動ブレーキ

【課題】ディスクとピストンとの間のクリアランスを一定に調節できる電動ブレーキを提供すること。
【解決手段】
車輪と共に回転する回転ディスク6と、機体に対して回転不能に支持され回転ディスク6に向けて変位可能である非回転ディスク4と、非回転ディスク4に向けて進退可能であるピストン28と、ピストン28を直線移動させる電動モータ21と、電動モータ21の作動を制御するコントローラ30とを備え、電動モータ21がピストン28を介して非回転ディスク4を回転ディスク6に向けて押圧することで制動トルクを発生する電動ブレーキであって、ピストン28を非回転ディスク4に押圧するまで駆動した後に停止させる手段と、電動モータ21の作動を停止した際の反力によって押し戻されてピストン28が停止する位置を検出する手段と、停止位置に基づいてピストン28の初期位置を調節する手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪の制動部材を電動モータで駆動する電動ブレーキに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機に搭載される油圧源を縮小若しくは廃止するために、車輪を制動するブレーキを油圧ブレーキから電動ブレーキに替える傾向がある。
【0003】
ところで、ディスク形式のブレーキではディスクが摩耗するとディスクとピストンとの間のクリアランスが大きくなる。クリアランスが大きくなると電動ブレーキを操作してから制動し始めるまでに時間がかかり、航空機はその間空走することとなる。そのため、ディスクの摩耗によって空走時間が長くなることを防止するために、ディスクが摩耗してもディスクとピストンとの間のクリアランスを一定に保つ必要がある。
【0004】
特許文献1には、電動モータの回転角センサを用いてクリアランスを調節する電動ブレーキが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−105224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ピストンがディスクに当接したことを検出した位置に基づいてクリアランスを調節する方式では、クリアランス調節時に、ピストンとディスクとが当接すると同時に瞬時にモータ電流が大きく上昇するため、ソフトウェアの処理周期などによっては検出遅れが生じ、ピストンとディスクとの正確な当接位置の検出が困難だった。そのため、ディスクとピストンとの間のクリアランスを常に一定に調節できないおそれがあった。
【0007】
そこで、本発明ではディスクとピストンとの間のクリアランスを一定に調節できる電動ブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車輪と共に回転する回転ディスクと、機体に対して回転不能に支持され、前記回転ディスクに向けて変位可能である制輪手段と、前記制輪手段に向けて進退可能であるピストンと、前記ピストンを直線移動させる電動アクチュエータと、前記電動アクチュエータの作動を制御するコントローラと、を備え、前記電動アクチュエータが前記ピストンを介して前記制輪手段を前記回転ディスクに向けて押圧することによって制動トルクを発生する電動ブレーキであって、前記ピストンの初期位置調節時に、前記ピストンを前記制輪手段に押圧するまで駆動した後に前記電動アクチュエータの作動を停止させる駆動停止手段と、前記電動アクチュエータの作動を停止した際の反力によって押し戻されて前記ピストンが停止する位置に基づいて前記ピストンの初期位置を調節するピストン初期位置調節手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、ピストンが反力によって押し戻されて停止する位置に基づいて、ピストン初期位置調節手段でピストンの初期位置を調節する。ピストンを押し戻す反力は、電動ブレーキを構成する部材によって機械的に定まる力であるため、常に略一定である。
【0010】
したがって、ディスクとピストンとの間のクリアランスを一定に調節できる電動ブレーキを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る電動ブレーキの中心軸より上半分を断面で示した図である。
【図2】電動ブレーキのクリアランス変数を決定する制御のフローチャート図である。
【図3】電動ブレーキのクリアランス変数を決定する制御の他の実施形態に係るフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る電動ブレーキ100について説明する。
【0013】
まず、図1を参照しながら電動ブレーキ100の構成について説明する。図1における中心軸Oは、図示しない機体に固定されている図示しない機体シャフト(以下、「車軸」という。)の中心軸である。
【0014】
電動ブレーキ100は、車輪(図示省略)の内側に設けられる多板ディスク形式のブレーキである。電動ブレーキ100は、航空機の車輪を制動するブレーキとして用いられる。
【0015】
車輪は、ホイール(図示省略)の外周にタイヤ(図示省略)が取り付けられて構成される。ホイールは、軸受(図示省略)を介して車軸に取り付けられる。つまり、ホイールが回転しても車軸は回転しない。
【0016】
電動ブレーキ100は、車輪と一体として回転する回転ディスク6と、車軸に取り付けられて回転しない非回転ディスク4とを備える。電動ブレーキ100は、回転ディスク6と非回転ディスク4とを当接させるように押圧し、摩擦力によって制動トルクを発生する。
【0017】
回転ディスク6は、所定の間隔をおいて複数枚設けられる。回転ディスク6の両面には、非回転ディスク4が設けられる。よって、非回転ディスク4もまた、所定の間隔をおいて複数枚設けられる。電動ブレーキ100では、4枚の非回転ディスク4の間に3枚の回転ディスク6が挟まれるように配置されている。この非回転ディスク4,回転ディスク6のそれぞれの枚数は、要求される制動力などによって設定するものであるため、この枚数に限られるものではない。
【0018】
回転ディスク6は、中心に円形の穴が形成される円盤形状である。回転ディスク6は、外周がホイールの内周に支持され、車輪と一体として回転する。回転ディスク6は、ホイールに対して車軸方向に変位可能に、即ちスライド可能に支持される。
【0019】
非回転ディスク4は、中心に円形の穴が形成される円盤形状である。非回転ディスク4は、内周がトルクチューブ3を介して車軸に支持される。非回転ディスク4は、車輪が回転しても回転しない。非回転ディスク4は、車軸方向に変位可能に、即ちスライド可能に支持される。この非回転ディスク4が制輪手段に該当する。電動ブレーキ100のようにマルチディスクタイプではなく、例えばキャリパータイプのディスクブレーキの場合には、制輪手段として、ブレーキパッドを設けることも可能である。
【0020】
トルクチューブ3は、円筒形の円筒部3aの軸方向両端に円盤状の鍔部3b,3cが設けられたボビン形状である。鍔部3b,3cは円盤状でなくてもよく、例えばピストン28及びディスク押え3dが設けられる位置に対応した突起を複数形成してもよい。トルクチューブ3は、円筒部3aの外周に複数の非回転ディスク4を支持する。トルクチューブ3と回転ディスク6との間には隙間が設けられ、トルクチューブ3と回転ディスク6とは接触しない。つまり、回転ディスク6の径方向中心に形成される穴の径は、トルクチューブ3と接触しないような大きさで形成されるため、非回転ディスク4の径方向中心に形成される穴の径よりも大きく形成される。
【0021】
トルクチューブ3の一方の鍔部3cは、ハウジング2を介して車軸に取り付けられる。トルクチューブ3の他方の鍔部3bには、ディスク押え3dが設けられる。ハウジング2から突出するピストン28とディスク押え3dとの間で、回転ディスク6と非回転ディスク4とは互いに当接するように押圧される。よって、トルクチューブ3は、回転ディスク6と非回転ディスク4とを押圧する力の反力を受ける。
【0022】
ハウジング2は車軸に固定され、電動ブレーキ100を駆動する電動アクチュエータとしての電動モータ21と、電動モータ21の回転を減速してボールスクリュ25に伝達する減速機構24と、ボールスクリュ25によって押し出されるピストン28とを内部に備える。
【0023】
ピストン28は、非回転ディスク4に向けて進退可能に、非回転ディスク4と対峙して設けられる。ピストン28は、ボールスクリュ・ナット機構27のボールナット26と一体に形成される。図1中のX0は、ピストン28と非回転ディスク4とのクリアランスである。即ち、ピストン28は、非回転ディスク4との間にクリアランスX0だけ離れて対峙する。ピストン28は、電動モータ21によって非回転ディスク4に対して進退するように駆動される。ピストン28は、車輪の回転周方向に所定の間隔をあけて複数配置される。ピストン28の個数,電動モータ21の個数は、電動ブレーキ100に要求される制動力等に応じて任意に設定される。
【0024】
電動ブレーキ100の制動解除時におけるピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0は、電動モータ21によって調節される。非回転ディスク4の厚さが摩耗によって変化すると、ピストン28が戻ったときのピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0は大きくなる。そこで電動ブレーキ100では、クリアランスX0を一定に保つような制御を行っている。制御の内容は、後で図2を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
電動モータ21は、ハウジング2内部に複数個(例えば4〜6個)設けられる。電動モータ21が減速機構24を介してピストン28を直線移動させ、ピストン28を非回転ディスク4に押し付けることにより非回転ディスク4と回転ディスク6が互いに当接するように押圧される。これにより、非回転ディスク4と回転ディスク6との摺動面部分で摩擦力が発生し、制動トルクが得られるように構成されている。電動モータ21には、例えばACサーボモータやステッピングモータのように回転角度及び回転数を検出できる回転角検出手段を備えるモータが利用される。又は、電動モータ21とは別部材としてロータリエンコーダなどの回転角検出手段を設ける構成にしてもよい。
【0026】
減速機構24は、電動モータ21の回転をボールスクリュ25に伝達するように構成されている。減速機構24は、電動モータ21のモータシャフト29に連結されるドライブギア22と、ボールスクリュ25の基端部に連結されるドリブンギア23とを備える。減速機構24は、ドライブギア22の回転をドリブンギア23に伝達する。電動ブレーキ100では、歯数が少なく径の小さなギアをドライブギア22として用い、ドライブギア22よりも歯数が多く径の大きなギアをドリブンギア23として用いる。つまり、電動モータ21の回転は減速されてボールスクリュ25へと伝達される。
【0027】
ボールスクリュ・ナット機構27は、ピストン28の内側に介装される。ボールスクリュ・ナット機構27は、ピストン28の内側へと突出しドリブンギア23に固定されて一体として回転するボールスクリュ25と、ピストン28に固定されて非回転ディスク4に対して進退するボールナット26とを備える。ボールナット26は、ボールスクリュ25に多数のボール(図示省略)を介して螺合する。ボールスクリュ・ナット機構27は、ボールスクリュ25の回転運動を直線運動に変換し、ピストン28を非回転ディスク4に対して進退させる。
【0028】
ところで、航空機の制御系は、パイロットによって操作されるブレーキペダルの操作量等に応じてピストン押付力指令値信号を出力する。航空機には、出力されたピストン押付力指令値信号に基づいて電動モータ21の作動を制御するコントローラ30が設けられる。
【0029】
コントローラ30は、電動ブレーキ100の制御を行うものであり、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。CPUやRAMなどをROMに格納されたプログラムに従って動作させることによって電動ブレーキ100の制御が実現される。
【0030】
CPUには、I/Oインターフェースを介してブレーキペダルからの信号が入力される。CPUでは、入力された信号に応じたピストン押付力指令値信号を演算する。CPUは、I/Oインターフェースを介してピストン押付力指令値信号に応じた指令駆動電流ioを電動モータ21に出力し、電動モータ21は回転作動させられる。電動モータ21の駆動力は、減速機構24とボールスクリュ・ナット機構27とを介してピストン28に伝達され、ピストン押付力が発生する。このとき、電動モータ21のモータシャフト29の回転角θが図示しない回転角検出手段により検出され、電動モータ21の実際の駆動電流iと共にコントローラ30に入力される。
【0031】
電動ブレーキ100では、コントローラ30からの出力によって電動モータ21が正方向に回転することにより、ピストン28が非回転ディスク4に当接して各非回転ディスク4を各回転ディスク6に押付け、制動トルクが得られる。一方、指令駆動電流ioにより電動モータ21が逆方向に回転することにより、ピストン28が非回転ディスク4から離間し、各非回転ディスク4を各回転ディスク6に押付けることがなくなり、制動が解除される。
【0032】
以下、図2を参照しながら電動ブレーキ100におけるピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランス調節制御について説明する。このクリアランス調節制御は、例えば点検時などに航空機側からリクエストがあったような場合に行う。
【0033】
まず、ステップ11では、コントローラ30の指令によって電動モータ21を正方向に回転作動させるための微小電流を印加する。電動モータ21の回転によってピストン28は非回転ディスク4に向かってゆっくりと突出する。
【0034】
次に、ステップ12では、電動モータ21が停止したか否かを判定する。ピストン28がピストン28と対峙する非回転ディスク4に接触すると、ピストン28はそれ以上進むことができない。電動モータ21の駆動トルクによってピストン28を進行させられなくなったとき、電動モータ21は停止する。このとき、電動モータ21は正方向に回転しようとしたまま停止する。よって、ピストン28と非回転ディスク4との間、及び非回転ディスク4と回転ディスク6との間は互いに当接するように押圧されている。ステップ12では、電動モータ21が停止するまでステップ12の判定を繰り返し、電動モータ21が停止したと判定するとステップ13へと移行する。
【0035】
ステップ13では、電動モータ21の実際の駆動電流iが所定の値以上になったか否かを判定する。所定の値以上になっていないと判定した場合には、ステップ14で指令電流を上昇させ、ステップ12へと戻って再び電動モータ21が停止したか否かの判定を繰返す。電動モータ21の実際の駆動電流iが所定の値以上になったと判定した場合には、ステップ15へと移行する。このとき、所定の駆動電流に相当する駆動トルクによってピストンに28押付力が発生し、ディスク4,6やトルクチューブ3が撓む。
【0036】
ステップ15では、電動モータ21の作動を停止する。このとき、電動モータ21はサーボオフの状態になり、モータシャフト29がフリーにされる。電動モータ21の作動が停止されるとステップ16へと移行する。ステップ11からステップ15までが、駆動停止手段に該当する。
【0037】
ステップ16では、電動モータ21の作動が停止されてから所定の時間を経過したか否かを判定する。所定の時間を経過していないと判定された場合はステップ16の判定を繰り返し、所定の時間を経過したと判定された場合にはステップ17へと移行する。
【0038】
電動モータ21の作動が停止されると、非回転ディスク4を押圧していた力の反力によってピストン28は押し戻される。ピストン28はその押し戻される力によって非回転ディスク4から離間し、所定の間隔をあけたところで自然に停止する。ピストン28が押し戻されて停止するまでの動作には時間が必要なため、ステップ16では所定の時間を経過したか否かを判定する。ここで、所定の時間とはピストン28が押し戻されて自然に停止するまでの充分な時間である。
【0039】
ピストン28が反力によって押し戻されると、ピストン28が固定されているボールナット26が非回転ディスク4から離間する方向へ、即ちハウジング2内へと押し込まれる。ボールナット26が押し込まれることによってボールスクリュ25は回転させられ、その回転はボールスクリュ25が固定されている減速機構24のドリブンギア23へと伝達される。ドリブンギア23が回転させられると、ドリブンギア23と噛み合っているドライブギア22も回転させられ、ドライブギア22に連結されている電動モータ21のモータシャフト29も回転させられる。
【0040】
このように、ピストン28が反力によって押し戻されたことによってボールナット26,ドリブンギア23,ドライブギア22,モータシャフト29が回転させられる。よって、これらの回転させられる部材の回転が自然に停止するまでピストン28は移動する。つまり、最初はピストン28が受ける反力によって移動させられていたピストン28は、停止直前には回転させられた部材の回転慣性によって移動させられることとなる。
【0041】
ここで、ピストン28を押し戻す力は、電動ブレーキ100を構成する部品によって機械的に定められる。具体的には、撓んだトルクチューブ3が元に戻ろうとする力、互いに当接するように押圧されて圧縮されていた回転ディスク6及び非回転ディスク4が元に戻ろうとする力などである。よって、ピストン28が押し戻されて停止するまでに離間する距離は、常に略一定である。
【0042】
ステップ17では、反力によって押し戻されたピストン28が停止した位置を、その時の電動モータ21の回転角θから検出する。つまり、ピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスを検出する。ステップ16及びステップ17が、ピストン停止位置検出手段に該当する。ピストン28が停止した位置を検出したら、ステップ18へと移行する。
【0043】
ステップ18では、クリアランス変数をリセットする。つまり、ピストン28が自然に停止したこの位置をクリアランスX0の初期値に設定する。このステップ18が、ピストン初期位置調節手段に該当する。
【0044】
このようにピストン28が自然に停止した位置をクリアランスX0の初期値に設定してもよいが、ピストン28を押し戻す力が大きくクリアランスX0が大きすぎる場合には、自然に停止した位置からピストン28を非回転ディスク4に向けて所定のストロークだけ移動させ、ピストン28と非回転ディスク4との間のクリアランスX0を更に小さくしてからクリアランス変数をリセットしてもよい。これは、例えばトルクチューブ3の剛性が高くなく、電動ブレーキ100の制動時に比較的大きく撓むような場合が該当する。このように、クリアランスX0を更に小さくしておくことによって、ピストン28と非回転ディスク4との間隔を微小にして、電動ブレーキ100の応答性を高めることができる。
【0045】
以上の実施の形態によれば、以下のような効果を奏する。
【0046】
電動ブレーキ100では、ピストン28が反力によって押し戻されて停止した位置を検出し、その検出した値に基づいてクリアランスX0の初期値を設定する。このとき、ピストン28を押し戻す反力は電動ブレーキ100を構成する部材によって機械的に定まる力であるため、常に略一定である。
【0047】
したがって、非回転ディスク4とピストン28との間のクリアランスX0を一定に調節することができる。
【0048】
以下では、図3を参照しながら他の実施形態について説明する。この実施形態では、制動状態にある電動ブレーキ100の制動が解除され始めたときにクリアランスX0の調節制御を行う。この実施形態では、電動モータ21に回転角検出手段を設けずにクリアランスX0を一定に調節することが可能である。
【0049】
ステップ21では、パイロットによってブレーキペダルを戻す操作が開始されたことによってブレーキ解除指令がなされたことを検出する。つまり、ブレーキペダルを戻す操作が開始されたことによって電動ブレーキ100の制動が解除され始めたものとみなす。ブレーキ解除指令が検出されるまでステップ21の判定を繰り返し、ブレーキ解除指令が検出されるとステップ22へと移行する。
【0050】
ステップ22では、電動モータ21の電流が指令値以下であるか否かを判定する。電動モータ21の電流が指令値以上であると判定されるとステップ23で指令電流を減少させ、電動モータ21の電流が指令値以下であると判定するとステップ24へと移行する。つまり、電動モータ21の電流が指令値以下になるように漸減させる。
【0051】
ステップ24では、電動モータ21の電流が指令値以上であるか否かを判定する。電動モータ21の電流が指令値以上であると判定されるとステップ25で指令電流を上昇させ、電動モータ21の電流が指令値以上であると判定するとステップ26へと移行する。つまり、電動モータ21の電流が指令値以上になるように漸増させる。
【0052】
ここで、ステップ24におけるモータ電流指令値は、ステップ22におけるモータ電流指令値よりも大きく設定される。そのため、ステップ26へと移行するときのモータ電流指令値は、常にステップ24におけるモータ電流指令値以上になったときの値で略一定になる。このようにして、ステップ22からステップ25では電動モータ21に印加される電流値が所定の値になるように調節している。
【0053】
ステップ26では、電動モータ21の作動を停止する。このとき、電動モータ21はサーボオフの状態になり、モータシャフト29がフリーにされる。電動モータ21の作動が停止されるとステップ27へと移行する。ステップ21からステップ26までが、駆動停止手段に該当する。
【0054】
ステップ27では、電動モータ21の作動が停止されてから所定の時間を経過したか否かを判定する。所定の時間を経過していないと判定された場合はステップ27の判定を繰り返し、所定の時間を経過したと判定された場合にはステップ28へと移行する。ここで、所定の時間とはピストン28が押し戻されて自然に停止するまでの充分な時間である。
【0055】
ステップ28では、クリアランス変数をリセットする。つまり、ピストン28が自然に停止したこの位置をクリアランスX0の初期値に設定する。このステップ28が、ピストン初期位置調節手段に該当する。
【0056】
ここで、電動モータ21の作動を停止するときのモータ電流指令値は略一定である。即ち、電動モータ21によってピストン28を非回転ディスク4へと押し付ける押付力は略一定である。よって、電動モータ21の作動を停止してからピストン28が押し戻されてから停止するまでに離間する距離は略一定である。したがって、このときのクリアランスX0を初期値として設定すれば、常にクリアランスX0を略一定に保つことが可能である。
【0057】
以上の実施の形態によれば、電動ブレーキ100では、ピストン28が非回転ディスク4に所定の押付力で押し付けられている状態から電動モータ21の作動を停止する。そして、ピストン28が反力によって押し戻されて停止した位置を検出し、その検出した値に基づいてクリアランスX0の初期値を設定する。このとき、クリアランスX0は所定の押付力による略一定の値である。
【0058】
したがって、回転角検出手段を設けることなく、非回転ディスク4とピストン28との間のクリアランスX0を一定に調節することができる。
【0059】
本発明は上記の実施の形態に限定されずに、その技術的な思想の範囲内において種々の変更がなしうることは明白である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明に係る電動ブレーキは、航空機用の車輪を制動するものに限らず、他の車両や機械等に設けられるものや、キャリパ型等の他の形式の電動ブレーキにも利用できる。
【符号の説明】
【0061】
100 電動ブレーキ
3 トルクチューブ
4 非回転ディスク
6 回転ディスク
21 電動モータ
24 減速機構
27 ボールスクリュ・ナット機構
28 ピストン
30 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転する回転ディスクと、
機体に対して回転不能に支持され、前記回転ディスクに向けて変位可能である制輪手段と、
前記制輪手段に向けて進退可能であるピストンと、
前記ピストンを直線移動させる電動アクチュエータと、
前記電動アクチュエータの作動を制御するコントローラと、を備え、
前記電動アクチュエータが前記ピストンを介して前記制輪手段を前記回転ディスクに向けて押圧することによって制動トルクを発生する電動ブレーキであって、
前記ピストンの初期位置調節時に、前記ピストンを前記制輪手段に押圧するまで駆動した後に前記電動アクチュエータの作動を停止させる駆動停止手段と、
前記電動アクチュエータの作動を停止した際の反力によって押し戻されて前記ピストンが停止する位置に基づいて前記ピストンの初期位置を調節するピストン初期位置調節手段と、を備えることを特徴とする電動ブレーキ。
【請求項2】
前記制輪手段は、非回転ディスクであることを特徴とする請求項1に記載の電動ブレーキ。
【請求項3】
前記ピストンが停止する位置を検出するピストン停止位置検出手段を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動ブレーキ。
【請求項4】
前記ピストン初期位置調節手段は、前記停止位置を前記ピストンの初期位置とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の電動ブレーキ。
【請求項5】
前記ピストン初期位置調節手段は、前記停止位置から前記ピストンを所定のストロークだけ移動させ、前記ピストンの初期位置とすることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の電動ブレーキ。
【請求項6】
車輪と共に回転する回転ディスクと、
機体に対して回転不能に支持され、前記回転ディスクに向けて変位可能である制輪手段と、
前記制輪手段に向けて進退可能なピストンと、を備え、
前記ピストンが前記制輪手段を前記回転ディスクに向けて押圧することによって制動トルクを発生する電動ブレーキのピストン初期位置調節方法であって、
前記ピストンを前記制輪手段に押圧して停止させ、
前記ピストンを停止した際の反力によって前記ピストンが押し戻されて停止する位置に基づいて前記ピストンの初期位置を調節することを特徴とする電動ブレーキのピストン初期位置調節方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−203561(P2010−203561A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51691(P2009−51691)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】