説明

電動弁

【課題】キャビテーションによる耳障りな騒音を可及的に低減できる電動弁を提供する。
【解決手段】弁口オリフィス22Dにおける短円筒部(最狭部)22bの孔径が1.0〜2.4mmに設定されるとともに、前記短円筒部(最狭部)22bの上流端から前記弁口オリフィス22Dの下流端までの長さが2.1mm以下に設定され、かつ、前記短円筒部(最狭部)22bの下流端から前記弁口オリフィス22Dの下流端までは頂角が16°〜72°の円錐面部で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和機、冷凍機等に組み込まれて使用される電動弁に係り、特に、キャビテーションによる騒音を低減し得るようにされた電動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動弁の従来例を図9に示す。図示の電動弁10’は、下部大径部25aと上部小径部25bからなる弁軸25の下端部に設けられた弁体24と、流体(冷媒)入出口となる流体導入管(継手)61及び流体導出管(継手)62が連結されるとともに、前記弁体24により開閉される弁口オリフィス22Dが形成された弁座22及び弁室21を有する弁本体20とを備え、前記弁座22に対する弁体24のリフト量を制御することにより流体等の流体の通過流量を調整するようになっている。前記弁本体20の鍔状部材23(に形成された段差部)には、天井部40aを有する下方開口の円筒状のキャン40の下端部が突き合わせ溶接により密封接合されている。
【0003】
前記キャン40の内周には、所定の間隙αをあけてロータ30が配在され、該ロータ30を回転駆動すべく前記キャン40の円筒状部分の外周には、ヨーク51、ボビン52、ステータコイル53,53、及び樹脂モールドカバー56等からなるステータ50が外嵌されており、前記ロータ30とステータ50とでステッピングモータが構成される。
【0004】
そして、ロータ30と弁軸25との間には、ロータ30の回転を利用して前記弁体24を前記弁座22に接離させる駆動機構が設けられている。この駆動機構は、弁本体20にその下端部26aが圧入固定されるとともに、弁軸25(の下部大径部25a)が摺動自在に内挿された筒状のガイドブッシュ26の外周に形成された固定ねじ部(雄ねじ部)28と、前記弁軸25及びガイドブッシュ26の外周に配在された下方開口の筒状の弁軸ホルダ32の内周に形成されて前記固定ねじ部28に螺合せしめられた移動ねじ部(雌ねじ部)38とからなるねじ送り機構で構成されている。
【0005】
前記弁軸ホルダ32とロータ30とは支持リング36を介して結合されるとともに、支持リング36に弁軸ホルダ32の上部突部がかしめ固定され、これにより、ロータ30、支持リング36及び弁軸ホルダ32が一体的に連結されている。
【0006】
前記ガイドブッシュ26には、ストッパ機構の一方を構成する下ストッパ体(固定ストッパ)27が固着され、弁軸ホルダ32にはストッパ機構の他方を構成する上ストッパ体(移動ストッパ)37が固着されている。
【0007】
また、前記ガイドブッシュ26の上部小径部26bが弁軸ホルダ32の上部に内挿されるとともに、弁軸ホルダ32の天井部32a中央に形成された挿通穴32bに、弁軸25の上部小径部25bが挿通せしめられている。弁軸25の上部小径部25bの上端部には、前記ロータ30及び弁軸ホルダ32の回転上昇に伴って弁軸25を上昇させるためのプッシュナット33が固着(圧入固定)されている。
【0008】
さらに、前記弁軸25は、該弁軸25の上部小径部25bに外挿され、かつ、弁軸ホルダ32の天井部32aと弁軸25における下部大径部25aの上端段丘面との間に縮装された弁締め切り兼緩衝用の圧縮コイルばね34によって、常時下方(閉弁方向)に付勢されている。この場合、前記圧縮コイルばね34は、その上端部がワッシャ等のばね受け部材39を介して前記弁軸ホルダ32の天井部32a下面に係止されている。なお、弁軸ホルダ32の天井部32a上には、コイルばねからなる復帰ばね35が配在されている。
【0009】
このような構成とされた電動弁10’にあっては、ステータコイル53,53に対する通電(パルス供給)制御行うことにより、弁本体20に固定されたガイドブッシュ26に対し、ロータ30及び弁軸ホルダ32がに回転せしめられ、ガイドブッシュ26の固定ねじ部28と弁軸ホルダ32の移動ねじ部38とのねじ送りにより、弁軸25(弁体24)が昇降して、弁口オリフィス22Dが開閉される。したがって、かかる電動弁10’にあっては、ロータ30の回転量により弁体24のリフト量(弁開度)、すなわち流体の通過流量を調整することができ、ロータ30の回転量は供給パルス数により制御されるため、流体通過流量を高精度に調整することができる(特許文献1)。
【0010】
次に、上記従来の電動弁10’の弁座22周りの詳細構成を図10を参照しながら説明する。前記弁座22に形成された弁口オリフィス22Dは、前記弁室21側(上流側)に形成された逆円錐面部22aとこの下流側に形成された円筒面部(最狭部)22dとからなっており、この弁口オリフィス22Dにおける円筒面部22dの上流端に前記逆円錐状の弁体24が接離するようになっている。
【0011】
ここでは、前記弁口オリフィス22Dにおける円筒面部22dの孔径Φdが1.8mmに設定されるとともに、前記円筒面部22dの長さ(その上流端から前記弁口オリフィス22Dの下流端までの長さ)が4.2mmに設定されている。
【0012】
なお、他の主要部の寸法は、弁室21の内径Φjが約5.0mm、弁軸25の外径Φfが3.2mm、弁体24の頂角(=中心角=テーパ角)θgが32°となっており、弁軸25と弁体24との間には逆円錐面状の段丘部24cが形成されている。
【0013】
また、弁本体20における弁室21の側部に、流体導入管61の先端面がその外側面に当接せしめられる円形の流入口63が形成され、該流入口63の口径Φcが前記流体導入管61の先端部内径Φaと同じに設定されている(ΦaとΦbの両方とも約4.6mm)。
【0014】
【特許文献1】特開2003−4160号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前記の如くの構成とされた従来の電動弁10’においては、流体が流体導入管61から流入口63を介して弁室21に流入し、さらに弁体24により開閉される弁口オリフィス22Dを介して流体導出管62に流出する際に、キャビテーションによる耳障りな騒音が発生するという問題があった。
【0016】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、キャビテーションによる耳障りな騒音を可及的に低減できる電動弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、弁口オリフィスの寸法形状等に種々の変更を施して試行実験を繰り返して得られた知見とそれに基づく考察に立脚してなされたものである。
【0018】
すなわち、本発明に係る電動弁は、基本的には、弁軸の下端部に設けられた逆円錐状の弁体と、該弁体により開閉される弁口オリフィスが形成された弁座を有するとともに、流体が導入導出される弁室が形成された弁本体と、該弁本体にその下端部が密封接合されたキャンと、該キャンの内周に所定の間隙をあけて配在されたロータと、該ロータを回転駆動すべく前記キャンに外嵌されたステータと、前記ロータの回転を利用して前記弁体を昇降させる駆動機構と、を備え、前記弁口オリフィスにおける最狭部の孔径が1.0〜2.4mmに設定されるとともに、前記最狭部の上流端から前記弁口オリフィスの下流端までの長さが2.1mm以下に設定され、かつ、前記最狭部の下流端から前記弁口オリフィスの下流端までは頂角が16°〜72°の円錐面部で構成されていることを特徴としている。
【0019】
好ましい態様では、前記弁口オリフィスにおける最狭部の上流端に前記弁体が接離するようにされる。
【0020】
前記弁口オリフィスは、好ましくは、前記弁室側から下流側に向かって順次、逆円錐面部、短円筒面状の最狭部、及び前記円錐面部で構成される。
【0021】
他の好ましい態様では、前記弁本体における弁室の側部に、流体導入管の先端面がその外側面に当接せしめられる円形の流入口が形成され、該流入口の口径が前記流体導入管の先端部内径より所定値以上大きく設定される。
【0022】
より具体的には、前記流体導入管の先端部内径が約4.6mmの場合、前記流入口の口径が4.8mm以上に設定される。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る電動弁では、前述した従来例のものと比較すると、弁口オリフィスにおける最狭部(円筒面部)の孔径が略同じに設定されたもとで、前記最狭部(円筒面部)の上流端から前記弁口オリフィスの下流端までの長さが従来例のものより相当短く設定され、かつ、前記最狭部の下流端から前記弁口オリフィスの下流端までが頂角が比較的大きな円錐面部で構成されている。このように、弁口オリフィスの長さを短くすることにより、該弁口オリフィスを通過する流体の速度が下がり、これに伴い流体圧力が上がるので、キャビテーションが発生し難くなり、その結果、騒音が低減される。また、弁口オリフィスの下流部分を円錐面部で構成することによっても、該弁口オリフィスを通過する流体の速度が下がり、これに伴い流体圧力が上がるので、キャビテーションが発生し難くなり、その結果、騒音が低減される。
【0024】
また、流入口の口径が流体導入管の先端部内径より所定値以上大きく設定されることによっても、この部分でキャビテーションが発生し難くなり、その結果、騒音が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る電動弁の一実施形態の縦断面図、図2は、要部(弁座周り)の拡大断面図である。なお、図1、図2に示される本実施形態の電動弁10については、前述した図9、図10に示される従来例の電動弁10’の各部に対応する部分には同一の符号を付して詳細説明を省略し、以下においては、相異点を重点的に説明する。
【0026】
本実施形態の電動弁10では、前記弁座22に形成された弁口オリフィス22Dは、弁室21側(上流側)から下流側に向かって順次、逆円錐面部22a、短円筒面部22b(最狭部)、及び円錐面部22cで構成されており、図2(B)に示される如くに、弁口オリフィス22Dにおける短円筒面部22bの上流端に逆円錐状の弁体24が接離するようになっている。
【0027】
ここでは、弁口オリフィス22Dにおける短円筒面部22bの孔径Φdが従来例のものと同じ1.8mmに設定されるとともに、前記短円筒面部22bの上流端から弁口オリフィス22Dの下流端までの長さLbが2.1mm以下に設定され、かつ、前記短円筒面部22bの下流端から前記弁口オリフィス22Dの下流端までを構成する円錐面部22cの頂角θe(=中心角=テーパ角)が64°に設定されている。
【0028】
なお、他の主要部の寸法は、従来例のものと同じで、弁室21の内径Φjが約5.0mm、弁軸25の外径Φfが3.2mm、弁体24の頂角(=中心角=テーパ角)θgが32°となっており、弁軸25と弁体24との間には逆円錐面状の段丘部24cが形成されている。
【0029】
また、弁本体20における弁室21の側部に、流体導入管61の先端面がその外側面に当接せしめられる円形の流入口63が形成され、該流入口63の口径Φcが流体導入管61の先端部内径Φaより所定値以上大きく設定されている。具体的には、前記流体導入管61の先端部内径Φaが従来例と同じの約4.6mmであり、前記流入口63の口径Φcが4.8mm以上に設定されている。
【0030】
次に、上記実施形態の電動弁10に関連して、弁口オリフィス22Dの寸法形状や流入口63の寸法に変更を施して音圧(騒音レベル)を測定した結果を図3〜図8に示す。
【0031】
図3は、従来例のものに対して、前記円筒面部22dの長さ(その上流端から前記弁口オリフィス22Dの下流端までの長さ)Lbを2.1mm以下に短くしたもの(従来例はLbが4.2mm)であり、図4は、前記長さLbを、1.5mm、2.1mm、4.2mm、6.3mmにしたときの音圧(dB)を示す。
【0032】
この図4から、前記長さLbを短く(特に2.1mm以下に)すると、音圧(騒音レベル)が下がることがわかる。
【0033】
図5は、従来例のものに対して、前記長さLbを変えずに(4.2mmのまま)、弁口オリフィス22Dを、弁室21側(上流側)から下流側に向かって順次、逆円錐面部22a、短円筒面部22b(最狭部)、及び円錐面部22cで構成し、円錐面部22cの頂角θeを32°にしたものであり、図6は、前記頂角θeを0°(円筒状のまま)、16°、32°にしたときの音圧(dB)を示す。
【0034】
この図6から、弁口オリフィス22Dの下流部分を円筒状から円錐状にすることで、
音圧(騒音レベル)が下がることがわかる。
【0035】
図7は、従来例のものに対して、弁口オリフィス22Dの寸法形状は変えずに、前記流入口63の口径Φcを流体導入管61の先端部内径Φa(4.6mm)より大きい4.8mm以上にしたものである。図8は、前記流入口63の口径Φcを2.8mm、3.8mm、4.8mmにしたときの音圧(dB)を示す。
【0036】
この図8から、流入口63の口径Φcを流体導入管61の先端部内径Φaより大きくする方が音圧(騒音レベル)が下がることがわかる。
【0037】
以上の説明から理解されるように、本実施形態の電動弁10では、前述した従来例のものと比較すると、弁口オリフィス22Dにおける短円筒面部(最狭部)22bの孔径Φdが略同じに設定されたもとで、前記短円筒面部22bの上流端から前記弁口オリフィス22Dの下流端までの長さが従来例のものより相当短く設定され、かつ、前記短円筒状部22bの下流端から前記弁口オリフィス22Aの下流端までが頂角θeが比較的大きな円錐面部22cで構成されている。このように、弁口オリフィス22Dの長さを短くすることにより、該弁口オリフィス22Dを通過する流体の速度が下がり、これに伴い流体圧力が上がるので、キャビテーションが発生し難くなり、その結果、騒音が低減される。また、弁口オリフィス22Dの下流部分を円錐面部22cで構成することによっても、該弁口オリフィス22Dを通過する流体の速度が下がり、これに伴い流体圧力が上がるので、キャビテーションが発生し難くなり、その結果、騒音が低減される。
【0038】
また、流入口63の口径Φcが流体導入管61の先端部内径Φaより所定値以上大きく設定されることによっても、この部分でキャビテーションが発生し難くなり、その結果、騒音が低減される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る電動弁の一実施形態を示す縦断面図。
【図2】(a)は図1に示される電動弁の弁本体部分の拡大断面図、(b)は更にその要部拡大断面図。
【図3】図9、図10に示される従来例のものに対して円筒面部の長さを変更した場合を示す要部拡大断面図。
【図4】図3に示される円筒面部の長さの変更による音圧の相違を示す図。
【図5】図9、図10に示される従来例のものに対して弁口オリフィスの下流部分を円錐面状に変更した場合を示す要部拡大断面図。
【図6】図5に示される弁口オリフィスの下流部分を円錐面状に変更したことによる音圧の相違を示す図。
【図7】図9、図10に示される従来例のものに対して流入口の口径を変更した場合を示す要部拡大断面図。
【図8】図3に示される流入口の口径の変更による音圧の相違を示す図。
【図9】従来の電動弁の一例を示す縦断面図。
【図10】図9に示される電動弁の要部拡大断面図。
【符号の説明】
【0040】
10C 電動弁
20 弁本体
21 弁室
22 弁座
22D 弁口オリフィス
22a 逆円錐面部
22b 短円筒面部
22c 円錐面部
23 鍔状部材
24 弁体
25 弁軸
30 ロータ
40 キャン
50 ステータ
61 流体導入管
63 流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁軸の下端部に設けられた逆円錐状の弁体と、該弁体により開閉される弁口オリフィスが形成された弁座を有するとともに、流体が導入導出される弁室が形成された弁本体と、該弁本体にその下端部が密封接合されたキャンと、該キャンの内周に所定の間隙をあけて配在されたロータと、該ロータを回転駆動すべく前記キャンに外嵌されたステータと、前記ロータの回転を利用して前記弁体を昇降させる駆動機構と、を備えた電動弁であって、
前記弁口オリフィスにおける最狭部の孔径が1.0〜2.4mmに設定されるとともに、前記最狭部の上流端から前記弁口オリフィスの下流端までの長さが2.1mm以下に設定され、かつ、前記最狭部の下流端から前記弁口オリフィスの下流端までは頂角が16°〜72°の円錐面部で構成されていることを特徴とする電動弁。
【請求項2】
前記弁口オリフィスにおける最狭部の上流端に前記弁体が接離することを特徴とする請求項1に記載の電動弁。
【請求項3】
前記弁口オリフィスは、前記弁室側から下流側に向かって順次、逆円錐面部、短円筒面状の最狭部、及び前記円錐面部で構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動弁。
【請求項4】
前記弁本体における弁室の側部に、流体導入管の先端面がその外側面に当接せしめられる円形の流入口が形成され、該流入口の口径が前記流体導入管の先端部内径より所定値以上大きく設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の電動弁。
【請求項5】
前記流体導入管の先端部内径が約4.6mmであり、前記流入口の口径が4.8mm以上に設定されていることを特徴とする請求項4に記載の電動弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−19406(P2010−19406A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183078(P2008−183078)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(391002166)株式会社不二工機 (451)
【Fターム(参考)】