説明

電動式オイルポンプの制御装置

【課題】検出油温と実油温との間に乖離が生じた場合でも、実油温に応じた供給量を確保する。
【解決手段】モータ駆動式の電動オイルポンプから供給される潤滑油の油温をセンサで検出し、モータの実回転速度Nが油温に応じて変化する目標回転速度Nendに近づくようにモータをフィードバック制御する電動式オイルポンプの制御装置において、モータの実回転速度Nを目標回転速度Nendにするための目標電流Iendを演算し、モータに供給された実電流Iを検出し、目標電流Iendから実電流Iを減算した値が第1の所定値I1未満であるとき(S4)目標回転速度Nendを減少させる一方(S9)、目標電流Iendから実電流Iを減算した値が第2の所定値I2より大きいとき(S4)目標回転速度Nendを増加させる(S9)。これにより検出油温に応じた目標回転速度Nendを実油温に応じた目標回転速度Nendに収束させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動式オイルポンプの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるモータ駆動式の電動オイルポンプにおいて、特許文献1に記載されるように、車両の駆動系を冷却する潤滑油をその油温に応じて供給するため、モータの目標回転速度を油温に略比例するように増減させて回転速度制御を行う制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−183750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、潤滑油の油温を検出する油温センサに異常が発生して検出油温と実際の油温(以下、「実油温」という)との間に乖離が生じた場合には、モータの目標回転速度を、設計温度範囲のうち少なくとも最も高い油温(以下、「最高油温」という)に応じた供給量を確保できる回転速度に設定することで、実油温の高低にかかわらず冷却性能を確保する。
【0005】
しかしながら、実油温は、概して最高油温より低いため、実際の潤滑油の粘度は、最高油温時の潤滑油の粘度より高くなる。このため、モータの目標回転速度を増減する可変式の電動オイルポンプの場合には、最高油温に応じた供給量を確保できる回転速度で回転させると、想定されるモータへの供給電流に比べ、実際には増大した電流が供給されてしまう。これは、燃費の低下及び発熱量の増大を招くととともに、電動オイルポンプなどの構成部品の耐久性に影響を及ぼすおそれがある。
【0006】
そこで、本発明は以上のような従来の問題点に鑑み、検出油温と実油温との間に乖離が生じた場合でも、実油温に応じた供給量を確保できる電動式オイルポンプの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明に係る電動式オイルポンプの制御装置は、モータ駆動式の電動オイルポンプから供給される潤滑油の油温をセンサで検出し、モータの実回転速度が油温に応じて変化する目標回転速度に近づくように、モータをフィードバック制御することを前提として、モータの実回転速度を目標回転速度にするための目標電流を演算し、モータに供給された実電流を検出し、目標電流から実電流を減算した値が第1の所定値未満であるとき、目標回転速度を減少させる一方、目標電流から実電流を減算した値が第2の所定値より大きいときに、目標回転速度を増加させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電動式オイルポンプの制御装置によれば、検出油温と実油温との間に乖離が生じた場合でも、実油温に応じた供給量を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】電動式オイルポンプの制御装置を含む車両駆動系の構成図
【図2】油温−目標回転速度マップの説明図
【図3】モータ駆動制御装置を示す構成図
【図4】制御プログラムを示すフローチャート
【図5】油温−動作目標マップの説明図
【図6】各油温における動作目標を示すグラフ
【図7】図4の制御プログラムに追加する処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付された図面を参照して本発明を詳述する。
図1は、電動式オイルポンプの制御装置を含む、車両駆動系を示す。
動力源としてのエンジン10の出力は、トルクコンバータ12を介して自動変速機14に伝達され、その出力軸16を通して、図示しない車両の駆動輪を回転駆動する。
なお、自動変速機14に組み合わされる動力源としては、エンジン10の他、電動モータであってもよく、更に、動力源をエンジンと電動モータとの組み合わせとすることもできる。
【0011】
自動変速機14には、トルクコンバータ12からのエンジン10の出力を入力として、減速した出力を出力軸16に伝達するために、複数の減速比を有する歯車の組み合わせを備えた歯車機構18(例えば、遊星歯車機構など)が内蔵される。
また、自動変速機14には、歯車機構18の歯車の組み合わせを変更するために、クラッチ機構20が設けられている。なお、自動変速機14には、有段歯車式変速機に限らず、CVT(Continuously Variable Transmission)などの無段変速機を用いることができる。
【0012】
さらに、自動変速機14には、歯車機構18などの潤滑に加え、クラッチ機構20などによる発熱を自動変速機14の潤滑油を用いて除去するため、この潤滑油をその油温に応じた供給量で循環させて冷却する潤滑油循環システム22が接続される。
潤滑油循環システム22は、オイルクーラ24と、オイルパン26と、オイルポンプ28と、モータ30と、電動オイルポンプ(オイルポンプ28及びモータ30)の制御装置32と、を含んで構成される。
【0013】
オイルクーラ24は、自動変速機14内で熱せられた潤滑油の放熱を行い、オイルパン26は、オイルクーラ24で放熱した潤滑油を一時的に貯留する。オイルポンプ28は、オイルパン26から自動変速機14内へ潤滑油を供給するが、モータ30が、このオイルポンプ28に回転駆動力を与える。モータ30は、例えば、3相ブラシレスモータであるが、回転電動機であればよい。
【0014】
電動式オイルポンプの制御装置32は、オイルポンプ28から自動変速機14への潤滑油の供給量を調整すべく、モータ30の回転速度を制御する。供給量は、モータ30の回転速度に略比例する。
電動式オイルポンプの制御装置32は、油温センサ34と、オートマチック・トランスミッション・コントロール・ユニット(以下「ATCU」という)36と、モータ駆動制御装置(以下「MCU」という)38と、を含んで構成される。
【0015】
油温センサ34は、例えば、自動変速機14の上部に取り付けられ、自動変速機14内の潤滑油の油温Tを検出する。検出された検出油温Tは、ATCU36へ出力される。なお、油温センサ34は、自動変速機14に限らず、潤滑油循環システム22内において油温Tを検出可能ないずれかの箇所、例えば、オイルパン26、オイルポンプ28の吐出し口、オイルポンプ28の吸込み口などに取り付けられてもよい。
【0016】
ATCU36は、潤滑油の検出油温Tや油圧などに応じてオイルポンプ28の起動の是非を判断して、起動させる場合には起動信号をMCU38に出力する。ATCU36は、この起動信号を出力するときに、検出油温Tに応じた潤滑油の供給量を確保できるモータ30の目標回転速度Nendを演算し、これをMCU38に出力する。
【0017】
目標回転速度Nendは、ATCU36のROM(Read Only Memory)などに記憶された、各油温(例えば、10℃ごと)とこれに対応するモータ30の目標回転速度Nendとからなる目標回転速度マップ(図2参照)、及び各油温間の目標回転速度Nendを補間する公知の補間技術を用いて決定する。
【0018】
図3は、MCU38の構成を示す。MCU38は、モータ30に供給される実電流Iを検出する電流検出部40(検出手段)と、モータ30の各相コイルに接続されたスイッチング素子群42(例えば、FETなど)と、モータ30に供給される電流を所定の電流以下に抑える電流抑制部44と、スイッチング素子群42を制御する制御部46と、を含んで構成される。
【0019】
電流検出部40は、例えば、シャント抵抗であり、それ自体に流れる電流を検出すべく、その両端間において生じる電位差を得るために用いられる。電流検出部40で検出された実電流Iは、コンピュータを内蔵した制御部46へ出力される。
スイッチング素子群42は、モータ30の回転子の回転角度情報などに基づいて、制御部46により電気的にON/OFFされて、各相に対する電流の方向を切り換える。
【0020】
電流抑制部44は、例えば、スイッチング素子を備え、実電流Iが所定の電流Imaxを超えないようにこのスイッチング素子をON/OFFする。ここで、所定の電流Imaxは、スイッチング素子群42やモータ30の各相コイルなどの耐久性及び性能に影響を与えない最大の電流である。
制御部46は、電流検出部40により検出された実電流Iの波形において、電流方向切り換え時に現れるピークの時間間隔を計測して、現在のモータ30の実回転速度Nを検出する。
【0021】
また、制御部46は、実回転速度NがATCU36から出力された目標回転速度Nendに近づくように、モータ30の回転速度制御(フィードバック制御)を行う。具体的には、スイッチング素子群42へ出力するPWM信号のデューティ比を制御量として制御を行う。
さらに、制御部46は、ATCU36から出力された目標回転速度Nendに応じて、そのROMなどに記憶された制御プログラムを実行する。これにより、演算手段及び増減手段を夫々具現化する。
【0022】
図4は、MCU38の制御部46において、ATCU36から目標回転速度Nendが出力された後、オイルポンプ28の停止信号が出力されるまでの間、実行される制御プログラムを示す。
ステップ1(図では「S1」と略記する。以下同様)では、実回転速度Nを検出油温Tに応じた目標回転速度Nendにするための目標電流Iendを演算する。
【0023】
目標電流Iendは、制御部46のROMなどに記憶された、各油温(例えば、10℃ごと)とこれに対応するモータ30の目標回転速度Nend及び目標電流Iendとからなる動作目標マップ(図5参照)及び各油温間の目標回転速度Nendを補間する公知の補間技術を用いて決定する。即ち、動作目標マップを参照し、目標回転速度Nendに応じた目標電流Iendを求める。
【0024】
ステップ2では、目標回転速度Nendに基づいて、モータ30の回転速度制御(フィードバック制御)を行う。
ステップ3では、電流検出部40により検出された実電流Iを入力する。
ステップ4では、目標電流Iendと実電流Iとに基づいて、第1の判定を行う。
【0025】
第1の判定では、目標電流Iendと実電流Iとの間に明確な大小差が現れる場合に、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないことを速やかに判断する。回転速度の大小差ではなく最初に電流の大小差により判断するのは、回転子の慣性などに影響される回転速度よりも電流の方が応答性も良く、速やかに収束するためである。なお、油温に応じた必要な供給量が確保されているか否かという観点から、目標回転速度Nendと実回転速度Nとの大小差により判断してもよい。
【0026】
目標電流Iendと実電流Iとの比較は、精度を高める観点から、実電流Iの変化を安定させてから行うことが好ましいが、早期の判定という観点から、実電流Iが所定の変化速度又は加速度で変化している場合にも行うことができる。
目標電流Iendと実電流Iとの間に明確な大小差が現れる場合としては、目標電流Iendが低い油温(例えば、0℃)におけるものであり、この油温と比較して実油温が中程度若しくは高い(例えば、40〜100℃)場合又はこの逆の場合などが考えられる(図6参照)。
【0027】
end−I<I1又はIend−I>I2である場合、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないと判定する。一方、I1≦Iend−I≦I2である場合、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動している可能性があると判定する。なお、I1(第1の所定値)及びI2(第2の所定値)は実電流Iの振れ幅を考慮した値であり、I1<I2である。
【0028】
そして、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないと判定した場合には、ステップ8へ進む一方(Yes)、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動している可能性があると判定した場合には、ステップ5へと進む(No)。
ステップ5では、目標回転速度Nendと実回転速度Ncalとに基づいて、第2の判定を行う。
【0029】
第2の判定では、目標電流Iendと実電流Iとの間の大小差が僅少であり、第1の判定で実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していることを断定できない場合に、実回転速度Nが目標回転速度Nendに対して所定範囲内にあるか否かにより精度を向上させて判断する。
断定できない場合としては、目標電流Iendが中低度の油温(例えば、40℃)におけるものであり、この油温と比較して実油温が高い(例えば、100℃)場合又はこの逆の場合などが考えられる(図6参照)。
【0030】
1≦Nend−Ncal≦N2である場合、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動している可能性が高いと判定する。一方、Nend−Ncal<N1又はNend−Ncal>N2である場合、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動しているか不明と判定する。なお、N1及びN2は実回転速度Nの振れ幅を考慮した値であり、N1≦N2である。また、目標回転速度Nendと実回転速度Nが低くなるに従って、目標電流Iendと実電流Iとの偏差が大きくなるため、N1とN2との偏差を小さくしてもよい。
【0031】
実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動しているか不明としたのは、第1の判定後における実電流Iの僅かな変化によって実回転速度Nが大きく変化することなどが考えられるため、再度電流比較を行わせるためである。
そして、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動している可能性が高いと判定した場合には、ステップ6へと進む一方(Yes)、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動しているか不明と判定した場合には、ステップ2へと戻る(No)。
【0032】
ステップ6では、目標電流Iendと実電流Iとに基づいて、第3の判定を行う。
第3の判定では、厳密な電流比較により、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動しているか否かを判断する。
【0033】
end−I<I3又はIend−I>I4である場合、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないと判定する。一方、I3≦Iend−I≦I4である場合、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していると判定する。なお、I3及びI4は実電流Iの振れ幅を考慮した値であり、I3≦I4である。また、第1の判定よりも厳密な電流比較を行うため、I3及びI4は、I3<I1かつI4<I2である。
【0034】
そして、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないと判定した場合には、ステップ8へ進む一方(Yes)、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していると判定した場合には、検出油温Tは実油温T0と等温であるとみなして、ステップ7へと進む(No)。
【0035】
ステップ7では、本ステップまでに、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないと判定されたか否かを判断する。この判断には、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動していないと判定されたか否かの状態を示す状態フラグFが用いられ、状態フラグFは、駆動していないと判定されたことがないとき0を示し、駆動していないと判定されたとき1を示す。F=1である場合には、ステップ10へと進み(Yes)、F=0である場合には、本制御プログラムを終了する(No)。
【0036】
ステップ8では、状態フラグFを1とする。状態フラグFは、ATCU36からの電動オイルポンプの停止信号の出力によって本制御プログラムが終了するとともに0に初期化される。
ステップ9では、Iend−I<I1又はIend−I<I3の場合、現在の目標回転速度Nendを減少させる一方、Iend−I>I2又はIend−I>I4の場合、現在の目標回転速度Nendを増加させる。
【0037】
現在の目標回転速度Nendは、一定回転速度であるΔN増減させるか、又は、動作目標マップに記憶された目標回転速度Nendのうち、現在の目標回転速度Nendに対して一段異なる値を選択して増減させてもよい。ΔN増減させる場合には、増減後の目標回転速度Nendとして、動作目標マップ中の各油温間を補間して得られる値を用いてもよい。
このように目標回転速度Nendを増減すれば、オイルポンプ28の供給量に直接関係するモータ30の回転速度で目標値を定めることができる。本ステップ終了後、ステップ1へと戻る。
【0038】
ステップ10では、実油温T0を推定する。具体的には、動作目標マップにおいて、現在の目標電流Iendがどの油温に対応するか各油温とマッチングを行う。マッチングの結果、目標電流Iendが一致する油温を推定油温T´とする。
ステップ11では、ATCU36へ推定油温T´を出力し、ステップ2へと戻る。
【0039】
このような電動式オイルポンプの制御装置32によれば、検出油温Tから演算した目標回転速度Nendに基づいてモータ30の回転速度制御をした後、実油温T0に応じた目標回転速度Nendでモータ30が駆動されているか否かを判定する。そして、そのような駆動がなされていない場合には、実油温T0に応じた目標回転速度Nendに収束するように現在の目標回転速度Nendを増減させる。したがって、油温センサの故障などにより油温の検出に異常が発生し、検出油温Tが実油温T0と乖離した場合であっても、略実油温T0に応じた潤滑油の供給が確保され、クラッチ機構20などの焼き付きや自動変速機14の故障を抑制することができる。
【0040】
このような焼き付きや故障の抑制が可能であることに加え、過剰な潤滑油が継続的に供給されないため、想定されるモータ30への供給電流に比べて実際に供給される電流が増大することがなく、燃費の改善及び発熱量の低減、並びに電動オイルポンプの耐久性向上を図ることが可能である。
【0041】
さらに、現在の目標回転速度Nendを実油温T0に応じた目標回転速度Nendに収束させたときには、動作目標マップを参照してこの目標回転速度Nendに対応する油温T´から実油温T0を推定できる。したがって、油温センサ34が故障して油温の検出に異常が発生した場合でも、推定した油温T´をATCU36へ出力することにより、ATCU36が自動変速機14に対して検出油温Tに基づく過剰なフェールセーフ制御を行うおそれが低減する。
【0042】
なお、MCU38の実行する制御プログラムにおいて、ステップ9を以下のようにしてもよい。即ち、Iend−I<I1又はIend−I<I3の場合、現在の目標電流Iendを増加させる一方、Iend−I>I2又はIend−I>I4の場合、現在の目標電流Iendを減少させる。
【0043】
現在の目標電流Iendは、一定電流であるΔI増減させるか、又は、動作目標マップに記憶された目標電流Iendのうち、現在の目標電流Iendに対して一段異なる値を選択して増減させてもよい。ΔI増減させる場合には、増減後の目標電流Iendとして、動作目標マップ中の各油温間を補間して得られる値を用いてもよい。
【0044】
また、MCU38の実行する制御プログラムにおいて、ステップ3とステップ4との間において、図7に示される処理を行ってもよい。即ち、ステップ3aでは、実電流Iが所定値I5(第3の所定値)以下となった場合、ステップ3bへと進み(Yes)、ステップ3bでは、目標回転速度Nendをモータ30の設計温度範囲において少なくとも最も高い油温に応じた回転速度Nmaxに設定した後、ステップ4へと進む。一方、ステップ3aで、実電流Iが所定値I5より大きくなった場合には、現在の目標回転速度Nendを維持してステップ4へと進む(No)。ここで、I5は、例えば、図6において、各油温の目標電流Iendの大小差が僅かな中高油温(40℃〜100℃)に対応するいずれかの目標電流Iend(例えば、40℃における目標電流Iend:3.5A)である。
【0045】
図7に示される処理を行うことにより、実油温が比較的高く(例えば、40℃〜100℃)、潤滑油の粘度が比較的低い(モータ30に供給される実電流Iも低い)ことを把握できるため、モータ30に供給される電流を著しく増大させることなく、自動変速機14の冷却性能を確保することができる。
【0046】
さらに、ATCU36において、推定油温T´と検出油温Tとの偏差の絶対値が、T1以上であるときに、油温センサ34が異常であると判定することもできる。T1は、油温センサ34の検出における誤差範囲よりも大きい値である。このような異常判定を行うことにより、ATCU36は、油温センサ34の誤差範囲内における油温検出を異常とすることがない。
【0047】
ここで、前記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
【0048】
(イ)前記実電流が前記モータの耐久性及び性能に影響を与えない最大の電流以下となるように制限する制限手段を更に含んで構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の電動式オイルポンプの制御装置。
この発明によれば、モータへの過電流供給による電動オイルポンプの故障を抑制することができる。
【0049】
(ロ)前記目標電流から前記実電流を減算した値が第1の所定値未満、又は前記目標電流から前記実電流を減算した値が第2の所定値より大きい場合に、前記油温にかかわらず、前記目標回転速度の初期値として、前記モータの設計温度範囲において少なくとも最高の油温に応じた最高回転速度を設定する第1の初期値設定手段を更に含んで構成されることを特徴とする請求項1〜3、及び(イ)のいずれか1つに記載の電動式オイルポンプの制御装置。
この発明によれば、目標電流と実電流との偏差が大きい場合には、実油温の高低にかかわらず冷却性能の確保を優先させることができる。
【0050】
(ハ)前記実電流が第4の所定値以下である場合に、前記目標回転速度の初期値として、前記モータの設計温度範囲において少なくとも最高の油温に応じた最高回転速度を設定する第2の初期値設定手段を更に含んで構成されることを特徴とする請求項1〜3、及び(イ)のいずれか1つに記載の電動式オイルポンプの制御装置。
ここで、第4の所定値は、各油温の目標電流の大小差が僅かな中高油温(40℃〜100℃)に対応するいずれかの目標電流(例えば、40℃における目標電流:3.5A)である。
この発明によれば、実油温が比較的高く(例えば、40℃〜100℃)、潤滑油の粘度が比較的低い(モータに供給される実電流も低い)ことを把握できるため、モータに供給される電流を増大させることなく、自動変速機の冷却性能を確保することができる。
【0051】
(ニ)前記増減手段は、更に、想定される電流の変化特性(変化率又はその微分値)から実電流の変化特性を減算した値が第5の所定値未満であるとき、前記目標回転速度を減少させる一方、想定される電流の変化特性から実電流の変化特性を減算した値が第6の所定値より大きいとき、前記目標回転速度を増加させることを特徴とする請求項1〜3、(イ)、(ロ)、及び(ハ)のいずれか1つに記載の電動式オイルポンプの制御装置。
この発明によれば、実電流が安定するまで待たずに、早期に目標回転速度の増減を開始することができる。
【0052】
(ホ)前記異常判定手段により、前記センサが異常と判定された場合に、前記目標回転速度の初期値として、前記モータの設計温度範囲において少なくとも最高の油温に応じた最高回転速度を設定する第3の初期値設定手段を含んで構成されることを特徴とする請求項3に記載の電動式オイルポンプの制御装置。
この発明によれば、油温の高低にかかわらず、冷却性能の確保を優先させることができる。
【0053】
(へ)前記フィードバック制御は、前記実回転速度が、実油温と推定油温との誤差を考慮した、推定油温に応じた目標回転速度に近づくように制御することを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電動式オイルポンプの制御装置。
この発明によれば、推定油温と実油温との間の誤差を考慮することで、必要な冷却性能を確保することができる。
【符号の説明】
【0054】
28 オイルポンプ
30 モータ
32 電動式オイルポンプの制御装置
34 油温センサ
36 ATCU
38 MCU
40 電流検出部
46 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ駆動式の電動オイルポンプから供給される潤滑油の油温をセンサで検出し、前記モータの実回転速度が前記油温に応じて変化する目標回転速度に近づくように、前記モータをフィードバック制御する電動式オイルポンプの制御装置において、
前記モータの実回転速度を前記目標回転速度にするための目標電流を演算する演算手段と、
前記モータに供給された実電流を検出する検出手段と、
前記目標電流から前記実電流を減算した値が第1の所定値未満であるとき、前記目標回転速度を減少させる一方、前記目標電流から前記実電流を減算した値が第2の所定値より大きいときに、前記目標回転速度を増加させる増減手段と、
を含んで構成されたことを特徴とする電動式オイルポンプの制御装置。
【請求項2】
前記増減手段により前記目標電流から前記実電流を減算した値が第1の所定値以上かつ第2の所定値以下に収束されたときに、前記目標回転速度から前記潤滑油の油温を推定する推定手段を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の電動式オイルポンプの制御装置。
【請求項3】
前記推定手段により推定された前記潤滑油の油温と、前記センサにより検出された前記潤滑油の油温と、の偏差の絶対値が第3の所定値以上であるときに、前記センサが異常であると判定する異常判定手段を更に備えたことを特徴とする請求項2に記載の電動式オイルポンプの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−67823(P2012−67823A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−212244(P2010−212244)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】