説明

電動式ポンプ及びブレーキ用電動式ポンプ

【課題】 大型化を招くことなく低コストで音や振動を抑制できる電動式ポンプを提供すること。
【解決手段】 モータの回転子のスロット数とポンプ一回転あたりの吐出回数の最小公倍数にモータの最低回転数に対応する一次回転数周波数を乗算した値が、所定の周波数以上となるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータにより駆動されるポンプの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータにより駆動されるポンプとして特許文献1に記載の技術が開示されている。この特許文献1に記載のポンプでは、電動モータの回転力変動やポンプの吐出脈動に起因する音や振動を低減するために、モータ出力軸とポンプ駆動軸との噛み合い部分の一方に凸部を、他方に凹部を形成し、モータとポンプの脈動を周波数整合させると共に逆位相へ移相することで脈動成分を相殺し、音や振動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−199355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術にあっては、特殊な継ぎ手を供える必要があり、部品点数の増加やコストアップを招き、また大型化を招く。更に、周波数整合を図るためにモータのコギング回数とポンプギヤ数を一致させる必要があり、設計自由度が低下する問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、大型化を招くことなく低コストで音や振動を抑制できる電動式ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明では、モータの回転子のスロット数とポンプ一回転あたりの吐出回数の最小公倍数にモータの最低回転数に対応する一次回転数周波数を乗算した値が、所定の周波数以上となるように設定した。
【発明の効果】
【0007】
よって、共振周波数が高いため人に聞こえることがなく、また、高周波であることから振動も小さくなり、大型化を招くことなく低コストで音や振動を抑制した電動式ポンプを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の電動式ポンプを表す断面図である。
【図2】実施例1に適用されたギヤポンプを表す断面図である。
【図3】実施例1に適用された電動モータを表す断面図である。
【図4】実施例1の最小公倍数と一次モータ回転数との関係を表す特性図である。
【図5】実施例2のモータトルクとポンプ脈動との関係を表すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
図1はブレーキユニットのポンプ及びモータ部の概要を表す部分断面図である。アルミブロックから形成された略直方体のハウジング1内にはギヤポンプ2が収装され、ハウジング1の一側面にはモータ3がボルトにより取り付けられている。ギヤポンプ2の駆動軸であるポンプシャフト2aには凸型の2面幅が形成され、モータ3の駆動軸であるモータシャフト3aには凹型の2面幅が形成され、それらが互いに直接嵌合している。ギヤポンプ2は、1つのポンプシャフト2aにより駆動される二つのギヤポンプ21,22が設けられ、二系統を有するブレーキ装置にあっては、一つのギヤポンプで独立して一系統に油圧を供給可能に構成される。ブレーキの系統とは、例えばX配管がなされたブレーキ装置の場合、右前輪と左後輪の組み合わせを一系統と言い、左前輪と右後輪の組み合わせを他の一系統と言う。実施例1では、これら二つのギヤポンプ21,22のギヤ位置は一致されており、一方のギヤの位相に着目して設定することで両ギヤの位相が調整される。
【0011】
図2はギヤポンプ21の軸直角方向の断面図である。このギヤポンプ2は外接ギヤポンプであり、ポンプシャフト2aと一体に回転するドライブギヤ4と、このドライブギヤ4と同一の歯数を有するドリブンギヤ5とが互いに噛み合っている。また、両ギヤの外周側にはシールブロック6が配置され、吸入ポートを形成すると共に、ギヤ歯先とシールブロック内周とでシール面を形成する。作動時には、シールブロック6内の吸入ポートからブレーキ液を吸い込み、両ギヤにより圧縮されたブレーキ液が吐出される。このとき、一回転あたり歯数分の噛み合いと吐出脈動を原因とする音や振動が発生する。
【0012】
図3にモータ軸直角方向の断面図を示す。モータ3は回転子であるモータコア31と、モータハウジング7内壁に固定された永久磁石9とを有する。モータコア31は複数のスロット10(図3には9つのスロット)が形成されている。各スロット10にはそれぞれコイル8が巻回されており、これら各コイル8に図外の整流子を介して次々に電流を印加することにより永久磁石との間で電磁力による吸引反発力を発生させ、回転力を得て作動を行う。分割されているスロット10に電流を印加する際、各スロットの間においては一瞬電流の流れは遮断され、回転力を失い、その後次のスロットに電流が流れた際、再び回転力を得る。つまり、電動モータにおいては一回転あたりにスロットの数だけ回転数および回転力変動を原因とする音や振動が発生する。
【0013】
(音,振動の特性)
音や振動は波動であり、別々の起震源から発生する音や振動の周波数成分同士が一致した場合、波の重ね合わせの原理により、振動が増幅され、周波数分析結果において鋭いピークを示す。このピークが音や振動としては問題となる。人間の可聴域は数十Hzから20KHz程度までとされており、この範囲の周波数は人に何らかの違和感を与えるおそれがある。ただし、2KHz以上の高周波領域では、振幅が非常に小さくなるため実質的には気にならないことが多い。例えば、自動車に搭載されるブレーキユニットにおいては車室内において2KHz以下の周波数帯の音や振動が問題とされることが多く、周波数成分同士の一致点を2KHz以上に設定することが望ましい。また、音や振動の性質として、基本周波数の2倍,3倍,・・N倍の次数成分を持ち、次数成分同士が一致した場合においても波の重ね合わせ原理が適用できる。
【0014】
(ポンプ歯数とスロット数の最適な組み合わせ)
上記課題に鑑み、実施例1では起震源であるギヤポンプ2の歯数及びモータ3のスロット数の組み合わせについて以下のように設定することとした。まず、ギヤポンプ2とモータ3の最初の周波数一致点は、ギヤポンプ2の歯数とモータ3のスロット数の最小公倍数(以下、LCMと記載)である。次に、あるモータ一次回転数(rpm)を考えたとき、このモータ一次回転数は一分間当たりの回転数であるため、60で割って(一分は60秒だから)周波数に直す。これをモータ一次周波数と定義する。次に、モータ一次周波数にLCMを乗じることにより共振周波数を算出する。この共振周波数が2KHz以上であれば、車の乗員にはほとんど違和感を与えることがないのである。図4は、モータ一次周波数と、モータ一次回転数と、LCMとの関係を表す表及び特性図である。すなわち、モータ3を作動させるときのモータ一次回転数に対し、LCMを斜線領域となるように設定すれば2KHz以上の共振周波数を得ることができる。
【0015】
例えば、モータ3を作動させるときに最も低い作動回転数は1200rpm程度と考えられるとする。これは、ポンプを作動させてホイルシリンダを加圧して制動力を得るブレーキ装置において、通常ブレーキ相当の減速を得られる程度である。この場合、モータ一次周波数は20Hzである。今、共振周波数を2KHz以上に設定したいのだから、20Hz×LCM≧2000Hzとなればよい。よって、LCMを100以上に設定すれば、全ての作動回転数領域で共振周波数を2KHz以上に設定することができる。実施例1ではギヤポンプ2の歯数を19とし、スロット数を9とすると、LCMは171となり、共振周波数は3420Hzとなり、2KHz以上に設定できる。一方、ギヤポンプ2の歯数を18とすると、LCMは18となり、共振周波数が360Hzとなって2KHz未満となってしまうため、乗員に違和感を与えることになる。この場合は、スロット数を16に設定することで、共振周波数が2KHz以上とできる。
【0016】
次に、ギヤポンプ2の歯数とモータ3のスロット数をどのように設定してLCMを最適な値に設定するかについて説明する。図5は、モータが回転しているときの1つのスロットに着目したとき、モータ側でのトルク変化と、ポンプ側で発生する脈動との関係を表すタイムチャートである。1つのスロットが回転移動する間、その回転速度やモータトルクは一定値を取る。そこで、1つのスロットに対してより多くの歯数を設定すれば、脈動が小さく安定した吐出圧を得ることができる。これにより、音や振動の発生を抑制することができる。
【0017】
以上説明したように、実施例1の電動式ポンプにあっては、下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)永久磁石9を用いた回転式の電動モータ3と、該電動モータ3の回転軸により回転駆動されるポンプ2とから構成される電動式ポンプにおいて、LCM(モータ3のスロット数とポンプ一回転あたりの吐出回数の最小公倍数)にモータ3の最低回転数に対応する一次周波数を乗算した値が、ブレーキ制御に許容される2KHz以上となるように設定した。よって、共振周波数が高いため人に聞こえることがなく、また、高周波であることから振動も小さくなり、大型化を招くことなく低コストで音や振動を抑制した電動式ポンプを提供できる。尚、実施例1では車両に搭載されるブレーキユニットに適用する例であり、ブレーキユニットに許容される周波数が2KHzであるため、そのように設定したが、車両以外に適用されるような電動式ポンプであっても、人の可聴領域の上限である4KHz以上となるように設定すれば、いずれにせよ音や振動が違和感となることはない。すなわち適用箇所において許容される周波数以上にLCMを設定すれば発明の目的は達成される。また、LCMの組み合わせを検討するに当たり、スロット数よりも歯数が多くなるように設定することが好ましい。これにより、更に音や振動を抑制することができる。
【符号の説明】
【0018】
1 ハウジング
2 ギヤポンプ
3 モータ
4 ドライブギヤ
5 ドリブンギヤ
10 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石を用いた回転式の電動モータと、該電動モータの回転軸により回転駆動されるポンプとから構成される電動式ポンプにおいて、
前記モータの回転子のスロット数と前記ポンプ一回転あたりの吐出回数の最小公倍数に前記モータの最低作動回転数に対応する一次回転数周波数を乗算した値が、所定の周波数以上となるように設定したことを特徴とする電動式ポンプ。
【請求項2】
永久磁石を用いた回転式の電動モータと、該電動モータの回転軸により回転駆動されるポンプとから構成されるブレーキ用電動式ポンプにおいて、
前記モータの回転子のスロット数と前記ポンプ一回転あたりの吐出回数の最小公倍数に前記モータの最低作動回転数に対応する一次周波数を乗算した値が、ブレーキ制御に許容される2KHz以上となるように設定したことを特徴とするブレーキ用電動式ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−174714(P2010−174714A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17532(P2009−17532)
【出願日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】