説明

電動機から発生する電磁音を制御する方法

【課題】所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させる方法を提供する。
【解決手段】交流電動機と、前記交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段と、前記電力供給手段を制御して、前記交流電動機の相コイルに流れる電流を調節する制御手段と、を備える動力装置において、
前記交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数及び音量を有する電磁音を前記交流電動機から発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機から発生する電磁音を制御する方法に関する。より詳細には、本発明は、電動車両等に搭載される電動機から発生する電磁音を所望の周波数及び音量に制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
当該技術分野においては、昨今の地球環境保護意識の益々の高まりを受け、電動機を動力源とする電動車両の普及が進んでいる。かかる電動車両に搭載される電動機の動作は、一般的に、パルス幅変調インバータによる可変電圧可変周波数制御によって制御される。開発当初の電動車両においては、インバータや電動機から発生する電磁音が騒音として問題視されたが、キャリア周波数を人間にとって耳障りな周波数よりも高い領域にすることにより、低騒音化が実現されるようになった。
【0003】
しかしながら、電動車両においては、上記のように低騒音化が実現されたことに伴い、新たな問題が顕在化した。具体的には、電気自動車(EV)や内燃機関が稼働していない状態におけるハイブリッド自動車(HV)においては、大きな騒音源である内燃機関が搭載されていない又は稼働していないため、上記のような低騒音化の実現と相まって、非常に高い静音性が実現されている。その結果、車両の近傍に居る人(例えば、歩行者等)が電動車両の接近に気付き難い等の問題が懸念されるようになった。
【0004】
一方、当該技術分野においては、例えば、バッテリーの容量不足、インバータや電動機の過熱、シフトレバーの位置等の車両の状態を運転者や搭乗者等に報知するための警告音や報知音を、ブザーやスピーカー等の専用の構成要素を追加するのではなく、電動機から発生する電磁音や振動によって発生させようとする試みもなされている。
【0005】
そこで、当該技術分野においては、例えば、パルス幅変調インバータの制御周期や制御周波数(キャリア周波数)を変化させて、電動機に供給される電流のリプル成分(リプル電流)を制御することにより、電動機から発生する電磁音を制御する技術が開発されている(例えば、特許文献1乃至3を参照)。
【0006】
しかしながら、上記のようにパルス幅変調インバータのキャリア周波数を変化させて、電動機のリプル電流を制御することにより、電動機から発生する電磁音を制御する手法においては、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで発生させることは困難である。具体的には、リプル電流を利用して電動機から電磁音を発生させようとする場合、インバータのキャリア周波数を低くすると、リプル電流の高さが大きくなり、電磁音の大きさが大きくなる一方、リプル電流の幅が大きくなり、電磁音の周波数が低くなる。逆に、インバータのキャリア周波数を高くすると、リプル電流の高さが小さくなり、電磁音の大きさが小さくなる一方、リプル電流の幅が小さくなり、電磁音の周波数が高くなる。このように、インバータのキャリア周波数を変化させて電動機から発生する電磁音を制御する手法においては、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで発生させることは困難である(例えば、高い周波数を有する電磁音を大音量で発生させることは難しい)。
【0007】
加えて、パルス幅変調インバータのキャリア周波数を過度に低くすると、パルス幅変調インバータによる電動機の制御精度が低下するため、実現可能なキャリア周波数には下限が存在する。従って、上記のようにパルス幅変調インバータのキャリア周波数を変化させて、電動機のリプル電流を制御することにより、電動機から発生する電磁音を制御しようとしても、キャリア周波数の下げ幅には限界があるため、所望の大きさの電磁音を電動機から発生させることは困難である。
【0008】
以上のように、当該技術分野においては、例えば、車両の近傍に居る人(例えば、歩行者等)に電動車両の接近を知らせるための報知音や、バッテリーの容量不足、インバータや電動機の過熱、シフトレバーの位置等の車両の状態を運転者や搭乗者等に報知するための警告音として、電動機から発生する電磁音を利用しようとする種々の試みが為されているものの、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させることができる技術は未だに確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平2−179297号公報
【特許文献2】特開平7−177601号公報
【特許文献3】特開2005−130614号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述のように、当該技術分野においては、例えば、車両の近傍に居る人(例えば、歩行者等)に電動車両の接近を知らせるための報知音として、あるいはバッテリーの容量不足、インバータや電動機の過熱、シフトレバーの位置等の車両の状態を運転者や搭乗者等に報知するための警告音として、電動機から発生する電磁音を利用しようとする種々の試みが為されているものの、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させることができる技術は未だに確立されていない。
【0011】
即ち、当該技術分野においては、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させることができる技術に対する要求が依然として存在する。本発明は、かかる要求に応えるために為されたものである。即ち、本発明の1つの目的は、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記1つの目的は、
交流電動機と、
前記交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段と、
前記電力供給手段を制御して、前記交流電動機の相コイルに流れる電流を調節する制御手段と、
を備える動力装置において、
前記交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数及び音量を有する電磁音を前記交流電動機から発生させる、
電磁音制御方法によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電磁音制御方法によれば、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させて、例えば、車両の近傍に居る人(例えば、歩行者等)に電動車両の接近を知らせるための報知音として、あるいはバッテリーの容量不足、インバータや電動機の過熱、シフトレバーの位置等の車両の状態を運転者や搭乗者等に報知するための警告音として、利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】パルス幅変調インバータによって制御される交流電動機の相電流のキャリア周波数による変化を表す模式図である。
【図2】本発明の1つの実施態様に係る電磁音制御方法における交流電動機の相電流の変化を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述のように、本発明は、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させる方法を提供することを1つの目的とする。本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究の結果、交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段を制御して、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させることができることを見出し、本発明を想到するに至ったものである。
【0016】
即ち、本発明の第1の実施態様は、
交流電動機と、
前記交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段と、
前記電力供給手段を制御して、前記交流電動機の相コイルに流れる電流を調節する制御手段と、
を備える動力装置において、
前記交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数及び音量を有する電磁音を前記交流電動機から発生させる、
電磁音制御方法である。
【0017】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法は、交流電動機と、当該交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段と、当該電力供給手段を制御して、前記交流電動機の相コイルに流れる電流を調節する制御手段と、を備える動力装置において、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで前記交流電動機から発生させる方法である。
【0018】
上記交流電動機は、特定の構成を有するタイプに限定されるものではなく、例えば同期電動機、誘導電動機等の何れの交流電動機であってもよい。また、上記交流電動機の相数についても、特に限定されるものではない。例えば、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグイン・ハイブリッド自動車(PHV)等の電動車両の動力源として使用される交流電動機としては、三相の永久磁石型同期電動機が一般的に用いられている。
【0019】
上記電力供給手段についても、上記交流電動機の相コイルに交流電力を供給して、交流電動機に所望の動作(例えば、回転速度やトルク等)をさせるために必要とされるトルク電圧Vq及び励磁電圧Vdを交流電動機において生じさせることができる限り、特定の構成に限定されるものではない。例えば、EV、HV、PHV等の電動車両に搭載される交流電動機のための電力供給手段としては、直流電力を交流電力に変換するインバータ、より具体的にはパルス幅変調インバータが一般的に用いられている。
【0020】
また、上記インバータに供給される直流電力は、例えば、商用の交流電源から供給される交流電力を例えばコンバータ等によって直流電力に変換して得られるものであってもよい。あるいは、上記インバータに供給される直流電力は、例えば電動車両等に搭載される直流電源(例えば、リチウムイオン電池等の二次電池等)から供給されるものであってもよい。
【0021】
上記インバータは、上記コンバータ又は上記直流電源から供給される直流電力を、蓄電手段が配設された入力段に受け、交流電力に変換して、当該交流電力を交流電動機に供給する。インバータの構成については当該技術分野において周知であるので、ここでは詳細には説明しないが、例えば、インバータは、上記直流電源の出力を平滑化する蓄電手段と、蓄電手段の両端子にそれぞれ接続された複数対のスイッチング素子と、各スイッチング素子に並列に接続された整流素子とを備え、スイッチング素子のON/OFFの制御により直流電源の直流電力を交流電力に変換する。
【0022】
上記スイッチング素子としては、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)を挙げることができる。また、上記整流素子としては、例えば、ダイオードを挙げることができる。また、上記インバータがその入力段に備える上記蓄電手段は、例えば、コンデンサ(キャパシタ)等によって構成され、上記直流電源の出力を平滑化する機能を果たす。具体的には、上記蓄電手段は、直流電源から供給される直流電圧の変動に応じて、充電及び放電を行うことにより、インバータに供給される直流電圧を平滑化する。
【0023】
上記制御手段は、電力供給手段を制御して、交流電動機の相コイルに流れる電流(相電流)を調節する。より具体的には、上記制御手段は、例えば、交流電動機に所望の動作(例えば、回転速度やトルク等)をさせるために必要とされるトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*に対応する相電流を算出し、斯くして算出された相電流に対応する相電圧を交流電動機の相コイルに印加するように電力供給手段を制御する。これにより、上記制御手段は、交流電動機の動作(例えば、回転速度やトルク等)を制御することができる。
【0024】
より詳細には、電力供給手段から交流電動機に印加される交流電圧は、交流電動機を励磁する成分である励磁電圧成分Vdと、交流電動機にトルクを付与する成分であるトルク電圧成分Vqとに分けて捉えることができる。上記動力装置においては、交流電動機に求められる出力(トルク及び回転数)に応じて、励磁電圧成分Vdの目標値である励磁電圧指令値Vd*及びトルク電圧成分Vqの目標値であるトルク電圧指令値Vq*が、電力供給手段を制御する制御手段によって設定され、設定された励磁電圧指令値Vd*及びトルク電圧指令値Vq*に従って、励磁電圧成分Vd及びトルク電圧成分Vqが制御手段によってそれぞれ制御される。
【0025】
例えば、上記動力装置が電動車両に搭載される動力装置である場合、当該車両が備える電子制御装置(ECU)が、アクセル信号、ブレーキ信号、シフトポジション信号等の入力信号に基づいて、励磁電圧指令値Vd*及びトルク電圧指令値Vq*(ひいては励磁電流指令Id*及びトルク電流指令Iq*)を算出し、算出した励磁電圧指令値Vd*及びトルク電圧指令値Vq*に基づき、例えば、PWM信号を生成することにより、交流電動機の相コイルに流れる電流(相電流)を制御する。交流電動機が三相電動機である場合、電動機の各相電流Iu、Iv、及びIwを励磁電流成分Id及びトルク電流成分Iqに変換し、また励磁電圧指令値Vd*及びトルク電圧指令値Vq*(ひいては励磁電流指令Id*及びトルク電流指令Iq*)を各相電圧指令値Vu*、Vv*、及びVw*(ひいては各相電流指令値Iu*、Iv*、及びIw*)に変換して、上記のような制御を実現することができる。但し、本発明は、交流電動機に対する供給電流の励磁電流成分Id及びトルク電流成分Iqへの変換を伴わないベクトル制御手法にも適用することができる。
【0026】
ベクトル制御は、永久磁石同期モータ等の交流電動機を高速・高精度に制御するのに有効な電動機制御技術である。ベクトル制御とは、電動機の電流や鎖交磁束をベクトルの瞬時値として把握し、それらのベクトルを瞬時値で制御することにより、電動機の瞬時トルクを指令に追従させる技術である。ベクトル制御は、電動機のモデルとしての電圧方程式(詳細については後述する)に基づいて構成される。
【0027】
上記のように交流電動機、電力供給手段、及び制御手段を備える動力装置において所望の周波数及び音量を有する電磁音を交流電動機から発生させようとする場合、従来技術においては、前述のように、例えば、電力供給手段としてのインバータのキャリア周波数を変化させて、交流電動機に供給される電流のリプル成分を制御することにより、交流電動機から発生する電磁音の周波数及び音量を制御しようとしてきた。
【0028】
しかしながら、このようにインバータのキャリア周波数を変化させて交流電動機のリプル電流を制御することにより交流電動機から発生する電磁音を制御する手法においては、前述のように、例えば、高い周波数を有する電磁音は小音量でしか発生させることができず、低い周波数を有する電磁音は大音量でしか発生させることができない。即ち、当該手法においては、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで発生させることは困難である。また、前述のように、インバータのキャリア周波数の下げ幅には限界があるため、所望の大きさの電磁音を電動機から発生させることは困難である。
【0029】
ここで、図1を参照しながら、より詳細に説明する。図1は、前述のように、パルス幅変調インバータによって制御される交流電動機の相電流のキャリア周波数による変化を表す模式図である。先ず、図1(a)は、キャリア周波数が高い場合において交流電動機の相電流に生ずるリプルを表す。個々の鋸刃状の波形がリプル100を表し、当該波形に対応するリプル幅110及びリプル高120を呈する。これに対し、図1(b)は、キャリア周波数が低い場合において交流電動機の相電流に生ずるリプルを表す。キャリア周波数が高い(a)の相電流と比較して、個々のリプル100がより大きくなっており、これに対応して、リプル幅110及びリプル高120もより大きくなっている。
【0030】
上記の結果、図1(b)のようにキャリア周波数を下げた場合は、キャリア周波数が高い(a)の場合と比較して、リプル幅110がより大きいことから、交流電動機から発生する電磁音の周期も長くなり(即ち、周波数が下がる)、リプル高120もより大きいことから、電磁音の音量もより大きくなる。逆に、図1(a)のようにキャリア周波数を上げた場合は、キャリア周波数が低い(b)の場合と比較して、リプル幅110がより小さいことから、交流電動機から発生する電磁音の周期も文字斯くなり(即ち、周波数が上がる)、リプル高120もより小さいことから、電磁音の音量もより小さくなる。このように、インバータのキャリア周波数を変化させて交流電動機のリプル電流を制御することにより交流電動機から発生する電磁音を制御する手法においては、高い周波数を有する電磁音は小音量でしか発生させることができず、低い周波数を有する電磁音は大音量でしか発生させることができない。
【0031】
一方、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、上記のように、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数及び音量を有する電磁音を交流電動機から発生させる。これにより、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、インバータのキャリア周波数を変化させて交流電動機から発生する電磁音を制御する従来技術に係る手法とは異なり、交流電動機から発生する電磁音の周波数と音量とを独立して自由に制御することができる。
【0032】
具体的には、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加える。この際、電圧指令値における周期的な変動の周波数を低くすることにより、相電流における周期的な変動の周期を長くすることができ、結果として交流電動機から発生する電磁音の周波数を低くすることができる。逆に、電圧指令値における周期的な変動の周波数を高くすることにより、相電流における周期的な変動の周期を短くすることができ、結果として交流電動機から発生する電磁音の周波数を高くすることができる。一方、電圧指令値における周期的な変動の振幅を大きくすることにより、相電流における周期的な変動の振幅を大きくすることができ、結果として交流電動機から発生する電磁音の音量を大きくすることができる。逆に、電圧指令値における周期的な変動の振幅を小さくすることにより、相電流における周期的な変動の振幅を小さくすることができ、結果として交流電動機から発生する電磁音の音量を小さくすることができる。
【0033】
ここで、図2を参照しながら、より詳細に説明する。図2は、前述のように、本発明の1つの実施態様に係る電磁音制御方法における交流電動機の相電流の変化を表す模式図である。先ず、図2(c)は、基準となる変動が加えられた電圧指令値に基づいて交流電動機の相電流に生ずる変動を表すものとする。この場合、相電流の変動の周期210及び相電流の変動の振幅220に応じた電磁音が交流電動機から発生する。電磁音の音量を基準より大きくしたい場合は、図2(a)に示すように、交流電動機の相電流に生ずる変動の振幅220が大きくなるように、電圧指令値に加える変動の振幅を大きくすればよい。逆に、電磁音の音量を基準より小さくしたい場合は、図2(e)に示すように、交流電動機の相電流に生ずる変動の振幅220が小さくなるように、電圧指令値に加える変動の振幅を小さくすればよい。
【0034】
一方、電磁音の音程(周波数)を高くしたい場合は、図2(d)に示すように、交流電動機の相電流に生ずる変動の周期210が短く(周波数が高く)なるように、電圧指令値に加える変動の周期を短く(周波数を高く)すればよい。逆に、電磁音の音程(周波数)を低くしたい場合は、図2(b)に示すように、交流電動機の相電流に生ずる変動の周期210が長く(周波数が低く)なるように、電圧指令値に加える変動の周期を長く(周波数を低く)すればよい。
【0035】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅により、交流電動機の相コイルに流れる電流(相電流)の周波数及び振幅を、それぞれ独立して制御することができる。しかも、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、交流電動機から発生する電磁音の音量を大きくする際には、電圧指令値における周期的な変動の振幅を大きくすればよい。従って、インバータのキャリア周波数を変化させて交流電動機から発生する電磁音を制御する従来技術に係る手法とは異なり、電磁音の音量を大きくするための設定において特段の制約は無い。即ち、上述の従来技術においてはキャリア周波数の下限が電磁音の音量の上限となるが、本実施態様においては電圧指令値における周期的な変動の振幅を大きくすればするほど、電磁音の音量を大きくすることができる。
【0036】
以上のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段を制御して、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで電動機から発生させることができる。
【0037】
ところで、上述の実施態様に係る電磁音制御方法においては、上述のように、交流電動機から発生させようとする電磁音の周波数及び音量に応じた周期的変動を、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に加える。即ち、上記電圧指令値に加えられる周期的変動の周波数及び振幅は、電磁音の所望の周波数及び音量に応じて、設定することができる。一方、交流電動機から発生する電磁音の音色は、相電流における周期的な変動の波形に応じて、種々の音色に変化する。相電流における周期的な変動の波形は、交流電動機に対する電圧指令値に加えられる周期的な変動の波形に応じて変化する。
【0038】
従って、交流電動機から発生する電磁音の種々の音色と、電圧指令値に加えられる周期的な変動の波形との対応関係を予め(例えば事前実験等によって)求めておき、かかる対応関係をデータマップ(例えば、データテーブル等)に波形データとして格納しておき、交流電動機から電磁音を発生させようとする際に、指定された音色に応じた波形データを当該データマップから読み出し、斯くして読み出された波形データに基づいて電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出することにより、指定された音色を有する電磁音を交流電動機から発生させることができる。
【0039】
即ち、本発明の第2の実施態様は、
本発明の前記第1の実施態様に係る電磁音制御方法であって、
複数種の音色に対応する複数種の波形を表す波形データを格納するデータマップから、指定された音色に応じた波形データを読み出し、当該波形データに基づいて、前記電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出する、
電磁音制御方法である。
【0040】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、複数種の音色に対応する複数種の波形を表す波形データを格納するデータマップから、指定された音色に応じた波形データを読み出し、当該波形データに基づいて、前記電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出する。従って、電圧指令値に加えられる周期的な変動の波形は、指定された音色に応じてデータマップから読み出された波形データを反映している。従って、電圧指令値に加えられる周期的な変動に起因して発生する交流電動機の相電流における周期的な変動の波形もまた当該波形データを反映している。結果として、交流電動機から発生する電磁音もまた、当該波形データを反映し、指定された音色を備えている。
【0041】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、指定された音色を有する電磁音を交流電動機から発生させることができるので、例えば、所望の音色を有する電磁音を電動機から発生させて、例えば、車両の近傍に居る人(例えば、歩行者等)に電動車両の接近を知らせるための報知音として、あるいはバッテリーの容量不足、インバータや電動機の過熱、シフトレバーの位置等の車両の状態を運転者や搭乗者等に報知するための警告音として、使い分けることができる。
【0042】
また、交流電動機から発生する電磁音において、例えば、協和音又は不協和音等のように、異なる周波数を有する二つ以上の音を同時に響かせて、特徴的な音を合成することもできる。
【0043】
具体的には、本発明の第3の実施態様は、
本発明の前記第1又は前記第2の実施態様の何れか1つに係る電磁音制御方法であって、
異なる周波数を有する複数の正弦波を合成して得られる波形に基づいて前記電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出する、
電磁音制御方法である。
【0044】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、異なる周波数を有する複数の正弦波を合成して得られる波形(合成波形)に基づいて前記電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出する。従って、電圧指令値に加えられる周期的な変動の波形は、選択された異なる周波数を有する複数の正弦波を合成して得られる波形(合成波形)を反映している。従って、電圧指令値に加えられる周期的な変動に起因して発生する交流電動機の相電流における周期的な変動の波形もまた当該合成波形を反映している。結果として、交流電動機から発生する電磁音もまた、当該合成波形を反映し、選択された異なる周波数を有する複数の正弦波に該当する複数の音を含んでいる。
【0045】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、異なる周波数を有する複数の音を含む電磁音を交流電動機から発生させることができる。従って、本実施態様に係る電磁音制御方法によれば、例えば、車両の近傍に居る人(例えば、歩行者等)に電動車両の接近を知らせるための報知音としては、人間にとって心地良いと感じる協和音を含む電磁音を発生させ、バッテリーの容量不足、インバータや電動機の過熱、シフトレバーの位置等の車両の状態を運転者や搭乗者等に報知するための警告音としては、人間にとって不快に感じる不協和音を含む電磁音を発生させる等、電磁音の用途に応じて、交流電動機から発生する電磁音に含まれる複数の音の組み合わせを使い分けることができる。
【0046】
ところで、前述のように、本発明に係る電磁音制御方法においては、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数及び音量を有する電磁音を交流電動機から発生させる。即ち、本発明に係る電磁音制御方法においては、交流電動機のベクトル制御において、トルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加える。かかるベクトル制御において、交流電動機のモデルとしての電圧方程式は以下の式(1)によって表される。
【0047】
【数1】

【0048】
上式中、Vd及びVqは各軸(それぞれd軸及びq軸)の一次電圧(励磁電圧成分及びトルク電圧成分)であり、Id及びIqは各軸(それぞれd軸及びq軸)の一次電流(励磁電流成分及びトルク電流成分)であり、ωは交流電動機の回転子の回転角速度(電気角速度)であり、Ld及びLqは各軸(それぞれd軸及びq軸)のインダクタンスであり、Rは一次抵抗であり、φは鎖交磁束の大きさであり、そしてPは微分演算子(d/dt)である。
【0049】
本発明に係る電磁音制御方法において、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*にのみ周期的な変動を加える場合、上記式(1)においてVdは変動せず、Vqのみが周期的に変動するように、交流電動機の相コイルに流れる電流が調節される。逆に、本発明に係る電磁音制御方法において、交流電動機に対する励磁電圧指令値Vd*にのみ周期的な変動を加える場合、上記式(1)においてVqは変動せず、Vdのみが周期的に変動するように、交流電動機の相コイルに流れる電流が調節される。
【0050】
上記において、電圧指令値に加えられる変動の傾き(変化率、微分値)が小さい場合は、上記式(1)に含まれる2つの式の何れにおいても、右辺の最終項である微分演算子Pを含む項は小さく、無視することができる。しかしながら、電圧指令値に加えられる変動の傾き(変化率、微分値)が大きくなるにつれて、上記式(1)に含まれる2つの式の何れにおいても、右辺の最終項である微分演算子Pを含む項が大きくなり、無視することができなくなる。
【0051】
従って、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*に周期的な変動を加える場合、トルク電圧指令値Vq*に加えられる変動の傾きが大きいと、トルク電流成分Iqの変動が大きくなり、交流電動機にトルク変動が生ずる。例えば、当該交流電動機が動力源として電動車両に搭載される場合、当該電動車両のドライバビリティに影響が及ぶ虞がある。かかる場合に交流電動機から所望の周波数及び音量を有する電磁音を発生させようとする際には、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*に周期的な変動を加えるのではなく、交流電動機に対する励磁電圧指令値Vd*に周期的な変動を加えるようにすることが望ましい。
【0052】
上記のように、本発明のより好ましい実施態様に係る電磁音制御方法においては、電圧指令値に加えられる変動の傾きに応じて、トルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の何れに変動を加えるかを切り替えることが望ましい。
【0053】
従って、本発明の第4の実施態様は、
本発明の前記第1乃至前記第3の実施態様の何れか1つに係る電磁音制御方法であって、
前記電圧指令値に加えられる変動の傾きに応じて、トルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の何れに変動を加えるかを切り替える、
電磁音制御方法である。
【0054】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、電圧指令値に加えられる変動の傾きに応じて、トルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の何れに変動を加えるかを切り替える。これにより、交流電動機から所望の周波数及び音量を有する電磁音を発生させるために電圧指令値に加えられる変動の影響がトルク電流成分Iq及び励磁電流成分Idの何れに及ぶかを切り替えることができる。
【0055】
従って、例えば、上述のようにトルク電流成分Iqの変動が望ましくない利用形態においては、電圧指令値に加えられる変動の傾きが(予め定められた閾値よりも)大きい場合は、電磁音を発生させるための周期的な変動を、トルク電圧指令値Vq*ではなく、励磁電圧指令値Vd*に加えるようにすることができる。逆に、励磁電流成分Idの変動が望ましくない利用形態においては、電圧指令値に加えられる変動の傾きが(予め定められた閾値よりも)大きい場合は、電磁音を発生させるための周期的な変動を、励磁電圧指令値Vd*ではなく、トルク電圧指令値Vq*に加えるようにすることができる。尚、上記のように電磁音を発生させるための周期的な変動を加える対象となる電圧指令値を切り替える判断基準となる変動の傾きの閾値は、本実施態様に係る電磁音制御方法が適用される動力装置の利用形態に応じて、適宜定めることができる。
【0056】
ところで、上述のように、トルク電流成分Iqの変動が望ましくない利用形態においては、電圧指令値に加えられる変動の傾きが大きい場合は、電磁音を発生させるための周期的な変動を、トルク電圧指令値Vq*ではなく、励磁電圧指令値Vd*に加えるようにすることができる。この場合、励磁電圧指令値Vd*に加えられる周期的な変動に起因して励磁電流成分Idが変動する。一方、上記式(1)の第2式の右辺の第1項(ωLdId)に励磁電流成分Idが含まれることからも判るように、トルク電圧指令値Vq*に加えられる変動が0(ゼロ)となるように制御すると、このωLdIdの変動を打ち消すようにトルク電流成分Iqが変動する。このようにトルク電流成分Iqが変動すると、前述のように、交流電動機にトルク変動が生ずるので、例えば、当該交流電動機が動力源として電動車両に搭載される場合、当該電動車両のドライバビリティに影響が及ぶ虞がある。
【0057】
そこで、上記のような場合には、トルク電圧指令値Vq*に加えられる変動が0(ゼロ)となるように制御するのではなく、上記ωLdIdの変動を少なくとも部分的に打ち消すようにトルク電圧指令値Vq*に変動を加えることにより、励磁電圧指令値Vd*の変動に伴う励磁電流Idの変動に起因するトルク電流成分Iqの変動を少なくとも部分的に相殺することができる。
【0058】
即ち、本発明の第5の実施態様は、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電磁音制御方法であって、
前記交流電動機に対する励磁電圧指令値Vd*に周期的な変動を加えると共に、当該励磁電圧指令値Vd*の変動に伴う励磁電流Idの変動に起因するトルク電流成分Iqの変動を少なくとも部分的に相殺するように、前記交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*に変動を加える、
電磁音制御方法である。
【0059】
上記のように、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、交流電動機に対する励磁電圧指令値Vd*に周期的な変動を加えると共に、当該励磁電圧指令値Vd*の変動に伴う励磁電流Idの変動に起因するトルク電流成分Iqの変動を少なくとも部分的に相殺するように、交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*に変動を加える。これにより、トルク電流成分Iqの変動が低減されるので、交流電動機におけるトルク変動を抑制することができる。
【0060】
尚、上述のように、励磁電圧指令値Vd*に加えられる周期的な変動に起因して励磁電流成分Idが変動すると、トルク電圧指令値Vq*を表す上記式(1)の第2式の右辺の第1項(ωLdId)が変動するので、このωLdIdの変動を打ち消すことができれば、励磁電流成分Idの変動に起因するトルク電流成分Iqの変動を相殺することができる。従って、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、上記ωLdIdの変動とは逆の位相及び同一の振幅を有する変動をトルク電圧指令値Vq*に加えることが望ましい。これにより、本実施態様に係る電磁音制御方法においては、交流電動機におけるトルク変動を抑制しつつ、所望の周波数を有する電磁音を所望の大きさで交流電動機から発生させることができる。
【0061】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施態様について説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施態様に限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることができることは言うまでも無い。
【符号の説明】
【0062】
100…リプル、110…リプル幅、120…リプル高、及び506…陽極基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電動機と、
前記交流電動機に交流電力を供給する電力供給手段と、
前記電力供給手段を制御して、前記交流電動機の相コイルに流れる電流を調節する制御手段と、
を備える動力装置において、
前記交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の少なくとも何れか一方の電圧指令値に周期的な変動を加えることにより、所望の周波数及び音量を有する電磁音を前記交流電動機から発生させる、
電磁音制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電磁音制御方法であって、
複数種の音色に対応する複数種の波形を表す波形データを格納するデータマップから、指定された音色に応じた波形データを読み出し、当該波形データに基づいて、前記電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出する、
電磁音制御方法。
【請求項3】
請求項1又は2の何れか1項に記載の電磁音制御方法であって、
異なる周波数を有する複数の正弦波を合成して得られる波形に基づいて前記電圧指令値に加えられる周期的な変動の周波数及び振幅を算出する、
電磁音制御方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電磁音制御方法であって、
前記電圧指令値に加えられる変動の傾きに応じて、トルク電圧指令値Vq*及び励磁電圧指令値Vd*の何れに変動を加えるかを切り替える、
電磁音制御方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電磁音制御方法であって、
前記交流電動機に対する励磁電圧指令値Vd*に周期的な変動を加えると共に、当該励磁電圧指令値Vd*の変動に伴う励磁電流Idの変動に起因するトルク電流成分Iqの変動を少なくとも部分的に相殺するように、前記交流電動機に対するトルク電圧指令値Vq*に変動を加える、
電磁音制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−115841(P2013−115841A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256970(P2011−256970)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】