説明

電動機の回転子

【課題】 ロータマグネットの軸方向の位置決めができ、しかも、センサ感度の低下も極力防止できる電動機の回転子を提供する。
【解決手段】 ロータコア19は、複数枚の鋼板28を積層すると共に、軸方向に延びる磁石挿入孔18を周方向に複数個有している。各磁石挿入孔18には、ロータマグネット20が挿入される。鋼板28のうち磁気センサ23側のセンサ側鋼板28aは、磁石挿入孔18に対応する開口部30が、周方向に延びる縁部30aに周方向の少なくとも中央部で磁石挿入孔18よりも径方向へ突出して当該開口部30を狭くする突出部31を有する形状とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体製の鋼板を複数枚積層して形成されるロータコアの複数個の磁石挿入孔に複数個のロータマグネットを挿入して構成される電動機の回転子に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動機の回転子は、例えば、特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2003−333779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、この種の回転子を備えた電動機においては、上記ロータマグネットの軸方向の端面に対向するように磁気センサ(例えばホールIC)を設け、その磁気センサにより回転子の回転位置や回転速度を検出するものが知られている。
図6には、第1の従来例が示されている。この図6の(a)は、アウターロータタイプの回転子におけるロータマグネット1部分を、磁気センサ(図示せず)側から見た平面図を示している。この(a)において、点線Sは、回転子が回転する際に、磁気センサが相対的に通過する通過線を示している。ロータコア2は、複数枚の磁性体製の鋼板3を軸方向(紙面の表裏方向)に積層して環状をなすように構成されていると共に、軸方向に延びる磁石挿入孔4を周方向に複数個有している。各磁石挿入孔4は周方向に長い矩形状をなしていて、各磁石挿入孔4に、矩形板状のロータマグネット1が挿入されている。この場合、ロータコア2において、磁気センサ側の端部に位置するセンサ側鋼板3aも、他の鋼板3と同様な大きさの磁石挿入孔4が形成されている。
【0004】
図6の(b)は、回転子が回転する際に、磁気センサに対して作用するロータマグネット1の磁束の変化を示している。この(b)において、点線A1、A2はしきい値を示し、aは磁束の大きさを示し、bは磁石挿入孔4の周方向の端部から磁極間中心までの距離を示している。
図6の(c)は、磁気センサの出力信号の変化を示している。この(c)において、cは、センサ感度で、磁気センサの出力信号の切り替わり位置の、磁極間中心からのずれを示している。そして、図6の右側には、ロータマグネットの位置決めの良否、NS磁束の傾きの良否、センサ感度の良否、及び総合評価の良否を示している。
【0005】
ここで、図6において、回転子の回転に伴い、磁気センサが、通過線Sを相対的に移動する。このとき、磁気センサの出力信号はハイとローとの間で切り替わるが、そこにはヒステリシスがあり、検知ずれ(上記センサ感度c)が生ずる。
上記した構成のものでは、磁気センサ側の端部に位置するセンサ側鋼板3aも、他の鋼板3と同様な大きさの磁石挿入孔4が形成されているため、ロータマグネット1の軸方向の位置決めができないという不具合がある。このため、総合評価としては「×」となる。
【0006】
これに対して、図7の構成とすることが考えられる。この図7を第2の従来例とする。この場合、ロータコア2の鋼板3のうち、磁気センサ側のセンサ側鋼板3aの開口部5は、他の鋼板3の磁石挿入孔4に対して周方向の両端部に覆い部5aを有する形状としている。このような形状とした場合、覆い部5a部分で、ロータマグネット1の端面の一部を覆うことができるので、ロータマグネット1の軸方向の位置決めが可能になる。
【0007】
しかしながら、センサ側鋼板3aには、開口部5の周方向の両端部に、開口部5を周方向に狭くする覆い部5aがあるため、その部分でロータマグネット1の磁束漏れが発生する。このため、磁気センサに対して作用するロータマグネット1の磁束が、図6の場合よりも小さくなる(a−x1)。また、開口部5の周方向の端部と磁極間中心までの距離が大きくなり(b+y1)、磁極間の磁束の傾きも緩やかになる。このため、センサ感度が図6の場合よりも悪くなる(c+z1)。この場合の総合評価としては「△」となる。
【0008】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ロータマグネットの軸方向の位置決めができ、しかも、センサ感度の低下も極力防止できる電動機の回転子を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の電動機の回転子は、複数枚の磁性体製の鋼板を軸方向に積層して構成されると共に、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を周方向に複数個有したロータコアと、前記複数個の磁石挿入孔に挿入された複数個のロータマグネットとを備え、前記ロータマグネットの軸方向の一方側の端面のうち径方向の側縁部を、固定子側の磁気センサに対向させた状態で回転されるものにおいて、前記ロータコアの鋼板のうち前記磁気センサ側の端部に位置するセンサ側鋼板は、前記磁石挿入孔に対応する開口部が、周方向に延びる縁部に周方向の少なくとも中央部で前記磁石挿入孔よりも径方向へ突出して当該開口部を狭くする突出部を有する形状であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記した本発明によれば、ロータコアの鋼板のうち磁気センサ側の端部に位置するセンサ側鋼板の開口部を、当該開口部を狭くする突出部を有する形状としている。このため、その突出部があることにより、ロータマグネットの軸方向の位置決めが可能になる。また、上記突出部は開口部の周方向に延びる縁部にあるもので、開口部の周方向の両端部を周方向に狭くするものではない。このため、磁極間における磁束の傾きは、周方向の両端部に覆い部がある場合よりも、急になり、センサ感度が低下することを極力防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の第1の実施形態について図1ないし図3を参照して説明する。
まず、図1及び図2において、固定子11は、放射状に突出する複数個のティース12を有するステータコア13と、各ティース12に巻装されたステータコイル14とから構成されている。ステータコア13は、磁性体製の複数枚の鋼板15を軸方向(図1の上下方向)に積層して構成されている。
【0012】
回転子16は、アウターロータタイプのもので、浅底容器状をなす磁性体製のフレーム17と、このフレーム17の周壁部17aの内周部に配置され周方向に複数個の磁石挿入孔18を有した環状をなすロータコア19と、各磁石挿入孔18に挿入された複数個のロータマグネット20と、これらフレーム17、ロータコア19、及びロータマグネット20を成形により一体化する樹脂21とから構成されている。そして、この回転子16は、上記ロータコア19の内周面が、上記固定子11のティース12の先端面に対して所定の空隙を介して対向するように配置され、フレーム17の中心部が図示しない回転軸に取り付けられ、その回転軸を中心に回転可能に設けられる。
【0013】
磁気センサ23は、上記ロータコア19の軸方向の一方の端面である、図1の下面に対向する位置に、上記固定子11に固定された状態で配置される。その磁気センサ23は、例えばホールIC24を用いたもので、プリント基板25に実装されている。磁気センサ23は、合成樹脂製のケース26により覆われていて、上記ロータマグネット20の軸方向の端面に対して、その端面のうち径方向の内側の側縁部20a側に寄った部位に対向するように配置されている。
【0014】
ここで、上記ロータコア19は、磁性体製の鋼板28を軸方向(図1の上下方向)に多数枚積層して構成されている。上記磁石挿入孔18は、軸方向(鋼板28の積層方向)に延びていて、各磁石挿入孔18に矩形板状のロータマグネット20が挿入されている。各磁石挿入孔18は、ロータマグネット20の外形形状に沿うような大きさの矩形状に形成されている。
【0015】
そして、ロータコア19の鋼板28のうち、上記磁気センサ23側の端部に位置するセンサ側鋼板28aは、磁石挿入孔18に対応する開口部30を有している。この開口部30は、図3(a)に示すように、周方向の両端部は他の磁石挿入孔18と同じであるが、周方向に延びる両縁部30aの周方向の中央部に、磁石挿入孔18に対して径方向の内方へ少し突出する突出部31を有していて、その部分で磁石挿入孔18よりも径方向に小さく形成されている。したがって、センサ側鋼板28aは、磁石挿入孔18に対応する開口部30が、周方向に延びる縁部30aに周方向の中央部で磁石挿入孔18よりも径方向へ突出して当該開口部30を狭くする突出部31を有する形状となっている。開口部30は、周方向の両端部部分で他の磁石挿入孔18と同じ形状となっている。
【0016】
なお、図1において、センサ側鋼板28aの下面も、一部を除いて上記樹脂21により覆われていると共に、開口部30内にも樹脂21が入り込んでいて、ロータマグネット20の下面も樹脂21により覆われている。
図3は、図6及び図7の従来例と比較するための図である。この図3の(a)において、点線Sは、回転子16が回転する際に、磁気センサ23が相対的に通過する通過線を示している。また、この(a)は、センサ側鋼板28aの下面に位置する樹脂21は省略して示している。
【0017】
ここで、ロータコア19の鋼板28のうちセンサ側鋼板28aは、磁石挿入孔18に対応する開口部30が、周方向に延びる縁部30aに磁石挿入孔18よりも径方向へ突出して当該開口部30を狭くする突出部31を有する形状としている。このため、その突出部31があることにより、ロータマグネット20の軸方向の位置決めが可能になる。
また、センサ側鋼板28aの開口部30の両縁部30aにおける突出部31は、ロータマグネット20の端面の一部を覆うことになるため、そこで磁束漏れが発生することになる。このため、磁気センサ23に対して作用するロータマグネット20の磁束は、突出部31がある磁極の中央部部分では小さくなるが、周方向の両端部部分では、突出部31がないため、図6の場合とほぼ同じaとなる。このため、磁極間における磁束の傾きは図6の場合と同じとなり、センサ感度も図6の場合と同じcとなる。なお、開口部30の周方向の端部と磁極間中心までの距離bも、図6の場合と同じになる。
【0018】
したがって、上記した第1の実施形態によれば、ロータマグネット20の軸方向の位置決めができ、しかも、センサ感度の低下も防止できる。この結果、総合評価としては「○」とすることができる。
また、上記した第1の実施形態においては、回転子16は、フレーム17と、ロータコア19とロータマグネット20を成形による樹脂21により一体化した構成としているので、回転子16を良好に製造できると共に、強度を保持できる。
【0019】
図4は本発明の第2の実施形態を示したものであり、この第2の実施形態は、上記した第1の実施形態とは次の点が異なっている。すなわち、センサ側鋼板28aの開口部30において、両縁部30aの突出部31は、開口部30の周方向の両端部(ロータマグネット20の周方向の両端部)まで延びている。したがって、開口部30としては、磁石挿入孔18に対して、周方向の全部にわたって狭くなっている。
【0020】
このような構成とした場合、開口部30に突出部31があるから、第1の実施形態と同様に、ロータマグネット20の軸方向の位置決めが可能となる。この場合、突出部31は、開口部30の周方向に延びる両縁部30aに周方向にわたって設けられているため、周方向の両端部においても突出部31による磁束の漏れが発生することになり、磁気センサ23に作用するロータマグネット20の磁束は、図6の場合に比べて周方向全体にわたって小さくなる(a−x2)。しかし、突出部31は、図7の場合の覆い部5aとは違い、開口部30の周方向の両端部を周方向に狭くするものではない。このため、磁極間の磁束の傾きは、図3及び図6の場合よりは緩やかになるが、図7の場合よりは急になり、センサ感度も図7の場合よりは良くなる(c+z2)。この結果、総合評価としては「○」とすることができる。
【0021】
図5は本発明の第3の実施形態を示したものであり、この第3の実施形態は、上記した第1の実施形態とは次の点が異なっている。すなわち、センサ側鋼板28aの開口部30は、周方向の両端部に、ロータマグネット20の端面の周方向の端部(磁石挿入孔18の周方向の端部)よりも大きくなるように、開口部延長部35が形成されている。したがって、この場合、センサ側鋼板28aと接した鋼板28の一部が、開口部延長部35から露出した状態となっている。
【0022】
このような構成とした場合も、センサ側鋼板28aの開口部30には突出部31があるから、第1及び第2の実施形態と同様に、ロータマグネット20の軸方向の位置決めが可能となる。そして、開口部30の周方向の両端部に開口部延長部35を形成したことにより、その開口部延長部35を形成した分、ロータマグネット20の磁束漏れを少なくできる。また、開口部30の周方向の端部、この場合、開口部延長部35の周方向の端部と磁極間中心との間の距離は、図3及び図6の場合よりも小さくなる(b−y2)。この結果、磁極間の磁束の傾きは、図6の場合よりも急になり、また、センサ感度も、図3及び図6の場合よりも良くなる(c−z3)。この結果、総合評価としては「◎」とすることができる。
【0023】
本発明は、上記した実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張できる。
開口部30の縁部30aにおける突出部31は、対向する両縁部30aのうち、少なくとも磁気センサ23と対向する側とは反対側(磁気センサ23の通過線Sとは反対側)の縁部30aのみに設け、磁気センサ23と対向する側には設けないようにすることができる。
【0024】
また、突出部31は、縁部30aに沿って連続して存する形態に限られず、間欠的に存する形態とすることもできる。
本発明は、アウターロータタイプに限られず、インナーロータタイプの電動機の回転子にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す要部の縦断側面図
【図2】要部の平面図
【図3】(a)は磁気センサ側から見た要部の平面図、(b)は磁気センサに作用する磁束の変化を示す図、(c)は磁気センサの出力信号を示す図
【図4】本発明の第2の実施形態を示す図3相当図
【図5】本発明の第3の実施形態を示す図3相当図
【図6】第1の従来例を示す図3相当図
【図7】第2の従来例を示す図3相当図
【符号の説明】
【0026】
図面中、11は固定子、16は回転子、17はフレーム、18は磁石挿入孔、19はロータコア、20はロータマグネット、21は樹脂、23は磁気センサ、28は鋼板、28aはセンサ側鋼板、30は開口部、30aは周方向に延びる縁部、31は突出部、35は開口部延長部を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の磁性体製の鋼板を軸方向に積層して構成されると共に、前記軸方向に延びる磁石挿入孔を周方向に複数個有したロータコアと、前記複数個の磁石挿入孔に挿入された複数個のロータマグネットとを備え、前記ロータマグネットの軸方向の一方側の端面のうち径方向の側縁部を、固定子側の磁気センサに対向させた状態で回転されるものにおいて、
前記ロータコアの鋼板のうち前記磁気センサ側の端部に位置するセンサ側鋼板は、前記磁石挿入孔に対応する開口部が、周方向に延びる縁部に周方向の少なくとも中央部で前記磁石挿入孔よりも径方向へ突出して当該開口部を狭くする突出部を有する形状であることを特徴とする電動機の回転子。
【請求項2】
前記突出部は、前記開口部の周方向に延びる両縁部のうち、少なくとも前記磁気センサと対向する側とは反対側の縁部にあることを特徴とする請求項1記載の電動機の回転子。
【請求項3】
前記突出部は、前記ロータマグネットの端面のうち周方向の両端部に対応する部分には存しないことを特徴とする請求項1または2記載の電動機の回転子。
【請求項4】
前記開口部は、周方向の両端部が前記ロータマグネットの端面の周方向の両端部より大きく形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の電動機の回転子。
【請求項5】
前記ロータコアと前記ロータマグネットとフレームを、成形による樹脂により一体化したしたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の電動機の回転子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−14521(P2006−14521A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−189595(P2004−189595)
【出願日】平成16年6月28日(2004.6.28)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューママーケティング株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝家電製造株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】