説明

電動機

【課題】ロータシャフトを短くし、軸線方向寸法の縮小を図ることができる電動機を提供する。
【解決手段】ロータを構成する電機子鉄心201と中心軸線を共有する内周面を有しステータケース101の底壁部側に開口したベアリング保持穴H2を電機子鉄心201に設け、ロータ2を支持するリアベアリング4の外輪を電機子鉄心のベアリング保持穴H2の内周に圧入する。リアベアリングの内輪はステータケース101の底壁部に設けられたベアリング保持部101cの外周に嵌合させる。ロータシャフト203を、電機子鉄心201の軸心部に設けられたシャフト貫通孔H1に圧入することにより電機子鉄心に結合するとともに、フロントベアリング3の内輪に圧入し、ロータシャフト203をフロントベアリング3を介してエンドカバー103に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周にステータ側の界磁を構成する手段を有するステータと、このステータの内側で回転するロータとを備えた電動機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周にステータ側の界磁を構成する手段を有するステータと、このステータの内側で回転するロータとを備えた電動機が多く用いられている。例えば特許文献1や特許文献2に示された電動機では、カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周に永久磁石を取り付けて磁石界磁を構成したステータと、このステータの磁極に対向する磁極部を有する電機子鉄心と該電機子鉄心に巻回された電機子コイルと電機子鉄心の軸心部に結合されたロータシャフトとにより構成されたロータとが用いられ、ロータの電機子鉄心の磁極部がステータの内側で磁石界磁の磁極に対向させられている。
【0003】
図4は、従来のこの種の電動機の要部の構成を示したもので、同図において1′はステータ、2′はロータである。ステータ1′は、強磁性材料によりカップ状に形成されてステータヨークを兼ねるステータケース101′と、ステータ側の界磁を構成する手段としてステータケース101′の周壁部101a′の内周に取りつけられた図示しない永久磁石とにより構成されている。ステータケース101′の開口部は、図示しないエンドカバーにより閉じられる。ステータケース101′の底壁部101b′の中央部には、後記するロータと軸線を共有する内周面を有するベアリング保持部101c′がプレス加工により形成されている。
【0004】
ロータ2′は、ステータ1′の磁極に対向する磁極部201a′を有する多極星形鉄心からなる電機子鉄心201′と、ロータ側の界磁を構成する手段として電機子鉄心201′のスロットに巻回された電機子コイル(図示せず。)と、電機子鉄心201′を貫通して設けられた孔に圧入されて電機子鉄心の軸心部に結合されたロータシャフト203′とにより構成されている。このロータにおいては、電機子鉄心201′と図示しない電機子コイルとによりロータ本体が構成されている。
【0005】
図示の例では、ロータシャフト203′が、その大部分を占める太径部203a′と、その先端に形成された小径部203b′と、太径部203a′と小径部203b′との間にあって、太径部203a′及び小径部203b′の中心軸線O1−O1に対して偏った位置に中心軸線O2−O2を有する偏心軸部203c′とを有している。
【0006】
ロータシャフト203′の太径部203a′の偏心軸部寄りの部分は、フロントベアリング3′の内輪の内周に圧入され、ロータシャフト203′の後端部は、リアベアリング4′の内輪の内周に圧入されている。フロントベアリング3′の外輪はステータケース1′の開口部を閉じる図示しないエンドカバーの中央部に形成されたベアリング保持部内に嵌合され、リアベアリング4′の外輪はステータケース1′の底壁部の中央に形成されたベアリング保持部101c′の内周に嵌合されている。これによりロータ2′がステータケース1′に対して回転自在に支持され、小径部203b′及び偏心軸部203c′を含むロータシャフト203′の先端寄りの部分がエンドカバーを貫通して外部に導出される。
【0007】
本明細書では、ロータシャフトの負荷に結合される側の端部を該ロータシャフトの先端と呼び、負荷に結合される側の端部とは反対側の端部(ステータケースの底壁部に対向する端部)を該ロータシャフトの後端と呼んでいる。またステータケースの開口部側に向いた電機子鉄心の軸線方向の一端及びステータケースの底壁部側に向いた電機子鉄心の軸線方向の他端をそれぞれ電機子鉄心の(ロータ本体の)フロントエンド及びリアエンドと呼ぶ。
【0008】
図4に示された例では、偏心軸部203c′を設けたことにより生じるロータシャフトの質量のアンバランスを補正する(打ち消す)ため、エンドカバーから外部に導出されたロータシャフト203′の太径部203a′の偏心軸部203c′寄りの部分にバランサ(バランスウェイト)5′が嵌着されている。
【0009】
図示の電動機は、偏心軸部203c′の偏心回転運動を利用してプランジャポンプのプランジャなどを駆動するために用いられるもので、偏心軸部203c′は、図示しないベアリングを介してプランジャなどに結合される。電動機が直流電動機である場合、ロータシャフト203′の太径部203a′のエンドカバー寄りの部分に整流子(図示せず。)が取りつけられ、該整流子にブラシが接触させられる。
【特許文献1】特開平11−252854号公報
【特許文献2】特開2003−70203号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の電動機では、ロータシャフト203′の他端がリアベアリング4′の内輪の内側に圧入されて支持されていたため、ロータシャフト203′の後端側の部分は、電機子鉄心201′のリアエンドから、リアベアリング4′への圧入代以上の長さだけ突出している必要があった。そのため、ロータシャフト203′の長さが長くなり、また電機子鉄心201′のリアエンドとステータケース101′の底壁部101b′との間の距離が長くなるため、電動機の軸線方向寸法が長くなるのを避けられなかった。またロータシャフトが長いため、曲げモーメントによるシャフトのたわみ量が増えて、ロータの振れが大きくなり、回転に伴って生じる振動が大きくなるという問題も生じていた。
【0011】
更に図4に示した例のように、ロータシャフトの先端寄りの部分に偏心軸部203cが設けられる場合には、ロータシャフトの偏心軸部203c′に隣接する部分にバランサ5′を取り付ける必要があったため、ロータシャフト203′のステータケースから外部に導出される部分の長さが長くなり、負荷側からロータシャフトにかかる曲げモーメントによるシャフトのたわみ量が増えて、振動が大きくなるという問題があった。
【0012】
またロータシャフトにバランサ5を取り付ける際には、バランサの向きを精密に調整する必要があるため、その取付に手間がかかり、電動機の製造コストが高くなるという問題があった。
【0013】
更に、ロータシャフトにバランサが取りつけられていると、ロータシャフトの長さが長いことと相俟って、ロータ全体の慣性モーメントが大きくなるため、電動機の回転応答性が悪くなるという問題もあった。
【0014】
また、ステータ側の界磁を構成する手段としてステータケースの内周に配置された電機子鉄心と該電機子鉄心に巻回された電機子コイルとを用い、ロータ側の界磁を構成する手段として永久磁石を用いた電動機(例えばブラシレス直流電動機)もあるが、この種の電動機も上記と同様の問題を有している。
【0015】
本発明の目的は、ロータシャフトの長さを従来よりも短くして、ロータシャフトが長いことにより生じる各種の問題を解消し、小形化と低騒音化とを図ることができるようにした電動機を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、ステータケースから外部に導出されるロータシャフトの先端寄りの部分に偏心軸部を設ける場合に、バランサを取り付ける必要がないようにして、組み立てを容易にするとともに、ロータシャフトのステータケースから外部に導出される部分の長さの短縮を図ることができるようにした電動機を提供することにある。
【0017】
本発明の更に他の目的は、ロータの慣性モーメントを小さくして回転応答性を良好にすることができるようにした電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周にステータ側の界磁を構成する手段を配置してなるステータと、ロータ側の界磁を構成する手段を備えたロータ本体とこのロータ本体に取りつけられたロータシャフトとを有してロータ本体の磁極部がステータの内側でステータ側の磁極に対向させられたロータとを備えた電動機を対象とする。ロータは、ステータケースの開口部を閉じるエンドカバーに取り付けられたフロントベアリングとステータケースの底壁部に取り付けられたリアベアリングとによりステータに対して回転自在に支持され、ロータシャフトの先端寄りの部分がエンドカバーを貫通して外部に導出される。
【0019】
本発明においては、リアベアリングが、ステータケースの底壁部に対向するロータ本体の軸線方向端部をステータケースの底壁部に対して回転自在に支持するように設けられ、フロントベアリングは、ロータシャフトをエンドカバーに対して回転自在に支持するように設けられる。
【0020】
本発明の好ましい態様では、ロータ本体と中心軸線を共有する内周面を有しステータケースの底壁部側に開口したベアリング保持穴がロータ本体に設けられ、ステータケースの底壁部には、ロータ本体と中心軸線を共有する外周面を有する突出部が設けられる。この場合、リアベアリングは、その外輪がロータ本体のベアリング保持穴の内周に圧入され、内輪がステータケースの底壁部に設けられたベアリング保持用突出部の外周に嵌合された状態で設けられる。またロータシャフトは、ロータ本体の軸心部に結合されるとともに、フロントベアリングの内輪に圧入されて該フロントベアリングを介してエンドカバーに支持される。
【0021】
上記のように、リアベアリングがステータケースの底壁部に対向するロータ本体の軸線方向端部(リアエンド)をステータケースの底壁部に対して回転自在に支持し、フロントベアリングがロータシャフトをエンドカバーに対して回転自在に支持するように構成すると、ロータシャフトは、その後端側(ステータケースの底壁部の対向する側)がロータ本体のリアエンドから突出する必要がなく、ロータ本体のリアエンドの手前の位置で終端していればよいため、ロータシャフトの長さを従来よりも短くすることができる。また上記のように構成すると、ロータ本体とステータケースの底壁部との間の距離を短縮することができるため、ロータシャフトを短くすることができることと相俟って、電動機の軸線方向寸法の縮小を図ることができる。更にステータケースの軸線方向寸法を短くする事ができるため、ステータケースを絞り加工により製造する場合に、その加工を容易にすることができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0022】
また上記のように構成すると、ロータシャフトの長さを短くすることができるため、ロータシャフトの撓み量を少なくして電動機の振動の低減を図ることができる。
【0023】
本発明はまた、カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周に永久磁石を取り付けて磁石界磁を構成してなるステータと、電機子鉄心と該電機子鉄心に巻回された電機子コイルと電機子鉄心の軸心部に結合されたロータシャフトとを有して電機子鉄心の磁極部がステータの内側で磁石界磁の磁極に対向させられたロータとを備えた電動機に適用される。この場合には、電機子鉄心及び電機子コイルによりロータ本体が構成される。ロータは、ステータケースの開口部を閉じるエンドカバーに取り付けられたフロントベアリングとステータケースの底壁部に取り付けられたリアベアリングとによりステータに対して回転自在に支持され、ロータシャフトの先端寄りの部分がエンドカバーを貫通して外部に導出される。
【0024】
上記のような電動機に本発明を適用する場合には、リアベアリングが、ステータケースの底壁部に対向する電機子鉄心の軸線方向端部をステータケースの底壁部に対して回転自在に支持するように設けられ、フロントベアリングは、ロータシャフトをエンドカバーに対して回転自在に支持するように設けられる。
【0025】
本発明の好ましい態様では、電機子鉄心と中心軸線を共有する内周面を有しステータケースの底壁部側に開口したベアリング保持穴が電機子鉄心に設けられ、ステータケースの底壁部には、電機子鉄心と中心軸線を共有する外周面を有する突出部が設けられる。リアベアリングは、その外輪が電機子鉄心のベアリング保持穴の内周に圧入され、内輪がステータケースの底壁部に設けられたベアリング保持用突出部の外周に嵌合された状態で設けられる。またロータシャフトは、電機子鉄心の軸心部に設けられたシャフト貫通孔に圧入されることにより電機子鉄心に結合されるとともに、フロントベアリングの内輪に圧入されて該フロントベアリングを介してエンドカバーに支持される。
【0026】
上記のように、リアベアリングがステータケースの底壁部に対向する電機子鉄心の軸線方向端部(リアエンド)をステータケースの底壁部に対して回転自在に支持し、フロントベアリングがロータシャフトをエンドカバーに対して回転自在に支持するように構成すると、ロータシャフトは、その後端側(ステータケースの底壁部と対向する側)が電機子鉄心のリアエンドから突出する必要がなく、電機子鉄心のリアエンドの手前の位置で終端していればよいため、ロータシャフトの長さを従来よりも短くすることができる。また電機子鉄心のリアエンドとステータケースの底壁部との間の距離を短縮して電動機の軸線方向寸法を短くすることができるため、ロータシャフトを短くすることができることと相俟って、電動機の軸線方向寸法の縮小を図ることができる。
【0027】
本発明が対象とする電動機において、ロータシャフトの一端側に該ロータシャフトの中心軸線に対して偏心した偏心軸部が一体に設けられる場合には、偏心軸部が設けられていることにより生じるロータシャフトの質量のアンバランスを補正すべくロータシャフトの後端部の一部の肉が除去される。
【0028】
上記のように、ロータシャフトの一端側に該ロータシャフトの中心軸線に対して偏心した偏心軸部が一体に設けられる場合に、ロータシャフトの後端部の一部の肉を除去することにより、偏心軸部が設けられたことにより生じるロータシャフトの質量のアンバランスを補正するようにすると、バランサを取りつける必要がないため、電動機の組み立てを容易にすることができる。ロータシャフトの後端部はリアベアリングの内輪に圧入されることがないため、その形状は任意とすることができる。従って、ロータシャフトの質量バランスをとるためにロータシャフトの後端部を、その肉の一部が除去された形状としてもなんら差し支えがない。
【0029】
また上記のように構成すると、バランサを省略できるため、ロータシャフトの長さが短くなることと相俟って、ロータ全体の慣性モーメントを小さくすることができ、電動機の回転応答性を良好にすることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明によれば、リアベアリングがステータケースの底壁部に対向するロータ本体の軸線方向端部をステータケースの底壁部に対して回転自在に支持し、フロントベアリングがロータシャフトをエンドカバーに対して回転自在に支持するように構成したので、ロータシャフトの長さを従来よりも短くするとともに、ロータ本体とステータケースの底壁部との間の距離を短縮して電動機の軸線方向寸法を短くすることができ、電動機の小形化を図ることができる。
【0031】
また本発明によれば、ステータケースから外部に導出されるロータシャフトの先端寄りの部分に偏心軸部が設けられる場合に、ロータシャフトの後端部を肉の一部が除去された形状とすることによりロータシャフトの質量バランスをとるようにしたので、ロータシャフトへのバランサの取付を省略することができ、電動機の組み立てを容易にすることができる。更に、バランサを省略することにより、ロータシャフトの先端寄りの部分の長さを短くして、負荷側から作用する曲げモーメントによるロータシャフトの先端部の撓みを少なくすることができるため、負荷の駆動に伴って生じる電動機の振動を少なくすることができる。
【0032】
また本発明によれば、バランサを省力することができるため、ロータシャフトの長さが短くなることと相俟ってロータの慣性モーメントを小さくすることができ、電動機の回転応答性を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1ないし図3は本発明の一実施形態を示したもので、図1はステータケースの半部を断面して要部を示した分解斜視図、図2は本実施形態の構成を示す縦断面図、図3は本実施形態で用いる電機子鉄心の構成を説明するための斜視図である。
【0034】
図1及び図2において、1はステータ、2はロータである。ステータ1は、ステータヨークを兼ねるために強磁性材料によりカップ状に形成されたステータケース101と、ステータ側の界磁を構成する手段としてステータケース101の周壁部101aの内周に取りつけられた永久磁石102とにより構成され、ステータケース101の開口部は、エンドカバー103(図2参照)により閉じられる。ステータケース101の底壁部101bの中央部には、円筒を伏せた形状を有して後記するロータと軸線を共有する外周面101c1(図1参照)を有するベアリング保持用突出部101cがプレス加工により形成されている。ステータケース101の開口端には取付孔101d1を有するフランジ101dが形成されている。
【0035】
ロータ2は、所定の形状に打ち抜かれた鋼板の積層体からなる電機子鉄心201と、この電機子鉄心のスロットに巻回された電機子コイル202(図2参照)と、電機子鉄心201の軸心部を貫通して設けられた孔に圧入されて電機子鉄心201の軸心部に結合されたロータシャフト203とにより構成されている。この例では、電機子鉄心201と電機子コイル(ロータ側の界磁を構成する手段)202とによりロータ本体が構成されている。
【0036】
図示の例では、ロータシャフト203が、その大部分を占める太径部203aと、その先端に形成された小径部203bと、太径部203aと小径部203bとの間にあって、太径部203a及び小径部203bの中心軸線O1−O1に対して偏った位置に中心軸線O2−O2を有する偏心軸部203cとを一体に有している。
【0037】
電機子鉄心201は、環状の継鉄部Yと該継鉄部の外周から放射状に突出した多数の歯部Pとを有する多極星形鉄心で、各歯部Pの先端にステータ1の磁石界磁の磁極に対向する磁極部201aが形成されている。図3に示したように、電機子鉄心201は、鋼板の積層厚さd1が厚い第1の鉄心部分201Aと、第1の鉄心部分201Aよりも鋼板の積層厚さd2が薄い第2の鉄心部分201Bとを重ねて結合したものからなっている。第1の鉄心部分201A及び第2の鉄心部分201Bはそれぞれの軸心部に設けられた孔H1及びH2の大きさが異なる点を除き同一の形状を有している。第1及び第2の鉄心部分201A及び201Bは、互いに重ね合わされた状態で配置されて、それぞれの継鉄部Yを構成する部分を貫通した複数のリベット挿通孔hに挿入されたリベットr(図1参照)により締結されて一体化されている。電機子鉄心201は、その第1の鉄心部分201Aの第2の鉄心部分201Bと反対側の端部(フロントエンド)をステータケース101の開口方向に向けた状態でステータケース内に配置される。
【0038】
第1の鉄心部分201Aの軸心部に形成された孔H1はロータシャフト圧入孔で、この孔の内径は、ロータシャフト203の太径部203aを圧入するのに適した大きさに設定されている。また第2の鉄心部分201Bの軸心部に形成された孔H2はリアベアリング圧入孔で、この孔H2の内径は、後記するリアベアリング4の外輪を圧入するのに適した大きさに設定されている。図示の例では、孔H1及びH2の横断面形状が、周方向に山部と谷部とが交互に並ぶ波形形状を呈するように形成されていて、これらの孔の一連の山部の頂点に内接する円筒面の中心軸線(孔H1及びH2の中心軸線)が電機子鉄心201の中心軸線及びステータ1の中心軸線に一致するようになっている。
【0039】
ステータケース101の開口部を閉じるエンドカバー103の中心部にはシャフト導出孔103aが形成され、このシャフト導出孔の周囲に、ステータ1及び電機子鉄心201と軸線を共有する内周面103b1を有する環状のベアリング保持部103bがプレス加工により形成されている。
【0040】
ロータシャフト203は、エンドカバー103のシャフト導出孔103aを緩く貫通した状態で配置されて、その太径部203aの偏心軸部203c寄りの部分が、ボールベアリングからなるフロントベアリング3の内輪301の内周に圧入されている。またロータシャフト203のほぼ中間部に整流子6が取りつけられ、その後端寄りの部分が、電機子鉄心201の第1の鉄心部分201Aの軸心部を貫通したロータシャフト圧入孔H1に圧入されている。
【0041】
電機子鉄心の第2の鉄心部分の軸心部に形成されたリアベアリング圧入孔H2には、ボールベアリングからなるリアベアリング4の外輪402が圧入されている。リアベアリング4の内輪401は、ロータシャフト203の太径部203aの外径よりも大きい内径を有するように形成され、このリアベアリングの内輪401が、ステータケース101の底壁部の中央に形成されたベアリング保持用突出部101cの外周に嵌合されている。これにより電機子鉄心201のリアエンドがステータケース101の底壁部に回転自在に支持されている。リアベアリング4の振動を抑え、該リアベアリングの部分から騒音が発生するのを防ぐため、リアベアリング4の内輪401とステータケースの底壁部101bとの間にOリングや波板バネなどからなる弾性部材7が挿入され、この弾性部材によりリアベアリング4に予圧が与えられている。
【0042】
エンドカバー103は、ステータケース101の開口端に周設された段部101eに当接された状態で配置されて、適宜の手段、例えば、ステータケース101の開口端の周縁部を全周にわたってエンドカバー側にシーミング加工することによりステータケース101に固定される。
【0043】
ロータシャフト203の太径部203aの偏心軸部203c寄りの部分が内輪に圧入されたフロントベアリング3は、その外輪302がベアリング保持部103bの内周に嵌合されることによりエンドカバー103に保持される。
【0044】
エンドカバー103の内面には、ブラシホルダ8が取りつけられ、このブラシホルダに保持されたブラシ9が整流子6に接触させられている。またエンドカバー103からブッシング10が導出され、ブラシ9に電気的に接続されたリード線11がブッシング10を通して外部に導出されている。
【0045】
ロータシャフト203に偏心軸部203cが設けられたことにより生じるロータシャフトの質量のアンバランスを補正してロータシャフトの一次振動を抑制するため、偏心軸部203cを設けたことにより生じる質量のアンバランスを打ち消すように、ロータシャフト203の後端部の肉の一部が除去されている。図示の例では、偏心軸部203cの偏心方向側でシャフト203の後端部の質量を軽くするように、ロータシャフト203の後端部寄りのほぼ半部の肉を除去することにより、肉抜き部203dを形成して、ロータシャフト203の質量バランスをとっている。ロータシャフトの質量バランスをとるための肉抜き部203dの位置、及び肉抜き量は、偏心軸部203cの偏心量及び偏心方向により一義的に決まるため、肉抜き部203dは、ロータシャフトを加工する際に予め形成しておけばよく、電動機を組み立てる際の肉抜き部の肉抜き量の調整等は不要である。
【0046】
本実施形態の電動機は、例えばプランジャポンプのプランジャを駆動するために用いられる。この場合、ステータケース101のフランジ101dが、電動機の負荷としてのポンプが設けられた装置のフレーム(図示せず。)に固定され、ロータシャフト203の先端の小径部203bがボールベアリング12を介して装置のフレームに支持される。そして偏心軸部203cがボールベアリング13を介して図示しないポンプのプランジャに結合され、電動機の回転に伴って生じる偏心軸部203cの偏心回転運動によりプランジャが駆動される。
【0047】
上記のように、本発明においては、電機子鉄心201のリアエンド(ロータ本体のリアエンド)がリアベアリング4によりステータケースの底壁部101bに回転自在に支持され、ロータシャフト203がフロントベアリング3によりエンドカバー103に回転自在に支持されることにより、ロータ2がステータ1に対して回転自在に支持される。このように構成すると、ロータシャフト203はリアベアリング4の内輪に圧入される部分を備えている必要が無く、またバランサを取りつける部分を備えている必要がないため、ロータシャフト203の長さを従来よりも短くすることができる。また電機子鉄心のリアエンド(ロータ本体のリアエンド)が直接リアベアリングによりステータケースの底壁部に支持されることにより、電機子鉄心とステータケースの底壁部との間の距離(ロータ本体とステータケースの底壁部との間の距離)を短縮することができるため、ロータシャフトの長さが短くなることと相俟って電動機の軸線方向寸法の短縮を図ることができ、電動機の小形軽量化を図ることができる。
【0048】
またロータシャフト203の長さが短くなるため、ロータシャフトの撓み量を少なくすることができ、電動機の振動を低減することができる。
【0049】
また上記のように構成すると、ロータシャフトのリア側の外周面の芯出しをするための研削加工を行う必要がないため、ロータシャフトの加工を簡単にすることができ、加工コストの低減を図ることができる。
【0050】
更に上記のように、ロータシャフト203の先端寄りの部分に偏心軸部203cが設けられる場合に、ロータシャフトの後端部側に肉抜き部203dを設けることにより、バランサを省略できるため、部品点数の削減を図り、コストの低減を図ることができる。
【0051】
またバランサを省略すると、ロータ全体の慣性モーメントが小さくなるため、電動機の回転速度の応答性を良好にすることができ、電動機の回転速度や停止位置を制御する場合に、その制御性を向上させることができる。
【0052】
更に上記のように構成すると、バランサを省略できることにより、ステータケースから外部に導出されるロータシャフトの先端寄りの部分の長さを短くすることができるため、負荷側からロータシャフトにかかる曲げモーメントによるシャフトの撓み量を少なくして、電動機の振動を抑えることができる。
【0053】
また本発明によれば、ステータケースの軸線方向寸法を短くすることができるため、ステータケースを絞り加工で製作する際にその加工を容易にすることができ、この点でも加工費の低減を図ることができる。
【0054】
上記の例では、ロータシャフトの先端に偏心軸部203cが設けられる電動機に本発明を適用したが、ロータシャフトの先端に偏心軸部203cが設けられない場合にも本発明を適用することができるのはもちろんである。
【0055】
上記の例では、ブラシ付きの直流電動機に本発明を適用したが、本発明は、ブラシ付きの直流電動機に限らず、ロータ側に電機子コイルを有する電動機に広く適用することができる。
【0056】
上記の例では、ロータ本体が電機子鉄心201と該電機子鉄心に巻回された電機子コイル202とにより構成され、ステータ側の界磁が永久磁石102により構成されているが、ロータ本体及びステータの構成は上記の例に限定されない。ロータ本体は、ロータ側の界磁を構成する手段(上記の例では電機子コイル)を有しているものであればよく、例えば、ブラシレス直流電動機のように、アルミニウム等からなる回転体に永久磁石を鋳込んでロータ側の界磁を構成したものをロータ本体として用いる場合にも本発明を適用することができる。このようにロータ側の界磁を磁石により構成する場合には、ステータ側の界磁を構成する手段が、ステータ鉄心と該ステータ鉄心に巻回された電機子コイルとにより構成される。
【0057】
ブラシレスモータのように、ロータ側に磁石界磁を有する電動機に本発明を適用する場合、上記の実施形態で用いられた電機子鉄心201がアルミニウムの成形品等からなる回転体で置き換えられ、該回転体の外周部に永久磁石が貼り付けられるか、または鋳込まれた状態で固定されて、該回転体と永久磁石とによりロータ本体が構成される。また環状の継鉄部の内周部から歯部が突出した環状鉄心に電機子コイルを巻装した電機子をステータ側の界磁を構成する手段としてステータケース101の内周に配置する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】ステータ及びロータの半部を切り欠き、エンドカバー及び電機子コイルの図示を省略して本発明の好ましい実施形態のその内部の構造を示した分解斜視図である。
【図2】図1の実施形態の縦断面図である。
【図3】図1の実施形態で用いる電機子鉄心の構成を示した斜視図である。
【図4】ステータ及びロータの半部を切り欠き、エンドカバー及び電機子コイルの図示を省略して従来の電動機の内部構造を示した分解斜視図である。
【符号の説明】
【0059】
1 ステータ
101 ステータケース
101c ベアリング保持用突出部
102 永久磁石
103 エンドカバー
103b ベアリング保持部
2 ロータ
201 電機子鉄心
202 電機子コイル
203 ロータシャフト
H1 ロータシャフト圧入孔
H2 ベアリング保持穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周にステータ側の界磁を構成する手段を配置してなるステータと、ロータ側の界磁を構成する手段を備えたロータ本体と前記ロータ本体に取りつけられたロータシャフトとを有して前記ロータ本体の磁極部が前記ステータの内側で前記ステータ側の磁極に対向させられたロータとを備え、前記ロータは、前記ステータケースの開口部を閉じるエンドカバーに取り付けられたフロントベアリングと前記ステータケースの底壁部に取り付けられたリアベアリングとにより前記ステータに対して回転自在に支持されていて、前記ロータシャフトの先端寄りの部分が前記エンドカバーを貫通して外部に導出されている電動機において、
前記リアベアリングは、前記ステータケースの底壁部に対向する前記ロータ本体の軸線方向端部を前記ステータケースの底壁部に対して回転自在に支持するように設けられ、
前記フロントベアリングは、前記ロータシャフトを前記エンドカバーに対して回転自在に支持するように設けられていること、
を特徴とする電動機。
【請求項2】
カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周にステータ側の界磁を構成する手段を配置してなるステータと、ロータ側の界磁を構成する手段を備えたロータ本体と前記ロータ本体に取りつけられたロータシャフトとを有して前記ロータ本体の磁極部が前記ステータの内側で前記ステータ側の磁極に対向させられたロータとを備え、前記ロータは、前記ステータケースの開口部を閉じるエンドカバーに取り付けられたフロントベアリングと前記ステータケースの底壁部に取り付けられたリアベアリングとにより前記ステータに対して回転自在に支持されていて、前記ロータシャフトの先端寄りの部分が前記エンドカバーを貫通して外部に導出されている電動機において、
前記ロータ本体と中心軸線を共有する内周面を有し前記ステータケースの底壁部側に開口したベアリング保持穴が前記ロータ本体に設けられ、
前記ステータケースの底壁部には、前記ロータ本体と中心軸線を共有する外周面を有する突出部が設けられ、
前記リアベアリングは、その外輪が前記ロータ本体のベアリング保持穴の内周に圧入され、内輪が前記ステータケースの底壁部に設けられたベアリング保持用突出部の外周に嵌合された状態で設けられ、
前記ロータシャフトは、前記ロータ本体の軸心部に結合されるとともに、前記フロントベアリングの内輪に圧入されて該フロントベアリングを介して前記エンドカバーに支持されていること、
を特徴とする電動機。
【請求項3】
カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周に永久磁石を取り付けて磁石界磁を構成してなるステータと、電機子鉄心と該電機子鉄心に巻回された電機子コイルと前記電機子鉄心に取りつけられたロータシャフトとを有して前記電機子鉄心の磁極部が前記ステータの内側で前記磁石界磁の磁極に対向させられたロータとを備え、前記ロータは、前記ステータケースの開口部を閉じるエンドカバーに取り付けられたフロントベアリングと前記ステータケースの底壁部に取り付けられたリアベアリングとにより前記ステータに対して回転自在に支持されていて、前記ロータシャフトの先端寄りの部分が前記エンドカバーを貫通して外部に導出されている電動機において、
前記リアベアリングは、前記ステータケースの底壁部に対向する電機子鉄心の軸線方向端部を前記ステータケースの底壁部に対して回転自在に支持するように設けられ、
前記フロントベアリングは、前記ロータシャフトを前記エンドカバーに対して回転自在に支持するように設けられていること、
を特徴とする電動機。
【請求項4】
カップ状に形成されたステータケースの周壁部の内周に永久磁石を取り付けて磁石界磁を構成してなるステータと、電機子鉄心と該電機子鉄心に巻回された電機子コイルと前記電機子鉄心に取りつけられたロータシャフトとを有して前記電機子鉄心の磁極部が前記ステータの内側で前記磁石界磁の磁極に対向させられたロータとを備え、前記ロータは、前記ステータケースの開口部を閉じるエンドカバーに取り付けられたフロントベアリングと前記ステータケースの底壁部に取り付けられたリアベアリングとにより前記ステータに対して回転自在に支持されていて、前記ロータシャフトの先端寄りの部分が前記エンドカバーを貫通して外部に導出されている電動機において、
前記電機子鉄心と中心軸線を共有する内周面を有し前記ステータケースの底壁部側に開口したベアリング保持穴が前記電機子鉄心に設けられ、
前記ステータケースの底壁部には、前記電機子鉄心と中心軸線を共有する外周面を有する突出部が設けられ、
前記リアベアリングは、その外輪が前記電機子鉄心のベアリング保持穴の内周に圧入され、内輪が前記ステータケースの底壁部に設けられたベアリング保持用突出部の外周に嵌合された状態で設けられ、
前記ロータシャフトは、前記電機子鉄心の軸心部に設けられたシャフト貫通孔に圧入されることにより前記電機子鉄心に結合されるとともに、前記フロントベアリングの内輪に圧入されて該フロントベアリングを介して前記エンドカバーに支持されていること、
を特徴とする電動機。
【請求項5】
前記ロータシャフトの前記先端寄りの部分には該ロータシャフトの中心軸線に対して偏心した偏心軸部が一体に設けられ、
前記偏心軸部が設けられていることにより生じる前記ロータシャフトの質量のアンバランスを補正すべく、前記ロータシャフトの後端部の肉の一部が除去されていること、
を特徴とする請求項1,2,3または4に記載の電動機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−236144(P2007−236144A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56640(P2006−56640)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000001340)国産電機株式会社 (191)
【Fターム(参考)】