説明

電圧発生回路

【課題】低電源電圧で動作するバンドギャップ基準電圧発生回路は、分流パスを設けるため消費電流が多くなってしまう。公知技術の消費電流は、従来の低電源電圧動作のバンドギャップ回路から電流を削減したとはいえ、未だ多い。本発明では、低電源電圧で動作し、かつ、消費電流のさらに少ないバンドギャップ基準電圧発生回路を提供する。
【解決手段】本発明の基準電圧発生回路では、低電源電圧動作の本質を維持したまま、さらに分流パスを共通化することで、消費電流を削減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧発生回路に係り、特に、半導体装置のバンドギャップ基準電圧として用いられる所定の電圧を発生する電圧発生回路に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、世界規模で温暖化対策が取り上げられている。LSI(Large Scale Integration)に関しても、低消費電力の需要が増してきている。ロジック回路では、電源電圧を下げることで、低消費電力を実現している。しかし、バンドギャップ基準電圧発生回路のようなアナログ回路では、この電源電圧の低下によって、回路動作自体が厳しい現状となっている。そのため、低電源電圧で動作可能であり、かつ、低消費電力であるアナログ回路の需要が増してきている。
【0003】
図1は、特許文献1(特開2007−95031号公報)に記載された低電圧用バンドギャップ基準電圧発生回路の構成を示す回路図である。ただし、図1の素子番号は便宜上改めているため、上記公報に記載のものと一致しない。
【0004】
特許文献1に記載の低電圧用バンドギャップ基準電圧発生回路では、接点N、Nを各々抵抗Rで接点Nに接続し、共通の抵抗Rでグランドに接続されている。これにより、電流分流パスを共通化して、低電源電圧動作を実現している。基準電圧VREFは、以下の式1に与えられる電圧となる。
REF=(R/(R+2R))(((R+2R)・V・ln(m)/R)+V) ……(式1)
ここで、Vは熱電圧であり、ダイオードの面積比はD:D=1:mであり、Vはダイオードの順方向電圧(=V)である。
【0005】
次に、消費電流を、数式展開によって明らかにする。なお、演算増幅器で消費される電流は含めない。演算増幅器によって、非反転側入力電圧V=反転側入力電圧Vに制御されているから、電流Iは次の式2で与えられる。
=V・ln(m)/R ……(式2)
【0006】
は共通の接点N及びNから共通の非反転側入力電圧Vと抵抗Rを並列に接点Nと接続し、接点Nからグランドに抵抗Rで接続したものとして計算できる。よって、電流Iは次の式3で与えられる。
=V/((R/2)+R)=2V/(R+2R) ……(式3)
【0007】
トランジスタMP、MP、MPはサイズが共通であるため、消費電流は電流Iの3倍となり、次の式4で与えられる。
3I=3(I+(I/2))
=(3V・ln(m)/R)+(3V/(R+2R)) ……(式4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−95031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
低電源電圧で動作するバンドギャップ基準電圧発生回路は、分流パスを設けるため消費電流が多くなってしまう。低電源電圧で動作しない、いわゆる1.2V近傍の基準電圧VREFを出力するバンドギャップ基準電圧発生回路では、式4におけるI/2の項は無い。つまり、I/2の項は、低電源電圧動作のために追加された消費電流の項である。よって、この公知技術の消費電流は、従来の低電源電圧動作のバンドギャップ回路から電流を削減したとはいえ、未だ多いことが分かる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、(発明を実施するための形態)で使用される番号を用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、(特許請求の範囲)の記載と(発明を実施するための形態)との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、(特許請求の範囲)に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0011】
本発明による基準電圧発生回路は、演算増幅器(OA)と、第一電圧生成部(MP、N、D)と、第二電圧生成部(MP、N、R、D)と、第三電圧生成部(MP、N、R)と、第一抵抗(R1A)と、第二抵抗(R1B)とを具備する。ここで、演算増幅器(OA)は、第一電圧(V)および第二電圧(V)を入力して演算増幅信号を出力する。第一電圧生成部(MP、N、D)は、演算増幅信号に応じて第一電圧(V)を出力する。第二電圧生成部(MP、N、R、D)は、演算増幅信号に応じて第二電圧(V)を出力する。第三電圧生成部(MP、N、R)は、演算増幅信号に応じて基準電圧としての第三電圧(VREF)を出力する。第一抵抗(R1A)は、第一電圧生成部(MP、N、D)において第一の電圧(V)を出力する第一電圧出力ノード(N)および演算増幅器において第三電圧(VREF)を出力する基準電圧出力ノード(N)との間に接続されている。第二抵抗(R1B)は、第二電圧生成部(MP、N、R、D)において第二の電圧(V)を出力する第二電圧出力ノード(N)および基準電圧出力ノード(N)との間に接続されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電圧発生回路は、低電源電圧動作の本質を維持したまま、さらに分流パスを共通化することで、消費電流を削減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、特許文献1に記載された低電圧用バンドギャップ基準電圧発生回路の構成を示す回路図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態による電圧発生回路の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
添付図面を参照して、本発明による電圧発生回路を実施するための形態を以下に説明する。
【0015】
(実施形態)
図2は、本発明の実施形態による電圧発生回路の構成を示す回路図である。
【0016】
図2の電圧発生回路の構成要素について説明する。図2の電圧発生回路は、同じ特性を有する第1〜第3のPMOS(Positive Metal−Oxide−Semiconductor)トランジスタMP、MP、MPと、抵抗R、R1A、R1B、Rと、面積比が1:mであるダイオードD、Dと、演算増幅器OAとを具備している。なお、ダイオードD、Dは、ダイオード接続されたバイポーラトランジスタに置き換えることも可能である。
【0017】
図2の電圧発生回路の構成要素同士の接続関係について説明する。
【0018】
第1のPMOSトランジスタMPのソースは、電源電圧供給部に接続されている。第1のPMOSトランジスタMPのドレインは、抵抗R1Aの一方の端部と、演算増幅器OAの反転側入力部と、第1のダイオードDのアノードとに接続されている。第1のダイオードDのカソードは、グランドに接続されている。ここで、第1のPMOSトランジスタMPと、第1のダイオードDとをまとめて、第一電圧生成部と呼んでも良い。
【0019】
第2のPMOSトランジスタMPのソースは、電源電圧供給部に接続されている。第2のPMOSトランジスタMPのドレインは、演算増幅器OAの非反転側入力部と、抵抗R1Bの一方の端部と、抵抗Rの一方の端部とに接続されている。抵抗Rの他方の端部は、第2のダイオードDのアノードに接続されている。第2のダイオードDのカソードは、グランドに接続されている。ここで、第2のPMOSトランジスタMPと、抵抗Rと、第2のダイオードDとをまとめて、第二電圧生成部と呼んでも良い。
【0020】
第3のPMOSトランジスタMPのソースは、電源電圧供給部に接続されている。第3のPMOSトランジスタMPのドレインは、基準電圧出力部を出力する接点Nと、抵抗R1Aの他方の端部と、抵抗R1Bの他方の端部と、抵抗Rの一方の端部とに接続されている。抵抗Rの他方の端部は、グランドに接続されている。演算増幅器OAの出力部は、第1〜第3のPMOSトランジスタMP、MP、MPのそれぞれにおけるゲートに接続されている。ここで、第3のPMOSトランジスタMPと、抵抗Rとをまとめて、第三電圧生成部と呼んでも良い。
【0021】
図2の電圧発生回路の動作について説明する。第1のPMOSトランジスタMPのドレインからダイオードDに掛かる第1のパス、第2のPMOSトランジスタMPのドレインから抵抗R及びダイオードDに掛かる第2のパス、第3のPMOSトランジスタMPのドレインから抵抗Rに掛かる第3のパス、さらに、第3のパスの接点Nより第1のパスの接点Nへの抵抗R1Aと、第3のパスの同接点より第2のパスの接点Nへの抵抗R1B、そして、接点Nと接点Nを同電圧にフィードバックさせるための演算増幅器OAを入力対接点N、Nとして構成し、各PMOSトランジスタのゲートを制御する構成となっている。
【0022】
次に、基準電圧VREFを数式展開によって説明する。ここで、本発明による電圧発生回路では、抵抗R1Aと抵抗R1Bとが実質的に同じ抵抗値を有するので、Rの抵抗値=R1Aの抵抗値=R1Bの抵抗値として取り扱う。まず、接点NおよびNが同電圧に制御されていることから、非反転側入力電圧V=反転側入力電圧V=電圧Vとなる。ここで、電圧Vは、ダイオードの順方向電圧を示す。このとき、接点Nに接続されている第2のPMOSトランジスタMPおよび抵抗R1Bに対し、接点Nに接続されている第1のPMOSトランジスタMPおよび抵抗R1Aは実質的に同一の電流経路を形成していることから、ダイオードDおよびDにそれぞれ流れる電流は等しくなる。これを電流Iとして計算すると、次の式5が得られる。
=V・ln(m)/R ……(式5)
【0023】
一方、抵抗R1A(=R1B=R)に流れる電流Iを、接点Nから接点N(接点Nから接点N)の方向に流れるものと定義すると、次の式6が得られる。
=(VREF−V)/R ……(式6)
【0024】
さらに、電流Iおよび電流Iについては、次の式7および式8が得られる。
=I−I=(V・ln(m)/R)−((VREF−V)/R) ……(式7)
=VREF/R ……(式8)
【0025】
以上より、接点Nに対してキルヒホッフの電流則を適用すると、次の式9が得られる。
=I+2I ……(式9)
【0026】
したがって、式6〜式8を式9に代入することにより、次の式10が得られる。
REF=(3R/(R+3R))((R・ln(m)/3R)+V) ……(式10)
【0027】
次に、本発明における消費電流を数式展開によって明らかにする。なお、演算増幅器で消費される電流は含めない。第1〜第3のPMOSトランジスタMP、MP、MPに流れる電流は同一であるから、全電流は電流Iの3倍に等しい。これを式9、式6、式8、式10によって計算すると、次の式11が得られる。
3I=3(I+2I)=3((VREF/R)+2(VREF−V)/R)=((3/R)((R+2R)/(R+3R))V・ln(m))+(3V/(R+3R)) ……(式11)
【0028】
次に、公知発明と本発明の電流値を比較する。比較のため、同じ基準電圧、同じ温度係数に設定するとして、以下の代表値を定める。公知発明における式1の各係数として、次の式12a〜12cを用いる場合を考える。
=R ……(式12a)
/(R+2R)=1/2 ……(式12b)
(R+2R)/R=10 ……(式12c)
【0029】
式12a〜12cから、解の例として、次の式13a〜13cが得られる。
=3R ……(式13a)
=4R ……(式13b)
=5R ……(式13c)
【0030】
これらの式13a〜13cを、前述の式4に代入すると、公知発明の消費電流Itotalとして、次の式14が得られる。
total=(3V・ln(m)/R)+(3V/10R) ……(式14)
【0031】
公知発明における式1の各係数と同じ条件を満たすように、本発明における式10の各係数として、次の式15a〜15cを用いる場合を考える。
=R ……(式15a)
3R/(R+3R)=1/2 ……(式15b)
/3R=10 ……(式15c)
【0032】
式15a〜15cから、次の式16a、16bが得られる。
=30R ……(式16a)
=10R ……(式16b)
【0033】
式16a、16bを式11に代入すると、本発明の消費電流Itotal’として、次の式17が得られる。
total’=(5V・ln(m)/2R)+(V/20R) ……(式17)
【0034】
ここで、公知発明の消費電流Itotalと、本発明の消費電流Itotal’とを比較する。具体的には、式14と、式17とで、V・ln(m)の係数およびVの係数をそれぞれ比較すると、次の式18a、18bが得られる。
3/R>5/2R ……(式18a)
3/10R>1/20R ……(式18b)
【0035】
すなわち、本発明の消費電流Itotal’が、公知発明の消費電流Itotalよりも小さくなることが分かる。例えば、一般的な値として、R=10KΩ、VT=26mV、VF=0.7V、m=8を用いると、次の式19a、19bが得られる。
total≒37μA ……(式19a)
total’≒17μA ……(式19b)
【0036】
また、低電源電圧のアプリケーションでは、バンドギャップ基準電圧発生回路が動作しないため、昇圧回路を用いて動作させる場合がある。このとき、昇圧電源には電力損失が発生することから、本発明における低消費電流のバンドギャップ基準電圧発生回路は特に有用となる。
【0037】
以上説明したように、本発明によれば、以下の効果がもたらされる。
1.消費電流を少なくすることができる。
2.昇圧電源と組み合わせて実施した場合、さらに大きな消費電力削減効果が得られる。
【符号の説明】
【0038】
、D、D、D ダイオード
、I、I、I、I、I、I、I 電流
MP、MP、MP、MP、MP、MP PMOSトランジスタ
、N、N、N、N、N、N 接点
OA 演算増幅器
、R、R、R、R、R1A、R1B、R 抵抗
、V 非反転側入力電圧
、V 反転側入力電圧
REF 基準電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一電圧および第二電圧を入力して演算増幅信号を出力する演算増幅器と、
前記演算増幅信号に応じて前記第一電圧を出力する第一電圧生成部と、
前記演算増幅信号に応じて前記第二電圧を出力する第二電圧生成部と、
前記演算増幅信号に応じて基準電圧としての第三電圧を出力する第三電圧生成部と、
前記第一電圧生成部において前記第一の電圧を出力する第一電圧出力ノードおよび前記演算増幅器において前記第三電圧を出力する基準電圧出力ノードとの間に接続された第一抵抗と、
前記第二電圧生成部において前記第二の電圧を出力する第二電圧出力ノードおよび前記基準電圧出力ノードとの間に接続された第二抵抗と
を具備する
基準電圧発生回路。
【請求項2】
請求項1に記載の基準電圧発生回路において、
前記第一電圧生成部は、
電源電圧供給部および前記第一電圧出力ノードの間にソースおよびドレインが接続されて、前記演算増幅信号をゲートに入力する第一PMOSトランジスタと、
前記第一電圧出力ノードおよびグランドの間に接続された第一ダイオードと
を具備する
基準電圧発生回路。
【請求項3】
請求項2に記載の基準電圧発生回路において、
前記第二電圧生成部は、
前記電源電圧供給部および前記第二電圧出力ノードの間にソースおよびドレインが接続されて、前記演算増幅信号をゲートに入力する第二PMOSトランジスタと、
前記第二電圧出力ノードに一方の端部が接続された第三抵抗と、
前記第三抵抗の他方の端部および前記グランドの間に接続された第二ダイオードと
を具備する
基準電圧発生回路。
【請求項4】
請求項3に記載の基準電圧発生回路において、
前記第三電圧生成部は、
前記電源電圧供給部および前記基準電圧出力ノードの間にソースおよびドレインが接続されて、前記演算増幅信号をゲートに入力する第三PMOSトランジスタと、
前記基準電圧出力ノードおよび前記グランドの間に接続された第四抵抗と
を具備する
基準電圧発生回路。
【請求項5】
請求項4に記載の基準電圧発生回路において、
前記第一PMOSトランジスタ、前記第二PMOSトランジスタおよび前記第三PMOSトランジスタは、
同じ特性
を具備する
基準電圧発生回路。
【請求項6】
請求項4または5に記載の基準電圧発生回路において、
前記第一抵抗および前記第二抵抗は、
同じ抵抗値
を具備する
基準電圧発生回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−181045(P2011−181045A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47539(P2010−47539)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】