説明

電子エミッター、その製造方法、FED装置及び電子ビーム装置

【目的】ガラス基体が軟化しない低温で触媒面にカーボンナノチューブを垂直に成長させ、触媒面からのカーボンナノチューブの脱離強度が高い高耐久性を有した安価な電子エミッター、FED装置及び電子ビーム装置を提供する。
【構成】本発明に係る電子エミッターは、基体8上に形成されたカソード電極となるAl層6と、このAl層6に触媒面4aを露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層4と、このCo/Ti触媒層4に前記触媒面4aから立設成長させたカーボンナノチューブ2から少なくとも構成される。前記カーボンナノチューブ2の周囲に絶縁層10を配置し、この絶縁層10上にゲート電極層12を配置した電子エミッターも提供される。Co/Ti触媒層4によりカーボンナノチューブ2をガラス基体が軟化しない低温で成長させることができ、Al層によりその垂直成長と脱離強度を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界放出作用により電子を射出する電子エミッターに関し、更に詳細にはカーボンナノチューブを用いた電子エミッター、その製造方法、この電子エミッターを電子源とするFED装置及び電子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
1991年に炭素のアーク放電堆積物の中にカーボンナノチューブが発見され、この発見に触発されて、カーボンナノチューブの量産研究が開始された。アーク放電ではカーボンナノチューブ以外にカーボンパーティクルなどの不純物が生成され、しかも大量合成は困難であることが認識されつつある。
【0003】
1994年にアメリンクス等(Amelinckx, X.B.Zhang,D. Bernaerts, X. F. Zhang,V. Ivanov and J. B. Nagy, SCIENCE, 265(1994)635:非特許文献1)が、触媒を用いてカーボンナノチューブの合成に成功した。彼らの製造方法は、Co、Fe、Niのような金属触媒を微小粉に形成し、この触媒近傍を700℃以上に加熱し、この触媒に接触するようにアセチレンやベンゼンのような有機ガスを流通させ、これらの有機分子を分解する方法である。しかし、生成されたカーボンナノチューブの形状は様々で、直線状、曲線状、平面スパイラル状、コイル状などのカーボンナノチューブが混在していた。
【0004】
一方、直線状のカーボンナノチューブの生成効率を向上させる研究が行われた。1994年にセラフィン等(Supapan Seraphin and Dan Zhou, Applied Physics Letters, Vol.64(1994)pp.2087-2089:非特許文献2)は、混合触媒を用いてカーボンナノチューブの生成実験を行った。彼らの混合触媒は、Fe/Ni、Ni/Mg、Ni/Ti、Co/Ni、Co/Cuの5種類である。製造されたカーボンナノチューブは主として単層カーボンナノチューブであり、生成効率はそれ程上昇しないことが分かった。
【0005】
これらの研究以後、触媒CVD法を用いてカーボンナノチューブの大量合成の研究が行われている。これらの研究の殆どは、アセチレンなどの原料ガスを700℃以上に加熱された触媒で分解し、触媒上にカーボンナノチューブを生成させる方法である。従って、触媒を保持する基体は700℃以上の耐熱性を有することが前提になっている。
【0006】
ところで、カーボンナノチューブの利用法は各種検討されているが、その中でもカーボンナノチューブの電界放出特性を利用したFED(Field Emission Display)と称される電界放出型ディスプレイが有力視されている。電界放出は、固体表面に強い電界がかかると、固体表面に閉じ込められていた電子が、表面のポテンシャル障壁が低くなるためにトンネル効果により真空中に飛び出す現象をいう。このFEDはガラス基板などの基板にナノチューブを立設させ、電界放出により放出された電子を蛍光体に衝突させて画像表示するものである。
【0007】
ところで、カーボンナノチューブを、FEDをはじめとする電子源として利用するためには、前記基板が軟化、変形しない温度で、カーボンナノチューブを基板上に垂直配向させて成長させる必要がある。
【0008】
触媒によりカーボンナノチューブを成長させてFEDを製造する方法として、特開2001−236879公報(特許文献1)があるが、触媒層としてNiあるいはCoの単一層を用いるため、カーボンナノチューブの成長には700℃の高温を必要とする。
【0009】
一方、FED等に使用される基板にはガラス基板が多く採用されている。ガラスの軟化点は例えば570℃と低く、このような低い軟化点を有するガラス基板に触媒を固定して、700℃以上の炉壁温度でカーボンナノチューブを成長させると、カーボンナノチューブが成長してもガラスが軟化するため、ガラス基板が変形してとてもFED用に用いることができないという問題を生じている。つまり、ガラスを軟化させないでカーボンナノチューブをガラス基板上に成長させるためには、ガラスを軟化させない臨界温度として550℃を設定し、この臨界温度以下でカーボンナノチューブを成長させる方法を発見する必要がある。
【0010】
カーボンナノチューブを触媒上に垂直成長させたFEDの製造方法として、特開2000−86216公報(特許文献2)では、強磁界中で、カーボンナノチューブを成長させる方法をとっている。しかし、この方法だと、強磁界中でカーボンナノチューブを成長させるため、大規模な装置が必要となる。又、ここでの反応温度は1000℃という高温であるため、ガラス基板が軟化、変形するという欠点も持っている。
【非特許文献1】Amelinckx, X.B.Zhang,D. Bernaerts, X. F. Zhang,V. Ivanov and J. B. Nagy, SCIENCE, 265(1994)635
【非特許文献2】Supapan Seraphin and Dan Zhou, Applied Physics Letters, Vol.64(1994)pp.2087-2089
【特許文献1】特開2001−236879公報
【特許文献2】特開2000−86216公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、特開2001−236879公報(特許文献1)で示すカーボンナノチューブの成長法は、触媒層としてNiあるいはCoの単一層を用いるため、700℃の高温を必要とし、ガラス基板が変形してとてもFED用に用いることができない。しかも、触媒上に成長したカーボンナノチューブは、比較的小さな力で触媒から脱離し、電子源又はFEDとしては短寿命で耐久性に乏しかった。
【0012】
また、特開2000−86216公報(特許文献2)では、強磁界中でカーボンナノチューブを成長させるため、大規模な装置が必要となる。更に、この成長法では、反応温度は1000℃という高温であるため、ガラス基板が軟化、変形するという欠点も持っている。
【0013】
カーボンナノチューブを、基板が軟化、変形しない温度で、プラズマ或いはホットフィラメント等の大規模装置を必要としないで垂直配向して成長させる技術が開発できれば、電子エミッター、FED装置及び電子ビーム装置の工業生産につながる。
【0014】
従って、本発明の目的は、ガラス基板の軟化温度550℃以下の温度で、カーボンナノチューブを触媒に対し効率的に垂直成長でき、しかもカーボンナノチューブを下地金属に強固に固着成長できる方法を確立することにより、電極との結合特性に優れた電子エミッター、その製造方法、FED装置及び電子ビーム装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、基体上に形成されたカソード電極となるAl層と、このAl層に触媒面を露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層と、このCo/Ti触媒層に前記触媒面から立設成長させたカーボンナノチューブから少なくとも構成される電子エミッターである。
【0016】
本発明の第2の形態は、第1の形態において、前記カーボンナノチューブの周囲に絶縁層を配置した電子エミッターである。
【0017】
本発明の第3の形態は、第2の形態において、前記カーボンナノチューブから電子を電界放出させるために前記絶縁層上にゲート電極層を配置した電子エミッターである。
【0018】
本発明の第4の形態は、第1〜3の形態のいずれかにおいて、前記Al層に複数の触媒面が露出するように前記Co/Ti触媒層を形成し、複数の前記触媒面のそれぞれに前記カーボンナノチューブを立設させた電子エミッターである。
【0019】
本発明の第5の形態は、第4の形態において、前記複数の触媒面が前記Al層に列状に又はマトリックス状に配置された電子エミッターである。
【0020】
本発明の第6の形態は、第1〜5の形態のいずれかにおいて、前記Co/Ti触媒層はその前記触媒面が露出した状態で前記Al層に埋込状に形成される電子エミッターである。
【0021】
本発明の第7の形態は、第1〜6の形態のいずれかにおいて、前記Co/Ti触媒層は、Co層の上にTi層を積層するか、又はTi層の上にCo層を積層して2層状に形成される電子エミッターである。
【0022】
本発明の第8の形態は、第1〜6の形態のいずれかにおいて、前記Co/Ti触媒層は、Co元素とTi元素の混合物から1層状に形成される電子エミッターである。
【0023】
本発明の第9の形態は、第1〜8の形態のいずれかにおいて、前記基体はガラス基体である電子エミッターである。
【0024】
本発明の第10の形態は、基体上に形成されたカソード電極であるAl層と、このAl層に触媒面を露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層から少なくとも構成されるエミッター本体を用意し、このエミッター本体を反応器内に配置し、この反応器内を所定温度に加熱した状態で炭素化合物ガスを流通させて前記Co/Ti触媒層の触媒作用で前記触媒面にカーボンナノチューブを立設成長させる電子エミッターの製造方法である。
【0025】
本発明の第11の形態は、第10の形態において、前記触媒面の周囲に絶縁層が形成されている電子エミッターの製造方法である。
【0026】
本発明の第12の形態は、第11の形態において、前記絶縁層の上面にゲート電極層が形成されている電子エミッターの製造方法である。
【0027】
本発明の第13の形態は、第10〜12の形態のいずれかにおいて、前記基体はガラス基体であり、前記所定温度は550℃以下に設定される電子エミッターの製造方法である。
【0028】
本発明の第14の形態は、第1〜9の形態のいずれかの電子エミッターと、この電子エミッターの対向側に配置された透明アノード電極と、この透明アノード電極の内側面に形成された蛍光層とから構成され、前記カーボンナノチューブから電界放出された電子が蛍光に変換されるFED装置である。
【0029】
本発明の第15の形態は、第1〜9の形態のいずれかの電子エミッター、この電子エミッターの対向側に配置されたアノード電極と、前記電子エミッターから電界放出された電子を電子ビームとして射出する電子ビーム装置である。
【発明の効果】
【0030】
本発明者らは、カーボンナノチューブ合成用にCo/Tiの二元素形触媒を用いて、従来よりも低温でカーボンナノチューブを生成することを見出した。これについては既に特願2004−127395(特許文献3)として特許出願を行っている。
【0031】
更に、本発明者らは、Co/Ti二元素形触媒を用いて形成されるカーボンナノチューブを、FED用電子源の製造に適応する可能性を検証した。その検証の結果、触媒の膜厚、成長条件を制御することにより、さらに反応ガスの予熱効果を利用し、垂直配向した高品質のカーボンナノチューブを合成できると同時に、その膜厚を制御できることを見出した。この知見はガラス基板が変形することなく規定の長さをもつ高品質カーボンナノチューブを基板上に生成させ、高性能FED用電子源の製造を実現可能とするものである。これについては既に特願2005−134362(特許文献4)として特許出願を行っている。
【特許文献3】特願2004−127395
【特許文献4】特願2005−134362
【0032】
今回更に、本発明者らは、基体上にAl膜を形成し、このAl層に触媒面を露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層に
カーボンナノチューブを生成させることにより、前記触媒面に、垂直配向して、基体が軟化しない温度で、低コストでカーボンナノチューブを成長させる技術を確立したものである。しかも、基体として絶縁性、透光性に優れ、安価で加工が容易なガラス基板を用いた装置でも、ガラス基板の軟化による変形をしない低温でカーボンナノチューブを成長させることができ、ガラス基板を用いてFEDを製造する技術を確立したものである。
【0033】
本発明の第1の形態によれば、基体上に形成されたAl層と、このAl層に触媒面を露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層を用いるため、炉壁温度が550℃以下の反応室でこの触媒上にカーボンナノチューブを略垂直に高効率に成長させることができる。Co元素とTi元素の組合せ触媒は本発明者等によって初めて発見されたものであり、この組合せにより初めてカーボンナノチューブを低温合成することに成功した。本発明における触媒膜用の基体がガラス基板の場合には、基板温度は550℃以下に調整され、ガラス基板が軟化することは無い。従って、この方法によって製造されたカーボンナノチューブが成長したガラス基板は、そのままFED用の電子源として利用することができる。勿論、基体が耐熱性基体の場合には、550℃以上の所望温度に調整されてもよく、Co/Ti触媒層はこのような高温でもカーボンナノチューブを高効率に成長させることができる。
【0034】
本形態によれば、更に、Co/Ti触媒層は下地のAl層と電気的に導通し、Al層を陰極(カソード電極)としてカーボンナノチューブから電界放出が可能になる。また、基体上に形成されたAl層と、このAl層に触媒面を露出して形成された上記Co/Ti触媒層の組合せにより、Al層と触媒層が強固に化学結合しているため、Al層を使用しないときに比べ、より強固にカーボンナノチューブが触媒層に接合していることが確認された。その結果、カーボンナノチューブを引っ張っても、カーボンナノチューブが容易に下地金属から脱離することがなく、電子エミッターとしての耐久性が一段と増強され、長寿命性が付与されるに到った。
【0035】
本発明の第2の形態によれば、前記カーボンナノチューブの周囲に絶縁層を配置した電子エミッターが提供され、前記絶縁層は前記カーボンナノチューブを保護し、電子の流路を一定ならしめる効果を有する。また、この電子エミッターを複数配列した場合には前記絶縁層により電界放出された電子が相互に干渉するのを防ぐことができる。又、FEDなどのカソード電極とアノード電極の所定間隔を維持するスペーサーとしても利用することができる。
【0036】
本発明の第3の形態によれば、前記絶縁層上にゲート電極層を配置したものであり、このゲート電極層と前記Al層(カソード電極)に電圧を印加することにより、容易に前記カーボンナノチューブから電子を電界放出させることができる。
【0037】
本発明の第4の形態によれば、前記Al層に複数の触媒面が露出するように前記Co/Ti触媒層を形成し、複数の前記触媒面のそれぞれに前記カーボンナノチューブを立設させたものであり、複数の露出面を特定パターンに配置することにより、露出面毎にカーボンナノチューブを成長させて、複数の電子放出点を線状、面状などの特定パターンに配列することが可能になる。更に、下地のAl層を広く一層配置し、その上に複数のCo/Ti触媒層を離間配置してもよく、また相互に孤立する複数のAl層上にCo/Ti触媒層を形成してもよい。一層のAl層に一層のCo/Ti触媒層を形成し、Co/Ti触媒層に複数の絶縁層を離間形成すれば、結果的に複数の触媒層が相互に孤立した状態で配置されることになる。
【0038】
本発明の第5の形態によれば、前記複数の触媒面が前記Al層に列状に又はマトリックス状に配置された電子エミッターが提供される。縦横に多数の触媒面を配置すれば、小面積から大面積の面状FEDが構成でき、列状に多数の触媒面を配置すれば、線状FEDが構成できる。このように列状・面状に電子エミッターを構成することにより、用途に応じた電子エミッターやFEDを提供することができる。
【0039】
本発明の第6の形態によれば、前記Co/Ti触媒層はその前記触媒面が露出した状態で前記Al層に埋込状に配置された電子エミッターが提供される。埋込配置により、前記Al層と前記Co/Ti触媒層の接触面積が増大し、大面積の化学結合により、前記Co/Ti触媒層が強固にAl層に接合し、その結果カーボンナノチューブの触媒面からの脱離力が急激に向上し、高耐久性と長寿命の電子エミッターが完成される。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、前記Co/Ti触媒層は、Co層の上にTi層を積層するか、又はTi層の上にCo層を積層して2層状に形成される電子エミッターが提供される。前記Co/Ti触媒層の積層順は任意であるため、Co/Ti触媒層の形成手順が容易になり、公知の物理的処方、化学的処方、物理化学的処方により自在に調製できる。また、Co層とTi層をCo金属層とTi金属層から構成すれば、Al層との導電性が良好になり、Al層とCo/Ti触媒層を介してカーボンナノチューブに高電界を集中化でき、電界放出効果が飛躍的に高くなる。更に、Co層とTi層はAl層との導電性が確保されればよく、純粋金属に限らず、他の金属化合物が利用されても良い。
【0041】
本発明の第8の形態によれば、前記Co/Ti触媒層は、Co元素とTi元素の混合物から1層状に形成される電子エミッターが提供される。従って、Co元素とTi元素の合金でもよいし、Co粒子とTi粒子の粒子混合層でもよい。また、Co化合物とTi化合物が混合した導電層であってもよい等、種々の手段が利用できる。この層形成に、既存の物理的手法、化学的手法、物理化学的手法が利用できることも云うまでもない。
【0042】
本発明の第9の形態によれば、前記基体がガラス基体である電子エミッターが提供される。Co/Ti触媒層により、ガラスの軟化点より低い550℃以下でカーボンナノチューブをガラス基体に成長させることができ、しかもガラス基体は軟化、変形せずに所望の形状で電子エミッターとして利用できる。
【0043】
本発明の第10の形態によれば、第1段階として、基体上に形成されたAl層にCo/Ti触媒層を形成したエミッター本体を構成し、第2段階として前記エミッター本体を反応器内に配置して、前記Co/Ti触媒層の触媒面にカーボンナノチューブを立設成長させるだけで、電子エミッターを大量生産することが可能になる。エミッター本体の構成が簡単であり、CVD法を適用するだけで電子エミッターを提供できるから、安価な電子エミッターを市場に提供でき、いまだに未成長のカーボンナノチューブ市場を活性化でき、カーボンナノチューブの大量使用によりカーボンナノチューブ業界の発展促進に貢献することができる。
【0044】
本発明の第11の形態によれば、前記触媒面の周囲に絶縁層が形成されている電子エミッターが提供される。前記絶縁層は前記カーボンナノチューブを保護し、電子の流路を一定ならしめ、アレー配列の場合に電子が相互に干渉するのを防ぐことができ、この様な電子エミッターを安価に量産できる利点がある。また、前記絶縁層は、FEDなどのカソード電極とアノード電極の所定間隔を維持するスペーサーとして利用ができ、多様な用途を有する絶縁層を配置した電子エミッターの量産に道を拓くものである。
【0045】
本発明の第12の形態によれば、前記絶縁層の上面にゲート電極層が形成されている電子エミッターの製造方法が提供される。絶縁層上にゲート電極層を設けても、反応室内ではCo/Ti触媒面にしかカーボンナノチューブが成長しないから、ゲート電極層の表面が秀麗に保持された電子エミッターを製造することができる。このゲート電極は電界放出用のアノードとして作用し、FEDや電子ビーム装置等の広範囲に応用できる電子エミッターの大量生産が可能となる。
【0046】
本発明の第13の形態によれば、前記基体はガラス基体であり、前記所定温度は550℃以下に設定される電子エミッターの製造方法が提供される。これによりガラス基体を軟化、変形させることなくカーボンナノチューブをCo/Ti触媒面に生成できるため、不良品が無く設計精度・寸法精度の高い電子エミッターの大量生産が可能である。
【0047】
本発明の第14の形態によれば、前記形態1〜9のいずれかに記載した電子エミッターと、この電子エミッターの対向側に配置された透明アノード電極と、この透明アノード電極の内側面に形成された蛍光層とから構成されるFED装置が提供される。前記カーボンナノチューブから電界放出された電子が蛍光に変換されるFED装置であり、その中核部品である電子エミッターが安価・容易に製造できるため、安価なFED装置の大量生産が可能になる。
【0048】
本発明の第15の形態によれば、前記形態1〜9のいずれかに記載した電子エミッターと、この電子エミッターの対向側に配置されたアノード電極と、前記電子エミッターから電界放出された電子を電子ビームとして射出する電子ビーム装置が提供される。電子エミッターを安価・容易に製造できるため、安価な電子ビーム装置の大量生産が可能である。この電子ビーム装置には、電子顕微鏡の電子源装置や蒸着用の電子源装置など多様な装置が含まれる。
【特許文献3】特願2004−127395
【特許文献4】特願2005−134362
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下に、本発明に係るカーボンナノチューブの製造方法、それを用いた電子エミッター、その製造方法、FED装置及び電子ビーム装置の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0050】
図1は、本発明に係るCo/Ti触媒上のカーボンナノチューブ立設成長の構成図である。基板8にAl膜6を成膜して、その中にCo/Ti触媒層4を埋め込むように設置する。このCo/Ti触媒層4からカーボンナノチューブ2が立設成長したものであるが、Al膜6があることによりCo/Ti触媒層4に一層垂直にカーボンナノチューブが成長し、放出される電子の射出方向が一定方向に整列され、電子ビームの電流密度を向上することが可能になった。Co/Ti触媒層4は下地のAl層6と電気的に導通し、Al膜6を陰極(カソード電極)としてカーボンナノチューブ2から電界放出が可能になる。また、触媒露出面4aにカーボンナノチューブ2が立設成長しているが、Al膜6中にCo/Ti触媒層4が同一面となるように埋め込むことにより、Al膜6とCo/Ti触媒層4が底面及び側面で接触することになる。Al・触媒境界面6aが大きいと両者が強固に化学結合するため、カーボンナノチューブ2を引っぱっても、カーボンナノチューブを容易に脱離させることができなくなるくらい、カーボンナノチューブの固着結合力が増強される。即ち、Al層を使用しないときに比べ、より強固にカーボンナノチューブが触媒層に接合していることが確認された。
【0051】
図2は、図1でカーボンナノチューブ2の周囲に絶縁層10を設けたものである。この絶縁層10は、前記カーボンナノチューブ2を保護し、電子の流路を一定ならしめる効果を有する。また、この電子エミッターを複数配列した場合には前記絶縁層10により電界放出された電子が相互に干渉するのを防ぐことができる。又、FEDなどのカソード電極とアノード電極の所定間隔を維持するスペーサーとしても利用がすることができる。絶縁層10でCo/Ti触媒層4を覆うと、覆われていない部位のみにカーボンナノチューブ2が成長するので、絶縁層10でカーボンナノチューブ2が成長する部位を制御することができる。また、絶縁層10とCo/Ti触媒層4がはなれた位置にあってもよいし、カーボンナノチューブ2を囲むような位置になくてもよい。
【0052】
図3は、図2でさらにカーボンナノチューブ2から電子を容易に射出できるようにゲート電極12を設けたものである。ゲート電極層とカソード電極層に電圧を印加することにより、容易に前記カーボンナノチューブから電子を電界放出させることができる。このゲート電極12は、カーボンナノチューブ2より高くても、同じ高さでも、低くても良い。
【0053】
図1〜図3では、Al膜6とCo/Ti触媒層4が同一面となっている。しかし、これらは同一面になくても良い。Co/Ti触媒層4がAl膜6より出ている状態を、図4に示す。勿論、Co/Ti触媒層4がAl膜6より低くなっていても良いし、触媒露出面4aは平面でなくて凹面や凸面の曲面であってもよい。
【0054】
図5は、図1〜図4と異なりCo/Ti触媒層4をAl膜6に埋め込まずに、Al膜6上に生成し、触媒層4からのカーボンナノチューブ2立設成長の構成図である。このときも、Al膜6を使用することにより、カーボンナノチューブ2
Co/Ti触媒層4から垂直に成長し、Al・触媒境界面6aで両者が強固に化学結合するため、Al膜6を使用しないときに比べ、より強固にカーボンナノチューブ2がCo/Ti触媒層4に接合する。このため、Co/Ti触媒層4作成法の選択範囲が広がる。
【0055】
図6は、Co/Ti触媒についての構成図である。Al層、Co層、Ti層の順に積層したものを(6A)に示す。Al層、Ti層、Co層の順に積層したものを(6B)に示す。(6C)に示したのは、Al層に、Co元素とTi元素の混合物が積層したものである。これには、(6D)のようにCo元素とTi元素を含む粗い粒子を積層してもよく、(6E)のようにCo元素とTi元素を含む細かい粒子を積層してもよい。また、勿論(6C)のようにCo元素とTi元素を含む1つの層が膜状に積層してもよい。このように触媒層は、Al層にCo層とTi層を順不同で埋め込まれてもよく、Al層にCo元素とTi元素の混合物を埋め込んでも良い。このように、Co/Ti触媒層の製造には、目的触媒を公知の化学的処方により自在に調製できるため、カーボンナノチューブの製造に最適な工程を選択することができる。
【0056】
図7、図8は、ともにCo/Ti触媒上からのカーボンナノチューブ立設成長構成図である。図7では、カーボンナノチューブを立設成長させる部位のみにCo/Ti触媒層4を生成したものである。図8では、Co/Ti触媒層4を生成し、絶縁層10によって被覆されていないCo/Ti触媒層4の部位のみにカーボンナノチューブを立設成長させたものである。これにより、Al膜6にCo/Ti触媒層4を生成する方法の選択範囲が広くなる。
【0057】
図9、図10は、ともにCo/Ti触媒上にカーボンナノチューブを立設成長させたものをカーボンナノチューブ側から見た構成図である。図9では、カーボンナノチューブを列状に成長させたものである。図10では、カーボンナノチューブをマトリックス状に成長させたものである。このように、縦横に多数の触媒面を配置すれば、小面積から大面積の面状FEDが構成でき、列状に多数の触媒面を配置すれば、線状FEDが構成できる。
【0058】
図11は、触媒を含む基板の製造工程図である。基体8を用意し(11A)、この上にAl層6を形成し(11B)、その上に絶縁層10を形成し(11C)、さらにゲート電極層12を形成する(11D)。フォトエッチング等で特定の部位のゲート電極層12、絶縁層10、Al層6をAl層6の内部まで触刻し(11E)、第一触媒層20、第二触媒層22を設ける(11F)。(11F)では、第一触媒層20、第二触媒層22としたが、これらは勿論図6の触媒の5つのパターンのいずれでもよい。
【0059】
図12は、図11同様触媒を含む基板の製造工程図である。基体8を用意し(12A)、この上にAl層6を形成し(12B)、フォトエッチング等で特定の部位のAl層6を内部まで触刻し(12C)、第一触媒層20を設け(12D)、第二触媒層22を設ける(12E)。その上に絶縁層10を形成し(12F)さらにゲート電極層12を形成する(12G)。(12D)及び(12E)では、第一触媒層20、第二触媒層22としたが、これらは勿論図6の触媒の5つのパターンのいずれでもよい。
【0060】
図11及び図12は、触媒を含む基板の工程図である。しかし、このほかの工程で基板を製作してもよい。
【0061】
図13は、カーボンナノチューブを成長させる反応容器24の概略構成図である。原料ガスCとキャリアガスHeを550℃以下の所定温度で反応容器に流す(13A)と、カーボンナノチューブ2が成長する(13B)様子を示す。触媒層4を含む基板8全体は、図11、図12あるいはその他の方法で作成する。勿論、この図の、ゲート電極12と絶縁層10は無くてもよい。原料ガスはCでなくても炭化水素ガスなら何でも使えるし、キャリアガスもHeでなくても不活性ガスなら何でも使用できる。装置の構造が簡単で、550℃以下で反応させるため、ガラス基体8を軟化、変形させることなく成長したカーボンナノチューブ2をFEDなどに使用できるので、FEDなどの大量生産が可能となる。
【0062】
図14は三極型FEDの構成図である。Al膜6とゲート電極12間に電圧を印加することによりカーボンナノチューブ2からの電界放出が容易になる。電界放出された電子は、アノード電極28に吸引されて蛍光板26に衝突して蛍光を発する。アノード電極28は透明なため、蛍光を外部から見ることができる。
【0063】
図15は二極型FEDの構成図である。図14と同様に、カーボンナノチューブ2から放出された電子が、アノード電極28に引かれて蛍光板26に当たると、蛍光を発する。アノード電極28は透明なため、蛍光を外部から見ることができる。この絶縁層10は、前記カーボンナノチューブ2を保護し、電子の流路を一定ならしめる効果を有する。また、この電子エミッターを複数配列した場合には前記絶縁層10により電界放出された電子が相互に干渉するのを防ぐことができる。又、ここでは、カソード電極とアノード電極の所定間隔を維持するスペーサーとして利用がしている。
【0064】
図16は、電子ビーム装置として、走査電子顕微鏡に応用した構成図である。カーボンナノチューブ2から放出された電子が、収束レンズ30、対物レンズ32で収束し、走査コイル34によって制御され試料36の表面を走査する。
【0065】
図17は、電子ビーム装置として描画装置に応用した構成図である。カーボンナノチューブ2から放出された電子はパターンを描くためにブランキング装置38でON/OFFされ、偏向コイル48の働きで描画材料40上に所定のパターンを描くように偏向制御される。このような電子の動きと、ステージ42の動きを組み合わせることにより、描画材料40に、設計どおりのパターンが描かれる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の、Al層に作成したCo/Ti触媒からのカーボンナノチューブ成長法では、カーボンナノチューブがガラス基板を軟化させない550℃以下の温度で、Co/Ti触媒に立設、しかも強固に固着成長し、成長装置はきわめて単純である。そのため、カーボンナノチューブを使った装置の安価な大量生産が可能である。カーボンナノチューブを使った電子発生装置の1つとして、FEDが挙げられる。FEDの応用例として、家庭用、工業用のディスプレイ装置がある。カーボンナノチューブの電子ビームの電子源としての応用先として、電子顕微鏡、電子ビーム溶接などがある。このように、本発明により、カーボンナノチューブを使った電子エミッターとその製造方法、FED装置及び電子ビーム装置が進歩するものである。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係る電子エミッターの第1実施例(絶縁層無し)の構成図である。
【図2】本発明に係る電子エミッターの第2実施例(絶縁層有り)の構成図である。
【図3】本発明に係る電子エミッターの第3実施例(ゲート電極層有り)の構成図である。
【図4】本発明に係る電子エミッターの第3実施例の第1変形例(触媒面中間位置)の構成図である。
【図5】本発明に係る電子エミッターの第3実施例の第2変形例(触媒面最高位置)の構成図である。
【図6】本発明に係る電子エミッターのCo/Ti触媒層の構成図である。
【図7】本発明に係るカーボンナノチューブをアレイ配列した電子エミッター(孤立したCo/Ti触媒層)の構成図である。
【図8】本発明に係るカーボンナノチューブをアレイ配列した電子エミッター(広域一層状のCo/Ti触媒層)の構成図である。
【図9】本発明に係る電子エミッター(列状のカーボンナノチューブ配列)の構成図である。
【図10】本発明に係る電子エミッター(マトリックス状のカーボンナノチューブ配列)の構成図である。
【図11】本発明に係る電子エミッターの第1製造方法の工程図である。
【図12】本発明に係る電子エミッターの第2製造方法の工程図である。
【図13】本発明に係る電子エミッターの製造方法を示す装置図である。
【図14】本発明に係る三極型極FED装置の構成図である。
【図15】本発明に係る二極型FED装置の構成図である。
【図16】本発明に係る電子ビーム装置を使った走査電子顕微鏡の構成図である。
【図17】本発明に係る電子ビーム装置を使った描画装置の構成図である。
【符号の説明】
【0068】
2 カーボンナノチューブ
4 Co/Ti触媒層
4a 露出触媒面
6 Al層
6a Al・触媒境界面
8 基体
10 絶縁層
12 ゲート電極層
14 Ti触媒層
16 Co触媒層
18a Co元素とTi元素の混合物
18b Co元素とTi元素の粗い粒子の混合物
18c Co元素とTi元素の細かい粒子の混合物
20 第一触媒層
22 第二触媒層
24 反応容器
26 蛍光板
28 アノード電極
30 集束レンズ
32 対物レンズ
34 走査コイル
36 試料
38 ブランキング装置
40 描画材料
42 ステージ
44 コイル
46 絞り
48 偏向コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に形成されたカソード電極となるAl層と、このAl層に触媒面を露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層と、このCo/Ti触媒層に前記触媒面から立設成長させたカーボンナノチューブから少なくとも構成されることを特徴とする電子エミッター。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの周囲に絶縁層を配置した請求項1に記載の電子エミッター。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブから電子を電界放出させるために前記絶縁層上にゲート電極層を配置した請求項2に記載の電子エミッター。
【請求項4】
前記Al層に複数の触媒面が露出するように前記Co/Ti触媒層を形成し、複数の前記触媒面のそれぞれに前記カーボンナノチューブを立設させた請求項1、2又は3に記載の電子エミッター。
【請求項5】
前記複数の触媒面が前記Al層に列状に又はマトリックス状に配置された請求項4に記載の電子エミッター。
【請求項6】
前記Co/Ti触媒層はその前記触媒面が露出した状態で前記Al層に埋込状に形成される請求項1〜5のいずれかに記載の電子エミッター。
【請求項7】
前記Co/Ti触媒層は、Co層の上にTi層を積層するか、又はTi層の上にCo層を積層して2層状に形成される請求項1〜6のいずれかに記載の電子エミッター。
【請求項8】
前記Co/Ti触媒層は、Co元素とTi元素の混合物から1層状に形成される請求項1〜6のいずれかに記載の電子エミッター。
【請求項9】
前記基体はガラス基体である請求項1〜8のいずれかに記載の電子エミッター。
【請求項10】
基体上に形成されたカソード電極であるAl層と、このAl層に触媒面を露出して形成された少なくともCo元素とTi元素を含有するCo/Ti触媒層から少なくとも構成されるエミッター本体を用意し、このエミッター本体を反応器内に配置し、この反応器内を所定温度に加熱した状態で炭素化合物ガスを流通させて前記Co/Ti触媒層の触媒作用で前記触媒面にカーボンナノチューブを立設成長させることを特徴とする電子エミッターの製造方法。
【請求項11】
前記触媒面の周囲に絶縁層が形成されている請求項10に記載の電子エミッターの製造方法。
【請求項12】
前記絶縁層の上面にゲート電極層が形成されている請求項11に記載の電子エミッターの製造方法。
【請求項13】
前記基体はガラス基体であり、前記所定温度は550℃以下に設定される請求項10、11又は12に記載の電子エミッターの製造方法。
【請求項14】
請求項1〜9のいずれかに記載した電子エミッターと、この電子エミッターの対向側に配置された透明アノード電極と、この透明アノード電極の内側面に形成された蛍光層とから構成され、前記カーボンナノチューブから電界放出された電子が蛍光に変換されることを特徴とするFED装置。
【請求項15】
請求項1〜9のいずれかに記載した電子エミッターと、この電子エミッターの対向側に配置されたアノード電極と、前記電子エミッターから電界放出された電子を電子ビームとして射出することを特徴とする電子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2007−165030(P2007−165030A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357125(P2005−357125)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】