説明

電子エミッタ構造製造方法、電子エミッタ構造製造方法により製造される電子エミッタ構造、電子エミッタ構造を内蔵する電界電子放出表示装置および電界電子放出バックライト

【課題】電子エミッタ構造製造方法、上記製造方法により製造される電子エミッタ構造、上記電子エミッタ構造を内蔵する電界電子放出表示装置および電界電子放出バックライト電界電子放出表示装置において、またはLCD表意装置用の電界電子放出バックライトにおいて用いられる電子エミッタ構造を形成する手順を提供する。
【解決手段】マスク素子20を薄いAl基板10上に堆積し、マスク素子20間のギャップを通してAl基板を化学的にエッチングし、したがってスパイク13を基板上に形成することにより、電子エミッタ構造は形成される。次にこのスパイク13は電子エミッタ材料21で覆われる。スパイク13は所望のピッチ/高さ比を有するように形成可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界電子放出表示装置(field emission display:FED)のための、または液晶表示装置(liquid crystal display:LCD)用の電界電子放出バックライト(field emission backlight)のための電子エミッタ構造の製造方法に関し、また上記製造方法により製造される電子エミッタ構造、FED、および電界電子放出バックライトに関する。
【背景技術】
【0002】
電界電子放出表示装置(FED)は、最も有望な次世代表示装置の候補である。また液晶表示装置(LCD)用の電界電子放出バックライトにも、今日多くの研究者の関心が集まっている。
【0003】
FEDの電子エミッタ構造のよく知られる種類の1つであるスピント型エミッタを、概略的に図1に示す。エミッタの下部は、ガラス基板1を備えており、下部電極2で覆われている。多くの絶縁体素子3がゲート電極素子4を支えている。この型のエミッタは、カソードとして、下部電極2と電気接触する微小Moコーン5を有する。コーン5へ(下部電極2を介して)十分大きな負電圧が印加されると、Moコーン5の頂点における電界集中は電子を放出するほど十分に高まる。電子は、ギャップを越えてFEDの上部へ引き寄せられる。FEDの上部は、上部電極(アノード)7から構成され、上部電極7は蛍光体層6と第2のガラス基板8とに挟まれている。蛍光体層6による発光は、ゲート電極素子4に印加される電圧を制御することにより、具体的にはある領域が他の領域よりも明るくなるように、制御することができる。ゲート素子4がない場合は、この構造は均一に発光し、例えばLCDの均一電界電子バックライトとして機能することも可能である。
【0004】
このエミッタアレイは、多くのマスクを要するフォトリソグラフィ処理における真空処理手順を踏んで製作される。Moコーン5は、基板を傾けて堆積させ、それから基板を回転させながら堆積させる。この一連の処理ステップは、非常に複雑であり、多額の費用もかかる。また、アレイにおける多くのエミッタの各々を全く同じコーン形状にすることは困難であり、これにより電子放出性が不規則なものとなる。
【0005】
別の種類のエミッタであるカーボンナノチューブ(Carbon Nano Tube:CNT)にも、大きな関心が集まっている。図2はCNT型FEDの概略図を示している。図1中の構成要素と同様の意味をもつ構成要素は、同様の参照番号で示してある。唯一の違いは、各カソードとして複数のCNT9を使用していることである。
【0006】
CNTは基板1の表面に垂直に成長させられており、電界集中はCNTの頂上において高い。炭素はその高い電子放出性がよく知られており、そのためCNTは電子エミッタに適した材料である。しかしながら、通常CNTは真空において成長させるものであり、良質のCNTをつくるには普通は高温が必要となり、そのためこの処理は多額の費用がかかる。また基板も、処理の間の高温に耐えられるものでなければならないため、高額である。
【0007】
上述のCNT関連の問題を解決すために、ある研究者たちは、ペーストの粘度を有し、独立のCNTを含むバインダを提案している。このようなバインダが図2のCNTの代わりに基板上にペーストされ、ペースト中のCNTのいくつかがバインダの表面上に偶然に突き出て、カソードとして機能する。あいにくこの方法では、アレイにおいて規則的な電子放出を得ることが困難となり、またCNTペースト下の電極2と各CNTとの間の接触抵抗も高い。加えて、独立のCNT自体が高額な材料である。
【発明の開示】
【0008】
本発明は、新規かつ有用な電子エミッタ構造を提供し、かかる構造を使用してFEDと電界電子放出バックライトとを提供することを目的とする。
【0009】
一般的に言えば、本発明が提示するのは、空間的に隔てられた複数の開口部を有するマスクが基板表面上に形成され、次に基板は開口部を通して化学的にエッチングされ、そこで開口部の各々に直近の基板の部分は除去され、複数のスパイクを有する表面が残ることである。スパイクの各々は電子エミッタとして機能可能である。基板自体が、適当な電子放出性を有する電子放出基板から構成されていない場合、そのような材料の層がこの構造上に堆積される。適当な電子放出基板の1つはDLCである。
【0010】
マスクの性質とエッチング条件とを選択することにより、スパイクの形状性質を選択可能である。このように、本発明のある実施形態により、最適ピッチ/高さ比を有するスパイク構造を形成することが可能となる。等方的化学エッチングは、別文書において理想的とされたおよそ2のピッチ/高さ比を有する構造を、自然に形成する傾向がある。
【0011】
さらにこの電子エミッタ構造は、上述の従来技術に提案される方法よりも安価な方法で、CNTを必要とせずに、得られる。
【0012】
基板は、導電性材料から構成されることが好ましく、アルミニウム(Al)から構成されることが最も好ましい。
【0013】
マスクを形成する好適な手順は、第1の層が基板上に形成され、次に開口部を形成するようにエッチングされるところの処理による。次にマスク材料が開口部内へ堆積され、第1の層は除去される。
【0014】
第1の層を形成するのに使用される処理は、酸化アルミニウムの陽極酸化処理(anodization of aluminum oxide:AAO)であってもよく、その場合Al基板が電気化学反応においてアノードとして使用される。かかる処理は、細孔を有する酸化アルミニウムの層を形成し、次にこの細孔は、基板が暴露される開口部へと拡大するようにエッチングされる。言い換えると、開口部は「自動組立て(self‐assembly)」の処理により形成されるということである。
【0015】
このように、基板から電子エミッタ構造を形成する全作業工程は、フォトリソグラフィのような高額な処理を用いることなく行われることが好ましい。
【0016】
本発明は、電子エミッタ構造製造方法に顕れる場合、または上記製造方法により製造された構造として顕れる場合、または上記構造を内蔵する装置として顕れる場合がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態を、例示のみを目的として、ここで添付図面を参照しながら説明することとする。
【0018】
まずは図3(a)を参照すると、本発明の一実施形態である方法の出発点は、Alから構成される薄い基板10である。Al基板の厚さは0.4mmであり(ゆえにこの基板はアルミ箔である)、Alの純度は99.999%である。図3(b)に示すように、陽極酸化アルミニウム(anodized aluminum oxide:AAO)の層11が、陽極酸化処理ステップにより、Al基板11の主要な表面上に形成されと、細孔拡大処理がそれに続く。AAO層の厚さは1μmより薄いことが好ましい。AAO層11は、基板10の表面に垂直な多くのスルーホール12とともに形成される。
【0019】
図4は、陽極酸化処理を行うのに使用するセットアップを概略的に示している。Al箔10は、支持構造19で支えられ、その2面のうち片面を槽14内の酸性溶液15に暴露する。酸性溶液15として、0.4MのHPOが使用される。槽はまたPtワイヤ16を含み、Al箔10がアノードとして機能し、Ptワイヤ16がカソードとして機能して、電気処理が実行される。マグネティックスターラ17がマグネティックドライバ18により駆動される。DC電圧が、例えば100V、Ptワイヤ16とAl箔10との間に印加され、AAOの層が基板10上に形成される。AAOの厚さは陽極酸化処理の時間で制御され、その時間は2分であってよい。
【0020】
陽極酸化処理の後、細孔拡大処理が行われる。この処理においては、AAO層を有するAl基板10の表面を、10wt%のHPO溶液に70分間浸しておく。この処理により、細孔はスルーホール12になるまで拡大される。その結果、AAO要素11の厚さ(図3(b)の垂直方向)は約1μmとなり、細孔の直径は約200nmであり、細孔のピッチ(すなわち細孔の周期性)は約250nmであり、したがって要素11の幅は約50nmである。
【0021】
図3(c)に示すように、次にTi層20が、それぞれの細孔の中にスパッタリングにより堆積される。Ti層20の厚さは300nmである。
【0022】
図3(d)に示すように、次に10wt%のHPO溶液を使用し、AAO11が完全に除去される。
【0023】
図3(e)に示すように、Al基板10は、10wt%HPO溶液を使用してエッチングされる。この処理において、Ti層20がマスクとして機能し、エッチングはこの図に示すように等方的に進行する。
【0024】
図3(f)に示すように、Tiマスク20下のAl基板10の部分は、エッチングによりさらに薄くされる。結果的に、図3(g)に示すように、Tiマスク20下のAl基板10はTiマスク20を支えられないほど薄くなり、最終的にTiマスク20は分離される。スパイクのピッチとスパイクの高さとの比(ピッチ/高さ)は、等方エッチングのため、およそ2になる。これは重要なことであり、というのも、キム(Kim)らによる論文Appl.Phys.A83号の111〜114頁(2006年)、題名「Numerical study on the field emission
properties of aligned carbon nano tubes using the hybrid field enhancement scheme(混成電界拡張スキームを使用する、一列に並ぶカーボンナノチューブの電界電子放出性に関する数的研究)」の中で、CNTのピッチ/高さ比がおよそ2である場合、スパイクの先端が非常に尖鋭ならば最大電流密度が得られる、ということが報告されているからである。
【0025】
図3(h)に示されるように、DLC(diamond‐like carbon:ダイヤモンドライクカーボン)の層21が、フィルタ処理陰極の真空アーク(filtered‐cathodic‐vacuum‐arc:FCVA)法により、Al基板10上に堆積される。FCVAにより形成されるDLCは、その高い電子放出性で知られる。他の実施形態において、DLCの代わりに、他の低仕事関数材料または低電子親和性材料が堆積されてもよい。
【0026】
FCVA堆積システムを図5に示しており、ここでは炭素プラズマ22が、高真空条件でグラファイトカソード23の高電流アーク24を通して生成されている。電磁石25により生じた磁界は、基板10の表面へ向かう曲経路内へ炭素プラズマを導くように生成されており、より純度および密度が高い膜構造を作成するため、望ましくないマクロパーティクルを排除している。さらなる電磁石26はフォーカスの機能を行う。イオンエネルギーはバイアス電圧により制御され、このバイアス電圧は、基板10を固定する金属基板固定部(図示せず)に接触される電圧生成部27により印加される。(米国特許第6031239号に開示されるように)堆積処理中に電圧バイアスを最適化することにより、膜の硬度、膜の応力および付着力を制御できる。また炭素イオンの結合構造も制御できる。
【0027】
図3(h)において製造された構造は、ここで、図1に示す構造に、コーン5および下部電極2を置換して使用可能である。ゲート4がない場合、この構造は、LCD用の均一電界電子放出バックライトなどの光生成部として動作する。
【0028】
しかしながら、近頃多くの研究者が、表示画像のコントラストを増大させて電力消費を低減させるために、バックライトを多くの領域に分割し、表示画像に応じて各領域の輝度を制御しようと試みていることに留意されたい。ゆえに、本実施形態がバックライトとして使用されるシステムにおいても、そのバックライトは領域ごとに制御が必要となる場合もある。
【0029】
本発明の実施形態は1つしか説明しなかったが、多くの変形が可能であることは、当業者である読者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】周知のスピント型FEDの概略図である。
【図2】周知のCNT型FEDの概略図である。
【図3】(a)〜(h)から構成される。本発明の一実施形態である、AAOを使用してAl基板上にスパイク構造を形成する処理のステップを、断面図を用いて示す。
【図4】図3の実施形態で使用する陽極酸化処理のセットアップを概略的に示す。
【図5】図3の実施形態で使用するフィルタ処理陰極の真空アーク(FCVA)の堆積システムを概略的に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子エミッタ構造を形成する方法であって、
(a)基板の表面上に、空間的に隔てられた開口部を有するマスクを形成することと、
(b)前記基板の表面が、空間的に隔てられた複数のスパイクを有する構造を発達させるまで、前記マスクの前記開口部を通して前記基板の前記表面を化学的にエッチングすることと、
を含む方法。
【請求項2】
前記基板の前記表面上に電子エミッタ層を堆積させるステップ(c)をさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記スパイクは、およそ2のピッチ/高さ比を有して形成される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記基板はアルミニウムである、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
ステップ(a)は、
(i)第1の層が、前記基板上に形成され、次に開口部を形成するようにエッチングされ、
(ii)マスク材料が前記開口部の中に堆積され、
(iii)前記第1の層は除去される
ところの処理により行われる、先行する請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記第1の層は、前記Al基板を電気化学反応においてアノードとして使用することにより形成され、それにより前記第1の層は、細孔を有するAAO層として形成され、次に前記細孔は、前記基板が暴露される開口部へと拡大されるようにエッチングされる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
一表面に複数のスパイクを有して形成される基板と、
前記基板の前記表面上に堆積される電子エミッタ材料と、
を有する電子エミッタ構造。
【請求項8】
前記スパイクはおよそ2のピッチ/高さ比を有する、請求項7に記載の電子エミッタ構造。
【請求項9】
前記電子エミッタ材料はダイヤモンドライクカーボン(DLC)である、請求項7または請求項8に記載の電子エミッタ構造。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかの電子エミッタ構造を備える電界電子放出表示装置。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれかの電子エミッタ構造を備えるLCD表示装置用の電界電子放出バックライト。
【請求項12】
請求項11に記載の電界電子放出バックライトを備えるLCD表示装置。

【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−59680(P2009−59680A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−135025(P2008−135025)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】