説明

電子スピン分析器及び表面観察装置

【課題】試料表面のスピン状態分布を高精度に分析するための電子スピン分析器を提供する。
【解決手段】試料Wから放出される二次電子を入射方向に対して横方向に走査する走査偏向器5a、5bを通してパルス化された二次電子を放出するパルスゲートユニット4と、パルスゲートユニット4から出る二次電子を加速させる加速ユニット7と、加速ユニット7から出た二次電子を照射するターゲット8と、ターゲット8の周囲に配置される電子スピン検出器15a〜15dと、電子スピン検出器15a〜15dから出る二次電子を受けるコレクタ10bとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子スピン分析器及び表面観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スピントロニクスデバイスの分野は急速に発展しており、例えば、不揮発性磁気メモリ(MRAM)などの開発が進んでいる。スピントロニクスデバイスは、電子にもともと備わっている角運動量、つまりスピンを使って情報を伝える機能を有している。
【0003】
スピントロニクスデバイスは微細な構造となっているため、そのような微細な構造におけるスピン状態を有する試料を高分解能で分析できる分析技術の需要が高まっている。
試料表面のスピン方向分布を分析する分析装置として、2次電子の偏極、即ちスピンの偏りを測定する電子スピン分析用検出器と、SEM(Scanning Electron Microscope)とを組み合わせたスピン偏極SEMが知られている。
【0004】
スピン偏極SEMは、電子顕微鏡のもつ優れた分解能で磁区像を観察することができ、しかも、磁化ベクトル方向の直接測定など、磁気力顕微鏡などにはない分析能力を有しており、その適用領域の拡大が期待されている。
【0005】
スピン偏極SEMでは、磁化した試料の表面に1次電子線を照射し、磁化情報を持つ2次電子を試料から放出させる。そして、放出された2次電子をターゲット、例えば金属膜に衝突させ、これにより散乱した2次電子をターゲットの周りの複数の電子検出器により検出する。検出器は、例えばX方向とY方向にそれぞれ1対ずつ配置され、これにより検出される2次電子の計数差によって試料表面の磁気ベクトルの向きを知ることができる。
【0006】
なお、電子1個の電荷量は極めて小さいため、電子検出器では、一般にチャネルトロンに代表される電子増倍管などを用いて入射電子を増倍させて入射電子1個に相当する増倍電子量として検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献1】スピン偏極走査電子顕微鏡、早川、小池、松山 電子顕微鏡 Vol.22、No.3、1988、187−194頁
【特許文献1】特開昭60−177539号公報
【特許文献2】特開平11−111209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のスピン偏極SEMなどの表面観察装置に使用される電子スピン検出器は、元々検出効率が低いので、表面観察精度を高くすることが難しい。
本発明の目的は、試料表面のスピン状態分布を高精度に分析するための電子スピン分析器および表面観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
1つの観点によれば、試料から放出される二次電子を収集する収集ユニットと、前記収集ユニットを通った前記二次電子の入射方向に対して横方向に走査する走査偏向器を通してパルス化された前記二次電子を放出するパルスゲートユニットと、前記パルスゲートユニットから出る前記二次電子を加速させる加速ユニットと、前記加速ユニットから出た前記二次電子を照射するターゲットと、前記ターゲットの周囲に配置される電子スピン検出器と、前記電子スピン検出器から出る前記二次電子を受けるコレクタと、を有することを特徴とする電子スピン分析器が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異なる位置で散乱したパルス二次電子を入射することにより電子検出器に時間的、空間的に電子密度を下げることができ、カウントロスの低減が可能になり、検出効率の向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る電子スピン分析器及び表面分析装置の構成図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る電子スピン分析器及び表面分析装置の一部を示すブロック図である。
【図3】図3は、本発明の第1実施形態に係る電子スピン分析器内のパルスゲートユニットを示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係る電子スピン分析器及び表面分析装置の構成図である。
【図5】図5は、本発明の第3実施形態に係る電子スピン分析器内のパルスゲートユニットを示す斜視図である。
【図6】図6は、表面分析装置の比較例の電子スピン分析器を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の目的および利点は、請求の範囲に具体的に記載された構成要素および組み合わせによって実現され達成される。前述の一般的な説明および以下の詳細な説明は、典型例および説明のためのものであって、本発明を限定するためのものではない、と理解すべきである。
【0013】
電子スピン分析器の電子検出器とこれに接続される処理部は、例えば図6(a)の比較例に示すように、二次電子102を入射する電子検出器101と、電子検出器101の電子放出端から出る電子を収集するコレクタ103とを有する。さらに、コレクタ103からの電子流を増幅するプリアンプ104と、プリアンプ104から出力された電子流を入力するディスクリミネータ105と、ディスクリミネータ105から出力されるパルスを計数するカウンタ106を有している。
【0014】
そのような装置によれば、図6(b)に示すように、例えば1個の二次電子102が電子検出器101に入射すると電子検出器101内部で二次電子102が増倍され、その数が増加する。さらに、電子検出器101の後方のコレクタ103で二次電子を捕獲すると、コレクタ103からプリアンプ104に多数の電子が流れる。
【0015】
そして、プリアンプ104から出力された電流が閾値を越えると、ディスクリミネータ105は、電子検出器101に1個の電子が入射したと判断し、1個のパルスをカウンタ106に出力する。これにより、カウンタ106は、電子の数を1個と計数する。
【0016】
ところで、電子検出器101に例えば複数の電子が同時に入射した場合、それぞれの電子が増倍されることになる。そのため、プリアンプ104に入射する電子量は多くなるにもかかわらず、入射する電子が1個でも複数個でも、ディスクリミネータ105からパルスが1つしか出力されない。その結果、電子検出器101に入射した電子は、カウンタ106により1個としか計数されず、カウントロスが発生する。
従って、できるだけカウントロスを発生させないようにすることが望まれている。
【0017】
そこで以下に、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を説明する。図面において、同様の構成要素には同じ参照番号が付されている。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の実施形態に係る表面分析装置の構成要素の配置図である。
【0018】
表面分析装置1は、試料Wに一次電子線を照射する電子銃2と、試料Wの上方に配置されて試料Wの表面から放出される二次電子を収集する収集ユニット3と、収集ユニット3により引き込んだ二次電子ビームをパルス化するパルスゲートユニット4とを有している。さらに、パルスゲートユニット4から出た二次電子を加速する加速ユニット7と、加速された二次電子を衝突させるターゲット8と、ターゲット8の周囲に配置されて二次電子を検出する第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a、9b、9c、9dとを有している。
なお、電子銃2、収集ユニット3、加速ユニット7等は制御部20に接続されて制御される。制御部20は、CPU、記憶デバイス等を備えたコンピュータであってもよい。
【0019】
パルスゲートユニット4は、収集ユニット3に対して二次電子の進行方向の前方に配置され、その内部には、図2に示すように一対の走査偏向電極5a、5bと導電性のチョッピングアパーチャ6を有している。一対の走査偏向電極5a、5bは、二次電子の進路を挟んでその周囲に対向配置される。さらに、一方の走査偏向電極5aは、二次電子のビームをチョッピングアパーチャ6表面で移動させるための電界発生用の第1電圧源11に接続される。また、他方の走査偏向電極5bは、所定電位、例えば接地電位に保持される。
なお、第1電圧源11から出力される電圧の波形は制御部20により制御される。
【0020】
チョッピングアパーチャ6は、図3に示すように、二次電子を通過させる微小孔6aを有し、それ以外の領域は二次電子を遮る遮蔽領域6bとなっている。チョッピングアパーチャ6内の微小孔6aは、直線状の二次電子走査方向に間隔をおいて一次元的に複数形成されている。なお、チョッピングアパーチャ6は、所定の電位、例えば0V或いは接地電位に維持される。
【0021】
加速ユニット7の上方に配置されるターゲット8は金属標的であり、その材料として例えば金(Au)などの重金属が用いられる。ターゲット6には、加速ユニット7で加速された二次電子を衝突させるために例えば20kV〜120kV程度の第2電圧源12が接続される。第2電圧源12は、制御部20に接続されてその出力電圧が制御される。
【0022】
第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dは、スピン軌道相互作用に応じた角度でターゲット8の下面で散乱する二次電子を検出するために、ターゲット8の周囲に互いに一定間隔で配置されている。
【0023】
例えば、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dは、ターゲット8からの二次電子の散乱の範囲内であって、加速ユニット7の円筒軸に対して4回対称となる位置に配置されている。即ち、第1、第2の多チャンネル電子検出器9a、9bは、X−Z面に対して対称な位置に置かれ、また、第3、第4の多チャンネル電子検出器9c、9dは、Y―Z面に対して対称な位置に置かれる。なお、X軸、Y軸、Z軸は互いに90°をなす関係にある。なお、ターゲット8からの二次電子の散乱角は例えば120°である。
【0024】
第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dとして、例えばマイクロチャンネルプレート(MCP)がある。MCPは、両端を揃えて複数のチャンネル型二次電子増倍管10aを例えば円柱状に束ねた構造を有している。チャンネル型二次電子増倍管10aは、例えば、ガラス管の内壁を二次電子放出素材、例えばアルカリをドープしたシリカ層でコーティングして形成される。二次電子放出素材として、その他に、銀マグネシウムや銅ベリリウムの合金表面を部分酸化した金属やセラミックなどがある。
【0025】
チャンネル型二次電子増倍管10aのそれぞれの両端には、前端から入射した二次電子を後端に向けて移動させる極性の電圧を印可する第3電圧源13が接続されている。また、チャンネル型二次電子増倍管10aのそれぞれの後方には、後端から放出された二次電子を捕獲するコレクタ10bが配置されている。
第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dのそれぞれには、第1〜第4の信号処理部15a〜15dが接続されている。
【0026】
第1〜第4の信号処理部15a〜15dは、コレクタ10bのそれぞれに接続されるプリアンプ16を有し、さらに各プリアンプ16の出力端に直列に接続されるディスクリミネータ17を有している。
【0027】
また、複数のディスクリミネータ17の出力端は、第1〜第4の信号処理部15a〜15dの系統毎にそれぞれ並列に接続され、さらに系統毎にカウンタ18に接続されている。カウンタ18は、各ディスクリミネータ17から出る電流パルスを計数し、計数データを演算処理部19に出力する。
第1〜第4の信号処理部15a〜15dにより計数されたそれぞれのパルスの個数は、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dのそれぞれに入射した二次電子の個数に対応する。
【0028】
演算処理部19は、第1、第2の信号処理部15a、15bにより計数された二次電子のX方向のスピンを持つ電子の個数Nx+とNx-に基づいて次式(1)により偏極ベクトルのX軸成分のスピン偏極率Pxを演算する。第1、第2の信号処理部15a、15bにより計数されたパルスの個数は、第1、第2の多チャンネル電子検出器9a、9bのそれぞれに入射した二次電子の個数に対応する。
x=(1/S)・(Nx+−Nx-)/(Nx++Nx-) (1)
【0029】
また、演算処理部19は、第3、第4の信号処理部15c、15dからそれぞれ出力された二次電子のY方向のスピンを持つ電子の個数Ny+とNy-に基づいて次式(2)により偏極ベクトルのY軸成分のスピン偏極率であるPyを演算する。第3、第4の信号処理部15c、15dにより計数されたパルスの個数は、第3、第4の多チャンネル電子検出器9c、9dのそれぞれに入射した二次電子の個数に対応する。
y=(1/S)・(Ny+−Ny-)/(Ny++Ny-) (2)
なお、式(1)、(2)において、Sは、標的原子の種類、入射電子のエネルギー、散乱電子の散乱角により決まる定数である。
【0030】
さらに、演算処理部19は、上記の式(1)、(2)に基づいて試料Wの面内の任意方向成分のスピン偏極率であるPθを次式(3)に基づいて演算する。
Pθ=Pxcosθ+Pysinθ (3)
演算処理部19は、式(1)〜(3)の他にZ軸成分のスピン偏極率Pz等を演算し、それらの演算結果に基づく磁気情報の画像を表示部21に表示する。
なお、上記の電子銃2、試料W、収集ユニット3、パルスゲートユニット4、ターゲット8、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dは減圧雰囲気中に配置される。
【0031】
以上の表面分析装置1において、磁性体である試料Wに向けて電子銃1から一次電子ビームを照射すると、試料Wの表面から二次電子がたたき出される。二次電子のスピン状態は試料W表面のスピン状態を保持する。
試料Wから出た二次電子は、収集ユニット3により引き出され且つ集束され、パルスゲートユニット4に導かれる。
【0032】
パルスゲートユニット4に入射した二次電子ビームはチョッピングアパーチャ6に到達する途中で、制御部20及び第1電圧源11による一対の走査偏向用電極5a、5bの内部の電界分布を制御することにより、入射方向に対して横方向に走査される。
これにより、図3に示すように、チョッピングアパーチャ6の微小孔6aでは二次電子ビームが通過して加速ユニット7へ進行する一方、遮蔽領域6bに照射された二次電子はチョッピングアパーチャ6に吸収される。
【0033】
これにより、チョッピングアパーチャ6を通過した二次電子はパルス二次電子となって加速ユニット7に到達する。そして、加速ユニット7で加速されたパルス二次電子は、ターゲット8表面で一点に集中するのではなく、チョッピングアパーチャ6の微小孔6aの位置に合わせて微小領域の異なる位置に照射され、そこで散乱する。
【0034】
ターゲット8からX方向及びY方向に散乱したパルス二次電子は、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dに入射する。また、ターゲット8表面で微小領域内での異なる位置で散乱した二次電子のパルスは、塊で連続照射する場合に比べて、時間的及び空間的に散乱密度が低くなる。
【0035】
これにより広く散乱したパルス二次電子は、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dを構成する互いに隣接した複数のチャンネル型二次電子増倍管10aのそれぞれの前端に入射する。さらに、パルス二次電子は、各チャンネル型二次電子増倍管10aの内壁で衝突を繰り返して増幅される。そして、各チャンネル型二次電子増倍管10aの後端から放出されたパルス二次電子は、各コレクタ10bを介してプリアンプ16に流れる。
【0036】
各プリアンプ16に流入した二次電子の電流は、増幅されてディスクリミネータ17に流入し、その中で所定値を越えたパルス電流はディスクリミネータ17からカウンタ18に送信される。なお、4つの各カウンタ18は、複数のディスクリミネータ17からの電流パルスの個数を計数する。
【0037】
この場合、ターゲット8には一点に向けて加速ユニット7から二次電子が照射されるのではなく、それよりも広がって照射される。これにより、パルス二次電子は、多チャンネル電子検出器9a〜9dの複数のチャンネル型二次電子増倍管10aに分散して照射されることになる。
しかも、パルス二次電子は照射順に時間的にずれて複数のチャンネル型二次電子増倍管10aに入射するので、複数のディスクリミネータ17からカウンタ18に同時にパルスが入力することが回避され、カウントミスが防止される。
【0038】
従って、二次電子の個数の増減に応じた数のパルス電流の生成が可能になるので、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dに入射する二次電子の数のカウントロスを低減して高い精度で計数することができ、試料Wの磁気情報を高い精度で検出することができる。
【0039】
そして、演算処理部19は、カウンタ18によるパルス二次電子の計数結果に基づき、上記の式(1)、(2)、(3)等に基づいてスピン偏極率Py、Px、Pθ等を求める。そして、その演算結果に基づいて例えば試料Wの磁化分布が表示部21に表示される。
【0040】
なお、上記の収集ユニット3、パルスゲートユニット4、ターゲット8、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9d、第1〜第4の信号処理部15a〜15dを含む装置は、電子スピン分析器である。
【0041】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2実施形態に係る表面分析装置の構成要素の配置図である。
本実施形態の表面分析装置1は、パルスゲートユニット4の構造を除いて、図1と同様な要素を有している。パルスゲートユニット4は、一対の走査偏向電極5a、5bを有しているが、第1実施形態と異なり、チョッピングアパーチャを有しない構造を有している。
【0042】
パルスゲートユニット4は、試料Wから叩き出されて収集ユニット3により引き出された二次電子の進路の空間を挟んで対向する1対の走査偏向電極5a、5bを有している。また、一対の走査偏向電極5a、5bは、第1実施形態と同様に、一方は第1電圧源11に接続され、他方は所定電位に保持される。
また、一次電子を照射する電子銃2は、一次電子ビームをパルス化して試料Wに照射するように制御部20により制御される。これにより、電子銃2と制御部20はパルス一次電子供給部となる。
【0043】
そのような実施形態において、制御部20は、電子銃2を制御してパルス一次電子を試料W、例えば磁性体膜に照射する。これにより、試料Wからはパルス二次電子が収集ユニット3に向けて放出される。
さらに、パルス二次電子は、走査偏向電極5a、5bに印加される第1電圧源11の制御部20による電圧制御により、ターゲット8表面の微小領域の異なる位置に照射される。
【0044】
ターゲット8からX方向及びY方向に散乱したパルス二次電子は、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dに入射する。また、パルス二次電子は、ターゲット8表面の異なる位置で散乱するので、空間的な散乱密度が低くなり、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9d毎の複数のチャンネル型二次電子増倍管10aに広がって入射することになる。
【0045】
散乱したパルス二次電子は、複数のチャンネル型二次電子増倍管10aそれぞれの前端に入射し、それらの内壁で衝突を繰り返して増幅されて後端からコレクタ10bに放出される。チャンネル型二次電子増倍管10aのそれぞれから出た二次電子はコレクタ10bを介してプリアンプ16に流れる。
【0046】
各プリアンプ16に流入したパルス二次電子の電流は、第1実施形態と同様に、ディスクリミネータ17を介してカウンタ18に送信され、複数のディスクリミネータ17からの電流パルスの個数がカウンタ18により計数される。
【0047】
従って、ターゲット8で散乱する二次電子の個数の増減に応じた数のパルス電流の生成が可能になるので、二次電子の数のカウントロスを低減した高い精度で計数することができ、試料Wの表面の磁気情報を高精度で検出することが可能になる。
さらに、パルスゲートユニット4にはチョッピングアパーチャが不要になり、装置の構造を簡単にすることができる。
【0048】
(第3の実施の形態)
図5は、本発明の第3実施形態に係る表面分析装置のパルスゲートユニットを示す斜視図である。
本実施形態の表面分析装置1は、パルスゲートユニット4の構造を除いて、図1と同様な要素を有している。
【0049】
パルスゲートユニット4は、二次電子の進路の周囲に二対の走査偏向電極5a、5b、5c、5dとチョッピングアパーチャ6を有している。
第1組の走査偏向電極5a、5bにおいて、一方の走査偏向電極5aは第1電圧源11に接続され、他方の走査偏向電極5bは所定電圧に保持されている。また、第2組の走査偏向電極5c、5dにおいて、一方の走査偏向電極5cは第4電圧源22に接続され、他方の走査偏向電極5dは所定電圧に保持されている。
【0050】
チョッピングアパーチャ6は、二次元的、即ち縦横に間隔をおいて形成された複数の微小孔6cを有し、さらに微小孔6cの周囲は遮光領域6dとなっている。
【0051】
制御部20は第1電圧源11を制御することにより、行方向(縦方法)に並ぶ微小孔6cに沿って二次電子を往復させる信号電圧を第1電圧源11から出力させる。また、制御部20は第4電圧源22を制御することにより、第1電圧源11による二次電子の走査方向を変えるタイミングで、行方向に直交する列方向(横方向)に隣接する微小孔6cに二次電子照射位置を変更する信号電圧を第4電圧源22から出力させる。
【0052】
以上の表面分析装置1において、磁性体である試料Wに向けて電子銃1から一次イオンを照射すると、試料Wの表面から二次電子が叩き出される、この場合、二次電子のスピン状態は試料W表面のスピン状態を保持する。
試料W表面から出たパルス二次電子は、収集ユニット3により引き出されパルスゲートユニット4に導かれる。
【0053】
パルスゲートユニット4内では、第1電圧源11を制御部20により制御することにより、二次電子をチョッピングアパーチャ6の行方向に連続して往復走査させる波形を第1対の走査偏向電極5a、5bに印加する。また、第4電圧源22を制御部20により制御することにより、二次電子の照射位置が列方向の微小孔6c内を順にステップ状に移動する波形を第2対の走査偏向電極5c、5dに印加する。
【0054】
これにより、二次元電子はチョッピングアパーチャ6の微小孔6cと遮光領域6dを逐次移動することになるので、チョッピングアパーチャ6の縦横の微小孔6cを通過した二次電子はパルス状になって加速ユニット7へ向かう一方、遮蔽領域6dに照射された二次電子はチョッピングアパーチャ6に吸収される。
さらに、加速ユニット7により加速されたパルス二次電子は、ターゲット8表面の微小領域を二次元的に異なる位置に照射されて所定散乱角内で散乱することになる。
【0055】
ターゲット8から散乱したパルス二次電子は、第1〜第4の第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dに入射する。また、パルス二次電子は、パルスゲートユニット4内の二対の走査偏向電極5a、5b、5c、5dにより走査されているので、微小領域の二次元的に異なる位置で散乱したパルス二次電子は広がり、点から散乱する場合に比べて、空間的な散乱密度が低くなる。
【0056】
これにより微小面で散乱したパルス二次電子は、第1〜第4の多チャンネル電子検出器9a〜9dを構成する複数のチャンネル型二次電子増倍管10aのそれぞれの前端の広い範囲に入射する。そして、複数のチャンネル型二次電子増倍管10aの内壁で衝突を繰り返して増幅されて後端からコレクタ10bに放出される。チャンネル型二次電子増倍管10aのそれぞれから出射された二次電子はコレクタ10bを介してプリアンプ16に流れる。
【0057】
各プリアンプ16に流入した二次電子の電流は、増幅されてディスクリミネータ17に流入し、さらにカウンタ18に送信される。そして、各カウンタ18では、複数のディスクリミネータ17からの電流パルスの個数を計数する。
【0058】
この場合、ターゲット8には一点に向けて加速ユニット7から二次電子の塊が照射されるのではなく、二次元、即ち面に広がって照射されるので、多チャンネル電子検出器9a〜9dの複数のチャンネル型二次電子増倍管10aに低散乱密度で広く分散して二次電子が照射されることになる。しかも、パルス二次電子は照射順に時間的にずれて複数のチャンネル型二次電子増倍管10aに入射するので、複数のディスクリミネータ17からカウンタ18に同時にパルスが入力することが回避され、カウントミスが防止される。
【0059】
従って、二次電子の個数の増減に応じた数のパルス電流の生成が可能になるので、二次電子の数のカウントロスを低減して高い精度で計数することができ、試料Wの表面の磁化情報を高精度で検出することが可能になる。
その後に、カウンタ18を含む第1〜第4の信号処理部15a〜15dによるパルス二次電子の計数結果に基づき、演算処理部19がスピン偏極率Py、Px、Pθ等を演算する。そして、その演算結果に基づく磁気情報が例えば表示部21に表示される。
【0060】
なお、本実施形態において、試料Wに一次電子を照射するための電子銃2から出射される一次電子の制御は、第2実施形態と同様に、制御部20の制御によりパルス状に出射されるように制御してもよい。この場合、パルスゲートユニット4内では、上記と同様に2対の走査偏向電極5a〜5dを有するが、チョッピングアパーチャ6は不要となる。
【0061】
ここで挙げた全ての例および条件的表現は、発明者が技術促進に貢献した発明および概念を読者が理解するのを助けるためのものであり、ここで具体的に挙げたそのような例および条件に限定することなく解釈すべきであり、また、明細書におけるそのような例の編成は本発明の優劣を示すこととは関係ない。本発明の実施形態を詳細に説明したが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、それに対して種々の変更、置換および変形を施すことができると理解すべきである。
【符号の説明】
【0062】
1 表面分析装置
2 電子銃
3 収集ユニット
4 パルスゲートユニット
5a、5b 走査偏向電極
6 ブランキングアパーチャ
7 加速ユニット
8 ターゲット
9a〜9d 多チャンネル電子検出器
10a チャンネル型二次電子増倍管
10b コレクタ
11、12、13、22 電圧源
15a〜15d 信号処理部
16 プリアンプ
17 ディスクリミネータ
18 カウンタ
19 演算処理部
20 制御部
21 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料から放出される二次電子を収集する収集ユニットと、
前記収集ユニットを通った前記二次電子の入射方向に対して横方向に走査する走査偏向器を通してパルス化された前記二次電子を放出するパルスゲートユニットと、
前記パルスゲートユニットから出る前記二次電子を加速させる加速ユニットと、
前記加速ユニットから出た前記二次電子を照射するターゲットと、
前記ターゲットの周囲に配置される電子スピン検出器と、
前記電子スピン検出器から出る前記二次電子を受けるコレクタと、
を有することを特徴とする電子スピン分析器。
【請求項2】
前記パルスゲートユニットは、前記走査偏向器により走査される前記二次電子を通過させる複数の微小孔を有するチョッピングアパーチャを有することを特徴とする請求項1に記載の電子スピン分析器。
【請求項3】
パルス化された一次電子を前記試料に照射するパルス一次電子供給部を有することを特徴とする請求項1に記載の電子スピン分析器。
【請求項4】
前記電子スピン分析器は、前記ターゲットにより散乱する前記二次電子を空間的に異なる位置で入射する複数の二次電子増倍領域を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の電子スピン分析器。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の電子スピン分析器と、
前記コレクタから流れるパルス電流を増幅するアンプと、
前記アンプの出力端に接続されるディスクリミネータと、
前記ディスクリミネータから流れるパルスを計数するカウンタと、
前記カウンタにより計数された前記パルスの数に基づいて前記試料の表面特性を演算する演算処理部と、
を有することを特徴とする表面観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−59057(P2011−59057A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−211792(P2009−211792)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】