説明

電子放出源、電子放出源用ペーストおよび電子放出源用ペーストの製造方法

【課題】 電子放出に要する駆動電圧を低くできる電子放出源用ペーストとそれを用いた電子放出源の製造方法と電子放出源を提供する。
【解決手段】 上記課題は、束の直径が50nm以上かつ束の長さが3μm以上のカーボンナノチューブ束状集合体を含有することを特徴とする電子放出源用ペーストと、それを用いた電子放出源の製造方法と電子放出源によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低電圧で電子放出する電界放出型の電子放出源、その製造に用いられるペースト及び当該ペーストの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極基板上に塗布する電子放出源用ペーストとしては、例えば、カーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、溶媒とを含むものが知られている(特許文献1)。例えば、カーボンナノチューブ3%、バインダーとしてエチルセルロース25%、ベヒクルとしてガラスパウダー5%、溶媒としてテルピネオール67%よりなるものが用いられ、これを基板に20ミクロンの厚さでスクリーン印刷し、400℃で焼成後、粘着テープによる引き剥がしを行っている。この方法で得られた、電極基板上に固着されたカーボンナノチューブのSEM像を図3のA、Bに示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−56818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着テープによりペースト膜の表面を起毛させた膜表面の状態をミクロ的に観察すると、カーボンナノチューブが1本もしくは数本の束(束の径は10nm〜50nm程度)で起毛しており、その起毛高さ(基盤から起毛したカーボンナノチューブの先端までの距離)は1μm〜6μmである。カーボンナノチューブがこの様な状態で起毛している電子放出源から電子を電界放出させるためには高い電界を負荷する必要があり、電源や駆動回路の大型化・高コスト化をきたしていた。また、カーボンナノチューブは、大きな電流が流れると徐々に劣化し、放出電流が低下した。このように、カーボンナノチューブの起毛が、細く、短い状態では、電子放出源として耐久性が悪く、また、電界集中度が低いため、高い駆動電圧が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するべくなされたものであり、カーボンナノチューブを分散用有機溶媒で分散させ、その分散用有機溶媒と、ガラスフリットと、バインダー樹脂とペースト用溶媒を、分散用有機溶媒を蒸発させながら混練してペーストを製造すると、カーボンナノチューブが同一方向に束のように集まった集合体がペースト内に数多く分散することを見出した。この様にして製造されたペーストを基板上に印刷・焼成した膜を粘着テープ等で引き剥がすと、束状で起毛したカーボンナノチューブ集合体が膜表面に数多く出現し、低い電界でも多くの電子が放出され、電子放出源の電子放出効率が高くなることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、束の直径が50nm以上かつ束の長さが3μm以上のカーボンナノチューブ束状集合体を含有することを特徴とする電子放出源用ペーストと分散用有機溶媒にカーボンナノチューブを分散させる分散工程、前記分散工程で得られたカーボンナノチューブ分散液と、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、前記分散用有機溶媒よりも沸点が高いペースト用溶媒を、前記分散用有機溶媒を蒸発させながら混練する混練工程とを備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法と、それによって行われた束の直径が50nm以上かつ束の長さが3μm以上のカーボンナノチューブ束状集合体が、基盤の表面に固着していることを特徴とする電子放出源を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、カーボンナノチューブが数多く束状になったカーボンナノチューブ束状集合体をペースト膜上に出現させることによって、電界集中度が高まり、低い電界強度でも電子放出が可能となる。そのため、従来法に比べ電子放出に要する駆動電圧が低くでき、省エネ効果が高くなる。また、カーボンナノチューブ束状集合体は数多くのカーボンナノチューブからなるため、電流密度もしくはカーボンナノチューブ1本当りの電流値が低下する。その結果、カーボンナノチューブが劣化しにくくなり、電子放出源の耐久性が向上する。本発明による電子放出源を例えば電子を蛍光物質に当て光らせる発光デバイスなどに使用すれば、省電力で、長寿命が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は本発明のペーストと従来ペーストを用いて作製した電子放出源の電子放出特性を示すグラフである。
【図2】本発明のペーストを用いて作製した印刷膜の起毛後の状態を示すSEM像である。
【図3】従来ペーストを用いて作製した印刷膜の起毛後の状態を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電子放出源用ペーストは、カーボンナノチューブと、ガラスフリットと、バインダー樹脂とペースト用溶媒とを含むものであり、ペースト製造時にカーボンナノチューブを分散用有機溶媒で分散させた状態で、ガラスフリットと、バインダー樹脂とペースト用溶媒を加え、分散用有機溶媒を蒸発させながら混練してペーストを製造するところに特徴がある。
【0010】
分散用に用いる分散用有機溶媒は、アセトンやメチルエチルケトン等のケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類、エチルエーテル等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系など、カーボンナノチューブに不活性な一般の分散用有機溶媒を広く利用できる。また、分散用有機溶媒はガラスフリットなどとの混合時に蒸発(揮発)させる必要があるので、沸点が低いことが望ましい。特にペースト製造において水が用いられる場合、水よりも低い温度で蒸発させるため、沸点が100℃未満、特に80℃以下であることが望ましい。カーボンナノチューブに対する分散用有機溶媒の使用量は、カーボンナノチューブの分散状態を維持できるように定められ、カーボンナノチューブの重量に対して100〜5000倍程度、特に300〜1000倍程度が適当である。
【0011】
ペーストを製造する際には、まず、カーボンナノチューブを分散用有機溶媒に分散させる。分散方法は、公知の分散方法で分散させればよく、例えば超音波を利用することができる。その後、ガラスフリットと、バインダー樹脂とペースト用溶媒を加え、分散用有機溶媒を蒸発させながら混練する。
【0012】
混練の条件は、0〜50℃程度、通常10〜30℃程度で分散用有機溶媒が蒸発し、所定のペースト粘度が得られるまで行えばよい。ペーストの粘度は、2〜500Pa・s程度、通常20〜200Pa・s程度になるまで混練を行えばよい。
【0013】
ガラスフリットは、ベヒクルとして使用されるものであり、ガラスパウダーなどを用いることができる。
【0014】
バインダー樹脂は、例えば、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチルセルロースなどのセルロース系樹脂などが使用可能である。
【0015】
また、ペースト用溶媒は、テルピオネール、ブチルカルビトールアセテート、テキサノールなどの有機溶媒が使用可能である。ペースト用溶媒の沸点は分散用有機溶媒の沸点よりも高いことが必要である。
【0016】
配合比としては、カーボンナノチューブが1〜5重量%程度、バインダー樹脂が10〜30重量%程度、ガラスフリット(ベヒクル)が1〜10重量%程度、そして溶媒は40〜80重量%程度が適当である。
【0017】
ペーストは、例えば、次に示す手順で作成される。
(1) カーボンナノチューブを分散用有機溶媒で分散させる。
(2) そのカーボンナノチューブ分散溶媒にガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒を混ぜる。
(3) (1)と(2)を経たカーボンナノチューブ分散溶媒と、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、ペースト用溶媒を乳鉢で混ぜ合わせながら分散用有機溶媒を蒸発させる。
【0018】
上述の工程に基づきペーストを製造すると、カーボンナノチューブの少なくとも一部は、ガラスフリット等との混合中に束状に集合する。すなわち、カーボンナノチューブが束状に集合したカーボンナノチューブ束状集合体を含有するペーストができる。カーボンナノチューブ束状集合体は、カーボンナノチューブが数〜数1000本程度、大部分は10〜500本程度の束であり、束の直径では、50nm以上、通常50〜3000nm程度、多くは100〜1000nm程度である。また、束の長さは3μm以上、通常5〜20μm程度である。
【0019】
このペーストは、表面にITO(錫ドープ酸化インジウム)皮膜を有するガラス基板などに塗布してペースト膜を形成する。ペースト膜の厚みは、乾燥厚みで1〜10μm程度でよく、例えば、スクリーン印刷等で膜を形成できる。
【0020】
ペースト膜を形成したら、次いで焼成する。焼成とは、ペースト中の有機成分を炭化させると共に、基板との密着性を強固にするために行う。焼成は大気中で、温度は400〜500℃程度で10〜30分程度行なえばよい。焼成後は、そのまま粘着テープの貼り付けと引き剥がしを行い、カーボンナノチューブを起毛させる。
【0021】
このように得られた電子放出源は、カーボンナノチューブが束状に集合して基盤の表面に固着しており、束の直径は50nm以上、通常50〜3000nm程度、多くは100〜1000nm程度であり、束の長さは3μm以上、通常5〜20μm程度である。
【実施例1】
【0022】
(1) カーボンナノチューブ0.1gを、分散用有機溶媒であるアセトン50ccとメタノール1ccの混合液に入れて、10分間超音波分散させた。
(2) 一方、テルピネオール(ペースト用溶媒)6gにバインダー樹脂2gを入れて、10分間80℃で恒温槽溶解した。
(3) (1)と(2)とガラスフリット0.6gを自動乳鉢に入れ、1時間混練しながら分散用有機溶媒を蒸発させた。
この様にして得られたペーストを、ITO膜を有するガラス基板上に約20μmの厚さにスクリーン印刷した。これを100℃のホットプレートの上に約10分間置き、ペースト用溶媒を蒸発させてペーストを乾燥させた後、大気中450℃で10分間焼成した。
【0023】
焼成後は、粘着テープを軽く押し付けて貼り付け、次いで粘着テープを引き剥がしてカーボンナノチューブ電子放出源を得た。
【0024】
得られたカーボンナノチューブ電子放出源のSEM像を撮影し、図2のA、Bに示す像を得た。同図に示すように、カーボンナノチューブ(CNT)が多数束状になった部分があることがわかる。このCNT電子放出源で電流密度1mA/cmの放出電流が得られる平均電界値は図1に示すように、1.6V/μmであった。尚、図1および図3において従来法とあるのは、分散用有機溶媒を用いなかったほかは同様に処理して得られたものである。また、表1に本発明のペーストと従来ペーストを用いて作製した印刷膜の耐久性試験の結果を示す。
【0025】
【表1】

これは、放出電流密度1mA/cm一定とした時の印加電界強度の増加率を示している。本発明のペーストによる膜は従来ペーストに比べ、劣化の速度が1/15である。つまり、従来法に比べ、15倍の耐久性を有することが分かる。
【0026】
カーボンナノチューブの束状集合体が得られる理由は、カーボンナノチューブは、高沸点を有するペースト用有機溶媒への分散性より低沸点の分散用有機溶媒への分散性のほうが大きいので、両者が存在する間は分散用有機溶媒中のカーボンナノチューブ濃度が高くなる。分散用有機溶媒が蒸発していく過程で、分散用有機溶媒中のカーボンナノチューブ濃度は徐々により高くなり、混練工程によって引き伸ばされるので、カーボンナノチューブの方向性が揃っていく。よって、最終的にカーボンナノチューブが同一方向に束状になったカーボンナノチューブの束状集合体が数多くペースト内に形成される。
【0027】
なお、実施例においてはアセトンとメタノールの分散用溶媒として混合溶媒を用いたが、これに限定するものではない。また、これらの分散用溶媒に親和性のある水などの液体を加えても良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のペーストを使用して得られるカーボンナノチューブ電子放出源は、電子放出特性と耐久性にすぐれていることから、電界放出型電子放出素子として、種々の電気機器、電子装置に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
束の直径が50nm以上かつ束の長さが3μm以上のカーボンナノチューブ束状集合体を含有することを特徴とする電子放出源用ペースト。
【請求項2】
束の直径が50nm以上かつ束の長さが3μm以上のカーボンナノチューブ束状集合体が、基盤の表面に固着していることを特徴とする電子放出源。
【請求項3】
分散用有機溶媒にカーボンナノチューブを分散させる分散工程、
前記分散工程で得られたカーボンナノチューブ分散液と、ガラスフリットと、バインダー樹脂と、前記分散用有機溶媒よりも沸点が高いペースト用溶媒を、前記分散用有機溶媒を蒸発させながら混練する混練工程とを備えたことを特徴とする電子放出源用ペーストの製造方法。
【請求項4】
前記分散用有機溶媒は、ケトン類、アルコール類、エステル類、エーテル類または芳香族炭化水素から選択される1種類以上の液体からなることを特徴とする請求項3に記載の電子放出源用ペーストの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−210591(P2011−210591A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78072(P2010−78072)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】