説明

電子放出素子、ディスプレイパネルおよび映像表示装置

【課題】 簡易な構成でアノードへの電子の到達効率の高い電子放出素子を提供する。
【解決手段】 基板1上に積層された絶縁部材3とゲート5を備え、絶縁部材3の側面にカソード6を配置し、カソード6は絶縁部材3の角部32に沿って設けられた複数の突出部16を有し、ゲート5がカソード側に向かって伸びる複数の突出部15を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイなどに用いられる電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
対向する一対の導電性膜のうち一方の導電性膜から電界放出された電子の多数が他方の導電性膜に衝突、散乱した後に、アノードに到達する電界放出型の電子放出素子が知られている。特許文献1には、一対の導電性膜の間に絶縁層が配置され、その絶縁層の表面に凹部を備える電子放出素子が開示されている。また、特許文献2には、導電性膜の表面に凹凸が設けられた電子放出素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−167693号公報
【特許文献2】特開2006−185820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電界放出型の電子放出素子には、電子放出効率ηのより一層の向上が望まれている。電子放出効率ηは、電子放出素子に電圧を印加したときに検出される電流Ifと真空中に取り出される電流Ieを用いて、一般にはη=Ie/(If+Ie)で与えられる。本発明は、電子放出効率ηの向上した電界放出型の電子放出素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の電子放出素子は、上面と該上面に接続する側面とを備える、絶縁部材と、
前記絶縁部材の前記上面の一部から前記絶縁部材の前記側面に渡って延在し、前記上面と前記側面との境界部に沿って並んだ複数の突出部を備える、カソードと、
前記絶縁部材の前記上面の前記一部とは異なる一部に接続された基部と、各々が該基部から前記カソードに近づくように突出すると共に前記カソードの前記複数の突出部との間に空隙を形成している複数の突出部と、を備えるゲートと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電子放出効率ηの向上した電子放出素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】電子放出素子の一例を模式的に示す図である。
【図2】電子放出素子の一例を模式的に示す斜視図である。
【図3】電子放出特性を測定する系を模式的に示す図である。
【図4】放出電子の軌跡を示す模式図である。
【図5】ゲートの突出部15と電子放出効率の関係を示すグラフである。
【図6】電子放出素子の製造工程の一例を示す模式図である。
【図7】カソードの形成過程およびカソードの構成の一例を示す模式図である。
【図8】電子放出素子の変形例を模式的に示す図である。
【図9】変形例の電子放出素子の製造工程を示す断面模式図である。
【図10】ゲートの突出部と電子放出効率の関係を示すグラフである。
【図11】ディスプレイパネルとテレビジョン装置の構成を模式的に示す図である。
【図12】放出電流とその時間変動量を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に図面を参照して、本実施形態の電界放出型の電子放出素子を例示的に詳しく説明する。但し、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0009】
図1(A)〜図1(D)、図2、図3(b)を用いて本実施形態の電子放出素子の一例について説明する。また、図8を用いて本実施形態の電子放出素子の変形例について説明する。
【0010】
図1(A)は電子放出素子の平面模式図であり、図1(B)は図1(A)のA−A’断面図、図1(C)は図1(A)のB−B’断面図、図1(D)は図1(B)において本実施形態の電子放出素子を紙面右側から見た側面図である。図2は、図1(A)〜図1(D)に示した電子放出素子の一部を強調して模式的に示した斜視図である。尚、図2では、説明を簡略化するために、詳しくは後述するゲート5の突出部15の数とカソードの突出部16の数を2個とした。図3(b)は、図1(b)における一部の拡大模式図である。
【0011】
まず、本実施形態の電子放出素子の全体的な構成について説明する。
【0012】
電子放出素子は、基板1の表面に積層された絶縁部材3と、基板1との間に絶縁部材3を挟むように、絶縁部材3の上面に設けられたゲート5を備えている。更に、絶縁部材3の側面に設けられたカソード6を備えており、カソード6は、その一部が絶縁部材3の上面の一部にまで延在し、複数の突出部16を有している。複数の突出部16は絶縁部材3の側面と上面との接続部である角部32に沿って並んで設けられている。この複数の突出部16の各々が電子放出部に相当する。また、ゲート5も複数の突出部15を備えており、ゲート5の突出部15とカソード6の突出部16との間には空隙8が形成されている。そして、カソード6とゲート5との間に、ゲート5の電位がカソード6の電位よりも高くなるように電圧を印加することで、カソード6の複数の突出部16の各々から電子が電界放出される。
【0013】
カソード6に複数の突出部16を設けることで、突出部16を設けない形態に比較して電子放出部の位置を規定することができることに加え、突出部16を設けない形態に比較してより低い電圧で電子を放出することができる。また、ゲート5に突出部15を設けることで、突出部16から放出された電子の後述するアノードへの到達率(電子放出効率η)を、ゲートに突出部15を設けない形態に比較して大きくすることができる。また、カソード6に突出部16を設けることに加えてゲート5に突出部15を設けることで、カソード6にのみ突出部を設ける形態に比較して、一層、電子放出部の位置の規定を確実にすることができ、また、放出された電子の軌道の制御性が向上する。そのため、アノードに照射される電子の範囲(電子ビームのスポット径)を制御することができる。
【0014】
図1(A)〜図1(D)や図2では、図1(B)や図1(D)に示すように、ゲート5の突出部15とカソード6の突出部16とが、Z方向と平行な同一直線上に位置している(基板1の表面に対する垂線上に位置している)例を示した。即ち、カソード6の突出部16の直上にゲート5の突出部15を設けた例を示した。しかしながら、本発明では、ゲート5の突出部15とカソード6の突出部16との相対位置関係は、特に限定されるものではない。Z−Y平面(図1(D)の角度)で見ると、カソード6の突出部16の直上にゲート5の突出部15が位置するが、Z−X平面(図1(B)の断面)で見ると、カソード6の突出部16の直上にゲート5の突出部15が位置していない形態とすることもできる。即ち、図3(b)のように、カソード6の突出部16(特にその先端)よりもゲート5の側面5a又は先端が、第2絶縁層3bの近くに位置する形態とすることもできる。このようにすれば、カソードの突出部16の直上にゲートの突出部15が庇のように張り出している形態に比べて電子放出効率ηを向上することができる。
【0015】
また、詳しくは後述する図8に示す本実施形態の電子放出素子の変形例のように、ゲート5の複数の突出部15のうち、隣り合う2つの突出部の間に、カソード6の突出部16を設ける形態を採用することもできる。即ち、カソード6の突出部16の直上にゲート5の突出部15を設けずに、カソード6の突出部16の斜め上方にゲート5の突出部15を設ける形態を採用することができる。言い換えると、基板1の表面に垂直で且つ突出部16の先端を通る何れの断面を見ても、カソード6の突出部16の直上にはゲート5が存在しない形態とすることができる。この形態の場合には、図1(A)と同じように平面的に見ると、カソード6の突出部16がゲート5の隣り合う2つの突出部15の間に露出することになる。その結果、この形態の電子放出素子では、突出部16が後述するアノード11に対して露出する形態となる。そのため、この形態の電子放出素子は、後述するように、図1(A)〜図1(D)や図2などに示す形態の電子放出素子よりも電子放出効率ηを高くすることができる。
【0016】
次に、電子放出素子を構成する絶縁部材3について説明する。
【0017】
絶縁部材3は、ここで示す例では、第1絶縁層3aと第2絶縁層3bとの積層体で構成した態様を示している。しかし、絶縁部材3は、1つの絶縁層で構成することもでき、また、複数の絶縁層から構成することもできる。そして、図1に示す態様では、第1絶縁層3aの上面3eの一部の上に第2絶縁層3bが積層している。即ち、第2絶縁層3bの側面3dを第1絶縁層3aの側面3fよりもカソード6から離れるように設けている。このようにすることで、絶縁部材3の上面が凹部7を備えることができる。このため、絶縁部材3の上面は段差を備えることになる。
【0018】
絶縁部材3の上面は、ゲート5に対向する表面である。図1(B)に示す態様の場合には、第1絶縁層3aの上面3eの一部であって第2絶縁層3bで覆われていない部分と、第2絶縁層3bの上面(ゲート5と対向する面)3cと、第2絶縁層3bのカソード6側の側面3dと、で絶縁部材3の上面が構成される。第1絶縁層3aの上面3eと第2絶縁層3bの上面3cは、基板1の表面が平坦であれば、基板1の表面と平行になる。そのため、一般に、絶縁部材3の上面は、基板1の表面からの距離が異なる第1の面(第2絶縁層3bの上面)と第2の面(第1絶縁層3aの上面3eの一部であって第2絶縁層3bで覆われていない部分)とを備えることになる。言い換えると、上記第1の面と第2の面がゲート5の裏面5bからの距離が互いに異なることになる。
【0019】
絶縁部材3は、絶縁部材3の上面と接続する側面3fを備える。尚、絶縁部材3の上面と側面とは直角に接続する形態に限定されず、鈍角で接続する形態とすることができ、また、図3(b)のように、絶縁部材3の上面と側面とが接続する部分である角部32が、所定の曲率を有する形態とすることもできる。尚、絶縁部材3が、第1絶縁層3aと第2絶縁層3bとで構成される場合には、第1絶縁層3aの側面が絶縁部材3の側面に相当する。
【0020】
また、絶縁部材3の側面(第1絶縁層3aの側面3f)は、後述するゲート5の側面5aと相似な形状を備えることができる(図1(a)、図2参照)。即ち、絶縁部材3の側面は複数の突出部を備えることができる。このような複数の突出部を備える側面とすることで、後述する電子放出部となる複数の突出部16の間の沿面距離を大きくすることができる。そのため、隣り合う電子放出部の間での相互の影響を低減することができる。また、後述するように、このような複数の突出部を備える側面を絶縁部材3に設けた上で、指向性のあるスパッタ法を用いるなどして、絶縁部材3の側面にカソード6の材料を堆積させることで、絶縁部材3の側面の突出部により多くの材料を堆積させることができる。その結果、絶縁部材3の側面上のカソード6に、制御された膜厚分布を設けることができ、図7(b)に示すように、絶縁部材3の側面上において、カソード6に高抵抗部分6bと低抵抗部分6aとを交互に形成することができる。このようにすることで、カソード6の隣り合う2つの突出部16の間に抵抗体(高抵抗部6b)を設けることができ、電子放出部である突出部16同士の間での相互の影響を低減することができ、安定な電子放出特性を維持することができる。
【0021】
また、図1(B)や図1(C)では、絶縁部材3の側面(第1絶縁層3aの側面3f)は、基板1の表面に対してほぼ垂直とした態様を示している。しかしながら、絶縁部材3の側面は、基板1の表面に対して90°よりも小さな傾斜(例えば45°から80°の範囲)を備えた斜面とすることができる。
【0022】
次にカソード6について説明する。
【0023】
絶縁部材3の側面3fにはカソード6が設けられており、ここで示す例では、カソード6のゲート5側の端部とは反対側の端部がカソード電極2に電気的に接続されている。しかし、カソード6が十分に低抵抗であれば、カソード電極2を省略することもできる。また、カソード6の、絶縁部材3の側面3fに位置する部分の少なくとも一部に、電流制限のための所定の抵抗値を有する抵抗部を設けることもできる。この場合には、カソード電極2と各々の突出部16との間に抵抗が設けられる形態となる。
【0024】
カソード6は、絶縁部材3の上面の一部から絶縁部材3の側面3fに渡って延在している。図1(B)で示した形態では、カソード6は、さらに、基板1の表面にまで延在している。
【0025】
そして、カソード6は、絶縁部材3の上面と絶縁部材3の側面3fとの境界部である、角部32(図2、図3(b)参照)に沿って並んで設けられた複数の突出部16を備えている。突出部16は、図1(B)のように、Z−X平面において凸形状であると同時に、図1(D)に示すように、Z−Y平面においても凸形状である。複数の突出部16の各々は絶縁部材3の上面から離れるように、絶縁部材3の角部32から突出している。図3(a)を用いて後述する電子線放出装置においては、複数の突出部16の各々は絶縁部材3の角部32から後述するアノード11に向かって突出している。そのため、複数の突出部16の各々は、基板1に絶縁部材3が積層される方向に沿って、あるいは、基板1の表面に対して垂直な方向に沿って、突出していると言うこともできる。
【0026】
カソード6に突出部16を設けた場合、突出部16の周囲とゲート5との距離は、突出部16とゲート5との距離よりも広くなる。その結果、後述するように突出部16から放出された電子はゲート5で等方的に散乱するが、その散乱した電子のうち、突出部16の両脇に散乱した電子は、ゲート5との間隔が広い部分を抜けてアノードに到達することができる。従って、角部32に沿ってカソード6が平坦である場合と比べて、即ち、角部32に沿ってゲートとカソードとの間隔が一定の場合と比べて、電子放出効率ηを向上させることができる。
【0027】
カソード6のゲート5側の端部は、図1(B)、図3(b)などに示すように、絶縁部材3の上面(3e)の側面(3f)側の少なくとも一部を覆っている。そして、カソード6の端部を構成する複数の突出部16は、絶縁部材3の上面(3e)と絶縁部材3の側面(3f)との境界部である角部32(図2、図3(b)参照)に沿って並んでいる。そのため、カソード6の複数の突出部16の各々は、絶縁部材3の上面(3e)の側面(3f)側の一部を覆っていると言うことができる。或は、カソード6の突出部16の一部が絶縁部材3の凹部7内に入り込んでおり、且つ、絶縁部材3の上面に突出部16の一部が接続していると言うことができる。
【0028】
突出部16の先端部を拡大すると、図3(b)に示すように、その先端部は曲率半径rで代表される形状を有する。この曲率半径rに依存して、先端部の電界強度が変化する。rが小さいほど電気力線の集中が生じるため突出部16の先端に高い電界を形成することが可能となる。ゲート5とカソード6との最短距離d1は、後述する散乱回数の違いに影響するため、rが小さく、d1が大きいほど電子放出効率(η)を高くすることができる。尚、電子を放出させるのに必要な駆動電圧を抑える観点から、d1が10nmより大きいと駆動電圧が高くなってしまう。また、駆動時の安定性の観点から、d1が1nm以上となることが好ましい。1nmより小さいと、電界蒸発や放電、短絡などによりカソード突出部16が駆動時に破壊される可能性がある為である。そのため、実用的には、d1は1nm以上10nm以下であることが好ましい。
【0029】
突出部16は、前述したように、絶縁部材3の上面(3e)の一部を覆っている。即ち、カソード6は、絶縁部材3の側面(3f)から、絶縁部材3の上面(3e)の一部にまで渡って設けられている。このような形態は、カソード6の形成方法に依存し、EB蒸着等においては蒸着時の角度、時間だけでなくゲート5の厚みや第2絶縁層3bに相当する部分の厚みなどがパラメータとなる。また一般的なスパッタ法では一般に回り込みが大きいため形状制御が難しい。このため指向性のあるスパッタ法など特殊な方法を採用することが必要である。
【0030】
突出部16が、絶縁部材3の上面の一部を覆っていることで、以下の4つのメリットが考えられる。1つ目のメリットは、電子放出部となる突出部16が絶縁部材3に広い面積を持って接触するので、機械的な密着力があがる(密着強度が上昇する)ことである。2つ目のメリットは、電子放出部となる突出部16と絶縁部材3との熱的な接触面積が広がり、電子放出部で発生する熱を効率よく絶縁層3に逃がすことが可能となる(熱抵抗が低減する)ことである。3つ目のメリットは、緩やかな傾斜を伴って絶縁部材3の上面と接触することで、絶縁体と真空と金属との境界で生じる三重点での電界強度を弱め、異常な電界が発生して放電現象が発生する可能性を抑制できることである。4つ目のメリットは、突出部16の第2絶縁層3b側の表面を、ゲート5の裏面5bに対する法線に対して傾斜させた形状とする事で、電子放出効率が増大することである。
【0031】
ここで、突出部16が絶縁部材3の側面(3f)だけでなく絶縁部材3の上面の一部を覆っているメリットについてさらに詳細に説明する。
【0032】
図12(a)は、カソード6のゲート5側の端部(突出部16)の、絶縁部材3の側面(3f)から絶縁部材3の凹部7内への侵入する長さxを変化させた際の初期のIeとその時間変動量を示したものである。尚、侵入する長さxは、図3(b)におけるxに相当し、絶縁部材3の上面と接続している突出部16の長さとみなすことができる。また、Ieとは、放出電子量を意味し、後述の図3(a)におけるアノード11に到達する電子の量に相当する。電子放出素子の駆動を開始して最初の10秒間の間に検出された平均的な電子放出量Ieを初期値として規格化し、電子放出量の変化を時間の常用対数としてプロットしたものである。
【0033】
明らかな傾向として、xの値が少なくなるにつれて、電子放出量の初期低下量が大きくなる傾向があった。
【0034】
図12(b)はいくつかの電子放出素子において、図12(a)と同様な計測を行い、xの値に対し、初期電子放出量を100として規格化を行い、計測後1時間経過した時の電子放出量をプロットしたものである。この図から明らかなように、xの値が少ないほど初期低下量が多かった。しかし、xの値が20nmを越えるとxの値に対する依存性が小さくなる傾向が見られた。
【0035】
これらの結果から推察すると、xの値が増加することで、絶縁部材3に広い面積で突出部16が接触するため、熱抵抗が低減することが考えられる。更には、突出部16の体積増加による熱容量の増大などの作用も働いて、突出部16の先端の温度が低下することで初期変動が小さくなるのではないかと推察される。
【0036】
尚、xの値は大きいほど良いという訳ではない。実用的にはxの値は10nm以上30nm以下に設定される。カソード6の材料の蒸着時の角度、第2絶縁層3bの厚さ、ゲート5の厚さを制御して、xの値を制御することができる。xの値を30nmよりも大きくすると、絶縁部材3の上面を介して、カソード6とゲート5との間のリークが発生し、リーク電流が増大する。
【0037】
カソード6の突出部16の先端は、可能な限りゲート5から離す(距離d1を大きくする)ことが望ましい。このようにすることで、ゲート5における電子の散乱を減らし、結果、電子放出効率ηを向上させることができる。
【0038】
また、図3(b)に示すように、カソード6の突出部16の先端とゲート5の側面5bとの間に、オフセット量Dxを設けることが望ましい。言い換えると、カソード6の突出部(特にその先端)よりもゲート5の側面5aが、第2絶縁層3bの近くに位置するように、ゲート5を配置することが望ましい。これは、電子放出効率ηを向上するため、および、電子放出を安定にするためである。突出部16の先端の真上にゲート5が存在しないことで、突出部16の先端から電界放出された電子がゲート5の裏面5bに衝突する可能性を低減することができる。その結果、電子放出効率ηが向上することができるのと同時に、ゲート5に流れる無効な電流が低減されるためにゲートの熱的な変形などが抑制されて安定な電子放出を実現することができる。
【0039】
次に、三重点について述べる。一般に真空、絶縁体、金属の様に誘電率が異なる三種類の材料が接する場所は三重点と呼ばれ、三重点における電界強度が周囲よりも極端に高くなることで放電等の要因になる場合がある。そのため、突出部16と絶縁部材3の上面とが接する角度θが90度よりも大きければ周囲の電界と大差がない。しかし、例えば、カソード6が、何らかの機械的強度不足により、絶縁部材3の上面から剥がれ、絶縁部材3の上面とカソード6との間に隙間が生じてしまった場合は、角度θが90度以下となる。この結果、カソード6の剥がれた部分に強大な電界が形成され、この部分から電子放出が生じる、あるいは、この電子放出が引き金となった沿面放電により電子放出素子の破壊が生じる場合がある。従って、カソード6の突出部16と絶縁部材3の上面とが接する角度θの望ましい角度は90度よりも大きい角度である。
【0040】
前述したように、電子放出特性の安定化、特に放出電流の安定化のためには、カソード6の複数の突出部16同士が、互いに影響を及ぼすことを低減することが望ましい。そこで、図7(b)に示すように、カソード6の一部であって、複数の突出部16の各々の間に位置する部分(6b)を、カソード電極2から突出部16に向かう電子の流れに沿って、その他の部分(6a)よりも高抵抗とする態様が望ましい。より詳細には、各突出部16とカソード電極との間の抵抗値よりも、複数の突出部16の隣り合う2つの突出部の間の抵抗値を大きくする態様が望ましい。このようにすることで、カソード6の複数の突出部16同士の相互の影響を低減することができる。
【0041】
上記態様に加えて、図7(b)における6aで示された部分の全てまたは一部に抵抗体を設けた態様とすることがより望ましい。このようにすれば、各電子放出部(突出部16)毎に個別に抵抗を備えさせることができ、各電子放出部からの放出電流の時間変動が抑制できるので好ましい。尚、この態様の場合にも、各突出部16とカソード電極との間の抵抗値よりも、複数の突出部16の隣り合う2つの突出部の間の抵抗値を大きくする。
【0042】
また、絶縁層3の側面が平坦である場合には、図7(b)における6aで示された部分を6bで示された部分よりも膜厚を厚くすることが望ましい。このようにすることで、6aで示された部分の膜厚と6bで示された部分の膜厚を等しくした場合に比べ、電子放出部となる複数の突出部16の間の沿面距離を大きくすることができる。また、同時に、6bで示された部分を6aで示された部分よりも高抵抗にすることができるので、前述したように、複数の突出部16同士が、互いに影響を及ぼすことを低減することができる。
【0043】
尚、本実施形態の電子放出素子においては、図7(b)において6aで示された複数の突出部16の各々とカソード電極2とを接続するために必須の部分以外に、6bで示された部分をカソード6が備えている。6bで示した部分は、絶縁部材3の側面3fの一部であって、複数の突出部16の各々の間に位置する部分が、真空中に露出して当該部分が帯電することを抑制する役割を持つ。6bで示された部分をカソード6が備えていない場合には、突出部16から放出されてゲート5で等方的に散乱した電子の一部が、絶縁部材3の側面3fの一部であって複数の突出部16の各々の間に位置する部分を帯電させる。その結果、電子の放出が不安定になったり、放出された電子の軌道が経時的に変動したりする。そのため、カソード6は、図7(b)に6aで示された、複数の突出部16の各々とカソード電極2とを接続するために必須の部分以外にも、6bで示された、複数の突出部16の各々の間に位置する絶縁部材3bの表面に位置する部分を備えている。また、絶縁部材3bの側面3fだけでなく、図1(C)や図2に示すように、本実施形態の電子放出素子は、絶縁部材3の角部32の一部であって、隣り合う2つの突出部16の間に位置する部分をも、カソード6の一部が覆っている。このように複数の突出部16の間にカソード6の一部分を配置することで、複数の突出部16の各々の間に絶縁部材3の表面の帯電を抑制でき、電子放出を安定にすることができる。
【0044】
また、図7(b)の6bで示した部分だけでなく、図7(a)において、単に、突出部16を含めて、導電性膜6を高抵抗にするだけでも、放出電流の安定化に寄与する。そのためには、カソード6を高抵抗化する工程(例えばカソード6を酸化する酸化工程)を行えば良い。
【0045】
次にゲート5について説明する。
【0046】
ゲート5は、絶縁部材3の上面の、カソード6で覆われていない部分に接続しており、絶縁部材3によって支持されている。ゲート5は、基部50と、カソード6(特にはカソード6の突出部16)に近づくように基部50から突出した複数の突出部15と、を備えている。1つのゲートの突出部15に対して1つのカソードの突出部16が設けられている(ゲートの突出部とカソードの突出部が1対1に対応して設けられている)ことが望ましい。その場合、ゲートの突出部15の数をnとすると、カソードの突出部16の数はnとなる。
【0047】
複数の突出部15の各々は、基部50から実質的に同じ方向に突出している。尚、一般に、基板1の表面が平坦であれば、ゲートの突出部15は基板1の表面に対して平行(実質的に平行)に突出する。そして、ゲートの突出部15の突出方向とカソード6の突出部16の突出方向は、互いに交差する関係にある。即ち、図1(B)においては、ゲートの突出部15の突出方向とカソード6の突出部16の突出方向とが直交する(90°で交わる)。そして、ゲートの突出部15の突出方向とカソード6の突出部16の突出方向は90°以下で交差することが好ましい。
【0048】
尚、基部50と突出部15は、理解を容易にするために用いた概念であり、基部50と突出部15を一体の部材とする形態、即ち、基部50と突出部15との明確な境界が存在しない形態とすることもできる。
【0049】
基部50は、絶縁部材3の上面の一部に接続している(絶縁部材3の上面に載置されている)。図1のように、絶縁部材3が、第1絶縁層3aと第2絶縁層3bとで構成される場合には、基部50は、第2絶縁層の上面3cに接続している。この結果、ゲート5は第2絶縁層3bに支持される。尚、基部50は、図1(B)、図1(C)などに示すように、その底面の一部が絶縁部材3の上面と接続しない形態とすることができる。即ち、基部50の一部(カソード6側の端部)が絶縁部材3の上面との間に空隙を形成している形態とすることができる。しかし、逆に、基部50の底面の全てが、絶縁部材3の上面の一部と接続する形態とすることもできる。
【0050】
ゲート5の複数の突出部15の各々は、少なくともその先端がカソード6との間に空隙8を形成するように、基部50から突出している。従って、ゲート5は、図1(A)に示すように、平面形状(基板1の表面と平行な平面内)において櫛歯状となる。尚、ゲート5の底面5bに対するゲート5の側面5aの角度は、図3(b)では90°である場合を示したが、電子放出効率ηを向上するためには、90°より小さく設定することが望ましい。また、空隙8における最短距離は前述した最短距離d1に相当する。また、ここでは、電子放出素子を上から見た際(図1(A)の方向から見た際)に、ゲート5の突出部15の外周(側面5a)が矩形波のような、直線同士が直角に繋がった形状である場合を示した。しかしながら、本実施形態の電子放出素子はこのような形態に限定されるものではない。例えば、サイン波のような、円弧が連続した形態の外周(側面5a)とすることもできるし、三角波のような、直線同士が鋭角に繋がった形態の外周(側面5a)とすることもできる。また、例えば、突出部15の側面5aは円弧(曲率を有する)形状であるが、突出部同士の間に位置する部分は直線形状であるような組み合わせの形態とすることもできる。尚、カソード6の突出部16との位置合わせの観点からは、少なくとも、ゲート5の突出部15の側面5a(特に突出部15の、基部50からの距離から最も離れた、先端に位置する部分の側面5a)は円弧(曲率を有する)形状であることが望ましい。
【0051】
次に、ゲート5の突出部15の作用について説明する。
【0052】
図4(a)ではゲートに突出部15を設けない形態(ゲート5の側面5aが平らな形態)を示し、図4(b)ではゲートに突出部15を設けた形態(ゲートの側面5aに凹凸を備える形態)を示している。それぞれの図では、説明の簡略化のため、電子放出素子の一部のみを模式的に示している。
【0053】
図4(a)に示す様に、ゲート5に突出部15を設けず、ゲート5のカソード6との対向領域においてカソード6よりもゲート5が広い場合、カソード6の突出部16から放出された電子は散乱する。具体的には、図中の破線で示されるように、カソード6の突出部16から放出された電子が、ゲート5の底面5bまたは側面5aで等方的に散乱する。そして、散乱した電子の一部は再びゲート5に衝突して散乱を繰り返すことになる。
【0054】
一方、図4(b)に示すように、ゲート5のカソード突出部16に対向する領域に突出部15を設ける(ゲート5のカソード突出部16に対向する領域の両側を後退させる)ことで、図4(a)の構成に比べて、ゲート5での電子の衝突を減らすことができる。その結果、ゲートでの電子の散乱を少なくすることができる。そのため、図4(b)の構成ではアノード11に到達する電子が増え、効率ηを向上させることができる。
【0055】
次に、電子放出素子の電子放出特性の評価方法と、カソード6から放出された電子のアノードへの到達効率、即ち、電子放出効率(η)について説明する。電子放出効率ηは、電子放出素子に電圧を印加したときに検出される電流Ifと真空中に取り出される電流(アノードへ到達する電流)Ieを用いて、η=Ie/(If+Ie)で与えられる。
電子放出素子の電子放出特性の測定は図3(a)に示す構成で行うことができる。図3において、Vfはゲート5とカソード6の間に印加する電圧であり、IfはVfをゲート5とカソード6の間に印加した際にゲート5とカソード6の間に流れる素子電流である。また、Vaはカソード6とアノード11の間に印加される電圧であり、Ieは電子放出電流である。尚、ここでは、Vaをカソード6とアノード11の間に印加する例を示したが、アノード11に電位を印加する電源と、カソード6に電位を印加する電源とを別々に設けても良い。図3(a)に示すように、電子放出素子が設けられた基板1の上方に、ゲート5およびカソード6よりも高電位に規定されるアノード11を設けることで、複数の突出部16から放出された電子をアノード11に到達させる電子線放出装置が構成される。
【0056】
次に、電子放出効率ηの関係について、シミュレーションによる計算を用いて説明する。尚、図2に示す様に、ゲート5の突出部15の振幅(基部50から突出部15の先端までの距離(X方向の長さ))をA1、ゲート5の突出部15の周期(Y方向の長さ)をT1、ゲートの突出部15の間隔をW2、ゲートの突出部15の幅をW1と定義する。
【0057】
そして、以下に示す計算における代表的な値の例を列挙すると、絶縁層3aの厚さは10nm、絶縁層3bの厚さは200nm、ゲート5の厚さは5nm、ゲート5とカソード6の間隔d1は5nm、ゲートの振幅A1は6nm、周期T1は12nmである。また駆動電圧Vfは21V、アノード印加電圧Vaは11.8kV、カソード6の仕事関数Wfは4.6eVである。
【0058】
始めにゲートの突出部15の振幅A1と効率ηの関係について図5(a)を用いて説明する。図5(a)の横軸はゲートの突出部15の振幅A1を、カソード6の突出部16とゲート5との最短距離d1で規格化した値を示しており、縦軸は電子放出効率ηを示している。図5(a)より、ゲートの突出部15の振幅A1を大きくすると、ある振幅以上で電子放出効率が大きく増加していき、その後はほぼ一定となることがわかる。電子放出効率ηが増加し始める振幅をA1staとするとA1staは0.5×d1と読み取れる。尚、図5(a)に示した傾向は、電子放出素子の各部材の厚み、幅、奥行き、材料などに依存して大きく変動するものではない。従って、ゲートの突出部15の振幅A1は、カソード6の突出部16とゲート5との最短距離d1に照らして、0.5×d1以上とすることが好ましい。尚、計算では、カソードの突出部16の中心とゲートの突出部15の中心が上下に重なるようにしている。
【0059】
振幅がA1staを超えると電子放出効率ηが大きく増加するのは、ゲート5の隣り合う2つの突出部15の間を、電子放出部から放出された電子(より詳細にはゲートで散乱された電子)が通り抜けて、アノードに到達しやすくなったためと考えられる。反対に、A1staより小さい場合には、電子放出効率ηがほぼ一定なのは、ゲート5に突出部15を設けていない場合と殆ど差が無いためと考えられる。また、電子放出効率ηが飽和するのは、ゲートの突出部15の振幅A1が十分大きくなり、ゲート5の隣り合う2つの突出部15の間を通り抜ける、放出電子の量に差が無くなるためと考えられる。
【0060】
次に、ゲートの突出部15の周期T1と電子放出効率ηの関係について図5(b)を用いて説明する。図5(b)の横軸はゲートの突出部15の周期T1を、カソードの突出部16とゲート5との最短距離d1で規格化した値を示しており、縦軸は電子放出効率ηを示している。図5(b)より、ゲートの突出部15の周期T1を大きくすると電子放出効率ηが減少していき、ある周期以上で電子放出効率ηはほぼ一定となることがわかる。電子放出効率ηがほぼ一定となる周期をT1satとするとT1satは10×d1と読み取れる。尚、図5(b)に示した傾向は、電子放出素子の各部材の厚み、幅、奥行き、材料などに依存して大きく変動するものではない。従って、ゲートの周期T1は10×d1以下であることが好ましい。
【0061】
T1は、図2におけるW1とW2との和であり、図5(b)の計算では、W1=W2としており、カソードの突出部16の中心とゲートの突出部15の中心が上下に重なるようにしている。従って、ゲートの突出部15の周期T1が大きくなるということは、W1およびW2が大きくなるということである。そのためゲートの突出部15の周期T1が大きくなると電子放出効率ηが減少するのは、カソードの突出部16に被さるゲート5の突出部15の幅W1が大きくなるためと考えられる。即ち、突出部16の直上に位置するゲート5の突出部15の幅W1が大きくなるためと考えられる。また、T1satを超えると電子放出効率ηがほぼ一定となるのは、ゲートに突出部15がない場合と殆ど差が無いためと考えられる。
【0062】
次に、図2などに示した電子放出素子とは、ゲートの突出部15とカソードの突出部16との相対位置関係が異なる、電子放出素子の変形例について、図8を用いて説明する。
【0063】
変形例の電子放出素子では、カソードの突出部16が、ゲートの隣り合う2つの突出部15同士の間に相対するように設けられていている。典型的にはゲート5の突出部15とカソード6の突出部16の位相を、図2などで説明した形態と比較して、半周期ずらした形態となっている。図8では、説明を簡略にするために、カソード6の突出部16を1つしか設けていないが、実際には、複数の突出部16が角部32に沿って、設けられている。同様に、ゲートの突出部15も2つしか示していないが、実際には、ゲートの突出部15も複数(≧2)設けられている。即ち、2つのゲートの突出部15に対して1つのカソードの突出部16が設けられている。そのため、ゲートの突出部15の数をnとすると、カソードの突出部16の数は最小の場合n−1となる。
【0064】
変形例の電子放出素子では、ゲートの隣り合う2つの突出部15同士の間に対向してカソードの突出部16が設けられていている。そのため、突出部16の直上の電気力線が直接ゲート5に向かわず、突出部16から電子が放出する方向が、基板1の表面に対して垂直に近くなる。従って、図8に示すように、ゲート5に衝突せずに不図示のアノードに向けて放出される電子の量が、図2などで示した実施形態の電子放出素子に比べて多くなる。そのため、図2などで示した実施形態の電子放出素子に比べて、電子放出効率ηが向上する。また、図2などで示した実施形態の電子放出素子に比べてゲートでの電子の散乱が少ないので、電子放出素子から放出された電子がアノードを照射する照射面積(スポット径)を小さくすることができる。
【0065】
続いて、本変形例における、電子放出効率ηについて説明する。
【0066】
始めに、ゲートの突出部15の振幅A1と電子放出効率ηの関係について説明する。
【0067】
図10(a)にゲートの凹凸部15の振幅A2と効率ηの関係を示す。図10(a)の横軸は振幅A1をカソードの突出部16とゲート5との最短距離d1で規格化した値を示しており、縦軸は効率ηを示している。
【0068】
図10(a)より、振幅A1を大きくしていくと、効率ηも増加していき、ある値以上から効率ηの増大が鈍くなり、ほぼ飽和することがわかる。効率ηの増大が鈍くなる振幅A1をA1satとすると、A1satは約1×d1と読み取れる。尚、図10(a)に示した傾向は、電子放出素子の各部材の厚み、幅、奥行き、材料などに依存して大きく変動するものではない。振幅A1を大きくしていくと効率ηが増加する理由としては、カソードの突出部16に被さるゲート5の領域が小さくなる(突出部16の真上からゲートが離れていく)ことが挙げられる。このようになると、突出部16から放出される電子がゲートの隣り合う2つの突出部15の間を通り抜けやすくなり、この結果、効率ηが増加すると考えられる。また、A1sat以上で効率ηの増大が鈍くなるのは、振幅A1が十分大きく、ゲートに衝突しない電子の数がほぼ一定となったためと考えられる。
【0069】
そのため、変形例の電子放出素子では、ゲートの突出部15の振幅A1と、カソード6の突出部16とゲート5との最短距離d1とが、A1≧d1の関係を満たすことが望ましい。以上のようにすることで、カソード突出部16から放出された電子がゲートに衝突する機会を減らすことができ、結果、効率ηが上昇する。
【0070】
次に、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間隔W2と効率ηの関係について説明する。
【0071】
図10(b)にゲートの隣り合う2つの突出部15の間隔W2と効率ηとの関係を示す。図10(b)の横軸は幅W2をカソードとゲートとの最短距離d1で規格化した値を示しており、縦軸は電子放出効率ηを示している。図10(b)より、W2を大きくすると効率ηが上昇していき、ある値以上で効率ηがほぼ一定となり、さらにW2を大きくすると効率が減少し始めることがわかる。効率ηが飽和し始める値をW2satとするとW2satは約1×d1と読み取れる。また、効率ηが減少し始める値をW2decとするとW2decは3×d1と読み取れる。尚、図10(b)に示した傾向は、電子放出素子の各部材の厚み、幅、奥行き、材料などに依存して大きく変動するものではない。W2satまで大きくしていくと、効率ηが増加するのは、カソード突出部16に被さるゲート5の幅が小さくなっていくためと考えられる。また、W2がW2satからW2decの間は効率がほぼ一定となるのは、ゲートに衝突しない電子の数がほぼ一定となったためと考えられる。また、W2がW2decより大きくすると効率ηが減少するのは、ゲートに突出部15を設けていない形態と差がないためと考えられる。
【0072】
そのため、変形例の電子放出素子では、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間隔W2、カソード6の突出部16とゲート5との最短距離d1とが、d1≦W2≦3×d1の関係を満たすことが望ましい。
【0073】
変形例の電子放出素子では、以上の関係を満たすことで、カソード突出部16から放出された電子がゲートに衝突する機会を減らすことができ、結果、効率ηが上昇する。
【0074】
また、本発明の電子放出素子は、図2などに示したゲートの突出部15とカソードの突出部16との相対位置関係に加え、図8に示したゲートの突出部15とカソードの突出部16との相対位置関係をも備えた電子放出素子とすることもできる。
【0075】
以上説明した本実施形態の電子放出素子の製造方法の一例について、図6(A)乃至図6(H)を参照して説明する。図8を用いて説明した変形例の電子放出素子の製造方法については後述する。
【0076】
図6(A)〜図6(H)は、図1(A)〜図1(D)に示した電子放出素子の製造工程の一例を順番に示した模式図である。
【0077】
最初に、基板1の表面に第1絶縁層3aとなる絶縁層23、第2絶縁層3bとなる絶縁層24及びゲート5となる導電層25を積層する(図6(A))。
【0078】
基板1は絶縁性基板であり、例えば、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、シリコン基板などを用いることができる。絶縁層23,24は、加工性に優れる材料からなる絶縁性の膜であり、材料としては、例えば、SiN(Si)やSiOを用いることができる。絶縁層23,24の作製方法は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成される。絶縁層23,24の厚さとしては、それぞれ5nm乃至50μmの範囲で設定され、好ましくは50nm乃至500nmの範囲で選択される。尚、絶縁層23と24を基板1に積層した後に凹部7を形成する必要があるため、絶縁層23と絶縁層24との間にはエッチングに対して異なるエッチング量を持つように設定されなければならない。望ましくは絶縁層23と絶縁層24との間には選択比として10以上が望ましく、できれば50以上とれることが望ましい。具体的には、例えば、絶縁層23にはSiを用い、絶縁層24にはSiO等の絶縁性材料を用いる、或いはリン濃度の高いPSG、ホウ素濃度の高いBSG膜等を用いることができる。
【0079】
導電層25は、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成されるものである。導電層25としては、導電性に加えて高い熱伝導率があり、融点が高い材料が望ましい。例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属、それらの合金、または、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB,ZrB,CeB,YB,GdB等の硼化物、TiN,ZrN,HfN、TaN等の窒化物なども挙げられる。また、導電層25の厚さとしては、5nm乃至500nmの範囲で設定される。
【0080】
次に、フォトリソグラフィ技術により導電層25上にレジストパターンを形成した後、エッチング手法を用いて導電層25,絶縁層24、絶縁層23を順次加工する。これにより、ゲート5と、絶縁層3b及び絶縁層3aからなる絶縁部材3が得られる(図6(B))。
【0081】
このようなエッチング加工では一般的にエッチングガスをプラズマ化して材料に照射することで材料の精密なエッチング加工が可能なRIE(Reactive Ion Etching)が用いられる。この時の加工ガスとしては、加工する対象部材がフッ化物を作る場合はCF、CHF、SFのフッ素系ガスが選ばれる。またSiやAlのように塩化物を形成する場合はCl、BClなどの塩素系ガスが選ばれる。またレジストとの選択比を取るため、エッチング面の平滑性の確保或いはエッチングスピードを上げるために水素や酸素、アルゴンガスなどが随時添加される。
【0082】
次に、FIB(Focused Ion Beam)を用いて、ゲート5の側面及び絶縁層3aと3bからなる絶縁部材3の側面に突出部を作成する(図6(C))。
【0083】
尚、FIB加工では、ゲートの突出部15の振幅A1、周期T1が所望の値となるように削る。なお、以降の説明では図6(C)のA−A´断面から見た図で説明する。
【0084】
次に、エッチングによって、絶縁層3bの側面のみを一部除去し、凹部7を形成する(図6(D))。
【0085】
エッチングの手法は例えば絶縁層3bがSiOからなる材料であれば通称バッファーフッ酸(BHF)と呼ばれるフッ化アンモニウムとフッ酸との混合溶液を用いることができる。また、絶縁層3bがSiからなる材料であれば熱リン酸系エッチング液でエッチングすることが可能である。
【0086】
凹部7の深さ、即ち凹部7における、絶縁層3bの側面と、絶縁層3aの側面及びゲート5の側面との距離は、電子放出素子を形成した後のリーク電流に深く関わる。凹部を深く形成するほどリーク電流の値が小さくなる。しかしながら、凹部7を深く形成しすぎるとゲート5が変形する等の課題が発生するため、凹部の深さは実用的には30nm以上200nm以下で形成する。
【0087】
次に、ゲート5表面に剥離層20を形成する(図6(E))。
【0088】
剥離層20の形成は、次の工程で堆積するカソード6の材料をゲート5から剥離することが目的である。このような目的のため、例えばゲート5を酸化させて酸化膜を形成する、或いは電解メッキにて剥離金属を付着させるなどの方法によって剥離層20を形成する。
【0089】
次に、カソード6の材料を基板1上及び絶縁部材3の側面およびゲート5上に付着させる(図6(F))。
【0090】
カソード6の材料としては導電性があり、電界放出する材料であればよく、一般的には2000℃以上の高融点を備え5eV以下の仕事関数を備える材料である。そして、酸化物等の化学反応層の形成しづらい、或いは簡易に反応層を除去可能な材料が好ましい。このような材料として例えば、Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Au,Pt,Pd等の金属またはそれらの合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物、HfB,ZrB,CeB,YB,GdB等の硼化物が挙げられる。
【0091】
カソード6の材料(カソード材料)の堆積方法としては指向性スパッタ法が好ましく用いられる。指向性スパッタ法が好ましい理由は、凹部7の内部の一部(絶縁部材3の上面の一部)を覆うように、突出部16を、角部32に沿って複数形成するためである。スパッタ法ではカソード材料の飛来粒子(スパッタ粒子)のエネルギーが小さい。そのためゲート5の隣り合う2つの突出部15の間(図7(a)の15bの部分)を通って絶縁部材3の角部32にスパッタ粒子が飛来するので、絶縁部材3の角部32に沿って複数の突出部16を並んで形成しやすいと考えられる。つまり、ゲート5の突出部15の直下にカソード材料が堆積し易いためである。
【0092】
図7(a)は、図1(D)と同じ方向からカソード6の材料を絶縁部材3の側面に成膜している際の様子を示す模式図であり、カソード材料の代表的な飛来軌道を破線26a乃至26dで表している。図7(a)に示すように、スパッタ法では、絶縁層3aの側面に突出部が形成されていると、絶縁層3aの側面の突出部に、絶縁層3aの側面のその他の部分よりも、射影効果により、カソード材料がより多く付着する。また、破線26a〜26cに示すように、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間(15b)をスパッタ粒子(カソード材料)が通る。そのため、絶縁層3aの角部32であって、絶縁層3aの上面と絶縁層3aの側面の突出部との接続部近傍に、より多くのカソード材料が堆積する。その結果、複数の突出部16が、角部32に沿って、ゲートの突出部15の周期に対応して、形成される。このようにして、ゲートの突出部15とカソードの突出部16を1対1に対応して設けることができる。一方、カソード材料の飛来軌道には、破線26dに示すように、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間(15b)から基板1の表面に対して垂直に飛来する軌道も存在する。このような軌道を通って飛来したカソード材料は、絶縁部材3の側面の傾斜の度合いによるが、ほとんど絶縁部材3の表面(側面)に付着せず基板1に付着することになる。このような現象を踏まえて、突出部16に求められる形状に応じて、スパッタ時の角度と成膜時間、形成時の温度及び形成時の真空度を制御することで、所望形状の突出部16を得ることができる。
【0093】
また、電子放出素子は、図2の様に、複数の突出部16の間に位置する、絶縁層3aの側面3fから絶縁層3aの角部32を通って絶縁層3aの上面3eの角部32側までを、カソード6が覆っている。このような形態とするには、例えば、ゲートの側面5aを絶縁層3aの側面3fよりも−X方向に設ける(セットバックする)ことや、ゲートの側面5aおよび絶縁部材3の側面に対して斜め上方からカソード6の材料をスパッタすること、で実現できる。あるいは、ゲートの側面5aと絶縁部材3の側面の双方を基板1の表面に対して所定の角度(<90°)で傾斜させることでも実現することができる。
【0094】
次に剥離層20をエッチングで取り除くことにより、ゲート5上のカソード材料6Cを除去する(図6(G))。尚、ここではゲート5上のカソード材料6Cを除去したが、除去せずにゲート5上にカソード材料6Cを残してもよい。
【0095】
次に、カソード6と電気的な導通を取るためにカソード電極2を形成する(図6(H))。
【0096】
カソード電極2は、カソード6と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術、フォトリソグラフィ技術などにより形成される。電極2の材料としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB,ZrB,CeB,YB,GdB等の硼化物、TiN,ZrN,HfN等の窒化物、が挙げられる。カソード電極2の厚さとしては、5nm乃至50μmの範囲で設定される。カソード電極2及びゲート5は、同一材料でも異種材料でも良く、また、同一形成方法でも異種方法でも良いが、ゲート5は電極2に比べてその膜厚が薄い範囲で設定される場合があり、低抵抗材料が望ましい。
【0097】
以上の工程により、図1(A)))〜図1(D)))に示す形態の電子放出素子を形成できる。
【0098】
次に、図8を用いて説明した変形例の電子放出素子のs製造方法について説明する。基本的な製造方法は既に図6を用いて説明したとおりなので、ここでは、既に説明した内容と異なる点のみを説明する。
【0099】
変形例の電子放出素子では、図6(C)の工程において、FIBを用いて、ゲート5及び絶縁層3bのみに突出部を作成し、絶縁層3aには突出部を作成しない(図9)。なお、FIB加工では、ゲート5の振幅A1、ゲートの突出部同士の間隔W2が所望の値となるように加工すればよい。それ以降の工程は第一の実施形態と同様にして素子を作製した。なお、絶縁層3aの側面には突出部を作成しないので、平面的に見ると、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間に、絶縁層3aの上面が露出する。そのため、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間に対応した絶縁層3aの角部32にカソード材料が局所的に多く付着させることができる。その結果、ゲートの隣り合う2つの突出部15の間に対応して、絶縁層3aの角部32に突出部16を形成することができる。
【0100】
以下では、上記した電子放出素子を複数、基板上に設けた電子源と、電子源を用いたディスプレイパネルについて、図11(a)、図11(b)を用いて説明する。
【0101】
図11(a)は電子放出素子をマトリクス状に配置した電子源を用いて構成したディスプレイパネル47の一例を示す模式図であり、内部がわかるように一部を切り欠いて示している。図11において、31は電子源基板、32はX方向配線、33はY方向配線であり、電子源基板31は先に説明した電子放出素子の基板1に相当する。また、34は上記した電子放出素子を模式的に示している。尚、X方向配線32は、上述の電極2を共通に接続する配線であり、Y方向配線33は上述のゲート5を共通に接続する配線である。ここでは、電子放出素子が、X方向配線32とY方向配線33の交差部に設けた例を模式的に示しているが、電子放出素子は、X方向配線32とY方向配線33の交差部の脇の電子源基板上に設けることができる。
【0102】
X方向配線32には、X方向に配列した電子放出素子34の行を選択するための走査信号を印加する、不図示の走査信号印加手段が接続される。一方、Y方向配線33には、Y方向に配列した電子放出素子34の各列を入力信号に応じて変調するための、不図示の変調信号発生手段が接続される。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、当該素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0103】
上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、個別の素子を選択して、独立に駆動可能とすることができる。
【0104】
図11(a)において、電子源基板31はリアプレート41に固定されている。また、ガラス基板43の内面に、電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する例えば蛍光体からなる発光体44と、前述したアノード11に相当するメタルバック45と、を積層してフェースプレート46を構成している。また、リアプレート41とフェースプレート46が、リアプレート41とフェースプレート46との間に設けられた支持枠42と、フリットガラス等の接合部材を介して、気密に接合されて、ディスプレイパネル47が構成されている。ディスプレイパネル47は、上述の如く、フェースプレート46、支持枠42、リアプレート41で構成される。ここで、リアプレート41は主に電子源基板31の強度を補強する目的で設けられるため、電子源基板31自体で十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート41は不要とすることができる。即ち、電子源基板31に直接支持枠42を封着し、フェースプレート46、支持枠42及び電子源基板31とでディスプレイパネル47を構成しても良い。一方、フェースプレート46とリアプレート41との間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持たせた構成とすることもできる。
【0105】
次に、図11(b)のブロック図を用いて、上述したディスプレイパネル47を備えたディスプレイ25並びにテレビジョン装置27について説明する。
【0106】
受信回路20は、チューナーやデコーダ等からなり、衛星放送や地上波等のテレビ信号、ネットワークを介したデータ放送等の各種の信号を受信し、復号化した映像データを画像処理部21に出力する。尚、上記した「受信した信号」は「入力された信号」と言い換えることができる。画像処理部21はγ補正回路や解像度変換回路やI/F回路等を含み、画像処理された映像データをディスプレイ(画像表示装置)25の表示フォーマットに変換してディスプレイ(画像表示装置)25に画像信号として出力する。
【0107】
ディスプレイ25は、前述したディスプレイパネル47を少なくとも含み、さらに、前述した駆動回路108及び駆動回路を制御する制御回路22をも含む。制御回路22は、入力した画像信号に補正処理等の信号処理を施すともに、駆動回路108に画像信号及び各種制御信号を出力する。制御回路22には、同期信号分離回路、RGB変換回路、輝度信号変換部、タイミング制御回路等が含まれる。駆動回路108は、入力された画像信号に基づいて、ディスプレイパネル47内部の電子放出素子に駆動信号を出力し、駆動信号に基づきテレビ映像が表示される。駆動回路108には、走査回路や変調回路やアノード電位を供給する高圧電源回路等が含まれる。受信回路20と画像処理回路21は、セットトップボックス(STB26)としてディスプレイ25とは別の筐体に収められていてもよいし、またディスプレイ25と一体の筐体に収められていてもよい。ここでは、テレビジョン装置27がテレビ映像を表示する例を説明した。しかし、受信回路20をインターネットなどの回線を通じて配信される映像を受信する回路とすれば、テレビジョン装置27は、テレビ映像に限らず、様々な映像を表示することができる映像表示装置として機能する。
【実施例】
【0108】
以下、上記実施の形態に基づいた、より具体的な実施例について説明する。
【0109】
(実施例1)
本実施例では図1(A)〜図1(D)に示した電子放出素子を図6(A)〜図6(H)の工程に沿って作製した。
【0110】
基板1としては、プラズマディスプレイ用に開発された低ナトリウムガラスであるPD200を用い、絶縁層23としてSiN(SixNy)をスパッタ法にて厚さ500nmで形成した。次いで、絶縁層24として、厚さ25nmのSiO2層をスパッタ法により形成した。さらに、絶縁層24の上に、導電層25として厚さ30nmのTaNをスパッタ法により積層した(図6(A))。
【0111】
次に、フォトリソグラフィ技術により導電層25上にレジストパターンを形成した。その後、ドライエッチング手法を用いて導電層25、絶縁層24、絶縁層23を順に加工して、ゲート5と、第1絶縁層3aと第2絶縁層3bからなる絶縁部材3と、を形成した(図6(B))。この時の加工ガスとしては、絶縁層23、24及び導電層25にフッ化物を作る材料が選択されているため、CF4系のガスを用いた。このガスを用いてRIEを行った結果、絶縁層3aの側面3f,絶縁層3bの側面3d、及びゲート5の側面5aの、エッチング後の角度は、基板1の水平面に対しておよそ80°の角度で形成されていた。
【0112】
次にレジストを剥離した後、図6(C)に示すように、FIBを用いて、ゲート5の側面及び絶縁部材3の側面に突出部を作成した。FIB加工では、ゲートの突出部15の振幅A1が6nm、周期T1が12nm、突出部15の幅W1が6nmとなるように削った。
【0113】
次に、BHF(フッ酸/フッ化アンモニウム水溶液)を用いて深さ約70nmになるようにエッチング手法を用いて、絶縁層3bの側面をエッチングし、絶縁部材3に凹部7を形成した(図6(D))。
【0114】
次に、ゲート5表面に電解メッキによりNiを電解析出させて剥離層20を形成した(図6(E))。
【0115】
次に、カソード材料であるモリブデン(Mo)を剥離層20上及び絶縁部材3の側面と基板1表面に堆積させてモリブデン膜(6、6C)を成膜した。成膜方法として指向性スパッタ法を用いた。本形成方法では基板1の角度をスパッタタ−ゲットに対して水平になるようにセットした。本件のスパッタ法ではスパッタ粒子が限られた角度で基板面に入射されるよう、遮蔽板を設置した。遮蔽板により、水平方向に対し入射角が90°と60°にピークを持たせた。また、アルゴンプラズマを出力3.0kW、真空度0.1Paで生成し、基板とMoターゲットの間の距離を100mm以下になるように基板を設置し、基板1の表面に堆積されたモリブデン膜の厚さが20nmとなるように成膜した。(図6(F))。
【0116】
モリブデン膜を成膜後、Y方向におけるカソード6の幅が3μmになるようにフォトリソグラフィ技術によりレジストパターンを形成した。その後、ドライエッチング手法を用いてモリブデン膜を加工し、カソード6を形成した。この時の加工ガスとしては、CF4系のガスを用いた。その後、ヨウ素とヨウ化カリウムからなるエッチング液を用いてゲート5上に析出させたNi剥離層20を除去することによりゲート5上のモリブデン膜6Cを剥離した(図6(G))。
【0117】
最後に、スパッタ法にて厚さ500nmのCuを堆積し、パターニングしてカソード電極2を形成し、本実施例の電子放出素子を作成した(図6(H))。
【0118】
そして、図3(a)の構成で、本実施例の電子放出素子の特性を評価した。評価の条件としては、駆動電圧(Vf)を21Vとし、アノード印加電圧(Va)を11.8kVと、アノード11と電子放出素子の間隔を1.7mmとした。その結果、平均の素子電流Ifは127μA、電子放出電流Ieは28μA、平均電子放出効率ηは18%となり、十分な放出電流量で且つ効率の高い電子放出素子が得られた。
【0119】
電子放出特性を確認後、SEMを用いて観察した結果、カソードの突出部16とゲート5との間隔d1は5.0nmとなっていた。そして、図1(D)及び図2に示すように、カソードの突出部16は、絶縁部材3の角部32に沿って(Y方向に)、複数設けられており、カソード6の複数の突出部16の各々がゲート5の複数の突出部15の各々と1対1に対応して設けられていた。また、図2および図7(a)、図7(b)に示すように、カソード6は、絶縁部材3の角部32のうち、突出部16同士の間に位置する部分を覆っていた。また、絶縁部材3の側面のうち、突出部16の間に位置する部分もカソード6が覆っていた。そして、図7(b)において、カソード6の6bで示す部分は、カソード6の6aで示す部分よりも膜厚が薄く、高抵抗であった。カソードの突出部16とゲート5の間隔d1とゲートの突出部15の振幅A1、周期T1を考慮すると、A1≧0.5×d1、10×d1≧T1の関係を満たしていた。
【0120】
また同様の手順で、FIB加工によりゲートの突出部15の振幅A1、周期T1の寸法を変化させて形成した電子放出素子の電子放出特性の評価結果を表1に示す。尚、ゲートの突出部15の幅W1は、周期T1の半分とした。いずれも、後述する比較例1の電子放出素子に対し、効率ηの高い電子放出素子が得られた。
【0121】
本実施例において、A1、T1及びd1の関係は、A1≧0.5×d1、10×d1≧T1を満たしており、効率の高い電子放出素子が得られた。
【0122】
(比較例1)
比較例1として、ゲート5に突出部15を設けていない電子放出素子を作成した。基本的な作製方法は実施例1と同様であるので、ここでは実施例1との違いだけ述べる。本例では図6(C)に示すFIBによる加工を行わずにゲート5を作成した。
【0123】
実施例1と同様に、本比較例の電子放出素子の特性を、実施例1の電子放出素子と同様の条件で評価した結果、平均の素子電流Ifは30μA、電子放出電流Ieは4μA、平均電子放出効率ηは11%となった。
【0124】
また電子放出特性を確認後、SEMを用いて観察した結果、カソードの突出部16とゲート5との間隔d1は5.0nmとなっていた。また、突出部16とゲート5との間隔d1は角部32に沿って一定であり、図1(D)のような、角部32に沿って(Y方向に)点在する複数の突出部16は形成されていなかった。比較例1の電子放出素子は実施例1の電子放出素子と比べ、十分な電子放出効率を得ることが出来なかった。これは放出された電子がゲート5に衝突し、アノードまで到達できなかったためと考えられる。また、図1(D)のように、角部32に沿った凹凸をカソード6が備えていないことも十分な電子放出効率を得ることが出来なかった理由であると考えられる。また、本比較例の電子放出素子は、放出電流の時間的な変動も、実施例1の電子放出素子に比べて大きかった。
【0125】
【表1】

【0126】
(実施例2)
次に、カソード突出部16とゲート5の間隔d1を実施例1の電子放出素子に比較して大きくした電子放出素子を作成した例を示す。基本的な作製方法は実施例1と同様であるので、ここでは実施例1との違いだけ述べる。
【0127】
本例においては、カソード材料として付着させるモリブデンの成膜量を減らしてカソード突出部16の成長を抑制した。本例では基板1の表面に堆積されたモリブデン膜の厚さが10nmとなるように成膜した。モリブデンの成膜量を減らすことは、間隔d1を大きくすることに相当する。
【0128】
実施例1と同様の条件で、本例の電子放出素子の電子放出特性を評価した結果、平均の素子電流Ifは2nA、電子放出電流Ieは0.4nA、平均18%の電子放出効率ηが得られた。比較例1の電子放出素子よりも効率ηは高かったが、実施例1の電子放出素子ほどの十分な放出電流が得られなかった。
【0129】
電子放出特性を確認後、実施例1と同様に、SEMにより間隙8の観察した結果、カソード突出部16とゲート5の間隔d1は15.3nmであった。d1の値が実施例1の電子放出素子のd1に比較して非常に大きかったことが、実施例1の電子放出素子に比べて放出電流Ieと素子電流Ifが小さい値となった主な原因であると考えられる。
【0130】
また、図1(D)及び図2に示すように、カソードの突出部16は、絶縁部材3の角部32に沿って(Y方向に)、複数設けられており、ゲート5の1つの突出部15に対してカソード6の1つの突出部16が相対していた。しかしながら、図1(D)のような角部32に沿った凹凸の大きさが実施例1の電子放出素子に比較して小さかったので、このことも実施例1の電子放出素子に比べて放出電流Ieと素子電流Ifが小さい値となった原因であると考えられる。
【0131】
本例ではゲートの突出部15の周期T1が10×d1≧T1、ゲートの突出部15の振幅A1がA1≧0.5×d1を満たしていたが、間隔d1が10≧d1≧1を満たしていない。カソードの突出部16とゲート5の間隔d1が10nmを超えるため、十分な放出電流が得られなかったと考えられる。
【0132】
(実施例3)
次に、実施例3として、ゲート5の突出部15とカソード6の突出部16の位相を半周期ずらした例について説明する。
【0133】
本実施例では、図8に模式的に示す構成の電子放出素子を作製した。基本的な作製方法は実施例1と同様であるので、ここでは実施例1との違いだけ述べる。
【0134】
本実施例では、図6(C)を用いて説明した工程で、FIBを用いてゲート5の側面及び絶縁層3bの側面には突出部を作成し、絶縁層3aの側面には突出部を作成しなかった(図9)。なお、FIB加工では、ゲート5の突出部15の振幅A1を6.3nm、隣り合う2つの突出部15の間隔W2を12.5nmとなるように行った。それ以外の工程は実施例1と同様にして電子放出素子を作製した。
【0135】
以上の方法で電子放出素子を形成した後、実施例1と同様の条件で電子放出特性を評価した。その結果、平均の素子電流Ifは10μA、電子放出電流Ieは16μA、平均61%の電子放出効率ηとなり、十分な放出電流量で且つ効率の高い電子放出素子が得られた。本実施例の電子放出素子が実施例1および2の電子放出素子に比べて電子放出効率が上昇した理由は以下のように考えられる。即ち、カソード突出部16直上の電気力線が、直接ゲートの方向に向かずに、基板に垂直上向きになり(アノードに向かい)、ゲートに電子が衝突しない無散乱の電子が増加したためと考えられる。
【0136】
特性を確認後、SEMを用いて観察した結果、カソード突出部16とゲート5との間隔d1は5.5nmとなっていた。このことから、d1の値が実施例1の電子放出素子のd1に比較して大きかったことが、実施例1の電子放出素子に比べて放出電流Ieと素子電流Ifが小さい値となった主な原因であると考えられる。
【0137】
また、図1(D)に示す様に、カソードの突出部16は、絶縁部材3の角部32に沿って(Y方向に)、複数設けられていたが、図8に示す様に、ゲート5の隣り合う2つの突出部15の間に対してカソード6の1つの突出部16が設けられていた。尚、A1とW2とd1の関係は、d2≦W2≦3×d2及びA2≧d2を満たしていた。
【0138】
また同様の手順で、FIB加工によりW2とA1の寸法を変えた電子放出特性の評価結果を表2に示す。
【0139】
いずれも、比較例1に対し、効率の高い電子放出素子が得られた。また、W2、A2及びd2の関係は、d1≦W2≦3×d1、A1≧d1を満たしていた。
【0140】
(実施例4)
実施例4として、実施例3のW2を大きくした例を示す。基本的な作製方法は実施例3と同様であるので、ここでは実施例3との違いだけ述べる。本例では、FIB加工においてゲート5の突出部の振幅A1を6nm、W2を30nmとなるように行った。それ以外の工程は実施例3と同様にして電子放出素子を作製した。
【0141】
以上の方法で電子放出素子を形成した後、実施例1と同様の条件で、本例の電子放出素子の電子放出特性を評価した結果、平均の素子電流Ifが2μA、電子放出電流Ieが1μAであり、平均36%の電子放出効率となった。実施例3の電子放出素子と比べて効率の低い電子放出特性を示したが、実施例1の電子放出素子よりも効率ηが優れていた。
【0142】
特性を確認後、SEMを用いて観察した結果、ゲート5との間隔d2は平均5.5nmであった。そして、図1(D)))に示す様に、カソードの突出部16は、絶縁部材3の角部32に沿って(Y方向に)、複数設けられていたが、図8に示す様に、ゲート5の隣り合う2つの突出部15の間に対してカソード6の1つの突出部16が設けられていた。本例において、W2、A1及びd1の関係は、A1≧d1を満たすが、d1≦W2≦3×d1を満たしていない。本例においては、W2が大きいために、突出部15の効果が薄れたために、電子放出効率が実施例3の電子放出素子に比べて低下したと考えられる。
【0143】
【表2】

【0144】
(比較例2)
本比較例では、実施例1で作成した電子放出素子のカソード6の、図7(b)において6bで示す部分をFIBで除去した。そして、実施例1と同様に、電子放出特性を測定したところ、初期の電子放出電流Ieは実施例1と同様であった。しかしながら、時間の経過と共に、実施例1の電子放出素子よりも電子放出電流Ieの変動が大きくなった。
【符号の説明】
【0145】
3 絶縁部材
5 ゲート
15 ゲートの突出部
6 カソード
16 カソードの突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面と該上面に接続する側面とを備える絶縁部材と、
前記絶縁部材の前記上面の一部から前記絶縁部材の前記側面に渡って延在し、前記上面と前記側面との境界部に沿って並んだ複数の突出部を備える、カソードと、
前記絶縁部材の前記上面の前記一部とは異なる一部に接続された基部と、各々が該基部から前記カソードに近づくように突出すると共に前記カソードの前記複数の突出部との間に空隙を形成している複数の突出部と、を備えるゲートと、
を有することを特徴とする電子放出素子。
【請求項2】
前記絶縁部材は、前記上面と該上面に接続する側面とを備える第1絶縁層と、前記第1絶縁層の前記上面の一部の上に積層された第2絶縁層と、を含み、
前記ゲートの前記基部は、前記第2絶縁層と接続されており、
前記カソードは、前記第1絶縁層の前記側面に設けられ且つ前記第1絶縁層の前記上面の前記一部とは異なる他の一部を覆っている、ことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子。
【請求項3】
前記カソードと前記ゲートとの距離が前記カソードの前記複数の突出部の各々と前記ゲートの前記複数の突出部との間で最短となるように、前記カソードの前記複数の突出部の各々が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項4】
前記ゲートの前記基部から前記ゲートの前記突出部の先端までの距離をA1[m]、
前記カソードの前記突出部と前記ゲートとの最短距離をd1[m]、
前記ゲートの前記複数の突出部の周期をT1[m]としたときに、
A1≧0.5×d1、10×d1≧T1の関係を満たすことを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子。
【請求項5】
前記ゲートの前記複数の突出部の各々が前記カソードの前記複数の突出部の各々と1対1に対応して設けられていることを特徴とする請求項3または4に記載の電子放出素子。
【請求項6】
前記カソードの前記複数の突出部の各々は、前記ゲートの前記複数の突出部の隣り合う2つの突出部の間に相対するように設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の電子放出素子。
【請求項7】
前記ゲートの前記複数の突出部の隣り合う2つの突出部の間隔をW2[m]、
前記ゲートの前記基部から前記ゲートの前記突出部の先端までの距離をA1[m]、
前記カソードと前記ゲートとの最短距離をd1[m]としたときに、
d1≦W2≦3×d1、A1≧d1の関係を満たすことを特徴とする請求項6に記載の電子放出素子。
【請求項8】
前記カソードと前記ゲートとの最短距離をd1[m]としたときに、d1が1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電子放出素子。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電子放出素子と、前記電子放出素子から放出された電子が照射されることで発光する発光体とを備えるディスプレイパネル。
【請求項10】
ディスプレイパネルと、入力された画像信号に基づいて前記ディスプレイパネルを駆動する駆動信号を発生する回路とを備える画像表示装置と、
入力された信号を前記画像表示装置の前記回路に前記画像信号として出力する装置と、を備える映像表示装置であって、
前記ディスプレイパネルが請求項9に記載のディスプレイパネルであることを特徴とする映像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−71021(P2011−71021A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222513(P2009−222513)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】