説明

電子機器の冷却装置

【課題】少ない消費電力によってデバイスを十分に冷却することが可能な電子機器の冷却装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る電子機器の冷却装置1は、サーバ装置21を構成し通電により発熱するCPU4と、CPU4熱を放熱するヒートシンク4aと、ヒートシンク4aに向かって空気を送出し回転数を制御可能なファンとを有し、ヒートシンク4aより熱伝導率が高い熱分散シート17と、熱分散シート17をヒートシンク4aに対して接触または離間するように移動させるアクチュエータ16と、CPU4の発熱量に基づいてアクチュエータ16の動作を制御するBMCとを、備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転状態にあるサーバ装置などの電子機器の構成要素を冷却するための、電子機器の冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、サーバ装置などの電子機器においては、内蔵されたCPU(Central Processing Unit)やPCI(Peripheral Component Interconnect:データ伝送路)デバイスなどの各種のデバイス(電子部品)は、初期設計の段階で筐体内の固定された位置に存在している。このような装置構成において、最大電力容量と最大構成とを考慮して装置全体の放熱設計が行われている。このとき、オプションとして搭載する予定のPCIデバイスが存在しない場合や、発熱量の少ない省電力型のCPUを搭載した場合には、必要以上にファンを高速回転させてデバイスの冷却を行ったり、冗長的に余分なデバイスを搭載したりしてしまうことがある。また、冷却用のファンが故障した場合には、故障したファンに隣接するファンを高速回転させることで所望の冷却機能の維持を図っている。このような場合は、保守員による故障部品(ファンなど)の交換作業が行われるまでは、隣接するファンが高速回転しているために高い消費電力が必要となる。
【0003】
また、データセンターなどのように大量のサーバ装置を設置している場合は、保守員などの外部の人間が容易に内部に立ち入れないほど高密度な装置環境となるので、サーバ装置に対して効率的な冷却機能の設計(放熱設計)がなされている。また、近い将来においては、さらに高密度な装置環境が増えてくると予想されるので、サーバ装置群の全体における安定的な冷却機能の設計が益々重要になってくる。例えば、サーバ装置の負荷状態や構成規模の大きさなどに応じて、冷却機能の構成内容を動的に変化させる機構を組み込むことにより、常に最適な冷却環境をサーバ装置内に作り出す冷却機能の実現が望まれている。このような動的変化に対応する冷却機能が存在すれば、サーバ装置の構成内容の違いや、故障時などのように初期設計の状態とは異なる環境においても、常に最適な冷却機能を実現させることが可能となる。しかしながら、現在の放熱技術においては、動的な要素まで考慮された冷却装置の開発は行われていない。
【0004】
なお、関連技術として、電子機器において、歯車とスライダからなる操作手段によってヒートシンクの熱接触位置を昇降移動させることにより、該ヒートシンクに効率的に熱を伝えて、効果的に電子機器の冷却を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、他の関連技術として、モータの回転運動によって冷却フィンを往復運動させることにより、冷却フィンから筐体外部への空気の熱伝達を促進させて効果的に冷却を行う技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、他の関連技術として、複数のヒートパイプの循環路を適宜に切り替えることによって放熱の輸送先を効果的に切り替え、熱伝導率の高いヒートシンクを実現する技術が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−223090号公報
【特許文献2】特開2007−124079号公報
【特許文献3】特開2010−002084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般的なサーバ装置の冷却方式には2つの問題がある。1つ目の問題は、サーバ装置に内蔵されたCPU等のデバイスの冷却については、発熱量に合わせてファンの回転数を制御することによって行っている点である。例えば、デバイスに一時的な高負荷が発生することによって、通常負荷で発生する熱量よりも多い熱量を冷却させる必要が生じた場合は、ファンを一時的に高速回転させている。このようにしてファンを高速回転させると、必然的に消費電力が増加してしまう。そこで、幾らかでも消費電力(つまり、ファンの回転数)を下げるために、あらかじめデバイスの最大発熱量を考慮して、その最大発熱量に収まるように、大型のヒートシンクとファンを取り付けた冷却装置で放熱設計(ヒートシンク設計)を行う必要がある。ところが、この場合は、デバイスについて通常の負荷よりも高い負荷状態を考慮した放熱設計がなされているので、デバイスが通常の負荷状態の場合にはヒートシンクの実装面積が過大となる。
【0007】
また、冷却装置にヒートパイプを利用することで該冷却装置を小型化することができるが、冷却装置がコストアップしてしまう。さらに、ヒートパイプが冷却装置の外部に突き出た構造になることで、サーバ装置内において定常的に高温状態となる空間ができるため、電子回路の動作状態や電子部品の寿命などに与える悪影響が大きくなるといった設計上の問題が生じるおそれもある。
【0008】
2つ目の問題は、冷却装置のファンが故障した場合は、一般的には故障したファンに隣接するファンを高速回転させることで、故障したファンの冷却能力を補うように制御している点である。すなわち、健全なファンが故障環境の補助制御を行っているため、故障したファンの交換を実施するか、該当するサーバ装置に意図的に負荷をかけないようにシステムを制御するかのいずれかを行わなければ、常に、健全なファンが高速回転する状態になってしまうので、結果的に電力の消費量が増大してしまう。
【0009】
また、前記特許文献1の技術は、歯車とスライダからなる操作手段によってヒートシンクを昇降移動させて、該ヒートシンクの熱接触位置を可変させなければならないので、冷却装置の構成が複雑かつ大掛かりになって電子機器をコストアップさせる要因となってしまう。さらに、前記特許文献2の技術は、モータの回転運動によって冷却フィンを往復運動させるために、前述と同様に冷却装置の構成が複雑になり電子機器をコストアップさせてしまう。また、前記特許文献3の技術は、大掛かりなヒートパイプの循環路を用いて冷却装置を構成しているので、サーバ装置を小型化することができない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、少ない消費電力によってデバイスを十分に冷却することが可能な電子機器の冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明に係る電子機器の冷却装置は、電子機器を構成し通電により発熱するデバイスと、前記デバイスの熱を放熱するヒートシンクと、前記ヒートシンクに向かって空気を送出し回転数を制御可能なファンと、を有する電子機器の冷却装置であって、前記ヒートシンクより熱伝導率が高い熱分散部材と、前記熱分散部材を前記ヒートシンクに対して接触または離間するように移動させるアクチュエータと、前記デバイスの発熱量に基づいて前記アクチュエータの動作を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電子機器の冷却装置よれば、少ない消費電力によってデバイスを十分に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に適用される、通常温度時におけるサーバ装置の冷却装置を側面視した構成図である。
【図2】本発明の実施形態に適用される、温度上昇時におけるサーバ装置の冷却装置を側面視した構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係るラックマウント型のサーバ装置を上面から平面視した構成図である。
【図4】本発明の実施形態に係る冷却装置の動作の流れを示すフローチャートである。
【図5】図3に示すサーバ装置において、CPUの発熱温度が高くてPCIデバイスの発熱温度が低い場合のアクチュエータの移動状態を示す平面視の構成図である。
【図6】図3に示すサーバ装置において、CPUの発熱温度が低くてPCIデバイスの発熱温度が高い場合のアクチュエータの移動状態を示す平面視の構成図である。
【図7】図3に示すサーバ装置において、ファンが故障した場合のアクチュエータの移動状態を示す平面視の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
《概要》
本発明の実施形態に係る電子機器の冷却装置は、例えば、サーバ装置において、一時的なシステム負荷の変動によって変化するCPUやPCIデバイスなどの発熱量を、BMC(Baseboard Management Controller:システム管理用コントローラ)によって監視し、その監視情報に基づいて冷却装置の放熱状態を制御することにより、少ない消費電力で効果的な冷却を可能にしたものである。
【0015】
具体的な冷却装置の動作としては、アクチュエータによって熱伝導率の高いシート(以下、熱伝導シートという)の移動位置を制御して、該熱伝導シートをフィンなどのヒートシンクに接触させることにより、発熱源からの放熱をサーバ装置内の任意の箇所に分散させている。これにより、発熱源に近いファンの回転数の上昇を抑えて省電力化を実現することが可能になり、かつ、効率的な冷却を実現することができる。しかも、本実施形態の冷却装置は、小型・軽量な機構で簡易に構成することができるので、多様なサーバ装置に対して適用することが可能である。
【0016】
また、サーバ装置のシステム負荷が少ない場合は、アクチュエータによって熱伝導シートを天板の下部にあるガイドの部分に格納することができる。そのため、初期設計において考慮された通常負荷でのエアフロー(空気冷却)を妨げるおそれはない。さらに、ファンが故障した場合でも、正常に動作するファンの前面まで発熱領域を分散させることによって、システム全体を安定的に稼動させることが可能となる。言い換えると、従来と同じ設計のサーバ装置であっても、本実施形態の冷却装置を適応すれば、負荷の大きさや構成要素や障害内容の違いに対して動的に対応し、サーバ装置内に最適な冷却環境を作り出せることができる。このとき、BMCが、温度センサの監視情報によってファンの回転数を制御しているので、さらなる電力消費量の削減を期待することができる。
【0017】
《実施形態》
以下に述べる本発明の実施形態に係る電子機器の冷却装置では、多数の単位コンピュータを棚(ラック)に積み上げて構成したラックマウント型のサーバ装置(電子機器)に対して冷却装置を搭載した場合の一例について説明する。図1は、本発明の実施形態に適用される、通常温度時におけるサーバ装置の冷却装置を側面視した構成図である。また、図2は、本発明の実施形態に適用される、温度上昇時におけるサーバ装置の冷却装置を側面視した構成図である。さらに、図3は、本発明の実施形態に係るラックマウント型のサーバ装置を上面から平面視した構成図である。
【0018】
先ず、図1、図2を参照して、本発明の実施形態に適用されるサーバ装置の冷却装置の構成について説明する。冷却装置1は、サーバ筐体2の内部において、主要部品を搭載する基板であるマザーボード3の表面にCPU4(デバイス)が搭載されている。さらに、CPU4の上面には該CPU4の放熱を行うための冷却フィンであるヒートシンク4aが搭載されている。ヒートシンク4aからの放熱は、図の矢印Yに示すように、サーバ筐体2を構成する天板6(筐体)のスリット(図示せず)から外部へ放出される。
【0019】
また、冷却装置1は、圧電セラッミック等の超音波振動によって発生する進行波を利用して回転する超音波モータ11、スライダ12、該スライダ12を移動させるボールネジ13、ガイド14、及び固定具15からなるアクチュエータ16と、熱伝導率の高いシート状の素材で構成され、ヒートシンク4aの発熱部分に接触して熱を分散させる熱分散シート17(熱分散部材)とが構成されている。なお、ボールネジ13は、超音波モータ11の回転駆動によって回転できるように構成されている。また、ボールネジ13のネジ部分には、スライダ12が移動できるように螺合され、そのスライダ12には熱分散シート17の端部が接続されている。
【0020】
また、アクチュエータ16を構成する超音波モータ11、スライダ12、ボールネジ13、及びガイド14は、固定具15によってサーバ筐体2の天板6に固定されている。この超音波モータ11は、原理的に、電磁波などのノイズを発生させないので、サーバ装置などの電子機器の内部に搭載してもノイズ障害が生じるおそれはない。なお、図1、図2では、CPU4側の冷却装置1の構成について表示しているが、図示しないPCIデバイス5側にも同様の冷却装置1が設けられている。すなわち、CPU4側とPCIデバイス5側に1組ずつ冷却装置1が取り付けられている。なお、PCIデバイス5側の冷却装置1については、図1、図2におけるCPU4をPCIデバイス5に置き換えるだけであるので、その冷却装置1の構成についての説明は省略する。
【0021】
図3に示すように、サーバ装置21の内部には、CPU4、該CPU4を冷却するヒートシンク4a、PCIデバイス5、該PCIデバイス5を冷却するヒートシンク5a、CPU4側のアクチュエータ16a、PCIデバイス5側のアクチュエータ16b、アクチュエータ16aとアクチュエータ16bをそれぞれ駆動させる駆動回路7、駆動回路7を制御するBMC8(制御部)、及びサーバ装置21の内部における各要素の発熱部分を各矢印のようにエアフローで空気冷却する複数のファン91、ファン92、ファン93、ファン94、ファン95が構成されている。なお、CPU4の発熱源とPCIデバイス5の発熱源、及びアクチュエータ16a、16bの近傍には、それぞれ温度センサ4b、5b、16cが設置されている。また、駆動回路7とアクチュエータ16a及びアクチュエータ16bとの間は、信号線Sgによってそれぞれ接続されている。
【0022】
なお、図3では、CPU4の発熱源の近傍に温度センサ4bが、PCIデバイス5の発熱源の近傍に温度センサ5bが、アクチュエータ16a、16bの近傍に温度センサ16cが、それぞれ設置されているが、これ以外にも、図1に示すマザーボード3やその他必要な箇所に温度センサを設置してもよい。これらの温度センサが検出した温度情報は、BMC8によって管理されている。したがって、BMC8がこれらの温度情報に基づいて駆動回路7を制御することにより、図1、図2に示す超音波モータ11が回転してボールネジ13を回転駆動させるので、スライダ12の移動に伴って、熱分散シート17が移動してヒートシンク4aに接触/非接触することができる。
【0023】
再び図1に戻って、熱分散シート17をヒートシンク4aに接触/非接触させる制御はアクチュエータ16によって行われる。すなわち、アクチュエータ16の超音波モータ11は、信号線Sgを介して駆動回路7(図3参照)に接続されている。したがって、駆動回路7が、BMC8からの制御信号によって超音波モータ11を回転させることにより、ボールネジ13を回転駆動させてスライダ12を図の左右方向へ移動させる。
【0024】
これにより、スライダ12の移動に伴って、熱分散シート17は図の左右方向へ移動することができる。このとき、スライダ12に接続された熱分散シート17の移動距離を、設計の段階であらかじめ測定しておくことにより、BMC8(図3参照)の制御によって、熱分散シート17は、スライダ12の左右方向への移動によって、確実にヒートシンク4aに接触/非接触することができる。
【0025】
図3では、CPU4側の冷却装置1とPCIデバイス5側の冷却装置1とが表示されているが、ここでは、説明を容易にするために、図1及び図2を用いて、CPU4側の冷却装置1の動作について詳しく説明する。冷却装置1は、その上部に設置された天板6に設けられたアクチュエータ16と、アクチュエータ16の駆動によってCPU4側のヒートシンク4aに接触/非接触するように移動する熱分散シート17とによって構成されている。
【0026】
このような構成により、CPU4の発熱源の発熱量が多いときには、図2に示すように、アクチュエータ16によって、天板6に備え付けられたガイド14内に格納されている熱分散シート17を図の左方へ押し出し、該熱分散シート17をヒートシンク4aに接触させる。このような動作により、一時的に上昇するヒートシンク4aの発熱を熱分散シート17に伝達し、さらに、熱分散シート17から天板6へ放熱を分散させる。これによって、ファンの回転数(すなわち、図3に示すファン91、ファン92、ファン93、ファン94、及びファン95の各回転数)を低く抑えながら、効率的にCPU4の冷却を行うことができる。
【0027】
アクチュエータ16には、磁気の影響を受けないと共に電磁波を発生させない小型の超音波モータ11が利用され、この超音波モータ11からボールネジ13へ回転力を伝達するように構成されている。また、ボールネジ13に羅合されたスライダ12に熱分散シート17の端部が接続されている。したがって、超音波モータ11の回転駆動によってボールネジ13が回転するので、スライダ12と共に熱分散シート17を図の左右方向へ移動させることができる。
【0028】
一方、超音波モータ11の回転制御は、図3に示すように、システム管理用コントローラであるBMC8を利用して行われる。すなわち、CPU4やPCIデバイス5の発熱源の発熱量はBMC8によって監視されている。したがって、CPU4やPCIデバイス5の発熱源の温度が上昇した場合は、温度センサ4b、5bからの温度情報に基づいて、BMC8が駆動回路7へ制御信号を送信する。これによって、駆動回路7は、図2に示すように、超音波モータ11の回転方向を制御してボールネジ13を所定の方向へ回転させるので、熱分散シート17をヒートシンク4aに接触させる方向(図の左方)へ移動させることができる。
【0029】
図2に示すように、熱分散シート17をヒートシンク4aに接触させることによって、ヒートシンク4aから熱分散シート17へ熱が移動するため、CPU4の発熱源の温度上昇が減少する。このとき、さらに、サーバ装置21に対して高い負荷が継続的に加わって、CPU4の発熱源の温度上昇が起きる場合は、ファン(すなわち、図3に示すファン91〜ファン95)を高速回転させ、ヒートシンク4aと熱分散シート17を共に強制的に空冷させることによってサーバ装置を安定的に稼動させる。
【0030】
この場合、ヒートシンク4aの熱と天板6へ移動する熱と熱分散シート17の熱とが共にファン(図3のファン91〜ファン95)によって冷却されるので、ヒートシンク4aのみで冷却している一般的なサーバ装置21よりも放熱面積が大きくなるため、より短時間で充分な冷却効果が得られる。なお、アクチュエータ16が移動するのに消費する電力は、ファン(図3のファン91〜ファン95)を高速回転させているときの電力よりも少なくなるように設計されている。また、上述したように、冷却装置1の構成は極めて単純なものであるため、冷却装置1は一般的なサーバ装置21の任意の箇所に容易に設置することができる。これにより、サーバ装置21を設計した後の工程やオーバーホール時においても、そのサーバ装置21の放熱設計を所望のレベルに容易に変更することができる。
【0031】
図4は、本発明の実施形態に係る冷却装置1の動作の流れを示すフローチャートである。したがって、図4に示すフローチャートの流れに沿って冷却装置1の動作を説明する。冷却装置1の動作は、サーバ装置21が稼動中において制御が行われる。そのため、先ず、BMC8によって、サーバ装置21のOS(Operating System)が稼動しているか否かの稼動状況が確認される(ステップS1)。ここで、OSが稼動していなければ(ステップS1でNo)、冷却装置1の動作は終了する。
【0032】
一方、OSが稼動している場合は(ステップS1でYes)、BMC8は、CPU4やPCIデバイス5の付近にある温度センサ4b、5bの情報、またはマザーボード3上にある温度センサの情報を収集する(ステップS2)。そして、BMC8は、通常負荷時の場合よりも検出温度が高い温度センサがあるか否かを判別する(ステップS3)。
【0033】
ここで、通常負荷時の場合よりも検出温度が高い温度センサがあれば(ステップS3でYes)、BMC8は、当該温度センサの検出温度が継続的に通常負荷時よりも高い温度であるか否かを確認する(ステップS4)。ここで、継続的に検出温度が高くなければ(ステップS4でNo)、ステップS2に戻り、温度センサ4b、5bなどの温度情報の収集を継続し、ステップS2〜ステップS4の処理を繰り返す。一方、継続的に検出温度が高ければ(ステップS4でYes)、BMC8は、故障したファン91〜95がないか否かを示すファンの稼動状況を取得する(ステップS5)。
【0034】
また、ステップS3で、通常負荷時の場合よりも検出温度が高い温度センサがなければ(ステップS3でNo)、BMC8は、アクチュエータ16に接続された熱分散シート17が冷却装置1の天板6に格納されているか否かを確認する(ステップS6)。ここで、熱分散シート17が冷却装置1の天板6に格納されていれば(ステップS6でYes)、ステップS1に戻り、ステップS1〜ステップS5の処理を繰り返す。一方、熱分散シート17が冷却装置1の天板6に格納されていなければ(ステップS6でNo)、アクチュエータ16に接続された熱分散シート17を冷却装置1の天板6に格納して(ステップS7)、ステップS1に戻り、ステップS1〜ステップS6の処理を繰り返す。
【0035】
すなわち、CPU4やPCIデバイス5やマザーボード3の付近の温度が継続的に高い場合にはアクチュエータ16を稼動させ、それらの温度が継続的に高くなければ、熱分散シート17を冷却装置1の天板6に格納した状態で待機する。これは、通常の負荷が発生している状態で冷却装置1を稼動させると電力を多く消費するので、初期設計の段階で、通常負荷の場合はファン91〜95による空気冷却のみで必要かつ充分な冷却ができるように設定されているためである。そのため、通常負荷では冷却装置1による熱の分散は不要であるので、熱分散シート17を天板6にしまい込むようにして、初期設計におけるエアフローの流れのルートを妨げないようにしている。
【0036】
再び、図4のステップS5に戻って、CPU4やPCIデバイス5やマザーボード3の付近の温度が継続的に高い場合には、BMC8は、ファン91〜95の稼動状況を取得した後にアクチュエータ16を稼動させる。すなわち、BMC8は、温度センサ4b、5bなどの温度情報やファン91〜95の稼動状況を考慮し、負荷(つまり、温度センサの検出温度)の高い領域と低い領域とを判別したり、ファン91〜95の故障箇所を判別したりして、制御対象となるアクチュエータ16を抽出する(ステップS8)。
【0037】
ここで、ステップS8に示すように、例えば3種類のモードによって、制御対象となるアクチュエータ16を抽出する。すなわち、
(1)CPU4の発熱温度が高く、PCIデバイス5の発熱温度が低い場合は、PCIデバイス5側に近いアクチュエータ16bによって、CPU4のヒートシンク4aの発熱を分散させる。
(2)CPU4の発熱温度が低く、PCIデバイス5の発熱温度が高い場合は、CPU4側に近いアクチュエータ16aによって、PCIデバイス5のヒートシンク5aの発熱を分散させる。
(3)ファン(ファン91〜ファン95)が故障した場合は、故障したファンに近いアクチュエータを使用して、一番近いところにある正常稼動のファンの前に発熱を分散させる。
【0038】
ステップS8に示す3種類のモードについてさらに詳しく説明する。図5は、図3に示すサーバ装置21において、CPU4の発熱温度が高くてPCIデバイス5の発熱温度が低い場合のアクチュエータ16の移動状態を示す平面視の構成図である。すなわち、この図は、前述の(1)に相当する場合のアクチュエータ16の移動状態を示している。
【0039】
図5に示すように、CPU4側の発熱温度が通常時よりも高く、PCIデバイス5側の発熱温度が通常と同じか通常より低い場合は、PCIデバイス5側に近いアクチュエータ16bがCPU4側へ移動する。これによって、アクチュエータ16bの熱分散シート17がCPU4のヒートシンク4aに接触し、CPU4側の発熱源を熱分散シート17へ伝達させてPCIデバイス5側に分散させる、したがって、CPU4側のファン91、ファン92を高速回転させなくてもCPU4を冷却させることができる。
【0040】
すなわち、冷却装置1の動作としては、PCIデバイス5側に近いアクチュエータ16bを動作させて、CPU4側のヒートシンク4aに熱分散シート17を接触させることで、CPU4の発熱を分散させて天板6に放熱させることができる。
【0041】
但し、CPU4側のヒートシンク4aに熱分散シート17を接触させているにも関わらずCPU4側の温度上昇が続く場合は、CPU4側に近いファン91、ファン92を高速回転させて冷却を行うことでサーバ装置21を安定的に稼動させる。このようにしてファン91、ファン92を高速回転させることにより消費電力は増加するが、熱分散シート17の接触によりCPU4側の発熱を分散させているため、ファン91、ファン92は、従来よりも低い回転数、または高速に回転する時間が少なくなるので、一般的なサーバ装置21よりも消費電力を削減することができる。
【0042】
次に、前述(2)の、CPU4の発熱温度が低く、PCIデバイス5の発熱温度が高い場合のアクチュエータ16の移動状態について説明する。図6は、図3に示すサーバ装置21において、CPU4の発熱温度が低くてPCIデバイス5の発熱温度が高い場合のアクチュエータ16の移動状態を示す平面視の構成図である。図6に示すように、CPU4側の発熱温度が低く、PCIデバイス5側の発熱温度が高い場合は、CPU4側に近いアクチュエータ16aをPCIデバイス5側へ動作させる。
【0043】
これによって、アクチュエータ16aの熱分散シート17がPCIデバイス5のヒートシンク5aに接触し、熱分散シート17を介してPCIデバイス5側の発熱をCPU4側に分散させる。このようにして、PCIデバイス5側のヒートシンク5aの発熱をCPU4側へ分散させることにより、PCIデバイス5の冷却を行う。したがって、PCIデバイス5側のファン94、95を高速回転させなくてもPCIデバイス5を効果的に冷却させることができる。
【0044】
次に、前述(3)の、ファン91〜95が故障した場合のアクチュエータ16の移動状態について説明する。図7は、図3に示すサーバ装置21において、ファン91〜95が故障した場合のアクチュエータ16の移動状態を示す平面視の構成図である。図7に示すように、例えば、ファン94が故障した場合は、BCM8は、故障したファン94に近いアクチュエータ16aを判別して抽出する。そして、抽出されたアクチュエータ16aを利用して、故障したファン94に近い発熱源のデバイス(例えば、PCIデバイス5)のヒートシンク5aに熱分散シート17を接触させる。
【0045】
これによって、故障したファン94に隣接したファン93やファン95を高速回転して冷却を行う通常の冷却方式よりも、アクチュエータ16aを介して、故障したファン94に近い発熱源を正常に稼動するファン93の近くに移動させることができるので、隣接するファン93の回転数を上昇させることなく、必要かつ充分な冷却を行うことができる。
【0046】
再び図4のフローチャートに戻り、ステップS8において、デバイスの発熱状態に応じて適正にアクチュエータ16を移動させている。これにより、所望のアクチュエータ16の駆動に伴って熱分散シート17を発熱箇所に接触させ、高温状態にある発熱源からの放熱を分散させる(ステップS9)。
【0047】
そして、BMC8は、該当する発熱源の温度がさらに上昇し続けるか否かを判定する、つまり、温度上昇が一定の閾値の範囲内に入っているか否かを判定する(ステップS10)。ここで、発熱源がさらに温度上昇をし続けて、温度上昇が一定の閾値の範囲を超える場合は(ステップS10でYes)、ファン91〜95のいずれかを高速回転させて(ステップS11)、処理を終了する。なお、発熱源の温度上昇が止まって、その温度上昇が一定の閾値の範囲内にある場合は(ステップS10でNo)、ステップS1に戻って前述の処理を継続する。
【0048】
以上述べたように、本実施形態の冷却装置1を適用することにより、温度センサ4b、5b、16cを監視して単純にファン91〜95の回転数を制御する既存のサーバ装置21よりも少ない消費電力によって効率的な冷却を行うことができる。すなわち、一般的なサーバ装置21は、その装置内における高発熱の箇所がシステムの負荷状態や時間の経過と共に動的に変化している。ところが、本実施形態のサーバ装置21では、複数のアクチュエータ16を利用することによって、より発熱量の少ないデバイスがある領域のアクチュエータ16を、発熱量の多いデバイスのヒートシンク4a、5aに接触させて発熱を分散させている。これによって、高い発熱箇所に近いファン91〜95の回転数を上昇させなくても充分な冷却効果が得られる。
【0049】
例えば、CPU4に対する負荷が大きくて、PCIデバイス5に対する負荷が小さい場合には、PCIデバイス5側に用意されたアクチュエータ16と熱分散シート17を利用してCPU4側の発熱を移動・分散させることにより、CPU4側及びPCIデバイス5側のファン91〜95の回転数を上昇させなくても充分な冷却効果が得られる。
【0050】
また、サーバ装置21の負荷が小さい場合は、冷却装置1の天板6にあるガイド14の中に熱分散シート17を格納することにより、ファン91〜95によって空気冷却を行うためのエアフローの流路を妨げないようにすることができる。これにより、熱伝達によって高温の発熱源となった熱分散シート17がCPU4やPCIデバイス5などの回路素子の上に存在しなくなり、電子回路の動作や部品寿命に与える悪影響を少なくすることができる。
【0051】
また、通常のサーバ装置は、本来必要な放熱設計を満たす個数よりも冗長的に多数のファン91〜95を搭載している。これによって、あるファン91〜95の故障時には、正常に動作するファ91〜95ンを高速回転させることにより、故障時における耐障害性能を向上させている。一方、本実施形態のサーバ装置21の場合は、冷却装置1(つまり、アクチュエータ16と熱分散シート17)を利用することにより、故障したファン91〜95で冷却されていたデバイスに熱分散シート17を接触させて、他の正常なファン91〜95で熱分散シート17と天板6を冷却している。これにより、故障したファン91〜95に隣接するファン91〜95を高速回転させる一般的な冗長化手法よりも、ファン91〜95の回転数を上昇させることなく少ない電力で所望の冷却が可能となる。
【0052】
また、一般のサーバ装置などに利用されるマザーボード3等の基板は、構成の組み替えによって様々な筐体に搭載することができる。ところが、サーバ装置の負荷状態によって変化する発熱源に対して、マザーボード3等の基板上に搭載された電子部品の配置を、構成の組み替えを行った各筐体ごとにほぼ最適なエアフローを考慮して設計することは難しい。ところが、本実施形態の冷却装置1を利用すれば、BMCによる温度監視によって動的に発熱を分散させることができる。その結果、マザーボード3等の基板を搭載する筐体ごとに放熱設計を最適化する必要がなくなるので、サーバ装置21などの設計コストの削減や電子部品の共通化を図ることができる。
【0053】
なお、上述した冷却装置1の実施形態の変形例として、熱分散シート17の代わりに、絶縁加工された熱伝導性の高い金属板や金属粒のゲルシートなどを利用することができる。但し、金属板等の発熱に起因する電子の熱振動によって生じるノイズ、すなわち熱雑音が問題となるため、必要なノイズ対策を行ってから金属板やゲルシートを利用する必要がある。また、上述した実施形態では、サーバ装置21に冷却装置1を適用した場合について説明したが、サーバ装置21に限定されることなく、あらゆる電子機器に対して上記の実施形態で述べた冷却装置1を適用することができる。
【0054】
以上、本発明に係る電子機器の冷却装置1、及び電子機器の冷却方法の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、本発明の具体的な構成は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、それらは本発明に含まれる。例えば、ファン91〜95を搭載していないような小型なモバイル機器であっても、内蔵されたCPU4や回路部品などの発熱温度を監視すれば、本発明の冷却装置1によって、装置内で発熱の高いデバイスの放熱を発熱の少ない箇所に効率よく分散させることができる。これによって、小型の電子機器でも充分な冷却効果を期待することができるので、電子機器のさらなる小型化に貢献することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る電子機器の冷却装置は、据置型のサーバ装置や電子機器などに限らず、構造上の面からファンを搭載することができないような小型の端末機器やモバイル機器などにも有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1 冷却装置
2 サーバ筐体
3 マザーボード
4 CPU
4a、5a ヒートシンク
4b、5b、16c 温度センサ
5 PCIデバイス
6 天板
7 駆動回路
8 BMC
91 ファン
92 ファン
93 ファン
94 ファン
95 ファン
11 超音波モータ
12 スライダ
13 ボールネジ
14 ガイド
15 固定具
16 アクチュエータ
16a アクチュエータ
16b アクチュエータ
17 熱分散シート
21 サーバ装置
Sg 信号線
Y 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器を構成し通電により発熱するデバイスと、前記デバイスの熱を放熱するヒートシンクと、前記ヒートシンクに向かって空気を送出し回転数を制御可能なファンと、を有する電子機器の冷却装置であって、
前記ヒートシンクより熱伝導率が高い熱分散部材と、
前記熱分散部材を前記ヒートシンクに対して接触または離間するように移動させるアクチュエータと、
前記デバイスの発熱量に基づいて前記アクチュエータの動作を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする電子機器の冷却装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記デバイスの発熱量が予め定めた通常時の発熱量より多い場合、前記アクチュエータの動作を制御することにより、前記熱分散部材を前記ヒートシンクに対して接触させることを特徴とする請求項1に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記デバイスの発熱量が予め定めた通常時の発熱量以下である場合、前記アクチュエータの動作を制御することにより、前記ファンから前記ヒートシンクへ向かう空気の流れを妨げない位置に前記熱分散部材を格納することを特徴とする請求項1又は2に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項4】
前記熱分散部材が、前記デバイスを収容する筐体に接触して設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項5】
前記アクチュエータが、
モータによって軸周りに回転駆動されるボールネジと、
前記熱分散部材が取り付けられて前記ボールネジに螺合されるスライダと、
を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項6】
前記モータが、超音波モータであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項7】
前記熱分散部材が、金属板を絶縁加工したものまたはゲルシートであることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記ファンの故障を検知した場合、前記アクチュエータの動作を制御することにより、故障した前記ファンに対応する前記ヒートシンクに対して前記熱分散部材を接触させることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項9】
前記電子機器がサーバ装置であって、前記デバイスがCPUまたはPCIデバイスであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項10】
前記制御部が、BMCであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の電子機器の冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−51302(P2013−51302A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188262(P2011−188262)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】