説明

電子機器の冷却装置

【課題】電子機器の半導体素子を、冷媒の蒸発熱により冷却する冷却装置において、電気ヒーターを使用せず、より消費電力量の少ない手段で、半導体素子の発熱量の変動に対応した冷却を可能とする。
【解決手段】半導体素子に熱的に接続した第1の蒸発器の冷媒出口側に、第2の蒸発器を設けて、第1の蒸発器に残存した液体冷媒を蒸発させる。電子機器内の発熱体を液体冷媒蒸発の熱源として利用するため、電力消費を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子計算機などの電子機器に用いられる半導体素子を冷却する冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子計算機などの電子機器に用いられる半導体素子には、その使用時に発熱して温度上昇するものがあり、発熱した半導体素子を冷却する冷却装置や冷却システムについて、多くの技術が開示されている。
特許文献1には、圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器を備えて、冷媒の蒸発熱により冷却を行う冷却装置を用い、その蒸発器を半導体素子に熱的に接続して、発熱する半導体素子を冷却する方法が記載されている。電子機器に使用される半導体素子のうち、特に発熱温度の高い素子を特定して、その温度を下げるものである。
【0003】
発熱する半導体素子に設置した温度センサーにより測定した半導体素子の温度をもとに、冷媒を圧縮する圧縮機の回転数を制御し、さらに冷媒を膨張させる膨張弁の開閉を制御することにより、蒸発器に供給される冷媒の圧力、温度および流量を調整して、半導体素子を冷却する。半導体素子の温度変化に応じて、圧縮機の回転数制御および膨張弁の開閉制御を行い、半導体素子を所定の低温に保持するものである。
【0004】
しかし、特許文献1では、半導体素子の発熱量が変動し、その温度変化が速い場合には、圧縮機および膨張弁の制御が、半導体素子の温度変化に追随できずに、発熱と冷却に時間的ずれを生じることとなる。このとき、発熱に対し冷却が不足となる場合には、蒸発器内の冷媒に、過熱蒸気となる部分が多くなり、半導体素子の均一な冷却は困難となる。一方、発熱に対し冷却が過剰となる場合には、蒸発器の冷媒出口近傍において、未蒸発の液体冷媒が多く残存することとなる。この液体冷媒がそのまま圧縮機に供給されると(リキッドバック(液戻り))、圧縮機の運転に不具合を生じる原因となる。
【0005】
このため、特許文献2では、蒸発器の冷媒出口側の配管に、冷媒を加熱する電気ヒーターを設ける。蒸発器から出た冷媒を圧縮機に送る配管に設置した電気ヒーターにより、液体冷媒を加熱して蒸発させ、液体冷媒が圧縮機に供給されるのを防止するものである。
圧縮機の回転数および膨張弁の開閉度を調節して、冷媒による冷却熱量(冷媒が発熱した半導体素子から奪う熱量)が、半導体素子の最大発熱量を越えるものとする。これにより、半導体素子の発熱量が増して最大発熱量となったときに、冷却不足を生じることはなく、一方、発熱量が減少して、冷却熱量が過剰となったときには、蒸発器の冷媒出口側配管に設けた電気ヒーターにより、液体冷媒を加熱してリキッドバックを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−196395号公報
【特許文献2】特開2001−203308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の方法によれば、半導体素子の発熱量変動に対応した冷却ができる。しかし、本方法は液体冷媒を加熱する手段として、電気ヒーターを用いる。このため、本方法は圧縮機、凝縮器、膨張弁などの運転に要する電力消費の他に、電気ヒーターによるエネルギー消費を要し、冷却装置として消費電力量が増す問題点を有する。
そこで、本発明は、電気ヒーターを使用せず、より消費電力量の少ない手段で、半導体素子の発熱量変動に対応した冷却を可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、蒸発器の冷媒出口側に第2の蒸発器を設けて、蒸発器の冷媒出口に残存した液体冷媒を、第2の蒸発器で蒸発させることにより解決できる。
請求項1に記載の発明は、圧縮機と凝縮器と膨張弁と第1蒸発器とを備えて、電子機器の半導体素子に前記第1蒸発器を熱的に接続して、冷媒の蒸発熱により、前記半導体素子を冷却する前記電子機器の冷却装置であって、前記第1蒸発器から前記冷媒が排出する出口側配管に接続した第2蒸発器と、前記第2蒸発器に空気を供給する送風ファンとを備えることを特徴とする電子機器の冷却装置に係るものである。
【0009】
本発明は、半導体素子に熱的に接続された第1蒸発器の冷媒出口側配管に第2蒸発器を設置する。圧縮機、凝縮器、膨張弁、第1蒸発器および第2蒸発器を備える電子機器の冷却装置の構成例を図1に示す。図1の電子機器の冷却装置において、冷媒は圧縮機30において圧縮され、高圧高温の蒸気となって、凝縮器31に送られる。凝縮器31において、高圧高温の冷媒蒸気は冷却されて、凝縮し、液化した高圧の液体冷媒となる。さらに液体冷媒は膨張弁32により、膨張して低圧低温となり、液体冷媒と蒸気が共存する状態となって、第1蒸発器20に送られる。
【0010】
第1蒸発器20は半導体素子10と熱的に接続し、第1蒸発器20を通過する液体冷媒が蒸発することにより、発熱した半導体素子10を冷却する。半導体素子10から熱を奪って蒸発し、蒸気となった冷媒は、圧縮機30に吸い込まれ、再び圧縮される。第1蒸発器20の冷媒出口22に残存した液体冷媒があるときは、第1蒸発器20の冷媒出口側配管23に接続された第2蒸発器40において、その液体冷媒は蒸発し、蒸気となって、圧縮機30に送られる。
【0011】
第2蒸発器40は伝熱管45を備え、第2蒸発器40の冷媒入口41から入った冷媒は、伝熱管45内を通って、冷媒出口42から排出される。第2蒸発器40の近傍に設置された送風ファン50により供給された空気が第2蒸発器40を通過する際、伝熱管45内を流れる液体冷媒が、その空気から熱を奪うことにより、液体冷媒の蒸発が促進される。
請求項1に記載の発明を実施して、製造した電子機器の冷却装置を用い、電子機器の半導体素子10を冷却することにより、以下に述べる効果が得られる。
冷却装置による冷却が、半導体素子10の発熱に対し過剰となるときは、第1蒸発器20の冷媒出口22において、未蒸発の液体冷媒が多く残存することとなる。しかし、この残存した液体冷媒は、第1蒸発器20の冷媒出口側配管23に接続した第2蒸発器40を通過するときに、すべて蒸発して、圧縮機30に送られるため、液体冷媒が圧縮機30に供給される「リキッドバック」は防止される。
【0012】
第2蒸発器40には、送風ファン50により空気が供給される。第2蒸発器40を通過する液体冷媒は、送風ファン50により供給された空気から熱を奪い、蒸発する。電子機器には半導体素子10の他にも、リアクトル、コンデンサーなどの発熱体11がある。これら発熱体11の周囲の空気を吸引して、第2蒸発器40に送風できるように、第2蒸発器40および送風ファン50を配置することにより、加温された空気が第2蒸発器40に供給され、液体冷媒の蒸発が促進される。送風ファン50の運転に電力を要するが、電子機器内の発熱体11を冷媒蒸発の熱源とするため、電気ヒーターによる加熱を熱源とするより、電力消費を減少することができる。
【0013】
このように、請求項1に記載の発明を実施した電子機器の冷却装置を用いて、半導体素子11を冷却すれば、第2蒸発器40の作用により、第1蒸発器20の冷媒出口22に残存した液体冷媒を蒸発させて、圧縮機30に供給するため、「リキッドバック」を防止することができる。また、電子機器内の発熱体11を冷媒蒸発の熱源として利用するため、電気ヒーターと比べて、電力消費を低減できる効果が得られる。
【発明の効果】
【0014】
上記に述べたように、請求項1に記載の発明によれば、第1蒸発器20の冷媒出口22に残存した液体冷媒は、第1蒸発器20の冷媒出口側配管23に接続した第2蒸発器40を通過することにより、すべて蒸発して、圧縮機30に送られるため、「リキッドバック」を防止できる。また、電子機器の発熱体11を熱源とし、その周囲の空気を、送風ファン50により第2蒸発器40に供給して、液体冷媒を蒸発させるため、電気ヒーターと比べて、電力消費を削減できる効果が得られる。
請求項1に記載の発明によれば、電気ヒーターを使用せず、より消費電力量の少ない手段で、半導体素子10の発熱量変動に対応した冷却が可能となり、本発明の解決課題は解決される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る電子装置の冷却装置の構成例を表す図である。
【図2】実施例1に係る第2蒸発器に設置した温度センサーの設置箇所を表す図である。
【図3】実施例1に係る温度センサーによる測定温度のパターンを表した図である
【図4】実施例1に係る送風ファンの運転制御の流れ図を表す図である。
【図5】実施例2に係る送風ファンの運転制御の流れ図を表す図である。
【図6】実施例3、4に係る電子装置の冷却装置の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に示した電子機器の冷却装置を使用して、本発明を実施した例について、以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記第2蒸発器の伝熱管に設置した前記温度センサーにより測定した前記伝熱管の温度をもとに、前記送風ファンの回転数を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器の冷却装置に係るものである。
【0018】
本発明は、第2蒸発器40を通過する液体冷媒の量に対応して、送風ファン50の回転数を増減し、第2蒸発器40に供給される空気の風量を調節することを特徴とする。すなわち、第2蒸発器40を通過する液体冷媒の量が少なく、蒸発によって、空気から奪う熱量が少ないときは、送風ファン50の回転数を減じて、風量を減少する。第2蒸発器40を通過する液体冷媒が多いときは、風量を増して、蒸発を促進する。
【0019】
第2蒸発器40に供給された空気は、液体冷媒の蒸発により熱を奪われる。このとき、空気が冷媒によって奪われる熱量、すなわち空気から冷媒への伝熱量(kW(1秒あたりの伝熱量))は、第2蒸発器40に供給される空気の風量(m/min(立方メートル毎分))に依存する。風量を増すときは、伝熱量は増大し、風量を減少するときは、伝熱量は減少する。空気から冷媒への伝熱量(kW)が減少するならば、空気の熱を奪って蒸発する液体冷媒の量(g/min)が減少する。
【0020】
したがって、液体冷媒の量が少ないときは、風量を減少して、伝熱量(kW)を減らしても、そのすべてを蒸発させることができる。これに対し、液体冷媒の量が多いときには、風量を増すことによって、そのすべてを蒸発させることができる。
このように、本発明は、液体冷媒の多少に応じて、風量を増減し、第2蒸発器40を通過する液体冷媒のすべてを蒸発させるために必要で十分な風量とする。これによって、液体冷媒量に対し過剰となる風量の供給を無くして、送風ファン50の運転に要する電力消費の削減を可能とする。
【0021】
第2蒸発器40の伝熱管45内に存在する液体冷媒量の多少は、伝熱管45に設置した温度センサーにより測定した伝熱管45の温度をもとに判断する。
請求項3に記載した発明の実施として、図1に示した電子機器の冷却装置を用い、送風ファン50の回転数を増減して、送風ファン50を運転した。
【0022】
図1の冷却装置において、圧縮機30の回転数および膨張弁32の開閉度を調節して、冷媒による冷却熱量を、半導体素子10の最大発熱量より多いものとした。これにより、半導体素子10の発熱量が最大となったときでも、冷却熱量は半導体素子10の発熱量より多く、第1蒸発器20の冷媒出口22において、液体冷媒が残存することとなる。
第2蒸発器40の冷媒入口41から冷媒出口42に至る伝熱管45の5箇所において、温度センサーを設置した。各温度センサーによる測定値を比較して、伝熱管45の5箇所を通過する冷媒の温度を比較するものである。この5箇所は等間隔に設定した。なお、ここでは伝熱管45の表面に接して、温度センサーを設置したが、伝熱管45内に温度センサーを挿入して、温度を測定することもできる。また、伝熱管45にフィンが付いている場合には、フィンの表面に接して温度センサーを設置することができる。
【0023】
この5箇所の温度センサーについて、図2に示すように、冷媒入口41から順に、a、b、c、d、eと表示する。すなわち、冷媒入口41の温度センサーがa、冷媒出口42の温度サンサーがeであり、その間に、等間隔に配置された温度センサーがb、c、dである。
【0024】
冷却装置を運転して、半導体素子10を冷却するとともに、第2蒸発器40の伝熱管45に設置した温度センサーによる温度測定を実施した。各温度センサーによる測定値を比較した結果は、図3に示す5種類のパターンA〜Eにまとめることができる。
【0025】
図3において、各パターンの横軸は温度センサー(a〜e)の表示を、縦軸は各温度センサーによる測定温度を、それぞれ表す。
パターンAでは、温度センサーa〜eのすべてが同一温度を示す。温度センサーb、c、d、eのいずれも、冷媒入口41の温度センサーaと同じ温度であり、冷媒入口41から冷媒出口42まで、液体冷媒と蒸気が共存する。第1蒸発器20から送られた液体冷媒が、第2蒸発器40を通過する間にすべて蒸発しなかったためであり、冷媒出口42に残存した液体冷媒が圧縮機30に送られることとなる。したがって、パターンAの状態になる前に、送風ファン50の回転数を増して、すべての液体冷媒を蒸発させ、パターンAを回避する必要がある。
【0026】
パターンBでは、温度センサーa〜dは同一温度を示す。これに対し、温度センサーeの温度は他より高い温度である。このとき、伝熱管45内の冷媒の状態はつぎのようである。第1蒸発器20から送られた冷媒は、液体冷媒と蒸気が共存した状態(湿り蒸気の状態)で、第2蒸発器40の冷媒入口41に入る。液体冷媒は、送風ファン50により供給された空気から熱を奪って蒸発しながら、伝熱管45内を移動する。蒸発により、液体冷媒は減少していくが、液体冷媒と蒸気が共存する状態では、圧力一定のもと(伝熱管45内の圧力損失はなしとする。)、温度(蒸発温度)は一定に保持される。しかし、さらに蒸発が進行して、液体冷媒がすべて蒸気となる状態では、蒸気は過熱蒸気となって、その温度は上昇する。
【0027】
したがって、温度センサーa(冷媒入口41)と温度が等しい温度センサーb、c、dの位置では、液体冷媒と蒸気が共存した状態であり、液体冷媒が存在している。一方、温度センサーeの位置(冷媒出口42)では、冷媒入口41より温度が高く、冷媒は過熱蒸気の状態であり、液体冷媒は存在しない。冷媒出口42に液体冷媒は残存しないため、液体冷媒が圧縮機30に送られることはない。しかし、パターンBの状態において、半導体素子10の発熱量が急に減少し、第2蒸発器40に送られる液体冷媒の量が急激に増大したときには、パターンAになるおそれがある。
【0028】
パターンCでは、温度センサーa〜cは同一温度を示し、温度センサーa、b、cの位置では、液体冷媒と蒸気が共存する。これに対し、温度センサーdとeの温度は、a〜cより高い温度であり、温度センサーd、eの位置では液体冷媒はすべて蒸発し、過熱蒸気になったことを示す。冷媒出口42の手前である温度センサーdの位置において、冷媒が過熱蒸気であるのは、第2蒸発器40を通過する液体冷媒の量に対し、送風ファン50による風量が過剰であることによる。
【0029】
半導体素子10の発熱量の急激な減少により、第2蒸発器40に送られる液体冷媒の量が急に増して、パターンCがパターンBになったときには、送風ファン50の回転数を増して、パターンCに戻すことができる。これに対し、パターンBがパターンAになったときには、送風ファン50の回転数を増して、パターンBに戻す前に、液体冷媒が圧縮機30に送られてしまうおそれがある。したがって、半導体素子10の発熱量の急激な変動を考慮すれば、パターンBではなく、パターンCの状態に保持できるよう、送風ファン50の回転数を制御することが望ましい。
【0030】
パターンDでは、温度センサーa、bは同一温度を示し、a、bの位置では、液体冷媒と蒸気が共存するが、温度センサーc、d、eは、温度センサーa、bより高い温度を示し、c、d、eの位置では、過熱蒸気になっている。また、パターンEでは、温度センサーb〜eのすべてが、aより高い温度を示し、過熱蒸気の状態である。パターンD、パターンEのいずれも、風量が過剰で、液体冷媒は冷媒入口を通過後、すぐ過熱蒸気となっている。したがって、風量を減少して、パターンCの状態にすることが求められる。
【0031】
以上に述べたように、風量の観点、すなわち送風ファンの電力消費の点ではパターンBがパターンCより良いが、半導体素子10の発熱量の急激な変動を考慮すれば、パターンCに保持することが望ましい。
【0032】
すなわち、パターンD、Eでは、風量が過剰であり、送風ファン50の回転数を減少して、電力消費を削減することを要する。パターンBでは、温度センサーeの位置(冷媒出口42)のみが、過熱蒸気の状態であり、送風ファン50による風量は、液体冷媒をすべて、第2蒸発器40内で蒸発させるのに適した風量である。しかし、半導体素子10の発熱量が急に減少したときには、冷媒出口42に液体冷媒が残存するおそれがある。一方、パターンCでは、風量は液体冷媒の量に対して多いが、半導体素子の発熱量が急激に減少したときでも、パターンBの状態となって、冷媒出口42に液体冷媒が残存することを防止できる利点がある。
【0033】
そこで、冷却装置の運転時に、温度センサーa〜eによる測定温度をパターンCに保持することを目標として、送風ファン50の回転数を制御した。その制御の方法は、図4に示した流れ図に従った。
図4におけるステップ1では、温度センサーa〜eによって測定した温度が、パターンDまたはパターンEに該当するか否かを判断する。パターンDまたはパターンEに該当するときは、送風ファン50の回転数を減少して、風量を減らす。パターンD、パターンEのいずれにも該当しないときには、ステップ2に進む。
【0034】
ステップ2では、温度センサーa〜eによる測定温度が、パターンCに該当するか否かを判断する。パターンCに該当するときは、送風ファン50の回転数を変更せず、そのときの風量を維持する。パターンCに該当しないときには、ステップ3に進む。
【0035】
ステップ3では、温度センサーa〜eによる測定温度は、パターンC、D、Eのいずれにも該当しない場合であるので、送風ファン50の回転数を増大して、風量を増す。
図4の流れ図に従って、送風ファン50の回転数を制御したときの結果は、次のようであった。半導体素子10の発熱量が増して、最大発熱量に近づいたときに、温度センサーa〜eによる測定温度がパターンDを示したときには、送風ファン50の回転数が減少して、パターンCになった。また、半導体素子の発熱量が減少して、温度センサーa〜eによる測定温度がパターンBを示したときには、送風ファン50の回転数が増して、パターンCになった。このように、半導体素子10の発熱量が変動して、温度センサーa〜eによる測定温度がパターンCから、はずれたときには、送風ファン50の回転数が増加または減少して、パターンCに復帰した。
【0036】
したがって、図4の流れ図に従えば、測定温度の温度パターンは、パターンCが基本となり、パターンCから、はずれたときには、送風ファン50の回転数の増減によって、パターンCに復帰して、パターンCの状態を保持できる結果であった。パターンCを基本とすることで、伝熱管45内の液体冷媒量に対し過剰となる風量の供給を無くして、送風ファン50の運転に要する電力消費を削減することができた。
【実施例2】
【0037】
以上の実施例1では、圧縮機30の回転数および膨張弁32の開閉度を調節して、冷媒による冷却熱量を、半導体素子10の最大発熱量より多いものとしたが、冷却熱量を半導体素子10の最大発熱量と同じにすることもできる。かかる場合、半導体素子10の発熱量が最大になったときには、第1蒸発器20を通過する液体冷媒がすべて蒸発して、冷媒出口22に液体冷媒が残存しない状態が生じうる。この場合、請求項4に記載の発明の実施によって、送風ファン50の運転停止時間を作ることが可能となり、送風ファン50の運転に要する電力消費を低減できる。
【0038】
請求項4に記載の発明は、前記第1蒸発器の冷媒入口および出口に設置した前記温度センサーによる測定値と、前記送風ファンにより前記第2蒸発器に供給される空気の入口および出口に設置した前記温度センサーによる測定値をもとに、前記送風ファンの運転を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の電子機器の冷却装置に係るものである。
【0039】
請求項1に記載の発明において、第1蒸発器20の冷媒出口22に残存した液体冷媒は、第2蒸発器40を通過するときに蒸発する。このとき、液体冷媒は、送風ファン50によって供給された空気から熱を奪うことにより、その蒸発が促進される。したがって、送風ファン50の運転は液体冷媒の速やかな蒸発に有効であるが、送風ファン50の運転は、できるだけ短時間として、電力消費を低減することが望ましい。
【0040】
そこで、請求項4に記載の発明は、第1蒸発器20および第2蒸発器40に設置した温度センサーによる測定値をもとに、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒が残存せず、かつ第2蒸発器40に液体冷媒が存在しないと判断できるときは、送風ファン50の運転を停止することとする。ただし、基本的には半導体素子10が冷却不足とならないように、第1蒸発器20へは十分な冷媒を送るので、冷媒出口22には冷媒が残存する。
【0041】
請求項4に記載の発明による送風ファン50の運転制御を、図5に示す流れ図をもとに説明する。流れ図において、第1ステップとして、第1蒸発器20の冷媒入口21に設置した第1温度センサーと、冷媒出口22に設置した第2温度センサーにより、それぞれ冷媒入口21および冷媒出口22の温度を測定する。そして、第1温度センサーによる測定値、すなわち第1蒸発器20の冷媒入口21の温度(以下、T1)と、第2温度センサーによる測定値、すなわち冷媒出口22の温度(以下、T2)とを比較する。
【0042】
両温度を比較して、冷媒出口温度(T2)が冷媒入口温度(T1)より高いときは、次の第2ステップに進む。第1蒸発器20の冷媒出口22において、液体冷媒が残存しないときは、冷媒出口22での冷媒は過熱蒸気となり、T2はT1より高くなる。したがって、T2がT1より高いときは、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒は無いとして、第2ステップに進むこととする。
【0043】
一方、T2がT1より高くないとき、すなわちT2がT1に等しいときは(なお、通常、T2がT1より低いことは生じない。)、送風ファン50のスイッチをONにして、運転を開始する(すでに運転しているときは、運転を続行する。)。第1蒸発器20の冷媒出口22において、液体冷媒が残存し、液体冷媒と蒸気が共存しているときは、T2はT1に等しい。したがって、T2がT1に等しいときは、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒が残存しているとして、これを第2蒸発器40で速やかに蒸発するべく、送風ファン50を運転するものである。
【0044】
第1ステップにおいて、T2がT1より高いときは、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒は無いと判断して、第2ステップに進むこととした。第2ステップでは、第2蒸発器40において、送風ファン50によって供給される空気の入口43に第3温度センサーを、空気の出口44に第4温度センサーをそれぞれ設置して、空気入口43および空気出口44における空気温度を測定する。そして、第3温度センサーによる測定値、すなわち第2蒸発器40の空気入口43の空気温度(以下、T3)と、第4温度センサーによる測定値、すなわち空気出口44の空気温度(以下、T4)とを比較する。
【0045】
両温度を比較して、T4がT3と等しいときは、送風ファン50のスイッチをOFFにして、運転を停止する。第2蒸発器40内の液体冷媒がすべて蒸発し、第2蒸発器40内に液体冷媒が存在しないときは、液体冷媒の蒸発による空気の冷却はないため、T4はT3と変わらない。したがって、T4がT3と等しいときは、第2蒸発器40内に送られた液体冷媒はすべて蒸発したとして、送風ファン50の運転を停止することとする。
なお、以上において、「T4がT3と等しいとき」と記したが、温度センサーによる測定値の誤差を考慮して、「T4がT3と等しいとき」を、例えば、「T4とT3の差が±1℃の範囲内にあるとき」とすることもできる。
【0046】
一方、T4がT3と等しくないとき、すなわちT4がT3より低いときは、送風ファン50の運転を続行して、送風を続ける。(なお、通常、T4がT3より高いことは生じない。)第2蒸発器40に送られた液体冷媒が、第2蒸発器40を通過しているとき、蒸発して、送風ファン50により供給された空気から熱を奪うため、その空気の温度は低下し、T4はT3より低くなる。したがって、T4がT3より低いときは、第2蒸発器40内に液体冷媒が存在しているとして、この液体冷媒を蒸発させるべく、送風ファン50の運転を続行する。
【0047】
第1ステップにおいて、T2がT1より高いときは、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒は無いと判断した。しかし、このT2がT1より高くなる前は、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒が残存する状態であり、残存した液体冷媒が第2蒸発器40に送られている。この液体冷媒が、このときまでにすべて蒸発せず、第2蒸発器40内に残存するときは、送風ファン50の運転を続行して、これを蒸発させるものである。
以上のように、図5の流れ図において、第1ステップでは、第1蒸発器20の冷媒入口21および冷媒出口22で測定した温度をもとに、冷媒出口22に液体冷媒が残存するか否かを判断する。冷媒出口22に液体冷媒が残存すると判断されるときは、送風ファン50を運転する。
【0048】
冷媒出口22において、液体冷媒は存在しないと判断されるときは、ただちに、送風ファン50の運転を停止せず、第2ステップにて、運転停止の可否を判断する。第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒が残存しないときに、第2蒸発器40内に液体冷媒が存在することもあり、この液体冷媒をすべて蒸発させるまでは、運転を停止しないとしたものである。
第2ステップでは、第2蒸発器40の空気入口43および空気出口44で測定した空気の温度をもとに、第2蒸発器40内に液体冷媒が存在するか否かを判断する。第2蒸発器40内に液体冷媒が存在すると判断されるときは、送風ファン50の運転を続行し、液体冷媒を蒸発させる。液体冷媒が存在しないと判断されるときは、送風ファン50の運転を停止する。
【0049】
以上より、本発明によれば、第1蒸発器20および第2蒸発器40に設置した温度センサーによる測定値をもとに、第1蒸発器20の冷媒出口22に液体冷媒が残存せず、かつ第2蒸発器40内に液体冷媒が存在しないと判断されるときは、送風ファン50の運転を停止して、電力消費を削減することができる。
【実施例3】
【0050】
また、図1の電子機器の冷却装置の構成に加えて、図6に示すように、熱交換器60を備えることができる。熱交換器60において、第2蒸発器40から排出された冷媒と、凝縮器31から出た液体冷媒との間で、熱交換させるものである。図4の流れ図による、送風ファン50の回転数制御にトラブルが生じ、第2蒸発器40の冷媒出口42において液体冷媒が残存したときには、熱交換器60において、残存した液体冷媒を蒸発させることができる。
【実施例4】
【0051】
さらに、図6において、圧力調整弁61を、第2蒸発器40の冷媒入口側配管と冷媒出口側配管のいずれか一方、あるいは両方に設置することができる。いずれか一方に設置する場合は、第2蒸発器40の冷媒入口側配管にある方が、第2蒸発器40内の液体冷媒の蒸発量を調整しやすいので望ましい。圧力調整弁61によって、第2蒸発器40内の冷媒の圧力を変えることにより、第2蒸発器40内の液体冷媒の蒸発量を調整することができる。したがって、この圧力調整弁61による圧力制御と、送風ファン50の回転数の制御とを組み合わせて、回転数をより減少した送風ファン50の運転を図ることができる。
【符号の説明】
【0052】
10 半導体素子
11 発熱体
20 第1蒸発器
21 第1蒸発器の冷媒入口
22 第1蒸発器の冷媒出口
23 第1蒸発器の冷媒出口側配管
30 圧縮機
31 凝縮器
32 膨張弁
40 第2蒸発器
41 第2蒸発器の冷媒入口
42 第2蒸発器の冷媒出口
43 第2蒸発器の空気入口
44 第2蒸発器の空気出口
45 伝熱管
50 送風ファン
60 熱交換器
61 圧力調整弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と凝縮器と膨張弁と第1蒸発器とを備えて、電子機器の半導体素子に前記第1蒸発器を熱的に接続して、冷媒の蒸発熱により、前記半導体素子を冷却する前記電子機器の冷却装置であって、前記第1蒸発器から前記冷媒が排出する出口側配管に接続した第2蒸発器と、前記第2蒸発器に空気を供給する送風ファンとを備えることを特徴とする電子機器の冷却装置。
【請求項2】
前記第1蒸発器または前記第2蒸発器に設置した温度センサーによる測定値をもとに、前記送風ファンの運転を制御することを特徴とする請求項1に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項3】
前記第2蒸発器の伝熱管に設置した前記温度センサーにより測定した前記伝熱管の温度をもとに、前記送風ファンの回転数を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項4】
前記第1蒸発器の冷媒入口および出口に設置した前記温度センサーによる測定値と、前記送風ファンにより前記第2蒸発器に供給される空気の入口および出口に設置した前記温度センサーによる測定値をもとに、前記送風ファンの運転を制御することを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項5】
前記第2蒸発器から排出された前記冷媒と、前記凝縮器から出た液体冷媒との間で、熱交換させる熱交換器を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4に記載の電子機器の冷却装置。
【請求項6】
前記第2蒸発器の冷媒入口側配管と冷媒出口側配管のいずれか一方、あるいは両方に圧力調整弁を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5に記載の電子機器の冷却装置。

























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−89620(P2013−89620A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225664(P2011−225664)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】