説明

電子機器の構成部材を製造するために有用な有機化合物および重合体

【課題】電子機器の構成部材を構成するために有用な新規の有機化合物を提供すること。
【解決手段】芳香環上の置換基として、ハロゲンおよびアルコキシル基、並びに2つまたはそれ以上の重合が可能な基を有する有機化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の構成部材、好ましくは有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の中間層(例えば正孔輸送層または電子輸送層)、または太陽電池の光電変換層(例えばp型半導体層またはn型半導体層)などを製造するために有用な有機化合物、およびそれから得られる重合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を利用した有機ELディスプレイは、自ら発光する物質からなる発光層を備えているため、バックライトが必要な液晶ディスプレイに比べて、軽量化、薄型化が可能であり、さらに、消費電力を低く抑えられること、輝度が明るく色鮮やかな画像が得られること、視野角が大きいこと、応答性が高く動画にも向いていること等の多くの長所を備えている。
【0003】
この有機EL素子には、発光層の発光効率を高めるため、陽極側に正孔輸送層が、発光層の陰極側に電子輸送層が設けられることが多い。この正孔輸送層は、陽極からの電子を発光層へ効率よく移動させるとともに、発光層に入った電子が電子輸送層へ移動してくるのを防止する機能を有し、電子輸送層は、陰極からの電子を発光層へ効率よく移動させる機能を有する。
【0004】
正孔輸送層としては、発光層からの電子移動を防止するため、LUMO(または伝導体)のエネルギー準位とHOMO(または価電子帯)のエネルギー準位との差、即ちバンドギャップが大きいものが好ましい。また電子移動層としては、陰極から電子を効率よく受け取って移動させるために、エネルギー準位が低い(エネルギー準位(eV)が正に大きい)ものが好ましい。
【0005】
特許文献1は、有機ELディスプレイの表示特性(色純度など)の低下を防止するために、有機ELデバイス(素子)の発光層と電子輸送層との間に、電子輸送層のバンドギャップよりも大きいバンドギャップを有する発光防止層を存在させることを提案している(特に請求項1、段落0006および段落0007参照)。
【0006】
以上のように有機EL素子の分野では、中間層(重合体)のLUMOおよびHOMOのエネルギー準位、およびバンドギャップをコントロールし得る中間層形成用の有機化合物(単量体)が求められている。例えば特許文献2では、バンドギャップ等を調節するための分子設計が容易な中間層形成物質として、新規なアミン誘導体を提案している(特に請求項1および段落0008参照)。また特許文献2では、前記アミン誘導体を含む有機膜を、正孔輸送層と発光層との間の中間層として用いることも提案している(特に請求項7参照)。
【特許文献1】特開2005−35564号公報、請求項1、段落0006、段落0007
【特許文献2】特開2005−183404号公報、請求項1、請求項7、段落0008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、電子機器の構成部材、好ましくは有機EL素子の中間層を構成するために有用な新規の有機化合物、特に有機EL素子の中間層を形成する重合体のエネルギー準位およびバンドギャップをコントロールすることができる新規単量体を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成し得た本発明の有機化合物とは、芳香環上の置換基として、ハロゲンおよびアルコキシル基、並びに2つまたはそれ以上の重合が可能な基を有する有機化合物である。本発明の有機化合物の中で好ましいものは、下記の一般式(1)で表されるものである〔式中、R1およびR2は、同じまたは異なる基であって、重合が可能な基を表し、R3は、炭素数が1〜20の炭化水素基、または炭素数が1〜20で、ハロゲンを有する炭化水素基を表し、Xはハロゲンを表し、aは1〜3の数であり、bは1〜3の数であり、aとbとの合計は4である。〕。
【0009】
【化1】

【0010】
本発明の有機化合物の中でより好ましいものは、以下の一般式(2)で表される有機化合物である〔式中、R1およびR2は、同じまたは異なる基であって、重合が可能な基を表し、R3は、炭素数が1〜20の炭化水素基、または炭素数が1〜20で、ハロゲンを有する炭化水素基を表し、Xはハロゲンを表す。〕。
【0011】
【化2】

【0012】
前記化合物において、芳香環上の置換基としてのハロゲンは、フッ素であることが好ましい。また式中のR1およびR2は、好ましくは同じ基であって、−CHO、−CH2X’〔式中、X’はハロゲンを表す。〕、−CH2CNおよび−CH2PO(OR42〔式中、R4は、炭素数が1〜20であるアルキル基を表す。〕からなる群から選ばれる。より好ましいR3は、CH3(CH23CH(C25)CH2−またはCF3(CF24CH2−である。
【0013】
本発明は、前記有機化合物(単量体)から製造された重合体も提供する。本発明の有機化合物からは、以下で示すようなバンドギャップが広いおよび/またはエネルギー準位が低い(共)重合体を製造することができる。よって本発明の(共)重合体は、好ましくは電子機器の構成部材として、より好ましくは有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層、例えば電子輸送層、正孔輸送層、前記特許文献1に記載されているような発光防止層、前記特許文献2に記載されているような正孔輸送層と発光層との間の中間層などとして、またはより好ましくは太陽電池の光電変換層として有用である。このことから同様に、本発明の有機化合物は、好ましくは電子機器の構成部材、より好ましくは有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層または太陽電池の光電変換層を形成するために有用である。
【発明の効果】
【0014】
驚くべきことに、芳香環上の置換基として、ハロゲンおよびアルコキシル基、並びに2つまたはそれ以上の重合が可能な基を有する有機化合物を、(共)重合体を製造するための単量体として用いると、バンドギャップの大きな(共)重合体が得られることを見出した。この効果の理由として、前記有機化合物の芳香環上に存在するハロゲンは、水素原子よりも大きく、また電子的に反発するため、重合体中の前記有機化合物に由来する芳香環同士、または共重合体中の前記有機化合物に由来する芳香環と他の芳香環との接近を妨げて、π電子雲の重なりが少なくなることが考えられる。またアルコキシル基(R3O)も、芳香環の接近を妨げ得るので、バンドギャップの拡大に寄与することも考えられる。しかし本発明は、このような推定メカニズムには限定されない。
【0015】
またハロゲンは電子吸引性基としても働くため、本発明の有機化合物は、(共)重合体のエネルギー準位を下げる効果を有する。従って本発明の有機化合物から得られる(共)重合体は、有機EL素子の電子輸送層に利用することも期待される。同様に本発明の(共)重合体は、n型半導体材料として太陽電池に利用することが期待される。さらにハロゲンによりバンドギャップをコントロールすることで本発明の(共)重合体に、n型半導体とは別の位置に光吸収帯を持たせることができる。よってn型半導体材料とは別の作用を持つ材料またはp型半導体材料として、本発明の(共)重合体を、太陽電池に使用することが考えられる。
【0016】
さらに驚くべきことに、本発明の有機化合物は、有機溶剤、例えばトルエンやクロロホルムへの(共)重合体の溶解度を向上させる効果も有することを見出した。溶解度は様々な因子が影響するため、本発明の有機化合物が(共)重合体の溶解度を向上させるメカニズムは不明である。しかしながら本発明の有機化合物のアルコキシル基が、(共)重合体の結晶性を低下させるため、溶解度が向上するのではないかと推測することができる。(共)重合体の溶解度が向上し、(共)重合体溶液を調製し得ることは、特に有機EL素子などの中間層を形成するために有用である。なぜなら該中間層を、(共)重合体溶液の塗布・乾燥によって、容易に形成できるからである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の有機化合物は、芳香環上の置換基として、ハロゲンおよびアルコキシル基を有することを特徴とする。芳香環としては、例えばベンゼン、ナフタレン若しくはアントラセンのような芳香族系の炭化水素化合物、またはチオフェン、ピロール若しくはピリジンのような芳香族系の複素環式化合物が挙げられる。本発明の有機化合物は、このような芳香環上に、ハロゲン、アルコキシル基、および重合が可能な基を有するが、これら以外の任意の置換基、例えばアルキル基などを有しても良い。
【0018】
本発明の有機化合物は、2つまたはそれ以上の重合が可能な基を有し、これらの基によって(共)重合体を形成することができる。本発明の有機化合物は、3つ以上の重合が可能な基を有することもできるが、得られる(共)重合体の溶解性の観点から、重合が可能な基は2つであることが好ましい。
【0019】
本発明の有機化合物の中で好ましいものは、前記一般式(1)で表されるものである。エネルギー準位が低い(共)重合体が望まれる場合は、前記一般式(1)において、ハロゲンの数(即ちa)が大きいことが好ましく、一方、(共)重合体の溶解度の観点からは、アルコキシル基の数(即ちb)が大きいことが好ましい。本発明の有機化合物の中で特に好ましいものは、前記一般式(2)で表されるものである。
【0020】
前記一般式(1)および(2)においてXで表されるハロゲンとして、またはR3中に含まれるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素が挙げられる。殊にエネルギー準位の低い(共)重合体が望まれる場合は、電気陰性度の大きなフッ素が好ましい。本発明の有機化合物において2個以上のハロゲンが含まれる場合、それらのハロゲンは同じものでも、異なるものでも良い。エネルギー準位などの観点から、一般式(1)および(2)中の全てのXがフッ素である有機化合物が好ましい。
【0021】
本発明の有機化合物のアルコキシル基は、(共)重合体の結晶性を低下させて、溶解度を向上させる効果を有すると考えられる。この溶解度の観点から、アルコキシル基(またはR3)の炭素数は大きいことが好ましい。しかし炭素数があまりに大きいと、(共)重合体の導電性またはバンドギャップに悪影響を及ぼすことも考えられる。よって溶解度、導電性またはバンドギャップ、さらに製造容易性(原料の入手容易性)などを総合的に考慮して、R3は、好ましくは炭素数が1〜20、より好ましくは2〜16、さらに好ましくは4〜12の炭化水素基、好ましくはアルキル基、アルケニル基またはアルキニル基、より好ましくはアルキル基である。好ましいR3として、CH3(CH23CH(C25)CH2−が挙げられる。
【0022】
(共)重合体のエネルギー準位をさらに下げるために、R3は、ハロゲン、好ましくはフッ素を有していても良い。ハロゲンを有する好ましいR3として、CF3(CF24CH2−が挙げられるが、当然これ以外のものも本発明の範囲に含まれる。
【0023】
本発明において、芳香環上にアルコキシル基を導入するための方法に、特に限定は無く、公知の合成方法を使用することができる。例えば日本化学会誌,1985年,No.11,第2155頁〜第2156頁の高岡昭生らの論文「ハロゲン交換によるテトラフルオロイソフタロニトリルの合成とその求核置換反応」に記載されているような、芳香環上のハロゲンをアルコキシドイオンで求核置換することにより、アルコキシル基を導入することができる。
【0024】
一般式(1)および(2)中のR1およびR2は、本発明の有機化合物から(共)重合体を形成するための重合を行うための基であり、本発明の有機化合物中において、これらは同じものでも、異なるものでも良い。但し製造方法の容易さおよび重合反応の制御などの観点から、R1およびR2は同じものであることが好ましい。また本発明において(共)重合体を製造するための重合反応には、特に限定はなく、小分子が脱離して共有結合を形成する重縮合、または小分子が脱離しない重付加のいずれも使用することができる。但し、重合反応および(共)重合体構造の制御のし易さや、以下に記載するような(共)重合体中にオレフィン性二重結合を導入し得ることなどから、重縮合が好ましい。
【0025】
1およびR2として、特に好ましくは−CHO、−CH2X’〔式中、X’はハロゲンを表し、例えば−CH2Brである。〕、−CH2CN、および−CH2PO(OR42〔式中、R4は、炭素数が1〜20、好ましくは2〜10であるアルキル基を表し、例えば−CH2PO(OC252である。〕を挙げることができる。R1およびR2として、これらの基を用いると、以下で説明するような公知の縮合反応により、(共)重合体中にオレフィン性二重結合を導入することができる。
【0026】
本発明において、有機化合物中にホルミル基(−CHO)を導入するためには、特に限定は無く、公知の方法を使用することができる。例えば J.Am.Chem.Soc.1999年,121,第11231−11232頁のMareel Mayor らの論文“Reducible Nanosize Macrocycles”に記載されているように、芳香環上のシアノ基(−CN)を、−CHOに変換する方法を用いることができる。
【0027】
重合可能な基としてハロゲン化メチル基(−CH2X’)を有する本発明の有機化合物の製造方法には、特に限定は無く、公知の製造方法を使用することができる。例えば上記のような方法により芳香環上にホルミル基を有する化合物を合成してから、公知の反応(Meerwein−Ponudorf−Verley反応)により、これをヒドロキシメチル基(−CH2OH)に還元し、この−CH2OHとハロゲン化水素(HX’)との置換反応により、−CH2X’を生じさせることができる。
【0028】
同様にシアノメチル基(−CH2CN)を有する本発明の有機化合物の製造方法にも、特に限定は無く、公知の製造方法を使用することができる。例えば米国特許第5,514,878号明細書に記載されているように、−CH2X’とNaCNとの置換反応により、−CH2CNを形成することができる。
【0029】
またリン酸エステル基を有するメチル基(−CH2PO(OR42)を持つ本発明の有機化合物の製造方法にも、特に限定は無く、公知の製造方法を使用することができる。例えばMacromolecules,2001年,34,第6571−6576頁のJianmin らの論文“Conjugated Polymers Containing Arylamin Pendants for Light-Emitting Diodes”に記載されているように、−CH2OHとトリアルキルホスフェート(P(OR43)との置換反応により、−CH2PO(OR42を形成することができる。
【0030】
1およびR2での重合により、本発明の有機化合物から(共)重合体を形成することができる。よって本発明の有機化合物の重合により得られる(共)重合体も、本発明の範囲に含まれる。本発明の(共)重合体の重合条件には、特に限定はなく、該技術分野で一般的に用いられている温度および時間、並びに重合装置を使用することができる。但し穏やかな重合条件を使用することが好ましく、そのために触媒、特に塩基性触媒を用いて重合を行っても良い。本発明の(共)重合体の重量平均分子量の下限は、好ましくは1,000、より好ましくは5,000、さらに好ましくは10,000であり、重量平均分子量の上限は、好ましくは1,000,000であり、より好ましくは600,000であり、さらに好ましくは300,000であり、特に好ましくは100,000である。
【0031】
特にR1およびR2として、−CHO、−CH2X’、−CH2CNおよび−CH2PO(OR42を有する本発明の有機化合物からは、以下のような縮合反応(重縮合)により、オレフィン性二重結合を有する(共)重合体を形成することができる。これらの二重結合は、例えば(共)重合体溶液を塗布して有機EL素子の中間層を製造する場合、塗布後の加熱などにより(共)重合体中に架橋を生じさせ、有機溶剤に不溶な層を形成するために役立つ。但し、本発明の(共)重合体を形成するための重合反応は、以下の縮合反応に限定されない。
【0032】
具体的には、−CHOを有する化合物と、−CH2PO(OR42を有する化合物とは、以下のような縮合反応:
Ar−CHO+(R4O)2P(O)CH2−Ar→Ar−CH=CH−Ar
(Arは、アリール基を表す。)
により、オレフィン性二重結合を有する共重合体を形成することができる(例えば、Synthetic Metals 84(1997年)第269−270頁のH.Rostらの論文“Novel light emitting and photoconducting polyarylenevinylene derivatives containing phenylene arylamine and phenylene oxide units in the main chain”参照)。
【0033】
また−CH2X’を有する化合物は、以下のような縮合反応:
2Ar−CH2X’→Ar−CH=CH−Ar
(Arは、アリール基を表す。)
により、オレフィン性二重結合を有する単独重合体を形成することができる(例えば、Macromolucules 2001年,34,第6117−6120頁のL.H.Ganらの論文“Synthesis and Characterization of Poly(2,3,5,6-tetrafluorophenylenevinylyen)”参照)。
【0034】
さらに、−CHOを有する化合物と、−CH2CNを有する化合物とは、以下のような縮合反応:
Ar−CHO+CNCH2−Ar→Ar−CH=C(CN)−Ar
(Arは、アリール基を表す。)
により、オレフィン性二重結合を有する共重合体を形成することができる(例えば、前述の米国特許第5,514,878号明細書参照)。
【0035】
本発明の有機化合物に由来する構成単位を有する(共)重合体は、有機溶剤への優れた溶解性を持つことを特徴の1つとする。そのため電子機器の構成部材、殊に有機EL素子の中間層、例えば正孔輸送層または電子輸送層などを、本発明の(共)重合体の有機溶剤溶液を塗布することにより形成することが好ましい。有機溶剤として、トルエン、キシレン、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、クロロベンゼン、ベンゼン、N−メチルピリジン、ヘキサフルオロプロパノールなどの1種または2種以上の混合溶剤を使用することができる。
【0036】
また塗布方法としては、スピンコート法、キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェットプリント法などの公知の方法を挙げることができる。これらの中でも、スピンコート法が好ましい。例えば、スピンコート法で膜を形成する場合には、室温付近で、基材を100〜8000rpmで3秒以上回転させながら、溶媒を乾燥させるのが好ましい。溶液塗布後に、必要に応じて、減圧乾燥、20〜200℃の加熱処理および/または光硬化を行ってもよい。
【0037】
本発明の(共)重合体から構成される層の膜厚は、ピンホールの発生などを抑制するために、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上とすることが推奨される。膜厚の上限は特に限定されないが10μm以下が好ましく、1μm以下がより好ましい。このような層を、本発明の(共)重合体溶液を塗布することにより形成する場合、溶液濃度は、所望の膜厚に応じて適宜変更することができる。好ましい溶液濃度は、0.01〜10質量%程度であり、より好ましくは0.1〜5質量%程度である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0039】
1.有機化合物の製造
製造例1−1
メトキシドイオンでの求核置換反応により、1,3−ジシアノ−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(化合物A1、特公昭63−5023号公報の記載に基づき合成)から、1,3−ジシアノ−4−(2−エチルヘキシロキシ)−2,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物B1)を製造した(下式参照)。
【0040】
【化3】

【0041】
脱水アセトニトリル250ml、化合物A1(分子量200.09)50g(0.25モル)、2−エチルヘキシルアルコール(分子量130.24)32.56g(0.25モル)を反応器に添加した。次いで150℃で12時間真空乾燥したKF(分子量58.1)33.8g(0.581モル)を、窒素雰囲気下で添加した。これらの混合物を、窒素雰囲気下および室温で3日間撹拌した。
【0042】
その後、エバポレーターにより減圧下55℃で濃縮した。この濃縮物に水400mlを投入し、クロロホルムで3回抽出して、クロロホルム相を硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下80℃で濃縮した。エバポレーターで濃縮していくと、オイル状物質が生じ、これを、オイルポンプにより減圧下100℃で、次いで120℃で乾燥し、黄色オイル状物質45gを得た。バリアン社製のNMR装置「Unity Plus 400(400MHz)を用いた1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黄色オイル状物質が化合物B1であることを確認した。
【0043】
化合物B1のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):4.51〜4.49(m、CH2、2H);1.72〜1.77(m、CH、1H);1.51〜1.41(m、CH2、4H);1.34〜1.30(m、CH2、4H);0.97〜0.92(m、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz;CDCl3)δ(ppm):−102.04、−102.06(d、CF、1F);−117.28、−117.33(d、CF、1F);−155.85〜−155.93(m、CF、1F)
【0044】
製造例1−2
メトキシドイオンでの求核置換反応により、1,4−ジシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロベンゼン(化合物A2、特公昭63−5023号公報の記載に基づき合成)から、1,4−ジシアノ−2−ヘキシロキシ−3,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物B2)を製造した(下式参照)。
【0045】
【化4】

【0046】
脱水アセトニトリル100ml、化合物A2(分子量200.09)15g(0.075モル)、ヘキシルアルコール(分子量102.1)15.315g(0.15モル)を反応器に添加した。次いで150℃で真空乾燥したKF(分子量58.1)26.07g(0.449モル)を、窒素雰囲気下で添加した。これらの混合物を窒素雰囲気下、90℃で15時間、および室温で3日間撹拌した。
【0047】
その後、エバポレーターにより減圧下で濃縮した。この濃縮物に水550mlを投入し、クロロホルムで3回抽出して、クロロホルム相を硫酸マグネシウムで脱水・濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下60℃で濃縮した。さらにオイルポンプにより減圧下で60℃から徐々に昇温して、最終的に100℃で濃縮した。この濃縮物の昇華精製を70℃〜90℃で行い、褐色オイル状物質17.6g得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この褐色オイル状物質が化合物B2であることを確認した。
【0048】
化合物B2のNMRデータ
1H−NMR(400MHz;CDCl3)δ(ppm):4.39〜4.35(m、CH2、2H);1.84〜1.80(m、CH2、2H);1.50〜1.46(m、CH2、2H);1.37〜1.32(m、CH2、4H);0.93〜0.90(m、CH3、3H)
19F−NMR(400MHz;CDCl3)δ(ppm):−124.16、−124.18、−124.19、124.21(dd、CF、1F);−130.35、−130.38、−130.40、−130.43(dd、CF、1F);−133.53、−133.55、−133.59、−133.60(dd、CF、1F)
【0049】
製造例1−3
メトキシドイオンでの求核置換反応により、化合物A1から、1,3−ジシアノ−4−(2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−n−ウンデカフルオロヘキシロキシ)−2,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物B3)を製造した(下式参照)。
【0050】
【化5】

【0051】
脱水アセトニトリル100ml、化合物A1(分子量200.09)16g(0.08モル)、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,6−n−ウンデカフルオロヘキサノール(分子量300.07、キシダ化学から購入)24g(0.08モル)を反応器に添加した。次いで150℃で真空乾燥したKF(分子量58.1)6.97g(0.12モル)を、窒素雰囲気下で添加した。これらの混合物を、窒素雰囲気下および室温で約15分程撹拌すると、微黄白濁液が形成した。さらに3日間撹拌して、黄白濁液を得た。
【0052】
その後、エバポレーターにより減圧下で濃縮した。この濃縮物に水250mlを投入し、クロロホルムで3回抽出して、クロロホルム相を硫酸マグネシウムで脱水・濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下65℃で濃縮した。さらにオイルポンプにより減圧下で65℃から徐々に昇温して、最終的に210℃で乾燥し、白色固体31.86gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この白色固体が化合物B3であることを確認した。
【0053】
化合物B3のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):5.01〜4.90(m、CH2
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−81.14、−81.17、−81.19(t、CF3、3F);−100.23、−100.26(d、CF、1F);−115.03、−115.08(d、CF、1F);−120.55、−120.58(d、CF2、2F);−123.26、−123.47(d、CF2、4F);−126.58、−126.57(d、CF2、2F);−154.54〜−154.56(m、CF、1F)
【0054】
製造例2−1
シアノ基をホルミル基に変換することにより、化合物B1から、1,3−ジホルミル−4−(2−エチルヘキシロキシ)−2,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物C1)を製造した(下式参照)。
【0055】
【化6】

【0056】
トルエン310mlおよび化合物B1(分子量310.31)45g(0.145モル)に、窒素雰囲気下30〜40℃で撹拌しながら、ジイソブチルアルミニウムハイドライド(HAl(i−C492、分子量142.22、東京化成から購入)の1モル/Lトルエン溶液を2時間かけて363ml滴下した(ジイソブチルアルミニウムハイドライド:0.363モル)。滴下終了後、さらに一晩室温で撹拌して、黒赤色の液体を得た。
【0057】
この黒赤色の液体を、硫酸水溶液(濃硫酸50g/水1000g)に投入し、撹拌後、酢酸エチル150mlを追加して、黄色の酢酸エチル相(上相)を分液した。さらに水相(下相)を酢酸エチル100mlで2回抽出した。酢酸エチル相を、中性になるまで、水で洗浄した。酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下で濃縮して黄色液45gを得た。該黄色液10gを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:塩化メチレン)により精製して、黄色液4.5gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黄色液が化合物C1であることを確認した。
【0058】
化合物C1のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):10.31、10.30、10.24、10.23(dd、CHO、2H);4.43〜4.40(m、CH2、2H);1.79〜1.72(m、CH、1H);1.51〜1.41(m、CH2、4H);1.34〜1.30(m、CH2、4H);0.97〜0.89(m、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−124.42、−124.44、−124.46、−124.47(dd、CF、1F);−128.21、−128.23、−128.26、−128.28(dd、CF、1F);−157.64〜−157.72(m、CF、1F)
【0059】
製造例2−2
シアノ基をホルミル基に変換することにより、化合物B2から、1,4−ジホルミル−2−ヘキシロキシ−3,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物C2)を製造した(下式参照)。
【0060】
【化7】

【0061】
トルエン150mlおよび化合物B2(分子量282.26)16g(0.0567モル)に、窒素雰囲気下30〜40℃で撹拌しながら、ジイソブチルアルミニウムハイドライド(HAl(i−C492、分子量142.22)の1モル/Lトルエン溶液を2時間かけて182ml滴下した(ジイソブチルアルミニウムハイドライド:0.182モル)。滴下終了後、さらに一晩室温で撹拌して、黄白色の濁り液を得た。
【0062】
この黄白色の濁り液を、硫酸水溶液(濃硫酸25g/水500g)に投入し、撹拌後、酢酸エチル100mlを追加して、黄色の酢酸エチル相(上相)を分液した。さらに水相(下相)を酢酸エチル100mlで3回抽出した。酢酸エチル相を、中性になるまで、水で洗浄した。酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下で濃縮して黄色液15gを得た。これを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:塩化メチレン)により精製して、黄色液2gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黄色液が化合物C2であることを確認した。
【0063】
化合物C2のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):10.37、10.36、10.35(t、CHO、2H);4.25〜4.22(m、CH2、2H);1.84〜1.79(m、CH2、2H);1.47〜1.43(m、CH2、2H);1.35〜1.32(m、CH2、4H);0.93〜0.89(m、CH3、3H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−137.24、−137.28(d、CF、1F);−144.33、−143.38、−144.43(t、CF、1F);−146.77、−146.82(d、CF、1F)
【0064】
製造例2−3
シアノ基をホルミル基に変換することにより、化合物A1から、1,3−ジホルミル−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(化合物C3)を製造した(下式参照)。
【0065】
【化8】

【0066】
トルエン200mlおよび化合物A1(分子量200.09)20g(0.10モル)に、窒素雰囲気下30〜40℃で撹拌しながら、ジイソブチルアルミニウムハイドライド(HAl(i−C492、分子量142.22)の1モル/Lトルエン溶液を約2時間かけて250ml滴下した(ジイソブチルアルミニウムハイドライド:0.25モル)。滴下終了後、さらに一晩室温で撹拌して、赤色の液体を得た。
【0067】
この赤色の液体を、硫酸水溶液(濃硫酸50g/水1000g)に投入し、撹拌後、酢酸エチル100mlで3回抽出した。酢酸エチル相を、中性になるまで、水で5回洗浄した。酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下で濃縮した。濃縮物を、真空ポンプによる減圧下で60℃〜70℃での昇華精製を4回行い、白色固体を6.9g得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この白色固体が化合物C3であることを確認した。
【0068】
化合物C3のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):10.30(s、CHO)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−125.26、−125.30(d、CF、1F);−125.72、−125.73、−125.77、−125.78(dd、CF、2F);−161.06〜−162.21(m、CF、1F)
【0069】
製造例3−1
還元反応(Meerwein−Ponudorf−Verley反応)により、化合物C1から、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−4−(2−エチルヘキシロキシ)−2,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物D1)を製造した(下式参照)。
【0070】
【化9】

【0071】
窒素雰囲気下で、化合物C1(分子量316.32)18g(0.057モル)、イソプロパノール(分子量60.06)89.11g(1.484モル)、アルミニウムイソプロポキシド((i−C37O)3Al、分子量204.13、和光純薬から購入)0.932g(0.00456モル)を反応器に添加し、これらを撹拌しながら80℃に昇温した。3時間後に、内容物をエバポレーターで濃縮して、茶褐色の液体を得た。これに、6Nの硫酸水溶液80gを加えて撹拌した後、酢酸エチル190mlで3回抽出した。抽出後、酢酸エチル相を水で中性になるまで洗浄した。酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下50℃で濃縮した。この濃縮液18gを、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:塩化メチレン/メタノール=1/1(質量比))により精製して、黒茶色液10.8gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黒茶色液が化合物D1であることを確認した。
【0072】
化合物D1のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):4.75〜4.69(m、CH2、4H);4.16〜4.14(m、CH2、2H);2.10、2.09、2.08、1.96、1.95、1.94(dt、OH、2H);1.74〜1.68(m、CH、1H);1.61〜1.43(m、CH2、4H);1.34〜1.30(m、CH2、4H);0.97〜0.90(m、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−127.45、−127.49(d、CF、1F);−139.98、−140.03(d、CF、1F);−1578.78〜−158.87(m、CF、1F)
【0073】
製造例3−2
還元反応(Meerwein−Ponudorf−Verley反応)により、化合物C3から、1,3−ビス(ヒドロキシメチル)−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(化合物D2)を製造した(下式参照)。
【0074】
【化10】

【0075】
窒素雰囲気下で、化合物C3(分子量206.09)3g(0.01456モル)、イソプロパノール(分子量60.06)22.9g(0.379モル)、ジイソブチルアルミニウムハイドライド((i−C37O)3Al、分子量204.13)0.238g(0.001165モル)を反応器に添加し、撹拌しながら80℃に昇温した。この温度で3時間加熱した。反応器の内容物をエバポレーターにより減圧で濃縮・乾燥し、白色固体を得た。この白色固体に6Nの硫酸水溶液を20g添加し、30分撹拌した。この混合液を自然濾過し、濾過物を酢酸エチルに溶解させ、pHが7になるまで水で4回洗浄した。酢酸エチル相を硫酸マグネシウムで脱水・濾過し、濾液をエバポレーターにより減圧下で濃縮・乾燥して白色固体を得た。さらにこの白色固体を、クロロホルムで洗浄し、乾燥して白色固体2.73gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この白色固体が化合物D2であることを確認した。
【0076】
化合物D2のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、DMSO)δ(ppm):5.46、5.44、5.39(t、OH、2H);4.46、4.455(d、CH2、4H)
19F−NMR(400MHz、DMSO)δ(ppm):−120.47、−120.49(d、CF、1F);−134.89〜−134.94(d、CF、2F);−162.03〜−162.15(m、CF、1F)
【0077】
製造例4−1
置換反応により、化合物D1から、1,3−ビス(ブロモメチル)−4−(2−エチルヘキシロキシ)−2,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物E1)を製造した(下式参照)。
【0078】
【化11】

【0079】
化合物D1(分子量320.35)10.5g(0.0328モル)および30%のHBr(分子量80.91)酢酸溶液70.72g(HBr:0.262モル)を反応器に添加した。反応器の内容物を窒素雰囲気下で撹拌しながら温度80℃で還流した。還流状態になってから約1時間後に、室温にまで冷却し、氷水300gを投入した。反応器の内容物を酢酸エチルで3回抽出し、抽出した酢酸エチル相を水で5回洗浄した。これを硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮して茶色の液体12.5gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この茶色の液体が化合物E1であることを確認した。
【0080】
化合物E1のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):4.50、4.49(d、CH2、4H);4.241、4.234、4.227、4.220(dd、CH2、2H);1.79〜1.73(m、CH、1H);1.57〜1.44(m、CH2、4H);1.36〜1.33(m、CH2、4H);0.99〜0.92(m、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−123.02、−123.05(d、CF、1F);−136.58、136.63(d、CF、1F);−158.26〜−158.34(m、CF、1F)
【0081】
製造例4−2
置換反応により、化合物D2から、1,3−ビス(ブロモメチル)−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(化合物E2)を製造した(下式参照)。
【0082】
【化12】

【0083】
化合物D2(分子量210.13)2.4g(0.0114モル)および30%のHBr(分子量80.91)酢酸溶液24.54g(HBr:0.091モル)を反応器に添加した。反応器の内容物を窒素雰囲気下で撹拌しながら温度80℃で還流した。還流状態になってから約1時間後に、室温に冷却し、反応器の内容物を氷水100gに投入した。これを酢酸エチルで3回抽出し、抽出した酢酸エチル相を水で5回洗浄した後、硫酸マグネシウムで脱水、濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮してオイル状物質3.65gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、このオイル状物質が化合物E2であることを確認した。
【0084】
化合物E2のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):4.48(s、CH2
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−125.27、−125.30(d、CF、1F);−134.42、−134.47(d、CF、2F);−163.19〜−163.31(m、CF、1F)
【0085】
製造例5−1
置換反応により、化合物E1から、1,3−ビス(メチレンジエチルホスフェート)−4−(2−エチルヘキシロキシ)−2,5,6−トリフルオロベンゼン(化合物F1)を製造した(下式参照)。
【0086】
【化13】

【0087】
化合物E1(分子量446.14)7g(0.0157モル)およびトリエチルホスフェート(分子量166.16)15.64g(0.0941モル)を反応器に添加し、窒素雰囲気下で撹拌しながら80℃まで昇温した。反応器の内容物が茶色から黄色へ変化した。80℃で約80分加熱した後、150℃に昇温し、この温度で約5時間30分加熱した。内容物をエバポレーターにより減圧下100℃で1時間30分、さらにオイルポンプにより減圧下100℃で30分、さらに150℃で4時間30分乾燥させて、残っているトリエチルホスフェートを除去し、オレンジ色の液体8.5gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、このオレンジ色の液体が、化合物F1であることを確認した。
【0088】
化合物F1のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):4.12〜4.05(m、CH2、CH2、10H);3.22、3.21、3.17、3.15(dd、CH2、4H);1.75〜1.69(m、CH、1H);1.57〜1.46(m、CH2、4H);1.35〜1.26(m、CH2、CH3、16H);0.97〜0.92(m、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−120.44(s、CF、1F);−138.71、−138.75、−138.76(t、CF、1F);−158.53〜−158.61(m、CF、1F)
【0089】
製造例5−2
置換反応により、化合物E2から、1,3−ビス(メチレンジエチルホスフェート)−2,4,5,6−テトラフルオロベンゼン(化合物F2)を製造した(下式参照)。
【0090】
【化14】

【0091】
化合物E2(分子量333.86)3.60g(0.0105モル)およびトリエチルホスフェート(分子量166.16)10.45g(0.063モル)を反応器に添加し、窒素雰囲気下で撹拌しながら80℃まで昇温した。80℃で約2時間加熱した後、150℃に昇温し、この温度で約6時間、加熱、還流した。反応器の内容物をエバポレーターにより減圧下125℃で4時間、さらにオイルポンプにより減圧下120℃で2時間乾燥させて、残っているトリエチルホスフェートを除去し、黄濁液4.0gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黄濁液が化合物F2であることを確認した。
【0092】
化合物F2のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):4.10〜4.05(m、CH2、8H);3.19、3.14(d、CH2、4H);1.31〜1.24(m、CH3、12H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−125.54、−125.55(d、CF、1F);−136.44〜−136.53(m、CF、2F);−164.96〜−164.04(m、CF、1F)
【0093】
2.共重合体の製造
重合例1(本発明)
本発明の化合物C1を、化合物F2と重縮合させて、本発明の共重合体1を製造した(下式参照)。
【0094】
【化15】

【0095】
窒素雰囲気下で、脱水トルエン60ml、化合物C1(分子量316.32)1g(0.00316モル)および化合物F2(分子量450.3)1.424g(0.00316モル)を反応器に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら110℃まで昇温し、反応器の内容物にt−BuOK(分子量112.21)1.0g(0.0089モル)を添加した。還流の間に黒茶色の濁り液が形成した。約2時間の還流後に冷却し、室温で1晩撹拌した。
【0096】
黒茶色の濁り液をエバポレーターにより減圧下で濃縮し、濃縮物をクロロホルムに溶解させた。これを濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。この濃縮物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿させた。さらにこの沈殿物を、クロロホルムへの溶解および貧溶媒による再沈殿を3回(イソプロパノール×2回、次いでメタノール×1回)繰返して、白茶色固体0.6gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この白茶色固体が、共重合体1であることを確認した。共重合体1は、クロロホルムおよびトルエンに溶解する。
【0097】
共重合体1のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):7.40(m、CH(オレフィン)、4H);4.19(m、CH2、2H);1.65、1.43、1.31(m、CH、CH2、9H);0.94(m、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−119.69(br、CF、2F);−137.00(br、CF、CF、3F);−159.12(br、CF、1F);−165.95(br、CF、1F)
【0098】
重合例2(本発明)
本発明の化合物C1およびF1を重縮合させて、本発明の共重合体2を製造した(下式参照)。
【0099】
【化16】

【0100】
窒素雰囲気下で、脱水トルエン20ml、化合物C1(分子量316.32)0.282g(0.000892モル)および化合物F1(分子量560.52)0.5g(0.000892モル)を反応器に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら110℃まで昇温し、反応器の内容物にt−BuOK(分子量112.21)0.28g(0.00253モル)を添加した。約5時間の還流後に、反応器の内容物をエバポレーターにより減圧下で濃縮した。この濃縮物を、重合例1と同様に精製して、白茶色固体0.031gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この白茶色固体が、共重合体2であることを確認した。共重合体2は、クロロホルムおよびトルエンに溶解する。
【0101】
共重合体2のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):7.36、7.44(br、CH(オレフィン)、4H);4.08(br、CH2、4H);1.72(br、CH、2H);1.47、1.42、1.29(br、CH2、16H);0.94、0.92、0.84(br、CH3、12H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−119.73(m、CF、1F);−138.55(m、CF、1F);−159.20(m、CF、1F)
【0102】
重合例3(本発明)
本発明の化合物F1を、2,6−ジホルミルピリジン(アルドリッチから購入)と重縮合させて、本発明の共重合体3を製造した(下式参照)。
【0103】
【化17】

【0104】
窒素雰囲気下で、脱水トルエン40ml、化合物F1(分子量560.52)1g(0.00178モル)および2,6−ジホルミルピリジン(分子量135.12)0.241g(0.00178モル)を反応器に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら110℃まで昇温し、反応器の内容物にt−BuOK(分子量112.21)0.567g(0.0051モル)を添加した。約4時間の還流後に、反応器の内容物をエバポレーターにより減圧下で濃縮した。この濃縮物を、重合例1と同様に精製して、白茶色固体0.15gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この白茶色固体が、共重合体3であることを確認した。共重合体3は、クロロホルムおよびトルエンに溶解する。
【0105】
共重合体3のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):7.94、7.55、7.19(br、CH(オレフィン)、CH(芳香環)、7H);4.11(br、CH2、2H);1.76、1.47、1.27、1.23(br、CH、CH2、9H);0.94、0.81(br、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−117.30(br、CF、1F);−136.99(br、CF、1F);−159.75(br、CF、1F)
【0106】
重合例4(本発明)
本発明の化合物F1を、ビス(4−ホルミルフェニル)フェニルアミン(ビールスマイヤー反応によりトリフェニルアミンから合成)と重縮合させて、本発明の共重合体4を製造した(下式参照)。
【0107】
【化18】

【0108】
窒素雰囲気下で、脱水トルエン40ml、化合物F1(分子量560.52)1g(0.00178モル)およびビス(4−ホルミルフェニル)フェニルアミン(分子量301.34)0.54g(0.00178モル)を反応器に添加した。窒素雰囲気下で110℃まで昇温し、反応器の内容物にt−BuOK(分子量112.21)0.567g(0.0051モル)を添加した。約4時間の還流後に、反応器の内容物をエバポレーターにより減圧下で濃縮した。この濃縮物を、重合例1と同様に精製して、黄色粉体0.5gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黄色粉体が、共重合体4であることを確認した。共重合体4は、クロロホルムおよびトルエンに溶解する。
【0109】
共重合体4のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):7.41、7.31、7.29、7.26、7.15、7.13、7.10、7.08(m、br、CH(オレフィン)、CH(芳香環)、17H);4.05(br、CH2、2H);1.74(br、CH、1H);1.51、1.49、1.41、1.31、1.29(br、CH2、8H);0.96、0.95、0.86(br、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−120.16(br、CF、1F);−139.79、−139.83(br、CF、1F);−159.64(br、CF、1F)
【0110】
重合例5(比較例)
化合物F2を、ビス(4−ホルミルフェニル)フェニルアミンと重縮合させて、共重合体5を製造した(下式参照)。
【0111】
【化19】

【0112】
窒素雰囲気下で、脱水トルエン44ml、化合物F2(分子量450.1)1g(0.00222モル)およびビス(4−ホルミルフェニル)フェニルアミン(分子量301.34)0.669g(0.00222モル)を反応器に添加した。窒素雰囲気下で撹拌しながら110℃まで昇温し、反応器の内容物にt−BuOK(分子量112.21)0.706g(0.006288モル)を添加し、約3時間30分還流した。
【0113】
反応器の内容物をエバポレーターにより減圧下で濃縮し、濃縮物をクロロホルムに溶解させた。これを自然濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。この濃縮物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿させた。さらにこの沈殿物を、クロロホルムへの溶解およびイソプロパノールによる再沈殿を2回繰返して、黄色固体0.235gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この黄色固体が、共重合体5であることを確認した。共重合体5は、クロロホルムに溶解するが、トルエンには溶解しなかった。
【0114】
共重合体5のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):7.39、7.37、7.33、7.31、7.29、7.27、7.26、7.17、7.11、7.08、7.06、6.88(m、br、CH(オレフィン)、CH(芳香環)、17H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−120.61(br、CF、1F);−138.63、−138.68(br、CF、2F);−166.23(br、CF、1F)
【0115】
重合例6(参考例)
化合物C3を、1,4−ビス(メチレンジエチルホスフェート)−2,5−ジメトキシベンゼン(Macromolecules,2001年,34,第6571−6576頁の記載に基づき1,4−ジメトキシベンゼンから合成)と重縮合させて、共重合体6を製造した(下式参照)。
【0116】
【化20】

【0117】
窒素雰囲気下で、化合物C3(分子量206.09)0.5g(0.00242モル)、1,4−ビス(メチレンジエチルホスフェート)−2,5−ジメトキシベンゼン(分子量438.16)1.07g(0.00242モル)および乾燥テトラヒドロフラン40mlを反応器に添加した。窒素雰囲気下で65℃まで昇温し、反応器の内容物にt−BuOK(分子量112.21)0.77g(0.00603モル)を添加し、その温度で約4時間撹拌した。
【0118】
反応器の内容物をエバポレーターにより減圧下で濃縮し、濃縮物をクロロホルムに溶解させた。これをソックスレー濾紙で濾過し、濾液をエバポレーターで濃縮した。この濃縮物をクロロホルムに溶解させ、メタノールで再沈殿させた。さらにこの沈殿物を、クロロホルムへの溶解およびイソプロパノールによる再沈殿を2回繰返して、緑白色固体0.0040gを得た。1H−NMRおよび19F−NMRにより、この緑白色固体が、共重合体6であることを確認した。
【0119】
共重合体6のNMRデータ
1H−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):7.73、7.11(br、CH(オレフィン)、CH(芳香環)、6H)、3.90(br、CH3、6H)
19F−NMR(400MHz、CDCl3)δ(ppm):−119.60(br、CF、1F);−139.55(br、CF、2F);−166.13(br、CF、1F)
【0120】
3.共重合体の物性測定
前記のようにして製造した共重合体の物性を、以下のようにして測定した:
(1)重合平均分子量の測定
40℃にて有機溶剤用カラム(昭和電工製「Shodex GPC KF−804L」)を用いたGPC−LC装置(東ソー製「8020シリーズ」)により、共重合体の重量平均分子量を測定した。溶離液としてクロロホルムを用い、ポリスチレンを標準サンプルとして用いた。
【0121】
(2)共重合体のバンドギャップの算出
蒸留水中およびイソプロパノール中でそれぞれ10分程、超音波洗浄し、最後にイソプロパノール中で煮沸洗浄したスライドガラス基板上に、共重合体の薄膜を形成した。この共重合体膜の吸収スペクトルを、分光光度計(Agilent Technologies製「Agilent8453」)により波長300〜1100nmの範囲で測定した。吸収ピークの最長吸収端の波長λ(nm)のエネルギーを、最低励起エネルギー、即ちバンドギャップ(Eg)であるとして、Egを、前記波長λと下式から算出した。
Eg(eV)=h×ν=1240/λ
(式中、hはプランク定数であり、νは光の振動数を表す。)
【0122】
(3)共重合体のHOMO準位の測定
前記の「共重合体のバンドギャップの算出」と同様にして洗浄したガラス基板上に、共重合体の薄膜を形成した。この共重合体膜の光電子放出しきい値を、大気中光電子分光装置(理研計器製「AC−2」または「AC−3」)により測定した。この光電子放出しきい値、即ちイオン化ポテンシャルを、共重合体膜のHOMO準位(価電子帯の最上端のエネルギー準位)とみなした。
【0123】
共重合体1(本発明)の物性
重量平均分子量:432,000
バンドギャップ:3.39eV
HOMO準位:5.76eV
(LUMO準位:2.37eV)
【0124】
共重合体2(本発明)の物性
重量平均分子量:432,000
バンドギャップ:3.37eV
HOMO準位:6.05eV
(LUMO準位:2.68eV)
【0125】
共重合体3(本発明)の物性
重量平均分子量:600,000以上
バンドギャップ:2.75
HOMO準位:5.58
(LUMO準位:2.83)
【0126】
共重合体4(本発明)の物性
重量平均分子量:600,000以上
バンドギャップ:3.06
HOMO準位:5.78
(LUMO準位:2.72)
【0127】
共重合体5(比較例)の物性
重量平均分子量:8200
バンドギャップ:2.76eV
HOMO準位:5.67eV
(LUMO準位:2.91eV)
【0128】
共重合体6(参考例)の物性
重量平均分子量:7200
バンドギャップ:3eV
HOMO準位:5.72eV
(LUMO準位:2.72eV)
【0129】
共重合体7(参考例)(ポリ[(m−フェニレンビニレン)−alt−(2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシロキシ)−p−フェニレンビニレン](下式参照、アルドリッチから購入)
重量平均分子量:4400
バンドギャップ:2.66eV
HOMO準位:5.74eV
(LUMO準位:3.08eV)
【0130】
【化21】

【0131】
アルコキシル基を有する共重合体4(本発明)はトルエンに溶解するが、アルコキシル基を有さない共重合体5(比較例)はトルエンに溶解しない。このことからアルコキシル基を有する本発明の化合物(単量体)は、それから得られる共重合体の溶解性を向上させる効果を有することが分かる。またアルコキシル基を有する本発明の共重合体1〜4は、高分子量でありながら、トルエンおよびクロロホルムに溶解する。共重合体1〜4のこのような高い溶解性は、アルコキシル基によるものと考えられる。
【0132】
また類似の構造を有するフッ素を有する共重合体6(参考例)と、フッ素を有さない共重合体7(参考例)とを比較すると、共重合体6のバンドギャップが大きくなっていることが分かる。これはベンゼン環上にフッ素が存在することによるものと考えられる。
【0133】
4.本発明の共重合体の有機EL装置での使用
使用例1(本発明)
ITO導電性ガラス(フルウチ製「IN−100」、シート抵抗10Ω/cm2以下品)を、蒸留水およびイソプロパノール中でそれぞれ10分程度、超音波洗浄を行い、最後にイソプロパノールで煮沸洗浄した。使用直前にUVオゾンクリーナー(Nippon Laser & Electronics Co.Ltd.製「NL−UV−253S」)にて洗浄したITO導電性ガラス基板上に、共重合体4のクロロホルム溶液をスピンコート成膜し、アルゴン雰囲気下200℃で10分乾燥した(乾燥膜厚25nm)。その後、MEH−PPV(ポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、アルドリッチ製、製品コード:5413−5)のクロロホルム溶液をスピンコート成膜し、アルゴン雰囲気下100℃で10分乾燥した(乾燥膜厚60nm)。最後に、真空度1×10-4PaでCa(8nm)、次いでAg(80nm)の順で真空蒸着して、有機EL素子1を製造した。
【0134】
このようにして製造した有機EL素子1の最高輝度および色度を、電圧印加を行いながらトプコンテクノハウス製「SR−3」で測定した。その結果を以下に示す。
有機EL素子1(本発明):
ITO(陽極)/共重合体4(正孔輸送層)/MEH−PPV(発光層)/Ca・Ag(陰極)
最高輝度:7210cd/m2(12V)
色度:0.55、0.44
【0135】
なお有機EL素子の製造および評価(輝度および色度の測定)は、全てArガス雰囲気下のグローブボックスおよび該グローブボックスに連結した真空蒸着装置を用いることにより、大気に触れない環境で行った。また有機層および金属層の厚さは、米国デジタルインスツルメンツ製「AFM」を用いて測定した。
【0136】
使用例2(比較例)
共重合体4層を形成しなかったこと以外は、使用例1と同様にして、有機EL素子2を製造し、特性評価した。その結果を以下に示す。
有機EL素子2(比較例):
ITO(陽極)/MEH−PPV(発光層)/Ca・Ag(陰極)
最高輝度:1130cd/m2(12V)
色度:0.54、0.45
【0137】
本発明の共重合体4層を備えた有機EL素子1は、有機EL素子2と比べて、最高輝度が大幅に向上している。これは共重合体4層が、バンドギャップが広い正孔輸送層として、発光層から陽極への電子移動を効率的に防止しているためであると考えられる。この結果から、本発明の共重合体が有機EL素子の正孔輸送層として有用であることが分かる。
【0138】
5.本発明の共重合体の太陽電池での使用
使用例3(本発明)
ITO導電性ガラス(フルウチ製「IN−100」、シート抵抗10Ω/cm2以下品)を、蒸留水およびイソプロパノール中でそれぞれ10分程度、超音波洗浄を行い、最後にイソプロパノールで煮沸洗浄した。使用直前にUVオゾンクリーナー(Nippon Laser & Electronics Co.Ltd.製「NL−UV−253S」)にて洗浄したITO導電性ガラス基板上に、1.3%のPEDOT:PSS水分散液(ポリ−(3,4−エチレンジオキシチオフェン)・ポリ(スチレンスルホン酸塩)水分散液、アルドリッチ製、製品コード:48309−5)を滴下し、回転速度を1秒以内に8,000rpmまで上昇させてスピンコート成膜し、アルゴン雰囲気下200℃で10分間乾燥した(乾燥膜厚60nm)。この基板に、PCBM(フェニルC61酪酸メチルエステル、フロンティアカーボン製)および共重合体4のクロロホルム混合溶液を、クロロホルムの飽和蒸気下でPEDOT:PSS膜上に滴下し、10秒程度放置した後、回転速度を徐々に2,000rpmまで上昇させて、スピンコート成膜し(40秒程度で成膜)、アルゴン雰囲気下100℃で10分間乾燥した(乾燥膜厚80nm)。最後に、真空度1×10-4PaでLiF(0.6nm)、次いでAl(80nm)の順で真空蒸着して、太陽電池1を製造した。ITO/有機層/Alが重なった光電変換面積は2mm×2mmである。さらに、電極からリードを取るために、ITO電極上およびAl電極上に銀ペースト(フジクラ製「D−550」)を塗布した。
【0139】
このようにして製造した太陽電池1の光電流電圧曲線を、以下のような方法で測定した:
高抵抗測定装置(KEITHLEY製「K6517」)を用いて、太陽電池を電圧源と電流計に直列接続し、電圧−1〜+1V付近まで逆バイアス側から順バイアス方向に走査速度200mV/分で掃引しながら、電圧印加時の電流地を測定した。暗電流測定は、光を完全に遮断して行った。光電流測定には、500Wキセノンランプ(ウシオ製)から照射された光を分光フィルター(Oriel製「AM1.5」)に通すことで擬似太陽光を得る太陽光シミュレーター(関西科学機械製「XES−502S」)を使用し、AM:1.5・85mW/cm2で行った。光はITO電極側から照射した。光強度は、英弘精機製の小型日射計「HL−020VM・M−110」を用いて較正した。また評価の際には、2mm×2mmの評価用マスクを使用した。
【0140】
前記のようにして得られた光電流電圧曲線から、短絡光電流(Jsc)、開放光電圧(Voc)、フィルファクター(FF)およびエネルギー変換効率(η)を算出した。その結果を以下に示す。
太陽電池1(本発明):
ITO(陽極)/PEDOT:PSS(修飾電極)/PCBM・共重合体4の混合層(n型およびp型半導体の混合層)/LiF(修飾電極)/Al(陰極)
Jsc:1.50
Voc:0.59V
FF:0.33
η:0.29%
【0141】
なおPEDOT:PSS成膜後の太陽電池の製造、およびその評価は、全てArガス雰囲気下のグローブボックスおよび該グローブボックスに連結した真空蒸着装置を用いることにより、大気に触れない環境で行った。また有機層および金属層の厚さは、米国デジタルインスツルメンツ製「AFM」を用いて測定した。
【0142】
使用例4(比較例)
共重合体4を用いなかったこと、およびPCBM層の乾燥膜厚が78nmであること以外は、使用例3と同様にして、太陽電池2を製造し、特性評価した。その結果を以下に示す。
太陽電池2(比較例):
ITO(陽極)/PEDOT:PSS(修飾電極)/PCBM(n型半導体層)/LiF(修飾電極)/Al(陰極)
Jsc:0.16
Voc:0.03V
FF:0.22
η:0.001%
【0143】
本発明の共重合体4を含む層(PCBM・共重合体4の混合層)を備えた太陽電池1は、太陽電池2と比べて、Jsc、Voc、FFおよびηの全てが大幅に向上している。これは本発明の共重合体4がp型半導体として機能し、n型半導体のPCBMとp型半導体の共重合体4との界面が増加したために生じたものと推定される。このような結果から、本発明の共重合体4は、太陽電池の構成部材(光電変換層)として有用であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明の化合物および(共)重合体は、電子機器、例えば有機EL素子、太陽電池、コンデンサ、燃料電池、二次電池、センサー、ディテクター、光回路、光導波路、トランジスタ、電気回路などの構成部材、好ましくは有機EL素子の中間層(正孔輸送層または電子輸送層など)または太陽電池の光電変換層を構成するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香環上の置換基として、ハロゲンおよびアルコキシル基、並びに2つまたはそれ以上の重合が可能な基を有することを特徴とする有機化合物。
【請求項2】
下記の一般式(1)で表される請求項1に記載の有機化合物〔式中、R1およびR2は、同じまたは異なる基であって、重合が可能な基を表し、R3は、炭素数が1〜20の炭化水素基、または炭素数が1〜20で、ハロゲンを有する炭化水素基を表し、Xはハロゲンを表し、aは1〜3の数であり、bは1〜3の数であり、aとbとの合計は4である。〕。
【化1】

【請求項3】
下記の一般式(2)で表される請求項1に記載の有機化合物〔式中、R1およびR2は、同じまたは異なる基であって、重合が可能な基を表し、R3は、炭素数が1〜20の炭化水素基、または炭素数が1〜20で、ハロゲンを有する炭化水素基を表し、Xはハロゲンを表す。〕。
【化2】

【請求項4】
芳香環上の置換基としてのハロゲンが、フッ素である請求項1〜3のいずれかに記載の有機化合物。
【請求項5】
1およびR2が、同じ基であって、−CHO、−CH2X’〔式中、X’はハロゲンを表す。〕、−CH2CNおよび−CH2PO(OR42〔式中、R4は、炭素数が1〜20であるアルキル基を表す。〕からなる群から選ばれる請求項2〜4のいずれかに記載の有機化合物。
【請求項6】
電子機器の構成部材を形成するために用いられる請求項1〜5のいずれかに記載の有機化合物。
【請求項7】
有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層を形成するために用いられる請求項7に記載の有機化合物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の有機化合物から製造された重合体。
【請求項9】
電子機器の構成部材として用いられる請求項8に記載の重合体。
【請求項10】
有機エレクトロルミネッセンス素子の中間層として用いられる請求項8に記載の重合体。
【請求項11】
太陽電池の光電変換層として用いられる請求項8に記載の重合体。

【公開番号】特開2007−112776(P2007−112776A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−308840(P2005−308840)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 革新的次世代太陽光発電システム技術研究開発 有機薄膜太陽電池の研究開発に関する委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】