説明

電子線照射装置及び電子線照射方法

【課題】線状物に電子線を均一に照射できる電子線照射装置及び電子線照射方法を提供する。
【解決手段】電子線照射装置1は、一対のローラ3a、3bと、電子線照射部10と、一対のガイドローラ4a、4bとを備えている。電子線照射部10は、一対のローラ3a、3bに掛け渡された電線6に電子線を照射する。一対のガイドローラ4a、4bは、電線6の一対のローラ3a、3b間に位置付けられた複数の部分を電子線照射部10からの距離が互いに等しくなるように保つとともに、電線6の一対のローラ3a、3b間に位置付けられた複数の部分を電子線の照射される方向Eに直交する方向E’に保つ。電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分に電子線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状物に電子線を照射する電子線照射装置及び電子線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
線状物としての電線は、導電性の材料で構成された芯線と、該芯線を被覆する絶縁性の合成樹脂等で構成された被覆部とを備えている。電線は、所謂被覆電線である。このような電線の耐熱性や耐磨耗性等の特性を向上させるため、被覆部に電子線を照射して該被覆部を構成する合成樹脂に架橋反応を起こさせる電子線照射装置が知られている。
【0003】
前述した電子線照射装置としては、次のようなものが知られている(例えば、特許文献1ないし3参照)。図5は、特許文献1に記載された電子線照射装置101の要部を示している。この電子線照射装置101は、回転自在な一対のローラ(コンベアロール)103a、103bと、該一対のローラ103a、103b間に掛け渡されてその長手方向に沿って移動する電線106に電子線を照射する電子線照射部110とを備えている。
【0004】
電線106は、一方のローラ103a側から導入され、一対のローラ103a、103b間に8の字状に複数回掛け渡された後、一方のローラ103a側へ導出される。電子線照射部110は、8の字状に掛け渡された電線106の交差部分Xに向かって矢印Eに沿って電子線を照射する。この交差部分Xは、電線106の一対のローラ103a、103b間に位置付けられた複数の部分の、電子線照射部110からの距離が互いに等しい部分である。
【0005】
特許文献2及び3に記載された電子線照射装置は、回転自在な一対の大ローラ(第1組のターンシーブ)と、一対の大ローラよりも小径な一対の小ローラ(第2組のターンシーブ)と、これら一対の大ローラ及び一対の小ローラに掛け渡されてその長手方向に沿って移動する電線に電子線を照射する電子線照射部とを備えている。一対の小ローラは、一対の大ローラの間に配される。そして、一対の小ローラと一対の大ローラとは、略同一平面上に配される。
【0006】
特許文献2に記載された電子線照射装置においては、電線は、一方の大ローラ側から導入され、一方の大ローラ、他方の大ローラ、一方の大ローラ寄りの一方の小ローラ、一方の大ローラから離れた他方の小ローラに順次複数回掛け渡された後、一方の大ローラ側へ導出されている。電子線照射部は、電線の一対の大ローラ間に位置付けられた部分と、電線の一対の小ローラ間に位置付けられた部分とに向かって電子線を照射する。
【0007】
特許文献3に記載された電子線照射装置においては、2本の電線に同時に電子線が照射される。一方の電線は、一方の大ローラ側から導入され、一方の大ローラ、他方の大ローラに順次複数回掛け渡された後、一方の大ローラ側へ導出される。また、他方の電線は、一方の小ローラ側から導入され、一方の小ローラ、他方の小ローラに順次複数回掛け渡された後、一方の小ローラ側へ導出される。電子線照射部は、一方の電線の一対の大ローラ間に位置付けられた部分と、他方の電線の一対の小ローラ間に位置付けられた部分とに向かって電子線を照射する。
【特許文献1】特開平9−129054号公報
【特許文献2】特開平4−363817号公報
【特許文献3】特開平4−366507号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載された電子線照射装置においては、電子線照射部110からの距離が等しい交差部分X近傍に向かって電子線を照射するが、この交差部分X近傍において電線106は電子線の照射される方向Eに対して斜めに保たれているので、交差部分Xから離れるにしたがって電線106と電子線照射部110との距離が変化し、電線106に電子線を均一に照射できないといった問題があった。さらに、この交差部分Xは一対のローラ103a、103b間に平行に電線106を掛け渡した場合(図5中、一点鎖線で示す)と比較すると電子線照射部110から最も離れた位置であるので、電子線の照射距離が長く電子線のロス(エネルギー減衰)が大きいといった問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載された電子線照射装置においては、一対の大ローラ間を電線が移動する方向と、一対の小ローラ間を電線が移動する方向とが同方向であるので、電線の電子線照射部と相対する一方の外周面にのみ電子線が照射され、電線に電子線を均一に照射できないといった問題があった。また、特許文献2及び3に記載された電子線照射装置においては、電線の一対の大ローラ間に位置付けられた部分と、電線の一対の小ローラ間に位置付けられた部分とで電子線照射部からの距離が異なるので、これら部分に電子線を均一に照射できないといった問題があった。
【0010】
本発明は、このような問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、線状物に電子線を均一に照射できる電子線照射装置及び電子線照射方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、回転自在な少なくとも一対のローラと、前記一対のローラに掛け渡された線状物に電子線を照射する電子線照射部と、を備えた電子線照射装置において、前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた複数の部分を前記電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保つとともに、前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた前記複数の部分を前記電子線の照射される方向に直交する方向に保つ少なくとも一対のガイドローラを備えたことを特徴とした電子線照射装置である。
【0012】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された電子線照射装置において、一方のガイドローラから他方のガイドローラへ向かって掛け渡された前記線状物の前記一対のガイドローラ間に位置付けられた部分の前記電子線照射部と相対する外周面が、前記他方のガイドローラから前記一方のガイドローラへ向かって掛け渡された前記線状物の前記一対のガイドローラ間に位置付けられた部分の前記電子線照射部と相対する外周面の反対側とされていることを特徴とした電子線照射装置である。
【0013】
請求項3に記載された発明は、請求項1または請求項2に記載された電子線照射装置において、前記ガイドローラが、前記一対のローラの軸心同士を結ぶ線分よりも前記電子線照射部寄りに設けられたことを特徴とした電子線照射装置である。
【0014】
請求項4に記載された発明は、請求項1ないし請求項3のうちいずれか一項に記載された電子線照射装置において、複数の前記ローラのうち少なくとも一つのローラを回転駆動する駆動手段が設けられたことを特徴とした電子線照射装置である。
【0015】
請求項5に記載された発明は、回転自在な少なくとも一対のローラに掛け渡された線状物に電子線照射部からの電子線を照射する電子線照射方法において、前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた複数の部分を少なくとも一対のガイドローラに掛け渡して、前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた前記複数の部分を電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保つとともに前記電子線の照射される方向に直交する方向に保ち、前記線状物の前記一対のガイドローラ間に位置付けられた部分に電子線を照射することを特徴とした電子線照射方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載された発明によれば、線状物の一対のローラ間に位置付けられた複数の部分を電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保つとともに電子線の照射される方向に直交する方向に保つ少なくとも一対のガイドローラを備えているので、線状物のガイドローラ間に位置付けられた複数の部分が、電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保たれるとともに電子線の照射される方向に直交する方向に保たれる。したがって、線状物のガイドローラ間に位置付けられた部分に電子線を照射することで、線状物に電子線を均一に照射でき、線状物を均一に硬化させて線状物の品質を安定化できる。
【0017】
請求項2に記載された発明によれば、一方から他方のガイドローラへ向かって掛け渡された線状物の一対のガイドローラ間に位置付けられた部分の電子線照射部と相対する外周面が、他方から一方のガイドローラへ向かって掛け渡された線状物の一対のガイドローラ間に位置付けられた部分の電子線照射部と相対する外周面の反対側とされているので、線状物の全外周面に電子線が照射される。したがって、線状物に電子線を均一に照射でき、線状物を均一に硬化させて線状物の品質を安定化できる。
【0018】
請求項3に記載された発明によれば、ガイドローラが一対のローラの軸心同士を結ぶ線分よりも電子線照射部寄りに設けられているので、一対のローラ間に8の字状に掛け渡したときの線状物の交差部分の電子線照射部からの距離よりも、線状物のガイドローラ間に位置付けられた部分の電子線照射部からの距離の方が短くなる。したがって、電子線の照射距離を短くして電子線のロスを低減でき、線状物に電子線を効率的に照射できる。
【0019】
請求項4に記載された発明によれば、一つのローラを回転駆動する駆動手段が設けられているので、複数のローラ及び複数のガイドローラに掛け渡された線状物を確実に移動させながら電子線を照射できる。
【0020】
請求項5に記載された発明によれば、線状物の一対のローラ間に位置付けられた複数の部分を少なくとも一対のガイドローラに掛け渡して電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保つとともに電子線の照射される方向に直交する方向に保ち、線状物の一対のガイドローラ間に位置付けられた部分に電子線を照射するので、線状物に電子線を均一に照射でき、線状物を均一に硬化させて線状物の品質を安定化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態にかかる電子線照射装置を図1ないし図4を参照して説明する。本発明の一実施形態にかかる電子線照射装置1は、図1に示すように、線状物としての電線6に電子線を照射する。
【0022】
電線6は、所謂被覆電線である。電線6は、図4に示すように、導電性の芯線61と、絶縁性の被覆部62とを備えている。芯線61は、複数の素線61aが撚られて形成されている。芯線61を構成する素線61aは、銅やアルミニウム等の導電性の金属で構成されている。また、芯線61は、一本の素線61aから構成されていてもよい。
【0023】
被覆部62は、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂やポリオレフィン系樹脂等からなるベース樹脂と、種々の添加剤(酸化防止剤や光安定剤等の安定剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤や着色剤等)等とを含有した樹脂組成物で構成されている。被覆部62は、芯線61の外周面を被覆している。被覆部62に電子線を照射することで、ベース樹脂を構成する有機高分子の架橋反応が促進されて被覆部62が硬化し、該被覆部62の耐熱性や耐磨耗性等の特性が向上する。
【0024】
電子線照射装置1は、図1に示すように、電子線照射部10と、線状物搬送部20とを少なくとも備えている。電子線照射部10は、電子線を電線6の被覆部62に向かって照射する。電子線照射部10は、図3に示すように、電子加速管11と、フィラメント12と、電源部13と、引出電極14と、照射窓15とを備えている。
【0025】
電子加速管11は、フィラメント12と、引出電極14とを内部に収容する。電子加速管11内は、図示しない減圧装置によって減圧されている。フィラメント12は、例えばタングステン等で構成され、電子加速管11内の一端部側に配されている。電源部13は、電子加速管11外に配され、フィラメント12に高電圧を印加し、引出電極14に所定の電圧を印加する。引出電極14は、平板円環状に形成され、電子加速管11内の接地電極16と相対する他端部側に配されている。照射窓15は、電子加速管11の前述した他端部に設けられている。照射窓15は、電子加速管11の開口であり、チタン等からなる薄膜15aによって封止されている。
【0026】
電子線照射部10は、接地電極16に向かって電子線を照射する。接地電極16は、平板状に形成され、電子加速管11外に該電子加速管11の他端部と相対するように配されている。そして、電子加速管11と接地電極16とは、図示しないシールド体内に収容されている。シールド体は、鉛等からなり、箱状に形成されている。シールド体は、外部に電子線が漏洩するのを防止する。シールド体には、電線6を通す孔が設けられている。
【0027】
前述した構成の電子線照射部10は、後述する一対のガイドローラ4a、4b間に配される。そして、電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分は、孔を通ってシールド体内に配され、電子加速管11と接地電極16との間に配される。電子線照射部10は、電源部13からフィラメント12に高電圧が印加されることでフィラメント12から電子線を放出し、該電子線を引出電極14内に通して電子加速管11内の一端部から他端部に向かって加速する。電子線照射部10は、電子線を照射窓15から電子加速管11外へ放出し、接地電極16に向かって矢印E(図3等)に沿って鉛直方向の下方向に照射する。矢印Eは、電子線の照射される方向Eを示している。そして、電子線照射部10は、電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分に電子線を照射する。
【0028】
線状物搬送部20は、図1に示すように、フレーム21と、電線供給ロール22と、電線巻取ロール23と、ローラ支持フレーム24と、一対のローラ3a、3bと、ガイドローラ支持フレーム25と、一対のガイドローラ4a、4bと、駆動手段としての駆動部50とを備えている。
【0029】
フレーム21は、フロア上等に設置される。フレーム21は、水平方向に延びている。電線供給ロール22は、フレーム21の一端部に回転自在に取り付けられている。電線供給ロール22は、長尺でかつ電子線が照射されていない電線6を巻いている。電線供給ロール22は、一対のローラ3a、3bと一対のガイドローラ4a、4bとに電線6を送り出す。
【0030】
電線巻取ロール23は、フレーム21の他端部に回転自在に取り付けられている。電線巻取ロール23は、図示しないモータ等により回転駆動される。電線巻取ロール23は、電線6の一端部をその外周面等に固定した状態で図1中の矢印R3方向に回転することで、電線6の長手方向に沿って該電線6を電線供給ロール22から引っ張る。
【0031】
前述した構成の電線巻取ロール23は、電線6を該電線6の長手方向に沿って移動させることで、電線6と電子線照射部10とを電線6の長手方向に沿って相対的に移動させる。電線6は、図1に示す矢印P1、P2〜P7(複数回(本実施形態では3回)繰り返し)、P2、P3、P8に沿って移動する。矢印P1〜P8は、電線6の移動方向Pをなしている。
【0032】
ローラ支持フレーム24は、フレーム21に固定され、フレーム21から上方に立設している。ローラ支持フレーム24は、互いに同形状に形成され、電線6の移動方向Pに直交する方向に沿って、互いに間隔をあけて一対設けられている。さらに、一対のローラ支持フレーム24は、電線6の移動方向Pに沿って、互いに間隔をあけて二つ(二対)設けられている。ローラ支持フレーム24の先端部には、それぞれ、軸受24aが設けられている。
【0033】
一対のローラ3a、3bは、それぞれ、一対のローラ支持フレーム24に回転自在に支持されている。一対のローラ3a、3bは、互いに間隔をあけて互いに平行に配され、電子線の照射される方向Eに直交する方向E’(図1)に沿って並んでいる。一対のローラ3a、3bは、図2に示すように、円柱状の軸部31と、軸部31の外周面に設けられた円筒状のローラ本体32とを備えている。
【0034】
軸部31とローラ本体32とは、同軸かつ直列に配されている。軸部31は、軸受24aに回転自在に取り付けられる。ローラ本体32には、図2に示すように、内部に電線6を位置付ける凹溝33が複数設けられている。凹溝33は、ローラ本体32の外周面から凹に設けられ、ローラ本体32の周方向全体に亘って設けられている。凹溝33は、断面V字状に形成されている。複数の凹溝33は、互いに間隔をあけて設けられている。
【0035】
前述した構成の一方のローラ3aに電線6が掛けられると、ローラ本体32の外周面が電線6と接触する。そして、一方のローラ3aは、駆動部50によって回転駆動されることで軸部31を中心に図1中の矢印R2方向に回転し、電線6を該電線6の移動方向Pに沿って移動させる。また、他方のローラ3bに電線6が掛けられると、ローラ本体32の外周面が電線6と接触し、他方のローラ3bは電線6の移動方向Pに沿って移動する電線6に従動して軸部31を中心に図1中で反時計回りに回転する。
【0036】
ガイドローラ支持フレーム25は、フレーム21に固定され、フレーム21から上方に立設している。ガイドローラ支持フレーム25は、ローラ支持フレーム24よりもさらに上方(電子線照射部10側)に立設している。ガイドローラ支持フレーム25は、互いに同形状に形成され、電線6の移動方向Pに直交する方向に沿って、互いに間隔をあけて一対設けられている。さらに、一対のガイドローラ支持フレーム25は、電線6の移動方向Pに沿って、互いに間隔をあけて二つ(二対)設けられている。二対のガイドローラ支持フレーム25は、二対のローラ支持フレーム24の間に配されている。二対のガイドローラ支持フレーム25と二対のローラ支持フレーム24とは、電線6の移動方向Pに沿って互いに間隔をあけて並んでいる。
【0037】
一対のガイドローラ4a、4bは、それぞれ、一対のガイドローラ支持フレーム25に支持されて固定されている。そして、一対のガイドローラ4a、4bは、互いに間隔をあけて互いに平行に配され、電子線の照射される方向Eに直交する方向E’に沿って並んでいる。一対のガイドローラ4a、4bは、一対のローラ3a、3bの軸心同士を結ぶ線分L(図1)よりも電子線照射部10寄りに設けられている。一対のガイドローラ4a、4bは、一対のローラ3a、3bの間に配され、一対のローラ3a、3bと互いに間隔をあけて互いに平行に配されている。一対のガイドローラ4a、4bは、図2に示すように、円柱状の軸部41と、軸部41の外周面に設けられた円筒状のローラ本体42とを備えている。
【0038】
軸部41とローラ本体42とは、同軸かつ直列に配されている。ローラ本体42の外径は、ローラ本体32の外径よりも小さい。ローラ本体42には、図2に示すように、内部に電線6を位置付ける凹溝43が複数設けられている。凹溝43は、ローラ本体42の外周面から凹に設けられ、ローラ本体42の周方向全体に亘って設けられている。凹溝43は、断面V字状に形成されている。複数の凹溝43は、互いに間隔をあけて設けられている。
【0039】
前述した構成の一対のガイドローラ4a、4bには、図1に示すように、電線6の一対のローラ3a、3b間に位置付けられた複数の部分の中央部分が、一方のガイドローラ4aの図1中の上面側と他方のガイドローラ4bの図1中の上面側とに亘って掛け渡される。そして、電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分は、一方のガイドローラ4aから他方のガイドローラ4bへ向かって掛け渡された部分と、他方のガイドローラ4bから一方のガイドローラ4aへ向かって掛け渡された部分とで、電子線照射部10からの距離が互いに等しくなるように保たれる。また、電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分は、電子線の照射される方向Eに直交する方向E’に保たれる。
【0040】
このように、一対のガイドローラ4a、4bは、電線6の一対のローラ間3a、3bに位置付けられた複数の部分を、電子線照射部10からの距離が互いに等しくなるように保つとともに電子線の照射される方向Eに直交する方向E’に保つ。この電線6が該電線6の移動方向Pに沿って移動すると、ローラ本体42の外周面が電線6と接触し、電線6はローラ本体42の外周面上を摺動する。
【0041】
さらに、後述するように、一方のガイドローラ4aから他方のガイドローラ4bへと掛け渡された電線6は、他方のローラ3bで折り返された後、他方のガイドローラ4bから一方のガイドローラ4aへと掛け渡される。このとき、他方のローラ3bは、一方のガイドローラ4aから他方のガイドローラ4bへと掛け渡された電線6の電子線照射部10と相対する外周面と接触する。そして、他方のローラ3bは、電線6を折り返して、前記外周面と反対側の外周面を電子線照射部10と相対させる。このように、一方のガイドローラ4aから他方のガイドローラ4bへ向かって掛け渡された電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分の電子線照射部10と相対する外周面は、他方のガイドローラ4bから一方のガイドローラ4aへ向かって掛け渡された電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分の電子線照射部10と相対する外周面の反対側の面となる。
【0042】
駆動部50は、モータ支持フレーム51と、駆動源としてのモータ52と、ベルト53とを備えている。モータ支持フレーム51は、フレーム21に固定されている。モータ支持フレーム51は、フレーム21から上方に立設し、一対のガイドローラ支持フレーム25の間に設けられている。モータ支持フレーム51は、ローラ支持フレーム24と略同じ高さに設けられている。
【0043】
モータ52は、モータ支持フレーム51に支持されて固定されている。ベルト53は、環状に形成され、例えば、弾性及び可撓性を有する合成樹脂等で構成されている。ベルト53は、所謂無端ベルトである。ベルト53は、モータ52の出力軸52aの外周面と、一方のローラ3aの軸部31の外周面とに亘って掛け渡されている。
【0044】
前述した構成の駆動部50は、モータ52を稼働させて出力軸52aを図1中の矢印R1方向に沿って回転させることで、ベルト53を介して出力軸52aの回転を一方のローラ3aの軸部31に伝えて該軸部31を回転させ、一方のローラ3aを矢印R2方向に回転駆動する。そして、駆動部50は、一方のローラ3aを回転駆動して電線6を該電線6の移動方向Pに沿って移動させることで、電線6と電子線照射部10とを該電線6の移動方向Pに沿って相対的に移動させる。
【0045】
前述した電子線照射装置1を用いて電線6に電子線を照射するには、まず、一対のローラ3a、3b及び一対のガイドローラ4a、4bに電線6を掛け渡す。即ち、電線供給ロール22から導出された電線6を、図1に示すように、一方のローラ3aの下面側(矢印P1→P2)、一方のガイドローラ4aの上面側(矢印P2→P3)、他方のガイドローラ4bの上面側(矢印P3→P4)、他方のローラ3bの下面側に順次掛け渡す。そして、他方のローラ3bの下面側から上面側へと巻き付けて折り返し(矢印P4→P5)、他方のガイドローラ4bの上面側(矢印P5→P6)、一方のガイドローラ4aの上面側(矢印P6→P7)に順次掛け渡す。
【0046】
そして、一方のローラ3aの上面側から下面側に巻き付けて折り返し(矢印P7→P2)、前述したように一方のガイドローラ4a、他方のガイドローラ4b、他方のローラ3b、他方のガイドローラ4b、一方のガイドローラ4aに順次更に2回掛け渡す(矢印P2〜P7を2回繰り返す)。そして、一方のローラ3aの上面側から下面側に巻き付けて折り返し(矢印P7→P2)、一方のガイドローラ4aの上面側に掛け渡した後(矢印P2→P3)、他方のガイドローラ4bの上面側に掛け渡して電線巻取ロール23に固定する(矢印P3→P8)。
【0047】
このとき、ローラ3a、3bにおいては、凹溝33内に電線6を配することで電線6がローラ3a、3bから脱落することがなく、電線6が重なり合うことがない。また、ガイドローラ4a、4bにおいては、凹溝43内に電線6を配することで電線6がガイドローラ4a、4bから脱落することがなく、さらには一対のガイドローラ4a、4b間で電線6が重なり合うことがなく各電線6に確実に電子線を照射できる。
【0048】
その後、電線巻取ロール23と一方のローラ3aとを回転駆動して、電線6を該電線6の移動方向Pに沿って、一対のローラ3a、3b、一対のガイドローラ4a、4b間を移動させる。
【0049】
そして、前述したように電子線照射部10から電子線が照射される。電子線は、矢印Eに沿って、電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分に照射される。電線6は、一対のガイドローラ4a、4b間において、矢印P3方向と矢印P6方向に沿って移動している。このとき、一方のガイドローラ4aから他方のガイドローラ4bへ向かって掛け渡されて矢印P3方向に移動する電線6の電子線が照射される外周面は、他方のガイドローラ4bから一方のガイドローラ4aへ向かって掛け渡されて矢印P6方向に移動する電線6の電子線が照射される外周面の反対側であるので、電線6の全周面に電子線が照射される。そして、電子線は、電線6の被覆部62の架橋反応を促進して被覆部62を硬化させ、被覆部62の耐熱性や耐磨耗性等の特性を向上させる。
【0050】
本実施形態によれば、電線6の一対のローラ3a、3b間に位置付けられた複数の部分を、電子線照射部10からの距離が互いに等しくなるように保つとともに電子線の照射される方向Eに直交する方向E’に保つ一対のガイドローラ4a、4bを備えているので、電線6のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた複数の部分が、電子線照射部10からの距離が互いに等しくなるように保たれるとともに電子線の照射される方向Eに直交する方向E’に保たれる。したがって、電線6のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分に電子線を照射することで、電線6に電子線を均一に照射でき、電線6を均一に硬化させて電線6の品質を安定化できる。
【0051】
一方のガイドローラ4aから他方のガイドローラ4bへ向かって掛け渡された電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分の電子線照射部10と相対する外周面が、他方のガイドローラ4bから一方のガイドローラ4aへ向かって掛け渡された電線6の一対のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分の電子線照射部10と相対する外周面の反対側とされているので、電線6の全外周面に電子線が照射される。したがって、電線6に電子線を均一に照射でき、電線6を均一に硬化させて電線6の品質を安定化できる。
【0052】
ガイドローラ4a、4bが一対のローラ3a、3bの軸心同士を結ぶ線分Lよりも電子線照射部10寄りに設けられているので、一対のローラ3a、3b間に8の字状に掛け渡したときの電線6の交差部分X(図5)の電子線照射部10からの距離よりも、電線6のガイドローラ4a、4b間に位置付けられた部分の電子線照射部10からの距離の方が短くなる。したがって、電子線の照射距離を短くして電子線のロスを低減でき、電線6に電子線を効率的に照射できる。
【0053】
一方のローラ3aを回転駆動する駆動部50が設けられているので、複数のローラ3a、3b及び複数のガイドローラ4a、4bに掛け渡された電線6を確実に移動させながら電子線を照射できる。
【0054】
本実施形態においては、電子線照射装置1が一対のローラ3a、3bと一対のガイドローラ4a、4bとを備えていたが、ローラ3a、3bとガイドローラ4a、4bの数はそれぞれ3本以上であってもよい。また、本実施形態においてはガイドローラ4a、4bが一対のローラ3a、3bの軸心同士を結ぶ線分Lよりも電子線照射部10寄りに設けられていたが、電線6に均一に電子線を照射するだけならば、ガイドローラ4a、4bが線分Lよりも電子線照射部10から離れた側に設けられていてもよい。また、本実施形態においては一方のローラ3aを回転駆動する駆動部50を備えていたが、電線巻取ロール23が回転駆動されるので、必ずしも駆動部50を備えていなくてもよい。
【0055】
さらに、本実施形態においては、電線6が一対のローラ3a、3b間、一対のガイドローラ4a、4b間に3周半掛け渡されていたが、勿論、この周数は何周でも構わない。また、本実施形態においては、一対のガイドローラ4a、4bが一対のローラ3a、3bの間に設けられていたが、一対のローラ3a、3bの外側に設けられていてもよい。また、本実施形態においては、一対のガイドローラ4a、4bがガイドローラ支持フレーム25に固定されていたが、軸受等を介して回転自在に支持されてもよい。この場合、電線6を一対のガイドローラ4a、4b間で一方向に移動させるとよい。また、本実施形態においては、ローラ3a、3bとガイドローラ4a、4bにそれぞれ複数の凹溝33、43が設けられていたが、ローラ3a、3bやガイドローラ4a、4bがそれぞれ一つの凹溝33、43を有する複数の小ローラから構成され、これら小ローラがそれぞれ個別に回転自在とされていてもよい。
【0056】
また、本実施形態においては電子線が鉛直方向に沿って下方向に照射されていたが、電子線の照射される方向Eはどの方向であってもよい。また、本実施形態においては線状物として電線6を例に挙げて説明したが、線状物は、例えば光ファイバ等であってもよい。また、本実施形態においては、電子線照射部10がフィラメント12の放出する熱電子を利用していたが、電子線照射部10はこれに限定されるものではなく、電子線を照射できるものであればどんなものであってもよい。例えば、電子線照射部10が、二次電子を利用したものや、プラズマ中の電子を利用したものでもよい。
【0057】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一の実施形態にかかる電子線照射装置の構成を示す説明図である。
【図2】図1に示された線状物搬送部の構成を示す説明図である。
【図3】図1に示された電子線照射部の構成を示す説明図である。
【図4】図1に示された電線の断面図である。
【図5】従来の電子線照射部の要部を示す説明図である。
【符号の説明】
【0059】
1 電子線照射装置
3a 一方のローラ(一対のローラ)
3b 他方のローラ(一対のローラ)
4a 一方のガイドローラ(一対のガイドローラ)
4b 他方のガイドローラ(一対のガイドローラ)
6 電線(線状物)
10 電子線照射部
50 駆動部(駆動手段)
E 電子線の照射される方向
E’ 電子線の照射される方向に直交する方向
L 線分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在な少なくとも一対のローラと、前記一対のローラに掛け渡された線状物に電子線を照射する電子線照射部と、を備えた電子線照射装置において、
前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた複数の部分を前記電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保つとともに、前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた前記複数の部分を前記電子線の照射される方向に直交する方向に保つ少なくとも一対のガイドローラを備えたことを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
一方のガイドローラから他方のガイドローラへ向かって掛け渡された前記線状物の前記一対のガイドローラ間に位置付けられた部分の前記電子線照射部と相対する外周面が、前記他方のガイドローラから前記一方のガイドローラへ向かって掛け渡された前記線状物の前記一対のガイドローラ間に位置付けられた部分の前記電子線照射部と相対する外周面の反対側とされていることを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
前記ガイドローラが、前記一対のローラの軸心同士を結ぶ線分よりも前記電子線照射部寄りに設けられたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
複数の前記ローラのうち少なくとも一つのローラを回転駆動する駆動手段が設けられたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のうちいずれか一項に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
回転自在な少なくとも一対のローラに掛け渡された線状物に電子線照射部からの電子線を照射する電子線照射方法において、
前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた複数の部分を少なくとも一対のガイドローラに掛け渡して、前記線状物の前記一対のローラ間に位置付けられた前記複数の部分を電子線照射部からの距離が互いに等しくなるように保つとともに前記電子線の照射される方向に直交する方向に保ち、
前記線状物の前記一対のガイドローラ間に位置付けられた部分に電子線を照射することを特徴とする電子線照射方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−250781(P2009−250781A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98956(P2008−98956)
【出願日】平成20年4月7日(2008.4.7)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】